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■春宴(7)

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青葉は千里の運転するインプの後部座席に彪志と並んで乗り、フィールダーの方には冬子と政子が2人で乗って、2台の車で連なって千葉市内のファミレスに入った。
 
「長いライブツアーが終わりましたけど、今はアルバム制作ですか?」
と彪志が訊いた。ローズ+リリーの春のツアーは4月26日に始まり6月15日まで続いた。
 
「うん。今ずっと毎日スタジオに入って作業している。去年は半年間他のことは何もせずにひたすらアルバム制作やってたんだけど、今年は5月から8月まで4ヶ月間スタジオ借りて少しずつ制作を進めている所かな」
と冬子は答える。
 
「しかしつい先日までツアーをやっていたんだろ?」
と桃香が言う。
 
「そうなんだよ。一応ツアーをやりながら編曲したり譜面をまとめたりはしていたんだけど、残り2ヶ月で録音作業をやってしまわないといけない」
と冬子。
 
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「それかなり厳しいですね」
と彪志。
 
「アルバムの前にシングルも出すんだよね」
と政子が言う。
 
「うん。7月16日発売の『Heart of Orpheus』。でもこちらの制作は今月初めに終わった」
と冬子は言う。
 
「ホルスという楽器を使ったんだよ。格好良かった」
と政子。
 
「へー、どんな楽器ですか?」
と彪志。
 
「口琴だよ」
と千里が代わって答える。
「聴かせてもらったけど魂が震える思いだった」
「ちー姉、そこに居たの?」
「その人が日本の固有の楽器を聴きたいというので私が呼び出されたんだよ」
「千里の龍笛初めて聴いたけど凄かった」
と冬子が言う。
 
そういえばちー姉が龍笛を吹くというのは年末にも聞いた。冬子がそんなに凄いと言うのは、どんな演奏なんだろうと青葉は考える。しかし千里は話を元に戻す。
 
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「口琴は弦が張られた小さな琴なんだけど、それを口で演奏する。北海道にムックリという楽器があるけど、それと同系統の楽器。演奏してくれたのはサハ共和国の人」
と千里は説明する。
 
「サハ?どこ?」
と桃香。
 
「シベリアのバイカル湖より北の方に広がる国。日本の10倍くらいの面積。だからインドと同じくらいの面積かな」
と冬子。
 
「そんな国があるとは知らなかった!」
と桃香と彪志が言っている。
 
「アジア民族の国だよ」
と千里は言う。
 
「いろいろお話ししたけど、けっこう共通の文化的な基盤を感じたよ」
などと政子は言っている。
 
「日本人の先祖もバイカル湖近辺に居たんじゃないかという説があるからね」
「騎馬民族到来説だよね」
「ああ、騎馬民族が馬で台湾から沖縄・奄美と島伝いに走ってきたという説だっけ?」
「さすがに海の上を馬で走ってくるのは無理では?」
「いや、昔は陸続きだったとも言われているんだよ、あそこは」
 
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「それで獲物でも追って日本まで来たら海の水面が上昇して帰られなくなったのかな?」
「それ、意外に真実かも」
 

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そんな話をしていた時、青葉はファミレスの入口から見知った顔の女性2人が入ってくるのに気付く。目が合ったので会釈する。
 
それはゴールデンシックスの2人であった。12月に青葉と★★レコードで遭遇したのがきっかけで、彼女たちはローズ+リリーのライブツアーに帯同して毎日ゲスト出演することになったのだが、先日5月11日にも仙台公演で会って少し話していた。ふたりはこちらに会釈した後、結構離れた場所の席に座った。
 
「でも冬子さん、ローズクォーツとローズ+リリーとKARIONを3つ同時進行させつつ、各々アルバム制作って本当に大変じゃないですか?今3つともアルバム制作なさっているんでしょ?」
と青葉が言うと
 
「ケイはローズクォーツは辞めたよ」
と桃香が言う。
 
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「え?でも4月に記者会見を開いて、ローズクォーツも続けますって言いましたよね?」
と青葉。
「そう。4月1日にね」
と彪志。
 
その時、向こうのテーブルに座っていたカノンとリノンがオーダーを終えてから席を立ち、こちらに来ようとした。
 
「え?まさかあれ嘘だったんですか?」
と青葉。
「だってエイプリル・フールじゃん」
と桃香。
 
「えーーーーー!?」
と青葉は言って絶句する。
 
その青葉の声を聞いてか、カノンとリノンは顔を見合わせるようにしてまた席に戻ってしまった。あれ?こちらに用事があるわけでは無かったのかな?などと青葉は思う。
 
「まだこんな人が居たのか」
と政子が言っている。
 
「うん。私はローズクォーツの方は実質辞めて、今後はローズ+リリーとKARIONだけやっていく」
と冬子が明言する。
 
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「全然気付かなかった」
と青葉。
「あれだけ霊感が強い人がなぜ気付かない?」
と政子。
「青葉って霊に対する勘は働いても、人に関する勘は働かないのでは? 青葉って自ら進んで孤独に生きて来ている面があるから、人との関わりに慣れてないんだな、多分」
と桃香。
 
「ああ、あり得る、あり得る」
と政子。
 
それを言われると辛い所だなと青葉は思った。それは家が貧乏でまともに友だち付き合いができなかった問題、親の虐待に耐えるために自分の感情を停止させていた上に自分の性別が曖昧で、それを気にせず付き合ってくれる友人が少数だったこと、それに霊的な仕事をしていた自体の問題もあるかなと青葉は思った。
 
千里は優しく微笑んでいた。
 
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ファミレスの後は冬子と政子は東京に戻り、彪志と青葉は、千里の運転する車で彪志のアパートまで送ってもらった。
 
ふたりきりになったら熱いキスをする。
 
「なかなか会いに来られなくてごめんね」
「ううん。俺がそちらに会いに行けばいいんだろうけど」
 

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一通りの愛の儀式が終わったところで彪志は板を持ってくる。
 
「この材料で良かったかな? 一応15mm, 10mm, 5mmの板と7mmの角材、10mmの丸材を用意したけど。あと工学部の友人から電動工具一式借りてきた」
 
「まあ足りないのがあれば都度買いに行けば」
 
それで青葉が書いてきた設計図に合わせて板の表面に墨を入れ、それに合わせて電動丸鋸・電動糸鋸(ジグソー)を使って切断していく。サンダーを使って表面をつるつるに加工する。
 
部品をあらかた作るのに1時間ほど掛かった。
 
「取り敢えず不足しているものは無いみたいね」
 
釘を使わずに作るので、これにホゾ・相欠き・組継ぎなどの加工をしていく。この作業がけっこう大変で、彪志もあまりやり慣れていないので何度か失敗して部品をダメにしてしまい部品自体を作り直すというのもやった。
 
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この作業で結局3時間かかり、もう夕方である。
 

彪志が加工作業をしている間に青葉は買物に行ってきて夕食を作る。彪志がふだん肉料理ばかりなのでお魚が食べたいと言ったので、イナダ(鰤の小さいの)とかマグロ・サーモン、カニカマなどを買ってきて寿司太郎にした。
 
「彪志〜、ごはんできたよ。一休みしよう」
 
そう言って、青葉は食器を3つ並べて寿司太郎を盛った。
 
「3つ? 誰か来るの?」
「神様への陰膳だよ」
「なるほどー」
 
それで青葉と彪志であれこれおしゃべりしながら食べていたのだが、結構しゃべった後で彪志はふと、陰膳として盛っていたはずの寿司太郎が無くなっていることに気付く。
 
「あれ?青葉、陰膳の分も食べたの?」
「ううん」
「あれ?じゃ俺が無意識の内に食べちゃったのかな」
 
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彪志も青葉との会話に夢中になっていたので覚えがない。
 
「神様へのお供えものは神様が食べたんだと思うよ」
 
彪志は悩んでいる。
 
「そんなことあるんだっけ?」
「普通のことだと思うけど」
 

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夕食後、いよいよ祠の組み立てに入る。これは青葉も手伝った。青葉が書いた完成予定図を見ながら部品を組んで行く。実際には組もうとしたらきつすぎてあらためて少し削ったりするケースも発生した。元々用心して削っていたので逆に隙間が空きすぎるケースは無かった。
 
「しかし釘とか金具を全く使わずにこういうのが作れるって凄いね」
「使わない方が丈夫なんだよ。仕口や継手でつなぐことで結果的に遊びができる。鉄道のレールだって、間を開けて敷設するでしょ? 暑さで膨張してもいいように」
「あ、そうか! だったら逆になぜ釘を使うんだろう?」
と彪志は疑問を呈する。
 
「ひとつには釘を使うことで工程が楽に出来ること。実際、仕口や継手をするのにホゾを作ったり相欠きをピタリと合わせて作るのとかにかなり手間が掛かったでしょ?」
 
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「大変だった!」
 
「もうひとつは使っている素材の問題もあると思う。こんな小さな祠ならいいけど、大きな寺社とかを作る場合は充分乾燥させたものを使わないといけないし、節とかの少ない部位を使わなければいけない。材料の歩留まりが悪いと思う」
 
「ということは結果的にはコストの問題なのかな」
「私はそう考えているけど、建築の専門家さんの意見はたぶんまた違うんじゃないかな」
と青葉は言う。
 
そして祠は夜10時頃に組み上がった。
 
「できた!」
「お疲れ様!!」
 
取り敢えず2人はキスをした。
 
『よい出来じゃ』
と《ゆう姫》もお気に入りのようだ。
 
『ここで寝ていいか?』
『どうぞ、どうぞ』
 
『そうだ。例の蓮とかいう子だけど』
『はい?』
『また佐藤母娘の所に通っているぞ』
『何か演奏聴かせに行くって言ってましたね』
『ついでに注射も本人が望んでしてもらっているようだ』
 
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青葉はため息をついた。あのまま注射を打っていたら、おそらく1年後までには完全に女の身体になってしまうだろう。ペニスは縮んでいき、ヴァギナが発達しているようだし、胸も膨らんで行っているようだし。医者に診てもらったら睾丸の中に卵巣類似組織ができているということだったが、きっと睾丸が卵巣に変わってしまうのではなかろうか。
 
元々卵巣と睾丸は発生的には同じ物だ。原始性腺の内部が睾丸の素、表面が卵巣の素であって、女児の場合は表面部分が発達して内部は退化して卵巣になり、男児の場合は表面部分が退化し内部が発達して睾丸になる。おそらく蓮の睾丸の表面部分に卵巣組織が現れて、それが次第に内部を侵食していっているのではなかろうか。そしてやがては内部の睾丸部分が消えて卵巣になってしまうのだろう。恐らくその頃には睾丸→卵巣は体内に取り込まれてしまい陰嚢は空っぽになってしまうかも知れない。
 
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『本人がそれを望むなら放置でいいんですよね?』
『うん。それでよいと私は思うぞ。そもそも女の子になりたいような子だったから乙和姫も娘と間違ったのであろう』
 
『そうでしょうね!』
 
青葉は《ゆう姫》の言葉に納得がいく思いであった。
 

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翌月曜日。彪志と青葉は朝からレンタカー屋さんでヴィッツを借りてきて、昨日組み立てた祠を荷室に乗せ、取り敢えず東京に行く。新宿区内の冬子たちのマンションに行き、ふたりを後部座席に乗せて、冬子たちが7月中旬に引っ越し予定の新しいマンションまで行く。
 
地下駐車場に入れる前にいったん降りて外側からマンションを見る。
 
「どう?青葉。本当は選ぶ前に見せたかった所だったけど、即決しちゃったから」
と冬子が言う。
「何階でしたっけ?」
「32階」
「へー!」
と言って青葉は頷くようにしている。
 
「あの時、リノンが電話していた占い師さんは低い階だと近くを霊道が通っていると言ってたね」
と政子。
 
「確かに3階付近の近くを通っているんですよ」
「じゃ、やはりあの占い師さん凄いんだ」
「リノンってゴールデンシックスのリノンですか?」
「そうそう。青葉知ってたんだっけ?仙台でも結構話してた気がするけど」
「ええ、ちょっと」
 
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12月の遭遇の件は冬子たちには話していない。青葉は基本的に業務上知り得たことがらをそこに居なかった人には話さない癖が付いている。
 
車を駐車場に駐めて32階まで上がる。
 
「この部屋なんだけどね」
 
青葉は「失礼します」と言って中に入り部屋の中を歩いてみる。ふすまを開けて各部屋をチェックし、押入・戸袋なども開けてみる。最後にバルコニーに出て外の景色も見る。冬子は政子には部屋の中に居るように言った。確かにこの人はバルコニーから転落しかねない(手すりが140cmもあるので普通あり得ないのだが)。青葉は外を見ていて頷くようにしていた。
 
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