広告:國崎出雲の事情-6-少年サンデーコミックス-ひらかわ-あや
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(6)

[*前p 0目次 8時間順 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁 次頁 時間順目次

↓ ↑ Bottom Top

「これ演奏はMIDIですか?」
と加藤課長。
「そうそう」
「一応生のバンド演奏に差し替えましょうか」
 
「やはりそうすべきよね。でもこの歌、みんな女子高生の心情を歌ったものだからなあ。ケイちゃん、マリちゃん、高校の女子制服着なよ」
「あ、はい」
 
「それとも当時撮った『写真』を表紙にする?」と雨宮先生が言うが
「それはやめましょう」と私は焦らずに否定しておく。
 
「じゃ、ケイちゃんとマリちゃんが女子高生制服で写ってジャケ写」
「OKです」
 
「そうだ。伴奏者にも女子高生の制服着てもらおう」
「伴奏者って?」
「ポップス系の曲が多いから、ローズクォーツかな」
「ははは」
 

↓ ↑ Bottom Top

用意された女子制服を前にタカは何だか楽しそうに身につけていたが、マキとヤスは「またですか?」と嫌そうな顔をしながらセーラー服を手に取っていた。サトは天を仰いでいた。
 
「でもサトちゃんに合う女子制服なんて存在したのね」
と政子が感心した風に言う。
「身長190cm、体重90kgだからね。でもそういう需要が存在するのよ」
と雨宮先生は言った。
「私も女子高の制服、10着くらい持ってるわよ」
などともおっしゃる。
 
「先生、高校時代女子制服で通学してたんですか?」
などと政子が訊くので先生は何だか誤魔化しておられた。
 
「演奏収録中はこの服で自宅まで帰ってもらおうかな」
「済みません。マジで逮捕者が出るので勘弁してください」
と氷川さんが言ったので、雨宮先生も
「じゃスタジオの中だけでいいよ。但し下着はずっと女の子のを付けててね」
と言って妥協した。
 
↓ ↑ Bottom Top

演奏の収録は順調に進んでいった。今回、私と政子の歌は高校時代のをそのまま使うので「あんたたち暇でしょ?」と言われ、私はフルート、政子はヴァイオリンを弾いて演奏に参加した。
 

↓ ↑ Bottom Top

『the time reborn』の伴奏収録はとてもスムーズに行き、19日には終了した。曲が全てとても素直なので、こういう曲はそのまま素直な伴奏にした方が良いという雨宮先生の方針であった。
 
収録が終わり、仮マスタリングしたものを1枚CDに焼いて持ち帰り、私は自宅で聴いていたが、ふとここ数日ハードスケジュールで疲れが溜まっているなというのに気付き富山の青葉に電話してみた。
 
「ハロー、もし時間取れそうだったら喉だけでもヒーリングしてくれない?」
「はい。大丈夫です。こちら合格発表も終わりましたし」
「おお。どうだった? って、既に内定通知が来てたんだったね」
「ええ。中学で特に仲良かったふたりの友人と同じ科になれたので嬉しいです」
「それは良かった。あ、風の盆に一緒に来てた子?」
「ええ、そうです。あのふたりです」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで私はCDを聴きながら青葉、政子とおしゃべりしながら、ヒーリングを受けていたのだが、その青葉が突然沈黙する。
 
「ん? どうかした?」
「今掛かっている曲ですけど」
「ああ。これ私たちが高校時代に歌った音源が見つかったものだから来月発売することにしたのよ。歌は当時のものそのままで、伴奏だけローズクォーツの伴奏で録り直して」
 
「この曲、このまま発売したらヤバいです。全国に呪いが拡散します」
 
その時掛かっていたのは『呪いの人形』という曲であった。政子が「啓介絶対許さないんだから」と言って、何だか魔術書を見て呪いを掛けたという話で、そのことを歌ったものである。
 
「・・・ね、この呪い、本物?」
と訊いて、私は青葉にこの曲が作られた経緯について説明した。政子は忘れているようで「へー、私、そんなことしたんだっけ?」などと言っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「その、政子さんの元カレ、変な事言ってませんでしたか? 例えば黒服の男に追われたとか? あるいは変な電話が掛かってきたとか、夜中に誰かに叩き起こされたとか」
「ピンポーン」
 
「歌詞を変えて下さい」と青葉が言う。
「でもこれ、歌は今の私たちの声で再録する訳にはいかないし」
「このまま発売すると日本全国で恐ろしい事態が発生します」
「うむむ・・・」
 
私は取り敢えずこの曲の歌詞を青葉に送り、どこを修正すべきかを書いてもらった。すぐにFAXが送り返されてくる。「ヤバイ言葉」に傍線が引かれ、代替の歌詞案まで書かれていた。特に歌詞に含まれる3個の呪文は二重傍線が引かれ絶対にこれを出さないで下さい。冬子さんたちも忘れて下さいと書かれ、全てデタラメな文字列に置換されていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

もう夜22時過ぎではあったが、私はこの件ですぐさま町添さんに電話を入れた。
 
「それはさすがにヤバイね!」
 
町添さんは、スリファーズの春奈や花村唯香のヒーリングの件で青葉を信頼していたので、その呪いの話も信じたようだ。ちょっと検討して折り返し連絡するということだった。電話は1時間後に掛かってきた。
 
「技術部の則竹君に訊いてみたんだけどね。短いフレーズなら不自然にならないように差し替えることは可能だという」
 
「ほんとですか!」
「僕も細かい技術的なことは分からないんだけど、まず今のふたりに元の歌詞を歌ってもらって、それで高校時代の録音との差分を取る。それでふたりにボカロイド作成用の原稿を読んでもらい、その音声に差分を加えて、高校時代の君たちの声を模したボカロイドを作る。そしてそのボカロイドに新しい歌詞を歌わせて、それを更に歌声を編集するソフトで手調整を掛け、自然な感じで元歌の他の部分とつなぐようにする」
 
↓ ↑ Bottom Top

「わあ、私たちのボカロイド作るんだ!」
と政子は喜んでいる風。
 
「歌全体を置換するみたいなことは無理だけど、短いフレーズだけ置換するなら、不自然に聞こえないように加工する自信があると則竹君は言っている」
 
「お手数お掛けしますが、それでお願いします!」
 
そういう訳で、翌日20日の午前中私と政子は★★レコードの技術部に出かけ、ボカロイド作成の作業をしたのだった。
 

↓ ↑ Bottom Top

そして20日はローズ+リリーの13枚目のシングル『言葉は要らない』の発売日であった。午後から私と政子は一緒に★★レコードで発売の記者会見を開いた。
 
「確率の罠って面白い歌ですね。つい自分が女房と出会った確率を計算してみました」
とベテランの記者さんから声が掛かった。政子はニコニコした顔で
「私もケイと出会った確率を計算してみたら100兆分の1なんて数字が出ました。ローズ+リリーってだから百兆分の1の確率で誕生したユニットみたいです」
「おお、それは凄い」
 
封入されている投票券のことでも質問が来る。これは加藤課長が趣旨を説明した。
 
「どこかのアイドルグループのCDの真似をした訳じゃないですよね?」
「まあ、ローズ+リリーのファンはあそこより全体的に年齢層が高く理性的なファンが多いので、ひとりで100枚買ってなんて人は多分出ないと思いますので。それにメンバーの人気投票ではなく、曲の投票ですし」
 
↓ ↑ Bottom Top

すると政子が唐突に言う。
「ローズ+リリーのメンバーで人気投票したら誰がトップだろう?」
 
私は苦笑してその発言を引き取る。
「誰がってメンバーは2人しかいないよ。でも多分ダントツでマリだよ」
「そうかなあ」
「だって、マリちゃん本物の女の子だし」
「ケイちゃんも本物の女の子だよ」
「うーん。マリちゃんは神様作の純正品、私はお医者さん作の互換品」
「パソコンみたい」
「マリちゃんは100% pure girl だよ」
 
私がそう言った途端、突然マリはバッグの中から《赤い旋風》を取り出すと、記者会見用の原稿をプリントした紙の裏に詩を書き始めた。
 
記者たちからざわめきが漏れるが、みんな静かに見守ってくれた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「できた〜。ケイ曲を付けて」
「いいよ。でも記者会見の途中だよ」
「あ、ごめんなさーい」
 
「いや、マリちゃんの貴重な創作現場を見せて頂きました」
と大手音楽雑誌の記者さんが言ってくれた。テレビ局の記者はマリの創作現場をしっかりカメラに収めたようであった。
 
「そうだ。私の方が人気あるって話だったっけ」
「そうだね。マリちゃん、ローズ+リリーのリーダーでもあるしね」
と私は五線紙に音符を書き込みながら言う。
 
「あ、そういえば、私リーダーだった。でもリーダーって何かいいことあるんだろうか」
 
「報酬とかをふたりで分割する時に端数が出た分はマリちゃんに付けてるよ」
「お、それは役得だ」
 
たわいもない会話だが、この件はしっかり幾つかの新聞に書かれていて、
「ローズ+リリーの収入はマリちゃんの方が多い」
などというタイトルが付けられていて私は吹き出した。
 
↓ ↑ Bottom Top

記者さんたちがとても優しく接してくれたのでマリはとてもご機嫌で饒舌だった。そして、記者会見が終わるまでに私はマリが書いた詩に曲を付け終わった。
 
「どうも歌が完成したみたいですね」
「はい」
「歌えますか?」
「じゃ、マリ一緒に歌おう」
「うん」
 
氷川さんが気をきかせてキーボードを持ってきてくれたので、私がそれで伴奏しながら、今できたての曲『100%ピュアガール』を一緒に歌った。
 
マリ&ケイが速筆なソングライターであることは結構知られていたが、記者会見をしている最中に、わずか20分くらいで曲が出来たことには驚いた記者も多かったようである。
 
「なんか凄く良い歌ですね」
と昔私たちのスキャンダル報道をした写真週刊誌の記者さんからも言われた。この雑誌の次週号には、執筆中のマリの写真が大きく載り『ローズ+リリー驚愕の創作現場』などというタイトルが付けられていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ケイ、これCD発売しようよ」
「うんうん。★★レコードさんさえ良ければね」
 
加藤課長が
「済みません。ちょっと協議します」
と言って席を立ち、いったん記者会見場を出た。
 
課長が戻ってくるまでの間、また政子が楽しそうに、今回発売するCDの中身の曲について解説をして、それを記者さんたちが書き留めていた。
 
「ほぉ、じゃ『ヘイガールズ!』のPVでアクションしているチアさんたちはマリさんケイさんの出身高校の本物のチアチームですか?」
「ええ。私たちの友人でチアリーダーしていた子がいたので、そのツテで頼み学校にも許可を頂きました」
 
加藤課長は3分ほどで戻って来た。
 
「この曲、12cmシングルで、4月24日にローズ+リリーの新しいアルバムと同時発売することが今決定しました」
と述べる。
 
↓ ↑ Bottom Top

「新しいアルバムというのは、以前予告されていた『Flower Garden』ですか?」
「いえ。実はローズ+リリーの高校時代の音源がまたひとつ見つかりまして、それを発売します」
 
「見つかった、というと、行方不明になっていたのでしょうか?」
「実はふたりが高校3年生の時に、雨宮三森先生が受検勉強の息抜きにと歌わせた音源が存在することが最近分かりまして。ローズ+リリーのふたりもこの音源を持っていなかったのですが、雨宮先生が保存していたので、この音源に新たに楽器で伴奏したものをリミックスして発売します」
 
「では Month before などと同様の方式ですか」
「そうです。時期的にはふたりがスキャンダル報道で大騒ぎになって学校にも行けずにいた時期に電話やFAXでやりとりしながら作った作品で、歌は2008年夏に録音されたものです。ですから、Month before と after one year の中間に位置する作品です」
「では just after とか?」
 
↓ ↑ Bottom Top

「タイトルは Rose+Lily the time reborn. となります」
 
私が補足する。
「実はローズ+リリーはあの騒動でいったん壊れてしまったんです。私も全てが終わってしまったという気分でしたし、マリは当時、私今『ローズ+リリーのマリさんですか?』ときかれても『はい』と言える自信が無いと言ってました」
と言うと政子が
「そんなこと言ってたっけ?」
などと言う。
 
「言ってたけど、忘れてていいよ」
「うん。私だいたい言ったことは数秒後には忘れる」
「鶏並みだね。でもそういう、どん底の状態から、当時の★★レコード担当の秋月さんなどの励ましもあり私たちはまたゼロから再出発することを決めました。そういう訳で今あるローズ+リリーはその時に新たに生まれた新生ローズ+リリーなんです。そしてその時私たちが立ち直りながら作った作品群なので、本当に the time reborn なんです」
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ、うちの雑誌の報道がその作品群を生み出したんですね」
と例の雑誌の記者さん。
「そうですね。御礼に藁人形でも差し上げましょうか?」
「あはは、ください。またそれ記事にしますから」
 
などとおっしゃるので、マリが面白がって本当に五寸釘を打ち付けた藁人形をこの雑誌社に送り届け、それをネタに本当に記事が書かれて話題になっていた。
 
しかしその直後にその雑誌社の常務さんで事件当時編集長だった人が階段で足を踏み外して1ヶ月の怪我をしたという話を聞くと、私はきゃーっと思った。五寸釘は心臓に打って本当に何かあったらまずいというので、足に打っておいたのである。この雑誌はその怪我の件まで「マリちゃんの呪いが効いた!」などというタイトルで、また記事にしていた。記者根性たくましい!と私は感心した。
 
↓ ↑ Bottom Top


↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間順目次

[*前p 0目次 8時間順 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(6)

広告:國崎出雲の事情-9-少年サンデーコミックス-ひらかわ-あや