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■春宴(4)

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6月上旬。県内C市で10人以上限定のバンド大会が開かれたので、合唱軽音部全員で編成する《THSバンド》で参加することにした。1年生部員にはまだしっかり音を出せない子もいるので、真佑(Sp1) 佑希(Sp2) 友絵(MS) 芽生(A) の4人をボーカルに指名して歌を歌ってもらうことにした。
 
部員33名と顧問の今鏡先生で出かけて行く。
 
翼に「女子制服着ない?」と言ってみたものの、邦生が「お前ら、またセクハラしようとして」と言って停めてくれたので、スカートを穿いて列車に乗っていくなどということをせずに済む。翼は「吉田先輩ありがとうございます」と本当に感謝している雰囲気。しかしふたりがあまりにくっついていると
 
「どちらが攻めでどちらが受け?」
などと言い出す子も居て、セクハラは続く。
 
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こういう大編成バンドはそう多くないので、富山県内と石川県内から3つずつ、長野県安曇野市・新潟県上越市・福井市から1つずつの合計9バンドであった。せっかく遠くから来たバンドもいるし、また大バンドは楽器の用意と撤去も大変なので、各バンド30分ずつの持ち時間で、途中休憩をはさんで10時から15時まで5時間に及ぶ大会となった。9バンド合計で参加者だけでも200人を越えるので、会場となったC市公会堂(定員500)が結構埋まっている感覚があった。
 
THSバンドはKARIONの楽曲を演奏した。
 
まずは元気に『海を渡りて君の元へ』を演奏してから『星の海』『月に思う』と演奏する。『月に想う』に含まれるアルトサックス三重奏は青葉・立花・久美子の3人で演奏した。青葉は自前のピンクゴールドのサックスであるが、立花もヤマハのYAS-280を買ってしまった(購入価格94000円)のでマイサックスである。また久美子も中学時代にブラスバンドでサックスを吹いていたということで自分のサックスを持っている。これは下倉楽器製AL100GL(販売価格約6万円)で先輩から2万円で譲ってもらったらしい。久美子本人がベル(朝顔)部分にマジックで描いちゃったクロミの絵が可愛い。
 
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そのあと楽しく『白猫のマンボ』を演奏してから最後は『アメノウズメ』である。
 
この一連の譜面は、青葉がコネでKARIONの作曲者水沢歌月から横流ししてもらったこれらの曲のCubaseのプロジェクトを青葉と空帆が手分けしてバンド用に整備したものである。ただし超難曲『アメノウズメ』は作曲者自身が元々用意していた《簡易版》をベースにしている。それでもこの中に含まれる格好良い(=難しい)ピアノソロは康江さんが半月にわたる猛練習で弾けるようになったのでそれを披露することができた。康江さんが演奏した後、思わず客席から凄い拍手が起きていた。
 

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大会が終わって高岡に帰るのにみんなで駅に移動する。それで駅舎内に入ろうとしていた時、駅前に立っていた男女が居た。青葉はその男性の方と一瞬目が合う。青葉は今、目が合ったことを無かったことにしようと思ったが、彼はわざわざ青葉の傍まで来た。
 
「川上君、奇遇だね」
「あ、竹田宗聖さんだ!」
と以前にも遭遇している数人から声が上がる。
 
青葉は仕方なく
「こんにちは」
と笑顔で返事した。
 
「悪いけどちょっと付き合ってくれない?」
と竹田。
 
青葉はため息をついて、先生に断った上で、竹田に同行することにした。
 

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竹田と一緒に居た女性はC市内に住む森元さんという人であった。竹田は青葉のことを、まだ高校生なので看板は掲げていないものの北陸屈指の霊能者と紹介した。
 
「細かい異変はいろいろあるんです。階段の所に人が立っているのを見たりとか、夜中に枕元で誰か話していたりとか、ストーブ焚いているのに全然部屋が暖まらないとか」
 
そのあたりはよくある話だ。
 
「1月のことなのですが、夫がまだ出てこないのだけどと会社から連絡があったことがあって、それでこちらは7時に出たのにというので、どこかで倒れていたりしないかと大騒動したんです。でも夫はその後30分もしない内に会社に到着して」
 
「何があったんですか?」
「夫の言うには家を出たら物凄い吹雪で、前も見えない状態だったというんです。駅まで何とかたどり着いたものの電車が止まっているし、タクシーとかも見当たらないので歩いて会社まで来たと言うんですよ。携帯で連絡しようとしたもののつながらなかったと」
 
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「そんな凄い吹雪だったんですか?」
「その日は朝から晴れていて、雪など全く降っていませんでした」
 
「なるほどですね」
と青葉が特に驚く様子もなくその話を受け止めたので、森元さんは何だか安心したような感じであった。
 
「夫は上司から嘘つくにしても、もう少しまともな嘘をつけと随分叱られたのですが、その次は母だったんです」
 
森元さんの家は、森元さん夫婦と3人の子供、それに彼女の母が同居しているらしい。
 
「その日は私が中学生の娘の三者面談があって学校に行ったので、母が買物に行ってくれたんですが、面談が終わって娘と一緒に帰宅すると、母がまだ戻ってないんですよね。それで連絡したら、迷子になって途方に暮れていると言うんです」
 
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「ほほぉ」
「どこか近くに目印のある建物は無い?と訊いたら宮原って駅があると言うんですよね」
 
青葉は少し考えた。
 
「埼玉県ですか?」
「はい。そうです。結局、埼玉県の大宮の隣の宮原駅に居たんです」
「それは大移動ですね」
 
「後で大学生の長男が調べてくれたのでは、物理的には不可能では無かったそうです。母が家を出たのがお昼過ぎで、13時の《はくたか》に乗ると越後湯沢乗換で16時前に大宮駅に着くんです。母と連絡が取れたのが16時半くらいでしたので」
 
「お母さん、おいくつですか?」
と竹田が訊く。
 
「67歳です。本人もボケたんだろうかとその時は完璧に落ち込んでいたんですけどね」
「個人差はありますけど、まだボケる年齢ではないですね」
「ボランティアで地域の紙芝居サークルに参加していて、小学校や幼稚園などを回って紙芝居をして回っているんですよ。毎日たくさん絵を描いてますから本人もまだまだ若いと自信持っていたんですけどね」
 
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「ああ、絵が上手なんですね」
「はい。今は事実上引退していますが、57-58歳頃まで、デザイナーとしてゲームの図案とかポスターとか作っていたんです。アドビ・イラストレーターの恐らく一番初期からのユーザーだと本人は言ってました」
 
「凄い!イラレ遣いですか!」
「ええ。紙芝居の絵も全部イラストレーターで描いて最終的にフォトショップで調整しているようです。近くのデザイナー学校で教えていたこともありますよ。うちにはPowerPCが搭載される前のMacintosh II fxなんてマシンが置いてあります。なんでも古いデータを見るのに必要とかで」
 
「当時スーパーコンピュータ並みのお化けマシンと言われた凄まじい機械ですね」
と竹田が言う。
「僕は当時とてもfxが買えなかったのでciを買ったんですよ。それでも当時周辺機器と合わせて120-130万投資した」
 
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120-130万の投資ができる竹田がとても買えなかったって、いったい幾らしたんだ?と青葉は思った。
 
「祖母は性転換手術のために貯めてたお金で買ったと言ってました」
「お祖母さん、性転換なさったんですか?」
「冗談だと思いますけど。祖母が男装している所とか見たことないですし」
 
確かに女から男への性転換手術は200万円以上かかる。
 

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やがて森元さんの家に到着する。
 
車を降りて青葉は顔をしかめた。
 
「原因はあれですよね?」
と青葉は竹田に言う。
 
「間違いないね」
と竹田も言う。
 
「もう原因が分かったんですか!?」
と森元さんは驚いている。
 
「あの高速道路、まだ新しいですね。いつ頃工事が始まりましたか?」
「昨年の夏から秋に掛けてあそこを切り開いて。冬の間も橋脚を作っていました。春になってから橋桁を渡したんです。あの高速道路が原因なんですか?」
 
「怪異が始まったのってその頃からですよね?」
「そういえばそうです!」
と言って
 
「霊道とかその類いのものですか?」
と森元さんは訊く。
 
「いや、霊道というよりあれは・・・・」
と竹田は言葉を濁した。
 
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「お城ですね」
と青葉が言うと、竹田も頷いた。
 
すると森元さんが
「やはり」
と言うので、竹田と青葉は思わず顔を見合わせた。
 

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森元さんの案内で取り敢えず家の中に入る。森元さんの夫は外出しているということだった。お母さん、それに大学生っぽい男の子と中学生っぽい女の子が居る。
 
「母の小百合、長男の喬と末娘の純です」
と森元さんは紹介する。
 
お母さんは若い。まだ50代に見えるし美人だ。性転換はやはり冗談だろう。
 
「初めまして、竹田宗聖と申します」
と言って、竹田は全員に名刺を配った。竹田の名刺は上半分は淡い水色・下半分は菜の花畑のイラストが描かれ、右端には彼のトレードマークである竹の模様の家紋が緑色で入っている。肩書きは《霊障相談家》となっている。
 
「お子さんは3人でしたよね?」
と竹田が訊く。
 
「ええ。高校生の子がもうひとり」
「まだ寝てるみたい」
と中学生の女の子、純が言う。
 
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「みんなそれぞれ異変を経験して疲れているみたいで」
と森元さんは言う。
 
「悪夢はたくさん見るよね」
と純。
 
「どんな夢を見られましたか?」
「私は曲水の宴みたいなのに、十二単(じゅうにひとえ)を着て出ている夢を見ました」
と小百合。
「川の上流から杯が流れてくるので、短冊に歌を書くんですが杯を取ろうとしたところで目が覚めるんです」
 
「私はドレスを着て舞踏会に行く夢。凄く素敵なお城があるのよね」
と純。
 
青葉は訊く。
「そのお城の中に入りましたか?」
「入ってないんです。馬車を降りて、お城の入口にある階段を見ているんですけど、なかなか中に入れないんですよね。入口の所で素敵な感じの女性が手招きしてるんですけど」
 
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「今度その夢を見ても絶対に入らないで下さい」
と青葉は言う。
 
「はい!」
と純は答える。
 
「なんかそのお城が凄く素敵なのに、なぜか怖かったんです」
と純は言う。竹田も頷いている。
 
「僕は侍(さむらい)の格好をしていて、船着き場で船に乗ろうとしているんです。みんなどんどん乗っていくんだけど、僕は乗らずに黙ってそれを眺めているんです」
と喬が言う。
 
「それも乗ったらだめだよ」
と竹田さんが言う。
 
「私は買物に行っているんです。大きなデパートがあって入ろうと思って眺めているんですけど、まだ中に入ったことは無いんです。それも入ったらいけなんでしょうか?」
 
「ええ。入ったら大変なことになりますよ」
と竹田が言う。
 
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