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■夏の日の想い出・混乱と暴走(8)
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この件に関しても青葉は
「この件に付いては申し訳ありませんがお話できません」
と言っていた。
「ただですね」
と青葉は言った。
「千里姉が代表落ちした件と、今回の発光現象は絡んでいるんです」
「どういうこと」
「姉は・・・あの事故に巻き込まれたんですよ」
と青葉は物凄く厳しい顔をして言った。
「あれで怪我したの!?」
と私は訊いた。
「実は死んだんです」
「え!?」
「クロガーと相討ちしたようなものです」
「・・・・・」
「でも姉は蘇生しました。ただその時、色々なものが壊れてしまったみたいで」
と言う青葉の表情はむしろ悲しそうであった。
「姉はたぶん体力回復に数年かかります」
数年・・・。それではもうスポーツ選手としての旬が終わってしまうのではと私は思った。
「作曲能力や演奏能力もかなり落ちると思います」
と青葉は更に続ける。
そんなぁ・・・・・。
私は彼女を最高のライバルと思っていたのに。
しかし今年千里は落雷に遭うわ、こういう事故に巻き込まれるわ、厄年ではないかという感じだ。
「でクロガーは?」
「一瞬にして蒸発しました・・・って私最初に言いませんでしたっけ?」
どうも青葉もかなり混乱しているようである。
「聞いてない。千里が倒したの?」
「千里姉と羽衣さんの2人がかりで何とか倒しました」
「羽衣?」
「私の師匠、瞬嶽が亡くなった後、日本の霊能者のトップに立っているのが、この羽衣さんと虚空さんなんです。今回の戦いでは、羽衣さんも結構なダメージをくらいましたが、2〜3ヶ月で回復しそうだと言っておられました。虚空さんは私も直接は知りません。謎の多い人です」
「うーん・・・」
「今回は霊能者側の被害も甚大です」
と青葉は言った。
「山川春玄さんは重傷。多分回復に2-3年かかります。完全には回復しないかも知れません。千里姉もそれに近い状態です。私の姉弟子の山園菊枝も重傷。こちらは多分半年くらいの入院で済みそうです。***さんは前頭葉をほぼ破壊されています。生命体としては生きていますが一生介護が必要です。****さんは死亡しました」
「それ全部クロガーにやられたの?」
「千里姉と羽衣さんがいなかったら、日本の主な霊能者が全滅していたかも」
と言って青葉はため息をついた。
青葉とそんな話をした数日後のこと。その千里からまた電話があった。
「冬に頼まれていたアルバムの曲なんだけど」
「え?何か?」
千里は3曲書いてくれることになっていた。しかし3曲とも5月中にもらっている。こちらでは様々な楽器を組み込むアレンジを進めている所だ。
「2曲までは書いて5月に送ったけど、もう1曲がなかなか思いつかなくて」
「なんか体調崩しているんだって。あまり無理しないで、療養していた方がいいと思うよ」
千里にはできるだけ早く復活して欲しい。そのためには無理はして欲しくない。
「それで、このままでは冬が困ると思ってさ。同じ雨宮グループの作曲家さんで、まだ自分の名前では曲を書いていない人で、琴沢幸穂(ことさわ・さちほ)ちゃんって人がいてね」
「うん」
「この子の試作品を見たんだけど、かなりいい出来なんだよ」
「へー」
「良かったら、私の作品の代わりに彼女の作品を使ってもらえないかと思って。とりあえず譜面とCubaseのデータ、そちらに送っていい?」
「うん。それは聴いてみてから」
すると千里はすぐに譜面とCubaseのデータをメールしてきてくれた。
それで聴いてみたが、ひじょうに素敵な作品である。
タイトルは『フック船長』。ピーターパンに出てくる海賊の船長を題材にした曲だが、若い作者さんだろうか。色々意欲的な作りがなされている。私はこの作品を使いたいと思った。
しかし千里が書いていてくれたはずの『縁台と打ち水』も今回の『郷愁』というタイトルにふさわしい作品で、しかも40-50代の人にアピールする作品なので、そちらも使いたい。それで私は千里に電話した。
「これ素敵な作品だね。ぜひ使わせて。この人の作品利用の許諾はどうすればいいの?」
「JASRACに琴沢幸穂で登録しているから通常通りに。JASRACの登録番号もその譜面に書いていたと思うけど」
「わっ。書いてあった。ありがとう。じゃそれで処理する。ところでさ」
「うん」
「千里からは私風の作品2つと、もうひとつ醍醐春海名義の『縁台と打ち水』という作品ももらっているんだけど、こちらも使っていいんだっけ?」
「あれぇ?そんな作品書いてたっけ?」
「うん」
「ごめーん。最近私、物忘れが酷いんだよ。でも私が送った作品で気に入ったのあったら、自由に使って」
「うん。じゃ使わせてもらうね。でもほんと千里、身体大事にね」
「ありがとう」
そういう訳で、既に青葉と七星さんからも各々名義の曲を1曲ずつもらっているので、アルバム用の曲は13曲も揃ってしまったのである!私は忙しいのを承知で町添専務に電話をして、アルバムの曲数の問題について打診した。
「ごめんね。サポートしてあげられなくて。どうも意図的にそういう会議から排除されている感じで」
「そちらも大変ですね」
「でも安心して。そのアルバムの曲数については、僕がしっかり話を社長に通しておくから。だからケイちゃんは、好きな曲数でアルバムを制作して」
「分かりました。曲数に変動があったら逐次、専務にお伝えします」
「うん。そちらも大変だと思うけど、よろしくね」
「はい。専務もお身体に気をつけてください」
7月上旬、アクアの水着写真集《Double Green Sea》が発売された。プーケットの青緑色の海を背景に、男の子“佐斗志”の水着姿と、女の子“友利恵”の水着姿がひとつの写真集になっている。分量的には佐斗志が60ページ、友利恵が80ページくらいで、“遷移部”が10ページほどある。
“遷移部”には女子水着を着せられて心細そうな佐斗志や、男子水着を着て手ブラしている友利恵が写っている。佐斗志と友利恵が手を繋いでいる写真も前から撮ったものと後ろから撮ったものがある。
佐斗志の写真では、多くの写真がラッシュガードやTシャツを着て、上半身も何かの服で覆っているが、上半身を裸で曝しているものも5枚だけ混じっていた。それでアクアには、おっぱいが無いことが確認できる。
こういう写真を敢えて入れたのは、アクアが実は女性ホルモンを飲んで声変わりを防止すると共に、おっぱいも大きくしているのではという疑惑がずっとくすぶっているので、それを否定しておきたかったことによる。
それで実際巷では
「あぁ、やっぱりアクア様、おっぱいは無いのかぁ」
というため息のような残念がる声が、主として女性ファンから!出ていた。
「でもちんちんの形も確認できない」
「やはり去勢疑惑はあるよなあ」
しかし写真集を買った人が熱狂したのは、後半の友利恵の水着写真の方である。
多くの写真はワンピース水着を着けており、スクール水着っぽいものもある。このスクール水着っぽいものが、一部のファンを狂乱させていた。しかしそれより多くの人にインパクトを与えたのが、ビキニの水着を着けた10枚の写真である。
「アクアを俺の嫁にしたい!!」
「今すぐアクアと結婚したい!」
という暴走する書き込みが大量発生しているのはいつものことである。
私はこの写真集を見て道を誤る若い男性が随分出るのではと心配した。
「これ、絶対男の子の身体じゃない!」
という書き込みがわりと冷静なファンからも出る。
「このボディラインは完璧に女の子のライン」
「その証拠に見た瞬間立った」
「まさか首から下は別の女の子モデルの身体だとか?」
「それはさすがにないだろう」
「そういう合成は不自然になるよ。そういう不自然さは無い」
「拡大してみたけどつなぎ合わせたような跡は見られない」
そのうちこういう投稿がある。
「身体のラインを佐斗志の写真と重ねてみたけど完全に重なっている。だから佐斗志の写真と同一人物であることは確か」
こういうテストまでしてみた人が実際、複数あったようである。それでともかくもアクア本人の写真であることが確定した。
「佐斗志の写真撮ったあとで豊胸手術したとか」
「まさか」
「アクアは女になるつもりはないはず」
「うん。アクアは単に女装するのが好きなだけであって、男をやめる気は毛頭無い」
とけっこうアクアを理解した(?)書き込みがある。
「でもそれなら、このおっぱいはどうなっているんだぁ!」
「『時のどこかで』で使っていたブレストフォームだろ?たぶんあれはアクアの肌の色に合わせて作ったオーダーメイドだろうから、それを装着して撮影したんだと思う」
「そうか、あれか!」
あのブレストフォームの制作費は10万円以上したことが、『時のどこかで』の制作チームのサイトで明かされている。
ともかくもこの写真集はこのあと1ヶ月間にわたって書籍の売上げ統計のトップを占め続け、その後、週間ランキングでは1位から陥落したもののランクインを続け、2017年内に100万部を突破してしまったのである。
歴代のアイドル写真集の売上統計で、宮沢りえのSanta Fe(150万部)に次ぐ売上成績であり、ヌード以外の写真集としては、広末涼子のH+R(50万部)を抜いて、歴代1位となった。
そしてこの写真集は、アクアに必ずしも注目していなかった30-40代の男女に大きくアクアというタレントを印象付けたのである。
もっとも30-40代の購入者の中には、男女双子のタレントの写真集と思い込んだ人もあったようである!
「まあそういう訳で私がアクアの新しいマネージャーになったから、よろしくね」
と言って《アクア専任チーフマネージャー・四谷勾美》という名刺を渡した人物を見て、アクアは顔をしかめた。
「こうちゃんさん、何の冗談ですか?」
「いや、千里のお世話は2年ほど休みになったんだよ。だからその間、お前に付いてて色々助けてやるから」
と《こうちゃん》はすぐに男言葉になってしまった。
「ちなみにあと2人マネージャーは付くことになったから、俺に連絡が取れない時は、志穂ちゃんか、友香ちゃんを呼び出して。後日紹介するけど」
「でもどうして女装なんです?」
「だってスカート穿くの気持ちいいじゃん」
「女装趣味ですか〜?」
「いいじゃん。龍虎、お前も女装好きだろ?」
「別に僕は女装しませんよ」
「嘘つくとチンコ引き抜くぞ」
「どうせこのおちんちん偽物だし」
「だったら俺が管理してる本物のほう捨てちゃうぞ」
「それはやめて」
「やはり男に戻りたいんだ?」
「20歳になったら」
「まあいいや。とにかく鱒渕は流されやすいから充分アクアを守ってやれなかった。板挟みになってストレスを溜め込んだ。俺は簡単にはめげない。お前を守るために全力を尽くす。俺、結構弁も強いから。マジで海千山千だしさ」
と《こうちゃん》は言った。
アクアはため息を付いた。
「ちょっと自分だけでこれキープしていくのは結構大変だと思い始めていたんですよねー。こうちゃんさんに助けてもらうと、もっとうまくできそう」
とアクアは言うと、続きの部屋のドアを開けて声を掛けた。
「出ておいでよ」
それで出てきた2人を見て《こうちゃん》は驚愕した。
「お前ら誰!?」
7月14日(金)、バスケットの日本女子代表の選手が1名交代することが発表された。合宿中に怪我をした大野百合絵に代えて、先日の15人→12人に絞られた時に落とされた村山千里を追加招集することになったということであった。
私はまた千里に電話した。
「うん。びっくりした。今年の夏はゆっくり休めるかも知れないと思ったんだけどねぇ。またハードな夏になることになった。でもごめん。結果的に、そちらの音源制作に協力できない。取り敢えず平日なら林田風希さんが動けると言ってた。あと8-9月は青葉が動けるはず。アクアの制作に関わっていない時は使えると思うからたくさんこき使ってあげて。必要な交通費は私が全部出すから」
「あはは。それで青葉には頼むことにするよ。交通費はもちろんこちらの制作費から出すよ。そちら大会頑張ってね」
「うん。ちょっと優勝してくる」
「その意気、その意気」
千里たちはこの日14日から18日まで国内で合宿をした後、19日にはアジアカップが開催されるインドに旅立つということであった。
私は電話で話した千里が物凄く元気な雰囲気であったこと、そして何よりも日本代表に再招集されたということは、運動能力もかなり回復させたのではないかと考え、青葉が思っていた以上に急速に千里は体力を回復させているのだろうと思った。作曲や楽器演奏なども回復する・・・かな!?
ともかくも千里から紹介してもらった琴沢幸穂さんの作品まで入れて13曲、アルバムに入れる予定の曲が揃っているので、私は7月中旬以降、学生ミュージシャンが動けるタイミングを使って、一気に制作を進めたいと考えていた。
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