広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■寒里(8)

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青葉は花巻空港、菊枝は高松空港への便に乗るので、空港で握手をして別れる。花巻空港へは賀壽子が迎えに来てくれて、青葉は千壽子から託されたお土産を渡した。結局6日間の北海道の旅になった。
 
「あおば、しばらくどこかにいってたの?」
帰宅して翌日、早紀の家に遊びに行ったら言われた。
 
「うん。北海道に行ってきたよ」
「わあ、いいなあ。1しゅうかん?」
「ああ。6日間かな」
「どこどこ回ったの?」とお母さんから聞かれる。
 
「えっと・・・旭川と登別で1晩泊まった他はもっぱら札幌周辺に居ました」
 
「へー。親戚の家か何か? 6日なら、釧路・知床・摩周湖とかにも行けたろうし、あるいは函館に行くとか」
「そういう所は行かなかったなあ」
 
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そういえば観光的なものは全然してないなと我ながら思った。2日目に晃湖さんに案内されて、札幌の時計台を見ただけだ。
 
「早紀はどこか行った?」
「せんだいにいってマックたべてきた」
「ああ。マックもいいよね」
 
そういえば札幌にもマクドナルドの店はあったが入らなかったな、と青葉は思った。お年寄りが多いメンツだったので、和食の店とかばかりだったし、菊枝はファーストフードがあまり好きでないみたいで、菊枝と一緒に行動している間も、お蕎麦屋さんとか、天麩羅屋さんとかに入っていた。そういえば札幌のラーメンも食べてない!
 
ああ、また北海道行きたいなあ、という気分になる。
 

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今回の件の報酬について数日後、青葉は賀壽子の家に寄って聞かされて驚愕した。
 
「越智さんがね。。。報酬は500万円くらいでいいかって言って来たんだけど」
「500円じゃなくて?」
「500円はさすがにない」
「それって、500万円をみんなで山分け?」
「私と千壽子に30万円、同席していた千壽子のお友だちの2人の霊能者に各々10万円、そして菊枝さんと青葉に500万円ずつ」
「えーー!?」
「釧路の人の自動車の修理代に、私のスピード違反の反則金、それから菊枝さんと青葉の調査に掛かった費用・宿泊費・交通費とかは別途プラスね」
「ああ」
 
「まあお金持ちなんだから、もらっておけばいいんじゃない?」
「そうだねー。でも私が持ってたら、お母ちゃんにとりあげられてパチンコ代になっちゃうから、ひいばあ持っててよ」
「じゃ、お前名義の銀行口座を作って、そこに振り込んでもらうことにするよ」
「うん」
 
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青葉はその口座の管理を菊枝に頼むことにした。最初賀壽子に頼みたいと言ったら自分はそんなに長生きできないから、死んだ後荷物の中に通帳が見つかったら取り上げられてしまうから、ということでできるだけ無縁の人に頼むことにしたのである。菊枝は税務申告もこちらでやるから、交通費とか道具の購入とか経費関係が発生したら、伝票書いて送ってと言っていた。
 

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6日、7日は地元の七夕祭りであった。
 
様々な「行灯山車」や「行灯神輿」が出て、町を練り歩く。青葉も女の子の祭り衣装を着て、早紀や咲良たちと一緒に祭りに参加した。
 
「ああ、やはり川上はそっちの衣装か」
と同級生の男の子に言われるが
「当然」
と言って微笑んだ。北海道で散々男の子扱いされたし、もう坊主とか坊やとか言われるのはこりごりだ。
 
「たなばたって、おりひめとひこぼしが年に1どのデートする日なんだってね」
「うん。いちゃいちゃしてて、仕事全然しないってんで、叱られて年に1度だけ会えることになったんだって」
「かわいそう。でんわとかメールとかできないのかな」と咲良。
「うーん。天上には携帯電話は無いかも」
 
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「そんなにあえなかったら、うわ気とかしないのかな?」と早紀。
「よく浮気なんてことば知ってるね」
「お母ちゃんが見てたテレビドラマでやってた」
「ああ、やってたね。でも浮気って悲惨になるから、やめといた方がいいよ」
 
「うちのおかあちゃんがいってたよ。うわ気って、気のまよいでする人と、なんどでもする人といるんだって」と早紀。
「へー」
「うちのお父ちゃんは、うわ気したことないらしい」
「よかったね」
 
そんな生々しい?話をしながら、越智さんの浮気は「気の迷い」だったのか、あるいは「常習」なのか、どっちだろうと考えたりしていた。
 
自分の父は1ヶ月くらい帰宅していない。今日は祭りで自分も未雨も町に出ているので、母はボーイフレンドの所に行っているだろう。これも浮気なんだろうけど、いいのかな・・・・父の方は浮気はしてないのだろうか? 青葉は何か釈然としない思いで両親のことを考えていた。
 
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その父はお盆直前、8月13日に帰宅した。
「盆休みで、どこも休んでるから商売にならん」
と言っていたが、父が何の商売をしているのかは、母も知らないようだ。
 
しかし父は1万円札を5枚母に渡して「お盆の準備してくれ」と言った。父が母にお金を渡すところなんて、滅多に見られない。
「あ、うん」と言って戸惑いがちにお金を受け取った母は、それでお供え物などを買ってきて、仏檀に供えた。
 
その日は久しぶりにお肉の入った焼きそばを食べた。昔はお盆には精進料理だったらしいが、いつも精進料理状態のうちで、お盆にお肉が食卓に乗るのも面白いと青葉は思った。未雨は嬉しそうにお肉を食べていた。
 
青葉と未雨は赤い浴衣を着た。未雨は金魚の柄、青葉は未雨のお下がりの朝顔の柄の浴衣だった。
 
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「ふーん。お前、女の浴衣着るのか」と父。
「私、女の子だから」と青葉もいつもの返事をする。
 
「おい、未雨、青葉、ちょっと並べ」と言って父はふたりを並ばせ、写真を撮った。どうも今日は父は機嫌が良いようである。今回は父が帰宅してからまだ殴られていない。普通なら、父が在宅中は1日1回は殴られる。
 
夕方早紀が青葉を誘いに来たら、母が「花火代」をあげていた。早紀はこちらの家庭の経済事情を知っているので「えー?もらっていいの?」などと言ったが、母は笑って「お金のある時だけね」と言った。早紀は青い小鳥の柄の浴衣を着ていた。
 
誘われて早紀の家に行く。途中、咲良の家にも寄って誘った。咲良の家では早紀と青葉が「花火代」を頂いた。咲良は黄色い紅葉柄の浴衣を着ていた。3人の浴衣の色が赤・青・黄になるので「信号機みたい」と咲良の母にも早紀の母にも言われた。
 
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早紀の家で、用意してあった花火をして楽しむ。そのあと、家の中でスイカをもらって食べた。スイカの甘い蜜が青葉の心を優しくしてくれた。
 
猫のミーが寄ってきて身体をすりつける。いつも早紀の家に来ているので、この猫もお馴染みだ。
 
「あ、そういえばミーちゃん、おちんちんとっちゃったんだよね」と咲良。「そうそう。でもとくにこまってないみたいよ」と早紀。
「べつになくてもいいのかなあ」
「女の子はおちんちん無くても困ってないでしょ」と青葉。
「うんたしかに」
「ついてたらじゃまそう」
 
「ミーちゃんは、タマタマは小さいころにとっちゃってるしね」と早紀。
「子どものうちにタマタマをとっておけば、マーキングしたりとか、おとなのネコみたいなことしないんだって」
「へー。ミーちゃん、なきごえもかわいいし。タマタマを子どものうちにとっておくと、こえもかわいいままなのかな」と咲良。
 
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青葉はドキっとした。子供の内にタマタマを取るか・・・・それで可愛い声・・・
 
「あ、ここでタマタマとってほしそうなかおしてる子がいる」と早紀に指摘される。「うん、まあね」と青葉は図星だったので、素直に頷く。
「モンゴルとかでは、女の子になりたい男の子は、あらっぽいウマに、下ぎをつけずにのって、タマタマをつぶしたんだって」
「なんだかいたそうね」と咲良。
「馬か・・・うち、馬飼ってないしな」と青葉が言うと
「ほんとにタマタマ取りたいのね」と早紀が同情するように言った。
 

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その夜、青葉は夢を見ていた。
 
青葉は母に連れられて病院に行った。
「この子、おしっこが出にくいみたいなんですけど」
どれどれと言って、お医者さんが診察をしてくれる。お医者さんは菊枝の顔をしていた。
「ああ。おしっこの管が詰まってるんですね。おちんちんを切ればいいですよ」
「じゃ、お願いします」
 
青葉はベッドに寝せられ、麻酔の注射を打たれた。菊枝の顔をしたお医者さんがメスを使って、おちんちんを切ってしまう。
 
「これどうしますか?」
と言ってお医者さんが切ったおちんちんを持っている。
「あ、捨てていいです」
と青葉が言うと、おちんちんはゴミ箱にポイと捨てられた。
 
「はい、治療は終わったよ。おしっこ出やすくなったはずだよ」
と言われて起き上がると、お股の所にはおちんちんもタマタマも無くなり、代りに割れ目ちゃんができていた。わあ、と思って触ってみる。ちょっと不思議な感じ。
 
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「おしっこの仕方が、おちんちん付いてた時とは少し違うから、試してごらん」
と言われトイレに行く。
 
たぶん・・・この割れ目ちゃんの中に、おしっこが出てくる所があるんだよね?青葉は割れ目ちゃんを開くと、ふだん座っておしっこをしている時と似た感覚で身体の前半分の筋肉を緩める。すると、ふつうにおしっこが割れ目ちゃんの中から飛び出してきた。なーんだ。特に変わらないじゃん。
 
放出が終わった後、ペーパーでその付近を拭いている内に目が覚めた。
 
青葉は夢だったのか・・・と思い、あの付近を触ってみた。
 
付いてる。
 
ちょっと悲しくなった。
 

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8月16日。お盆の送り火を焚く。
 
炎の前で少しぼんやりしていたら、早紀に肩をトントンと叩かれた。
「どうしたの?あおばらしくない。ぼんやりして」
「私、女の子になりたい」と青葉は言った。
 
「うーん。。。あおばはいまでも女の子だとおもうよ」
「私、女の子の身体になる手術受ける」
「ああ、いいんじゃない? あおばはじゅうぶん女の子だとおもうけど、ちょっとまちがってついてるものがあるから、それをとっちゃえばいいのよ」
「うん」
と言って青葉は頷いた。
 
「女の子の身体になれたら、女湯に入るんだ」
「ふーん」
と言ってから早紀は少し考えていた。そして言った。
 
「あおば、女ゆに入ったことないの?」
「え? あ、それは・・・えへへ」
青葉は照れ笑いをした。
 
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「でもとつぜんどうしたの?」
「うん・・・2〜3日前に、夢見てて。夢の中で手術されて女の子の身体になっちゃったんだよね」
「へー」
「でも起きてみると、やっぱり、あれ付いてるの」
「ふーん。。。でもゆめで見たとおもったほうがホントで、ついてるほうがゆめだったりしてね」
「へ?」
 
「こないだ、せんだいにいったときに、いとこがいってたんだよね。むかし、そうしという人が、ゆめを見て、ゆめの中でチョウチョになってたんだって。でもおきたらにんげんだったって。それで、じぶんはにんげんでチョウになったゆめを見たのか、それともじつはじぶんはチョウでいま、にんげんになっているゆめを見ているのか、わからないとおもったって」
 
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「なんか深い話だなあ・・・・」
 
青葉はふと、天津子の連れていた虎が言ったことばを思い出した。
「夢の中で死んだら現実でも死ぬ」
 
自分が死んだら、もう夢を見ることもないだろう。でも夢の中と思っている方が本当で、この世界の方が実は夢だったら。本当の世界で死んだら、こちらが夢である以上、この現実と思っている世界からも自分の存在は消えてしまう。
 
ひょっとしたら手術されて女の子になっちゃった方が現実で、いまだに男の身体でいる「現実」と思っている方が、悪い夢なのかも知れない。
 

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数ヶ月後、菊枝から連絡が入った。
 
「例の彼女、妊娠したって」
「わあ、良かったですね。回復したんですね」
「それがさあ。相手の男は妻子持ちらしいのよ」
青葉は呆れた。
 
「なんで懲りないんですか?」
「ね?」
と言う菊枝も呆れている感じだ。
 
「でも彼氏には何も言わずにひとりで産むつもりだって」
「ああ。それがいいかもね」
「今、生活保護の方は辞退して、コンビニのパートで頑張ってるらしいよ」
「いいことだと思います」
「私、見かねて、病院代にって10万円あげたよ。ちゃんと診察受けなきゃ駄目だからね、と念を押しといた」
「わあ」
「出産前後は働けないけど、その間は実家に戻ってるって」
「頑張ってくれるといいですね」
「今度は頑張るでしょ。子供がいたら女は頑張るよ」
 
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「私も子供産んで頑張りたいなあ」
「小学1年生ではまださすがに早いよ。20歳すぎて産むといいよ」
「はい」
と電話の先の菊枝に答えて、青葉は顔を赤らめた。
 
 
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