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■夏の日の想い出・カミは大事(5)
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(C)Eriko Kawaguchi 2013-04-20
ということで、私たちはお風呂から上がった。身体を拭き、アスカから渡された女の子下着を着ける。
「うーん。わざと身体にぴったりになる超ハイレグショーツを選んだのに、全然形が見えないじゃん」
「だから、見られたら逮捕されるから」
と私は笑って答える。
「だいたい、ふつうの男の子の構造なら、こんなにハイレグのショーツを穿かせたら、こぼれそうなのに」
「私、自分でもハイレグのショーツ何枚か持ってるよ。ここまで細くないけど」
と私は答える。
「やっぱりおちんちん付いてないんだよね?」
「だから、そういう危ない会話をここではしないように」
その後、ブラジャーを着ける。
「ちゃんと自分で後ろ手でホックを留められるんだね」
「そのくらいできるよー」
「それができるくらい、よくブラを着けてるんだ?」
「ああ、後ろ手でブラを留めるのは、私がだいぶ練習させた」と姉。
「すごーい。ちゃんと弟を妹に改造する計画、着々と実行してるんですね。おっぱい大きくするサプリも渡してるし」
「いっそ、冬の男物の服を全部燃やしてしまおうかとも思ったのだが」
「おお、凄い!それはぜひ実行しましょう」
「やめてよー」
「でも実は私も、冬におちんちんがあるのか無いのか分からん」と姉。
「だから、そういう危険な会話をしないように」
その後キャミを着てから旅館の浴衣を着ようとしたのだが、アスカは
「せっかくだから、この服を着て」
と言って、可愛いカットソーとスカートを渡された。私はもう今更なので
「ありがとう」
と言って、それを身につけた。
「うーん。こうしてると、どう見ても美少女中学生だな」
とアスカ。
「この姿があと数日で見られなくなるって惜しいよね」
と姉。
「え?どうして」と明奈が訊く。
「冬ちゃんの中学、男子は丸刈りらしいのよ」とアスカ。
「えー! こんな美少女を丸刈りにするなんてひどい。やはり冬ちゃん、性転換手術していることをカムアウトして、女子中学生として通学しようよ」
「いや、そんな手術してないって」
「私たちにまで隠すことないのにね〜」
「全く」
「でもさ、冬ちゃん」
「はい」
「その髪の毛切る時は私に切らせて。そして冬ちゃんの髪の毛を頂戴よ」
「いいですけど」
そういう訳で東京に帰ったら入学式前日にアスカに髪の毛を切ってもらい私は坊主頭になることにした。
私たちはそのままロピーで少しおしゃべりをし、お互いに記念写真なども撮りあった。こうして私が女の子の服を着ている写真が増殖していく。
そして夜10時くらいに部屋に戻って浴衣に着替えて寝た。カットソーとスカートは、明日の日中に母と別れたら着てと言われた。
翌日、旅館を出て新幹線とリレーを乗り継いで熊本まで行く。ここでライブに行く母がシャトルバスに乗るのを見送って、私たちはまず水前寺公園に行った。もちろん、私は昨夜アスカが渡したスカートを穿かされた!
「冬ちゃん、女の子の服を着た時は当然女子トイレ使うよね」
とアスカ。
「ええ。こういう格好で男子トイレに入ると無用の混乱を招きますから」
と私。
「冬はね・・・どうもふだんの服装でも、女子トイレを結構使っている気がするんだけどね」
と姉。
「ああ」
とアスカは大きく声を出してから
「冬ちゃんって、雰囲気が女の子だから、たとえタキシード着てても男の子だとは思われないでしょうね」
と言った。
「それはさすがに男の子とバレるよ」
「でも坊主頭になったら、女子トイレにも入れなくなるね。この旅行でたっぷり女子トイレを味わっておきなよ」
「そんな、味わうようなもん?」
「女子トイレ名物の行列に並ぶのとかもね」
「男子トイレって行列できないの?」
「イベントみたいな時はできるけど、ふつうはあまりできないと思う」
「へー」
「それってさ、やはりトイレの設計してるのが男だから、そもそも女子トイレの個数が少なすぎるんじゃないかねー」
「女子が小用をする時に掛かる時間を何も考えずに設計してるよね」
公園を一周して、茶屋で「いきなり団子」を食べていた時、近くに座っていたお腹の大きな女性が突然苦しみはじめた。
「どうしました?」
とアスカが声を掛ける。
「う、うまれそう」
とその女性。
「たいへんだ! 救急車を呼ばなくちゃ」
するとその近くにいた30歳くらいの女性が
「救急車は来るのに時間が掛かるよ。私の車で病院まで連れて行こう」
と言い、私たちは協力して、妊婦さんをその人の車まで連れて行った。
車は8人乗りのワゴン車だったので、何となく成り行きで、私たちも一緒に乗り込む。そして妊婦さんが「○○町の○○病院がかかりつけなので」と言うので、その病院の玄関に乗り付けた。
「済みません。この人が急に産気づいたので」
と窓口で言うと、すぐ対応してくれた。
私たちは協力して妊婦さんを降ろして、病院の看護婦さんに案内され分娩室まで連れて行った。すぐにお医者さんが来て、状態をチェックするが
「これはもう出かかっている!」
とお医者さんが驚いたように言う。
「産道が開いてますね」
と助産師さんも言う。
「あなたたち、妊婦さんの手を握ってあげたり、さすってあげて。身内の人がしてあげた方が力づけられるから」
とお医者。
私たち身内じゃないけどー、とは思ったものの、私たちは彼女のお腹をさすってあげたり、手を握ってあげたりした。私は姉から「一応あんたはあの付近は見るな」と言われ、手を握ってあげる係になった。でも妊婦さんから物凄い力で手を握られてきゃーっと思った。
赤ちゃんは30分くらいで出てきた。結果的には物凄い安産だった。しかし安産とは言っても、妊婦さんの苦しみようは凄かったし、物凄い力で握られて私の手はその後半日くらい痛かった。でも出産の瞬間に立ち会ったのはとても感動した。
落ち着いてから、私たちが通りがかりの人間で、妊婦とは関係無いことを知りお医者さんは驚いていたが、妊婦さんは私たちにとても感謝した。
「ご家族に連絡しますよ。電話番号教えてください」
とアスカが言ったのだが、
「私シングルマザーなの。母親とも実家にいる姉妹とも喧嘩してもう何年も連絡を取り合ってないし」
「それでもお母さんは、お孫さんが生まれたと言ったら喜びますよ」
「そうかなあ」
「むしろ連絡しなかったら、またそれで後で揉めますよ」
「そうかも知れない」
と言うと、彼女は自分の荷物の中に携帯が無いか尋ねる。アスカが荷物の中を探して見つけて渡すと
「この番号なんだけど・・・」
とアドレス帳を開いて指さす。
「私が電話しますよ。まだあなた出産したばかりで体力も精神力も消費しきってるもん」
と言ってアスカは電話を掛けた。このあたりのアスカの行動力はさすがだと思った。
「こんにちは。突然申し訳ありません。私、**さんの友人ですが、実は**さんがさきほど、赤ちゃんを出産しまして。はい、母子ともに無事ですが、**さんはまだ疲れて眠っておられます。お母さんにだけは無事赤ちゃんが生まれたら連絡して欲しいと言われていたものですから」
アスカはまるで自分がこの人の長年の友人であるかのような言い方をする。彼女は押しが強いので、こういう時はけっこう便利な性格である。このあたりも見習いたい気分だった。
アスカはこの病院の名前と住所を伝えて電話を切った。
「明日にもこちらまで出てくるそうですよ。田舎はどちらですか?」
「鹿児島の薩摩半島の端っこなんです。交通の便が悪いから、ほんとに1日掛かると思う。お母ちゃん車持ってないし」
「ああ、田舎は車が無いと行動力が随分制限されますよね」
「そうそう。買い物とかも農協ストアが運行している巡回バスに乗って。それも週に1度しか来ないし」
「ほんとに大変だ」
「でも出産って素晴らしい。私感動した」
と私が言うと、明奈も姉もアスカも同様に感動したと言った。
「本人は大変だけどね。でも私も感動した」
と出産した本人。
「みなさん、まだ10代ですよね?」
「高校生と中学生かな」
「じゃ、みんな出産は10年後くらい」
「そんなものかなあ」
「じゃ10年後のみなさんにエールを送りますね」
すると明奈が
「冬ちゃんも赤ちゃん産むんだっけ?」
などと唐突に訊く。
「確かに私あまりもてないけど、その内いい人がいたら結婚して赤ちゃん産むつもりだよ」
などと言ってみる。
「そうか、赤ちゃん産む気なんだ」
と明奈が感心するように言うと
「そんな言い方してはいけないよ。誰でもきっといい人は見つかるよ。私も結婚はできなかったけど、一応恋人できたから、こうやって赤ちゃん授かったしね。今恋人がいなくてもあまり悩む必要無い」
と新米ママさんは言った。
アスカも「ふーん」という感じでこちらを見ていた。
「あ、ごめんなさい、みなさんのお名前教えて」
彼女を病院まで車に乗せてくれた人は「用事があるから」と言ってすぐに帰ってしまっていたのだが、残っていた私たちは名前を名乗る。
「唐本萌依」
「唐本冬子」
「琴岡明奈」
「蘭若アスカ」
「らんじゃくって、どういう字を書くんですか?」
「植物の蘭に若いという字です。でも若は杜若(かきつばた)の若で香りの良い花を並べた苗字なんだそうです」
「へー。きれいな名前だね! あ・・・・」
「どうしました?」
「この子の名前、あなたのお名前から頂いていいかしら?」
「いいですよ」
「蘭って名前にしようかな」
「あ、可愛くていいと思います」
「よし。蘭ちゃん、親切なお姉ちゃんたちに助けてもらってよかったね」
彼女と私たちはその後も年賀状をやりとりする付き合いが続いた。そしてこの時産まれた赤ちゃん、蘭が後に「フラワーガーデンズ」というガールズバンドを結成し、ローズ+リリーのバックバンドになるのであるが、それはずっとずっと先の話である。
この日は結局この出産騒動で、どこにも行かないままタイムアップとなった。カラオケ対決は、私とアスカに関しては東京に帰ってからすることにしたが、参加できない明奈が残念がっていた。
「名古屋の叔母さんとこの娘さん、あんたたちの従姉が夏に結婚するんでしょ?その時、明奈ちゃんも名古屋まで出てきたりしない?」
「あ、行きたい。ってか付いていこう」
「じゃ私はその縁組みには直接関係ないけど、その時に名古屋まで行くよ」
「そして当然、冬ちゃんを温泉に誘うんですよね?」
「そうそう。名古屋の近くにも温泉ってあるよね?」
「あります、あります。長島スパーランドにはプールも温泉もありますよ」
「おお。それは良い。そこで今回のリベンジだ!」
結局昨日アスカが撮影した私の下半身の写真には肝心の部分が全く写っていなかったのである。もし股間に男の子のシンボルが付いてたら、この角度でも先端は写っていいはずなのに、とアスカは悔しがっていた。
夕方、熊本駅で母と落ち合う。
母は何だか不愉快そうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」とアスカが訊く。
「ひどいわー。金返せだったよ。私が払ったんじゃないけどさ」
「そんなに内容がひどかったんですか?」
「最初の5曲くらいまではちゃんと演奏したのよ。ところがその次の曲を演奏している最中にさ、ギターのマイクとベースのジャンが喧嘩始めて」
「あら」
「演奏中断して、なんかどうもかなり汚い言葉で罵り合いはじめた感じで」
「きゃー」
「で、こんな奴と一緒に演奏できるか、みたいなこと言い出して、殴り合い始めて」
「うっそー」
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