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■春輪(3)

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絢人はドキドキしながら左右を見渡した。誰も居ない。耳を澄ます。中にも誰も居ないようだ。絢人はそっとドアを開けて中に入った。
 
スポーツバッグの中から学生服とブラウス、ズボンにスカートを出す。そしてドキドキしながら着ていたジャージを脱ぐ。汗を掻いているのでパンティとアンダーシャツをすばやく交換。その上にブラウスを着て、スカートを穿く。
 
ふと見たら大きな鏡がある。こんなの男子更衣室には無いなあと思った。自分を鏡に映してみる。ブラウスを着てスカート穿いている。これで女の子に見えないかなあなどと思う。でも髪が短すぎだよな。髪伸ばしたいなあ。
 
ふっとため息をつくと絢人はスカートの上にズボンを穿き、ブラウスの上に学生服を着た。
 
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長居して誰かが入って来たらやばい。
 
絢人は忘れ物がないことを確認してから、またそっと戸を開け外に出て戸を閉め、素早く立ち去った。
 
絢人は女子更衣室を出たあとは左右も見ずに一目散に自分の教室の方へ足早に歩いて行ったので、その後ろ姿を見て首をかしげる女の子の姿があったことに、彼は気づかなかった。
 

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優子は実家の母からの電話に困惑した。
 
叔父が連鎖倒産に巻き込まれて破産したというのである。それで父が保証人になっていた800万円の借金がこちらに掛かってきたのだという。
 
「持っている株を全部売って、銀行からも何とか300万円借りて、取り敢えず600万円は返す目処が付いたんだよ。あんたさ、200万円か、せめて100万円くらい、融通できない?」
 
「私も安月給だよぉ。貯金も無いし」
 
優子は株も含めて80万円ほど預金があったものの、全部新車の頭金にしてしまっている。
 
「今度のボーナスは?」
「全部行き先が決まってる」
「じゃせめて50万円くらいでも」
「無理だよぉ」
「サラ金とかは?」
「娘をサラ金に行かせるの?」
 
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最後はやや喧嘩気味に電話を終えた。
 

それでもやもやした気分で会社に出ていった優子はそこで更に衝撃的な話を聞くことになる。社員全員、食堂に集まってくれというのである。何だ何だと思いながら行くと、社長が前に出てきたかと思うといきなり土下座する。
 
「社員諸君、申し訳無い。我が社は倒産した」
 
はぁ〜〜!?
 
ちょっと待ってよ。だったらボーナスは? いや、その前に今月のお給料出るんだよね?
 
優子は呆然として社長の説明を聞いていた。
 

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桃香は優子から電話があった時無視していた。それでメールが送られてくる。
「恋愛関係の話じゃないから、ちょっとだけ相談に乗って欲しい」
 
それであまり気は進まなかったものの、結局居酒屋で優子と会うことにした。
 
「実はお金の話でさ」
と優子が切り出すので
「私、貧乏だよ。貯金も無いし」
と桃香は釘を刺しておく。
 
「まあ桃香はあまり貯金の出来ない女だというのは分かっている」
「優子に勧められて買った株とかも、もう全部手放してしまったんだよ」
「だろうとは思ってた。それでね」
 
と言って優子は自分の状況を説明する。
 
前の車が壊れてしまったので貯金をはたいて5年ローンを組んで新車を買った。初回の支払いは済ませたものの、8月にはボーナス払いで22万円ほど払わなければならない。そんな時、実家の父が保証かぶりをして800万円の返済義務を負ってしまった。600万円までは目処が付いたものの、あと200万円こちらで融通できないかと言われている。そんな時、優子自身が勤めていた会社が倒産してしまい、ボーナスが出ないどころか今月の給料も少し待ってくれと言われている。
 
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「どうしたらいいかと思ってさ。サラ金には手を出したくない。そもそも今、サラ金から借りようとしても在確できないから借りられない」
「会社は営業停止してるんだ?」
「債権者からロックアウトされてる」
「ああ」
 
桃香は考えたが結論はひとつである。
 
「優子、その車を売りなよ」
「やはりそれしか無いか!」
 
「どっちみちそれボーナス払いを払えないでしょ?」
「うん」
「返済が滞ったら期限の利益を喪失するから、残額一括返済を求められる。結果的に車は手放さなければならない」
「そうなんだよねー」
「だったら売っちゃっても同じ。優子、その車の名義は誰になってるの?」
「ディーラー系のローン会社。実は季里子が勤めているお店で買ったんだよ。だから季里子には言えなくてさ」
「なるほどねー」
 
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「ディーラー名義の車って売れるんだっけ?」
「売れる。ただし販売代金の内ローン残高はディーラーに支払われて残りをこちらが受け取ることになる」
「ローン残高の方が売却代金より高かったりして」
「幾ら払ってるの?」
「頭金80万円、初回の支払い2万で合計82万円」
「いくらの車だっけ?」
「360万円」
「だったら残債は320万円くらいかなあ」
「そんなに残ってるんだっけ?」
「繰り上げ返済で利子が軽減されるから、もしかしたら300万円くらいになるかも」
 
「うーん。でも売却する場合、いくらで売れるかな」
「どのくらい走った?」
「2000kmくらい」
「それいつ買ったのさ?」
「先月」
「相変わらず激しいなあ」
 
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と言って桃香は大きく伸びをする。
 
「まあ250万円くらいかなあ」
「え〜〜!?」
「車はいったん個人の手に渡った途端、価値は7割になるんだよ」
「うう」
「それでも放置しておいて督促来てとか考えるよりはマシ。それに車を売るにしても、できるだけ早く売った方が高く売れる。ローンは放置すると延滞金が掛かる」
「ぐう」
 
優子も悩んだものの、桃香の言う通りだと思う。
 
「仕方ない。売ろう。どこなら高く買ってくれると思う?」
「まあ***かな」
「そこかぁ」
 

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雨宮三森はぶつぶつ言っていた。
 
6年前、千里が北海道から千葉に引っ越してきた時、うまく乗せて中古のインプレッサを買わせた。当時千里がまだ未成年で車の法的な所有者になれなかったので、雨宮が名目上の所有者になった。実際にはその車に関する費用は全て千里が払っている。ところがそのインプが最近不調で、見てもらったらもう寿命だというので買い換えたいと言ってきたので了承した。
 
「私、日本代表の合宿と大会とで全然車屋さんに行く時間が無いんですよ。申し訳ないのですが、先生適当な車を見繕ってもらえないでしょうか?」
「そうねぇ。フェラーリ・カリフォルニアTとかどう?」
「2シーターは困ります」
「あら、これ4人乗りよ」
「国産がいいです」
「NSXとか」
「予算300万円以内で」
「それなら詰まんない車しか無いと思うなあ」
「ステーションワゴンかハッチバックで。2000cc程度以上で」
 
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などと会話している内に雨宮は、いつの間にか千里の代わりに車を探してやることをなしくずし的に同意したも同然になっていることに気づく。ちょっと不愉快だ。あんにゃろ。帰国したら作曲30曲くらい押しつけてやる。嫌がったら恥ずかしい格好した写真をバラまくぞと脅してもいいかな。
 
「でもその予算でそのスペックは結構限られるよ」
「中古車でいいですよー」
「まあそれなら何とかなるかもね。MTだよね?」
「当然です。ゴーカートなんて女の乗り物ですよ」
「あんた男だっけ?」
「秘密です」
 
それでぶつぶつ言いながらオークションを見ていたら、アテンザワゴン2015年式2.2L Diesel 6MT 走行距離1800km、320万円というのが出ているのに気づく。
 
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「いやに強気の値段設定じゃん」
 
と思って詳細を見てみると、買ったばかりの車でむろん無傷・未改造だし、まだ半月しか乗ってないものの、会社が倒産してローンを払えなくなったので売りたいと書かれている。購入価格は360万円らしい。
 
ふーん。。。。
 
雨宮はそれで出品者と何度かやりとりをした末、実物を確認できるかと尋ねる。いいですよということだったので見に行くことにした。
 

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韓国光州でのユニバーシアード。準々決勝から1日置いて11日には準決勝が行われた。組合せはロシア−カナダ、アメリカ−日本である。
 
アメリカはもちろんメチャクチャ強い。千里たちは勝敗は考えずにとにかく全力で行こうと話し合った。
 
日本は雪子/千里/江美子/彰恵/王子というオーダーで出て行った。実はセンターが居ないのだが、王子が長身なので、向こうは彼女がセンターなのだろうと思った感じもあった。
 
実際ティップオフは王子がセンターサークルに立ちジャンプする、190cmの長身のアメリカ人センターに勝ってボールを江美子の所に飛ばす。江美子から千里に速いボールが送られ、無警戒だった所でいきなりスリーを撃つ。
 
あっという間に3点取った所から試合は始まった。
 
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向こうはこちらをあまり研究していないのが明らかだった。王子は体格がいいので、アメリカのフォワードにも全く当たり負けない。そして千里がどんどんスリーを放り込む。そういう「大砲」系に気を取られていると江美子や彰恵が相手のちょっとした隙間から進入しては素早い動きでゴールを奪う。そしてこの4人は、みんなファウルで停められてもフリースローを全部入れる。
 
ということで第1ピリオドは向こうが何もできない内に大量リードを奪い、16-30とダブルスコアにしてしまったのであった。インターバルで引き上げるアメリカの選手の顔がこわばっていた。
 

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第2ピリオドは向こうは気合いを入れ直して出てきた。特に千里と王子には守備のうまい選手を付けて、この2人を封じる作戦で来る。そして向こうもこのピリオドはセンターを入れずにひたすら点を取る方式で来た。こちらが前ピリオドで頑張りすぎてやや疲れが出たこともあり、このピリオドは20-13と向こうがダブルスコアに近い得点。前半の合計は36-43と7点差まで迫られた。
 
後半最初は千里・江美子・彰恵を下げて絵津子・純子・絵理のトリオを投入する。前半のパワー勝負の陣営とはまるで性格の違う攻撃に相手はかなり戸惑う。それでも地力に勝るアメリカはじわじわと得点を重ねて21-15とし、ここまでの合計で57-58とわずか1点差まで詰め寄った。
 
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第4ビリオド。相手は全力で猛攻を掛けてきた。さすがにこちらは防戦一方になる。逆転されて73-68となったところで篠原監督がタイムを取る。しかし特にお話は無い。
 
「まあお前ら、あの相手に勝てるとは思うな。楽しくやろうじゃないか」
とだけ監督は言った。
 
「うん、楽しくやろう」
と江美子も言うと
 
「韓国のお土産は何がいいかなあ」
などと千里も言う。
 
それでも雪子がかなり精神的なゆとりを無くしている感じなので由姫を入れる。あとは千里/江美子/純子/王子というメンバーで出て行く。王子はそもそも空気を読めない性格なので、焦ったりすることもない。こういう場面では貴重な駒である。
 

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それで日本側が笑顔で出て行くので、むしろアメリカが戸惑っている感じ。しかしここから日本は頑張った。純子がサポート役に徹して、千里や江美子とのコンビネーションプレイでうまくフリーにしてやる。その一方で王子は相手フォワードと対等に渡り合い、向こうがダンクしようとしたのをブロックしてみたり、逆に相手を押しのけてこちらがダンクを決めたりする。じわじわと追い上げて残り20秒で77-74と3点差。日本の攻撃。
 
相手が物凄いプレスに来たものの、純子と交代で入っていた絵理が細かく動きまわり、うまくフロントコートにボールを運ぶ。千里がスリーを撃つ構えなのを見て2人がかり、ファウル覚悟で停めに来た感じであったものの、千里は先に反対側に居る王子に送る。王子がそのままスリーを撃つ構え。それでそちらに相手のセンターが寄って行く。王子はジャンプしたもののシュートせずに空中で体勢を変えて由姫にボールを送り、由姫はそのまま千里にボールを回す。
 
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千里はこの時エンドラインぎりぎりのコーナーまで走って行っていた。そこからほぼ真横に撃つスリー。
 
これが入って日本はギリギリで77-77に追いつく。
 
そしてその後アメリカが攻めて来るもののブザー。
 
試合は延長戦に入った。
 

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春輪(3)

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