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■夏の日の想い出・いと恋し(4)

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そしてそれで帰ろうとしたのだが、ふと競技場のフィールドに設置されたステージに目が行った。そして気付いたら私はそのステージのそばまで寄っていた。
 
ステージの下から、たくさん設置された椅子の並びを見る。その日はちょうど満月だったので、その光に照らされた椅子は圧巻である。
 
私はステージに登ってみたくなった。
誰もいないし、いいよね?
 
と勝手に自分に許可を与えてステージに登る。
 
凄い。
 
これはステージの下から見るのとはまた違う。
こんな舞台で思いっきり歌ってみたいな。。。。
 
何だかそんな気持ちになってしまった。
 
私は何だか昂揚した気分の中で私はアポリネール(1880-1918)の「ミラボー橋」
をソプラノボイスで歌い出す。
 
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「橋の下をセーヌは流れ、恋も流る。思い出せって?夜もいつか明けることを。夜が来、鐘は鳴り、日は去り、独りきり」
 
「手に手を取り、見つめ合って、熱く燃えた日。微笑みの日々の中で忍び寄る影。夜が来、鐘は鳴り、日は去り、独りきり」
 
「日が去り、週も月も去るのに、時は動かず、愛は戻らない。橋の下をセーヌは流れる。夜が来、鐘は鳴り、日は去り、独りきり」
 
何だか物凄く気持ちいい!
こういう会場ではやはり熱唱・絶叫できる歌に限る!
 
と思ったら、パチパチパチという拍手の音が聞こえた。誰もいないと思っていたので私はびっくりした。拍手をしているのは60歳前後かな、という感じの男性である。
 
「あ、ごめんなさい。勝手にここに入って」
「ああ、いいよいいよ。しかし君、凄く歌がうまいね」
「ありがとうございます。よくそう言われます」
「あ、これあげる。美少女には赤い薔薇が似合う」
と言って男性は唐突に赤い薔薇を1本私にくれた。
 
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「ありがとうございます。プレゼントは歓迎です」
「ふーん」
「はい?」
 
「褒めた時にね、『いえ大したことありません』とか言う子、贈り物をして遠慮するような子は合唱とか合奏向きの子。そして今の君のようにむしろ自分は凄いですと主張し、もらえるものはもらっちゃう子はソロ向きの子」
 
「ああ。私、しばしば協調性が無いと言われますから。私ってきっとみんなが稲を作っているそばでひとりだけヒマワリでも育てているような子です」
 
「うん。それを自覚しているのも素敵だ。ね、君、歌手になるつもり無い?」
「はい、そのうちなるつもりです」
「うん。いい返事だ。じゃ、デビューする気になったら、僕に声を掛けてよ。悪いようにはしないから」
と言って、男性は私に名刺をくれた。
 
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《○○プロダクション・代表取締役社長・丸花茂行》
 
と書かれていた。きゃー。イベンターさんかと思ったらプロダクションだったのか。これ1990年代を代表するビッグスター・保坂早穂さんのプロダクションじゃん!凄い大手!! しかもその社長さん!? 内心焦りながらも私は言った。
 
「済みません。名刺を切らしておりまして」
と私は言った。
「名刺作ってるの?」
「いいえ」
 
「あはは。やっぱり僕は君が好きになったよ。名前だけ聞かせて」
 
私は丸花社長から渡された薔薇を見ながら言った。
「The blossom of Rose」
 
「ふむ。a blossom じゃなくて the blossom なわけね?」
「はい。私に並ぶ者はありませんから」
 
「本当に面白い子だ。じゃ、また会おう」
と言って、丸花さんは私と握手した。
 
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「はい。失礼します」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」
 

陸上部の練習は1学期の間は平日毎日行われていたので、私はこれを火曜だけ休ませてもらい、アスカの家に通った。そして、夏休みに入ってからは、陸上部の練習は月水金の3日間になったので、続けて火曜日にアスカの家でヴァイオリンの練習をし、木曜と土曜に津田さんの教室に顔を出して、日曜にオーケストラの練習に行くサイクルにした。また名古屋行きは隔週土曜にした。
 
「冬ちゃん、やはり新しい楽器の習得速いなあ。ここまで弾けたら、実際の楽曲を教えてあげられるよ」
 
と風帆伯母から言われ、まずは『越中おわら節』の胡弓を教えられる。富山県八尾の実際の「風の盆」のビデオなども見せてもらった。
 
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「今年の9月3日は金曜だから、一緒に『風の盆』を見に行こうか」
と言われる。
 
「えっと学校1日休めばいいのかな」
「違う違う。風の盆は9月3日の夜中から4日朝に掛けてが本番なのよ。公式行事は9月1日の朝から9月3日の夜9時までだけど、公式行事の終わった後が本物」
「へー」
 
「だからね」
と言って伯母は時刻表を見ている。
 
「東京を20時の新幹線に乗れば、越後湯沢で《はくたか》に乗り継いで23時半に富山に着くよ。私は車で行くから、富山駅で拾ってあげるよ」
 
「お祭りなのに、車で大丈夫ですか?」
「深夜過ぎると交通規制が解除されるんだよ」
「へー!」
「逆に駐車場からのシャトルバスは夜中は運行されないから、祭の本番を見るには昼間に食糧持参で行って野宿覚悟か、深夜過ぎてから車で行くしか無いのさ」
 
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「なるほど! でも体力使いそうですね」
「女の子浴衣を着せてあげるよ」
「行きます!」
 

一方、アスカは8月に急遽ドイツへの1ヶ月間の短期留学が決まったということで、その忙しい中7月いっぱいレッスンしてくれることになった。
 
「実はさ留学の話は5月頃から打診されてたんだけど、8月にドイツに行くと、名古屋で冬ちゃんの入浴を見られないと思って渋ってたんだよね。9月になったというので安心して行ってこられる」
 
「そんな、私の入浴なんか気にせずに、勉強してきてくださいよ」
「いや、気になることがあっては、練習も手に付かないから」
「もう」
 
「だけど、冬ちゃんホントに習得が速いね。それにレッスンの時、私をコピーして弾く感じのことよくするでしょ」
「うん」
「あれで結果的に私は自分の悪い癖とかに気付いて直したりしてるんだよ」
「へー」
 
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「自分の演奏をビデオに撮ってチェックとかもしているけど、人間にコピーされた方が特徴がよく出る。だから、冬ちゃんとのレッスンは私自身の勉強にもなるから、その楽団の作業8月14日までということだけど、それが終わっても私と一緒にヴァイオリンのお稽古しようよ。月1回とかでもいいからさ」
 
「うーん。なんか似た話をどこかでも聞いたような。でもそうですね。せっかく覚えてきたし、アスカさんさえ良ければもう少し教えてもらおうかな」
 
「ヴァイオリンは当面、そのヴァイオリン貸しておくから。楽器も弾いてくれる人がいた方が嬉しがるもん。その楽器はわりと弾く人を選ぶ楽器だけど、ちゃんと弾きこなしてるからね」
 
「ありがとう」
 
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「ところでさ、戸籍上の性別を変更できるようになったね」
 
とアスカはつい先日施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」
のことを話題にする。
 
「ええ。頭の硬い国会議員さんたちが、こういうことに理解を示してくれるとは思いもよらなかったから、びっくりしました。何か変な条件も付いてるけど」
 
「ああ、子供がいないこと、って奴?」
「ええ。意味不明な条件です」
 
「まあいいじゃん、子供欲しかったら性転換して戸籍変更した後で作っちゃえばいいのよ」
「そんな無茶な!」
「冬ちゃんはその内、子供産んでしまいそうだし」
 
「産みたいけど無理です〜」
「卵子が必要なら、あげてもいいよ」
「アスカさんの卵子だったら優秀な音楽家になりそー」
 
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8月1日。ドイツに旅立つアスカを成田で見送ってから、私はいつもの公民館に行った。オーケストラの公演まであと2週間。全員集まっての練習は今日と来週の日曜の2度しか無い。
 
ところがクラリネットの人が来ていなかった。『金平糖の踊り』で、鉄琴とバスクラリネットの掛け合いが重要なので、彼が来てくれないと、その曲を練習できない。
 
「どうしたんだろう。誰か**の連絡先知ってる奴?」
「あ、電話してみます」
 
と言ってT君が携帯で電話していたが・・・
 
「え? そんな突然言われても・・・いやだから、何とか公演まではお願いできない?」
 
「どうした?」とリーダー。
「いや、**が退団すると言ってるんです」とT君。
「えー!?」
 
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リーダーの人が電話を替わり、クラリネット奏者と話をするが、向こうの意志は硬いようである。
 
「そうか・・・・すまなかった」
と言ってリーダーの人は電話を切った。
 
「どうしたんですか?」
と別の楽団員に訊かれる。
 
「どうも楽団員の誰かとトラブルがあったみたいだな」
「へ?」
「誰とトラブルがあったかは、明かすと揉め事になるから明かさないが、自分はもうこの楽団にはいられない。でも楽団の今後の発展を祈る、ということだ」
 
「誰?そのトラブったというのは?」
「いや、それは追求しないことにしよう。それを追求するともう1人退団者を出すことになる」
「確かに」
 
「仕方無い。クラリネットは誰か他の楽団の人とかに応援を頼もう」
「しかし2週間後で入れる人いますかね?」
「鉄琴との掛け合いもありますし。練習にも参加してもらわないと不安です」
「うーん」
 
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リーダーの人が、知人に電話しまくっていたが、芳しくないようであった。ヴァイオリンのトゥッティ奏者とかなら何とでもなるのだろうが、曲の重要な部分でソロ演奏のあるパート。しかも他の奏者との掛け合いがあるとなると、元々クラリネットを吹ける人でも、尻込みしてしまうだろう。しかも公演はわずか2週間後である。
 
「どうしても見つからないとなると、ここにいるメンバーの誰かが代わりにクラリネットを吹くかだな」
とリーダー。
 
「誰かクラリネット吹ける人?」
「えっと、クラリネット吹いたことのある人?」
 
誰も手を挙げない。
 
その時、T君が思いついたように言った。
 
「ねえ、唐本さん、クラリネットやってみない?」
「え? 私クラリネットなんて触ったことないです」
「それでも唐本さんなら、1週間でクラリネット吹けるようになるんじゃないかと思ってさ。だって一度も触ったことの無かったヴァイオリンを1週間で弾けるようになったんだもん」
 
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「えー!? ヴァイオリンの場合はたまたまうまく行っただけですよ」
「それにさ、唐本さん、陸上の長距離やってて肺活量が凄いから、きっと管楽器はうまく吹けると思うんだ」
「えー!?」
 
結局リーダーが更に何とかクラリネット奏者を確保できないかあちこち声を掛けてみるのと同時に、私にもクラリネットの練習をしてもらえないか、という話になった。私は「吹けなかったらごめんなさいしますよ」と念を押した上で取り敢えず練習してみることにした。
 
「バスクラリネットは楽団で所有しているし、ソプラノクラリネットはレンタルできると思うけど、申し訳無いが、マウスピースとリードは買ってもらえない?合わせて1万円くらいだと思うんだけど」
というので
「いいですよ。そのくらいは自分で買っていいです」
 
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ということで、私は翌日楽器店に見に行くことにした。
 

どんなのがいいのかさっぱり分からないので、吹奏楽部でクラリネットを吹いている貴理子に見立ててもらうことにした。
 
「おお、クラリネットを練習する気になったか!」
と彼女は喜んでいる。
 
「ちなみに、貴理子ちゃん、8月14日は空いてないよね?」
「一家でお父ちゃんの実家に帰省する」
「だよね〜、盆の14日なんて、みんなふさがってるよね」
「帰省しない人でもお盆の準備で、演奏会とかの気分じゃないよ。そんな日に演奏会するなんて無茶苦茶」
「その日しかホールが空いてなかったからだって」
 
「演奏会の日取りはお客が来るかどうかで決めるべきだよ。そこしか空いてなかったって、それは予定を決めるのが遅すぎるから。なんかそこの楽団、運営に問題があるね」
「うん。私もそう思う」
 
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「でもクラリネット練習するならさ、9月に吹奏楽の大会があるから、出てくれない? 服装はセーラー服でも学生服でもどちらでもいいよ」
 
「えー?いつ?」
「19日。クラリネット本体は学校のを使えるから」
「陸上部の大会の翌週か。じゃ吹けるようになってたら出る」
「よっしゃー。じゃ、マウスピース見に行こうね」
 
貴理子は楽器店で、初心者に扱いやすいマウスピースとリードを選んでくれた。
 
「私のお勧め練習プラン」
「うん」
 
「この一週間はひたすら、このマウスピースを吹く練習をしなよ。実際のクラリネットにつないで練習するのは、このマウスピースで安定して音が出せるようになってからで充分だと思う。冬ちゃんなら指使いはあっという間に覚えしまいそうだし。逆にこれできちんと音を出せなかったら、管をつないでもまともに演奏できないよ」
 
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「分かった。頑張ってみる」
 
そこで私は彼女に教えられてマウスピースの咥え方、そして音の出し方を習い、それで安定してドの音が出せるようにひたすら練習したのであった。水曜日は陸上部も吹奏楽部部も練習のある日だったので、途中経過を見てもらい、若干の修正をしてもらった。
 
 
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■夏の日の想い出・いと恋し(4)

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