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■夏の日の想い出・女子制服の想い出(3)

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「あ、時間だっけ? 延長、延長」とモーリーさんは言ったのだが、
「あ、いえ、お客様。そちらのお連れさんは高校生ですよね?」
「あ、うん」
「高校生は22時までとなっておりますので、そろそろご帰宅を」
「ああ!」
 
モーリーさんは、とっても残念そうな顔をしていた。
 

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そういう訳で、精算してお店を出ることになった。
「おうち、どこ?」
「H市の**です」
「じゃ、車でなら5分で行くな。タクシー代あげるから、タクシーで帰りなさい」
「わあ、ありがとうございます」
 
「今夜は私もとっても楽しませてもらったから、その御礼」
「私も楽しい夜でした」
 
「あんたとは多分、そう遠くない時期に再会できそうだから、連絡先は聞かずに別れるよ」
「そうかも知れないですね・・・・」
 
「じゃね」
「ありがとうございました」
 
このモーリーさんというのが、ワンティスの雨宮三森先生(つまり上島先生のお友だち)であったことをボクが知ったのは、かなり先のことであった。
 

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ボクが帰宅したのは、22:01だった。(タクシーの中で普段着に着替えた)
 
「どこに行ってたんだ!」
と父から、凄い剣幕で叱られた。というか叱られる前に一発殴られた。
 
「ごめんなさい。知り合いのおばさんに会って、つい話し込んでしまって」
「電話1本くらい入れなさい」
と母も怒った顔で言う。
 
「ごめーん。電話しようと思ったんだけど、公衆電話が無くて」
 
一通り叱られた後で
 
「でも最近、ほんっとに公衆電話無くて、私も携帯忘れた時は結構困るんだよね」
などと姉が言う。
 
「それは確かにそうだよね・・・、あんたも携帯電話持つ? あんたバイトしてるし、バイト関係の緊急連絡とかもあるよね」
「うん。それは思ってたんだけど」
 
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「お前の高校、携帯電話は禁止されてないの?」と父。
「持っておくのはOK。でも校内では原則として電源を切っておくことになってる。校内で使っていいのは、放課後、部活で遅くなった子が、親に迎えに来てもらうのに連絡するのとか、特に先生に許可をもらった場合だけ」
 
「でも切っておいてもメールは受け取れるわね」
「うん。持ってる子は、主としてそのために持ってる感じ。実際には昼休みのメールチェックとかは黙認されてるし」
 
「じゃ、明日にでもちょっと見に行きましょう」
 
ということで、ボクは携帯電話を買ってもらえることになった。
 

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8月の初旬の週末。ボクは書道部のキャンプに参加した。
 
そしてこのキャンプでボクは政子たち女子部員に唆されて女装をし、そのまま女子のバンガローに泊まった。元々男子のバンガローは定員5人に男子は6人で、女子の方は定員5人に女子部員4人だったので、ボクが女子の方に移ると、ちょうどよいというのもあった。
 
翌日は政子に「ずっと女装してて」などと言われたこともあり、ずっと女の子の格好でいたのだが、この時、唐突に曲が浮かび、ボクと政子の最初の共同作品が生まれた。その曲は一時譜面が行方不明になっていたこともあり、大学4年の時に音源化し発売することになる。
 
ボクが政子に「いつ男の子の格好に戻ったらいいの?」と尋ねると「それで家に帰るといいよ」などという。でもその日は父が休日で家に居る。この格好では帰れない!
 
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と悩んだボクは、絵里花の家に寄ることにした。
 
絵里花の家でボクは中学1年の時からしばしば女装させられていて、よく着せ替え人形のようにして遊ばれていた。それで、ここにはボクの男物の服・女物の服が少し置かれているのである。ボクはそこで着替えさせてもらい、ついでに着て来た女物の服をそのまま置かせてもらった。
 
「ごめーん。今度回収に来るから」
「洗濯しておいてあげようか?」
「うん。助かる」
 
「ところで『制服』着てる?」
「あれは、なかなか、きつい冗談だったよ」
「冬は背中を押してあげないと、いつまでも足踏みしてるからね。ちゃんとそれで通学してる?」
「とてもそんな勇気無い」
 
「恥ずかしがること無いのに。着てはみた?」
「うん。部屋の中でちょっと」
「外に着て出ないの?」
 
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「出ないよ〜。ボク、女装外出する自信無い」
「今、女装でうちに来たじゃん」
「書道部でキャンプに行って、女子部員たちにうまく乗せられて女装させられたんだよ。それでそのままお家に帰りなさい、なんて言われるから。ここまで来るのも恥ずかしくて恥ずかしくて」
 
「恥ずかしがってる風には見えなかったけどね。ふつうに着こなしてた」
「そんなことないよー」
 
「・・・・ね、実際は女の子の服着て、よく出歩いてたりしないの?」
「しない、しない。ここで女装させてもらうのとか、うちで自分の部屋の中で絵里花さんが注文しちゃった高校の夏服とか、絵里花さんからもらった中学の制服とか、ちょっと着てみたりすることがあるくらいだよ」
 
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「あれ?夏服だったんだっけ?」
「時期が時期だから、夏服の注文として処理されたみたい」
「よし。秋になったら、冬服の注文を」
「勘弁して〜」
 
「だって、10月になったら冬服が必要でしょ?」
「うーん・・・・・それ、ボク自分で注文するよ。今年の秋に注文できるかどうかは分からないけど。来年になっちゃうかも知れないけど」
 
「ふーん。じゃ、私は注文の電話入れるの控えようかな」
「自分でそれ買えたら、ここに持って来て、着てるところ見せるから」
「持ってくるんじゃなくて、着て来なよ」
「恥ずかしいよ〜」
 

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その翌週の金曜日のことであった。補習が終わった後、お弁当を食べてから、ボクが書道部でめずらしく漢詩の臨書をカオル・理桜・圭子と4人でしていたら、校内放送で「唐本冬彦君。電話が入っているので、居たらすぐに事務室に来るよう」と言われる。急いで飛んで行ったら、和泉であった。
 
「補習があってると思ったから、家に掛けるより、学校の方がいいかと思って」
と和泉。
「うん?」
「日曜日、暇?」
「ハンバーガーショップのバイトの後は、時間取れるけど」
「じゃ、私と一緒にFHテレビに行ける?」
「テレビ局? 何があるの?」
「詳しいことは明日のバイトの時に」
「うん」
 
翌日、いつものようにハンバーガーショップのバイトに行く。私たちは朝7時からの勤務だが、朝の内はお客さんも少なく、かなり暇なので、私たちは厨房の隅で小声で話した。
 
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「冬はリハーサル歌手って知ってる?」と和泉は訊いた。
 
「こないだMURASAKIのライブでボクがしたような奴?」
「あ、そういえばしたんだった」
「テレビ番組のリハーサルで歌う歌手?」
「そうそう。テレビ番組の場合、特にスケジュールの詰まっている歌手が多いから、リハーサルの時に、歌手本人が居ないってのは、よくあるんだよね」
「ああ」
 
「それで本人が出られない場合に、代わりに歌う歌手なのよ」と和泉。
「なるほど」
「実際に誰がリハの時いないかってのは、その時にならないと分からないから誰の代わりに歌うことになっても、即対応できないといけない」
「それを和泉がするの?」
 
「うん。実は、FHテレビの『歌う摩天楼』で、これまで付いていたリハーサル歌手が1人はメジャーデビューすることになって辞めて、1人は結婚するので辞めるということで、その後釜にならないかってオファーされて」
「へー。でも和泉、レパートリーが広いから、結構いけるんじゃない?」
「冬もやらない?」
「え?」
 
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「社長にさ、MURASAKIのリハで歌ったの、実は私の友だちなんですと言ったら、とっても興味持ってくれて」
「あはは」
「だったら、その子とふたりでやらない?と言われたのよ」
「ああ」
「できたら、今日このバイトの後、うちの事務所に一度来れない?簡単な打ち合わせとかして。冬がよければ、明日の収録から早速入りたいんだけど」
 

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そういう訳で、ボクはその日、有咲がバイトしているスタジオの方には急用で遅れる旨連絡して、和泉と一緒に、和泉が「顔を出している」芸能事務所である、∴∴ミュージック に行った。
 
社長の畠山さんが「先日はありがとう」と言って、にこやかな顔で握手をしてくれた。
 
「こちらこそ、先日はお世話になりました」と挨拶するが
「君の歌唱力は、先日しっかり見せてもらったけど、レパートリーは広いの?」
などと訊かれる。
「だいたい最近流れている曲なら歌えます。私、だいたい半年程度以内に聴いた曲は歌えるので」
と言う。
「ほほぉ」
 
「この子、一度聴いただけで、それをコピーして歌えるんです」
と和泉が言った。
「ほんとに?」
「試してみて下さい」と和泉。
「よし」
 
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ということで社長さんは何かのCDを持って来て掛けた。これは中堅の歌手・道上前略さんの声だ。でも聴いたことない。社長がCDを停める。ボクは歌い出す。
 
Aメロ, Bメロ, サビ, Aメロ, Bメロ, サビ, Cメロ, サビ, サビリピートで終了。
 
「凄い!」
と社長は首を振りながら言う。和泉が拍手をしている。
 
「これは新曲ですか?」
「昨日音源ができあがったばかりの曲だよ」
「わあ」
「これ、よそで鼻歌で歌ったりしないでね」
「気をつけます!」
 
「しかしほんと凄いね! ある意味、天性のリハーサル歌手かも」
などと言われる。これで「採用試験合格」という感じだった。
 
それで詳細について打ち合わせようということで、会議室に入ろうとした時、ドアが開いて、20歳前後の女性が入ってくる。ボクはその人に見覚えがあった。
 
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笑顔で会釈する、と向こうも驚いたようで
「ケイちゃんだったっけ? ごぶさた−」
と言われた。
 
「リンナちゃん、知ってるの?」と畠山さんは驚いたように言う。
 
「ほら。言ってたでしょ? 去年京都でキャンペーンライブしてた時に、ピンチヒッターでキーボード弾いてくれた女子中学生ですよ」
「ああ、その時の子か!」
 
「あれ、私は修学旅行でたまたま行ってたんです」
「奇遇だね」
と言って、青島リンナは力強く、私と握手してくれた。
 
「何があったんですか?」と和泉が訊く。
 
「去年の夏くらいかな? リンナちゃんが京都の商店街でライブしてたら、ちょっと事故があって広告塔が倒れて来てさ。キーボード弾いてた人を直撃して。手を痛めて弾けなくなっちゃたのよ」
「へー」
 
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「その時、観客の中の女子中学生が『私が代わりに弾きます』って名乗り出て、その子のお陰で最後までライブが出来たんだな」
と社長さんは説明する。
 
「それが冬子だったのか!」
「そうそう」
「冬子って、そういうピンチヒッターが得意なのね?」
「ああ、それはあるかも」とボク。
 
「だったら、リハーサル歌手なんかも、天職かもね」
「へー。リハーサル歌手やるの?」とリンナ。
「今、その話をしようとしていた所で」
 
「もったいないよ。この子、舞台度胸があるもん。機転も利くし。速攻メジャーデビューでいいと思う」
とリンナはボクを推してくれる。
 
「それも考えたいね。取り敢えず何ヶ月か今回の仕事をしてもらって、それから考えようか?」
 
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そういう訳で、畠山さんはボクを使うことに関しては全然問題無い感じであった。
 
「毎週、日曜日の夜に翌週放送する分の収録があるので、その前の午後のリハーサルの時間、5時間ほどに同席してもらい、その時点で来ていないアーティストの代わりに歌う、というのが仕事の全てです。実際のリハは朝から始まっているのですが歌手を入れてのリハは14時半からなので、その30分前、14時までに現場に入ってください」
 
「ひとりだと万一歌えなかった時に困るから、2人用意しておいて、歌えそうな方が歌うということでしたね」
「そうそう。後でちょっとシミュレーションしてみよう」
「はい」
 
「報酬は時給888.8円で5時間で4444円」
 
「その並びの数字って何か意味があるんでしょうか?」
「これから、源泉徴収して4000円というきれいな数字になる」
「なるほど!」
 
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■夏の日の想い出・女子制服の想い出(3)

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