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■春輪(4)

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延長戦、こちらは由姫/晴鹿/絵津子/彰恵/路子というメンツで出て行く。全員かなり消耗しているので、ここまで比較的消耗の少なかったメンバーを使う。それで向こうの消耗が激しかったこともあり、一時はこちらが4点リードする。しかしそこから向こうが必死に食い下がり、いったんは相手が逆転。しかし最後残り5秒から路子の取ったリバウンドを絵津子→晴鹿とリレーして晴鹿がブザービーターでゴールを決め、ギリギリでまたまた追いつく。
 
それでダブル・オーバータイムとなる。
 
第6ピリオドはお互いに総力戦となった。どちらもクタクタに疲れているものの序盤は何とか対等に進む。しかし途中でとうとう日本側が力尽きるような感じになり8点差を付けられてしまった。
 
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しかしここでまた日本はタイムを取って気合いを入れ直す。必死に追いすがり、逆にこちらの猛攻で2点差まで詰め寄った。
 
しかし最後は絵津子のシュートが入ったかと思ったのが跳ね返って飛び出してきたところを相手フォワードが確保。そのまま自分でドリブルして反対側のゴールまで走って行き、そのままボールをゴールに叩き込んだ。もう残り12秒でのプレイであった。ゴールを決めた選手と必死で追いかけた雪子とがはあはあ大きな息をして見つめ合っていた。
 
そこから最後日本も必死の攻撃を試みるも、及ばず。結局4点差のまま終了のブザーが鳴る。
 
102-98.
 
激戦を制したアメリカが決勝に進出した。
 
終了後、握手し、ハグし合う選手も多くあった。
 
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「きれいね」
と雨宮は言った。
 
「車は大事に扱いますから」
と優子は答える。
 
「確かに登録日が先月だ」
と言って車検証を確認する。
 
「じゃこの車が売れたら、それでローンを一括返済する訳ね」
「はい。そうです。それで名義を書き換えて、そちら様に引き継ぎますので」
 
「半月で1800km走ったのか」
「その内の1500kmは買った直後に青森まで試走した距離なんです」
「じゃ、ほんとに大して乗ってないんだね」
「それで手放すのは悔しいんですけどね」
 
雨宮は考えた。
 
「でもその段取りだと私がお金払ってから、こちらに引き取れるまで時間がかかるよね」
「できるだけ迅速に処理しますので」
 
「だったらその時間の掛かる分を引いて300万円にできない?」
「うーん。それだとローンの残高を払いきれないんですよ」
「じゃ308万」
「うーん。。。316では?」
「310」
「314」
「310万5千円」
「うーん。分かりました。310万5千円でいいです」
と優子は妥協した。それではお金は残らない。できたらいつ入るか分からないお給料が出るまでの生活費を確保したかったのだが。それでもローンはたぶんぎりぎりクリアできる。
 
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それで優子がこの取引に関する念書を書き、雨宮はその場で310万5千円の現金を手渡した。
 
「わ、ありがとうございます。現金で即もらえるとは思わなかった」
と優子は感激している。
 
「私と寝てくれたら10万円足してもいいけど」
「あ、寝るくらい全然平気です」
「ほんとに!?」
「ベッドの上でサービスしますから、ぜひ10万足してください。今月生活費も無くてどうしようと思ってたんですよ」
「寝るって意味分かってるよね?」
「そりゃ分かりますよ。それに私レズだもん」
 
「・・・・私男だけど」
「うっそー!?」
 

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季里子は優子から話を聞いてびっくりした。
 
「それは大変だったね」
と最初に優子自身のことを心配してくれる。ああ、友だちっていいなあと優子は思った。
 
「それで車を勝手に320万円で売っちゃったのよ」
「それ先にこちらに一報して欲しかったけどね」
「ごめーん。それで残額を一括返済したいんだけど」
「分かった。今計算させるね」
 
それで季里子が計算してくれた所、残債は290万円支払えばよいということであった。
 
「助かる〜。残債の方が多かったらどうしようと思ってたんだよ」
 
それで優子がその場で現金で290万円払う。経理の人が金額を確認して領収書とローン完済の書類を作ってくれた。名義変更はすぐに手続きをするということであった。
 
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「あ、お母ちゃん。私、車売ったから」
と優子は実家の母に電話して言った。
 
「あんたかなり年代物の車に乗ってなかった?」
「うん。でも40万円で売れたから、その代金そちらに送るね」
「ほんと!?助かる。ごめんね。負担掛けて」
「ううん。東京に出てくる費用とか出してもらったしね」
「でも車無いと不便じゃ無いの?」
 
優子の実家の地域なら、車無しでは生活が不可能である。
 
「当面は自転車で走り回るよ。また貯金して中古車の安いのでも買うよ」
「うん。でも気をつけてね」
「ありがとう」
 

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電話を切った優子はそばに居た桃香に言った。
 
「ありがとね。じゃ次の仕事先が決まってお給料出たら少しずつ返すから」
「困った時はお互い様だよ」
と桃香は言う。
 
車の売却差額は30万円(一晩変な男の人?と寝た報酬を含む)だったのだが、桃香が少し貸してくれたのである。桃香も「もうすぐボーナスだし何とかなるから」と言っていた。
 
「ところで桃香、今誰と付き合ってるんだっけ?」
「私は千里ひとすじだよ。同棲してるし」
「その子はあくまでホームグラウンドなんでしょ」
「うーん。。。まあ燐子なんだけどね」
 
「あれ?燐子、こないだ会ったけど、あの子結婚したんじゃないの?」
「いや、してないはずだが」
「だってあの子、妊娠してたよ」
「何〜〜〜〜!?」
 
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「父親は桃香?」
「え〜?ちゃんと毎回付けてたつもりだけどなあ。。。。ってちょっと待ってくれ。私には精子は無いと思うんだけど」
「いや、桃香ならあり得る」
 

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7月12日。光州では各順位決定戦が行われ、その最後に21:00から3位決定戦が行われた。準決勝のもうひとつの試合ではカナダがロシアを倒したので日本の相手はロシアである。結局練習試合で対戦したカナダとは本戦では戦わないこととなった。
 
ロシアとは予選リーグでも戦っている。お互いの強さは充分分かっている。厳しい戦いになることが予想された。
 
実際試合が始まると、向こうは予選リーグの時と同様、千里を封じる作戦で来るが、千里もそう毎回毎回はやられていない。この日の千里はかなり相手のマークを外して動き回り、第1ピリオドで2本のスリーを放り込んだ。それで第1ピリオドは20-18と1ゴール差の接戦となる。
 
すると第2ピリオド、向こうは千里をダブルチームで停めに来た。残りの3人でこちらの4人を相手にするリスキーな戦略だが、第2ピリオドに投入された向こうの選手はもう前半だけでエネルギーを使い切るくらいのつもりでこちらと対峙していた。結局このピリオド20-9と大きく水を開けられる。
 
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第3ピリオドでは、こちらは千里・晴鹿のダブルシューターの方式で出て行く。千里を封じていても晴鹿がけっこうなスリーを放り込むので、このピリオドを16-15と接戦で乗り切る。
 
そして最終ピリオド。日本は無理な戦術で疲労が目立つロシアに対して千里の他はフォワード4人という超攻撃的布陣で猛攻を掛ける。これで一時は64-58と相手を射程距離に捉える。しかしここからロシアも必死の反撃をして突き放しに掛かる。
 
終わってみれば71-60と11点差が付いていた。
 
どちらも試合が終わった時は力尽きて立てない選手が多数居た。ロシアとの試合は予選リーグの時も終わった途端座り込む選手がいたのだが、この3位決定戦では、審判が整列を促しても「Wait a moment」と言って、立ち上がるのにかなり時間を要する選手が何人も居た。
 
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こうして日本は3位決定戦に敗れ、今大会は4位に終わったのであった。
 

桃香は燐子を呼び出して妊娠の件について問い糾してみた。すると燐子は泣きだして、レイプされ妊娠していることを桃香に打ち明けたのである。
 
「それいつやられたのさ?」
「3月中旬なの」
 
桃香は暦計算サイトで日数を計算してみる。
 
「ちょっと待て。これもう19週だぞ」
「うん。どうしようかと思ってた」
「どうしようって産むのか?」
「産みたくない。産んじゃったら、あいつと結婚せざるを得なくなると思う。あんな奴と結婚したくない」
「だったら中絶する?」
「したいけど、できるんだっけ? 私流産しないかなと思って水風呂に入ってみたり重い物持って階段上り下りしたり」
「それ燐子が死ぬぞ」
 
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それで燐子に強く言って産科に電話させる。ところが最初の病院ではそんなに週数の進んだ中絶はできないと断られてしまう。2番目の病院は少しは話が分かりそうだった。『一応法的には21週6日までは中絶できることはできるのですが』などと言っているので途中で桃香が変わり、レイプされて、妊娠が知れると結婚を迫られるのは確実だが、暴力男なので結婚すれば不幸になるのは確実だから結婚したくない。それで子供も産みたくないのだということを強く主張する。それで向こうも途中で先生自身が電話に出てくれて『取り敢えず来てごらん』と言ってもらったのである。それで費用を尋ねると、30万円+諸費用と言われる。
 
「分かりました。取り敢えず30万持ってそちらにお伺いします」
と桃香は電話で言った。
 
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「私、30万円も無いよぉ」
と燐子は情けない声で言う。
 
「友だちに借りる」
と言って桃香は冬子に電話した。
 

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冬子は幸いにもお金を貸すことを快諾してくれて、取り敢えずこちらにおいでと言う。それで燐子と一緒に冬子のマンションを訪問。冬子は現金でお金を渡してくれた。そして政子が自分の車でふたりを病院まで運んでくれた。先生はあらためて燐子の話を聞き、そういう事情なら中絶しましょうと言ってくれる。手術は明日行うことにして、その日は入院していろいろ検査を受けた。
 

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ユニバーシアードに出場していた千里は13日の決勝戦・表彰式を客席から見学した後、14日に帰国した。その日はバスケ協会や文科省などにも報告に行き、14日夕方に解散式をおこなった。
 
千里はその足で車屋さんに行き、修理不能と言われたインプレッサを引き取った。雨宮先生からはほとんど新品同然のアテンザワゴンが定価の2割安くらいの価格で手に入ったという連絡を受けていた。ただ名義が最初ローン会社の名義になっていたのをいったん、前オーナーの名義に書き換え、更にそれを雨宮先生の名義に再変更するというので(なぜ私の名義じゃないんだ?とは思ったがいいことにした)千里に引き渡すのにあと少し待ってくれと言われた。一応14日のうちに代金+雨宮先生への御礼で320万円を振り込んでおいた。結果的には雨宮先生はタダで優子を1晩抱いたようなものであるが、そのような出来事が起きていたとは、千里は知るよしも無い。
 
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14日の夜は千里と桃香は久しぶりに一緒に寝た。
 
ここで千里はユニバーシアードで3位決定戦にも敗れてメダルを取れなかったのが悔しい気持ちでいた上に6年間乗ったインプをもうすぐ手放すことになるのもあって色々複雑な心情だった。一方の桃香はこの日の日中に燐子の中絶手術に立ち会い、おとなの事情で小さな命を消したことに罪悪感を感じていた。
 
それでこの日はお互いをかなり激しく求め合い、睦みごとは長時間に及んだ。
 
「千里今日は疲れているみたい?」
「うん。まあメダル取れなかったしね。桃香こそ何かあったの?」
「うん。まあ聞かないでくれ」
 
千里は最近付き合っていた燐子ちゃんと破局したのかな、などと想像した。
 
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「あ、それで千里が折角戻って来たのに、私は明日から泊まり込みの研修なのだよ」
「大変だね!どこで?」
「熱海に6泊7日。帰りは21日になる」
「分かった。行ってらっしゃい」
「女子のみの研修なんで、最初私は対象になっていなかったらしい。でも私が女だというのが分かって急遽対象になったんだよ」
 
千里は考えた。
 
「桃香最近性転換したんだっけ?」
「性別変更届って書いたぞ」
「はぁ!?」
 
「それですまんが」
「ん?」
「実はお金を使い果たしてしまって、少し貸してくれない?」
「え〜〜!?こないだ15万貸して、まだ月半ばなのに」
「ごめーん」
「まあいいけどね。5万くらいでいい?」
「うん」
「じゃ明日の朝、桃香の口座に振り込んでおくから、現地のATMで引き出してよ」
「助かる」
 
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