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■春告(3)

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青葉はヒロミの性器はシュレディンガーの猫のように「曖昧な状態」にあったのが、婦人科で検診を受けたことで「女性側に確定」してしまったのではないかという気がした。だとすると、その婦人科に行った日にヒロミは本当の女の子になってしまったのだ。でも精液はまだ出るのか!?
 
「それは幻茎だと思う」
と青葉は言う。
 
「何それ?」
 
「手や足を切断する手術を受けた人が無いはずの手や足の先がかゆくなることあるんだよ。それを幻肢って言うんだけど、性転換手術で陰茎を取って女になった人も、陰茎の先がかゆくなったりすることあるらしいのよね。それを一部の人たちが幻茎って呼んでる」
 
「そんなのあるんだ!?」
「かゆみを感じているのも脳、勃起を感じるのも脳。だから脳が元々の感覚を覚えている限り、末端の端末が存在しなくても、関連する刺激の発生からシナプスのネットワークで、そういう信号が発生することはあるんだよ」
 
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青葉としても取り敢えず精液が出るという話は無視しておく。
 
「うーん・・・」
「蚊を見ただけでかゆくなるのも、実際には刺されていないのに、蚊に刺されてかゆくなった時の信号が再生されちゃうからだよね」
「ああ、確かに」
 
「私みたいな霊能者は霊の姿を見るけど、それも目が見ているんじゃない。見ているのは脳なんだよね。脳が直接霊を知覚してそれを視覚として脳に処理させている」
 
「それは理解できる気がする。というかそれしか霊が見えるという現象は説明できない気がするよ」
 
「人間って実は脳で生きているような面があるからね」
「以前読んだ医学書で、そんなこと書いてる先生がいた気もする」
 
「だけどさっき『女の子になっちゃった』と言ったよね?」
「うん」
「だから、きっともうヒロミのおちんちんはヒロミの意識の中でも完全に無くなっちゃったんだよ」
「そっかー」
 
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「おちんちん、必要だった? あれでオナニーしたい?」
「ううん。小さい頃から、あれがあるのが嫌だった。つい大きくしていじってしまう自分も嫌だった」
「だったら無くなって良かったんじゃない?」
 
「うん。でも本当に無くなったのかまだ自信がない」
「まあその内、慣れちゃうよ」
「そうだね」
 

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「ところでね。私、実はこの春頃から恋愛問題でも悩んでるの」
「誰か好きな男の子か女の子かいるの?」
 
「具体的には居ないんだけど、その男の子か女の子かというのが大問題で」
「うん」
 
「私、これまで小学校や中学校で何度か女の子と恋愛一歩手前くらいまで行ったことあるんだよね」
 
「いいんじゃない。MTFのレスビアンって割と多いよ」
「そうなんだ? 実は去年くらいまではむしろ男の子との恋愛なんて考えたくないよなって思ってたんだよね。でも女性ホルモン飲み始めた頃から、男の子とも恋愛ができるような気がしてきて」
 
「それもいいと思うよ。ヒロミのこと女子として扱ってくれる男の子もきっと出るよ」
「そうかな」
 
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「そもそもMTFの子ってさ、カムアウトせずに男の子の格好していると、女の子から見たら、一見優しそうな男の子に見えちゃうんだよ。それにこちらとしては女の子同士の感覚だから気軽に会話できるじゃん。だからうっかりこちらのこと好きになってしまう女の子もいる。ヒロミだいたい女の子との恋愛って、向こうから言い寄られたことが多くなかった」
 
「全部そのパターン!」
「やはりねー。だから女の子との恋愛もできるようになっちゃったんだろうね。小さい頃はむしろ男の子を好きになったりしてなかった?」
 
「幼稚園の頃、同じクラスの格好良い男の子にちょっと憧れていた」
「それがヒロミの本来の恋愛感覚だよ。でもヒロミ、カムアウトして女の子として暮らし始めたから、もう今後は女の子との恋愛は発生しないかもね。相手が元々レスビアンの場合を除いては」
 
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「レスビアンの女の子となら恋愛できるかも。でも男の子とも恋愛できるかも知れない気もするけど自信無い」
 
「好きになるってしばしば性別を超越してるから。好きになったら、相手の性別はどちらでもいいかもよ。こちらとしては」
 
「そうだね」
「但しヒロミが元男の子だということを知ったら、気持ちが萎えちゃう男の子も多いから、それは少し覚悟しておいた方がいい」
「うん。それは大丈夫だと思う。振られた時はショックだろうけど」
 
「あまり深い関わりになる前にちゃんとカムアウトしないといけない」
「勇気が要りそう」
「でも自分がストッパー掛けられなくなるほど深入りした後で相手に拒絶されるよりはマシだよ」
「そうだよね」
「辛い気持ちになった時や、カムアウトする勇気が持てない時は私や空帆に相談するといいよ。美由紀や日香理もだけど、みんなヒロミの味方だよ」
「うん、ありがとう」
 
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「コックリさんか・・・・」
と言って朝食の席でヒロミの父は遠くを見るような目をした。
 
「うちのじいさんの友だちが戦時中、コックリさんをしたらしい」
「それいつ頃の話?」
「1945年の春頃だというんだよね」
「終戦の直前?」
 
「当時じいさんは船橋の海軍無線電信所に居た。ニイタカヤマノボレの暗号電文を送信した所だよ」
「わぁ」
 
「じいさんは戌年生まれだからそのコックリさんには入れてもらえなかった。コックリさんは犬を嫌うから戌年生まれの人をそばに置いたらいけないというからね」
「へー」
 
「それでその時、コックリさんが『今年の8月で戦争は終わる』と言ったらしいんだ」
「凄い!」
 
「それで戦争は勝つのか負けるのか?とじいさんはその友だちに訊いたけど、そこまではコックリさんは言ってくれなかったというんだよな」
 
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「それってドイツが降伏した後?」
「多分それより前」
「もしかしてヤルタ会談の後?」
「そうかも知れないという気はする」
 
1945年2月に行われたヤルタ会談で、ソ連は日本との中立条約を半年後に一方的に破棄して日本の支配地域に侵攻する密約を米英首脳としている。8月9日のソ連対日開戦はその約束に基づくものであった。
 
「でもそれ、海軍の主力無線電信所という超機密情報が飛び交ってそうな舞台が意味深だよね」
とヒロミは言う。
「まあそれは言うな」
と父は答えた。
 

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「でもコックリさんって字はどう書くんだっけ?」
と母が訊いた。
 
「狐狗狸だよ。きつね・いぬ・たぬき」
「当て字っぽい」
 
「元々は告理だったらしい。ことわりをつげる」
「へー!」
「明治時代の遊郭で流行したんだよ。それが一般に広まった。多分元は西洋のウィジャ盤。その頃って西洋でも降霊ブームの頃だから」
 
「やはりあれを日本語に直したものがコックリさんなんだろうね」
 
「ところでヒロ、お前お父さんに何か告白することがないか?」
と父は言った。ヒロミはドキっとする。
 
「ごめん」
とヒロミは最初に謝る。
 
「言ってみなさい」
「私、もう睾丸が無いの」
 
「そんな気がした。お前の手に触った時、完璧に女の子の手だから。急速に女性化が進んでいるようだから、もしかしたらと思って」
 
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「ごめんね」
「お前が選んだ道なんだから仕方無いと思う。でも、自分の性別については20歳頃までいろいろ考えてごらん。女になりたいというので突き進むのも道だし、気が変わって男に戻りたいと思ったら、それも選択肢だと思う」
 
「うん。ありがとう」
 

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12月15日。空帆や青葉などFlying Soberのメンバーは氷見で行われたイベントで空帆の新曲『鰤ッ子ロックンロール』を演奏しに行った。
 
元々はGt.空帆 B.治美 Pf.真梨奈 Dr.須美 A.Sax.青葉 Fl.世梨奈 Cla.美津穂 という7ピースバンドであったが、この時期は更にヒロミのトランペットも加えて8ピースになっている。
 
元々「鰤を歌い込んだ曲」というのが参加条件だったので、やはり演歌系の参加者が結構多かった。若干歌詞を改造して鰤を読み込んでいる人もあった。『おさかな天国』『買物ブギ』も結構あったし、松田聖子のヒット曲を歌って「元祖鰤っ子」と主張する参加者もあった。
 
松田聖子が「ぶりっ子」と言われたのは、ザ・ベストテンで初めて1位になった時に母の手作りケーキが持ち込まれたのを見て泣いてしまったのを、アンチの人たちが「嘘泣きでは」と解釈したのと、彼女の本名が「蒲池(かまち)」
で九州では、鰤の小さいのをハマチというので(まさに鰤の子供)、それに掛けたものであった。
 
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演奏が終わってから参加賞の鰤丼を8人でいただく。
 
「美味しい、美味しい」
「うん。今の時期の鰤はほんとに美味しいよね」
「今から2月くらいまでがいちぱん美味しい季節だもんね」
 
「あ、そうそう」
と空帆は思い出したように言った。
 
「秋口からやってた『細い糸』の方、本気で鮎川先生がレコード会社の人紹介してくれてさ。こちらで演奏した音源送ったら、ぜひCD出しましょうと言われてる。冬休みにみんなで演奏して録音できないかな」
 
「おっ凄い」
「どこのレコード会社?」
「横浜レコードという所なんだよ」
「インディーズとしては大手だよね、わりと」
「ああ、インディーズなんだ?」
「さすがにいきなりメジャーは有り得ない」
「でもClariSみたいなのもあるから、メジャーも夢ではないよね」
「うんうん。ClariSは中高生の希望の星だよ」
 
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「しかし冬休みは既にみんな予定が入っているのでは?」
「そんな気もする」
「私、旅行に行く〜」
「私、塾の冬期講座が詰まってる」
「うち、お母ちゃんの実家に里帰り」
「うむむむ」
 
「むしろ冬休み終わった後、成人の日の連休にやらない」
「ああ、それでもいいかな」
 
「でも『細い糸』1曲だけ?」
「今日演奏した『鰤っ子ロックンロール』も入れようかと」
「これを入れるのか」
「まあいいけどね」
 
「ねぇ、青葉、1曲書いてくれたりしない?」
と空帆は青葉に訊いた。
 
「うーんと、リーフの名前も絵斗の名前も使わないなら書いてもいい。その2つの名前は★★レコードとの契約で使えないんだよ」
「なるほど」
「じゃ、★★レコードから音源出すなら使えるんだ?」
「まあでも何十万枚と売れたりしない限り、インディーズの方が実入りは良いはず」
「掛ける制作費も違うからね。今年出たローズ+リリーの『Flower Garden』は1億円制作費が掛かってるもん」
「ひぇー」
 
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「さすがに1億円は出せんな」
「うちの高校の全生徒に1万円ずつ寄付してもらっても1000万円に届かない」
 
「だけど1億円掛けても100万枚売れたら採算が取れるわけでしょ?」
「うん。あれはCDで100万枚、ダウンロードで50万DL売れてるから売上は44億円になる」
「なんかもう数字が大きすぎて想像ができん」
 
「富山県の人口が100万人だから赤ちゃんからお年寄りまで全員CDを買ってくれたようなもの」
「そこまで普通売れないよなあ」
 
「もっとも売上が44億円でもメジャーって色々経費が掛かるから、制作側の取り分は10%らしい。だから1億円投資して4億円収入があったという感じ。粗利は3億円(*1)」
 
「宝くじを1万円買ったら4万円当たったんで、差し引き3万円の儲けという感じ?」
「それの1万倍だね」
「やはり感覚が分からん」
 
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(*1)これは原盤権を持つローズ+リリー制作グループ(サマーガールズ出版と★★レコードの共同事業体)の粗利であり、冬子と政子はこれとは別に歌唱印税・作曲印税で各々1.5億円ほどもらっている。
 

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