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■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(2)

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「アップライトピアノはピアノではないとか、グランドピアノとアップライトピアノは別の楽器だとおっしゃる方も多いですよ」
「わあ」
 
「課長、車はシルフィでしたよね?」
「ええ」
「たまに軽とか乗りません?」
「女房の車がムーブなんで時々運転します」
「グランドピアノとアップライトピアノは、シルフィとムーブくらい違うんですよ」
「それ凄く分かりやすいです! 確かに別物だ」
 
「あとペダルも違うんですよ」
と言って私はグランドピアノの真ん中のペダルを使って少し演奏してみせる。
 
「音が残りますね」
「です。このグランドピアノの真ん中のペダルはソステヌートペダルと言って音の余韻を残すんです。アップライトピアノにはこのソステヌートペダルが無いんです」
「え?じゃ、アップライトピアノの真ん中のペダルは?」
「こちらはマフラーペダルと言ってですね」
 
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と言い、私はそのペダルを使ってアップライトピアノを弾いてみせる。
「音が凄く小さい」
「はい。これは夜間練習用なんです。でもちょっと音が小さすぎますよね」
「確かに」
「むしろ練習している本人が聞きづらいです」
「確かに!」
 
「ピアノ教室はヤマハですか?カワイですか?」
「ヤマハです」
「もしピアノもヤマハで選ぶなら、CシリーズかSシリーズですね」
「どう違うんですか?」
「Cシリーズは安い、Sシリーズは音が良い」
「シンプルですね!」
 
この店にC1X, C3X, S6B が置いてあったので、各々のピアノで私は『トロイメライ』
を弾いてみせた。
 
「S6B、凄く音がいいでしょう?」
「いや、済みません。私の耳ではさっぱり分かりません。でもその値段はさすがに予算オーバーです」
と加藤さんはS6Bの上に置いてあるプライスシートを見て言う。
 
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「あ、でも最初に弾かれたピアノより、次のがいいかなと思いました」
 
「最初に弾いたのはCシリーズの中でもいちばん小さいC1Xですが、やはりこのサイズでは響きに限度がありますね。Cシリーズでも、できたらC3X以上がいいです」
「3X以上ですね」
と言って加藤さんはメモしていた。そんな会話をしながら、私は何だか突然自分でもグランドピアノが欲しくなってきた。でも買ってどこに置こうかな?
 
「後はお父様の懐具合と、お嬢さんの腕とのバランスで。でも数年単位で買い換えるエレクトーンと違って、グランドピアノはメンテさえ良ければ一生物ですからね。懐具合に余裕があったら、良いものを買ってあげてください」
 
「私、薄給ですよ〜。家のローンも抱えているし」
「女装してアイドル歌手とかやって売り出してみます?曲提供しますよ」
「女房から離縁されます」
 
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その日、加藤さんとは楽器店の後で更に喫茶店でコーヒーを飲みながら1時間ほど話してから別れた。帰宅すると、政子が居間のソファの上で下着姿で詩を書いていた。
 
「ああ、冬〜、お腹空いたよ〜」
「はいはい。今御飯作るね。はい、こちらオリーブの弦」
「サンキュー。御飯食べてから張ろうっと」
 
「寝た?」
「うん。ぐっすり寝た。でも冬遅かったね」
「ああ。楽器店で加藤課長と遭遇して話し込んでたから」
「へー。加藤さん、何か楽器するの?」
「娘さんがグランドピアノ欲しいと言ってるらしいんだけど、グランドピアノ自体が良く分かってないんで娘さんとその件で会話が成立しないというので下見と勉強に来たんだって」
「ああ、それで色々教えてあげてたのね」
「うん。アップライトピアノとグランドピアノの違いとか」
 
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「ふーん。アップライトピアノとグランドピアノか・・・・要するに弦を水平に張ってるか垂直に張ってるかの違いかな」
「それが根本にあるけど、結果的にハンマーの構造が全く違う。だから全く別の楽器と思った方がいい」
 
「そんなに違うんだっけ?」
「同じように真ん中に穴が開いた食べ物でもマカロニと竹輪くらい違う」
「それは大きな差だ!」
 
政子には基本的に食べ物で説明するのが理解してもらいやすい。
 
「グランドピアノは1秒間に14回同じキーを押せるけど、アップライトピアノは1秒間に7回しか押せない。テンポ100の曲で言うとアップライトピアノでは16分音符までしか弾けない。グランドピアノは32分音符が弾ける」
 
「だったら、アップライトピアノでは唱歌みたいなのしか弾けないのでは?」
「そそ。だから小学生の音楽の授業で使う用くらいに思っておいた方がいいよ」
「なるほど」
 
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「あと、グランドピアノの真ん中のペダル、ソステヌートペダルに相当する機能がアップライトピアノには無い」
「へー。何かよく分からないけど、機能が無いというのは辛いね」
 
「だからピアノがある程度上達するとグランドピアノがどうしても必要になるんだよね」
「でもグランドピアノ高いよね」
「うん。ヤマハのC3Xの場合でも220万するからね」
「ピアノの上手な娘がいたら、パパも大変だね」
「うん。それで加藤さんも悩んでるみたいで」
 
「あと、狭い家には置けないよね」
「それもあるね」
「うちの防音室には電子ピアノしか置いてないもんね」
「まあ小型のグランドピアノなら入るんだけどMIDIで鳴らせるというのもあってクラビノーバを選択したんだよね」
 
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「クラビノーバとアップライトピアノなら、どちらがいいの」
「絶対的にクラビノーバ。クラビノーバの鍵盤やハンマーはグランドピアノと同じものだから」
「あ、そうだったんだ」
「クラビノーバという楽器はグランドピアノの弦だけを電子装置に置換したものなんだよ」
「そんな凄い楽器だったのか」
「安い電子キーボードとは違うよ。だてに50万もしない」
 
「じゃグランドピアノ置けないような狭い家ならクラビノーバを買えばいいね」
「クラビノーバを買う人の大半はそういう目的だと思う。やはり良い楽器で練習してないと、上達しないんだよね」
 
「ふーん。私がピアノ挫折したのもアップライトの限界かなあ」
「ふふふ。かもね。マーサって結構楽器の本質を引き出すから」
「ヴァイオリンも最初に冬や七星さんと一緒に買いに行った50万のヴァイオリン、1ヶ月で限界に達したからなあ」
「良いヴァイオリンに変えたらマーサの演奏が見違えたね。最初に買ったのは弾き方を思い出すための楽器という感じになっちゃった」
 
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「よし。グランドピアノ1個買って来て少し練習してみよう」
「おぉ」
「楽器店まだ開いてる?」
「もうそろそろ閉まるかな」
「じゃ明日朝から付き合ってよ」
「いいけど」
 

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そういう訳で、私と政子は翌日の午前中、昨日加藤課長と遭遇した楽器店に行った。
 
政子は楽器店に入り、店長さんを見つけると言った。
「お早うございまーす。グランドピアノ1個下さい」
 
ははは。言うと思った。店長さんも政子の突飛な言動にはかなり慣れてきているので、にこやかな笑顔で
「どのクラスがお好みですか?」
と『私』に向かって訊いた。
 
「外国製のスタインウェイとかベーゼンドルファーとかも音がいいけど、やはり耐久性を考えると国産のヤマハかカワイだと思うよ。少し弾いてみる?」
と私が言うと、政子は少しやる気を出して店長に勧められて、ヤマハのC3XとカワイのGX-3で(右手だけで)『猫ふんじゃった』を弾いてみた。
 
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「うーん。ヤマハの方が好きかなあ。響き方がこちらの方が私の好み」
 
「じゃさ、そこのS6Bも弾いてみない?」
と言って私はひとつ上のランクのピアノも勧めてみる。正直なところ実は自分でこれが欲しくなってきていたのである。政子はYAMAHA S6Bの前に座り、やはり片手で『猫ふんじゃった』を弾く。
 
「いい! このピアノ凄く良い!」
「でしょ」
「これ欲しい。冬、買ってよ」
「私が買うの?」
「お誕生日のプレゼント」
「それってまだ3ヶ月先だよ」
「あ?私の誕生日覚えてた?」
「覚えてるよ〜。6月17日午前11時18分だよ」
「よく時刻まで覚えてるな」
 
「まあいいよ。買ってあげるよ。店長さん、このS6Bが欲しいんですけど、納入どのくらい掛かりますか?」
「あ、はい。だいたい3週間くらいかと」
「私、明日欲しいなあ」
「そんな無茶言わない」と私はたしなめる。
「できるだけ早く納入できるように頑張りますから」と店長さん。
「済みませんね」
 
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私が配送伝票にマンションの住所を書こうとしたら
「あ、マンションじゃなくて、家の方に」
と政子が言う。
 
「あそこに置くなら防音工事とかが必要だよ。住宅街だから」
「うん。防音工事よろしく〜」
 
私は頭を抱えた。
「分かった。分かった。じゃピアノ代私が出すから防音工事代の方はマーサ出してよ」
「うん。いいよ」
 
「ピアノのお支払いはどういたしましょうか?」と店長さんが訊く。
「現金で。振込みます。ヴァイオリンやフルートを買った時の口座でいいですか?」
「はい!」
 
私が携帯から振込操作をしていたら政子が
「あれ?意外と安いんだね。50万?」などと言う。
「500万だよ」
と私が笑って答えると
「ひぇー!高そうなビアノだと思ったけど、そんなにするのか」
と驚いていた。
「じゃ、今晩たくさん愛してあげるね」
「はいはい」
 
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店主さんが苦笑していた。
 

防音工事の方は、昨年事務所の移転をした時に防音工事をしてくれた業者に連絡してみたら、うまい具合にキャンセルがあったので来週なら工事ができるということであったので、お願いすることにした。
 
「あ、でも防音部屋を作ったら、ヴァイオリンの練習するのにもいいなあ」
などと政子は言っていた。グランドピアノを置く部屋は今私のエレクトーンを置いている10畳の部屋である。私たちはここを「仕事部屋」と呼び、編曲などの作業をしたり、政子がカラオケで歌の練習をしたりするのに使っていたが、夜間は楽器やカラオケの音楽の音をあまり出さないように控えていた。防音工事をすると、それが夜間でも作業できるようになるので好都合でもあった。
 
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「でも、お父ちゃんたち帰って来たら3部屋占有してるのはまずいよね」
と政子が心配そうに言う。
 
両親が海外に出て不在であるため、4LDKのこの家で、私たちは両親のベッドルームを除いた3部屋を使い、1階の10畳の部屋を仕事部屋、2階の6畳の部屋を私と政子の寝室、4畳半の部屋を物置のようにしていた。お父さんの帰国が決まってから主として片付けていたのが、寝室と物置である。(友人を泊める時は両親のベッドルームを貸していた)
 
「物置にしていた4畳半はもうほとんど片付いているし解放できるでしょ。お父さんたちが6畳の方も使いたいようだったら、私たちのベッドを4畳半の方に移動すればいいよ」
「そうだね」
「あるいは仕事部屋にベッドも置いちゃうか」
「グランドピアノも置くのに入る?」
「計算してみたけどギリギリ入る。グランドピアノ弾いてる時はとても寝られないだろうけどね」
「寝てる冬を起こすのにはいいな」
「猫踏んじゃったで?」
「Are you sleeping, Are you sleeping, My Darling, My Darling,
Morning bells are ringing, Morning bells are ringing.
Ding, dang, dong. Ding, dang, dong.」
と政子は歌って答えた。韻を踏んで Darling にしたようだ。
 
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「なるほど起こすのにはぴったりの曲だね」
 

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