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■春輪(8)

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音源制作は29日深夜まで続き、何とか『摩天楼』は完成した。30日の朝、冬子のマンションで朝御飯を冬子とふたりで作りながら話していたら、冬子は唐突に言った。
 
「アクアの秋くらいに作るCDに曲を提供してくれない?」
 
アクアの最初のCDは上島先生と東郷誠一さんが楽曲を提供した。そして制作中の2枚目のCDは上島先生に代わってケイが書いたのだと言う。それで3作目はケイに代わって青葉が書いて欲しいというのである。
 
「まるでリレーですね!」
「まあ私も上島先生も手が回らないというのもあるんだよ」
「私も秋以降になると受験で忙しくなりますけど、それまでなら何とかしますよ」
 
青葉も常々ケイの負荷が大きすぎると言っていたので、これを受けることにした。
 
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「うん、よろしく」
と冬子は笑顔で言った。
 

時を少し巻き戻して7月25日夜。シドニー市内のホテル。千里がその日の練習を終えて部屋でくつろいでいたら、雨宮先生から電話が入る。
 
「おはようございます。どうなさいました?」
「おはよう。実はうちの父が死んだんだ」
「それはご愁傷様です。大変でしたね」
「まあ大変になるのはこれからなんだけどね。それで今夜はもう遅いから明日26日に通夜で、27日葬式だから」
「分かりました。取り敢えず弔電を打ちます」
 
千里は阿倍子さんに何かあった場合と「秘密の作戦」のため《びゃくちゃん》を大阪に置いてきている。それで彼女に頼んで電報を打ってもらおうと思った。
 
「弔電だけじゃなくて、あんた通夜・葬式に顔出してよ」
「すみません。言ってたと思うのですが、今オーストラリアで合宿中なんですよ」
「オーストラリアのどこ?」
「今シドニーです」
「シドニーから成田までは10時間で飛べるはず」
 
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「私に一時帰国しろと言うんですかぁ〜?」
「あんた、これまでの私の恩を忘れたわけじゃないよね? それにこないだは新しい車を探してあげたよ」
 
う・・・そのあたりを言われると辛い。
 
「ちょっと待って下さい。時刻を確認してご連絡します」
「うん。通夜・葬式は舞鶴だから」
 

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それで千里は飛行機の便を確認した。
 
シドニーから成田へは朝8:15に出て成田に17:05に到着する便がある(時差は現在シドニーは冬なので1時間である)。帰りは成田19:30→6:15Sydneyという便と、羽田22:00→8:35Sydney という便がある。葬儀が終わったその日には東京にたどり着けないので多分こういう行動になりそうだ。
 
7.26 Sydney8:15-17:05成田19:12-(東海道新幹線など) 23:54敦賀
7.28 敦賀13:10-17:29成田19:30- 7.29 6:15Sydney
 
26-28日の3日間練習を休む必要がある。それでもどっちみち通夜には間に合わない。雨宮先生に連絡する。
 
「明日朝いちばんの飛行機に乗っても敦賀到着が23:54になるんですよ。それでどうしてもお通夜には間に合いません」
「関空に飛ぶ便は無いの?」
「今無いようです」
「仕方ない。じゃ葬式だけでも出てよ」
「分かりました。お葬式は何時からですか?」
「午後いちばんくらいになると思う」
「だったら大丈夫ですね」
 
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ところがそれから30分ほどしてからまた電話がある。
 
「済まん。葬式は27日の朝1番になった」
「あらら」
「27日中に帰り着かないとまずい人が結構いるらしくて」
「私もその方が助かりますが」
 
「それでさ、千里」
「はい」
「雷ちゃんが今苗場ロックフェスティバルに行ってるんだよ」
「ああ」
「それで千里、車で雷ちゃん夫妻と、ついでにケイも拾って舞鶴まで来てくれない?」
「オーストラリアから緊急帰国して、疲れた身体で車で苗場から舞鶴まで走れとおっしゃるんですか?」
「飛行機の中で寝てればいいじゃん」
 
うっうっ・・・。
 
「あのぉ、アテンザは使えます?」
「売り主の責任で車両点検させてるから、もう2〜3日待って」
「じゃ、インプの最後のお務めになるかな」
「ああ、そうなるかもね」
 
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インプの車検は8月12日で期限が切れる。それでニュージーランドからの帰国後最後のドライブをしてから、廃車の処理をしてもらう車屋さんに持ち込むつもりであった。
 

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しかし車で走るとなると予定がまた変わる。成田から越後湯沢を通って舞鶴までだが、帰りは舞鶴から東名を走って成田あるいは羽田に戻ればいい。
 
成田−越後湯沢 270km 3時間
越後湯沢−舞鶴 540km 7時間
舞鶴−羽田空港 560km 7時間
 
7.26 Sydney8:15-17:05成田19:00-22:00越後湯沢23:00- 7.27 6:00舞鶴
7.27 舞鶴13:00-20:00羽田22:00- 7.28 8:35Sydney
 
となるだろうか?つまりこちらは26-27日の2日間だけ休めばよい。それで雨宮先生に連絡したのだが、上島さんの予定が終わるのが深夜1時くらいになりそうだから、それまで待機してから舞鶴まで来てくれということであった。その方がこちらも少しは仮眠できるから助かる。すると越後湯沢を深夜2:00に出たとして舞鶴到着は朝9:00頃になる。それでお葬式に出て、お昼には東京に向けて出発。なんてハードスケジュール!
 
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千里は取り敢えず航空会社に電話してそのチケットを確保した。幸いにも往復とも取れた。そして、そのスケジュールを再度雨宮先生に連絡して了承を得る。
 

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『ということでさ、きーちゃん』
『へ?』
 
《きーちゃん》は突然呼びかけられてびっくりしている。
 
『私の代わりに日本まで往復してきて欲しいんだけど』
『このハードスケジュールを私がこなすの!?』
『それとも私の代わりに2日間合宿をする?』
『それは絶対無理!』
『じゃよろしくー。交代のドライバー必要だし、こうちゃんもお願いね』
 
『じゃ俺は貴人にくっついて日本まで行って、交代で車を運転すればいい訳か』
 
『でも私、上島さんとかケイさんとお話できないよ。それに千里自身、葬儀に出なくてもいいの?』
と《きーちゃん》は言う。
 
『上島さんとケイを拾うところ、それから現地での3時間ほどは私自身がするよ。27日の午前中の練習は体調が良くないとか言って休ませてもらう。きーちゃんには《中抜き》をして欲しいんだ』
 
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『なるほど、そういうことか』
『私が行けたらいいんだけど、代表合宿も休む訳にはいかないから』
『分かった。じゃ頑張るよ』
 
と《きーちゃん》は言ってくれた。
 

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それで千里は結局、26-27日の合宿も通常通り参加することにしたが、26日の朝から《きーちゃん》は千里の格好をしてパスポートを持ち、シドニー空港に出かけた。成田行きの便に乗り、27日の夕方成田に到着する。入国手続きなどをしている間に《こうちゃん》がインプを駐めている駐車場まで飛んで行き、成田空港に回送する。それで《きーちゃん》が運転して22:00頃に越後湯沢に到着した。《きーちゃん》は本当に車内で仮眠したようであるが、《こうちゃん》はその付近で地元のメスの龍?をナンパしたりしていたようである。
 
27日1:30頃、千里は《きーちゃん》と入れ替わって越後湯沢に来る。それで上島さんと落ち合って拾う。そして冬子に連絡したが、冬子は政子と一緒に行くということだったので、結局4人乗せて出発することになった。
 
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夜遅いこともあり、すぐに4人とも寝てしまう。それで千里は《こうちゃん》に運転を代わってもらい、自分自身の精神は眠らせた。但し途中越中境PAから不動寺PAまでの1時間半ほどは《こうちゃん》を仮眠させて千里が運転した。
 
明け方三方五湖PAまで来たところで再度千里と交代する。ここでは同乗していた4人も起きて、みんなトイレに行ってきた。
 

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明け方、オーストラリアにいる《きーちゃん》から、この日の練習は体育館の電気系統のトラブルのため中止になったという連絡が入る。ホテルの会議室で今日1日、アジア選手権で対戦するチームの選手の分析や、作戦関係の打合せをすることになったということだったので、『録音しといてねー』と言っておいた。それで当初は午前中だけ舞鶴に居て、午後はオーストラリアの《きーちゃん》と交代するつもりが、帰りの東京までの運転も千里がすることにした。
 
それで千里はこの日の午前中、雨宮先生のお父さんの葬儀に参加した。受付の所に立ったり、音楽関係者などの応対をしたりなど、忙しく駆け回った。龍虎も葬儀には参加していた。要するに(実の父でワンティスのリーダーだった)高岡さんの名代として出席したようである。里親の田代夫妻も付き添っていた。
 
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なお龍虎は中学生なので学生服で参列していたのだが、政子が「セーラー服着ればいいのに」などとからかっていて、本人も心が揺れていたようである。
 
お棺は雨宮先生のお兄さん、お姉さんの夫、雨宮先生の妻(事実上の夫)である三宅さん、そして従兄の人の4人で持っていた。ごく自然な人選だと思ったが、この件はあとで冬子に尋ねられ、まあそろそろ言ってもいいだろうと思ったので、千里は冬子に、雨宮先生と三宅さんが夫婦であることを教えてあげた。
 

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葬儀は12時前に終わったので帰ることにする。上島さん夫妻は今夜1泊してから帰るということだったが(飲み会もあるようでアルトさんが渋い顔をしていた)、冬子たちは東京のスタジオに青葉を含むローズ+リリーの音源制作スタッフを残してきていたので早く帰らなければということで千里の車に同乗していくことになる。
 
結果的にこの冬子・政子とのドライブが、6年間乗ったインプレッサ・スポーツワゴンの最後のお務めになった。千里は最後に乗せる人としては最高だなと思って車を運転した。貴司はどうせ他人の夫だしね〜。
 
(人妻という言葉はあるのに、なぜ人夫という言葉はないのだろう?と千里はふと疑問を感じた)
 
途中冬子が運転を少し代わってくれたので、その間千里は熟睡していた。意識が完全に沈黙していたので、冬子にかなり強く揺り起こされて、やっと起きられた。合宿の疲れも出ているよなあ、と思う。
 
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それで夕方冬子たちをスタジオに置いてから羽田に向かった。スタジオに居た青葉が千里の顔を見てびっくりしていた。
 

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羽田で千里は《こうちゃん》に車を任せて降りた。《こうちゃん》に車を用賀のアパート近くの駐車場に回送してもらう(千里のミラは経堂の方の駐車場に駐めていて、桃香が日常的に使用している)。そしてオーストラリアに居る《きーちゃん》とチェンジする。それで《きーちゃん》は丸一日に亘る会議で眠気と戦っていた頭を振ってから、出国手続きをしてシドニー行きの飛行機に搭乗し、機内でスヤスヤと眠った。
 
千里がオーストラリアの合宿の会議室に来てみると、コーチがビデオを上映しながら色々説明しているものの、実際には半数近くのメンツがこちらもすやすやと眠っていた。
 
まあ合宿で疲れているのに灯りを落としたら「おやすみなさい」って感じだよね〜。
 
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7月30日。青葉は冬子のマンションを出た後、日暮里で彪志と落ち合った。
 
「何時までいいの?」
「最終の新幹線は東京駅21:04」
「じゃ20時までには東京駅に行くことにしておこうよ」
 
「そうだね。でもごめんねー。なかなかデートできなくて」
「いや、ほんとに青葉忙しそうだもん」
 
そう言って彪志は青葉の腕に触る。
 
「春から3ヶ月くらいだけど、握力が25kgから30kgに上がった」
「前から青葉は少々細すぎると思ってた。握力、スポーツ選手なら握力は女子でも50kgあっていいと思う」
「うちのちー姉の握力は70kgと言ってた」
 
「さっすが日本代表!」
「でもちー姉の高校の時のチームメイトの人は握力90kgだって」
「凄いね!」
「その人はセンターだから。ちー姉はガードだもん」
「それでも70kgあるのか・・・」
 
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「私がたくましくなってもいい?」
「青葉のこと俺は好きだよ」
 
青葉は微笑んで素早く彪志にキスをした。
 
「女の子らしくなくなっちゃうかも知れないけど」
「俺は青葉が女の子だってこと知ってるから」
 
「それHな意味じゃないよね?」
 
すると彪志は思わず咳き込んだ。
 
「あ、えっとホテルとかにでも行く?」
「一緒にお散歩とかしようと思ってたけど、彪志がそちらの方がいいなら」
「それかレンタカー借りて一緒にドライブでもいいけど」
「うん。それも楽しいよね」
「いっそ北陸新幹線方面にドライブする?」
「そういう手もあるか」
と言って青葉は時刻表を確認する。
 
「長野なら22:29」
「じゃ中央道か上信越道方面に」
 
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ふたりは微笑んで、手をつないで歩き始めた。
 
 
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