広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■春宴(8)

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リビングに戻ってペットボトルのお茶で一息つく。
 
「ここはお仕事の場ですよね?」
「そうそう。創作の場所だよ」
「だったら問題無いです。休息の場にするにはエネルギーが高すぎるんです」
 
「あの占い師さんも電話でそんなこと言ってたね」
と政子が言う。
 
青葉は聞き直した。
「電話でその占い師さんとは話していたんですか?。ここに実際に来たのではなくて?」
 
「うん。リノンが知り合いの占い師さんに電話して、それで電話を通して見てもらったんだよ」
「電話を通してそこまで分かるって凄いです。霊道の件にしても」
と青葉。
 
「じゃきっとかなり優秀な占い師さんだったんだろうね」
と政子は言う。
 
「その占い師さん、他には何か言ってました?」
と青葉は訊く。
 
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「CDと本をこの居間の向かいのサービスルールに置くつもりだったんだけど、CDはこのリビングの壁に並べた方がいいと言うから、そうすることにした。CDラックを発注してるから内装が終わったら設置するつもり。まあ確かにCDがずらりと並んでいたら、いかにも音楽家の家って感じで景観的にもいい気がするんだよね」
と冬子が言う。
 
「ああ、CDケースか。それは良いことですね。この壁側は凶方位なので動かさないものを置いた方がいいんですよ。CDってあまり取り出さないでしょ?」
「うん。持っているCD/LPは全部mp3化してファイルサーバーに入っている」
「本は取り出すんですよね?」
「そうそう。本は結構リアルの本で読む」
 
「あと、窓際の2つの部屋を私たちの寝室と客用寝室にするつもりだったんだけど、私たちの寝室はむしろ居間の隣の6畳が良いって」
 
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青葉は何かの資料を見ていたがやがて
「うん。その方がいいです。あの防音工事していた部屋はピアノを置くんですか?」
「ピアノは政子の家に置きっぱなし。こちらはクラビノーバとエレクトーン。あとヴァイオリンやギターの練習もするけどね」
 
「要するに創作部屋ですよね?」
「そうそう」
 
「その配置が理想的だと思います。防音室のある方角は伏位といって自分自身のパワーを引き出してくれるんです。創造的なお仕事するのに良いです。窓際の部屋は生気なので吉ではあるんですけど、強すぎるんですよね。一晩泊まる人にはいいけどいつも寝るのには向いてない。ここの隣の6畳は延年なので吉方位だけど生気より弱いから休息を取るのにいいです」
 
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「ああ、なんかそんな感じのこと、占い師さんも言ってた」
 
「だけど、そしたら占い師さんには方位は電話で伝えたんですか?」
と青葉は訊く。
 
政子と冬子は顔を見合わせている。
 
「いや、方位は特に話さなかったと思う」
 
「え?」
「何か変?」
「なぜ方位も伝えてないのに、その占い師さんは風水の吉凶が分かるんです?」
「分からないものなの?」
 
「私だって現地に行くか精密な図面をもらわないと分かりませんよ!」
「そうなんだ?」
 
「玄関について、その占い師さん何か言いました?」
「玄関は吉方位にあるから良好と言いました」
 
「じゃやはり風水を使っているな」
「風水じゃないと何なの?」
 
「ここの玄関は日本の伝統的な家相学では凶なんですが、風水では吉なんですよ」
「へー! 中国と日本で意見が違うんだ!?」
 
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「現代では多くの占い師が風水の方を信じています」
「なるほどー」
 
「玄関は東北にあるので、家相学では鬼門なんですが、風水では冬子さんも政子さんも本命卦が乾なので東北は天医と言って吉方位なんです」
 
「あれ?玄関は南東じゃないの?」
と冬子。
「北東ですけど」
と青葉。
 
「嘘!不動産屋さんは南東だって言ってたのに」
 
「窓から外を見ていて、そちらが北西って言われたんですよ」
「窓から右手を見たら北西ですね」
「ああ、なるほどー」
「ひょっとしたら単純に北西の反対側にあるから南東と思ったとか」
 
「風水や家相で方位を見る場合は家の中心、この家ならこの居間から見た方位を考えます。玄関の向き自体は東に向いているから、不動産屋さんの言うのも嘘ではないかも知れないけど、この居間から見たら玄関のある場所は北東なんですよ」
 
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「そのあたりの混乱かもしれんね」
と彪志が言っている。
 
「相対ベクトルと絶対ベクトルの違いだな」
と桃香。
 
「南東の玄関なら禍害になるからおふたりにとっては凶ですよ」
「じゃ北東で良かったんだ!」
「そうです」
 
と青葉は言ってから
 
「占い師さんに、冬子さんと政子さんの生年月日は伝えましたよね?」
と訊く。
 
「別に言ってないけど」
「あり得ない!!」
 
「なんかその占い師さんって物凄いスーパー占い師だったりして」
と政子。
 
「いや、どんなに凄い占い師でも、生年月日も聞かずに、方位も聞かずに風水の吉方位・凶方位が分かる訳ないです」
と青葉。
 
「冬子さんと政子さんの生年月日は公開されているからその占い師さんも知っていたのでは?」
と彪志が言うと
 
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「あ、そういうことかもね」
と冬子。
「図面もリノンが渡していたとか?」
と政子。
「間取り図は見られるかも知れないけど方位までは分からないかも」
と冬子は考えながら言う。
 
「あるいは実はリノン自身が凄い占い師で、電話を掛けている振りしていただけだったりして」
と政子。
 
「そう言われた方が信じたくなりますよ、これ」
 
などと青葉が言うと、《ゆう姫》が笑っている!?何?何か私見落としてる!?
 
『姫様、ここの運気は良いですよね?』
『うん。それは問題ないぞ。私は風水は知らんけど』
 

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ともかくも冬子たちの新しいマンションは風水的に理想的ということが判明したので引き上げる。いったん現在の冬子たちのマンションに戻ってから4人で軽く食事を取る。
 
「そうそう。例のRose Quarts Plays Sex Changeだけど、明日から全国キャンペーンやるんだけど、そのキャンペーンで流す映像コピーさせてもらってきたから見ない?」
「あ、いいですね。ちー姉と和実さんが出たんでしょ?」
「そうそう。雨宮先生に徴用されたんだよ」
 
「ちー姉と和実さんって雨宮先生と知り合いだったんですか?」
「和実はたまたまうちのマンションに来たんで強引に出ることにされちゃった」
「ああ、分かります」
「千里は雨宮先生に以前指導を受けてたって言ってたよ」
「へー。ちー姉、サックスでも吹くんですかね?」
「何の指導かは聞かなかったな」
 
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それで見出したのだが、その内彪志が何だかむずむずとしている。
 
「どうしたの?彪志、女の子になりたくなった?」
「別になりたくない!」
「そんな怒らなくてもいいのに」
「でもちょっと他の部屋に行ってていい?」
「うん。客用寝室で寝てなよ。このあと運転してもらわないといけないし」
「そうだね。じゃちよっと寝室借ります」
 
と言って彪志は出て行く。
 
「いや、これ普通の男の人には辛いよ、たぶん」
と冬子が言う。
 
「そうだっけ?」
と政子。
 
「でも若干1名を除いては、水着姿になってもみんなプロポーションいいね」
と政子が言う。
 
「若干1名を除いてはみんな歌もうまい」
と冬子。
 
「ちー姉、こんなに歌うとは知らなかった」
と青葉が言う。
 
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「千里、ピアノが上手いらしいよ。龍笛も上手いし、インディーズでCDも出したことあるらしいよ。何人かで組んで」
 
「全然知らなかった!」
 
「千里はプロポーションもいいね」
と政子が言う。
 
「近藤うさぎさんとかはモデルとしての体型の良さだけど、千里はそういうのとは違う。スポーツで鍛え上げた肉体って感じだね」
と冬子は言う。
 
「そういえばちー姉、中学高校時代にバスケしてたって言ってたな」
と青葉。
 
「そうそう。それで頭も丸刈りにしてたと聞いた」
と冬子。
 
「女の子になりたいのに丸刈りを強要されるって、ちー姉辛かったろうな」
 
昨年秋に千里からは高校時代の女装姿の写真を見せてもらった。丸刈り男子制服で学校生活を送っているがゆえに反動でこっそり女装もしていたのであろうか?
 
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「あの子、中学高校時代のこと、ほとんど話さないね。黒歴史にしたいんだろうな、きっと」
「それ分かります」
 

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彪志が熟睡していたので、結局夜8時近くになって、青葉と彪志は富山県に向けて出発した。
 
「彪志ごめんねー。ひとりでずっと運転してもらって」
「青葉何なら俺と交代で運転する?」
「私免許持ってないよ!」
「でも運転うまいじゃん」
「取り敢えず自粛する」
「じゃ2時間ごとに1〜2時間休憩するね」
「うん。それで行こう」
 
しかしふたりはあまりにもゆっくり「ご休憩」していたので、最後の方は時間がやばくなり、結局青葉と彪志で交代しながらノンストップで走って、朝8時すぎに青葉を直接学校の前で降ろしてから、彪志は(祠を青葉の自宅に置いた上で)千葉に帰っていった。
 

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青葉はその日の昼休み、理数科の教室に行って空帆に封筒を渡した。
 
「空帆、こないだの演奏、水沢歌月さんがそのままCDに使うということでさ、演奏料をもらったんだけど」
「ああ、ありがとう」
と言って封筒を受け取ってから
「わっ」
と空帆は言う。
 
「何この重さ?」
「ああ、重いなとは思った」
 
空帆が取り出すと何だか札束が厚い。
 
「これ全部1万円札みたい」
「さすがに千円札では渡さないでしょ」
 
空帆が数えてみると30枚ある。
 
「凄い。30枚もあるよ。幾らだっけ?」
「1万円札が30枚あれば30万円だと思うけど」
 
普通演奏料の相場はもっと少ないのだが、人間国宝級の演奏というので冬子がはずんでくれたのである。もしCDが予想以上に売れたら追加するかもと冬子は言っていた。
 
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「すげー!これもらっていいの?」
「税金は源泉徴収してるらしいから、後で源泉徴収票を送るから住所教えてって」
「うん。税金って幾らだっけ?」
「1割。だから報酬は333,333円だったはず。この世界では報酬をぞろ目で払って1割源泉徴収して切りの良い数字にするのがよく行われる」
 
「税金が3万円もあるんだ!」
「確定申告すれば全部戻ってくるよ」
「それは確定申告しなくちゃ!でもこれ全部もらっていいの?ギブソンのJ-45買っちゃおうかな?」
「取り分についてはお祖母ちゃんと話し合って」
 
結局お祖母さんはあんたが全部とっときと言ったので、空帆はこのお金で念願のJ-45(購入価格22万円)を買い、残金をお祖母さんに渡したようである。
 
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8月の下旬、青葉がちょっとした用事で富山市まで出ていたら、
 
「あら、こんにちは」
と声を掛ける女子高生が居る。一瞬誰か分からなかったので曖昧に
「こんにちは、えっと・・・」
などと返事をしたのだが、
 
「僕、森元です。こないだいらした高校生霊能者さんですよね?」
と言われる。
 
「蓮さん?」
「うん」
「女の子になっちゃったんですか?」
 
蓮は薄いピンクのキャミソールに少し濃ゆめのピンクカーディガンを羽織り、下はオフホワイトのプリーツスカートである。髪はヘアピースだろうか。ツインテールでメイドさんっぽいカチューシャまでしている。
 
「まだまだ。残り3cmくらいあるのよね。もっとも全然立たなくなっちゃったけど」
「さすがにそこまで縮んだら立たないでしょうね」
「うん。短すぎて立ったままはトイレできないんだよねー。玉は最近中に入ったまま出てこないし」
 
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恐らく睾丸はいよいよ卵巣化し始めて、本来卵巣があるべき位置に戻ろうとしているのだろう。卵巣化が進むとこの人の女性化は恐らく速度が上がる。
 
「どうせ前の穴使えないしと思ってパンティも女の子用を5枚買っちゃった。触るだけでもドキドキして穿くとつい興奮しちゃうよ。穿いたままオナニーしちゃう」
 
恐らくこの人、既に自分のことを女だと思っているのだろう。それで女同士の気安さでオナニーなんてことばを私の前で平気で言うのかな、と青葉は思った。
 
「オナニーしたら大きくなりますか?」
「全然。立たないから握って上下って出来ないんだよね。だから女の子がするみたいに指で押さえてぐりぐりする」
「精液は出ます?」
「透明なさらさらした液体が出るんだよね。多分精子入ってないんじゃないかな」
「それその内、その液体も出なくなりますよ」
「だろうね」
 
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と言っているが楽しそうなので、そうなっても構わないのだろう。
 
「胸はパッド入れてるんですか?」
「入れてないよ。パッド無しでAカップ付けられるし」
「ブラはいつも着けてるんですか?」
「うん。最近は学校行く時も着けてる」
 
「だけどそこまで身体が女性化したら、男子更衣室では着替えられないのでは?」
「着替えてるよ。でもみんなこちらを見ない」
「それ、レイプされる前に先生に言って個室とかで着替えさせてもらった方がいいと思います」
 
「でも女装して出歩くのって楽しいね。この服は妹から借りたんだよ。結構妹が煽るんだよね」
「こないだも煽ってましたね」
「女子トイレにも入っちゃったよ。ドキドキして中でまたオナニーしちゃった」
 
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「その格好で男子トイレに入ろうとしたら追い出されますよ」
「こないだスーパー銭湯の女湯に入っちゃったのよ。天国〜。女の人の裸が見放題なんだもん」
 
この人って心は男なのかな?と青葉は思う。心が男であるならたとえ身体が女性化していても、女湯には入って欲しくないな。
 
「でも蓮さん、こんなに身体が女性化しちゃってもいいんですか?」
「平気平気。僕は基本は男だし。身体の形なんて些細なことだよ」
「そうですね」
「彼氏はすげー、これ面白い、おっぱいも揉み甲斐があるって言ってくれるけどね。こないだあそこに出来てる《やおい穴》を使ってセックスしちゃったんだよ。自分で綿棒を入れてサイズ測ると3cmくらいなんだけど、実際におちんちん入れると5cm以上入るみたい」
 
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確かにあれは現時点では《やおい穴》かも知れない。しかし3cmサイズではあっても5cm以上入るって、そんなに伸縮性があるということは、それって膣状の組織なのでは?
 
「彼氏がいるんですか?」
「うん。僕はホモだから」
「彼氏ってバイなんでしょうか?」
「女の子との恋愛も過去に経験はしたことあるって。だからバイなのかもね。女の子とのセックスは未経験らしいけど。でも今の所取り敢えず捨てられてないし。僕たち後ろ使ってセックスしたこともあるんだよ。でも後ろよりこちらの方が気持ちいいと言ってるから、この後はこちらばかりになっちゃうかも」
 
「まあ恋愛なんて、お互いの気持ちが満足できていれば、身体の形なんてどうでもいいかも知れないですね」
 
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実際私と彪志もそうだしな、などと青葉は思う。私もでもよく捨てられずに5年も付き合ってきたよな。
 
「うん、僕もそう思う」
 
蓮さんは笑顔で、何だか楽しそうであった。
 
 
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春宴(8)

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