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■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(8)

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「だいぶ巧くなってる。去年の『エリーゼのために』とは段違いだ」
と見学に来ているサトも言った。サトはスターキッズで録音する際にもだいたい見学に来ている(むろん報酬は出ない)。ヤスも時々来るのでこの二人はしばしば無償徴用されてパーカッションを打っていたりもする。
 
「でもプロの演奏レベルじゃないね」
と鷹野さんに言われ、結局宝珠さんから「使ってもいいが木曜日までにプロレベルの演奏にすることが条件」と言われた。
 
「少し教えてあげたい気もするけど、今ここにいるメンツの中にピアノのプロがひとりもいないね」と近藤さんが言うので
 
「あ、私心当たりあります」
と私は言った。
 
「友人で音大のピアノ科に在籍してる子がいるので、その子にちょっと指導を頼んでみます」
「おお、それは凄い」
 
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結局その部分を未収録で残し木曜日に収録することにして、2日間に渡る録音作業を終えた。
 

私は中学高校のコーラス部の後輩で音楽大学のピアノ科に在籍中である美野里に電話して、指導料も払うので、数日間、政子のピアノ演奏の指導をしてもらえないかと頼んだ。
 
「いいですけど、冬子先輩だって、プロのキーボード弾きなのに」
「私はピアノ正式に習ってないから、我流の人が教えると、更にひどい我流になってしまう」
 
ということで、美野里は1日の夜から来てくれた。美野里はうちにあるピアノを見ると
「すごーい。うちのピアノの後継種だ」
と嬉しそうに言った後で、
 
「こんな良いピアノ買ったんなら、しっかり練習しないとバチが当たるよ」
などと言い、政子だけではなく私にも少しピアノを弾かせて色々アドバイスしてくれた。
 
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「冬子先輩の指使い、薬指を使いすぎると思う」
と美野里は指摘した。
 
「あ、それは思ったことはあった」
「釈迦に説法は承知で言いますけど、薬指はいちばん力の出ない指なんです。できるだけ中指か小指で弾けるように指替えをちゃんとしましょう」
と言って美野里は実際に私が弾いてみた曲で、理想的な指使いを実演してみせてくれた。
 
政子の方は
「プロの演奏ってどんなんだろう?」
などと言っているので、美野里が
「私はセミプロだけど」と言って、問題の譜面のピアノソロ部分を弾いてみせる。
「なんか格好いい!」
と政子は本当に感動している感じで言った。
 
「今のと同じ弾き方すれば合格するかな?」
「ああ、それはありだと思うよ。模倣することも大事」
 
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「こんな感じだったかな」
と言って政子が弾くと、
「さすがプロミュージシャンだね。結構いい感じでコピーする」
と言って感心していた。
 

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4月3日にはワンティスのメンバーが集まってきた。
 
上島雷太(KB1),下川圭次(KB2),雨宮三森(Sax), 水上信次(B),長野支香(Cho),ここまでは知ってる顔ばかりだ。海原重観(Gt2), 三宅行来(Dr), 山根次郎(Tp)の3人とも1度は会ったことがあったが、あまり言葉は交わしてないので改めて挨拶しておいた。
 
「歌は要するに、高岡と上島がデュエットしてた所を、このふたりのお嬢さん方に歌ってもらうんだよね?オクターブ上げて」
と三宅さんが確認するように言う。
 
「高岡のギターパートはどうするの?」
「ローズ+リリーのバックバンド、スターキッズのリーダー近藤君に弾いてもらう線でお願いしたいんですが」
と加藤課長が恐縮した感じで言う。
 
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「ああ。近藤ちゃんはうまいよ。何か弾いてみて」と雨宮先生が言うので「はい」と緊張した面持ちの近藤が、適当なフレーズを弾いてみせる。
 
「ああ、合格合格」
とが三宅が言う。
 
「それで、スターキッズのもうひとりのリーダー、宝珠さんにコーラスに加わってもらいたいのですが」
と加藤さん。
 
「ああ。何か歌ってみて」
宝珠さんがプレスリーの『ハウンドドッグ』を少し歌ってみせる。
 
「おお、格好いい」
「夕香ちゃんも漢らしかったけど、この子も漢らしい」
「これだけ歌唱力あればOKね」
ということで、今回の録音ではローズ+リリーの縁で、近藤さんと宝珠さんに加わってもらったユニットで演奏することになったのであった。
 
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例によって、演奏を先に収録してから歌を乗せる方式である。ワンティスがそういう方式を採っていたのは、雨宮先生の歌が捨てがたいのに雨宮先生はサックスを吹いているので演奏しながら歌えないことと、実は高岡さんも上島先生も弾き語りがあまり得意ではないこともあった。
 
「あんたたちは楽器何もしないの?」
「ケイちゃんはキーボード、マリちゃんはヴァイオリンがうまい。宝珠さんはサックスとフルートのプロ」
と上島先生が言うと
「よし、ヴァイオリン入れよう。それとテナーサックス入れようか。持ってきてる?」
「はい。車に乗せてきてるので持ってきます」
「よし。下やん、パート書いて」
「はいはい」
「ケイちゃんはどうしよう? キーボードは既に2人もいるからなあ」
「ケイちゃんもフルートとイーウィーが吹ける。イーウィーは私の直伝」
と雨宮先生が言うので
「うーん。よし。イーウィー吹いて。宝珠さんはフルートにしようか」
「あ。はい」
「持ってきてる?」
「持ってきてます」と私。
「銀管、金管の現代フルートと、木管のバロックフルートを持ってきてますが」
と宝珠さん。
 
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「全部持ってきて。吹いてもらって音を聴いてどれにするか決める」
「分かりました」
 
「下やん。それでスコア作って」
「OK」
 
私たち3人が各々車に乗せていた楽器を取ってくる。フルートは銀管・金管・木管と聴き比べて、木管の音が好きと三宅さんが言ったのでそれを使うことになった。今回の制作では発案者の上島先生・雨宮先生が遠慮しているため、このふたりに次ぐ古いメンバーである三宅さんが音作りの中心になっている感じであった。
 
ということで、私と政子に宝珠さんも演奏に参加することになった。
 
それで演奏の方は下川先生が書いたスコア譜を元にプレイするのだが。。。。
 
「なんでみんなちゃんと譜面通りに弾かないの?」
「ええ? ここはこっちの方が格好良くない?」
「ひとりだけで演奏してるんじゃないんだから。全体のハーモニー計算してるんだから」
 
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「提案。ここはこうした方が良いと思う」
 
といった感じで、演奏スコアが定まるのに時間が掛かった。私はこういうスタイルの収録はもっと激しいやりとりがあるのをサウザンズの音源制作で体験して慣れていたが、政子はどうだろうと思って横顔を見る。すると、メンバー間のやりとりを何だか楽しそうに見ている。これなら大丈夫かな。
 
結局、スコアが固まるまで5時間くらい掛かった。
 
そして収録は一発でOKということになった。
 
「何だか楽しかった。昔もこんな感じで議論しながら作ってたんですか?」
と政子が訊くと。
「高岡がいないから半日でまとまったね」
と海原さん。
 
「ああ、高岡は妥協ってものを知らなかったから、始まるまで一週間ひたすら議論なんて時もあった」
「加藤ちゃんが、発売予定があるから、何とか落とし所を作ってくださいって泣いて頼んでたね」
「すごーい。そんなに音にこだわるんだ?」
「いや、ただの気まぐれ。言ってることは結構コロコロ変わってたし」
「あらら」
 
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その後、演奏に合わせて歌を吹き込む。まず最初に私と政子の歌を吹き込んだが、一発OKになった。その後、演奏と歌をミックスしたものを聴きながら、支香さんと宝珠さんに雨宮先生の女声を加えた3人のコーラスを入れた。
 
そういう訳で、4月3日の1日で無事『疾走』の収録は終わったのであった。
 

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4月4日。『100%ピュアガール』の前奏ピアノソロの収録をすることになる。政子が弾けたら政子の演奏で、不合格ならそこは月丘さんが弾くということにしていたのだが
 
「じゃ弾いてみて」
と言われて政子が弾くと
 
「おお、見違えた」
と言われる。
「2日置いただけで随分上達したね」
「私天才ですから」
「おお、自信家だ」
「うんうん。マリちゃんはそれでいいね」
 
ということで、2回練習で演奏した後、本番は一発でOKになった。
 

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「今日は4月4日、オカマの日だね。ケイちゃんお祝いとかするの?」
「しませんよー。うちは普通に3月3日、4月3日に雛祭りしました」
「へー。何するの?」
「雛人形飾って、白酒飲んで、ひなあられ、ひなケーキ食べて」
 
「なんか、ケイちゃんみたいな傾向の子の中には『自分は女』という意識の子と『自分は男でも女でもない第三の性』みたいな意識の子がいるよね」
 
「ですね。MTXとか第三の性、第四の性、第五の性、みたいな言い方もありますが、実は人の数だけ性別は存在するんじゃないかという意見もあります」
「ケイちゃんは『女の子』意識なんだ?」
「自分がどちらで生きるべきかとか、人前で女の子として行動すべきか男の子として行動すべきか、といった部分については揺れてた時期もありますけど、自分の性別意識としては基本的にはそちらですよ」
 
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「物心付いた頃からずっと?」
「ええ、まあ」
と答えると、政子がキラキラした目をしている。
 
「公式にはケイって大学2年の時に性転換手術を受けたことになってるけど実は生まれた時から女の子だったのでは、という説もありまして」
と政子。
 
「勝手に変な説を作らないこと」
「でも以前集まった時に古い友達が言ってたんですよね。ケイのおちんちん見たことのある子って、ほとんどいないって」
「女の子の友達には見せないんじゃない?」
「いや、男の子の友達の中で、ケイのおちんちんを目撃した子は存在しないみたいなんです。女の子では私も含めて5人くらいいるんですけどね。だから私たちが見ていたのは実はダミーではないかと」
 
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「そんな馬鹿な」
 

4月5日の午前中。政子は図書館に行くと言って大学に行っていたが、私は疲れが溜まっていたので、マンションで寝ていた。そこに電話が掛かってきた。
 
「○×医院と申しますが」
「はい」
「唐本様でいらっしゃいますか?」
「はい」
 
それは私が大学1年の時に去勢手術を受けた病院だった。3年も経っているのに何だろう。
 
「当医院が閉鎖されることに伴う、冷凍精液の○○病院への移管について先日照会頂いたのですが、調べてみたのですが、該当する精液は冷凍庫の中に存在していないようです」
「はあ?」
 
何だか話がさっぱり見えなかったので思わず聞き直した。
 
「あ、えっと3年前の5月にご主人が不妊になる治療を受けるというので、その直前に採取した精液の保存を依頼していた、とおっしゃってましたよね」
「は、はい」
 
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と私は反射的に答えてしまったものの、何だそれは?と思った。
 
「しかし当医院にはご主人の唐本冬彦様の名前の精液はリストにありません。それで先代の院長に連絡して確認した所、前院長も記憶が不確かということでしたが、確かに精液の冷凍を依頼されたものの、実際に顕微鏡で検査してみた所、中に活動している精子がほとんど存在しなかったので、これでは冷凍しても意味無いですと回答した気がするということだったのですが」
 
私は何が何だかさっぱり分からなかったが、どうも政子が何らかの方法で私の精液を採取して、それをこの病院で冷凍保存してもらおうとしたようだと思われた。でも私、射精したことあったっけ?? 寝ている間に密かに搾り取られていたのだろうか?
 
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電話の相手は私を政子だと思っているようだ。私が女声で応答しているし、そもそもこの時間帯、男性は仕事などで外に出ていて家にいるのは主婦とかであろう。FとMTFのレスビアンなんてのは簡単には説明できない関係だ。そしてどうも政子は「唐本政子」の名前でこの件を依頼したようだということも何となく把握した。そしてこの病院は閉鎖されるらしい。「前院長」などと言っているので、院長が交代したのだろうが、その前院長はまだ40代のはず。おそらくは経営上の問題が生じたのだろう。
 
「あ、えっと精液をどこの病院に移管してくれって頼んだんでしたっけ?」
「え? ○○病院ですよね?。実際、うちで保管している精液は当医院の閉鎖に伴い基本的には全部そちらに移す予定なのですが、そういう訳で唐本様の精液は存在しないので、移管のしようもないので、そのことをご連絡しに電話を差し上げたのですが」
 
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「分かりました。わざわざご連絡ありがとうございました」
「はい。それでは失礼します」
 
私は少し考えてみた。そして度々、政子が27歳になったら子供産むとか、タネの当てはあると言っていたことを思いだした。ところが政子が冷凍依頼したという私の精液には活動性のある精子が入っていなかったという。それを当時病院側はこちらに伝えたはずということのようだが、何かの手違いできちんと政子に伝わっていなかったのだろうか。政子は思い込みが激しいので本人の都合の良いように記憶が変容していたのかも知れない。私は政子の思いに涙が出て来た。
 
私は1分くらい考えてから、若葉の携帯に電話した。
 
 
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