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■春告(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-05-06
 
「うまいじゃん」
と氷川さんは言った。
 
「私も思いました。歌も演奏も上手いし、これオリジナル曲ですか?曲も凄くよく出来てる」
と青葉。
 
「曲はオリジナルです。実はゴールデンシックス作る前に別の13人編成のバンドがあったんですが、その元メンバー3人が作詞と作曲を担当しています。それでちょっと契約上の問題があるので、この場では詳細は言えませんが、実はプロの作詞家作曲家として活動しています」
 
「なるほど。作詞作曲陣はプロなんだ! でも13人編成ってのはまた凄いね」
と氷川さんは納得したように言う。
 
「プロデュース役の人まで入れると14人なのでCDの印税は14人で等分していたんですけどね」
 
「その3人はゴールデンシックスの結成には参加しなかったんですか?」
「誘ったんですけど、勉強が忙しいからって振られました。でも楽曲の提供は続けていいよと言われて。実は以前のバンドの楽曲もほとんどその3人で書いていたんですよね」
 
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「ほほぉ」
 
氷川さんは何か考えている風である。
「君たち、CDこれまでにどのくらい売った?」
「えっと2009年に結成して毎年1枚CDを作ってきたから今制作準備中のが6枚目になるかな。でもどれもだいたい1000枚くらいしか売れてないです」
と花野子が頭を掻きながら言うが
 
「インディーズで1000枚売れるって凄いじゃん!」
と氷川さんは言う。
 
「ね、君たちのライブを1度見られない?」
「はい! 29日に横浜のライブハウスで演奏予定があるのですが、もしよければそちらに」
「うん。見に行くよ」
「ではチケット差し上げます。何枚お入り用ですか?」
「じゃ念のため3枚」
「はい!」
 
と言って花野子はバッグの中からチケットを出して氷川さんに渡した。
 
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「あれ?そういえば青葉ちゃんは、氷川さんとどういう関わりだったんだっけ?」
と梨乃が尋ねた。
 
「この子は、リーフの名前でローズ+リリーの『聖少女』の共同作曲者になってて、別の名前で某歌手にも楽曲を提供しているんですよ」
と氷川さんが説明する。
 
「きゃー、凄い! プロならプロと言ってもらえば良かったのに」
「すみませーん。でも単発的に楽曲に関わっただけで」
「今制作中のスイート・ヴァニラズのアルバムにも6曲楽曲を提供してるしね」
「凄い!」
 
「あれ?もしかしてそれで関係者枠でローズ+リリーのチケットを確保できたとか?」
「すみませーん。瞬殺で売り切れたのに」
「いや。ローズ+リリーの楽曲作曲者ならチケットもらえても凄く自然」
「でもやはり今回の国士館の中でもローズ+リリーは特に見たいよね」
「ライブ自体の回数が少なくてレアだし」
「『Flower Garden』のヒットで今いちばん伸び盛りのアーティストだし」
 
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すると氷川さんは言った。
「あなたたちにもローズ+リリーのチケットあげようか?少し見づらい場所でもよければ」
 
花野子と梨乃が顔を見合わせる。
 
「あのぉ、どういう条件で?」
 

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結局ゴールデンシックスの2人も含めて4人で★★レコードのフロアに上がり、社内のスタジオでふたりに生で歌ってもらった。
 
「うまいね」
と加藤課長も言った。
 
「例の件にピッタリだと思いません?」
と氷川さんが言うと
 
「思う。これだけ歌えたら使える」
と加藤課長は答える。
 
「楽器を演奏しながらは歌わないの?」
 
「音源製作では私はピアノ、リノンがリードギターを弾いて、リズムギターとベース・ドラムスは元メンバーに声を掛けて参加してもらって演奏しています。しかし彼女たちはライブにまで顔を出すのは不可能なので、ライブではだいたいマイナスワン音源で2人で歌っています」
と花野子(カノン)。
 
「カノンがピアノ弾きながら歌うことはあるね」
と梨乃(リノン)。
 
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「あのぉ、どこかのユニットのサポートか何かのお仕事でしょうか?」
と花野子が尋ねる。
 
「うん。その件はまたあらためて相談させてもらえないかな?」
「はい」
 
「君たちお仕事は土日休めるの?」
「はい。ふたりとも土日祝日が休みの職場にいます。でもお仕事の内容次第では即会社辞めます」
 
「おお。積極的でいいね」
と加藤課長はにこやかに言った。
 

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花野子たちを帰した後、オフィス内で、氷川さん、スイート・ヴァニラズ担当の梅宮さんとスイート・ヴァニラズのアルバムの件も含めて少しおしゃべり的な打ち合わせをした。
 
結局夕方くらいになってから千葉に移動し、桃香・千里のアパートに行った。彪志も来ていたので、千里の料理でみんなで夕食を頂く。
 
「でも千里、ほんとに料理がうまいよね」
と朋子が褒める。
 
「まあ私の奥さんだから」
と桃香。
 
「あんたたち結婚したんだっけ?」と朋子。
「籍は入れてないというか入れられないが私としてはそのつもりだ」と桃香。「私の見解としては姉妹のようなもの」と千里。
 
桃香はふたりの状態を「同棲」と言うが、千里はずっと「同居」と称している。但し夜はいっしょに寝ているし、普通にキスもセックスもしているようである。
 
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「おかあちゃん、ふたりの関係は3年前から変わらないよ」と青葉。
「確かにそうだけど」と朋子。
 
「一応大学院を出るまでは同居を続けるつもりなんだけどね」と千里。「私はずっと一緒でもいいと言っているんだけどね」と桃香。
 

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「千里は中学や高校の時、女の子と恋愛したことはないの?」
と朋子が尋ねる。
 
「私、恋愛対象は男の子だよー」
「ああ、最初からそうだったのね」
 
「じゃ、男の子とは恋愛したことあったんですか?」
と彪志が尋ねると、千里は突然咳き込んだ。
 
「千里、やはり8月に大阪で会った男の子と何かあったのでは?」
と桃香が言う。
 
「もしかしてヴァイオリンをくれた人?」
「うんまあ」
「中学のバスケ部の先輩とか言ってたっけ?」
「当時は男の子同士だから」
と千里。
「で当時どういう関係だったのだ?」
と桃香。
 
千里は参ったなという顔をしながらも笑顔である。そして
 
「もう別れてから5年以上経ってるから時効かなということで言えば確かに彼とは恋人だったよ。でも彼、この7月に結婚したから」
と正直に答えた。
 
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「ほほぉ」
「実はあのヴァイオリンは私と彼とのちょっとした想い出の品で。だからそれを結婚した以上手許に置いておきたくないというので、私が引き取って来たんだよ」
「ああ、そういう経緯があったんですか」
と青葉。
 
「ごめんね。そういうヴァイオリンを部屋に置いておいて」
と千里は桃香に謝るが
「私は唯物論者だから、想い出の品だろうが何だろうが、ヴァイオリンはヴァイオリンだし、千里の心は私の所にあるのを確信しているから全然気にしない」
などと桃香は答える。
 
青葉はこの2人の組合せってもしかしたら最高なのかも知れないと思った。お互いのベクトルが直交しているから、相手に対して完全に許容的になれる。
 
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「で、彼とどこまでしたの?A?B?C?D?」
と桃香が詰問する。
 
「私、妊娠できないよー」
 
「つまりCまでしたのか?」
「ごめーん。ノーコメントで」
 
千里が珍しく真っ赤になっている。こんな千里を初めて見たと青葉は思った。
 

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「でCはどこを使った訳?やはり後ろ?すまた?性転換パッド、あるいは当時実は既にヴァギナがあったとか」
「ある訳無いじゃん」
 
「いや。怪しい気がする。実は千里は高校時代頃までに既に性転換済みだったのではないと思える時もあるんだよな。あの彼氏、千里が女の格好してるのを見ても何も驚かなかったから、千里彼氏の前では女の格好をしてたんだろう?彼氏と付き合ってた頃も」
 
「うん、まあ女装で会ってたことは認めてもいい」
「だったら当時既に性転換済みだったかも知れない」
 
「高校時代に性転換済みだったのなら、私去年は何の手術受けたのよ?」
「うん。そこが未解決問題なのだ」
「それに性転換前の私とHしたじゃん」
 
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「千里のおちんちんは軟らかくて、なかなか入れられなかったからなあ。毎回かなり苦労してた。でもあれが実はゴム製の偽物だったとすると、納得がいく気もするのだよ」
 
「ちょっとあんたたち、高校生の前でやめなさい」
と朋子が言うが
「いや。青葉は既に彪志さんと結婚済のようなものだから、構わん。日常的にHしてるようだし」
などと桃香が言う。
 
青葉はつい顔を赤らめてしまった。彪志も少し恥ずかしがって俯いている。
 
「でも精子の採取もしたじゃん」
と千里。
「うん。だから、ペニスは除去してヴァギナも作っていたけど、睾丸は温存していたのだよ」
と桃香。
 
「そんな馬鹿な」
「でも実際睾丸を温存しての性転換手術というのはあるんだろ?」
 
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「あることはある。射精能力を残したまま形だけ女になった人というのもいる。見た目は完璧に女だし、男性と普通にセックスもできるけど、男の意識にシフトした状態でローターとかで強くクリトリスを刺激すると尿道から精液が出てくるんだよ」
 
「ほほぉ、面白い」
 
「女性のパートナーが居て、その人との間に子供を作りたい場合とかの選択だと思う。ローターをはさんでハメの状態にして射精すると精液はパートナーのヴァギナに放出される。ただし逆に避妊は困難だし、戸籍の性別を変更できないけどね。睾丸がCTスキャンとかで発見されると、裁判所が性別取り扱いの変更を認可してくれないんだよ。それにそもそも温存した睾丸も数年以内には機能喪失すると思う」
と千里は言う。
 
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「だとすると、やはり千里はそういう手術を高校時代に受けてたんだ。去年の手術はもしかしたらその温存していた睾丸を除去したのかも」
 
「睾丸を残すと男性化が進むから、私なら絶対そんな選択はしないと思う。だいたい手術代が無いよ。私が貧乏だったのは知ってる癖に」
 
「収入は誤魔化してるかも知れん。それに睾丸を実はもう取っていた場合は、高校時代にこっそり保存していた冷凍精液をあの病院に持ち込んで、先生も丸め込んでいたか」
 
「なんか、桃香、妄想が暴走してる!」
 

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「でもあんたたちお仕事はどうすんの?大学院を出た後」
と朋子が訊く。話がホントに暴走しているので、ちょっと話題を変えてあげようとした雰囲気もあった。
 
「何ヶ所か会社訪問したけど、最初話を聞いてくれても性別を変更したことを話すと、明らかに態度が変わるんですよね」
と千里は言う。
 
「まあ仕方無いね」
「たくさん会社訪問してれば1ヶ所くらいと思っているのですが」
 
「性別変えたなんて話はバッくれておけばいいと私は言うのだけどね」
と桃香は言う。
 
「だって後から知られたら揉めるよ」
「千里の場合、バレる訳無いと思うんだけどね」
「いや、ちゃんと理解してくれる所はあるよ」
と朋子は言う。
 
青葉は千里の話が全然他人事ではないので、そういうのを聞くと悩んでしまう。
 
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「まあ会社訪問しても不調なのは私も同様だが」
と桃香。
 
「男子は大学院卒というのはそれなりに評価されるが、女子は単に年齢の行った職業未経験の人としか見てもらえないんだよな」
 
「まあお茶くみにしか女を使わない企業だとそうだろうね」
 

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