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■春練(3)
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2日目。
この日青葉は女子800m予選とメドレーリレーに出場した。メドレーリレーのメンバーは萌香(背)→美虹(平)→青葉(B)→希美(F)となっている。
女子800mには青葉と百合花が出た。青葉はA決勝に進んだが、百合花は決勝進出ならず。しかし予選成績により12位認定された。女子800m,男子1500mはB決勝を行わず予選タイムで9-16位を認定する。
メドレーリレーで男子は予選落ちであった。
「17位かぁ。あと少しだったな」
「裕夢がおちんちんとタマタマ取れば体重が軽くなってスピードアップしたかもね」
などと布恋は言っている。
「タマタマ取れば筋力落ちるよ〜」
と裕夢。
その会話に春貴がドキドキしているような顔をしていた。春貴は去勢手術を受けたのかどうかは聞いていないが、実質去勢状態にはあるようで毎月の男性ホルモン濃度を測定してもらっていると言っていた。
IOCの基準では12ヶ月にわたって男性ホルモン濃度が女性並み(*2)であった場合、女子選手として少なくともオリンピックには参加することができる。青葉は、春貴は来年は女子選手としてインカレに参加することになるのではという気がしていた。
(*2)正確には血清中の総テストステロンの量が10 nmol/L未満であることが必要。女性の通常値は0.2-3.0 nmol/L, 男性の場合は 7-26 nmol/L 程度なので、この基準はわりと緩い。物理的に去勢しているなら充分クリアするはずである。なおペニスの有無は性判定には関係無い。ペニスが付いているかどうかは些細なことである。実際ペニスが存在することでスピードが速くなるとは考えられない。むしろ水の抵抗を増やすかも!?
夕方から決勝が行われ、このような結果になった。
自200 希美(2) 夏鈴(3) 杏里(10) / 春貴(7)
女子MR (1)
400m自由形で銅メダルを取った春貴は200mでは7位に終わった。やはり短い距離は小さい頃から鍛えていた天才が多いので競争が厳しい。しかも春貴はやはり女性化を進めたことで筋力自体はかなり落ちているようで、その分短い距離で不利になっているようである。
女子メドレーリレーは今日も優勝。2つ目の金メダルである。
なおこの日の青葉から希美への引き継ぎ時間は、予選で0.12秒、決勝では0.01秒であった。予選で結構な時間の余裕があったので、決勝では心持ち早く飛び込んだと希美は言っていたが、決勝の2位との時間差が0.02秒だったので、希美が予選と同様の感覚で飛び込んでいたら負けていたかも知れない。
3日目。
400m個人メドレーから始まる。青葉と皆橋君がA決勝へ、蒼生恵と高岩君がB決勝に進出する。その後、100m自由形、100m背泳、200m平泳ぎと予選が行われて、このような結果になる。
自100 希美(A) 夏鈴(A) / 小阪(-)
背100 萌香(A) / 裕夢(B)
平200 美虹(A) / 中原(B) 蓮沼(-)
その後、男女の800mリレー予選が行われる。この日はこういうオーダーで出て行った。
女子R800 青葉→杏里→夏鈴→希美
男子R800 邦生→春貴→高岩→小阪
女子はA決勝に進出したが、男子は18位でB決勝にも進出できなかった。
「あと少しなんだけどなぁ」
「よし、春貴がちんちんとタマタマ取らないなら、ここは邦生(くにお)ちゃんがちんちんとタマタマを取るということで」
「なんで俺の所に来るんだよ!?」
と吉田邦生(ほうせい)は言う。彼は布恋にすっかり「くにお」ちゃんにされている。
なお、これで春貴は出番が終わったので(女子更衣室で)普通の女子水着に着換えた上で、その後は女子の控えエリアに来ていた。
K大は男女とも団体出場してはいるが、女子はシード校なのでわりと良い場所。男子は中部予選を勝ち上がってきたので、端の方である。もっともお昼の時は裕夢と邦生も男子の方から女子の方に来て、一緒にお弁当を食べていた。
14:30から決勝が始まるが先頭は青葉が出る女子800m自由形である。あちこちの大会で顔を合わせている南野さんと永井さんもいる。永井さんは今年日本代表としてパンパシフィックとアジア大会に出ているが、パンパシフィックでは800m,1500mどちらでも青葉の方が上を行っている。当然彼女はリベンジに燃えていた。その彼女がスタートしてすぐに飛び出す。かなりのハイペースで泳いでいくが青葉は放置した。南野さんと呼吸を伺うようにしてほぼ並んで、マイペースで泳いでいく。
案の定、600mまで行った所で永井さんは突然ペースが落ち、700mの所で南野さんと青葉が追い抜いた。
結局青葉と南野さんの勝負になる。ふたりはラストスパートを掛けてかなりのハイペースで泳ぐ。ふたりともここまで充分にエネルギーを貯めていたのである。
そしてほとんど並んだままゴールにタッチ。時計を見る。
1.Kawakami 8.12.67 TR
2.Minamino 8.12.69 3.Nagai___ 8:28.99
大会記録を更新したが、この種目、日本記録は先日のパンパシフィックでジャネが出した8:09.37である。それには全く及ばないものの好記録だ。青葉は南野さんと握手をした。
「青葉ちゃん、だいぶタッチが巧くなったね!」
「うん。去年のタッチ技術なら、負けてた」
男子1500m決勝をやっている間、青葉は束の間の仮眠をしていた。10分くらい寝てから表彰式に臨み、表彰台の一番高い所で金メダルを掛けてもらった。その後、すぐ400mメドレーの集合場所に向かう。昨年は800m決勝の後ドーピング検査されたために400mメドレーのエントリーに遅れたのだが、今年はメドレーが終わってから検査お願いしますと言われている。なお800mの金メダルはマネージャーの幸花に預かってもらった。
女子400mメドレーB決勝では蒼生恵は10位になった。青葉たちA決勝の出場者がひとりずつ呼ばれてプールに入場し、飛び込み台に立つ。ブザーが鳴ると同時に飛び込む。
最初はバタフライ。ここではそんなに差が出ない。1往復してきてから背泳になる。ここでかなりばらけ始める。青葉はまだ体力をセーブしていた。次は平泳ぎになるが、青葉は元々「抜き手」の泳ぎ手だったので、平泳ぎも実はかなり速い。ここでもう青葉はトップに立ってしまった。
そして最後は自由形であるが、ここで青葉は疲れが出てきている他の泳者をぐいぐい引き離す。そしてぶっち切りでゴールにタッチした。やがて他の泳者もゴールして、タイムが出る。
1.Kawakami_ 4:30.89 TR
2.Makihara_ 4:42.23 3.Ishibashi 4:43.18
青葉は軽くガッツポーズをする。これで個人種目2つとも金メダルである。
表彰式を終えてから金メダルをまた幸花に預かってもらい、ドーピング検査に行く。例によって、ほぼ裸になり、検査官が見ている前でおしっこをする。
「でもこれ毎日何人も検査している検査官の方にも同情します」
「いや、最初の頃は、かなり心理的な抵抗ありましたよ」
と係の人も言っていた。
この後の競技の結果はこのようになった。
男子400mメドレー 皆橋(5) 高岩(13)
100m自由形 夏鈴(3) 希美(4) / 100m背泳ぎ 萌香(3) / 裕夢(10)
200m平泳ぎ 美虹(6) / 中原(10)
夏鈴は200mも100mも銅メダルである。希美は200mでは銀メダルだったが100mではメダルを逃した。実際、夏鈴は短距離に強く、希美は中距離に強いのである。それで400mリレーでは夏鈴がアンカーを務め、800mリレーでは希美がアンカーを務めることになった。
17:26. 女子800mリレーの決勝である。この後は男子800mリレーがあって大会は終了する。
ブザーが鳴って第1泳者の青葉が飛び込む。青葉は本来は長距離の泳者だが、ここはこの200mに全力を投入する。各校一番速い人は最後に置いている関係もあり、ここで青葉はいきなりトップに立った。2位にかなりの差を付けてタッチ。杏里が飛び込む。
杏里は中距離が得意な泳者である。今回個人種目では400mで6位、200mで10位だった。しかしもっと速い人たちは後ろの方で出てくる。それで杏里は2位との差をもっと広げて独走態勢である。
夏鈴が飛び込む。夏鈴は100m,200mで銅メダルを取っているが、結局彼女より速い2人はどちらも最終泳者である。ということで、ここでも他の学校にどんどん差を付けていく。それで結局10mくらい差を付けてタッチ。
アンカーの希美が飛び込む。彼女は200mで銀メダルを取っている。つまり彼女より速い人は1人しか居ない。その人が所属する学校が2位だが、こちらが遅いといっても、ここまでに付いていた差があまりにも大きすぎた。必死で向こうが追いすがり、距離はどんどん縮まっていったものの、最後は逃げ切りで希美がトップでゴールした。
結果的には圧勝で金メダルを獲得した。
男子のリレーが終わった後表彰式となり、青葉たちは4人で並んで表彰台のいちばん高い所に登り、みんな金メダルを掛けてもらう。肩を組んで記念写真を撮ってもらった。
各校の得点が発表される。K大は男子は108点で12位。女子は250点で6位。女子は昨年と同じ順位でシード権再獲得。男子はシード権取れず。しかし初の団体出場で大健闘であった。(団体出場しているのは男子21校・女子22校)
大会が終わったのが18:45である。すぐにも移動しないと今日中に金沢に辿り着けないので打ち上げは列車内で“あまり騒がずに”ということにする。
北山田18:57(グリーンライン)19:07日吉19:13(東急)19:35目黒
ここで目黒駅の駅ビル(アトレ目黒)で食糧とジュース・お茶などを買う(学生なのでアルコール類は自粛)。それから東京駅に移動して新幹線に乗った。
目黒20:23(山手線)20:49東京21:04(かがやき519)23:35金沢
青葉は自分のMarch NISMO S を時計台駐車場に駐めていたので、それで帰宅するが、ついでに数人の女子を自宅まで送り届けてから高岡に帰った。
9月12日、月山淳が国内の病院で性転換手術を受けて女性に生まれ変わった。これで“クロスロード”の初期メンバーでまだ女性の身体になっていないのは浜田あきらだけとなったが、あきらも今年末には手術を受ける予定である。それで初期メンバーから「おちんちんが消滅」することになる。
淳は1981年6月17日今治市生まれで東京の大学を出た後、2004年に都内のソフトハウスに務め、2011年東日本大震災の直前に工藤和実と出会った。ふたりは震災のボランティア活動を通して親密な関係になって行き、双方の親にも認められて、2012年春頃からは事実上の夫婦関係になった。その年の夏には和実が性転換手術を受けて戸籍を女性に変更。また淳も実質女性社員扱いになってしまい女装で勤務するようになる。2015年6月、ふたりは結婚式を挙げ、戸籍上も夫婦となった。そして今回淳も性転換手術を受けたことで、知り合った時は男同士だったのが、女同士になってしまった。
今回は9月11日(火)に新幹線で富山県に来て入院。検査を受けた後、翌9月12日(水)に性転換手術を受けた。青葉がうまい具合に高岡にいたので手術後たっぷりとヒーリングをしてあげた。それで、随分痛みも少なくて済んだようである。
彼女は最後までヴァギナを造る本格性転換手術をするか、造らない簡易性転換でいいか悩んだ。
和実との結婚生活を続ける限り、お互いにペニスが無いのでヴァギナを使うことはない。だから不要という気もしたのだが、和実が「ヴァギナはあって困ることはないけど、無くて困ることはある」と言ったのできちんと造ることにした。
しかしこのヴァギナを造る部分がいちばん痛いのである。何しろ身体に直径5cm,長さ12cmくらいの穴を開けるのだから大変である。
そして手術の後、あまりの痛さに本格式を選んだことを少し後悔したのだが、「痛みは一時的なもので、歓びの方がずっと大きい」と言われて、前向きの気持ちになった。
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