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■夏の日の想い出・食の伝説(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2013-03-29
マリはとにかく「伝説」の多い人である。物事を勘違いしての発言(自分が書いた曲を他人の曲と勘違いしていたり、曲名を極端に間違ったり)も多いし、自分の誕生日さえもたまに勘違いしていることがあるので、初期の頃、マリちゃんの誕生日はいつ?という特設スレッドが2chにできていたこともあった。(本人は6月7日・6月27日・7月16日・5月18日など様々なことを言っていたが、双子座という発言と、私が示唆した複数の発言を根拠に6月17日と断定された)
また会話の流れを無視した唐突な発言、何が言いたいのか意味不明な発言、普通そういう発想はしないという、常識を斜め方向に逸脱した発言、そして私との私生活を暴露する発言も多く、それらをリストアップしたサイトまで出来ているほどである。
「拷問」とか「縛る」とか「注射」「蝋燭」「カテーテル」「浣腸」などといった単語まで発するので一時期私とマリがSMをしていると誤解されていた時期もあったようだが、せいぜいいわゆる「ソフトSM」程度の範囲であることが理解されている(というか、そんなことまでマリはしゃべりまくっている)。注射器や浣腸はあくまで「脅し」にしか使われていないし、鞭は床に打ち付けるだけである。
しかしマリに関してとにかく多いのは食の伝説である。マリの食事の量については、早い時期から一部のファンに知られていた。
それはローズ+リリーがメジャーデビューして間もない2008年10月1日であった。私たちは学校が終わってから最初★★レコードに行き、担当になってくれる秋月さん、JPOP部門の責任者・加藤課長、そして制作部門の総責任者である町添部長に引き合わされ、ある理由から特に町添さんに強いインパクトを与えてしまったのだが・・・・
その★★レコードの後で、私たちは都内のCDショップでミニライブを行うことになっていた。ほんの3日前、横浜のデパートで行おうとしたイベントで観客がステージに向かって押し寄せ怪我人が出る騒ぎになったため、その日は会場もショップ内の区画ではなくビル内のイベントスペースを借り、警備員も立たせてという物々しいイベントになる予定であった。
レコード会社からCDショップへと直行であったため、ゆっくりと夕食を取る時間が無かった。それで政子が「お腹空いたよぉ」と訴えたので、マネージングをしてくれている美智子は「じゃ、私がショップの人と打合せしている間に地下のバーガーショップででも何か食べてて」と言ったので、私たちは、美智子と別れて地下に降りて行った。
「いらっしゃいませ。お決まりでしたらお伺いします」
「そうだなあ。マックリブダブル10個、ポテトLを5個、爽健美茶Lを5杯」
と政子は言って
「冬は?」
と訊く。私はちょっと顔の一部が引きつりながら
「フィレオフィッシュのサラダセット、ドリンクは爽健美茶Mで」
「こちらは1セットですか?」
「はい」
「それではマックリブダブル5個分はセットとして処理致しますね」
「はい」
「お持ち帰りですか?」
と、私たちと同年代くらいの女の子は尋ねた。
女子高生2人で来て、この量を注文すればふつうそう思う。
「いえ、食べて行きます」
と政子は言った。一瞬、レジの女の子の顔がピクピクっとした。しかし
「かしこまりました」
と0円スマイルで答える。このあたりで動じないのはさすがである。きちんと訓練されている。
「ご用意出来ましたらテーブルまでお持ちします。この番号札でお待ち下さい」
「あ、済みません。私たち少し急いでいるので、全部出来てからではなく、出来次第少しずつ持って来て頂けますか?」
「かしこまりました」
支払いをしてからテーブルに着く。すぐにマックリブダブルのセット2個とフィレオフィッシュのセットを取り敢えず持って来てくれたので私たちは色々おしゃべりしながら食べ始める。
その時、近くのテーブルにいた女子大生という感じの3人組が遠慮がちに声を掛けてきた。
「あのぉ、済みません、もしかしてローズ+リリーさんですか?」
「はい、そうですよ」
「きゃー! 私『その時』のCD買いましたよ」
「ありがとう!」
「あの、サインとかもらえます?」
「いいですよ」
「3人分もらっていいですか?」
「OKです」
それで彼女たちが差し出したノートや手帳などにふたりでサインしてあげた。
「ありがとうございます。でもたくさん食べるんですね」
と言って、彼女たちは私たちのテーブルの上に乗っているセットを見る。たしかに女の子2人で食べるにしては結構な分量だ。
「ええ。歌を歌ったらお腹空くから」
と答えていた時、お店の人が更にマックリブダブルを5個、残りのポテトとドリンクを持って来た。
「あ、どなたかスタッフさんと一緒でした?」
「ううん。私たちだけ」
「え?」
そしていったん自分たちの席に戻った彼女たちが見ている前で政子はマックリブダブルを楽しそうな表情でどんどん食べていく。彼女たちは最初自分たちでおしゃべりしながら見ていたものの、その内あっけにとられて無言になってしまった。
私はその間、ゆっくりとフィレオフィッシュのサラダセットを食べていた。
「あの・・・もしかして黄金伝説か何かの撮影ですか?」
と彼女たちは尋ねてきた。
「いえ、ふつうのマリの食事量です」
「きゃー! マリさん、ギャル曽根の2代目になれる」
「あ、私よく友だちからそう言われます」
と言って政子はニコニコ笑顔で、マックリブを食べていた。
「でも、マリさんの食べ方って凄く上品」
「凄く美味しそうに食べてる」
「食事してる時間と詩を書いてる時間がマリはいちばん幸せなんですよ」
と私は彼女たちに解説した。
「へー、あの『遙かな夢』の歌詞ってホントにマリさんが書いたんですか?」
「ああ。アイドルのCDで本人の作詞とクレジットされてても実際はゴーストライターってことはよくあるよね。でも実際のマリの作品ですよ。マリは1日に2〜3個は詩を書くから」
「わあ、素敵な詩を書くんですね」
「マリはね、美味しい御飯を食べられたら、良い詩を書くの」
「へー!凄い」
と言って、その子たちは感心していた。
しかしそこにお店の人が来て、更に残りのマックリブダブル3個をテーブルに置いていくと
「えー!? まだ入るんですか!??」
と言って、絶句してしまった。
「あ、今日は晩御飯が遅くなるから、それまでのつなぎで」
などと政子は言う。
「これだけ食べて、晩御飯がまだ入るの?」
「今夜は昨日ケイが作ってくれたカレーを暖めて食べればいいから楽だな」
「マリはカレーはだいたい5杯は食べるよね」
「うん。でも今日はライブでカロリー消費するから、もっと入るかも。冷蔵庫に入れてくれた分を食べてしまったら、冷凍してくれた分をチンすればいいよね?」
「うん。カレーは20食分くらい冷凍しといたから、さすがに1回ではなくならないよね」
「そうだね。2日か3日くらいは持つかなあ」
「ひゃー!!!」
その子たちの中のひとりがmixiをやっていて、そこに友人限定公開で私たちと撮った記念写真・サインの写真とともに「マリちゃんの食べる量が凄い!」という記事を書いたらしい。そしてそこを起点に、マリちゃん伝説は広まっていったようである。
またその時「ケイちゃんがマリちゃんに御飯を作ってあげているらしい」という話を書いたのが、「ふたりは歌のパートナー以上の関係なのかも」という憶測を呼ぶことになり、更には「ローズ+リリー・レスビアン疑惑」へと発展していくことになる。
さて、私自身が政子の食事の量の凄さを認識したのは、それより1年前、高校1年の時に書道部で行ったキャンプの少し後であった。
このキャンプで私は女子部員たちにうまく乗せられて女装させられたのだが、その時、政子が上着からスカートから下着まで自分のを貸してくれた。そして翌日、2007年8月4日、私と政子は初めての共同作品『あの夏の日』という曲を作ったのだが、その時政子は私の愛用のボールペンを借りて詩を書き、「これ使いやすい!頂戴!今、冬子ちゃんが着ている服と交換に」と言った。
このボールペンは買った時に麻央から「これはきっと誰かにあげることになる」
と予言されていたので、私は政子ならと思い快諾した。しかし、着ている服を全部あげると言われても、さすがに下着は自分が着たものを男の子に着られるのは政子も嫌ではなかろうかと思い、(絵里花に頼んで)洗濯した上で月曜日(8月6日)に補習で学校に出て行った時に返した。
その翌々日、昼休みに図書館に行こうとした私は校舎から図書館棟につながる渡り廊下のところで偶然政子に会った。その時、政子は手摺りに手を掛けて遠くを見ている様子だったが、彼女の髪とスカートが風になびいて、美しいと私は思った。(この印象を書いたのが『渡り廊下の君』)
私が声を掛けると政子は私の方を振り返り、優しいまなざしを送ってきた。私はドキっとした。今思えば、政子にときめきを感じたのはそれが最初だったのかも知れない。
「あのさ、唐本君。私、この学校で可愛い女の子がいないか探してるって言ってたでしょ」
と政子は言った。
「うん」
「私、見つけちゃった。私好みの可愛い子」
「へー。それは良かったね。彼女ともうまく行くといいね」
「うん。うまく行きそうな気がする」
政子はそれ以降、度々その「可愛い子」のことを私に話してくれていたが、その「可愛い子」が自分のことだと気付いたのは1年以上先のことであった。
その時は私たちはそのままおしゃべりをしながら図書館の建物の中に入っていった。
「あ、そうそう。これあげる」
と言って政子は紙袋を渡す。
「ん?」
「こないだ下着を返してくれたでしょ? 私が着た下着じゃやはり気になるかなと思って、新品を用意した」
「いや、中田さんが着たのをボク自身は身につけるの気にならないけど、中田さんが自分が着た下着を男の子に着られるのを気にしないかなと思って」
「あ、私そういうの割と平気かも。特に唐本君は男の子じゃないみたいだし」
「男じゃないというと・・・」
「実は女の子なんでしょ? 取り敢えずこれあげるね」
「あげるね、と言われてもボク別に女の子の服は着ないし」
「えぇ?着ようよ。あんなに女の子の服が似合うんだから着ないともったいないって。こないだのスカートは膝下だったけど、唐本君って、もっと短いのも似合いそうで。だから、このスカートもあげるね」
「ちょっと、ちょっと」
「今すぐ着せてみたいなあ。ねえ、今日は補習の後用事ある?」
「ごめーん。夕方バイトが入ってる」
「じゃ仕方無いなあ。バイトはいつしてるの?」
「水曜の夕方と、土日」
「へー。勉強も忙しいのに頑張るなあ。じゃ月曜にちょっと会わない?」
「うん、いいけど」
「よし。じゃ、この服は月曜日に渡すことにしよう」
「えーっと」
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