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■夏の日の想い出・カミは大事(8)

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ところで4月の下旬、私はちょっと用事があって愛知県時代の親友であるリナに電話した。
 
「へー。丸刈りの校則が寸前で廃止になって、髪切らずに済んだんだ!」
「うん。ほんとどうしようかと思ってたからさ。助かったよ。もう最後の最後はセーラー服着て学校に出て行って自分は女だから髪は切らないと主張しようかと思ったよ」
 
「うーん。だったらその校則廃止されなかった方が、冬にとっては良かったかも」
「うっ」
「いまだに男の子の振りしてるのが信じられないよ。ちゃんと女の子としてやっていこうよ」
「そうだなあ・・・・」
 
「そうだ。丸刈りといえばね」と奈緒。
「うん」
「麻央が丸刈りにしちゃったよ」
「えーーーーー!?」
と私は驚愕して声を挙げた。
 
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「なんで?」
「あの子、野球が大得意じゃん。それで野球部に入れてくれって言いに行ったんだけど、うちは男しか入れないと言われて」
「うん」
「そもそもうちの野球部は全員丸刈りだけど、女じゃ丸刈りにできんだろ、なんて言われてさ」
 
「ああ」
「それで、丸刈りにして、『丸刈りだと言われたので丸刈りにしてきました。だから野球部に入れてください』と」
「さすが麻央!」
 
「顧問の先生もあっけにとられて」
「入れてもらえた?」
「もちろん。あの子、120kmの速球投げるから、ピッチャーにしてもらって、こないだ練習試合でいきなりノーヒットノーランやったって」
「すげー!」
 
「でも麻央の丸刈り見て、お母さんが気絶しかかったらしいよ」
「ああ、お母さん可哀想」
 
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「冬は合唱部に入ったんだっけ?」
「ううん。今は陸上部。それにうちの合唱部は女子だけだし」
「いや、冬だったら、セーラー服着て『入れてください』と言いに行ったらきっと入れてくれるよ。髪切らずに済んだんだし、どうせなら女の子っぽい髪に整えてから行ってごらんよ」
 
「えっと。。。実は髪はお姉ちゃんに『女の子らしくしてあげる』と言われてミディアムボブになってる」
「おぉ! それ見たい、見たい。写真送ってよ」
「いいけど」
「どうせならセーラー服着てさ。冬のことだから、実は隠し持ってそうだし」
「えーっと。持ってることは持ってる」
 
「やはり。どうも、冬と麻央って、やっぱり性別が逆だよ」
「うむむ」
 
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私は中学校の前半、2年生の秋までは陸上部1本でやっていたのだが、倫代から誘われて、昼休みには音楽練習室に行って一緒に発声練習をしていた。
 
「冬、その男の子の声、気持ち悪いから、普通に女の子の声でしゃべってよ」
と倫代は言う。
 
「うーん。まあ、倫代ならいいか」
と私は女声に切り替えてみる。
 
「うんうん。女の子の声はとても自然な響き、男の子の声は人工的な響き。どちらが本来の冬の声かは一目瞭然。いや、一耳瞭然かな」
 
と倫代は言った。
 
「えーっと」
 
「男の子の声聞かされて私もちょっと心配したけど、大丈夫そうだし、声出してみよう」
 
と言って、倫代は練習室の個室内に置かれたキーボードを弾き、中央ドから始めて、低い方、高い方へ半音ずつ上下させながらドレミファソファミレドを弾き、一緒に声を出していった」
 
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「うん。アルト・ボイスもソプラノ・ボイスも健在だね」
「この声はマジで日々鍛えてる」
「うんうん」
 
「それでこういう声も今開発中なんだけどね」
と言ってメゾソプラノボイスを出してみる。
 
「おっ。ちょっと可愛い感じ。作り物っぽいけど」
「自然な感じにするのに苦労してる」
「頑張って。それ開発が進むのが楽しみだなあ」
「えへへ」
 
「それで合唱部顧問の上原先生に冬のこと話したんだけど、声が女の子で中身も女の子というなら、入れても構わないって言ってた。ほんとに合唱部に入らない?」
 
「うーん。でも今は陸上部の方に集中したいから」
「そっかー。でも私と毎日ここで練習しようよ」
「うん。私も思いっきり発声練習できて助かる」
 
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「だけど私、こうやって冬と話していても、ふつうに女の子と話している感覚にしかならないのに」
「うん。私も倫代とこうやって話したり、一緒に歌うのは心地良いよ」
 
「前にも聞いたけど、実は女の子で男の子を装ってるということはないよね?」
「ないと思うけどなあ。でも性別って面倒だね。戸籍に1文字『男』と書かれているだけなんだけど」
 
「戸籍なんてただの紙切れじゃん。自分の実態で生きればいいと思うよ」
「でもその紙が重たいんだよね〜。変更もできないし」
「冬みたいな子の性別は書き直せるようにするべきだと思うな」
 
「特例法」が出来て、性別変更ができるようになるのはその年の夏からである。
 
「奈緒ちゃんから聞いたけど、もう身体は完全に女の子で、おちんちんも無いしおっぱいもまだ小さいけど出来ていて、生理もあるんだって?」
「なぜ、そんな話になってる!?」
 
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この時期は、陸上部の練習は土日には行われていなかったので、土日にはしばしば津田さんの民謡教室に顔を出して特に発声を見てもらったり、三味線も聴いてもらったりしていた。
 
「でも冬ちゃんも中学生か〜」
と麗花さんが私のセーラー服姿を見ていう。
 
「この制服で通学してるの?」
「いえ。通学は学生服で」
「へー」
「でもこの教室にはこの服で来ていいですか?」
「もちろん。それで学校にも行けばいいのに」
「行きたい気分」
「何も行動しなければ、何も変わらないよ」
「はい」
 
「冬ちゃん、ゴールデンウィークどこか行く?」
とお父さんの方(アキさん)から訊かれる。
 
「いえ、予定ありませんが」
「じゃ、5月1日、演奏会の伴奏お願いしていい?」
「三味線ですか?」
「うん。小さな演奏会なので、三味線とお囃子と」
「OKです」
 
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そういう訳で、5月1日(土)。私はセーラー服を着て、三味線と振袖を持って出かけて、現地で麗花さんに振袖を着せてもらった。
 
「冬ちゃん、家でセーラー服着て出てくるの?」
「ええ、そうですよ。でも母がトイレとかに行ってる隙に出ちゃいます」
「帰りは?」
「母が買い物に出てそうな時間に帰ります」
「でもそれ絶対その内、見られる」
「その時はカムアウトします」
「見られてからカムアウトするより、自主的にカムアウトした方がいいと思うなあ」
 
「小学校の時は私がスカートとか穿いてる所しばしば見せてるんですけどね。中学に入ってからはまだ見せてないかな」
「まあ、まだ1ヶ月だしね」
 
津田さん(アキさん)の元同級生の50歳の誕生日記念の個人演奏会ということで、あちこちからお友だちが集まってきていたが、みんなパワフルな感じの人ばかりで、圧倒されそうな雰囲気だった。
 
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「でも女性ばかりですね」
「あ、うちのお父ちゃんは友だちは女の子ばかりだったらしいよ。男の子の友だちができたこと無いって」
「へー」
「男性の友人というと、まだ警察庁に勤めていた頃の同僚の人だけみたい」
「警察官だったんですか?」
 
「うん。警視庁じゃなくて警察庁の方だけどね。キャリアで警視だったけど、尊敬していた上司が何かの事件の責任を取って辞めたので一緒に辞めたんだって」
「へー」
「重要事件の被疑者が、マスコミとかも見ている前で被害者に刺殺されたらしい」
「わっ」
 
「警察の不手際だって、随分責められて、その人以外にも何人も辞めたり左遷されたりしたらしいよ」
「警察の責任じゃない気もするけど」
「でも誰かが責任取らないといけないからね」
「大変ですね」
 
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「それでその後、音楽関係の仕事をしていたのよね」
「警察から音楽関係って、凄い転身ですね」
「まあ、男から女への転身の方が大きいけどね。その音楽関係の仕事し始めた時からフルタイムになったらしい」
「フルタイム?」
 
「警察庁に勤めていた時はさすがに女装で勤務できないから、背広着て出かけて行って、帰宅したら女の人の服に着替えていたんだって。でも音楽関係はこういうのに寛容的だから、ずっと女の人の服で仕事するようになったらしい」
「なるほど」
 
「警察を辞めた理由のひとつがフルタイムになりたかったからみたいよ」
「ああ、それは大きいですね」
 

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やがて演奏会の看板が立てられる。
 
「あれ、若山瑞鴎というんですか?」
「うん。若山一門ってけっこう大きいけど、この鳥の名前を使うのは、その中でも高山にいた大先生の系統らしいね。5〜6年前に亡くなって今はその人の娘さんが継いでいるんだけど。鴎とか鵜とかはかなりの上級者にしか出さないみたい。この人の直接の先生はその高山の若先生の妹さんで名古屋にお住まいで。今日も来てくださることになってたから、そろそろいらっしゃるんじゃないかな」
と麗花さんが言う。
 
「えっと・・・まさか」
 
と思っていたら、やってきたのは確かに、伯母の風帆(若山鶴風)であった!
 
顔を合わせないようにしよう・・・と思ったが無駄だった。
 
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「ね、そこの手鞠の振袖着てる子」
と声を掛けられてしまう。
 
「あ、はい」
と仕方無いので返事をする。
 
「あなた、どこかで会わなかったっけ」
仕方無いので覚悟を決める。
 
「先日は母にクレマスのチケットありがとうございました、風帆叔母さん」
「・・・あんた、冬ちゃん!?」
 
「はい」
「なんで振袖なんか着てるの? そうしてるとまるで女の子みたい」
「あ、私、こういう服の方がどちらかというとデフォルトで。今日もここまでセーラー服着てきたし」
「へー!」
 
「実はこの振袖着て、一昨年の俊郎さんの披露宴の余興に出たんですよね〜」
 
「あ!黒田節唄った!」
「はい」
「三味線は下手だけど唄が凄く上手いと思ったよ。あの時も見たような顔の子だと思ったけど、親戚たくさん来てたからね」
「まだあの頃は三味線習い始めて半年もたってなかったので」
 
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「今どのくらい上手くなってるのさ」
と言われたので、三味線の弾き語りで『長崎ぷらぶら』を唄う。
 
ところが風帆伯母は
「あんたまだ声変わりしてないのね。でもそれ、若山流の三味線じゃない」
と言う。
 
私は近くで様子をうかがっていた津田さん(アキさん)の顔を見た。
 
「うん。そちらでやっていいよ」
と言うので、あらためて若山流で『長崎ぶらぶら』を再度弾き語りした。
 
「おお、ちゃんとできるじゃん」
「里美伯母さんに通信教育してもらってます。演奏したのを録音して送って採点してもらって」
「へー」
 
「あんた、今日の伴奏?」
「はい」
「若山流でやりなさい」
 
私が津田さんの顔を見ると頷いている。津田さんは伯母に
 
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「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。姪御さんをお預かりして三味線の基本的な技術や発声などをお教えしておりました」
と挨拶してくれた。
 
「いえ。こちらこそお世話になっております。って、あんた姪なんだっけ?」
と伯母は私に訊く。
「甥よりは姪ということにしてください」
 
「まあ、いいや」
 
「こちらで名前ももらった?」
「いえ。伯母さんたちがいる以上他では名前は頂きません。でも無名では困るので、仮の名前で『柊洋子』というのを」
 
「女の子名前だ! まだ仮の名前ということなら、津田さん、私がこの子に名前をあげてもいい?」
 
「はい、お願いします」
 
すると風帆伯母は高山のいちばん上の伯母(乙女伯母:鶴音)に電話してしばらく話していたが
 
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「プロのレベルには充分達してるけど、まだ免許皆伝じゃないから。学習者名で『若山富雀娘(ふゆすずめ)』という名前をあげることにする。女の子名前がいいんでしょ?雀が増えて行くように、あんたの芸も向上していくようにという意味」
「ありがとうございます」
 
「充分上手くなったら、『若山富鶴(ふゆつる)』か何かをあげるから」
「いや、そこまでやるつもりは・・・」
「プロになれとは言わないけど、やる以上上手になろう」
「はい。それは頑張ります」
 
そこで司会者にも伝えて、今日の伴奏は、谷川豊麗(麗花さん)と若山富雀娘ということで案内されることになった。
 

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演奏会が終わってから、伯母が『若山富雀娘』と和紙に書いて、落款も押して渡してくれた。
 
「なんか格好いい!」
「まあ紙1枚だけど、こういう紙1枚に結構なドラマがあるものだよ」
「そうなんでしょうね」
「とりあえずこの2年ほどの冬ちゃんのお稽古の成果に対する私の評点。今日の伴奏もしっかりしてたよ。唄う人がとちった時に、うまくカバーしてあげるね、あんた」
「自分がよく失敗するから、失敗のカバーだけは慣れているというか」
 
「いや、そういう技術は大事だよ。あんた舞台度胸もある。月1回くらいでも、名古屋まで来ない? 稽古付けてあげるよ」
「そうですね〜」
「女の子の服を着て来ていいよ」
「あ、行きたいかも・・・・」
「ふふふ」
 
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■夏の日の想い出・カミは大事(8)

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