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■春練(6)

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「そんな凄いの使いません。私、学校の授業に使うスクール水着が欲しいんですが」
「なるほど。それならこちらですね」
 
と言って連れて行ってくれた。2800円とか3800円とかの値段のが並んでいる。
 
「この値段見てホッとしました」
と西湖が言うと
 
「やはりFINA認定の水着は高いですからね」
と店員さんも言っている。
 
「この付近の商品の、値段の違いは何なんですか?」
「お腹を引っ込める作用のあるものとか、胸の所にカップが入っているもの、生地の厚さや伸縮性、それにデザインとかですね」
「ああ」
 
店員さんは西湖を見て
「あなたは結構胸があるから、カップの入っているものがいいですよ。でないと乳首が擦れて痛いですよ」
と言う。
 
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「それとスクール水着の場合、水抜きのあるものとないものとがあります」
と言って、お腹の所の布をめくってみせる。
 
「面白ーい」
「こういうのがついてるの着たことありませんでした?」
「あ、はい」
 
そもそも女子用スクール水着を着けたことがなかったんだけどね。
 
でも西湖は水抜きが面白そうなので、その水抜きのあるタイプ、そして胸の所にカップが入っていて、裾は水平に近いタイプを買った。生地もけっこう厚い。身体に吸い付くので水の抵抗が小さいとお店の人は言っていた。サイズはきちんと計ってもらった上で試着もさせてもらい、Lサイズを買った。
 
「スリムな体型なのに、胸が大きいからLになるんですね」
「実は今持っているのは、春に入学の時に買ったばかりなのに、胸がきつかったんですよ」
「今は成長期ですからね。バストは結構急速に発達しますよ」
「へー」
 
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でもボク、男の子なのになぜバストが発達するの!?と西湖は思った。
 
この他に、黒いインナーショーツを勧められて買った。また、ゴーグル、スイムキャップ、ビニール製の水着入れ、着換え用バスタオルを持っていなかったのでそれも一緒に買った。
 

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それで西湖はアパートに戻ってインナーショーツを穿いた上で水着を身につけた。試着もしているので問題無いが、ピタリとフィットする。バストで選んでいるから、ウェストはかなり余裕があるはずだが、伸縮性のある生地なので、ウェストの布が余ったりはしない。お店の人に言われたようにきれいに吸い付き、隙間から手が入れられないくらいである。脱ぐ時は肩紐を外してから下にずり下げる。
 
西湖はお昼を食べて少し胃が落ち着くのを待ってから、再度水着を身につけ、その上に半袖のTシャツとショートパンツを着て、着換えの下着とバスタオルを持ち、また自転車に乗って、区のプールに出かけた。
 
「だけどタックしている状態で自転車乗ると痛いよなあ。アクアさんはどうしてるんだろう」
 
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などと西湖は呟いた。タックする時は、ペニスを折り曲げて後ろにやっているが、その部分が自転車のサドルに当たるので、これは結構痛いのである。西湖はアクアがドラマの撮影で自転車に乗るシーンを何度も見ているが全然平気そうであった。やはりアクアさん、ちんちん無いのでは?
 

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ところで学校のプールの方がよほど近いし、夏休み中もずっと開いているし、無料で使えるのにわざわざ区のプールに行ったのは、西湖は全く泳げないので少し恥ずかしかったのと、もうひとつ根本的な問題として、水着姿をクラスメイトに見られるのが恥ずかしいので、少し慣れたいというのもあった。
 
プールに着いたのは14時少し前だった。
 
プールに行って自販機で「大人女子480円」の赤いボタンを押す。西湖は未だにこういう所で「女子」を選ぶ時にドキドキする。ちなみに龍虎は女装している時は平気で女子のボタンを押す。
 

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受付でチケットを見せてロッカーの鍵をもらう。少しドキドキしながら女子更衣室に入る。女子高生生活を5ヶ月やっているのに、西湖はいまだに女子更衣室に入る時は緊張する。
 
他の人の身体をできるだけ見ないようにしながら、自分の持っている鍵の番号のロッカーを見つけ、着換えなどをそこに入れる。水着は着てきているので、Tシャツとショートパンツを脱ぎ、水泳帽をかぶってゴーグルを着ける。鍵を締めて手首につけ、シャワーを通ってプールに行く。
 
準備体操をしていたら、
 
「初心者教室を始めます。泳ぎに自信の無い方、ぜひ参加して下さい」
などと言っていたので参加してみることにする。
 
取り敢えず少しは泳げる人と、全く泳げない人に分けられたので、西湖は全く泳げない組に入った。ほとんどが女性だが、年齢は小学生くらいから60歳くらい?まで範囲が広い。再度準備体操をしてから1コースの水の中に入る。水中歩行で2往復してくる。その後、壁に捉まってバタ足の練習である。
 
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「顔を身体にまっすぐにして水につけて」
というのを盛んに言われる。西湖も顔を浮かべすぎと言われて直される。もちろん息が苦しくなったら顔を上げて呼吸していいのだが、呼吸したらまたちゃんと水につける。
 
西湖は一度呼吸すると結構長時間呼吸しなくても済むものなんだなと思った。
 

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それをしばらくやった後、ビート板をつかって、バタ足だけで進む練習をする。これが結構怖い。ビート板は左右に揺れるので時々溺れそうな気がして思わず立ち上がる。でも一呼吸ついたら、また再挑戦。このビート板での練習を結局30分くらいやっていた。
 
それができた人と、まだできない人に分けられる。西湖は一応できたので、できた人の組に入る。今度は腕をまっすぐ伸ばした状態でバタ足で進むのと、息継ぎをする練習である。
 
水に入る前に息継ぎの仕方をプールサイドで横に寝て練習する。腕を伸ばし、バタ足をしながら、息を出していって1,2,3,4と数えた所で首を回転させ、息を吸う。このリズムを10分近く練習続けた。
 
そして水に入る。
 
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地面の上でやっていた通りにやると、多少水を飲んでしまうのを怖がらなければ結構いけることが分かる。ただある程度泳いでいると1,2,3,4のリズムでは苦しくなり、1,2で息継ぎしたりして、その内どうにもならなくなって立ち上がってしまう。しかしこれを何とか立ち上がらずにできるだけ長時間もたせるように頑張った。
 
「君はあまり水泳の授業に出たことなかったのかな?」
と声を掛けられた。
 
「はい。小学1年生の時にいきなり溺れかけて、その後、君は水泳はしなくていいと言われてずっと見学だったので」
 
「それはちょっと不幸な事故だったね。でも君、かなり泳げる感じだよ。次はいつ来れる?もっと教えてあげたい」
 
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「明日も来られますが」
「じゃ明日も14時から初心者教室やってるから、おいでよ」
「はい!」
 

この日の夜は、西湖のアパートに桜木ワルツと千里(千里2)が来てくれて、お誕生会をした。西湖は龍虎と同じ8月20日が誕生日だが、両親はいつも忙しいので、お誕生日を祝ってもらったことなど1度もない。それで西湖は感激して泣いてしまった。
 
「水着が干してあるね」
「9月に水泳大会があるから練習してるんですよ」
「ちゃんと女子水着を着たね」
「男子水着で泳いでて知ってる人に見られたらやばいです!」
「確かに確かに」
「それに男子水着はおちんちんが無いと穿けないから、西湖には穿けないね」
と千里が言うと、西湖は
「あれ?男子用水着ってそうなってましたっけ?」
とマジで考え込んだので、桜木ワルツが吹き出していた。
 
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西湖は翌25日(土)の午後も区のプールに行き、初心者教室に参加した。この日西湖は、少し泳げる人のクラスに入れられクロールの練習をした。そしてこの日1日で西湖はクロールができるようになり、取り敢えずプールの半分くらいまではそれで行けるようになった。
 
「息継ぎをした時に身体が曲がってしまうんだよね。それをちゃんとまっすぐに戻すこと。顔を思い切って水中につけること。そのあたりを気をつければ、君はすぐにも25m到達するよ」
 
と指導員の人から言われた。
 
初心者教室は明日26日の日曜はお休みで、また27日(月)からあるのだけどと言われたが、27日からは映画撮影のお仕事があるので来られない。それで用事があって、この後夏休み中は来られないんですよと言うと指導員さんは残念そうな顔をして、この後の練習のポイントを書いた紙を渡してくれた。
 
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それで初心者教室は無かったのだが、26日もまたこのプールに来て、昨日言われたことに気をつけて練習した。するとこの日のラストに初めて25m到達することができて、西湖は思わず「やった!」と叫びたくなった。
 

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8月27日から31日までは都内のスタジオで映画の追加撮影が行われた。これで一応撮影は終了で、あと編集中に必要な場面などが発生した場合は、あらためてお願いするかもということであった。
 
それで9月1-3日はお仕事はお休みになった。その間にアクアはローズ+リリーのPV撮影があるということであったが、この撮影に西湖は同席不要ということであった。それなのにギャラはもらえるというのでびっくりした。
 
「まあ基本的に葉月ちゃんはアクアちゃんとセットということで料金設定しているしね」
と秋風コスモス社長は言っていた。
 

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それで思いがけず3日間お休みがもらえることになった。もっとも9月3日は月曜日で夏休みが終わり学校が始まる。放課後がフリーになるだけである。
 
それで西湖は休暇の間にまた水泳の練習をしようと思った。
 
山村マネージャーは休暇の間に性転換手術を受けたら?傷がすぐ治る所知っているよ、などと言っていたが、さすがに今すぐ男の子を廃業する気にはなれない。高校卒業までこの男の子の身体を維持できる自信は無いし、どこかでふらふらと手術を受けてしまうかもしれないという気もしないではないのだが。
 
そういう訳で、西湖はまた水着をアパートで着込んで、区のプールに行ってみた。
 
お休み〜〜!?
 
9月1-2日は臨時休業しますと書かれているのである。
 
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あら〜?どこかやっているプールは無いかな?と思い、取り敢えず自宅に戻って調べてみようと思う。それで自宅方面に戻っていたら髪の長い女性がジョギングしているのを見る。西湖は自転車を停めて降りた。
 
「醍醐先生!」
「葉月ちゃん!」
 
「いつもお世話になっています」
「君もいつも頑張っているね」
「アクアさんには足元にも及びませんけど。あのバイタリティはどこから来るんだろうと思って」
「まああの子は3人分仕事してるからなあ」
「ですよね!アクアさんって3人か、ひょっとしたら7人くらいいるのではと思うことありますよ」
 
「でもまあ葉月ちゃんがアクアの代役やるのも、たぶんあと2年くらいだろうし、その後は、派手に単独デビューさせてあげよう、なんてこないだもちょっとある人と話していたんだけどね」
 
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などと千里が言うので西湖はドキッとした。
 
「私が代役できるのってあと2年くらいですかね?」
「だってアクアは既に成長が止まっている。あの子はたぶんあれ以上身長は伸びない。葉月ちゃんは普通の男の子だからあと少し身長は伸びる筈。だからその時点で別の子、たぶん女の子が代役の仕事はバトンタッチすることになると思う」
 
やはり・・・そうなのかな。
 
それは少し考えていた可能性である。
 
アクアがデビューした頃、アクアは155cm, 葉月は153cmであった。しかし現在アクアは156cm, 葉月は158cmある。確かに2年後に葉月は160cmを越える気がする。そうなるとアクアの代役としては微妙になるだろう。
 
「アクアさんはあれ以上身長は伸びないんですか?」
「去勢している以上もう成長しないと思うよ」
「やはり去勢してるんですか?」
「本人もコスモスも否定しているけど、実際あり得ないでしょ。あの年で声変わりしてないのは」
 
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「やはりそうなのかな・・・」
 
「ひょっとしたら、睾丸を一時的に除去していて、後日戻すつもりなのかもね」
「そんなことできるんですか?」
「医学的には可能だよ。どっちみち精液は保存してるんでしょ?だから機能回復しなくても問題無い」
「それはそうですけどね」
「葉月ちゃんも一時去勢する?」
「少し考えさせて下さい」
「ふふふ」
 

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「そういえば葉月ちゃんは、このあたりに住んでいるんだっけ?」
と千里は訊いた。
 
へ!?
 
「いや、あの3月まで醍醐先生が住んでおられたアパートを私に譲って頂いたのですが・・・」
と西湖が遠慮がちに言うと、
 
「あれ、そうだったっけ?」
などと千里は言っている。
 
覚えてないの〜〜〜!??
 
その時、突然声がする。
 
「千里何言ってんのさ?あんたが用賀のアパートを引き払うというので、この子に譲ったんじゃん。但し京平ちゃんの神殿は維持しないといけないから、そのお世話だけこの子に頼んで」
 
そう言った女性は、いつからそこに居たのだろう?と西湖は疑問に思った。千里の向こう側に30歳くらい?の女性が立っていた。
 
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「あれ?そうだったっけ?ごめーん。私自分が言ったことや、したことをきれいさっぱり忘れていることがよくあって」
と千里は言っている。
 
「まあそれは千里、小さい頃からそうだったね」
とその女性は言っている。
 
「ね、きーちゃん、私がそこに置いていた楽器群とか、どこに持って行ったんだっけ?」
と千里が訊いている。
 
むろんここに居るのは千里3で“用賀のアパートにある楽器を取ってこようと思って”、合宿所を抜け出してきたのである。千里1は千葉に住んでいて、常総ラボに行き、普段は《すーちゃん》と練習しているのだが、今日は都合により《びゃくちゃん》と一緒に練習している。千里2は現在フランスのマルセイユに住んでいるのだが、実は今日・明日はアクアと一緒にローズ+リリーのPV撮影をしている。
 
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