広告:まりあ†ほりっく 第3巻 [DVD]
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■春輪(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-11-28
 
15日(水)朝、桃香を送り出してから千里はさすがに今日は休ませてもらおうと思い、40minutesの麻依子、レッドインパルスの靖子さん、そして午前中の体育館での練習仲間である玲央美に連絡した。ところが玲央美は
 
「私も今日まで休み。今日までフル代表の合宿をNTCでやってるんだよ」
と言う。
「ごめーん。じゃ他の誰かに連絡しておくか」
「あれ、メーリングリストか何か作ろうよ」
「うう。そのあたり私、さっぱり分からない」
「千里、確かSEだったよね」
「それはそうなんだけどねー」
 
「あ、そうそう。ユニバーシアードBEST4おめでとう」
「ありがとう。メダルが欲しかったんだけどね」
「あ、それでうちの山野さん(女子フル代表監督)が千里に話があるらしい」
「山野さんが?何だろう」
「私も内容は聞いてないんだけどね(ということにしておこう)」
 
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この時点で千里は何か情報が欲しいのかと思っていた。女子フル代表は8月末から9月上旬に掛けて、アジア選手権(兼オリンピック予選)に出場する。そこで中国・台湾・韓国と対戦するが、この3チームは今回のユニバーシアードにも出場していた。選手は違うだろうが戦術などは似たものである可能性もある。ただしどのチームとも対戦していないので、あまり提供できそうな情報は持っていない。そもそもそういう話を聞くなら、自分よりもっと物事を冷静に見られる彰恵か雪子あたりに聞いた方がいいと思うのである。千里の分析はよく言えばアナログ、ハッキリ言えばアバウトである。
 
それで千里が首をひねりながらもインプを走らせてフル代表の合宿が行われている北区の味の素NTCに行く。入口で千里はフル代表監督の山野さんに呼ばれたのでと言おうとしたのだが、それより前に
 
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「あ、村山さん、どうぞどうぞ」
と言われて通してくれた。確かにここも常連になってるからなあ〜、などと思う。
 
それで受付で来訪の趣旨を言うと応接室に通される。そして出してもらったコーヒーを飲みながら待っていると5分ほどで山野監督と、フル代表のチーム・リーダー坂口さんが来る。何だ何だ?と思う。
 
「村山君、僕たちと面識あったよね?」
「はい。過去に色々な機会でお目に掛かっています」
 
「まあそういう訳で、これ君のスケジュールね」
と言って山野さんは千里に7−9月のカレンダーに色々書き込みのあるものを渡した。
 
「えっと。何でしょうか?」
「君をフル代表に招集するから」
 
「え?でもフル代表って既に12名決まっているのでは?」
「それは現時点での12名だから。その12名が安寧にそのままアジア選手権の代表になれると思ってもらっては困る。競争を生き抜いたものだけが最終的に代表になれる」
 
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「え〜?入れ替えアリですか」
「うん。君の他に、ユニバ代表の中では鞠原(江美子)君、あと千鳥君・大高君も追加招集することになった。千鳥君と大高君には先週通達して既に今日までの合宿にも参加してもらっている。鞠原君にはユニバに行く前の段階で話していたのだけど、村山君の場合、一時的なブランクがあったので大会まで様子を見ようということになっていた。大会で体格の大きな欧米の選手にも全く負けずにプレイしていたので確定」
 
「ちょっと待って下さい」
 
千里はスケジュールを見る。
 
7.21-23 合宿(NTC)
7.24-31 オーストラリア遠征
8.01-10 ニュージーランド遠征
8.13-16 代表強化試合(東京)
8.18-28 合宿(NTC)
8.29-9.5 アジア選手権(オリンピック予選)中国・武漢
 
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「全然空きが無いじゃないですか!」
「うん。この後、オリンピック予選まではずっと代表チームで活動してもらうことになる」
 
このスケジュール表の空きは今日から20日までの5日間と、ニュージーランド遠征と強化試合の間の8.11-12,17の3日くらいである。しかし海外遠征から帰ったあとの2日間というのは実際問題として身体を休めている以外のことはできないだろう。
 
「悪いけど、その間、所属チームの方は村山君抜きで頑張ってもらわないといけない」
 
この日程だと全日本クラブバスケット選抜とぶつかる。まあ選手権じゃないし「ごめーん」と言っておくかと千里は思う。そもそも40 minutesはみんな仕事や家の用事で平気で大会を欠席したりする。気楽さが基本だ。
 
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「それと同じチームから申し訳無いけど森田(雪子)君をヤング代表の方に招集するから」
 
ヤング代表は今月下旬のウィリアム・ジョーンズ・カップに出場する。基本的には次世代のフル代表を育てるためのチームである。ユニバ代表の中では雪子と王子の2人がヤング代表の方に横滑りらしい。そちらの日程は全日本クラブ選抜とはぶつかっていないので、雪子は選抜には出られそうだ。
 
「本当に急で申し訳無いのだけど、日本がオリンピックの切符を掴むためには君の力がぜひとも必要なんだ。頼む」
と坂口リーダーが頭を下げる。
 
「でも私・・・仕事どうしよう」
 
ここで千里が「仕事」と言ったのは実は作曲の仕事の方である。雨宮先生からはしばらく合宿とかで書けなかった分、8月までに30曲書いてなどと言われたのである(10月末までに延ばしてもらった)。
 
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しかし山野さんは千里のSEの方の仕事と取ったようである。
 
「その件だけどさ、僕の個人的な意見なんだけど、君、そこのソフト会社辞めたら? そして君、どこかのWリーグのチームに入るか、あるいは40minutes自体をプロ化しない? スポンサーになってくれそうな企業や社長やれそうな人を紹介してもいいよ」
 
と山野さんは言う。
 
あはは・・・私もあの会社辞めたーい。
 
「君がWリーグのチームに入りたいと言ったらたぶんみんな700万円くらいは年俸を出すと思うよ。SEも高給かも知れないけど、ほぼ見合うくらいの収入が得られると思う」
 
いや、あの会社給料はあまり高くないです!
 

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そこで千里は16日、自ら会社に出て行き、専務にお話がしたいと言った。そしてユニバーシアード代表が終わったと思ったら、そのままフル代表に招集されてしまったことを話す。
 
「え〜〜〜!?」
 
「それで本当にこれ以上、ご迷惑掛けられないので、大変申し訳ないのですが、会社を辞めさせて下さい」
 
と言って千里はあらためて昨夜毛筆で書いた退職願を専務に差し出した。
 
「うーん・・・」
と言って専務はしばらく目を瞑って悩んでいた。
 
「代表の日程はこの9月5日まで?」
「はい。ここで優勝することができたら、次はオリンピックまではあまり大したものは無いと思います。優勝できなかった場合は来年6月くらいの世界最終予選に出ることになります」
 
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「じゃどっちみちその後はここまで連続ではないよね?」
「えーっとオリンピックの前にはたぶん長期間の合宿が」
 
「じゃそれは後日また考えよう」
 
あれ〜?辞めさせてくれないの〜? でも有休は使い切ったぞ。
 
「9月5日は土曜日だね。だから7月21日から9月4日までの間は休職ということで」
「あはは。休職ですか」
 
「休職中は給料は基本給の1割+社会保険料相当額を払うから」
と専務は言ったのだが
「いえ、それは申し訳無いので返上します」
と千里は言う。
 
「でも社会保険料は給与がゼロでも払わないといけないよ」
「じゃ、その分は会社の口座に振り込みますので口座番号を教えて下さい」
 
専務は更に考えていたが
「じゃ給料はゼロ、社会保険料相当額は会社で取り敢えず立て替えておいて8月のボーナスで精算」
 
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「私、こんなに休んでいるのにボーナスとか出るんですか?」
「まあ大した金額ではないとは思うけど、社会保険料相当額くらいには充当できると思うよ。残金を君の給与受取口座に振り込むから」
 
そういう訳で千里はまたこの会社を辞めそこなったのである。
 

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7月17日(金)。この日やっと阿倍子は退院の許可が出て、荷物をまとめていた。しかし・・・・結構量がある!
 
貴司は9日から19日まで東京で合宿中である。千里は14日まで韓国にいたはずで帰国はしているものの、次の合宿は21日からと聞いた。だから今回の合宿では貴司と千里は会っていないはずだ。千里本人は決して合宿所内で変なことはしていないと言っていたし、阿倍子としても信じていい気はするのだが、それでも同じ場所で合宿しているというのは、どうにもイライラする。
 
貴司は先月も6月15-22日、26日-7月2日と合宿をしているが、9日からまた合宿に行ってしまった。3-8日の間は大阪に居たものの、朝ちょっと病院に顔を出して京平を見るだけで、仕事と練習があるからと言って帰ってしまっていた。実質何の役にも立っていない!
 
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阿倍子はできたら貴司が大阪にいる間に退院したかったのだが、自らの体調回復が思わしくなかったのである。ただ先生からは出産時の傷などはほとんど無いですねと言われた。実際阿倍子はふつうの出産婦が愛用するドーナツ座布団のお世話にはならずに済んだ。
 
貴司が全然頼りにならない中、貴司の妹さんたちはサポートしてくれた。理歌さんも7月4日夕方まで居てくれて、その後代りに同日昼から美姫さんが来てくれ10日まで付き添ってくれた。しかし阿倍子自身が「安定しているので、もう大丈夫ですよ」と言って帰ってもらった。正直美姫さんとは性格的にもあまり合わない感じで精神的に辛かった。
 

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さて、看護婦さんにお願いして荷物をタクシーまで運んでもらえないかな?などと思っていた時
 
「こんにちは〜」
と言って、背の高い女子が2人入って来た。
 
「細川阿倍子さん?」
「あ、はい」
 
「私ら、村山千里のバスケ関係の友人なんですが」
「え?」
 
「今日、細川さんが退院するさかい、申し訳ないけど、退院の荷物とかあると思うし、手伝ってやってくれへんかと言われて。本人は今、日本代表関係のスケジュールが忙しゅうて、大阪まで来られへんらしくて」
 
どうもこの2人は千里さんと自分が友人と思っている雰囲気だ。千里さんから頼まれたというのは何か不愉快だけど、でも切実な問題として阿倍子は助けを必要としていた。
 
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「済みません。お手数おかけします」
「荷物は私らが持つさかい、赤ちゃん連れてくるとええよ」
 
と2人の女性は笑顔で言った。
 
「はい、そうします」
と言って阿倍子が京平を抱っこしてくると
 
「わあ、可愛い!」
とふたりは声をあげ、阿倍子も嬉しくなった。
 
「めっちゃ可愛い。女の子やよね?」
「いや。男の子なんです」
「へー。男の子にするのもったいないくらい可愛い顔しとるね」
「こっそりちんちん切っちゃいまへん?」
 
そんなことを言われて、阿倍子もつい
「ほんと。この子女の子でも良かったのに」
と思ってしまった。京平が嫌そうな顔をした気がした。
 

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千里の友人2人が手伝ってくれたお陰で、何とかマンションまで辿り着く。3週間留守にした割には、マンション内はあまり散らかってなかった。
 
「ふーん。洗濯物は大してたまってないな。山盛りの洗濯物とシンクに積み上げられた食器群を想像していたのだけど。美姫さんがしてくれたのかな?」
 
などと独り言を言って、取り敢えず水道を出して見る。サビとかも来ていないようだ。冷蔵庫の中にも適度に食料がある。やはり美姫さんが買い込んでくれたのだろう。これなら1週間くらい買物に行かなくて良さそう。
 
お湯を沸かしてミルクを作る用意をする。
 
阿倍子はほとんどお乳が出ないのである。正確には自分では全くお乳が出た記憶が無い。それで直接乳首を京平に吸わせても、全然出て来ないので京平が泣いてしまう。ただ夜間に搾乳器を付けておっぱいマッサージなどしていると、いつの間にか自分が眠ってしまうことがよくあるのだが、その時はふと目を覚ました時、少量ながら乳は搾乳器の中にあるのである。それで何とか京平に母乳を飲ませることはできたものの、量的には全然足りない。どうしてもミルク主体になるよなあ、と阿倍子は思っていた。
 
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7月18日(土)。
 
青葉たち水泳部の一行はインターハイの北信越予選(第48回北信越高等学校選手権水泳選手権大会)に出場するため福井県敦賀市までやってきた。今回の遠征チームは男子が魚君など3名、女子はメドレーリレーに出場するため4人全員である。
 
大会は20日まで3日間掛けて行われ、各種目で3位までに入るか全国標準記録を突破すれば、全国大会つまりインターハイに出場することができる。
 
青葉が出場するのは400m,800m,400mメドレー、メドレーリレー、フリーリレーの5種目である。
 
まず初日に400mフリーリレーの予選が行われたのだが、T高校は決勝に残ることはできなかった。2日目には800mが行われた。富山県大会では1人で泳いで優勝だったのだが、北信越大会では7人である! どうも福井・石川・富山・長野・新潟の各県から1〜2人ずつ出てきたもようである。人数が多ければタイム決勝ということだったのだが7人しかいないので一緒に泳ぐ。ここで青葉は3位に入り、インターハイの切符を手にした。
 
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3日目には残りの競技が全部行われる。最初に400mメドレーリレーの予選が行われたがここでT高校は予選落ちしてしまった。次にわずかな休憩をはさんで400m個人メドレーが行われる。この競技では青葉は4着で惜しくもインターハイの切符を逃した。
 
と思ったのだが、全国標準記録を実はギリギリでクリアしていたことを後で言われた。それで青葉はこの競技でもインターハイに行けることになった。
 
その後、更にわずかな休憩をはさんで400m自由形が行われる。しかし青葉はさすがに個人メドレーの疲れが残っていて全力を出し切れなかった。6着でアウト(こちらは標準記録にも届かなかった)。
 
それで結局青葉は400m個人メドレーと800m自由形でインターハイに出場することになったのである。女子では他に杏梨が200m自由形でやはり3位に入ってインターハイの切符を手にした。男子では魚君が200m,400m平泳ぎでインターハイに行けることになった。インターハイに行けるのはこの3人である。
 
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春輪(5)

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