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■寒里(3)

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今日帰る5人を見送りに、みんなで新千歳空港まで行く。未雨は昨日から何度も飛行機とか電車とか、普段乗ったことのない乗り物にたくさん乗れて、それも喜んでいた。
 
その様子を見て竹田がふと青葉に小さな声で言った。
 
「君たち姉妹は面白いねえ。4つ違い?」
「はい」
「君がこんなに凄い霊的な力を持っているのに、お姉さんは霊感ゼロなんだね」
「そうですね」
と青葉は微笑んで答える。
 
「天真爛漫なお姉さんに対して、君はまだ小学1年生だというのに、既に様々なものを見て来て、人生を達観しているかのようだ」
「ああ、子供らしくないとは良く言われます」
「君を知っている人は、みんな君のこと大人と同様に扱うだろうしね。僕もだけど」
「ふふ」
 
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竹田は先日ベルギーに行った時に買ったというチョコをくれた。
 
ロビーで竹田や晃湖たちと色々話していた時、青葉はふと何かの気配を感じて、席を立ち、気配に誘われるようにして、売店の方に行った。
 
雑誌コーナーに見知った女性が居て、手を振っていた。
 
「こんにちは、美鳳さん」
「こんにちは、青葉ちゃん」
 
それは5月に羽黒山で会った「八乙女」のひとり、美鳳(みお)だった。青葉に「鏡」をくれた佳穂の姉である。美鳳は最初会った時は女性神職の服、2度目に会った時は巫女の服を着ていたが、今日は何だかCAさんっぽい服を着ている。
 
青葉がそれを言うと
「うん。私、CAなんだよ」
と言う。
「えー!?」
 
「今日は庄内空港から飛んできた」
「神職さんもしてるんですよね?」
「うん。まあ、私同時に複数のエイリアス出せるから」
「エイリアス??」
「ま、いいわ。でも、なんかあそこ凄いメンツね」
「ええ。物凄いです」
「他の人に気付かれないように青葉ちゃんだけに気を送るの苦労した」
「わあ」
 
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「それでね、これ5月に一緒にあげたかったんだけど、鏡をちゃんと使いこなせるようになってからでないと、これあげても使えないだろうと思って、いったん保留にしてたんだけど、ちゃんと使いこなせてるみたいだから」
「もしかして昨夜の見てました?」
「うん。美事な虎退治だったよ」
「恐れ入ります」
「じゃ、あげるね」
 
と美鳳が言うと。何か光るものが美鳳の身体から飛び出し、青葉の体内に飛び込んだ。
 
「わっ」
「使い方は、鏡とだいたい同じだから、少し練習してみて」
「ありがとうございます。試してみます」
「じゃ、頑張ってね」
 
と言って美鳳は手を振り、向こうへ歩いて行った。
 
頑張ってね・・・・と言ったなと思い青葉は気を引き締めた。
それって・・・何かあるってことだよね?
 
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登別温泉へは、千壽子の友人2人の運転する車に乗って移動した。1台の車に賀壽子・千壽子・真穂、もう1台に菊枝・青葉・未雨という組合せになった。真穂と菊枝が「助手席係」で地図を手許に置いて道案内を務めた。菊枝がいちばん信頼できるので、そちらの車が先行し、もう1台の車がその後を付いていく形になった。車内では菊枝が北海道の伝説をたくさん話してくれたが、道内在住でドライバーを務める50代の女性霊能者さんは「そんな伝説、今初めて知った」などと言っていた。
 
「私、全国各地の伝説や昔話の類を蒐集してますから」
と菊枝は笑顔で応えていた。
 
到着して札幌で予約していた温泉宿にチェックインする。食事の前にお風呂に行こうということになるが、青葉は「ごめーん。私、今日はお風呂パス」と言う。
 
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「なんでー?汗流した方が気持ちいいよ」と真穂。
「いや、私、ちょっと身体に不自由があって」と青葉は頭を掻きながら言う。
「ああ、青葉ちゃん男湯に入る訳じゃないのね?」
「それは絶対入りたくない」
 
「うーん。。。でも、まだ小学1年生だもん。混浴構わないと思うよ。女湯においでよ」
「えっと・・・その場合も、みんなに身体見られたくないから、後で入ろうかな」
 
すると未雨が言った。
「あ、じゃ私と一緒に行かない? ここの大浴場、凄く広いらしくて浴槽も何種類もあるっていうから、他の人たちと離れた湯に入ってればいいよ」
「そう? じゃ、そうしようかな」
 
という訳で、青葉は他の人たちと少し時間差を置いてから未雨と一緒に大浴場に行く。しかし髪が長く、スカートを穿いている青葉を、男の子と思う人はまずいない感じであった。菊枝や晃湖たちが一目で青葉の性別に気付いたのは、彼女たちが「特別」だからである。
 
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いったん一階に降りて、それから廊下を通って大浴場の方に行く。この旅館自慢の巨大な浴場が広がる。青葉は未雨に手を引かれて、女湯の暖簾をくぐった。ちょっとドキドキ。幼稚園の時には何度か友だちと一緒にお風呂などに入ったことはあったが、温泉は青葉の記憶の中では初めてであったので、青葉も少し緊張していた。
 
脱衣場で、ブラウスとスカートを脱ぎ、女の子シャツとショーツを脱ぐ。青葉はタオルで上手にあの付近を隠していた。胸はもちろん無いが、小学1年生で既にバストがあったら、その方が変である。未雨に手を引かれて一緒に浴室に入る。きゃー、女の人がみんな裸だよぉ(当然だ)。
 
「ああ。ひいばあたちは向こうに居るよ。こっちにおいで」
と未雨は青葉の手を引いて別の方角に行く。いつもは頼りない感じの未雨をこんなに頼りがいがあるように感じたのは青葉は初めてだった。
 
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洗い場で身体を洗ってから「美人の湯」などと看板の立っている湯に浸かった。
 
「美人の湯だって。青葉、きっと美人になれるよ」
「だといいなあ。お姉ちゃんも美人になるよ」
「ふふ。ありがと」
 
青葉は湯の中ではタオルが使えないので、あれとあれは足で挟んで隠していた。
 
しばらくふたりであれこれ話していた所に、未雨より少し年上くらいの感じの女の子が入って来た。何となく目が合ったので会釈すると、向こうも会釈を返した。
 
「どちらからですか?」と彼女が訊くので未雨が
「岩手県です」と言うと
「わあ、旅行ですか?」と彼女は笑顔で話しかける。
「いえ。曾祖母のお仕事のお供で来たんです。そちらも旅行ですか?」
「あら、大変でしたね。こちらは近所なんでちょっと湯に浸かりに来たんですよ」
と彼女は答えた。
 
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これが青葉と舞花の初対面であった。舞花は中学1年生ということであった。
 
何となく3人は気が合う感じだったので話し込む。未雨と舞花が何だかジャニーズ系の話で盛り上がっていたが、そういう「世俗」の話題に疎い青葉にはチンプンカンプンだった。だいたい「嵐」というのがグループの名前とは知らず、天候の話かと思って、話に付いて行けず悩んだりしたほどであった。
 
「えー?君、男の子なの?」と舞花が驚いたように言う。
未雨が早々にバラしてしまったのである。
「ほとんど女の子に見えますよね。自分の弟ながら変態で困ったもんで」
「あはは」
「でも君、凄く可愛いもんね。いっそ性転換して女の子になっちゃう?」
「せいてんかん?」
 
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それが青葉が「性転換」ということばを聞いた最初だったかも知れない。
 
舞花も含めて3人で何度か浴槽を移動したが、青葉はしっかりあの付近は隠していた。それで舞花に言われる。
 
「青葉ちゃん、隠し方がうまい」
「えー。そんなの絶対、人に見られたくないです」
「だって、まだ小学1年生でしょ。男の子が女湯に入ってたって構わないよ。まだ今年くらいまではね」
「えへへ」
 
3人の話題は学校や親族のことまで及ぶ。舞花のお父さんは会社の社長さんということだった。
 
「ふーん。青葉ちゃんたちのひいおばあさんって拝み屋さんなんだ」
「うん。それで江別市で拝み屋さんしてる北畠千壽子さんってのがひいばあちゃんの古い友だちだったらしくて、招待されてこちらに来たんだ」
と未雨は完全に友だち口調になっている。
 
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「北畠千壽子さん!?」
「知ってる?」
「知ってるも何も北海道内では凄く有名だよ」
「へー」
「もしかして、北畠さんもここに来てる?」
「うん。あっちの方でお湯に浸かってると思うけど」
 
「さすがにお風呂の中で込み入った話はできないな。上がった頃にそちらの部屋に行ってもいい?」
「ああ、いいと思うよ」
と未雨は気軽に答えた。まさかそれが大変なことに巻き込まれる元になるとは知らずに。
 

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温泉からあがり、食事も済んで部屋で少しくつろいでいた頃、舞花が両親と兄と一緒に、青葉たちの部屋(8人部屋)を訪問してきた。北畠千壽子への霊障相談ということを聞き
 
「じゃ、私は席を外しますね」
と言って、菊枝が真穂と未雨を促して外に出る。
「それじゃ私も」
と言って賀壽子が席を立ったので、青葉も一緒に部屋の外に出た。千壽子の2人の友人は、千壽子と一緒に話を聞く体勢のようであった。
 
「ああ、やはり賀壽子さんの『本体』は青葉ちゃんでしたか」
と菊枝が廊下で言った。
 
「お恥ずかしい。お察しの通りです。さすがにこの年になると昔のパワーは無くて」
と賀壽子は素直に答える。
 
「竹田さんから、賀壽子さんは若い頃は物凄い人だったと聞いています」
「山園さん、お願いがあるのですが」
「はい?」
「私は老い先短い。正直な所、今度の正月を越せるかどうかも怪しい。今回私が北海道まで来たのも、お迎えが来る前に昔の友だちに会っておきたかったからですよ」
と賀壽子。
 
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それは青葉も感じていた。賀壽子はここ1〜2年、急激な体力の衰えを見せていた。おそらくは長年張り切った状態で仕事をしてきていたのが、何か支えるものが途切れて、本来の年相応の体力に向かおうとしているのだろうかとも思ったが、それ以上に何かありそうな気もしていた。
 
「それで山園さん」
「ええ」
「私が死んだ後、時々でもいいので、この子を。青葉の面倒を見てやってもらえないでしょうか。この子にはまだまだたくさん教えないといけないことがあるのに、私では間に合わない」
 
菊枝は頷いた。
「いいですよ。私がこの子の先生になります。もっともいつまで先生でいられるかは分かりませんが。きっと、青葉ちゃんはその内、私の先生になりそうだから」
と菊枝は微笑んで答えた。
 
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「恩に着ます。私ももし死んだ後、そういうことができるものなら、この子とそして山園さんを護る力の一端にもなれたらと思います」
「はい」
 
真穂と未雨が不思議そうな顔をして、こちらを見ていた。菊枝はそんな顔をしている真穂に尋ねた。
 
「真穂ちゃん。あなたもその内拝み屋さんの仕事を継ぐのだろうから知っておいて欲しいんだけど、なぜ私たちが席を外したか分かる?」
「えー?私は拝み屋さんになるつもりは無いけど、やはり個人情報保護法とかの関係ですか?」
 
「うん。それもあるよ」と菊枝は笑顔で答えた。
 
「私たちが席を外した理由は大きく分けて3つ。ひとつは、クライアントが霊能者に相談事を持ちかけてきたのに、関係無い人がその場に居るのは失礼だという社会的マナーの問題」
「ああ」
「それからひとつは今真穂ちゃんが言ったように、プライバシー保護の問題。そもそも個人情報保護法が無くても、私たち祈祷師は刑法第134条の2で守秘義務が課されているからね。そして3つ目がいちばん大事なんだけど」
「はい」
 
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