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■春練(8)

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「それは悲惨だね。じゃ女の子になってもいいのなら、私の左の10番目の肋骨に触って」
「10番目って?」
 
正直、千里には大きなバストがあるので数えられない気がしたのである。
 
「私の左胸の前にある肋骨の中でいちばん下の所。残りの2本は横までしかないんだよ」
「それなら分かる気がします」
 
それで西湖は千里の左側の胸を触り、いちばん下にある骨に触った。
 
「うん。それそれ。だったら女の子に変えちゃうよ」
「はい」
「じゃ起動するよ。15分くらい掛かるから、ずっとそのまま一緒に水中歩行を続けよう」
「はい」
 

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それでふたりは、西湖が千里の肋骨に触ったままの状態で歩き続けた。
 
西湖は身体が急速に変化しているのを感じた。なんかお股の付近が凄く変な感じである。また胸が・・・苦しくなってくる。
 
「千里さん、胸がきついんですけど、どうしましょう?」
「ブレストフォームを外しなよ。緊急事態だから、むしり取った方がいい。でないと窒息するよ」
「分かりました!」
しかし片手ではうまくむしり取れないようである。
 
「貸して」
と言って千里は西湖の水着の中に手を入れてブレストフォームをむしり取った。むしり取ったシリコンのフォームは、千里が自分の水着の中に入れてしまう。
 
「この西湖ちゃんの水着、ピタリと身体に吸い付いているね」
「あ、吸い付くから水の抵抗が少ないとか言われました」
「なるほどねー」
 
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西湖の女性化は実際15分ほどで終了した。
 
「終わった気がします」
「プールを出よう」
「はい」
 
それで一緒にプールからあがり、更衣室で身体を拭いてショーツだけ穿き、Tシャツとショートパンツを穿いた。
 
「取り敢えずアパートに戻ろう」
「ええ」
 
それでアテンザに乗って西湖のアパートに戻った。
 
服を脱いで確認する。
 

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「すっかり女の子になったね」
「嘘みたい。ボクの身体がこうなっちゃうなんて」
 
「胸はこれはBカップくらいあるね」
「この胸、本物なんですよね?」
「触ると感触があるでしょ?」
「はい」
 
西湖はおそるおそる自分のお股に触る。
「これ本物ですよね?」
「その割れ目ちゃん、開けるでしょ?」
 
西湖は後ろを向いて、実際に開いてみたようである。
 
「確かに開けます。クリちゃん、おしっこの出てくるところ、そして膣もあるっぽいです」
「女の子だからあって当然」
 
「あのぉ、これもしよかったら一週間くらいこのままにできます?取り敢えず明日は身体検査があるし」
と西湖は言った。
 
4月に女体化した時は数時間だった。今回はこの身体を何日か楽しみたいという“下心”が起きたのである。
 
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「一週間も何も、これは一度性別を変更すると、1年は元に戻せない」
と千里は言った。
 
「え!?1年戻せないんですか!?」
と言って、西湖は青くなっている。
 
「1年後に私に言ってよ。元に戻してあげるから」
「1年も・・・」
 
「女の子の身体でやっていく自信無い?」
「えっと・・・」
 
「どうしても自信無いなら、今すぐ性転換手術を受けて男になる手もあるけど」
「手術受けたら、しばらく稼働できませんよね?」
「3ヶ月は静養しておく必要がある」
「それではアクアさんの代役ができないから、手術は受けられません」
 
「だったら1年間我慢するしかない」
 
西湖はしばらく考えていたが言った。
 
「何とか頑張ってみます」
 
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「うんうん。何なら永久にこのままでもいいけど」
「1年後に考えさせてください。でも1年後に男の子に戻らなかった場合はもうずっと女の子のままですか?」
 
「1年以上経っていればいつでも男に戻せるよ。でも男に戻したらその後1年は女の子に変えられない」
 
「大変なんですね!」
「そりゃ性別をコロコロ変えたら、混乱するだけ」
 
「そうかも」
 

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「まあその1年の間は女性ホルモン優位になるから、どんどん女の子らしくなっていくだろうね」
「でもそれは多分アクアさんの代役するのには影響無いですよね?」
「うん。アクアはほとんど女の子みたいなものだし」
「ですよねー」
 
「それから1月もすると生理が始まると思うからちゃんと処理してね」
「それは多分何とかなる気がします」
 
西湖は今でも生理用品を持ち歩き“仮想生理日”をカレンダーとダイアリーに記録している。仮想生理日にはちゃんとナプキンをつけている。
 
「男の子と生でセックスすれば妊娠の可能性があるから、する時は絶対に避妊具をつけさせること」
「ひー!」
 
それは想定外だった。ボクが妊娠するの!??
 
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「あ、そうそう。この***の法というのは、実は性別が変わるのは副作用なんだよ」
「副作用?」
「本作用は年齢が若くなること。だから西湖ちゃんは若返りした」
「若返り!?」
 
「今西湖ちゃんは歴史的には16歳だったから・・・2歳くらい若くなったはず」
「じゃ私中学生くらいですか?」
「そうそう。その体型を見ても、まだ女として未熟で女子中学生くらいかもという感じだよ」
「へー!」
 
「西湖ちゃん、これまで男の子だったから女としては全く未熟だった。だからこのくらいの方がこれまでの西湖ちゃん見ていた人には違和感が少ないかもね」
 
「そうかも」
 
「あと身長も低くなったはず」
「あっ」
 
それでメジャーを出して身長を測ってみると156cmである。
 
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「これアクアさんと同じ背丈です」
「だったら代役するのに、やりやすくなるね」
「ほんとですね!」
と西湖は喜んでいるようだ。どうもこの子は“アクア依存症”だなあと千里は思った。
 

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「ね。西湖ちゃん、春に買った水着がきつかったから新しいの買ったと言っていたよね。ひょっとして今のバストサイズなら、春のが着られない?」
「試してみます!」
 
それで西湖は自分の胸に付いているブレストフォームのかけらを丁寧に取り、お股の付近についている接着剤のカケラも除光液を使って取り外した上で、春に買った水着を着てみた。
 
「なんかピッタリです」
「良かったね。たぶん、西湖ちゃんが飲んでいた女性ホルモンの作用で胸が膨らんでしまって、着られなくなっていたんだよ。でも今回いったんリセットされたからちょうど春に偽装していたくらいの本物バストサイズになったんだね」
 
「え?私女性ホルモンとか飲んでませんよ」
「隠さなくていいよ。女性ホルモンを飲まずに男の子の胸が大きくなる訳ない」
「え?でも本当に飲んでないですけど」
 
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千里は腕を組んで考えた。
 
「西湖ちゃん、この春から誰かに飲むように言われたものない?例えば山村マネージャーから渡されたものとか?」
 
「山村さんからは特にもらっていません。アクアさんからはマリさんと松浦紗雪さんの両方から毎月送られて来てダブっているからと言って、プレマリンとプロベラというお薬を頂いていますが、それは飲まずに机の引き出しに放り込んでいます」
 
「誰からも何ももらってない?」
 
「えっと・・・あ、母から肝油をもらっていますが」
「見せて」
「はい」
 
千里はその“肝油”のふたをあけて、中に入っているドロップを1つ取った。
 
「この匂いが肝油のものではない。多分これが女性ホルモン」
「え〜〜〜!?」
 
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「西湖のお母さんって、ひょっとして西湖を女の子にしようとしてない?」
 
西湖は考えてから言った。
 
「それ心当たりあります」
「やはりね〜。この肝油は回収していっていい?」
「はい。私どっちみち不要ですよね」
 
「女の子が女性ホルモン飲んだら生理不順とかの原因になるよ」
「ああ、そうなるでしょうね」
 

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そういう訳で、西湖は突発的に女の子の身体になってしまったのであった。
 
山村マネージャーから(冗談で?)性転換手術してくれる病院紹介すると言われたのだが、結局本当にこの3日間の休みの間に性転換してしまった。でも後で元に戻れるからいいことにしようと思う。手術していたら絶対に元には戻れない。
 

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9月4日(火)、西湖は爽快に目覚めた。
 
なんか凄く気持ちのいい目覚めだなあと思った。トイレに行っておしっこをするが、おしっこの出方はまるで違う。昨日既に帰宅後はずっとこの感覚を味わっているのだが、あらためて「気持ちいい」と思った。思えば男の子って凄く変なおしっこの出し方をしていたんだなあという気がした。
 
朝御飯を食べた後で軽くシャワーをする。この時、胸の付近を洗っていて、今までと全く感触が違う。これまではそこにはブレストフォームを貼り付けていたから、触っても感触が無かった。しかし今日はちゃんと感触がある。
 
「なんか女の子の身体も結構いいなあ」
などと西湖は思った。
 
「まあ最低1年は男の子に戻れないんだから、開き直って女の子していこう」
とつぶやく。
 
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西湖が1年後、果たして男の子に戻りたいと思うかどうかは神のみぞ知る!?
 

学校に出かけて「お早う」「お早う」とクラスメイトたちと挨拶を交わすが、この挨拶も新鮮に感じた。これまでは女の子と偽って女の子社会に潜入しているような気分が少しあったのだが、今自分は女の子なんだから、彼女たちの仲間だという思いがあった。それで何もストレスが無くなったのである。
 
「今日の聖子、凄く女らしい」
と親友の紀子から言われた。
 
「私、今日は女の子である喜びを感じている」
と西湖が言うと
「もしかして誰か男の子とセックスした?」
と言われた。
 
「セックスとか、してないよぉ!相手もいないし」
 
と言いつつ、ボクその内、誰か男の子とセックスとかすることあるのかなあ、などと思った。ボクその時“うまくできる”かなあなどとも妄想する。そしてちょっとだけ興味も感じる。
 
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ちらりとアクアの顔が浮かんだものの、多分アクアさんにはおちんちんは無いのではという気がした。
 

この日は新学期ということで身体測定があったが、西湖はクラスメイトたちと一緒に保健室で並んでいる時も、身長や体重を計られる時も、夏休み前に身体測定された時のような緊張感が無かった。自分はここにいる子たちと仲間なんだという気持ちがあり、西湖は心の充足を感じていた。
 
「身長が7月に測った時より1.6cm低い」
と記録していた保健委員の優美が言うが
 
「測定誤差かも」
と西湖が言うと
「そうね。これが16cm低かったら大変だけど」
 
「それはドラえもんのデビルカードでも使わない限りあり得ないな」
と次の順番の奈津が言う。
 
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「聖子(西湖の生徒登録名)、デビルカードで5000円くらい使わなかったよね?」
「そんなカード持ってないよ!」
 

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その日夜遅く仕事を終えてアパートに戻ると母が来ていた。
 
「お母ちゃん、公演は大丈夫なんだっけ?」
「今日はお休み〜。だから晩御飯買ってきたよ」
「わあ、ありがとう」
 
“作って来たよ”ではなく“買ってきたよ”なのが母らしいなあと思う。西湖はいわゆる《お袋の味》を知らない。
 
ともかくも一緒に食べる。どことかの何とかいうお店のと言っていたが確かに美味しかった。
 
「女の子として暮らす練習、どんな感じ?」
「練習というより日々が実践だけどね。ボロは出してないよ」
「さすがさすが」
「もう開き直って3年間女子高生を演じるよ」
 
「その後は女子大生かな」
「さすがにそんなのする時間は無い。高校卒業したらそのまま俳優になるつもり」
「女優でしょ?」
「そうなるかもね」
 
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それは自分でも分からない気がする。女の子になりたい気持ちは無かったはずだが、現実に女の子になってしまった今、それはどちらでも構わない気がした。性別なんて些細なことじゃないかなあ、と思ったらそれって丸山アイさんが言ってたことだと気付く。
 
「そうだ。肝油ドロップ飲んでる?補充しておこうと思ったのに缶が見あたらないんだけど」
と母が言う。
 
「あれ女性ホルモンでしょ?」
「なんだ知ってたのか」
「ボクこちら飲んでいるから大丈夫だよ」
と言って、机の引き出しに入れている女性ホルモン剤を見せる。
 
「あんたこんなの買ってたんだ?」
「アクアちゃんからもらうんだよ。毎月」
「ああ、アクアちゃんも飲んでいるの?」
「そうみたいだよ。だから、ボクおっぱい大きくなったよ」
と言って西湖は母の手を自分の胸に触らせた。
 
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「これ本物?」
「本物だよ」
「じゃもう男の子は廃業?」
「分からない。でも最近あまり立たないんだよね〜」
などと言ったところまでは覚えているのだが、西湖のこの夜の記憶は
ここで途切れている。
 

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西湖が眠ってしまったのを見て、湖斐はそっと西湖を横にして、スカートをめくる。
 
「それだけ胸が大きくなるほど女性ホルモン飲んでいるのなら、もう睾丸は死んでいるよね?機能喪失した睾丸は取っちゃっていいよね?」
 
などと独り言を言っている。
 
「さあ、西湖ちゃんもう男の子は完全に卒業しようね〜。もうお前は私の娘だよ」
などと言いながら“手術用具”を取りだし、パンティを下げる。
 
「これが偽装には見えないなあ。さてタックを解除しなきゃ」
と言って湖斐は剥がし液を取りだし、西湖のタックを解除しようとした。
 
「え!?」
 
触ると、それがどうにも偽装には見えないのである。
 
湖斐は更に西湖のお股を触り、スリットを開けてみたりして中も確認する。そしてこれが完全な女子のお股であることを確信した。
 
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「西湖あんたいつの間に性転換手術しちゃったの〜?」
などと湖斐は声をあげたが
 
「まあいいよね。既にあんたは私の娘になっていたのね。成人式に振袖を買ってあげる積み立てしないといけないなあ」
と湖斐は嬉しそうな顔で言った。
 

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そういう訳でもしこの時西湖が男の子の身体であったなら、この日で男の子を廃業することになっていたのだが、女の子の身体になっていたので、それを偶然にも免れることができた。
 
西湖の男性器は風前の灯火ならぬ「扇風機の前の蝋燭」に近い、というのが冬子の見解である。
 
 
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