広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■夏の日の想い出・食の伝説(4)

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などと言って別れたのだが、家に戻ってからしっかり政子から追求される。
 
「ね、ね、さっきの彼女、冬がスカート穿いてるの見ても何も言わなかったね」
「あっと・・・気付かなかっただけじゃないの?」
「男の子がスカート穿いてるのに気付かない訳が無い。それで気付かないということは、あの子は冬がスカートを穿いてる所を何度も見てふつうに感じているということになる」
「なんか鋭い推理だね。シャーロック・ホームズみたい」
 
「やはり冬って以前から女装してたのね?」
「そんなことないけどなあ」
「そうでなきゃ彼女の反応は説明できないもん。さあ、正直に白状しなさい」
 
などとやっている最中に伯母さんがやってきたので、その日の追求はそこで中断した。
 
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なお、この時、小風は政子に会ったことを覚えていて私たちがローズ+リリーでデビューした時に「前見た時もふたりは良い雰囲気だったもんね」などと言ったが、政子の方は小風のことをきれいさっぱり忘れていた。そして小風はマリの食欲が物凄いことをごく初期の内から知るひとりとなった。
 

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政子の食の伝説でやはりいちばん凄かったのが、あの時であった。
 
それは大学3年生の春。ダイアリーで確認すると3月23日(金)である。直前に私は政子を誘って九州に仕事で行き、阿蘇と都城を訪れた。11日の早朝に「結婚式」の夢を見たのだが、この九州行きで、政子は阿蘇で人前で歌った。政子が「仕事で」人前で歌ったのは、実に高校2年の時以来1183日ぶりだったのだが、ここで私と政子が歌ったことは阿蘇の地元自治体広報の片隅に小さく書かれただけである。更に政子は17日には鬼怒川温泉のイベントでも歌った。
 
マリをステージに復帰させる機運が到来していると判断した町添部長は氷川さんの「最初の仕事」として、マリの説得工作をさせることにした。
 
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その日私はスターキッズのアルバム制作でスタジオに行っていたのだが夕方早引きさせてもらって、銀座で氷川さん・政子と待ち合わせた。
 
「今日は冬が御飯作ってってくれなかったからお昼抜いちゃったよ」と政子。
「ごめん、ごめん。でも今からしゃぶしゃぶだよ」
「お腹が空いて動けなかったけど、それを聞いて何とか頑張って出てきた」
 
「ケイさん、マリさん、どのくらい食べますか? 単品で取った方がいいのか、コースにした方がいいのか」と氷川さんが尋ねる。
 
「食べ放題にしてください」と私は言った。
「その方がいいです?」
「マリを連れていく以上食べ放題でないと安心できません」
「へー、そんなに食べるんだ? 若いもんねぇ」
と氷川さんはその時点ではそんな感じで言っていた。
 
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食べ放題を指定して女性3人分3万6千円を氷川さんが払い、部屋に案内される。
 
その日は『天使に逢えたら』が物凄い数売れているということでそのお祝いという名目だったので、レコーディングの時の苦労話、その後、ローズ+リリーのファンとAYAのファンとの間で緊張した空気が漂ったことなどを話し、合わせて昨年秋に発売した2枚のローズ+リリーのシングルの話や、発売したばかりのアルバム『Month before Rose+Lily』の話題なども出る。
 
そんな話で盛り上がっていた時、ふと氷川さんは政子の隣に積み上げられた皿の枚数に気がついた。氷川さんも入社したて(正確には4月1日入社だから実はまだ入社前)で、こういう重要な役を任せられて緊張していて、政子が食べる量まで気が回っていなかったのであろう。
 
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「あれ、もうお皿が5枚。ケイさん、けっこう食べるんですね」
「あ、私は大して食べてないです。マリが私の10倍くらいのペースで食べてますから」
「えー!?」
 
と言って氷川さんが政子を見ると、政子は皿の牛肉を取ってはしゃぶしゃぶのドーナツ型の鍋にさっさっと通しては、タレに付けて美味しそうに食べている。政子もけっこう会話はしているのだが、その会話で食べる作業が中断しないのである。
 
「ほんとだ。マリさんのペースが凄い」
「氷川さん、この牛肉凄く美味しいです。こんなの食べれて幸せ〜。町添さんにも御礼言っててくださいね」
「あ、うん」
 
と言いながら氷川さんは一瞬自分の仕事を忘れてしまったかのようであった。
 
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更に最近の音楽シーンのこととかを話すが、氷川さんは話ながらずっと政子の箸の動きを目で追って信じられないものを見ているかのようであった。
 
「でもマリさん、身体はスリムですよね」と氷川さん。
「あ、私より体重軽いです」と私。
「私食べた分消費してるみたい」と政子。
 
「マリは詩を書くのに物凄くカロリーを消費するんです。『蒼い呼び声』の詩をマリが書いたとき、偶然にもその前後で体重を量ったんですが、2時間ほど掛けてあの詩を書いた時、体重が1.5kg減ってました」
「きゃー!」
 
「あの手の深い所から出てくる詩を書く時って、脳がマラソンしてる感じなんだよねー。『ギリギリ学園生活』みたいなのは、ジョギング感覚なんだけど」
 
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「じゃ、マリさんがたくさん食べるのは、スポーツ選手がたくさん食べるのと同じようなものなんですね」
「そうです、そうです」
 
そんな話をしている内にしゃぶしゃぶの空き皿は既に10枚になっていた。
 
私がちょっと中座してトイレに行った時、店の支配人さんから声を掛けられた。
 
「あの、大変失礼ですが、お客様方はふだんどのくらい食べられてますでしょうか?」
「はい?」
「あ、いえ。時間帯が遅いもので、場合によってはお肉の仕込みの量を勘案しなければと思いまして」
 
「ああ」
と言って私は微笑んだ。私たちはファンにあまり見とがめられないようにと遅い時間帯に行ったのだが、遅い時間帯ゆえに、在庫調整が難しいのだろう。
 
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「以前別のしゃぶしゃぶ屋さんに行った時、男性の友人も一緒ではありましたけど、30皿行きましたよ」
「30!」
と言ったっきり、支配人は絶句したが
「分かりました。しっかりご用意致しますので、安心してお召し上がり下さい」
「はい、ありがとう」
と言って私は微笑んで席に戻る。後ろの方で「取り敢えず2kg解凍して」とか「新宿店に付け合わせの野菜の余裕がないか問い合わせて」なんて声が聞こえた。
 

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そしてしゃぶしゃぶの皿が20皿を越えた所で氷川さんは用件を切り出した。町添さんから「充分マリちゃんが満腹してから話題を出さないと失敗する」と言われていたらしい。さすがにこのくらい食べたらもうお腹一杯だろうと氷川さんも思ったのだろう。
 
「そうそう。今度★★レコード創立20周年で1年間に7回全国でシークレット・ライブをやるんだけどね。沖縄でやるシークレット・ライブで、マリちゃんとケイちゃん、歌ってくれないかなあ」
 
私はその話題を出すにはまだ少し早いかもという気はしたのだが幸いにも政子は
「へー、沖縄か」
などと言っている。かなり上機嫌だ。食べる量としてはまだ腹五〜六分くらいではないかと思ったが、美味しい牛肉だったので満足度が高かったのだろう。
 
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「宿泊はラグナガーデン全日空ホテル。外の景色が見えるシャワールーム付きのスイートルーム。ホテルにはプールやフィットネスもあるよ。たぶん御飯も美味しいよ」
 
と氷川さんが言うと、その「御飯も美味しい」という所で政子がピクっと反応した。
 
「あ、そこって以前泊まった所だっけ?」と政子。
「うんうん。1年半前に麻美さんのお見舞に行った時に泊まった所だね」
と私はまるで今初めてこの話を聞いたかのように言う。そして私は更に
 
「でも沖縄なら、今回、麻美さんを招待してライブを見せられるといいね。氷川さん、そういうのいいですよね? 私たちのファンで難病と闘っている子なんですけど」
と今思いついたかのように言う。
 
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「ああ、いいですよ。そのくらいの席の都合は付けます」
と氷川さんも、そういう話を今聞いたみたいに言う。
 
すると政子は頷くようにして
「そうか。麻美さん少し元気になってるって言ってたね。いいよ。歌うよ」
と政子は言った。
 

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氷川さんがホッとしたような顔をした。説得できなかったらどうしようと半分背水の陣の気分で今日の「工作」をしていた感じだったので、一気に肩の力が抜けたというところであろう。
 
「でも私たちだけじゃもったいないね。伴奏はさ、ローズクォーツとスターキッズと両方連れていけないかなあ」
「ああ、いいんじゃない」
「バンド2つ連れて行って、前半・後半とかで分けます?」
「両方の合体がいいなあ」
「へー、合体?」
「ギター2本、ベース2本、ドラムス2つ、・・・」
 
「ドラムス2つは無茶だよ。でもまあその辺りは調整するよ。特にスターキッズには器用な人が多いから」
「コーラスとかもさ、春奈ちゃんとかにお願いできないかな」
 
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「あ、スリファーズはアサインできると思います」と氷川さんは言った。実はもしマリの説得に失敗した場合は、この沖縄でのシークレットライブはスリファーズにさせることになっていたのである。
 
そんな細かい話や、演出面で「こんなのがあったらいいな」と政子は色々話す。美味しい牛肉をたくさん食べられて、幸せな気分になってるので、そんな話もどんどん出てくるようである。
 
そしてふと気付くと皿の数は28枚になっていた。
 
「じゃ頑張ってライブやろうかな」と政子。
「うんうん。キスしてあげるから」
「今して」
「OK」
と言って唇にキスする。氷川さんは微笑ましくそれを見ていた。政子が次の言葉を発するまでは。
 
「よし。じゃ氷川さん、私歌いますから、この後、今度は焼肉に行きましょう」
 
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と政子は言った。
 
「へ?」
と氷川さんは何か信じられない言葉を聞いたような顔をした。
 
「えっと。今度って来週とかですか?」
「え?今からですよ。あ、でもこの牛肉美味しいから、あと2皿くらいたべていいかな」
 
「うん、お代わり頼むといいよ」
と私は優しく言った。
「済みませーん」
と言って政子がウェイターを呼ぶと、心なしかウェイターの顔が引きつっているかのようであった。
 

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結局政子は空の皿を30枚積み上げて、しゃぶしゃぶ屋さんを出た。
 
「あのぉ、焼肉ってどのくらい食べますか?」
「食べ放題がいいよね?」と私。
「うん、それがいい」と政子。
 
「ごめんなさい。私食べるのに付き合うだけのお腹の余裕が無い」と氷川さん。「あ、お金足りません?」と政子。
「いや、お金は大丈夫だけど」
「誰か代わりに食べる係、呼び出します?」と私は言った。
 
「相談します!」
と言って氷川さんが会社に電話を入れると、北川さんが来てくれるということだった。
 
「私も誰かに手伝ってもらおう」
と言って私は少し考えて宝珠さんに電話を入れた。
 
「食べる係?じゃ嶺児を行かせようか?」
「あ、男性がいる前では、この子、本音の食事ができないので」
「分かった。じゃ私が行く」
「済みません」
 
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そういう訳で、駆けつけてくれた北川さん・宝珠さんと5人で、私たちは郊外の24時間営業の焼肉屋さんに行ったのであった。
 
一応5人で入ったので、女性5人分、1万円を払う。そして私と氷川さんは飲み物だけ飲んで、政子と北川さん・宝珠さんが食べるのを眺めていた。政子は美味しいものがたくさん食べられてとても上機嫌で饒舌だった。そしてその後2時間ほどで、焼肉を1人で多分1kgくらい食べた。宝珠さんと北川さんも最後の方はもう箸を停めて、ひたすら政子の話の聞き役に徹していた。
 
私はさすがに政子の胃袋を解剖してみたい気分になった。解剖して飛び出してきた内容物で押し潰されてしまうかも知れないけど!
 
 
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