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■夏の日の想い出・けいおん女子高生の夏(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-11-10
 
ということでボクはウィンドシンセを持って、女子制服姿で雨宮先生と一緒に夕方の街に繰り出したのである。
 
カラオケ屋さんでは、飲み物(モーリーさんは水割り、ボクは茉莉花茶)と適当に食べ物を取りながら、2年前と同じように対決をした。
 
お互いに適当な数字を打ち込んで曲を呼び出すが、ボクが呼び出した曲は雨宮先生が歌い、雨宮先生が呼び出した曲はボクが歌う。
 
ボクは本当にランダムに呼び出していたのだが、雨宮先生は何やらメモを見ながら打ち込んでいる。
「モーリーさん、カンペですか〜?」
「私の中高生時代はアンチョコって言ったんだけどね。あんたたちは知らないよね?」
「あんちょ?」
「アンチョコ」
「済みません。知りません」
「まあ、時代は変わっていくわねえ」
 
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雨宮先生が呼び出したのは主として昭和30年代くらいの歌謡曲だった。演歌とポップスが分離する前の時代の歌だ。
 
『高校三年生』から始まって『南国土佐を後にして』『ここに幸あり』『王将』、『銀座の恋の物語』『こんにちは赤ちゃん』『リンゴ追分』と続く。
 
「ケイちゃん、歌にビブラート掛けないよね」
「はい、それ嫌いです」
「うん。それでいいと思う。30歳くらいまではそれで押し通しちゃいなよ」
「ええ」
「但しビブラート掛けない場合、より正確な音程が要求されるからね」
「ええ。それで自分を鍛えています。でも民謡ではちゃんとコブシ回しますよ」
「へー。何か歌ってみて。カウント外」
 
と言うのでボクは『信濃追分』を唄ってみせる。
 
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「浅間根腰の焼野の中でヨー、あやめ咲くとは、しおらしや」
「追分の枡形の茶屋でヨー、ほろりと泣いたが、忘らりょか」
 
雨宮先生が拍手をしてくれる。
「すげー。ちゃんと民謡のコブシだ。なんでそんなの出来るの?」
「私の祖母が民謡の名人だったので。今は伯母が継いでますが」
「私も知ってるような人?」
「さあ、高山の田舎ですから。祖母は若山鶴乃という名前で歌ってました。伯母は若山鶴音という名前で活動してます」
 
「若山鶴音さん会ったことあるよ」
「えー!?」
「あんた、あの人の姪だったのか。あの人もパワフルだけど、ケイちゃんもパワフルだもんね。お母さんも民謡やるの?」
「民謡の先生の免許は持ってますが、私母が民謡を唄ったり三味線を弾いてるところ見たことありません。イヤイヤやらされてたとかで。そもそもうちには三味線も無かったし」
「あはは」
 
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その後は古い洋楽をかなり歌わされた。
 
『Aquarius』『Close to You』『Stop! In the Name of Love』
『Save The Last Dance For Me』『Can't Take My Eyes Off You』
そして最後は『Parties In A PentHouse』。
 
「ほんと、ケイちゃんって何でも歌えるなあ。私のBGM歌手に欲しいわ」
「モーリーさんの後ろでずっと何か歌ってるんですか?」
「そうそう」
「お給料によっては考えてもいいです」
「ベッドの中のお相手込みで、月200万とかでどう?」
「ベッドの中のお相手ができないので却下です」
「うふふ」
 

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カラオケ対決は私の圧勝で、ウィンドシンセの教授料は『甘い蜜』のCDへのサインで済ませてもらった。
 
取り敢えず吹いてみてと言われて明日のフェスティバルで吹く予定の『Omens of Love』
を演奏する。
 
「ケイちゃんの演奏って歌と同じで凄く正確」
「はい」
「でも単に正確に吹くだけならMIDIソフトにでもできるからね」
「そうですね」
 
「私、もっと基本的なことを教えるつもりだったのに、さっきまでの歌を聴いて少し欲が出てきたわ。もっと表情に気をつけて吹いてみよう」
「表情ですか?」
 
「Omens of Love って何?」
「恋の前兆。予感とでも言うんでしょうか」
「そうそう。恋が始まるかも知れないって時、どんな気持ちになる?」
「えっと・・・あまりそういう恋ってしたことなくて。いつも相手から突然告白されること多くて」
「あぁ・・・私と似たタイプかな。ちょっとアセクシュアルっぽい?」
「そうかもです。性欲とかほとんど無いので」
 
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「でも想像はできるでしょ?恋に心をときめかせる女の子の気持ち」
「ええ。何となく」
「そういう子の心情を歌ったのが、このOmens of Love でしょ?」
「そうですね」
「じゃ、そういう子がどういう気持ちで相手への思いを歌うのか、というのを考えたら、さっきみたいな吹き方にはならない筈なのよ」
「ああ」
 
「よし、再度吹いてみよう」
「はい」
 
ボクは自分が誰か素敵な男の子に憧れてドキドキした気分で相手の姿を見る様子を想像しながら演奏してみた。
 
「うん。少し良くなった」
「はい」
「今は心の中に恋心を持ってたよね」
「ええ」
「今度はそれを相手に伝えるような気持ちで。目の前に素敵な彼がいるのよ。ケイちゃん、今からその子に告白するの。やってごらん」
「はい」
 
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告白するような気持ちで・・・・ボクはそんな気持ちを心の中で疑似再現しながら演奏してみた。
 
「うんうん。かなり良くなった」
 
そんな感じでその日の雨宮先生の指導は22時近くまで続いていったのであった。
 

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翌朝。ボクは普段通り!女子制服を着て、ウィンドシンセを入れたリュックをしょって出かけた。父が寝ている内にボクが女の子の格好で出かけるというのは中学3年頃から定着したパターンなので、母も「あ、いってらっしゃい。気をつけてね」などと言って普通に見送ってくれる。
 
集合場所に集まり、練習場所に指定された体育館で合わせる。ここはドラムスは使えずアンプも使用禁止ではあったが、美野里のキーボードに合わせて3年生3人の木管楽器がしっかりメロディラインを演奏すると、けっこう良い雰囲気だ。
 
「冬〜、昨日吹いた人とは別人だ」
と風花から言われる。
「そう?」
「うんうん。冬様、凄っくうまくなってる」と聖子。
「昨日の夜特訓したの?」と詩津紅が訊く。
 
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「うん。特訓した。日本でも五指に入るサックスプレイヤーさんに偶然遭遇してカラオケ屋さんで2時間。授業料100万円とか言われたけど」
「えー!?」
「でもローズ+リリーのサインでまけてもらった」
「おお。でもローズ+リリーのサインは希少だから、100万払うって人いるかもよ」
「ついでに月200万で愛人にならないかって言われたけどね」
「おぉ」
 
「で愛人契約するの?」
「まさか」
「私、毎月200万くれるなら愛人になってもいいなあ」
 
「ところで、冬、この制服は誰から借りたの?仁恵ちゃん?」と政子が訊くと「ああ、それは冬の自前だよ」と詩津紅が言っちゃう。
「えーー!? 冬、自前の女子制服持ってたの?」
「うん、まあ」
 
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「なーんだ。だったらうちでやってる勉強会にもそれでおいでよ」
「いや、そのあたりは色々と事情が」
 
「むしろ冬は学校にも女子制服で出てくるべきだよね」と詩津紅は更に言う。「賛成」と聖子や来美・風花などが声を揃えて言った。
 
「取り敢えず明日の補習には女子制服で」
「あはは、勘弁して〜」
 

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やがてボクたち「リズミック・ギャルズ」の出番が来る。今日のフェスティバルの出演者は80組。1組に割り当てられた時間は6分で、その間に設置して、演奏して、撤収しなければならない!
 
ボクたちは前のバンドの演奏が終わり撤収作業を始めたのと同時に機材を手分けして持ってステージにアバウトに設置。ドラムスもみんなで設置する。
 
ドラムスを設置する場所は2つ作られていて、交互に使うようになっているので、前のバンドが片付けているのと並行してこちらの設置をすることができた。
 
マイク、アンプの線の接続を確認。音を出してボリュームの確認をする。見守っていた司会者の人に「OKです」のサインを送ると、司会者の人が
 
「それでは次は都立◆◆高校、軽音楽サークル、リズミック・ギャルズです」
と言ってくれる。拍手が来る。
 
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詩津紅がスタートの合図をする。
 
リズムセクションが前奏を始める。フロントに並ぶ木管セクション3人で顔を見ながらリズムを取る。ドラムスワークがスタートし、キーボードが小気味の良いプリ・メロディーを弾き、それに続いてボクと風花と詩津紅が一緒にメインメロディーを演奏し始める。ボーカルの政子が歌を歌い出す。
 
「遅刻しそうになって慌てて、パンを咥えたまま走る」
「曲がり角で、ぶつかりそうになった君、爽やかな笑顔」
「これは恋の予感! 思わずお嬢さんスマイル」
 
政子は楽しそうに歌っている。ステージで歌うというのは12月のロシアフェアでのステージ以来、半年ぶりの体験だ(後で確認したら218日ぶり)。ああ、いいななどと少し羨ましく思いながらボクはウィンドシンセを吹いていた。
 
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演奏をしている内に、観客席の一部でちょっとイレギュラーな動きが発生したのを感じた。ああ「マリが歌っている」というのに気付いたなと思った。このイベントがカメラ持ち込み禁止、撮影禁止なのが良かったと思ったが、携帯の液晶が光るのに気付く。若干撮られたようであったが、撮影しようとして場内のスタッフに止められている人もいる。
 
しかしそんな動きは気にせず政子は満足そうに歌を歌いきった。
 
そして演奏終了! 拍手が来て、ボクらは急いで撤収作業に入った。
 

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機材は聖子のお父さんと詩津紅のお父さんが出してくれた車で運ぶのだが、ボクたちはまだ解散せずに近くのショッピングセンターに行き、ハンバーガーショップで打ち上げをした。
 
「でも気持ち良かった〜」
と誰からともなく声が出る。
 
「観客4000人くらいいたよね」
「コーラス部でもこんな人数の前で歌ったこと無いね」
「冬様は去年のロプリのツアーではもっと大きな所で歌ったことあります?」
と聖子が訊く。
 
《ロプリ》というのも《RPL》同様《ローズ+リリー》の略称のひとつだ。
 
「一番大きかったのは東京スターホールかな。あそこは3200人だから今日の方がたぶん人数多かったよ」
「へー」
 
「でも気持ち良かった。また歌いたいなあ」と政子が言うと
「ぜひ、冬子先輩とふたりで歌ってください」と来美が言う。
「でもお父ちゃんと歌手辞めるって約束しちゃったからなあ」と政子。「じゃ、もうローズ+リリーは復活しないんですか?」と聖子が訊く。
「政子が歌手辞めると思ってるのは、この世界中で政子のお父さんだけだよ」
とボクは言う。
「本人としては?」
「やる気180%」とボクは言うが、政子は微笑んでいる。
 
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「歌いたいけど、まだローズ+リリーとして歌えない気もするのよね。12月のトラブルで、私の心の中のローズ+リリーが壊れちゃったの。でも冬のお陰でそれを再度作り直すことはできたんだけど、まだ芽が出たばかりって感じで、花が咲くところまで辿り着いてないのよ」
「ああ。。。何となく分かる」と美野里。
 
「じゃまだ双葉くらいの感じ?」
「そうそう。若芽とか双葉とか。私さあ、当時凄く歌が下手だったから。って今でもかなり下手だけどね。こんな歌をお金を取って聞かせるなんて犯罪じゃないかって気持ちがあって。あの事件が起きなくても、そのプレッシャーで潰れてしまってた気がするんだよね。だから12月までのローズ+リリーは私の中では消滅済み」
 
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「でも政子先輩の歌、うまいですよ」と聖子。
「自宅にパソコンカラオケ入れて歌うようになってから結構成長したよね」
「ふふ」
 
「ローズ+リリーとしてまだ歌えないなら、『ローズ+リリー・ジュニア』
みたいな感じで歌えばいいのかなあ」
「それじゃ、私と政子の子供たちが作ったユニットみたい」
「あ、冬子先輩と政子先輩で、やはり子供作るんですか?」
 
「私は既に生殖能力無いよ〜」とボクは言うが
「こっそり搾り取って子宮に注入するから大丈夫」などと政子は言う。
「ああ、すごーい。搾り取るのか」
 
「冬ちゃん、まだタマはあるの?」などと風花がダイレクトに訊く。
「もう取っちゃおうかと思ってたんだけどね〜。お父ちゃんと高校卒業するまでは手術はしないって約束しちゃったからなあ」
「へー」
「冬は性転換手術の予約まで入れてたんだけどね」と政子。
「入れてないって。なんでそういう話になってるんだろ?」とボクは笑って否定する。
 
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「あ、分かった」と聖子が言う。
「ジュニアというより、スプラウトくらいじゃない?」
「ああ、いいかもね」
「そうだなあ。ロプリ・スプラウトみたいな感じで、CD作っちゃおうかなあ」
と政子は言い出す。
 
「ああ。CDいいね」
 
「そうだ! 私たちの今日の演奏もCDとかにできないかな?」と来美。
「スタジオ借りて録音する?」
「いくらくらい掛かるんだろ?」
「ああ、スタジオ代くらい、ボクがおごるよ」とボクは言った。
「よし! スタジオ行こう」
「今から?」
「せっかく機材持ち出してるしね」
 

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ボクは山鹿さんのスタジオに電話を入れてみた。するとプロ用スタジオなら空いているということだったので、そこを予約した。
 
機材を乗せてもらっている聖子のお父さんの車と詩津紅のお父さんの車に乗ってスタジオまで移動する。最上階のスタジオに行く。
 
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