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■夏の日の想い出・カミは大事(2)
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「そうそう。アスカさん、こないだから何度も会ってて、その度に言いそびれてて。♪♪女子高校、合格おめでとうございます」
「おめでたくないよ」
「なんで〜?」
「だって、入試の成績。私5番目だったらしいのよ。トップで合格するつもりだったのに。上に4人もいたなんて」
「在校中に抜けばいいです」
「もちろん、そのつもりだけどね」
「でも♪♪女子高校の制服、個性的ですね」
「制服なんて無くてもいいと思うんだけどね。画一的なことしてても埋没するだけ」
「そうですねー」
「冬ちゃん。学生服とセーラー服と両方掛かってるけど、どちら着て中学は通うの?」
「気持ち的にはセーラー服着たいけど、学生服を着ないといけないんだろうな」
「ふーん」
「しかも、うちの中学、男子は丸刈りなんだよね」
「えー!? じゃ、冬も丸刈りにしちゃうの?」
「それを逃れるすべはないかと必死で考えている」
「そりゃ、私は女の子です!と宣言しちゃうに限るよ。実際、冬って身体はもう女の子の身体になってるんでしょ?」
「いや、そういう訳でもないんだけどね」
「そのあたりの秘密が知りたいなあ」
「うーん、その内ね」
「でも冬ちゃんがそこに隠してる女の子の服、タンスに入ってる男の子の服より多くない?」
などともアスカは指摘した。
「えへへ」
などと言ったことも言ったりしたあと、出かけていた姉が生菓子を買って帰って来たので、居間に行き、一緒にお茶を飲みながら食べる。
「この生菓子も美味しいけど、このお茶が何気に美味しい」
「九州の姉(里美)が送ってきてくれた八女(やめ)という所の玉露なんだけどね、この味は冬がいれないと出ない」
と母が言う。
「ああ、私やお母ちゃんがいれても美味しくならないよね」
と姉。
「へー」
「うちで料理とかお菓子作りとかいちばん上手なのは冬だから」
「冬ちゃん、いいお嫁さんになれそう」
とアスカ。
「ああ、そうそう。私たちもよくそれ言ってる」
と母。
「冬ちゃんはお嫁さんに行く気は?」
「あ、もちろんお嫁さんに行くつもりだよ」
と私が言うと
「なるほどねえ」
とアスカは納得したような顔をした。
その時、電話が掛かってきた。母は受話器を取ったがすぐにハンズフリーにしてしまった。
「はーい。風姉ちゃん」
相手は名古屋に住んでいる母の姉・風帆のようである。
「ねえねえ、春ちゃん、4月3日は空いてる?」
「うーんと、空いてるけど何?」
「実はさ、4月3日にクレマスのライブがあるんだけどね」
「あ、来日するの?」
「5年ぶりの来日公演だよ。それで行くつもりでチケット取っていたのに、美耶の結納がその日になっちゃったのよ」
「それはおめでたい。美耶ちゃん、いつ結婚するの?」
「今の所8月の予定。でもよりによってこの日に結納なんてひどい。私、放置してライブに行こうかと思ったんだけどね」
「そういう訳にはいかないだろうね」
「それでさ、春ちゃんもクレマスは好きだよね?」
「うん。割と好きだよ」
「チケットあげるから行かない? 期日が迫ってるから交換とかに出す時間も無いのよ」
「もらっていいの?」
「無駄にはしたくないもん。2万円もしたんだから」
「きゃー!」
「往復のチケットもあげるから。名古屋までの交通費だけそちらで出して」
「ちょっと待って。場所はどこ?」
「あれ?私言わなかったっけ?」
「聞いてない」
「熊本のアスペクタって野外会場」
「熊本!?」
「新幹線とリレーつばめを乗り継いで熊本駅まで行けば、その先はシャトルバスが運行されるから」
「この時期に野外会場なの!?」
「あ、防寒具しっかり用意してね。阿蘇の山の上だからかなり寒いはず。本当は去年の夏にやる予定だったんだよ」
「へー」
「ところが来日直前にギターのマイクとベースのジャンが喧嘩してさ」
「あ、そういえば言ってたね」
「もうクレマスは解散だ! って話になって。来日中止で、イベンターが倒産したんだよ」
「可哀想!」
「でもそのあと仲直りして、また一緒にやっていこうということになって再度来日公演が決まった」
「へー」
「でも昨年のトラブルがあるからどこもイベンターが引き受けたがらなかったんだよ」
「うん」
「で、結局昨年その事件で倒産したイベンターにいた社員さんが独立して作ったイベンターが、去年のリベンジしようというので引き受けたらしいんだけどね」
「トラブル無いといいね」
「全く。去年の夏はチケット5万枚完売してたからね」
「2万円で5万枚なら10億円?」
「でもその分、結構費用もかさんだみたい。イベンターの損害額は2億円か3億円あったらしいよ」
「ぎゃー」
「でも、来日公演で熊本って珍しいね。普通なら東京近辺でしょ?」
「まだ売れてない頃に日本に来た時、阿蘇の美しさに感動したからだって」
「へー」
「それにアメリカ的な感覚では、東京と熊本はすぐ近くなのよ」
「なるほど!」
そういう訳で、4月3日に母は熊本まで行くことになった。
「あんたたちも一緒に来る? ライブは私だけだけど、熊本の市内観光とかしててもいいし。熊本城とか水前寺公園とか」
と母。
「春休みだし行ってもいいかな」と姉。
「私は留守番してようかな」
と私は言ったのだが
「あんたひとり置いておけないから一緒に来なさい」
と姉は言う。
「うん。まあ、行ってもいいけど」
「お母さん、宿はどこになるの。熊本市内?」
「湯の児(ゆのこ)温泉というところ。熊本からけっこう離れているけど新幹線ですぐだって」
「あ、そうか九州新幹線が開業したんだったね」
「そう。ついこないだね」
「温泉に泊まるんですか?」
とアスカが訊く。
「ええ」
「私も一緒に行っていいですか? もちろん旅費は自分で出しますから」
「いいけど」
「冬ちゃんと一緒に温泉に入らなければ」
「一緒にと言っても、冬彦は男湯ですけど」
と母が戸惑うように言うが
「いえ、いいんです」
とアスカは微笑んで答えた。姉がニヤニヤしていた。
そういう訳で私・姉・母・アスカの4人は、ライブ前日の4月2日早朝から新幹線に乗り、「のぞみ」で博多まで行って、ここでいったん途中下車し、里美伯母とその娘達(私の従姉たち)と会って、お昼御飯を一緒に食べる。
駅のそばのヨドバシカメラの中にある回転寿司でお昼にしたが、横一列に並び、伯母・母・姉・アスカ・私・明奈・純奈という順になった。すると会話が母たちに聞こえないのをいいことに、明奈は大胆なことを訊いてくる。
「アスカさん、冬ちゃんの性別問題の研究は進みました?」と明奈。
「全然。しっぽを見せないというか」とアスカ。
「ちんちんを見せないというか?」
「そうなのよ! 年末に冬ちゃんは、お友だちと一緒に温泉スキーに行ったらしいのよね」
「あ、いいな」
「私、後から聞いてさ。知ってたら絶対付いていくんだったんだけど」
私はただ笑っていた。
「でもその時に行った、冬ちゃんのお友だちに聞いたんだけど、冬ちゃんは、やはり女湯に入ったらしいのよね」
「ほほお」
「で、お友だちも何とかして冬ちゃんの、しっぽを掴もうというかちんちんを見ようと、お風呂の中でひっくり返してみたりしたんだけど、ついに見ることはできなかったという」
「やはり付いていないのでは?」
「私もそんな気がしてね〜。だって実際に付いてたら、それで女湯に堂々と入るなんて、普通考えられないもん。もう取っちゃってて付いてないから、図々しくも女湯に入るんだと思うんだよね」
「やはり」
「それで今回、また温泉に泊まるというから、きっと女湯に入るつもりだろうから、見届けてやろうと思って付いてきたのよ」
「頑張ってください。私も行きたいくらいだな」
「何なら来たら? 泊まるのは旅館だから1人くらいどうにでもなるよ」
「うーん。。。行こうかな」
「無駄になると思うけどなあ。ボクは当然男湯に入るし」
「それは絶対嘘。というか、ちんちん付いてなくて、おっぱいある人が男湯に入ろうとしたら追い出されるに決まってるもん」
「あ、おっぱいあるんですか?」
「一昨年私が一緒に温泉に入った時は膨らみかけって感じだったんだけど、年末に冬ちゃんと温泉に行ったお友だちによれば、微かに膨らんでいるらしい」
「だったら、もう男湯には入れませんよね」
「今回は私、証拠写真撮るのに防水カメラ持って来てるから、温泉の中でも撮影できる」
「ちょっと、ちょっと、温泉の中でカメラ使ってたら痴漢と思われるよ」
と私は笑いながら注意する。
「女が撮ってても?」
「ああ、最近、女にお風呂の中を盗撮させたビデオが結構出回ってるらしいですよ」
と純奈。
「そうか!女が撮影して、それを男に売る訳か!」
「そうそう」
「そんな奴はギタンギタンに」
「アスカちゃんがギタンギタンにされないようにね」
と純奈も笑って言う。
結局明奈も付いていくことになった。旅館に人数がひとり増えたことを連絡した上で、博多駅から「リレーつばめ」に乗り新八代へ。そこから開業したばかりの九州新幹線「つばめ」で新水俣駅まで行き、ここから旅館の送迎バスで湯の児温泉に入った。
「山の《湯の鶴温泉》、海の《湯の児温泉》」と並び称される温泉である。
私たちは旅館に着いて一息付いたところで「太刀魚釣り」に出かけた。ここの名物らしい。4月1日からシーズンが始まったばかりらしかったが、母は行かないと言った。
「そんな海の上とかに行ってトイレはどうするのよ〜?」
「トイレくらい多分船に付いてると思うよ」
「パス。私たいていの乗り物は平気だけど、船だけは酔うのよ〜」
「湾内だしあまり揺れないらしいよ。特に今日は凪いでるって旅館の人言ってたし」
「それでもやはり私、お風呂入って寝てる〜。高校生2人もいるから、私いなくても大丈夫よね?」
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