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■夏の日の想い出・女子制服の想い出(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2012-10-28
高校1年の春、ゴールデンウィーク。ボクは中学の陸上部のOGのグループで高尾山に登った。その時、ボクはみんなに生徒手帳を見せたが、そこには高校の女子制服を着たボクの写真が転写されていた。
「ちゃんと女子高生してるじゃん!」
「なんでこういうことになってる訳?」
「うん。入学手続きに行った時に『この部屋に行って下さい』と言われて行った部屋が女子の制服の採寸をされる部屋でさ。その場で詩着用の制服を着せられて写真撮られたんだよね。それがなんと、生徒手帳用の写真だったというのは、この生徒手帳を受け取ってから知った」
「ああ、冬の場合、よくあるパターンだ」
「じゃ、女子の制服を作ったの?」
「ううん。作ってないよ。採寸はしてもらったけど注文してないから」
とボクは言ったのだが、絵里花が
「よし。私が冬の家族を装って電話して注文入れてしまおう」
と言った。
「ちょっとぉ」
その絵里花の言葉は、ボクはてっきり冗談だと思っていたのだが、冗談では無かったのである!!
5月の中旬のある金曜日。ボクが(学生服姿で)学校から帰ると、母が
「冬。○○○屋さんから、制服の夏服ができましたって連絡が来たんだけど」
と言う。
「へ?何それ?」
「あんた、夏服の制服頼んだの?」
「えー?」
と言ったものの、すぐに絵里花の仕業だと直感した。
「ごめん。それ、ボクの友だちの悪戯だと思う」
「きつい悪戯する友だちがいるもんだね」
「ボクが制服の採寸はしたけど、注文してないって言ってたから、それなら自分がボクの家族を装って注文を入れてやるよ、なんて言ってたんだよね。てっきり冗談だと思ってたのに。ホントにするとは。たぶん時期が時期だから夏服の注文として処理されちゃったんだろうね」
「どうする?事情を話してキャンセルする?」
「いや・・・制服はボクの寸法に合わせて作ってあるし、名前の刺繍も入ってるだろうから、それキャンセルするのは申し訳無いよ。ごめん。お母ちゃん。その制服の代金貸してくれない?バイト代が入ったら返すから」
「あんた、その服着たいの?」
「・・・・うん」
と言ってボクは頷く。すると母は少し考えるようにしてから
「だったら、子供の制服代くらい、親に出させなさい」
と言った。
「うん。ありがとう」
とボクは微笑んで言った。その時、母がドキっとしたような顔をした。
「え?どうかした?」
「いや・・・今の冬の表情って、凄く女の子っぽかった」
「えー? ボクっていつもこんなもんじゃん」
「・・・そうかもね」
と言って、母も笑顔になった。
ボクは母に言われてカジュアルで中性的な服装(水色のポロシャツに、黒いハーフパンツ)に着替えて、一緒に町に出た。中性的な服装とは言われたけど、下にはちゃんとブラとショーツを着けている。ブラ線も見えているが、母はそれは見ても見ぬ振りをしている感じだった。
衣料品店に行き、名前を言って夏服の女子制服を受け取る。
「試着してみられますか?」
「あ、はい」
ということで、試着室でボクはその制服に袖を通した。とても可愛いデザインのブラウスにリボン、そしてチェックのスカートである。
試着室内の鏡で見てみる。
わあ・・・・いいなあ。
カーテンを開けて母にも見せる。
「へー。可愛いね」と母は笑顔で言う。
「うん。うちの高校の制服って可愛いよね」とボク。
「◆◆高校は以前はけっこう古めかしい制服だったのですが、5年ほど前に当時はまだ無名に近かった若手デザイナーの安芸千紗登さんがデザインして一新されたんですよ。OBの中には制服変更を嘆く人も多かったのですが、生徒たちには好評で、元の制服をそのまま卒業まで着ても構わなかった在校生でも、3割くらいが新しい制服を作りましたね」
と対応してくれた副店長さんは説明する。
そしてウェストの余裕や、スカート丈をチェックして
「寸法は問題無いようですね。ウェスト、あるいはもう少し余裕あった方が良かったですか?」
「ダイエットするから大丈夫です」
「タックがあるので、増やす方は70cmまでは行けますから」
「詰める方はどのくらいまで大丈夫ですか?」
「詰める方はけっこう行けますよ。59でも57でも53でも」
「さすがに53までダイエットする自信は無いかな・・・」
「あなたそもそも身長があるから、今のウェストでも充分細いと思いますけどね」
と副店長さんは言った。
自宅に戻る車の中で母が訊いた。
「あんた、冬服の方も作る?」
「あ、えっと。今から作っても衣替えになっちゃうから、秋にまた考える」
「そうだね」
「じゃ、6月になったら、その服で学校に通うの?」
「ごめーん。まだそこまでの心の準備が無いから、それも少し考えさせて」
「ふーん。まあいいけどね」
「ごめんねー。お金使わせておいて」
「だけど、あんた中学の時は女子制服で通ってたとか言わなかった?」
「えへへ・・・」
そうしてボクは「唐本」という名前の刺繍が入った高校の女子制服夏服に頬ずりしてから、自分の部屋のビニールロッカーの中に収めた。隣に掛かっている中学の女子制服冬服はクリーニングに出してから、(既にクリーニングしてしまってある)中学の夏服と一緒にしまっておこうかな、と思った。
そして衣替えになる6月1日が来る。この日は金曜日であった。
ボクは朝の補習に出るのに、ご飯を食べた後、学生服を着ずに、ワイシャツとズボンだけの格好で、カバンとスポーツバッグを持って部屋から出てきた。
「ふーん。それで行くの?」と母。
「うん。御免ね」とボク。
「ああ、今日から衣替えか」と珍しくこの時間までいる父。
「素直じゃないね」と姉は言った。
電車に乗ると、同級生の女子に会った。
「おはよう」「おはよう」
と挨拶を交わす。夏服の女子制服を着ている彼女がボクはまぶしかった。
何気ない会話をしているうちに電車は駅をひとつふたつと進んでいく。電車を降りて学校へ歩いて行くと、更にたくさんの夏服女子制服を着た子たちと遭遇する。ボクは彼女たちと挨拶を交わし、普通におしゃべりしながらも、次第に自分を抑えきれないような気持ちになっていった。
放課後。
ボクはとうとう我慢出来なくなった。荷物を持って、1階に降り、職員室から廊下を経て少し入り込んだ所にある面談室の所に行き、その中のひとつの個室に入る。そこでボクはスポーツバッグから実は持って来ていた女子制服の夏服を取り出し、さっと身につけた。ワイシャツとズボン、下着隠しに着ていた灰色のTシャツはスポーツバッグに収納する。
最初に1階の女子トイレに入り、鏡の前でセルフチェックする。変な所・・・無いよな? 少し髪が乱れていることに気付き、カバンの中に入れているポーチから折り畳みのブラシを出して髪を梳いた。白い制服の生地を通してブラの紐も見えている。男子の格好をしている時は下着の線を隠しているが、女子の制服を着ていると、ブラ紐は当然そこにあって良いものと思える。
しばし自分に見とれながら髪を整えていたら、他の女子生徒が入ってきたが、ボクの心は特に乱れなかった。
その後、図書館に行く。ちょっとだけドキドキ。まあ知ってる子に会ったら、その時だよなあ。
新着図書のコーナーに面白そうな本があったので、取ってテーブルに座り読んだ。30分ほど読みながら時々ノートにメモを取る。しかしそのくらいの時間、人のいる場所にいたことで、ボクはだいぶ「女子制服を着ている」という状態に心が慣れてきた。
その本を返してから館内を少し歩き回り本を物色する。そのうち、4月に入学して間もない頃に図書館に来て「生徒手帳違いますよ」と言われて、借りられなかった本に気付く。ボクは微笑んでその本を取ると、カウンターの所に行った。
「これ借ります」と女声で言う。
図書委員の男の子がボクの生徒手帳をスキャンする。モニターに冬服の女子制服を着たボクの写真が表示される。続けて図書をスキャンして、帯出の手続きをしてくれた。
ボクは「ありがとうございます」と言って、本をカバンに入れ、図書館を出て、そのまま校門に向かった。
こうしてボクは女子制服で主として図書館に出没することを始めたのだった。
男子の格好をしていた時は、電車の自動改札で赤いランプがつく度に「咎められないよな?」と内心ビクビクしていたのだが、女子制服を着ていると逆に赤いランプがつくことで、自分のアイデンティティを追認されるような気分になった。
「ただいまあ」
と言って、ボクが女子制服のまま自宅に戻ると、母が一瞬ぎょっとしたような表情をした。
「その服に着替えたんだ?」
「うん。放課後になってからね」
「へー」
「まだこれで授業に出る勇気は無いかも」
「あんた胸があるね・・・」
「あ、これシリコンパッド」
と言って、ボクは胸元に手を入れ、左側のパッドを外して母に手渡した。
「へー。なんか感触が本物のおっぱいみたい」
「でしょ? これなら触られても大丈夫」
とボクは笑顔で言った。
「でも・・・・あんたその服でうちに入ってくるんだよね」
母はやはり少し「世間体」を気にしている感じだ。
「大丈夫だよ。ボクの友だちって女の子ばかりだから、女子制服の子がうちに入って行ってもボクの友だちが誰か来たんだろって思われるよ」
「そうだよね!」
翌日は朝からハンバーガーショップのバイトである。ボクはみんながまだ寝ているのをいいことりに、一応みんなの分の朝ご飯を作った上で女子制服に着替えて出かけた。
「おはようございます」
と言って更衣室に入ると、その日は先に和泉が来ていた。
「おはよう・・・・その服は?」
「うん、うちの夏服だよ」
「制服、買ったんだ?」
「だって衣替えだもん」
「へー。冬は男子冬服から、女子夏服に衣替えしたのね」と和泉。
「まあ、そんな感じかな」
「学校にもそれで行ってるの?」
「昨日はね。これで出て行く勇気がなくて、ワイシャツとズボンで出て行ったけど、我慢出来なくなって放課後これに着替えて帰って来た」
「うーん。。。冬って、女の子の格好するのに充分慣れてるように見えるのに変なところで根性が無いね」
「うん。まだまだ女の子の自分に慣れてないんだよ」
「慣れてないってことないと思うけどなあ」
土曜日なので、ハンバーガーショップのバイトが終わった後は、そのまま有咲がバイトしているスタジオに行く。
「おお、町田君も唐本君も衣替えか」
と麻布さんが何だか楽しそうに言っている。
「有咲のとこも衣替えあるのね?」とボクは訊く。
「うん。そもそも制服は無いけど、標準服の冬服・夏服はあるから、標準服を着ている子は6月から衣替えするよ」と有咲。
「へー。でも、有咲、ここに来る時あまり標準服も着てなかったよね」
「そうだねー。休日だしと思って私服で来ること多かったね。だけど、冬こそ初めてじゃない? ここに制服で来たのは?」と有咲。
「あ、そうかもね〜」
この時期、ボクは高校では、いわばこっそり女子制服を着ていたのだが、ボクが女子制服を着ていることを知っている人が3人いた。
ひとりはボクの性別のことを理解してくれている高田先生である。
6月に入って早々。ボクが放課後女子制服に着替えてから、図書館の方に行こうとしていた時、高田先生とバッタリ会った。
「あ、唐本さんだよね?」と先生。
「あ、はい」
「そっちの制服にしたんだ?」
「あ、それが実は・・・」
と言って、ボクはまだこの服で授業とかに出る勇気が無いので、放課後になってこっそり着ていることを正直に言った。
「うん。そのあたりは無理せず、自分の心が受け入れられる範囲でやっていけばいいと思うよ。でも、女子制服を着ていたら、身分証明とかで困ったりしない?」
「あ、それが・・・」
と言って、ボクは自分の生徒手帳を見せる。女子制服で写っているボクを見て先生が仰天する。
「むしろ男子の格好している時に困るというか」
とボクが言うと
「ホントだね!」
と言って笑っていた。
「写真貼り直してもらう?」
「あ、いえいいです。これはこれで結構楽しんでますから」
「うん。じゃ、何かあったら僕のところに言ってきて」
「はい」
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