広告:まりあ†ほりっく 第3巻 [DVD]
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■春告(8)

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やがて0時の時報が鳴る。2014年の年明けである。5人で「あけましておめでとう!」と言い、桃香が本棚の所に青葉が上げておいた御神酒をおろしてきて、グラスに注いだ。
 
「青葉も正月くらいはいいだろ?もう高校生だし」
と桃香は言っている。
 
「じゃ1杯だけ」
と朋子も容認したので、5人でグラスを合わせて、おとそ代わりにした。
 

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正月3ヶ日は千里は毎日朝から夕方までバイトに出ていたが4日はお休みということで5人で一緒に初詣に行った。
 
おみくじを引くと、全員中吉〜大吉であった。就職に関しては桃香は「叶う」
と出たが千里は「叶わず」と書かれていた。
 
「うーん。正直なおみくじだ」
などと千里が言う。
 
「どうしても就職先が見つからなかったらどうするの? 今勤めているファミレスでバイトを続けるとかは可能なの?」
と朋子が尋ねる。
 
「うん。一時的には可能だろうけど、ずっとというのは本部がいい顔しないと思う。バイトのフロア係はある程度入れ替わっていくことを想定しているから。実際、今勤めている店でも、店長含めて3年以上勤めている人はいないもんね。私は例外的な長期キャリア」
 
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「お嫁さんに行くとかは?」
と青葉が言う。
 
「それはもっとハードルが高い」と千里。
「そんなことは許さん」と桃香。
 
「どうしても仕事先が見つからなかったら、私のお嫁さんにならない?」
と桃香が言う。
 
「私、できたら男の人と結婚したいよぉ」
 

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「千里さんと桃香さんの関係もほんとに不思議だよね」
4日の夜、彪志のアパートと一息つきながら彪志が言った。
 
この年末年始、年越しの夜をのぞいては、だいたい朋子は千里と桃香のアパートで寝て、彪志と青葉は彪志のアパートで寝ている。但し母との約束でその間にセックスは最大3回までということにした。実際こちらに来た日と1日の夜に1回ずつした。今夜は最後の1回を行使するつもりでいる。
 
「ちー姉は、ふたりの関係はあくまで姉妹みたいなもの、と言っている割りにはちゃんと桃姉の愛を受け入れているから。ファミレスのバイトが休みの日には必ず一緒のお布団で寝ているみたいだし、桃姉の誕生日にはプレゼントしたりしているし、結構ペアのアクセサリーしてたりするし」
 
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「今日もおそろいの指輪をしてるなと思って見てた」
「うん。右手薬指にね。左手薬指にはめるのをちー姉が拒否したんで桃姉も右手薬指で妥協したんだと思う」
「あれ、ジルコンか何か?」
「ダイヤだよ。小さいけどね。一昨年の秋、ちー姉の戸籍が女に切り替わった時に桃姉が最後まで持ってた株を売却してペアで買ったらしい」
 
「それって、マジでエンゲージリングなのでは?」
と彪志。
「ね?」
と青葉。
 
「青葉、時々未来のことを予言したりするじゃん。ふたりのことは分からないの?」
 
「そもそも身近な人のことって、なかなか分からないんだよね」
 
と言って青葉は震災が起きた日の朝、姉の未雨とふつうに別れた時、自分でも理由の分からない大粒の涙があふれたことを思い出していた。今でも姉を救えなかったことが悔しくてならない。
 
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「占い師さんでも自分のことは占えないって人多いよね」
 
「うん。私は自分のことは占えるけど、家族や恋人のことは自分のこと以上に占いにくい。占うためにはその物事に対してニュートラルな心にならないといけないけど、家族や恋人に対してニュートラルになんてなれないんだよ」
 
「自分にはニュートラルになれるの?」
「うん。私は自分の命を捨ててるから」
「それは青葉の問題点だけどね」
 
「でもたぶん、凄く将来にはあの2人結婚するという気がする。もしかしたら20年か30年くらい先かも知れないけど」
 
「そういう愛もあるのかも知れないね」
 
と言って彪志は青葉にキスをして抱きしめた。
 

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青葉の学校は6日月曜日から始まるので、5日夕方の新幹線で高岡に戻る予定であった。5日の午後は、5人で桃香のアパートでくつろぎながらテレビなど点けていた。
 
「あれ?08年組のスペシャル番組があるんだ?」
と彪志が言うのでそのチャンネルに合わせる。
 
番組は最初、ドリームボーイズの蔵田孝治と、ナラシノ・エキスプレス・サービスの海野博晃の対談がある。
 
「女の子の歌を見たくてチャンネル回して、おっさん2人の対談が流れていたらクレームもんだな」
などと桃香が言う。
 
「でもドリームボーイズって桃香さんたちの世代に人気あったのでは?」
「私は男には興味無い」
「なるほど」
 
千里が何だか懐かしいものでも見るような顔をしていた。
 
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「ちー姉、ドリームボーイズのファンだったの?」
「ううん。でも妹が好きだったよ」
「へー」
 

その後、XANFUS, AYA, ローズ+リリー、スリーピーマイス、KARIONの順に30分ずつ録画されたビデオが流された。いづれもこの番組のために新たにスタジオで演奏・収録したものであるらしい。
 
「スリーピーマイスの3人って、あくまで顔を隠すんだね」
「最初は別に隠すつもりなかったらしいけど、ファンの間で絶対顔を出さないらしいという噂が広がってしまったので、それで悪のりして出さないようになったという話だよ」
 
「まあタレント像ってファンと一緒に作っていくものだから、そういうスタイルもまたいいんだろうね」
 
KARIONの演奏の後に、KARIONのリーダーいづみと、スイート・ヴァニラズのLondaの短い対談が入っていた。
 
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「蘭子ちゃんって、実はKARIONのデビュー以来、ずっとキーボード弾いていたんだって?」
「そうなんです。だからトラベリングベルズの最古参メンバーなんです」
 
その発言に彪志が「うっそー!」と言っている。桃香は「へー」という顔である。しかし千里と青葉が平然としているので彪志が尋ねる。
 
「知ってたの?」
「うん。でも古いファンサイトでは普通に書かれていたこと」
「えーー!?」
 
更に、いづみとLondaの対談は続く。
 
「蘭子ちゃんって、それなら歌の方にも実はかなり頻繁に参加してたのでは?」
「実はこれまでに発表したKARIONの四声の曲、ほぼ全てに蘭子は歌唱参加しています」
 
また彪志が「えーー!?」と言うが、青葉と千里は平然としている。
 
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「知ってたの?」
「うん」
 
そして最後の応答がその後1ヶ月ほどにわたって、日本のポピュラー音楽界を激震させることになる。
 
「KARIONの四声の歌って結構多いよね。最初ラムコがいた時は別としてデビュー以降は3人しか居ないのになんで四声で編曲するんだろうと昔から不思議に思ってた。四声の曲ってどのくらいの比率かな?2〜3割?」
 
とLondaが訊いたのに対していづみがこう答えた。
 
「五声や六声以上の歌以外の全てが四声です。KARIONがこれまで発表した曲の中に三声しか使われていない曲は存在しません。ですから実はKARIONは《4つの鐘》という名前の通り、最初からいづみ・みそら・らんこ・こかぜ、4人のユニットだったんです」
 
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彪志は最初絶句していた。桃香と朋子もちょっと驚いている感じだ。しかし千里と青葉は頷きあったりしているので彪志がまた訊く。
 
「知ってたの?」
「うん」
 
「だけど大胆な告白をしたね」と青葉。
「青葉、けっこう告(こく)っちゃいなよと煽ってたでしょ?」と千里。「私以外にも何人か煽ってた人がいたみたい」と青葉。
「あのHな先生とかだよね?」と千里。
「ちー姉、あの先生知ってるの?」と青葉。
「だって鮎川さんの先生だから」と千里。
「あ、そうか。その縁か」と青葉も納得している。
 
その会話が彪志にはさっぱり理解できない風である。
 
「いつ、らんこのこと知ったの?」と彪志が訊く。
 
「ちー姉はいつ頃知った?」
「2008年の10月くらい」と千里。
「私は2009年の3月くらいかな」と青葉。
 
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「でもこれどういうこと?」
「まあ、これでその蘭子の正体も明日か明後日くらいには全国に知れ渡るよね」
「たぶんね」
 
「正体って?」
「まあ、世間の動向を見てるといいよ。きっと楽しいことになるよ」
と青葉は笑顔で言った。
 
ただしこのいづみの発言は内容があまりにも衝撃的であったため、KARIONのファンの多くが「蘭子の正体」を認識したのは、半月ほど後であった。
 

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翌日、青葉が学校に出て行くと、たちまち空帆に捕まった。
 
「ね、ね、青葉って水沢歌月=蘭子ちゃんと知り合いだったんでしょ?だったら蘭子の正体も知ってるよね?」
 
「蘭子の正体って?」
「蘭子って実は、別の名前で有名な人物ではないかという噂が出て来ている」
 
「まあ別名で有名だね」
「誰なの?」
「ネットの議論が自然にその人の所に収束すると思うよ」
とだけ青葉は言った。
 

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その蘭子の正体が実はローズ+リリーのケイであるという結論にネットの論客たちが辿り着いたのは、1月下旬頃であったが、3学期が始まって最初の週末、1月11-13日の連休の時点でも、蘭子=ケイというのが濃厚という話になりつつあった。
 
この週末、青葉たちFlying Soberのメンバーは横浜レコードから出すCD制作のため高岡市内のスタジオに集まったのだが、この話でみんな持ちきりである。
 
「やはり、蘭子=水沢歌月は柊洋子でケイなの?」
とみんなから青葉に質問がされる。
 
「うん。だいたい結論は出たみたいだけど、実際そうだよ」
「よく掛け持ちできてたね!」
 
「KARIONのライブには多分8割くらいはケイが現地に行ってて、カーテンの後ろとか、どこか隠れた場所で演奏したり歌ったりしてたんだよ。どうしても行けない場合は音楽大学の院生くらいのレベルの人が代りに行ってピアノとか弾いてたはず」
 
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「それってなんで隠れてたわけ?」
「やはり契約上の問題?」
「契約上は実は問題無かった。隠れていた理由は説明すると物凄く長くなるから省略」
「うーん・・・」
 
「今後は、じゃ、蘭子=ケイはKARIONのライブに出てくるの?」
「そのためのカムアウトだと思うよ」
 
「ね、ね、春くらいにKARIONもローズ+リリーもツアーあるよね?そのチケット何とかならない?」
 
「今から話しておけば、KARIONの方は何とかなると思う。この8人分だけでいい?」
「うん!よろしく!」
 
「多分今年はKARIONの方が色々仕掛けありそうだし」
「ローズ+リリーもちょっと変わったことするみたいだよ」
「へー!」
 

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スタジオを借りていた時間の最初の1時間くらいを蘭子に関するおしゃべりというより、青葉に対するみんなの質疑応答で消費した感じもあった。その後はここ一週間ほどの疑問が解消してスッキリしたのもあって、みんなノリノリの演奏をする。収録は順調に進んだ。
 
収録した曲は、空帆が書いた『細い糸』『ぶりっ子ロックンロール』、そして青葉が《伏木友映》の名前で書いた『告白』である。この名前で自分たちのバンド用に曲を書いて横浜レコードからリリースすることについては、★★レコードの加藤課長の承認済みである。
 
「そういえばヒロミは性転換しちゃったこと、お父さんに告白したんでしょ?」
「私、性転換はしてないよぉ。去勢だけだよ。そのことは話した」
 
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「性転換してないってのは嘘だと思うけどなあ」
「青葉分からないの?」
「私はMRIじゃないよ」
 
「やはりヒロミを拉致してMRIに掛けよう」
「それで万一おちんちんが付いてたら、そのまま性転換手術してくれる病院に転送だよね」
 
「やめてよぉ」
と言いながらも、ヒロミが全然嫌そうでないのを、青葉は微笑ましく見守っていた。
 
 
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