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■夏の日の想い出・けいおん女子高生の夏(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-11-09
 
「ねぇ、けいおん!やろうよ」
 
その夏の出来事は、詩津紅が発した、その一言から始まってしまった。
 

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ボクと詩津紅は高1の5月から高2の6月くらいに掛けて、最初の頃は体育館の用具室で、その後カラオケ屋さんで、一緒に歌を歌っていた仲である。それは高2の夏休みに、詩津紅はコーラス部の練習が忙しくなり、ボクはローズ+リリーを始めてしまったことから自然消滅してしまったのだが、ローズ+リリーの活動が休止状態になってしまった後、ボクが詩津紅の推薦もあって「本来女子だけの」
コーラス部に入ることで、彼女との交友はまた続いて行っていた。
 
そしてその日、ボクたちはコーラス部の練習が終わってから、数人の2〜3年生で町に出て商業ビルのベンチに座り、自販機のジュースを飲みながら、おしゃべりしていた。
 
「バンドやるの?」と風花が訊く。
「まあ、似たようなものかなあ」
「じゃ、ギター・ベース・ドラムス・キーボードみたいな?」
「うん。基本はそんな感じ。女の子だけで構成してやってみない?」と詩津紅。
 
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「それやるならキーボードは美野里で決まりね」と聖子が言う。
「えー?」と本人は言うが、「美野里以上うまい人なんて、超々プロしかいないもん」聖子。
「何それ?」
「だって、プロの冬様より更に上手いから美野里は超プロだよ。美野里より上手い人がいたら超々プロ」と聖子は説明する。
 
「私程度に弾くプロはざらにいるけど〜」とボクは笑って言う。
「あ、私、ギターやってもいいかな。私ギターもベースも持ってるし貸すから誰かベース弾いてよ」と来美。
「じゃ、貸して。私ベースやるよ」と聖子。
 
「風花先輩、フルート吹けますよね?」と来美が言う。
「うん、まあ」
「じゃ、風花先輩はフルートっと。詩津紅先輩はそもそも何やるんですか?」
「私は指揮者で」
 
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「軽音楽に指揮者っているんだっけ?」
「あまり聞かないなあ。楽器は何もしないんですか?」
「詩津紅はクラリネット吹けるよ」と風花。
「あ、じゃそれやりましょうね。クラリネット吹いてリーダーなら、ベニー・グッドマンだ」
「ああ、ジャズやる?」
「それもいいかもね」
 
「ドラムスは真弓を誘いましょうよ。彼女中学生の時バンドやっててドラムス叩いてたんですよ。家にドラムスセットあるし。本当はお兄さんのだけど」
と来美。
「じゃ、その勧誘は来美ちゃんに任せた」と聖子。
「OK。誘ってみる」
 
「だけど時間あるの〜? 2年生はまだいいとして3年生は受験があるし」
「いや、昨夜雑誌見てたら、7月19日に軽音楽部のフェスティバルがあるらしいのよ。それに出たいなって気がして。だからそれまでの期間限定」
と詩津紅。
 
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「うーん。それならまだいいか」
 
「あ、冬様のパートがまだ決まってない」と聖子。
 
「あ、私は元プロだからパスで」
とボクは言ったのだが
 
「フェスティバルだから関係無いですよ」
「えっと・・・あ、それに私、男の子だから。女の子だけでやるんでしょ?」
 
「私は冬子は女の子だと思ってるよ」と詩津紅。
「冬様〜、自分は女の子だからと言って私を振っておいて、今更男の子だとか無いです」と聖子。
「あ、そういえば私も自分は女の子だからと言って振られたんだった」
と詩津紅。
 
「冬子先輩、そんなに女の子を泣かせてるんですか?」と美野里。
「えーっと・・・」
「私の見解でも、冬子は女の子だよ」と風花。
 
「じゃ、冬子先輩も参加でいいですね?」と来美。
「うん、まあいいよ」
 
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「でもパートは何をしてもらおう」
「冬子は、ギター・ベース・ドラムス・キーボード・クラリネット・ヴァイオリンが弾けるはず」と詩津紅が言う。
 
「あ、ドラムス打てるならドラムスやります?」
「無理無理。音出せるというだけで。私腕が細いからテンポキープしきれないし」
 
「じゃヴァイオリン入れる?」
「いや、今固まりつつある構成ならむしろ木管楽器入れたい」
「フルート、クラリネットが入ってるし、あとはオーボエ?」
「吹けない、吹けない」
「クラリネット吹けるならオーボエも吹けるでしょ?」
「違うよ〜。オーボエの方が遥かに難しい」
「そうだっけ?」
「うん。逆にオーボエ吹きは割と簡単にクラリネット吹ける」と風花。
 
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「あ、分かった。この構成はあとむしろサックスが欲しい」
「吹けな〜い」
「練習すればいい」
「サックスはクラリネットと同じシングルリードだから練習すれば何とかなるよ。アルトサックスはブラスバンド部から借りれると思う。結構備品在庫あるから。マウスピースだけ買えばいいよ」
「うーん・・・」
 
「あ、それかイーウィーにする?」と風花。
「何それ?」
「電子サックスって言うのかなあ」
「ああ、ウィンドシンセサイザーか!」
「そうそう。イーウィーはアカイから出てる縦笛型のシンセでさ。ソプラノサックスみたいな形してるの。でも電子式で指の力も息の量も要らないからピアニカ吹けるならイーウィーも吹けるよ」
と風花は言う。
 
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「へー。ピアニカ程度なら少し練習してもいいかな」
「学校には在庫無いから使うとしたら買うことになるけど、冬なら買えるよね?」
「いくらくらい?アルトサックスくらいの値段?」
 
「あんなに高くない。確か8万くらい」
「じゃ、買ってもいいよ。でもそれ音源とか別売り?」
「内蔵してる。電池も内蔵してるから、屋外でも気軽に使える」
「へー、面白そう」
 
「よし。これでパートは決まったね」と詩津紅。
「えっとえっと整理しよう。ギター来美、ベース聖子、ドラムスは真弓ちゃんを勧誘、キーボード美野里、フルートを私が吹いて、クラリネット詩津紅、サックス冬」
と風花がまとめてくれた。
 
「あ、リズムセクションが2年生で木管が3年生と、きれいに別れましたね」
「まあ、リズムセクションがボロボロならどうにもならないから、時間のある2年生に練習は頑張ってもらおう」
 
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「ねえねえ、名前も付けようよ」と聖子が言うと、詩津紅が
「リズミック・ギャルズ」と言う。
 
「どこからそういう名前が?」
「何となく」
「じゃ、リーダーが言うんだから、それで」
「了解〜」
 
「服装とかどうするの?」
「女子高生っぽく制服で行こうよ。うちの制服可愛いし、女子高生の夏制服で軽音楽って、格好いい気がする」
「冬子の服は誰かから借りようかな」と風花が言ったが
 
「あ、それは心配無い。冬子はちゃんと自分の女子制服を持ってる。実は結構校外では着ている」
と詩津紅が言うと
 
「えーーー!?」
とみんな驚く。
 
「だったら、その服を着て学校にも出てくればいいのに」
「あ、えっと・・・」
「1年生の時は結構それで出てきてたんだけどね」
「へー!」
 
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そういう訳でコーラス部の子たちを中心とする、軽音楽サークルが誕生し、7月19日までの1ヶ月間限定で活動することになる。そして演奏の時のスタイルは女子制服夏服と決まり、ボクはみんなの前でそれを着ることになるのである。
 

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ボクは取り敢えず風花お勧めの「イーウィー」ことAKAI EWI4000s を買ってくることにした。。。。が近くの楽器店に行っても置いてない。
 
それで★★レコードの秋月さんに電話して聞いてみると売っている楽器店を調べてくれたので、それで調達することができた。
 
お店の人は「ウィンドシンセなさるんでしたら、むしろヤマハのWX5の方がサックスと同じ感覚で吹けますよ」などと言う。
 
「いや、私、サックス全然吹けないので。私元々キーボード弾きなんですよ」
「ああ、それならEWIの方が馴染みやすいかも知れないですね」
 
ちなみに小学生ボカロイド「歌愛ユキ」のランドセルに、まるでリコーダーでもさしてあるかのように、ささっているのがWX5である。
 
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ということで私は EWI4000s を買ってきて、説明書を読み、吹いてみようとしたのだが・・・・
 
「接触式」という音の出し方に戸惑う。
 
リコーダーや篠笛なら笛の穴を押さえるし、フルートやクラリネットならキィを指で押さえて音階を吹くところを、EWIという楽器は、指で触って音を決めるようになっている。運指はリコーダーとかに近い運指で良いのだが、押さずに触っただけで音が変わるというのが最初とても変な感じがした。
 
「えーん。風花の嘘つき〜。ピアニカとは全然違うじゃん」
 
楽器屋さんが言ってたWX5なら、生のサックス同様指で押さえて音を変える仕組みになっている。だからサックスが吹ける人はそちらが良いのだろう。しかしサックスでしっかりキィを押さえきれないボクにとっては、確かにこちらの接触式の方がまだマシかもという気がした。
 
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「ヌード写真撮りたい!」
 
詩津紅の「けいおん、しようよ」も唐突だったが、政子のこの発言もホントに唐突だった。ボクは政子のお母さんがちょうど買物に出ていて良かったと思った。
 
「誰のヌード写真撮るの?」とボクは訊いてみた。
「もちろん私のヌード写真を誰かに撮ってもらうのよ」
「ふーん。それでヌード写真集でも発売するの?」
「それもいいなあ」
 
「でもさすがにお父さんが仰天してまたタイから飛んで帰ってくるよ。そしてそのまま有無を言わさずタイに強制連行」
「それはやばいな」
 
「なんでまた突然ヌード写真などと」
「ほら、先週、鈴懸くれあちゃんがヌード写真集出したじゃん」
 
と言って、政子はその写真集を本棚から取って来た。
 
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「きれいだよね〜」と言ってページを開いてみせる。
「ああ、いい身体してるね」
「19歳だもんね〜。やはりヌードって若い内に撮っておくべきだと思わない?」
「そうだね〜」
 
「よく落ち目になったタレントさんとかが30歳くらいでヌード写真集出したりするけどさ。19歳のヌードにはかなわないよ」
「ま、それは言えるけど、グラビアアイドルとか以外で、19歳でヌードを晒しちゃう人はレアだよね。くれあちゃん、よくやるよ」
「今物凄く売れてるみたい。私も買ってきたけど、うちのお母ちゃんも買ってきたんだよ」
「2冊あっても仕方無いね」
「冬、一冊持ってく?」
「いや、うちもお母ちゃんとお姉ちゃんが1冊ずつ買ってきた」
 
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「やはり。誰か私のヌード写真撮ってくれないかなあ」
「今ボクたちどこの事務所とも契約してないから難しいね。あとどっちみち、高校生はヌード写真集とか出すのは禁止だよ」
「あ、そうなんだ?」
「原則18歳以上だけど、高校在学中はダメってことになってる」
 
「ちぇっ、つまらないなあ」
と政子は言っていたが
「ね、出版しなきゃいいんでしょ?」
と言い出す。
 
「うん、まあ」
「冬、いいカメラ持ってたじゃん。あれで私のヌード撮ってくれない?」
「でもどこで?」
「写真スタジオを貸し切りにすればいいんじゃない?」
「ああ、それならできるだろうね」
 
「でも屋外でも撮影したいなあ。公園とかでさ」
「それは難しいと思う」
「人がいない時にさあ、さっと撮ってさっと逃げればいいんじゃない?」
「いや、それやってて、後でバレて公然猥褻罪で捕まった人いたよ」
「面倒くさい世の中だなあ」
 
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その週ボクは KARION の音源制作をやっていて、放課後はずっとスタジオに入っていたので軽音サークル「リズミック・ギャルズ」の方の練習には全然出て行けなかったのだが、スタジオでの自分の出番の待ち時間に、ボクはずっと EWI をいじっていた。
 
「あれ? 蘭子ちゃん、今回はウィンドシンセ吹くの?」
とバンドの人から訊かれる。
 
「いえ、吹きません。友だち同士で軽音楽やろうと誘われて、私ウィンドシンセの担当になったので、昨日買ってきて練習してるんですけど、なかなかうまく行きません」とボク。
 
しかしバンドのサックス担当の人が笛全体の持ち方とか、口の使い方などを少し教えてくれたのが結構参考になった。
 
「フリーのアーティストという強みを活かして色々やってるな?」
と和泉。
「へへへ。日曜日にはコーラス部の大会でピアノ弾いたよ」
「私もアマチュア時代、もっと楽しんでれば良かったなあ」
 
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この KARION の音源制作中に、ローズ+リリーのアルバム『長い道』が発売された。ボクは KARION の3人と畠山さんには、特別サイン入りのCDを贈呈した。
 
「ね、このサイン入りCDって、レアだよね?」と畠山さん。
「ええ。22枚しか存在しません。サイン色紙は300枚書きましたが」
「おお!お宝だ!」
 
このローズ+リリーのサイン入り『長い道』は、★★レコードの許可を取って特に感謝したい人に、ボクと政子が個人的に贈ることにしたもので、全て2人でサインしたものである。
 
その内の3枚はレコード会社を通じて上島先生・下川先生・雨宮先生に贈呈した。1枚はボクと政子から個人的に町添部長個人に贈呈し、1枚はその町添部長の名前でタイにいる政子の父に送ってもらった。また津田社長に頼まれて3枚渡したが、その内の1つは浦中部長に、そしてもう1枚は密かに須藤さんに送られたことを、後日津田社長との直接の電話でこっそり聞いた。(以上8枚)
 
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メッセージカードを添えて郵送したのが、盟友ともいうべき XANFUS の2人と友人兼ライバル的存在でもある AYA、(以上3枚)そして個人的な友人であるリナ・有咲・若葉、仁恵・琴絵・奈緒・詩津紅(以上7枚)である。仁恵・琴絵・奈緒・詩津紅は学校でも渡そうと思えば渡せるのだが、見られると他の子からもサインをねだられる可能性があるので、敢えて郵送した。当時校内でボクらは基本的にサインには応じない方針にしていた。
 
そして最後にボクが手渡したのが KARION の3人と畠山さんであった。
 
(後にファンなどから頼まれてサインした分は数十枚あるが、使用したサインが異なる。また、この22枚はボクが描いたケイとマリの似顔絵付きである)
 
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夏の日の想い出・けいおん女子高生の夏(1)

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