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■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(4)

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戸惑うようにざわめいた観客席も安堵するかのような空気に変わる。
 
「あ、そうか。去勢と帰郷って似てない?」
「似てません。サト、よろ〜」
と言ってサトに合図を送るので笑っていたサトがリズムをスタートさせる。
 
このあと私たちはこの編成で『帰郷』『カントリーソング』『遙かな夢』
『涙の影』『あの街角で』『A Young Maiden』『花模様』『天使に逢えたら』
といった比較的静かな曲を演奏していった。今日のコンセプトはローズクォーツで静かな曲、というもので実は仙台公演に向けての実験の意味合いもあった。
 
「それでは今日のゲスト。オープニングで相馬盆唄の伴奏をしてくださいました、若山鶴音さん、若山鶴風さん、若山鶴声さん、若山鶴里さんです。実はケイの伯母さんたちです」
 
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先程は黒留袖を着ていた4人が今度は全員華やかな振袖を着て出て来た。鶴音さんがタカのマイクを取って発言する。
 
「ね。冬ちゃん、新潟で民謡教室に通って初段の認定状頂いたんでしょ? 
若山冬鶴って名前を用意してるから、うちの一門に来て民謡に転向しない?あんたの母ちゃん、民謡辞めちゃったから、その代わりに」
 
「いえいえ。名前はありがたいですが、私が民謡に転向したらそこの舞台袖に居る人がショック死しますから」
「あらあら、人死にが出るのはまずいわね。じゃ、みんな行くよ!」
 
鶴風さんが胡弓、鶴声さんが尺八、鶴里さんが太鼓を担当して、鶴音さんが三味線の弾き語りで『斎太郎節』を唄い始めた。マイクを取られてしまったタカがマキの所に行って一緒に『エンヤトット』のバックコーラスを入れる。(鶴音さんにマイクを渡そうとしていたスタッフがどうしよう?という感じで悩んでいる風だった)私と政子は自分のマイクで鶴音さんに唱和した。
 
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やがて伯母さんたちの演奏が『会津磐梯山』に移動した所で、私たちふたりとローズクォーツ、コーラス隊は下がる。私たちが休憩している間に伯母さんたちは『チャグチャグ馬っこ』『かんちょろりん節』『常磐炭坑節』『さんさ時雨』
と唄っていく。
 
そして伯母たちはこの民謡楽器の合奏で『キュピパラ・ペポリカ』の前奏を弾き始めた。元々無国籍な歌だが、民謡楽器で演奏すると、まるで日本民謡のようにも思えてしまうのが不思議だ。私と政子は手を取り合ってステージに出て行く。拍手が来る。お辞儀をして、私たちはこの『正調キュピパラ・ペポリカ』
を唄い始めた。こんな演奏は私たちも初めてだったし、観客も当然みな初めてであろう。
 
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(これに刺激されたのかこの年秋の民謡全国大会に本当に『正調キュピパラ・ペポリカ節』で出て来た人がいた。編曲の許諾を求めるメールを頂いてびっくりした。ちなみに民謡の世界で『正調』とは『新解釈』とか『新編曲』といった意味にほぼ等しい)
 
大きな拍手があり、あらためて伯母たちを紹介し、伯母たちは下がった。
 
するとそこに突然鳴り響くパイプオルガンの音色。世界は一転して民謡から教会音楽の世界に転じる。この奏楽堂自慢のパイプオルガンを山森さんが弾く。そばにストップ操作係として仁恵が付いている。私たちはこのパイプオルガン伴奏に合わせて『アコスティックワールド』を歌った。
 
大きな拍手が来て、お辞儀をした後、政子が言う。
「今日は基本的に電気を使う楽器は使わないことにしているのですが、ただひとつ、パイプオルガンだけは例外として使わせていただきます。この楽器は電気使わずに動かそうとしたらパイプに空気を送り込むのにウルトラマンが何十人かで団扇で扇がないといけないらしいです。顔の広いケイに聞いてみたけど、ウルトラマンの友達はいないと言われたので」
 
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客席に笑いが起きるが、政子は例によってなぜ笑われたのか分からない顔をして更にMCを続ける。
「今演奏したのは『アコスティックワールド』という曲ですが、続けてパイプオルガンをフィーチャーした・・・・あれ?フィーチャーだっけ?フューチャーだっけ?」
 
と政子が私に訊くので
「フィーチャーだよ。フューチャーは未来」
と答える。
 
「だそうです。で、そういう訳で『言葉は要らない』聞いてください」
 
政子が話している内に、後方でスターキッズが所定の位置に付きスタンバイする。山森さんのオルガン演奏が始まるのに合わせてギターやドラムスの音も始まり、私たちは1月に沖縄にキャンペーンで行ってた時に書いた曲『言葉は要らない』
を歌った。
 
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「この曲は3月20日に発売になりますので、気に入ったら買ってください」
としっかり宣伝もする。そしてここで伴奏のメンバーを紹介する。
 
「リードギター、近藤」
「セカンドギター、宮本」
「ベース、鷹野」
「ドラムス、酒向」
「ビブラフォン、月丘」
「オルガン、山森」
「トランペット、香月」
「そしてサクソフォン、宝珠。以上スターキッズ&フレンズ」
 
各々に拍手、そして声援が飛ぶ。会場の半分はFM放送での呼びかけに反応して集まってくれたローズ+リリーの熱心なファンである。被災地の各地で人を集めた場合、ローズ+リリーを知らない人ばかり集まってしまい盛り上がりを欠くライブになる危険があると加藤課長が懸念し、それで半分はファンが集まるようなやり方を考えたのである。今回はそれがとてもうまく行っている感じだった。半分のファンに引っ張られて、一般の聴衆もツボで乗ってくれる。座席は新幹線の駅で集めた人たちと、各被災地で呼びかけた人をミックスした座席配置にしている。このあたりも座席指定で客を入れたからできたことだ。
 
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ステージはこの後、このメンバーで『ネオン〜駆け抜ける恋』『夜間飛行』
『Spell on You』『夏の日の思い出』『聖少女』『涙のピアス』『甘い蜜』
『愛の道標』『ハッピーラブハッピー』といったリズミカルなナンバーを演奏し、最後に『事象の夜明け』というやや意味深な曲を演奏してから『影たちの夜』で締めた。
 
拍手の中お辞儀をして全員下がる。幕が降りる。アンコールの拍手が来る。これも半分ファンを入れているから確実にアンコールしてもらえるという確信が持てた。被災地で集めた人たちばかりだと、そういうポップス系コンサートでの「暗黙の了解」が通じるかという不安があったところである。
 
私と政子が出て行く。最初にステージに並んでいた人も全員出てくる。政子がアンコールの御礼を言い、スタンバイする。小春たちがお玉を持っている。私と政子もお玉を持つ。客席から『美味しいサラダ』『食べよう』などという声が掛かる。ドラムスセットの前に座ったサトの合図で曲がスタートする。
 
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「サラダを食べようピンザンティン、美味しいサラダを」
 
というこの曲のサビを歌い、Aメロに突入する。政子は楽しそうにお玉を振りながら歌っている。コーラスの小春と博美もお玉を振り振り歌う。琴絵はお玉でカスタネットを打っている。
 
演奏が終わって政子が「『ピンザンティン』でした」と言って、あらためて演奏者を紹介する。
 
「ドラムス、サト」
「アコスティックギター、リードギター、近藤」
「アコスティックキター、リズムギター、タカ」
「ウッドベース、マキ」
「ファーストヴァイオリン、鷹野」
「セカンドヴァイオリン、香月」
「ヴィオラ、酒向」
「チェロ、宮本」
「グランドピアノ、ヤス」
「ビブラフォン、月丘」
「パイプオルガン、山森」
「オルガン助手、仁恵」
「コーラス、博美、小春」
「パーカッション、コト」
「そしてフルート宝珠、以上ローズクォーツ、スターキッズ&フレンズ、及び私とケイの友人たちでした」
 
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暖かい拍手。
 
「この編成のスコアはケイが書いたんですけど、どういう頭があったらこういう多人数編成のアレンジできるんでしょうか。解剖してみたいです。医療用メス買って来ようかな」
などと言うので
「マジで解剖しないように」
と言う。
「ケイにまだおちんちんが付いてた頃、おちんちんを解剖しようとしたら叱られたなあ。どうせ取っちゃうものなんだから、おとなしく解剖されてれば良かったのに」
などと政子。
 
客席はどう反応していいか分からないような雰囲気(当然例のマリちゃん発言集のサイトに追加された)。
 
しかし政子は客席のそん空気に気付いているのか気付いてないのか分からない感じで、
 
「そしてボーカル、ケイ、および私マリでした」
と言い、全員でまたお辞儀する。大きな拍手が来て、全員袖に下がる。
 
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そこにまたアンコールの拍手が来る。今度は私と政子だけが出て行く。
 
「本当にアンコールありがとうございます。それでは本当に本当に最後の歌です。『Long Vacation』」
 
私がグランドピアノの前に座る。政子は私の左側に立つ。私たちのいつものポジションだ。
 
出会って別れて、また出会ってまた別れて、でもふたりの愛は別れている時もずっと眠って待っている。そういう愛がいつかまたふたりの出会いで再開されるように、今故郷に帰られない人たちも、いつかまた戻れる日々が来る。そしてまた平穏の日々がきっと来る。原爆を落とされた広島や長崎が復興し、あの水俣湾だって今は漁業が復興した。回復には何十年という月日が掛かるかも知れないけど、いつかきっと。。。。私はそんな思いでこの曲を弾き、そして歌った。
 
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最後の和音を弾いたまま私は指をずっとピアノに置いたままにした。一呼吸置いて会場から割れるような拍手。政子に促されて私は立ち上がる。そして一緒に深くお辞儀をした。
 
「瀬を速み、岩に裂かるる滝川の、割れても末に逢はんとぞ思ふ」
と私はマイクに向かって言った。
 
政子が呆れたように
「唐突な発言するのは私の役目。フォローするのはケイの役目。ケイが唐突な発言しちゃダメじゃん」
 
私は微笑んで、さっき『Long Vacation』を弾きながら考えていたことを素直に言った。聴衆が静かに聴いている。
 
「えっと、それでこの話の落ちを付けてよね」
と政子。
「私は歌手だから、落ち代わりに歌を歌います」
と私はホール内の時計を見ながら言った。20:54。ホールの規定で21時までに演奏は終えなければならない。あと1曲だけ歌える。
 
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「ほほお」
「マリも一緒に歌って」
「何歌うの?」
「100時間」
「ああ」
「覚えてる?」
「うん。歌えると思う。懐かしいね。高校時代だったもんね。でもあの曲当時レコーディングした記憶あるけど、その後どうなったんだっけ?」
 
この発言にファンの間にざわめきが起きた。高校時代にレコーディングしたとマリが言っているのに、ファンには初耳のタイトル。このマリの発言はその夜ツイッターと2chで大きく波紋が広がることになる。
「じゃ弾くよ」
と言って私は高校時代にスキャンダルでローズ+リリーの活動が中止を余儀なくされた時に書いた曲『100時間』の前奏を弾く。長いこと私も政子も歌っていなかったが、とんでもない心理状態の中で書いた曲なので、ふたりとも強く印象に残っていた。
 
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私の歌に政子が三度唱で合わせて行く。ローズ+リリーの初期の頃よくやっていた、アルト二重唱の形式である。深い谷底の下から這い上がっていくような不思議な歌詞に観客は聴き入っていた。
 
やがて両手を使ってピアノの左端から右端までドレミファソラ・ドレミファソラで駆け上がっていき、とても高いドの音を余韻を残して弾いて演奏は終了した。
 
私はピアノから立ち上がり、政子と一緒に再び礼をした。拍手のタイミングがうまくつかめずに困っていた感じの観客が一斉に大きな拍手をしてくれて幕が降りた。もう幕が降りている最中に氷川さんが「これで本日の公演は全て終了しました」というアナウンスをした。それが20時59分58秒だったらしい。
 
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ローズ+リリーの公演でサードアンコールまでやったのは数えるくらいしかないが、これがその1回目であった。
 
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■夏の日の想い出・ピアノのお稽古(4)

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