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■夏の日の想い出・食の伝説(2)

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その週の金曜日、私は和泉から呼び出され、「歌う摩天楼」というテレビ番組のリハーサル歌手をすることになる。その第一回の仕事が12日(日)にあり、私は4000円もバイト代をもらってしまった。お小遣いの残りと合わせて6000円近く。財布の中にこんなに入っているとちょっと嬉しい気分だ。またお仕事でオーケストラをバックにステージで歌うこと自体が快絶に気持ち良かったし、お仕事の間は高校の女子制服を身につけているのも凄く気分が良かった。
 
そこで月曜日の午前中、政子と待ち合わせ場所まで行った時はかなり心が昂揚していた。(補習はお盆休みに入っている)
 
「出てきたってことは、女の子の服を着てもいいということだよね?」
「えー?やはり着るの〜?」
「当然。さあ、行こう、行こう。私カメラも持って来ちゃった」
「ちょっと〜。でもどこに行くのさ?」
「カラオケ屋さん」
「なるほど!」
 
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カラオケ屋さんで部屋を3時間借りることにする。政子が会員証を持っていたので、それを提示して部屋の希望を聞かれ、政子は鏡のある部屋は無いかと訊いた。
 
「ございますが、さきほど前のお客様が出られたばかりでして、お掃除する間、少しお待ち頂けましたらご案内できますが」
「あ、じゃ待ちます」
 
ということで少し待つことにする。
 
その時、私はカウンターの所に「高校生以下の男女おふたりだけでの利用はお断りします」という張り紙があるのに気付く。
 
「あれ?高校生の男女での利用は不可なんですか?」
と私が言うと、係の人は
「はい。しばしばお部屋の中で変なことをするカップルがいるので、お友だちを入れて3人以上で来てくださいということにしています」
 
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と言った上で、私たちの伝票をプリントして渡してくれた。伝票の先頭の所を見ると人数の所はM0F2 とプリントされていた。政子もそのMとFの数字に気付いたようでニヤニヤしていた。
 

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やがてお部屋に通される。
 
「フロントの人、唐本君のこと女の子だと思ったみたいね」
「うん。おかげで助かったけど、ボク女の子に見えるのかなあ?」
 
その日、私はパステルカラーのカットソーに黒い七分丈のジーンズを穿いてした。
 
「今日着てる服、どう見ても女物なんですけど」
「ああ、お姉ちゃんにもらったんだよ。ボクの普段着って、お姉ちゃんからもらったものが多い」
「ふーん。スカートとかももらってるの?」
「さすがにスカートはもらわないけど」
「隠さなくてもいいのに。まあ、とりあえずこのスカート穿いてもらおうか」
「はいはい」
 
私はズボンを脱ぐと政子から渡されたスカートを穿いた。
 
「あ、ちゃんと足の毛は剃ってるね」
「うん、まあ」
 
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「でもスカート姿に本当に違和感が無い。やはり普段穿いてるでしょ?」
「そんなの穿いてないけどなあ」
 
などと言いつつ、私は前日午前中はハンバーガーショップでショップの女子用制服、午後からは放送局で高校の女子制服を着ていたことを思い起こしていた。
 
「でも、中田さんの服、ボクにウェストぴったりみたい」
「ああ。同じサイズで行けそうってこないだも思ったんだよね」
「うん、全然きつくなかった」
 
「そうそう。今日は女の子同士だからさ、お互い苗字じゃなくて名前で呼び合おうよ。呼び捨てでいいよ」
「そう? じゃ、そうしようかな、政子」
「私も『冬』って呼び捨てにしよ」
 
私たちは何となくそれで握手をした。
 
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「さあ、下着も着けてみよう」
「うん」
 
私はスカートの中に手を入れてトランクスを脱ぎ、代わりに政子から渡されたショーツを穿いた。
 
「うん。やはり女の子パンツ穿いただけで冬の雰囲気が変わる。面白い」
「そ、そう?」
 
確かに自分でも男物のパンツを穿いてる時と女の子パンツを穿いてる時では意識が変わってしまうのを感じていた。
 
「ブラも付けようね」
「はいはい」
 
私は上に着ていたカットソーを脱ぎ、その下に着ているグレイのTシャツを脱ぐと、政子から渡されたブラを付ける。
 
「これフロントホックだから自分で留められるよね?」
「あ、うん」
 
と言って私は政子に背中を見せた状態でブラの肩紐を通し、フロントホックを留めた。カラオケ屋さんの部屋は薄暗いから、多分ブラ跡には気付かれないだろうと思った。しかし。
 
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「ふーん。すんなり留めたね?」
「え?」
「だってフロントホックブラを見たことない人が何も迷わずにホックを留められるとは思えない。フロントホックの留め方って直感的じゃないもん」
 
「えーっと・・・・」
「やはり、普段ブラ付けてるでしょう?」
「そんなのこないだ付けたのが初めてだよぉ」
「じゃ、その後一週間研究したとか?」
「まさか!」
 
その時、政子はいきなり私のスカートの中に手を突っ込んできた。
 
「ちょっと、ちょっと」
「やはり、おちんちん無い。手術済みなの?」
「隠してるだけだよぉ」
「なぜ隠す必要がある?」
「えっと、女の子の服を着せられるという話だったから、そしたらお股の所に盛り上がりができたら変だから隠しておいた」
 
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実際今日穿かされたスカートはタイトっぽいので、お股の所を何も処理していなかったら、その線が出てしまっていた所だった。
 
「ふーん。女の子の格好する気、満満だったということか」
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「まあ、いいや。キャミも着てね」
「うん」
 
私は政子から渡されたキャミソールを着た上で、自分のカットソーを着た。
 
「完璧な女子高生だなあ」
「そうかな」
「鏡を見てごらんよ」
「うん」
 
私は自分の姿を部屋の大きな鏡に映してみた。膝上のスカートがとても可愛い感じ。ああ、いいなあ、この雰囲気と我ながら思ってしまう。
 
「凄く可愛くなるよね。あ、記念写真、記念写真」
 
と言って政子は短いスカートを穿いて微笑む私の姿を何枚も撮影していた。
 
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その後、私たちはせっかくカラオケ屋さんに来たからというので、たくさん歌を歌った。
 
「冬って歌が巧いなあ」
「楽に歌ってるだけだよ。政子も楽しそうに歌ってる」
「下手だけどね」
「歌の上手い下手ってあまり関係無いよ。歌って楽しければいいんだよ」
「そうかも知れないなあ」
 
私たちは大塚愛、宇多田ヒカル、平原綾香などの曲を歌っていった。
 
「冬、よくそんな高音が出るなあ。高い所の声は少し中性っぽくなるね」
「うん、まあね」
 
この時期私は政子の前ではまだ女声を使っていなかったので、その日は男声で歌っていたのだが、それでもテノールの高い声はどうしても中性的な声になる。(私の中性ボイスはそもそもテノールボイスを、低い倍音が響かないように気をつけて発声したものである)
 
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「もう少し頑張って練習すれば女の子みたいな声になると思うよ。そしたら声バレせずに女の子で通せるよ」
「いや、別にボク女の子で通すつもりないし」
「まあ、女の子の格好してて男声で話すのも、最近そういう人多いから構わないかも知れないけどね」
「いや、別に女の子の格好して出歩くつもりないし」
 
「うーん。。。。。ね、私の目を見て」
「ん?」
「嘘ついてるだろ? 冬本当はいつも女の子の格好で出歩いてるだろ?」
「そんなのしてないって」
「こら、目を逸らすな」
「えっと」
「怪しいなあ」
 
と言って、政子はカラオケ屋さんのお料理メニューを見た。
 
「たくさん歌ったから、お腹空いた。何か食べようよ」
「あ、うん」
 
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「私ラーメンにしようかなあ」
「あ、私もそれにしようかな」
 
それで政子は部屋の電話を取ってフロントに連絡する。
 
「あ、済みません。ラーメン取り敢えず4杯」
 
と政子は言った。
 
「4杯!?」
「だってお腹空いたよ」
「私、2杯も入らないよ」
「あ、大丈夫、私3杯くらい軽く入るから」
「へー!」
 

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それからしばらくして持って来てもらったラーメンを政子はあっという間に1杯たいらげてしまった。お互いに相手が歌っている間に食べるのだが、政子の食べるペースは物凄く、私がまだ1杯食べ終わる前に3杯完食してしまった。
 
「凄いね」
「そう? あ、男の子がいる所では少し控えてるから」
「あ、えっと・・・・ボク男の子だけど」
「嘘嘘。冬は女の子だよ。可愛い女の子」
 
と言って政子はまた電話を取ると
 
「済みません。ラーメン追加で3杯と、フライドポテト、牛肉のアスパラ巻。あ、はい。あ、そうですそうです。アスパラの牛肉巻だった。牛肉にアスパラを巻くのは大変そう」
 
と言って電話を切る。
 
「ボクは、もうこのラーメンだけでお腹いっぱいだけど」
「大丈夫だよ。このくらい軽く入るから」
「あはは」
 
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その後も私たちは歌い続けたが、私は自分の歌よりも政子が歌の合間に食べる食事の量にあっけにとられていた。それでもフライドポテト少々とアスパラの牛肉巻きを1本政子に勧められて食べる。
 
「もうダメ。お腹いっぱい。ラーメン残しちゃおうかな」
「え?残すの。もったいない。私、もらっていい?」
「いいけど」
「じゃ、もらうね。わーい」
 
と言って政子は嬉しそうに私が半分ほど残したラーメンをスープまできれいに食べてしまう。ちなみに追加オーダーしたラーメン3杯は既に無くなっている。
 
「ところでここのお勘定、割り勘でいいかな?」と政子は言った。
「うん。いいよ。それで」と私は笑いながら答えた。
 
それでラーメン7杯の他、料理数点で部屋代と合わせて合計8600円を割り勘して4300円ずつ払った。あはは、昨日のバイト代が財布に入ってて良かった。
 
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カラオケ屋さんを出た後、私たちは少し都道7号線に沿って散歩した。私はズボンに着替えようとしたのだが「いいじゃん、いいじゃん」と言われてスカートのままである。
 
「でもたくさん歌って満足」
と政子は言っていた。
「政子って歌うのは好きみたい」
「うん。下手なのは自覚してるけど歌うこと自体は好きだよ」
「ふーん。それなら練習してれば上手くなるよ」
「そうかなあ」
 
「政子って音の高さ自体は正しく認識してるでしょ。ボクとユニゾンで歌っていて、長く伸ばす音は出だしのピッチが間違っていても、ボクの音を聴いたらすぐに正しい音程に修正してるもん。このタイプの人は練習ですごく上達するんだよ」
 
「ほんと? 私、小学校の時に『君は歌わなくていい』なんて言われたくらい音痴だったから、なんかコンプレックスがあるんだよね」
 
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「ひどいね。そんな言い方って。当たった先生が悪くて特定の教科苦手になる子って多いからなあ。音程を聞き分けきれない人は難しいけど、政子の場合、音はちゃんと分かるから、たくさん練習してれば、メロディー付きの伴奏聞きながらなら正しい音で歌えるようになるよ」
 
「そっかー。少し練習してみようかなあ」
「うん、やってみようよ」
 
そんな感じで話しながら歩いていたら「激安!ラーメン250円」という看板が目に飛び込んできた。
 
「わあ、ラーメン250円だって安いね」
「安いけど、ラーメンさっきたくさん食べたばかりだよ」
「いや、まだ食べ足りない気がしてたんだけど、時間になったから出たんだよね」
「えー!?」
「冬、付き合ってよ」
「いいけど、ボクはもう入らないよ」
「うん。私が食べるから冬は見てて」
「それならいいけど」
 
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ということで私たちはそのラーメン屋さんに入った。政子は見てるだけでいいとは言ったものの、実際に何も注文しない訳にはいかないので、取り敢えずラーメン1杯ずつ注文する。でも実際には私は箸を付けず、ただ政子が食べるのを見ながら、おしゃべりしていた。
 
しかしおしゃべりしながらふと思った。同じように女の子と会話する時に、奈緒や若葉、和泉や詩津紅などと会話する時は、ジャニーズなどの芸能人の話とか、友人の噂話、ファッションやアクセサリーの話など、いわゆるガールズトークが多い。ところが政子と話していると、たとえば宇宙の構造だとか歴史上の人物の話、植物や動物の生態、ギリシャ哲学の話など、抽象的な話がやたらと多い。どうも政子は「俗世間」のことにあまり興味が無い感じである。自分で友だちがいないなどと言っているが、こういう方向に興味が向いているのであれば、確かにふつうの女の子とは話が合わないのではないかという気がした。
 
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夏の日の想い出・食の伝説(2)

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