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■夏の日の想い出・3年生の早春(8)
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目次 8
時間索引 #
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翌朝私たちが起きると、奥さんは窓際の籐の椅子に座り、外の景色を眺めていた。
「なんかあなたたちにたくさんグチ聞いてもらって、御飯食べてぐっすり寝たら少し気分が良くなっちゃった」
「帰りますか?ご自宅まで送りますよ」
「遊園地に行きたい」
「いいですよ」
「ケイ、私もジェットコースター乗りたい」
「はいはい」
私たちは朝御飯を食べたあと、再度温泉につかってから宿を出ると、国道136号を北上、東名で御殿場まで行った後、国道138号・東富士五湖道路を通り、富士急ハイランドの駐車場に車を駐めた。お昼すぎだったので、まずはお昼御飯を食べてから、3人で絶叫系のコースターにひたすら乗りまくった。
「かっなり、来るね、これ」
「男の人だと、玉が縮むって奴?」
「私玉がないから分からない」
「私も玉は取っちゃったから分からない」
「よし、あの人をここに連れて来よう」
「縮むかどうかの確認ですか?」
「そうそう。私、物じゃ許してあげない。私との時間を持ってもらう」
「お仕事忙しいのは仕方ないけど、一緒の時間を過ごせなかったら、夫婦・恋人でいる意味無いですよね」
「全く」
その日は時々休憩をはさみながら、とにかくコースター系のものにどんどん乗った。そして夕方、遊園地を出て「ほうとう不動」で、ほうとうを食べ、私だけ先に車に戻って1時間ほど仮眠させてもらってから出発。中央道で東京に帰還した。
「茉莉花さん。御守りにこれ差し上げます」
「何かしら・・・・あら?これもしかして三三九度の杯?」
「先週、宮崎に行った時にお酒屋さんで頂いたんです。ふたりにひとつずつもらっちゃったんですけど、私たちふたりでひとつでいいから、もうひとつは多分誰かにあげることになるんじゃないかなって思ってたので」
「ありがとう。私たち人前式だったし、三三九度をしてないのよね」
「だったらちょうどよかったですね」
「雷太とあらためてこれで三三九度しちゃおう」
「あ、それもいいですね」
夜遅く、先生の家の玄関で茉莉花さんを降ろす。奥さんがこちらに手を振って家の中に入っていったのを見て、私たちはゆっくり車を出した。翌朝、先生から「ありがとう(^-^)339」という短文のメールが入っていた。
「最後の339は?
「サンキューと三三九度を掛けたメッセージでしょ」
「なるほど」
「じゃ先生たちもしたのね」
「ね、私たちも帰ってからまたしない?」
「うん。もう九州から戻ってから3回目だね」
私たちは微笑んでキスをした。
この後、茉莉花さんは時々私たちに電話をしてきて、一緒にお茶など飲んだり時には泊まりがけで温泉などに出かけたりするようになった。
上島先生の奥さんを送り届けた翌土曜日、私たちは早朝から車を出し、鬼怒川温泉を目指していた。
実は先月、『天使に逢えたら』が阿蘇で作った曲であることをFMで言ったら、それをきっかけに阿蘇限定版が作られることになったのと同様に『影たちの夜』
が、鬼怒川温泉で作った曲であることを言ったら、鬼怒川温泉の観光協会まで、これを広報活動に使いたいということで鬼怒川温泉の写真をジャケット写真にした限定版を制作することになった。こちらも阿蘇版と同様、通常の楽曲にプラスして、鬼怒川温泉のPRソングがボーナストラックとして収められていた。
この件は私たちがちょうど九州に行く直前に話が来て、美智子と私とのメールでのやりとりで概要が決まり、九州から戻ってきた日に即PRソングを収録して早速プレス。今日の朝いちばんに向こうに届くように配送されたはずである。
そして、今日はちょうど温泉街でイベントが行われるので、そこでこのCDのお披露目をしようということだったのである。
10時に現地入りし、観光協会の人と話をし、サインを書いたり記念撮影をしたりする。その後イベント会場に行くと、控え室でリュークガールズの面々と遭遇した。知ってる子が多数いるので手を振って、何人かとハグした。
「マリさん、お久しぶり〜」などと朋香が声を掛けるが
「ごめーん。私、人の名前を覚えるのが苦手で」などと政子。
「この子は、ともかちゃん。リーダーだよ」と私。
「いや、いつのまにか一番の古株になっちゃっただけで」と朋香。
「半年前に会った時から、またメンバー変わったね」と私。
「年末に2人卒業して年明けに4人入って15人になったから」
「人数が増えてるってのは、事務所も頑張ってるってことだね」
私はキャンペーンなどであちこちに行っている時けっこうこの子たちと遭遇し年に2〜3回会っているのだが、政子は高校の時以来、3年半ぶりの遭遇だった。
「今日はローズ+リリーの前に私たちが歌うよ」
「おお、3年半前と逆だね」
「それはやはり6年間でCDが2000枚しか売れてないグループと、ミリオン2発のユニットの差だよ」と朋香。
「今度の『天使に逢えたら/影たちの夜』もミリオン行くよね?」と佳実。「先日聞いたので95万枚ということだったから、行くかも」と私。
「3枚目のミリオンか。凄いなあ」と佐代子。
やがてイベントが始まり、演歌歌手の人が2人歌った後、リュークガールズの出番となり、15人のメンバーがステージに上がる。どうも新曲らしい曲を歌い始める。
「なんか、凄くノリがいいね」と政子。
「この子たちのステージ、年に数回見てるけど、3年半前の時とは段違いだね」
「歌は下手だけど、なんかお客さんを巻き込んでいくね」
「そうそう。それが昔と変わったところだよ。ともかとか、さよことか、まちことか、古いメンバーが、そのあたりうまくコントロールしてる。ともかはもう20歳すぎてるけど、事務所もたぶんあと2-3年は卒業させないかもね。リーダーシップがあるもん。あの子」
「ねえ、何かあの子たちに曲を書いてあげない?」
「あ、それは不要。彼女たちはこういう活動のしかたが似合ってるみたい。みんながメジャーで売って行かなくてもいいんじゃないかな。こういう小さいイベント専門で、のんびりと活動するのが性にあってる子たちもいるんだよ。たぶん昔みたいにまたテレビに出たりして活動したら、今居るメンバーの半分は脱落するよ」
「そうか。そういう活動なら学校の勉強とも両立できるもんね」
「結局、自分ができる形で活動すればいいんだよ。できないことしようとしてもどうせ無理だから」
政子は頷いていた。
「ね・・・今日、私も出ていい?」
「出ようよ」
私は音源を流しているスタッフさんの所に行き、私の歌だけを抜いた音源ではなく、政子の歌も抜いた楽器だけの音源を流してくれるよう頼んだ。スタッフさんには実は変更があるかもと言って、両方の音源を渡しておいたのである。
リュークガールズの歌が終わり、朋香が私たちを紹介してくれて、私たちはふたりで一緒にステージに立った。政子も一緒に出て来たのを見て朋香が「おっ」
という顔をしている。客席に挨拶してから一緒に『影たちの夜』を歌う。2年前のこの温泉での熱い夜を思い出しながら、私たちは歌った。私と政子の歌の掛け合いが少しエロティックで、私は歌いながら濡れてきているのを感じた。政子の方も歌いながら半ば恍惚な表情をしている。間奏のところで私たちは自然に吸い寄せられるようにキスをした。「きゃー」という観客のおばちゃんたちの歓声があがる。私たちは客席に満面の笑みで手を振りながら、この歌を歌いきった。
歌が終わると、私たちは営業用のスマイルに戻して手を振り、大きな声援と拍手に応えた。舞台下手袖に下がって、朋香たちと握手する。
「なんか、凄く色っぽい!同い年と思えないよ!」と朋香。
「いや今日はなんか歌ってる内に自分でも興奮しちゃった。女の子の身体になってて良かったと思ったよ。男の子の身体なら立っちゃってた」と私。「あはは、ステージ上で立っちゃってる歌手さん、たまに見るよ」と朋香。
「ステージ上だと手で押さえつける訳にもいかないし大変ね」
「女の子は便利だよね。外からは見えないもん」と政子。
彼女たちと一緒に控え室に戻った。
「ああ、どうせ歌うんなら私も可愛い服着れば良かった」と政子。
「あと10分早くその気になってたら着換える時間あったね」
「私の衣装もあったの?」
「いつでも持ってきてるよ。私たちふたりでひとつだから」
「ね、ね、ケイちゃん。さっきステージでキスしてたよね。あらためて訊くけど、マリちゃんとはやはりレズなの?」と朋香。
「そうだよ」と私。
「うん。私たちはビアン」と政子。
「おお、本人たちの口からハッキリ聞いたのは初めてだ」と朋香は喜んでいる。
「今夜もダブルのお部屋を予約してるし」
「きゃー」
「あ、そうだ。ケイちゃんたちにこれあげますよ」
とリュークガールズのマネージャーさんが何やら袋を持ってきた。
「今朝、東照宮に行ってきたんですけどね。この子たちにと御守りの鈴を買ったんだけど、私が人数間違えちゃって」
「あら」
「この子たち15人しかいないのに、なぜか18人分買っちゃったんです」
「いつも15人で行動してるのに」
「うん。なんで間違っちゃったのか私も分からない。それで余り物で悪いけど、もし良かったらと思って」
「わあ、ありがとうございます。余り物には福あり、ですよ。頂きます」
「じゃ、3つ余ってるし、3つあげますね」
「はい。ありがとうございます」
と言って、神社の袋に入れられた鈴を3つもらった。
そのあと彼女たちと一緒にお昼御飯に行き、わいわいがやがやとしながら食べる。政子もこういうのに、かなり耐性が出来てきたようで、彼女たちとけっこう普通にことばを交わしていた。そのあとみんなで温泉につかりにいき、また賑やかなひとときを過ごした。
「ケイの裸を見てもみんな騒がないのね」と政子。
「だって、いつも一緒にお風呂入ってるもんね」と私。
「うんうん。最初の頃はケイちゃんの裸をじっくり観察したけど」と朋香。「慣れちゃったね」と佳実。
リュークガールズの子たちはもう引き上げるというので温泉のあと別れて、私たちだけホテルの部屋に入った。
「鈴が3つ来ちゃったね」
と私たちは部屋の中でキスをしてから言った。
「近いうちにどこかで来るだろうなって予感はあったよ」と政子。
「うん。だから3つもらった」
「うん」
「これ、叶えの鈴だって」
「きれいな鈴だね。でも何が叶うのかなあ・・・冬は何を叶えたい?」
「ふふふ。秘密」
「そう?じゃ私も秘密にしよう」
私たちはまたキスをした。
「東京に帰ったら、ペンダントチェーン付けちゃおう」と私。
「3つともに?」
「うん。おそろいのチェーン」
「3つ目は、あの女の子にあげるんだよね」と政子。
「そう。誰なのかまだ分からないけど」
「いつか渡せる時が来る気がするよ」
「私、今日は何だかたくさん愛し合いたい気分」と私。
「うん。たくさん愛し合おうね」
私たちはキスしたままダブルベッドの上に並んで倒れ込んだ。
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