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■寒里(6)

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入浴中は無警戒になることから、交替で入浴することになる。先に青葉が入る。男物の服を脱いで裸になると、青葉はふっと息をついた。男物の服にまるで自分が拘束されていたかのような気分だ。肉体も男の子の肉体だけど、これはまあ今は仕方が無い。
 
小学4〜5年生くらいになったら、自然とおちんちんとタマタマがポロリと身体から取れて、割れ目ちゃんができて、おっぱいも膨らんで来ないかなあ。青葉はそんなことを夢想しながら入浴した。
 
お風呂から上がり、渋々また男物の下着、男物の服を身につけて部屋に戻る。今度は交替で菊枝が入浴する。青葉は昨日と同様に気配を消して正座していた。
 
そして、例の奴がやってきた。センサーの感度を上げているので、100mくらい向こうに来たあたりで青葉は気付いた。ゆっくりと待つ。50m...30m...10m...5m...3m...そして1mくらいの距離まで来た所で青葉はオーラを戻す。さすがに相手がビクっとする。そしてどうしよう?と悩んでいる様子。そこに菊枝がお風呂から出てきた。裸のままだ。雫も落ちている。浴槽から飛び出してきたのだろう。
 
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菊枝は昨日とは別の印を結ぶと「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」と早口で光明真言を唱えた。
 
天から雷(いかづち)のような光が落ちてきて、触手に当たる。触手はそのままの状態で完全に沈黙した。そして灰でも崩れるかのように崩れて消えてしまった。
 
「終わったの?」
と青葉は恐る恐る訊いた。
 
「まだ。でも向こうの道具立ては失われた。今ので相手の居る場所も分かった。この後仕上げをする」
と菊枝は厳しい顔で言った。
 

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何か手伝えることはありませんか?と青葉が訊くと、菊枝は「青葉ちゃん、般若心経書ける?」と訊く。「書けます」と答えると、「6枚書いて」と言われた。
 
菊枝と一緒にホテル近くのコンビニに行き、半紙と筆・墨汁を調達した。それで青葉が左手で般若心経を書き出すと、菊枝は「きれいな字を書くねぇ」
と感心したように言った。
 
心経を昼間の内に書いておかなかったのは、あくまでこちらが無防備であることを装い、相手に手の内をさらけ出させるためである。
 
菊枝はお風呂がまだ途中だったから入り直すと言って浴室に戻った。
 
青葉が1枚目の般若心経を書き上げた頃、菊枝はお風呂から出てきた。すぐに服を着ずに、裸のまま青葉の目の前をうろちょろするので気が散りそうになるが、心を乱さずに筆を進めていく。しかし菊枝の均整の取れた女子高生の裸体を見るにつけ、青葉は「いいなあ」という気持ちになる。自分もこういう身体になりたい。
 
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菊枝は賀壽子・千壽子とも連絡を取っていた。函館に帰った千壽子の友人は無事だったようだが、賀壽子の方は空港から大船渡に帰る途中、鼠捕りに引っかかって、スピード違反で切符を切られたらしい。
 
「この反則金、経費に出来ないかしら?」
などと言っていたが、菊枝は
「経理上は経費として落とせないですけど、そのお金は越智さんに出させますよ」
と言って笑っていた。しかし賀壽子は
 
「私、免許取って以来49年半無事故無違反だったのに。あとちょっとで50年間無事故無違反で表彰される所だったのに。あの警官呪ってやりたいわ」
などと悔しがっていた。
「呪いは不毛ですよ。今からまた50年間、無事故・無違反を続けましょうよ」
と菊枝は言った。賀壽子が本気で呪ったら、それこそ怖い。
「そっか。頑張ってみるかなあ」
 
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青葉が般若心経を6枚書き上げたのは22時頃だった。その間菊枝はパソコンをネットにつないで何やら色々と調べているようであった。どうも越智さんともメールでやりとりをしているようだ。そして青葉が心経を書き上げたのを見て「遅いけど出かけるよ」と言う。
 
「はい」
ふたりは男装のままホテルから外出する。タクシーをつかまえて、菊枝は「○○区まで」と言った。
 
「こんな遅く、塾か何かですか?」
と運転手から話しかけられる。この時間帯に小学1年生を連れていたら不審がられるだろう。
「ええ。ちょっと遅くなってしまって。特別授業を受けてたんです」
と菊枝は男っぽい声で答えた。
「大変ですね〜。最近は幼稚園に入るための塾なんてのもあるらしいですね」
などと運転手は言っていた。
 
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○○区まで来ると、菊枝は「そこ左に」とか「あそこの角を右に」などと指示を出した。そしてあるアパートに辿り着いた。
 
タクシーを降りる。菊枝は青葉の手を取り鉄製の階段を昇る。そしていちばん奥の部屋のドアをノックした。
 
「どうぞ」という女性の声がした。菊枝は青葉に外で待っているように言い、ドアを開けて玄関に入る。その時、菊枝が超強力な霊鎧をまとい、青葉にも同じくらい強力なのを着せた。
 
菊枝は玄関口で「お話を聞かせてください」と言う。女性は覚悟していたかのように「はい」と言った。菊枝がドアを閉めて中に入る。青葉はそのまま1時間ほど待った。きっと『子供には聞かせられない話』をしてるんだろうなと思う。やがて「青葉ちゃん、ちょっと来て」と言われ、中に入る。
 
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アパートの主の35〜36歳くらいの女性は青ざめた顔をしていた。物凄い「負の気」
をまとっている。絶対に霊鎧を緩められない。緩めたら影響を受けて回復に一週間くらいかかるだろう。青葉は緊張を新たにした。
 
「子宮と卵巣の様子を見てあげて欲しいの」と菊枝から言われた。青葉は「鏡」
を起動させて、その付近の様子をしっかりと見た。
 
「卵管が詰まってる。左右とも」
「治せる?」
「左は治せると思う。時間は掛かるけど」
「どのくらい?」
「うーん。6時間コースかな」
「よし、治そう」
「本当に治せるの?お医者さんには無理と言われたのに」
「私たちは医者じゃないからね」
 
女性には眠ってていいと言い、菊枝とふたりで女性のヒーリングをした。青葉が主として詰まっている卵管を治療し、菊枝は身体全体の内分泌系の調整をした。菊枝が全体の調整をしていくと次第に彼女の「負の気」が和らいでいくのも感じた。
 
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ふたりの作業は朝まで続いた。北海道の夜明けは早い。4時過ぎには明るくなってしまうが、ふたりの作業が終わったのは朝8時くらいだった。夜12時近くに始めたので8時間ちょっとの作業になった。さすがに青葉も疲れ切っていた。途中何度か菊枝が分けてくれたカロリーメイトでエネルギー補給をした。
 
しかし確かに「治した」という感覚があった。
 
女性が目を覚まし、何だか身体が燃えているようだと言った。身体全体を活性化させているから、今までと体温からして違うだろう。菊枝も自分で彼女の生殖器の様子を見ている感じだったが、やがて頷くように言う。
 
「たぶん2〜3ヶ月の内には生理が再開しますよ」
「ほんとに?」
「イソフラボンをしっかり取って。豆腐とか納豆とか、ザクロもいいですよ」
「私、豆腐も納豆も嫌い。でも生理再開するなら頑張って食べる」
と初めて女性は笑顔を見せた。
 
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菊枝は青葉と手分けして、女性の部屋から様々な「呪具」を回収した。本人も素直に、これとこれと・・・と言って渡すが、「これで全部かな」と言った後で、菊枝が
「そのヘアドレッサーの引き出しの中のも出して」と言う。
 
「ああ。忘れてた、ごめん」
と言って出したが、隠しておくつもりだったのだろう。
 
「中には凄いのもあるけど、どうやって調達したの?」と菊枝が訊くと「だいたい通信販売」と答える。
世の中にはとんでもない物を売っている所があるようだ。
 
「今お仕事はしてるの?」
「生活保護を受けてる」
「働く気無い?」
「私、何の資格も持ってないから」
「行政書士とか宅建とかの資格でも取らない?」
「お金全然無くて」
「ケースワーカーさんに相談してごらんよ。就労のための支援はしてくれるはずだよ」
「そうだね。。。話してみるかなあ」
 
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そんな話や雑談などもして、午前9時頃、アパートを辞した。
 

「お腹空いたでしょ?」
「うん。それより眠たい」
「だよね。でも、もう少し我慢して」
と言って菊枝はタクシーを拾うと、江別市まで行って欲しいと言った。
 
「千壽子さんとこ行くの?」
「うん」
とだけ菊枝は答えた。菊枝は呪具を入れた袋の周りに結界を張っている。このタクシーやその運転手さんに悪影響が及ばないようにするためだ。公共交通機関を使わないのは、周囲に人が多すぎると守り切れないためである。そして今眠ってはいけないのは、こんなものの傍で眠ると、無防備になって、影響を受ける危険があるからである。
 
「ご兄弟ですか?」とまた運転手さんに言われる。
「ええ。四国から夏休みを使って祖母の家に来たんです」と菊枝は男声で答える。「弟さん、可愛いね。女の子にしちゃってもいいくらい」と言ってから「あ、御免ね、坊や。きっと格好いい美男子になれるよ」などと自分でフォローする。
 
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しかし今回は坊やとか坊ちゃんとか坊主とか、散々言われ放題だ。
 
「ああ、この子、よくそう言われるんですよ。本人もまんざらでもないみたい」
と菊枝が言うと
「へー。いっそ、スカート穿いて女装しちゃうのもいいかもね」
などと言われた。
 
「ああ、何度かスカート穿かせてみたら、本当に女の子みたいになりましたよ」
「あはは。あんまりそんなことしてると本当にニューハーフになっちゃいますよ」
「まあ、本人がそれでよければそれもいいかもね」
「そういや、こないだニューハーフのタレントさん、乗せましたよ」
「へー」
「凄くきれいな人でねえ。でも声が男なんですよ」
「ああ」
 
ニューハーフというのが、どうも女性みたいな男性ということのようだと青葉は話を聞きながら思ったが、声が男というのが気になった。私・・・声は男になっちゃったりするのだろうか・・・嫌だな、それ。
 
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千壽子は大量の呪具の山を見てびっくりしていたが、祭壇で祈祷をしてくれて菊枝・青葉と一緒に庭でお焚き上げをした。登別で青葉が切り落とした「触手の先端」も金属製茶箱の中から結界ごと取りだして、火の中に投じた。そして青葉が書いた般若心経の写経6枚も一緒にお焚き上げする。
 
「6枚というのはどういう意味なんですか?」
「呪いを掛けられた越智さん一家4人、そして主として対峙した私と青葉ちゃん」
「なるほど」
 
3人は燃え尽きるまでお焚き上げの炎を見ていた。菊枝が今一度、般若心経を唱え、青葉と千壽子も唱和した。
 
「千壽子さん、お願いがあるのですが」と菊枝。
「はい」
「私たち昨夜から一睡もしてないので、部屋の隅っこでいいから寝せて」
「うちの寝室で寝て!」
 
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菊枝とふたりで寝室に案内され、ベッドを借りてそのまま眠りに就いた。
 

起きたのはもう夕方であった。
「あなたたちお腹空いてない?」
と言う千壽子に、ペコペコですと菊枝が答える。
 
千壽子は野菜たっぷりの石狩鍋をふるまってくれて、菊枝と青葉はたくさん食べた。
 
「でもね、青葉ちゃん」と千壽子が言う。
「はい」
「今回は賀壽子ちゃんに会えて嬉しかったわ。私ももう長くないと思うし、今回会ったのがきっと最後になるんだろうなあ。私、もう正月を越せないかも知れないと思ってて」
 
「あと5年くらいは大丈夫だと思いますよ」
と青葉は言ったが、千壽子はチッチと指を横に振った。
「自分の寿命はだいたい分かるよ。賀壽子ちゃんも年だね。向こうもこれが最後かもと思って、来てくれたんじゃないかねぇ」
そう言って、千壽子は遠くを見る目をした。
 
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「賀壽子ちゃんによろしくね」
「はい」
「最後に一緒に仕事ができて良かったわ。仕上げは賀壽子ちゃんの曾孫さんにしてもらったしね」
と言って千壽子は微笑んだ。
 
その後、千壽子の家でお風呂を頂き、そのまま泊めてもらった。お風呂から上がったあとで女物の下着を身につけ、女の子の服を着ると、青葉はホッとした。やっぱり私これでなくちゃ。
 
千壽子からも
「やっぱり、青葉ちゃんはその方が似合ってるね」
と言われた。
 

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寒里(6)

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