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■夏の日の想い出・3年生の早春(2)

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『天使に逢えたら』は、私たちが3年前、高校2年生の時、修学旅行で阿蘇に行った折りに書いた作品である。その後、私たちもその作品のことを忘れていたのだが、2年前の春にFM放送で私たちの未発表曲を流すということになった時、あれが出来が良かったからというので、政子の家の押し入れから譜面を発掘して、番組の中で生で歌った。
 
『影たちの夜』は私たちが大学に入った年に、日光鬼怒川温泉のホテルに一緒に泊まって熱い夜を過ごした時に、少し不思議な体験をしたのを元に書いた曲である。これもそのFM放送の時に生で歌った。この曲は私と政子が今までに書いた曲の中でもトップ3に入る物凄く良い出来の曲だと自分たちでは思っていた。
 
この2つの曲はどちらもクォリティが高かったので、美智子は私たちがふたりとも歌手としてカムバックした場合、復帰第一段のシングルとしてこの2曲をカップリングして出そうと思っていたという。しかし私は復帰したものの、政子はライブ活動はせずに、当面音源制作だけに参加するということになったため、この2曲のCD化は宙に浮いてしまった。
 
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その後私たちが大学1年生の年末頃にあらためて発売しようという話があったものの、様々な予定が割り込んできて、発売予定が年を越して3月くらいという線までずれていった。そこに震災が起きて、そのあたりの予定が吹き飛んでしまった。そして結局、ひじょうに秀逸な曲なのに、発売のタイミングを逸したまま、今に至ってしまったのであった。
 

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私はこの2曲のMP3を、いつも持ち歩いているPCに入れていたのでその場で流してみると、響原部長も諸橋さんも「凄い。いい曲だ!」と感心している。
 
「これ、未発売なんですか?」と諸橋さん。
「そうなんですよ。何度か発売しようという話があったのが、どうもうまくタイミングが合わなくて、今まで発売できずにいたんです」と私。
 
「『天使に逢えたら』は凄く美しい曲ですね。まるでほんとにそのあたりで天使が遊んでいるみたいだ。『影たちの夜』は少しエロティックだけど、最近の少女漫画には過激なのが多いし、このくらいは構わないですよ。それにエンディングに使うのなら、あまり文句も言われない」
と諸橋さん。
 
「でも、偶然にも『天使に逢えたら』ってタイトルは、エンジェル・リリーのエンジェルにマッチしてるし、『影たちの夜』というタイトルも、対抗組織のシャドウとうまい具合にマッチしてるのね」
 
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「これ、この騒動が落ち着くまでの暫定で使うのもったいないです。半年使いましょうよ」と諸橋さん。
「うん。それがいいね。『花のリリー・マクラーレン/天使の休息』は8月にリリー戦士の数が4人から6人に増えるタイミングから使おう。上島君、それでいい?」と響原部長。
 
「はい。それでお願いします。私もとにかく新たなスキャンダルは起こさないように自重します」
「頼むよ」
 
「それで、これ音源の制作だけはなされてるんですね」
「2年前に収録だけはしたんだよね。でもN*Kの番組で1度流しただけで、どこにも出してないよね」と上島先生。
「一応これのミクシング前のデータも、うちの会社の事務所と私のマンションに1個ずつコピーを置いてますので、必要なら1時間ほどで取ってこられます」
「その音源を使いますか?」
 
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「もし作業が間に合わなかったら第一回だけはそれでもいいけど、できたら新たに録音して流したい。1度だけででも過去に公開されたことのあるテイクはあまり使いたくない」と響原さん。
「その作業を今からですね」
「うん。10時放送だから、できたら8時頃まで、最悪でも9時までに収録を終えてもらいたい」
 
「分かりました。私たちもこれからスタジオに入ります」
 

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私たちがスタジオに到着したのは、夜0時過ぎであった。美智子と私、諸橋さん、それに何かのお手伝いができるかもということで、上島先生とAYAも一緒に来てくれた。スタジオにはスターキッズのメンバーと、UTPの社員である花枝と悠子が来ていた。また、美智子は、音源制作の実務を手伝ってもらうのに計算できる戦力として甲斐さんを緊急に呼び出していた。甲斐さんは住んでいる国立市からタクシーを飛ばして来るということで、0時半頃に到着するということだった。
 
収録に必要な楽器でスターキッズのメンバーが持っていないものが若干あるのでそれを調達できそうな★★レコードにお願いして、持ってきてもらうことになった。また、万一今夜の収録作業がうまく行かなかった時のため、既存音源のミクシング前のデータを、政子に私のマンションまで取りに行ってもらった。収録は演奏から先に録るので、ボーカルの政子が必要になるのは、恐らく明け方の6時くらいと思われた。政子にはデータを取って来てもらった後はスタジオ内で仮眠してもらうことにしていた。
 
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「ケイちゃん、緊急に録音しようという話なのに、何この凝ったアレンジは?」
と近藤さん。
 
「最悪の場合オープニングの『天使に逢えたら』だけ新録音で流して、エンディング用の『影たちの夜』は第1回放送では既存音源を使い、来週の放送から新録音のものに差し替えます。でいいですよね?諸橋さん」
「うん」と諸橋さんが頷く。
 
「時間が無いからといって妥協無しです。最高の品質のものを作ります」
と私が言うと、近藤さんは
「気に入った!」
と言って笑顔になり、握手を求められた。
 
とりあえず既存音源を聴いてもらう。
「このヴァイオリン、松村さんだよね」と近藤さん。
 
「そうです。『あの街角で』では、松村さんのヴァイオリンと近藤さんのギター、宝珠さんのフラウト・トラヴェルソ、で収録しましたね」
「あのヴァイオリン高そうだったなあ」と近藤さん。
「かなりの銘品だよね。たぶん800万円くらいかな」と宝珠さん。
 
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私が九州から戻ってきてAYAのレコーディングに参加してほとんど休憩していない状態でこの録音なので、私はいったん3時まで制作の指揮をして、その間に美智子が仮眠しておき、3時に交替して私の方が仮眠し、6時にまた起きて仕上げをするということになっていた。そもそも『天使に逢えたら』のアコスティックなアレンジは私の方が得意であり、『影たちの夜』のリズミカルなアレンジは美智子の方が私より得意というのもあった。AYAは取り敢えずしてもらう作業が無いので、美智子と一緒に仮眠しておいてもらうことにした。
 
『天使に逢えたら』はアコスティックな演奏である。近藤さんたちに聴かせた既存音源は、小林さんのギターと松村さんのヴァイオリン、長谷部さんのフルートで演奏されているが、今回の編曲ではギターが2パート、ヴァイオリンが2パートとビオラ、フルートが2パートとピッコロが入っていてヴァイオリンもフルートも追いかけっこをしている。
 
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「なるほど、それでヴァイオリンも持ってきてくれと言われたわけか」
と本来はベースの鷹野さん。彼は実はヴァイオリンが本職である。音楽大学のヴァイオリン科を出た後、ロックバンドを始めてしまったというので親は嘆いていたらしい。
「でもビオラは俺持ってないよ。弾けることは弾けるけどね」
 
「という話だったので、用意してくれることになっています。2時頃到着するはずです」
 
「私はフルート2回とピッコロを吹けばいいのね」と宝珠さん。
「ええ、お願いします。フルートのひとつをフラウト・トラヴェルソにできますか?」
「OK」
 
「この曲では俺は寝てていいの?」とドラムスの酒向(さこう)さん。
「お茶係でよろしく」と近藤さんが言う。
「いえ、寝てて下さい。その分3時からお願いします。お茶は悠子に入れさせますから」と私。
 
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この他、クラリネット・オーボエ・ファゴット・コントラバス・ハープ、などといったパートがあったのだが、これはスターキッズのキーボード奏者月丘さんにシンセサイザで演奏してもらうことになった。
 
録音作業は、宝珠さんの管楽器、鷹野さんの弦楽器、月丘さんのキーボード、近藤さんのギターを同時進行で進めた。上島先生に月丘さんの音色設定と演奏、甲斐さんに鷹野さんの弦楽器を見てもらい、私は宝珠さんの管楽器のパートと近藤さんのギターを見つつ、全体のチェックを同時進行で進めた。
 
2時頃、★★レコードの南さんがビオラを持ってきてくれたが、多少の連絡の行き違いがあったようで、南さんはヴァイオリンとビオラを1丁ずつ持ってきてくれていた。そこで鷹野さんはヴァイオリンの2つのパートを、自分のヴァイオリンと、南さんが調達してきてくれたヴァイオリンで1パートずつ弾いた。
 
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「このヴァイオリンいい!欲しい!」などと鷹野さんは言っていた。
「これはレンタル用の楽器ですが、同等の品の購入は可能だと思います。イタリアから取り寄せるので少しお時間がかかりますが、お値段は220万円ほどだったと思います」と南さんが言うと
「だめだー。金が無ぇ」と天を仰いでいた。「コンちゃん。金貸して」
「俺も金無いよ」
「あ、ケイちゃん、お金持ちそう。貸してくれ」
「ほんとに使われるのでしたら会社の備品として買いましょうか?会社で所有した上で、スターキッズさんにだったら無料で貸せますよ」
「え?ほんと?じゃ専務さん、お願い!」
私は一応UTPの専務なのである。
 
「じゃ、その件はあとでまた」
「よっしゃー」
といって鷹野さんの演奏に熱が入る。
 
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結局『天使に逢えたら』の演奏部分の収録は3時過ぎに終了した。スターキッズのメンバーにいったん休憩してもらっている間に、私が超暫定のミキシングをして、みんなに聴いてもらった。
 
「かっこいいー」
「楽器の追いかけっこが凄いね」
「収録はパート単位だから、こうやってミキシングしてみて、初めてこれが分かりますよね」と私は笑顔でいった。
 
ここで美智子と交替して私は仮眠する。『影たちの夜』は美智子の制作指揮で収録が進められた。
 

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さすがに疲れが溜まっていたのか、6時に政子に起こされるまで、ほんとに熟睡していた。夢も見ないほど深く眠っていた。
 
『影たちの夜』の演奏部分の収録が完了していた。スターキッズの人たちはとりあえず仮眠してもらって、私と政子の歌を、演奏にあわせて収録する。
 
歌も『天使に逢えたら』から収録するが、まずは先頭のスキャット部分を私の高い部分の声で収録した。このスキャットの一番高い所の音はC6である。私の声域は大学1年頃はG3〜A5までだったが、この頃は上がD6まで出るようになっていた。既存音源ではこの部分は裏声で歌っていたのだが、今回はこれを普通の声で歌うことができた。
 
「よくそんな高い所まで出るなあ」と、眠る前にコーヒー1杯飲むといって、まだ起きていた宝珠さんが言う。
「去勢したんだっけ?」
「去勢はもう2年前にしましたが」
「再度去勢したとか?」
「何を取ればいいんですか〜?」
 
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この曲はボーカルのパートが3つあるので、私のソプラノボイス、アルトボイスと政子の声で多重録音するつもりだったのだが、宝珠さんが「私も歌おうか」
と言い出した。少し歌ってもらったら、上手い!そこでお願いすることにして結局多重録音はせずに、リアルタイムで収録した。
 
「この時間の無い中でこれをリアルタイム録音できたのは大きいなあ」と美智子が嬉しがっていた。
 
『天使に逢えたら』では3つの声が追いかけっこをしていたが『影たちの夜』は私と政子の声が会話するような感じで進行する。少し練習で歌ったあと、これも一気に通して録音しようということになり、スターキッズの人たちの演奏の録音を聴きながらふたりで歌った。
 
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収録が終わったところでアニメのオープニング・エンディングに合わせての抽出、ミキシング作業を上島先生がしてくださることになった。
 
その頃、AYAが起きてきて「あ、もうおわっちゃった?」などと言ったが、
「『天使に逢えたら』の別バージョンを録りたいから、今から歌って」
と私は言った。
 
第一回の放送ではAYAも使えないので私と政子(と宝珠さん)が歌ったバージョンを使用するが、来週までにはAYAの件は誤解であったことが判明しているはずなので、AYAも使える。そこで、AYAにメインボーカルを取ってもらう版を作りたかったのである。
 
私と政子は加わらないことにして、ツインボーカル版のボーカル・アレンジを使用し、AYAと宝珠さんの2人で追いかけっこをする形で歌ってもらい、収録をした。
 
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「たぶん来週からはこちらで行ける」
 

8時に響原部長がスタジオにやってきた。映像とそれに合わせてミキシングされた2つの楽曲を聴いてもらう。
 
「素晴らしい。君たち、ほんとにしっかりした仕事をするね」と感動している。
「最終ミキシングは上島先生がしてくださいました」
「うん。そのくらいはこき使わないとね」
 
一行はテレビ局に移動し、10時の放送で無事『天使に逢えたら』と『影たちの夜』
が流れるのを見てから、再度スタジオに移動し、とりあえずスターキッズの人たち、AYAと政子には休んでいてもらって、美智子の手で、この2曲のCDシングル発売用のミキシング作業をおこなった。最終的に若干追加で録りたい部分が出てきて、それを夕方くらいまでに収録して、音源制作を完了した。
 
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アニメのオープニング・エンディングの曲として流した以上、かなり早い時期に発売できるようにして欲しいという要請であった。町添さんと響原さんの話合いで、CDは2月15日発売という線でスケジュールが引かれていた。
 
CDに収録する曲はマリ&ケイ&七星の3人のボーカルによる『天使に逢えたら』
(アニメの初回で流すバージョン)、AYA+七星のツインボーカルによる同曲(アニメの2回目以降で流すバージョン)、マリ&ケイで歌った『影たちの夜』、および、この2つの曲のカラオケ版、という5つである。
 
ダウンロードと着うたフルに関してはCDに関する作業を優先するため後回しにして、3月初めにオープンにする方向ということだった。
 

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