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■春楽(8)

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青葉は脱衣場に入ると、少しほっとするようなため息を付き、服を脱いだ。浴室に入ろうとしていた時、突然脱衣場の戸が開き
「シャンプーが切れてたから、この新しいの使って。あ、ごめん」
とお母さんが横を向く。
「ありがとうございます。別に横向かなくてもいいですよ。女同士だし」
と青葉は笑ってシャンプーを受け取った。
「あら、そう?」
というとお母さんは青葉のほうを向いた。
 
「あなた、いい身体してるわねえ。おっぱい、そんなにあるんだ!」
「まだBカップなんですよ」
「中学2年生でそれだけあれば立派よ。ウェストも細ーい」
「毎朝1時間走ってますから、余分な脂肪はつかないみたい」
「えらいわねえ。私も運動しなくちゃ」
「では、お風呂いただきます」
「はいはい」
 
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お母さんが居間に戻ると夫はトイレにでも行っているのか彪志がひとりで勉強している。彪志は青葉が来るからと勉強道具を自分の部屋から持ってきていたのである。彪志に小声で語りかける。
「青葉ちゃんの裸見ちゃった」
「完璧に女の子でしょ?」
「おっぱい大きいし・・・おちんちんも、もう無いのね」
「無いみたいに見えるよね」
「え?付いてるの?」
「まだ手術終わってないはずなんだけど、実物は見たことない。でも、そもそも付いてたら、俺、青葉とセックスできてない。見ても触っても無いんだから、実質的には無いものと思っていいのかも知れない」
と彪志は問題集をしつつ笑いながら答える。
 
「タマはもうホントに無いらしいけどね。あの胸だって別にホルモン剤とかを飲んでる訳じゃないんだよね。実際、青葉が『女の子に見えるけど実は男の子』
という話自体が大嘘で、ほんとうは本物の女の子だと言われた方が納得するよ」
 
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「ねえ、実はホントに女の子なんじゃないの?」
「そうかも知れないって、よく思うよ」
「今夜、あんたの部屋でいいんだっけ?」
「もちろん」
「だって女の子なのに。私の部屋でもいいよ。父ちゃんは居間で寝てもらうから」
「恋人だから大丈夫だよ」
 
「ああ、私何だか分からなくなってきた」
「青葉の性別のこと考えてたら分からなくなるから考えない方がいいよ。取り敢えず、見た目は女の子で、裸にしても女の子で、中身も女の子であることは間違いない」
「それなら完璧に女の子じゃん!。。。で、あんたは結婚したいのね?」
「そのつもり。10年くらい先だろうけどね」
「まいっか。青葉ちゃん、ほんといい子だし」
「ありがとう」
 
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青葉がお風呂から上がると、彪志と両親が紅茶を飲みながら会話をしていた。むろん彪志は会話をしながら勉強をしている。お母さんが青葉にも紅茶を入れてくれて、しばし4人で団欒の時をすごす。1時くらいにおやすみなさいを言って彪志と一緒に2階の部屋へ引き上げた。布団は2つ敷いてある。青葉はわざわざ彪志に見せるような感じでパジャマに着替えた。
 
「彪志はまだ勉強するの?」
「いや、明日新幹線の中で集中して勉強できそうだからも今日はもう寝る」
「じゃ一緒に寝ようか?」
「え?同じ布団で寝るの?」
「いや、一緒って同時ということ」
「あ、ごめん」
「同じ布団で寝てもいいけど、受験生を寝不足にしちゃいけないし」
「あはは」
「じゃ、おやすみー」
「おやすみー」
 
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それぞれの布団に入る。このまま寝ちゃうのかな、と思っていたら青葉がごそごそと布団の中を潜って彪志の布団の中に入ってきた。
「へへ、忘れ物」「忘れ物?」「これ」
と言って青葉は彪志にキスをする。彪志が青葉を抱きしめる。青葉も彪志を抱きしめる。2人は5分間くらいそのまま抱き合っていた。
 
「じゃ、ホントに寝る−」「うん」「おやすみ」「おやすみ」
青葉は自分の布団に戻った。
 
「でも1発抜いちゃった方が熟睡できる?」
「心配しなくてもするからいいよ」
「あ、やはりするんだ!」
「一応男の子だから」
「男の子って・・・マジで毎日するものなの?」
「1日2-3回しちゃうこともあるよ。なんなら、青葉のおちんちんも触ってあげようか?」
 
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「そんなもの好きな人には見せられないよう」
「前、好きな人以外には裸は見せられないなんて言ってなかった?」
「それは当然」
「ということは誰にも見せないんだ?」
「見せるのはお医者さんくらいだよ」
 
「だけど俺、青葉が男の子だって証拠を見たことないなと思ってさ。だからひょっとして青葉って本当に女の子なんじゃないかと思ったりすることある」
 
「証拠ね・・・・私、学生証も女になってるしなあ。病院の診察券も F だし。そもそも私、彪志の前では完全な女の子でいたいの。女の子におちんちんは無いから、やっぱり見せたくないよ」
 
「でも他の人の前でも完全な女の子だよね」
「そうかもね。でもHまでするのは彪志だけ」
そう言うと、青葉は再度身体を寄せて彪志にキスをした。
 
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「じゃカサカサする音聞いても聞かなかったことにするね」
「あのねぇ・・・・・」
「おやすみー」「うん、おやすみ」
青葉が手を伸ばしてきた。彪志がその手をつかむ。ふたりはその夜は手をつないだまま寝た。彪志は結局その晩は、ひとりHもしなかった。
 
翌朝、お母さんが出勤するお父さんを送るついでにふたりを駅まで送ってくれた。朝いちばんの新幹線に乗り込む。
「指定席が取れてたんだね」
「あの電話のあとすぐ予約入れたからね」
「ね・・・俺の分の新幹線代は出すよ。母ちゃんから3万もらったから」
「ううん。今回は私に出させて。私のわがままだもん。代わりに御飯は彪志がおごってくれる?」
「了解」
 
新幹線の座席で彪志はずっと勉強しているので、できるだけ邪魔にならない程度に青葉は話しかけていた。お母さんとの約束で今日1日で英語の問題集を1冊仕上げることになっている。
 
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「accomplishって何だっけ?」「成し遂げる」「Thanks」
「辞書引いたほうが覚えるよ」「帰りはそうする。行きは歩く辞書を活用」
などという会話もふたりにとっては愛の会話になる。
 
「英文読解の要領って何だろ?」
「たくさん英文を読むこと。ヒアリングもたくさん英語を聞くこと。最初は分からなくても読んでる内、聞いてる内に何となく想像がつくようになる」
「なるほどね」
 
「Won't you speak only in English until we arrive at Tokyo terminal?」
「Impossible!」
 
東京に着いてから、取り敢えずその切符(東京都区内行き)で新宿に出て1時間ほど散歩し、11時頃に手頃な感じのレストランに入って、早めのお昼御飯を食べた。その後、地下鉄で移動し、1時前に冬子のマンションに入った。
 
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「いらっしゃい。今日1日のんびり過ごしてね」といって冬子がお茶を入れてくれる。
「こないだの葬儀の時はありがとうございました」
「いや、ちょうど通りがかりになったしね」
などと先日の葬式のことで少し話をする。
 
「でもここ本来は男子禁制なんですよね」と青葉。
「カップルで来る人は例外。フライデー対策だから」
「あっそうか」
「なんか今凄く突っ込みをしたくなった」と彪志。
「男子禁制といいながら、この場にいる3人って全員戸籍上は・・・・」
「その突っ込みは無し」と青葉。
「ごめん」
「そんなこと言ってると女装させちゃうよ」と笑いながら冬子。
「彪志が女装にハマったら困るからそれはやめて」と青葉。
 
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しばしおしゃべりしてから、青葉は冬子のヒーリングを始めることにし、彪志は防音室に入った。
「このパソコンにゲストでログインすればいろいろBGM聴けるから。ゲストのパスは*******ね」
「ありがとうございます」
 
ヒーリングしている所が彪志の視界に入る。こういう青葉を見たのは2年前に入院していた父にヒーリングしてくれていた時以来であった。青葉の強烈なオーラがとても優しい雰囲気に変化するのが分かる。1時間ほどヒーリングしてから、いったん休憩にする。お茶を飲みながら3人で会話した。
 
「だけど、あなたたち、凄く仲がいいね」
「えへへ。仲いいでしょ」
「はいはい。ごちそう様。私もボーイフレンド作っちゃおうかなあ」
「そんなの作ってもいいの?政子さんがいるのに」
「いや、だから私達は恋人じゃないって」
 
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そんなことを話していた時、冬子に電話が入った。
 
「はい。ええ。実は富山行きがキャンセルになって今日は東京にいるんです。はい?FM**に4時から生出演!了解です。現地にすぐ向かいます」
 
「お仕事ですか?」
「新曲をFM局で取り上げてくれるらしい。私、富山に行かなくて良かったぁ!ちょっと行ってくるね。出演は5分くらいだから5時か遅くとも5時半までには戻ると思うけど自由にしてて。そこの冷蔵庫のお菓子も食べてていいから」
「ありがとう。食器片付けとくね」
「助かる。放置しておくと政子に私叱られるのよね。女の子なんだからきちんとしなさいって」
「あはは」
「じゃ、行ってきまーす」
と言って冬子はばたばたと出かけていった。出て行ってすぐに
『ごめん。お米を5合、5時半に炊きあがるように炊いておいて』
とメールが入ったので『了解』と返信する。
 
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「ふたりきりになっちゃったね」
「予定調和っぽい」
「ほんとに・・・きっと冬子さん仕事が入らなくても何か理由付けて外出してた気がする」
ふたりは一緒に食器を洗い食器乾燥機に入れ、それからお米を5合研ぎ、炊飯器に入れてタイマーで5時半炊きあがりにセットした。そのあと、居間に戻って、おしゃべりしながら、彪志は英語の問題集をやり続ける。
 
「しかし今回は考えてみるとインターバル挟みながらも、凄いロングデートになったね」
「今日で5日目だもんね。3度一緒に夜を過ごしたし」
「その代わり次は1ヶ月後まで会えないし、ふたりきりになれるのは2ヶ月半先」
「夢で逢えたらいいね」
青葉は唐突にラッツ&スターの『夢で逢えたら』を歌う。
 
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「いい歌だなあ」
「こないだ冬子さんに教えてもらった」
「へー」
「夢で逢えるようにできるだけ強い念を送るよ」
「うん・・・・ね、寝室に行かない?」
「うん」
 
ふたりは来客用寝室に移動した。むろん勉強道具も持ってきている。
「イチャイチャしようよ」
と言って青葉は彪志に深いキスをする。
 
「ね・・・そこに敷いてある布団が気になる」
「冬子さんのサービスね」
「枕元にあるそれも?」
「する時は使いなさいという意味ね」
「親切で涙が出そう」と笑いながら彪志。
「ほんとに親切ね」と青葉。「使ってみる?」
 
「せっかくだし付けてみようかな・・・・・自分のを」
といって彪志は持ってきていた旅行鞄からそれを取り出した。
 
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「裸になっちゃお」といって青葉は服を脱いでしまう。魅力的な肢体が姿をあらわす。彪志のほうも脱いでいた。装着する。
 
ふたりは再びキスをすると、布団の中に潜り込んだ。
「ね、どこまでならしてもいいの?」
「私は彪志のものだもん。ホントはいつでも好きにしていいんだよ」
「でも月1回の約束が」
「彪志、お勉強頑張ってるから、特別にご褒美。ただしその問題集、今日中にちゃんと上げてね」
「分かった。頑張る」
「セックスを?」
「セックスも頑張るけど勉強も頑張る」
「よしよし」と青葉は彪志の頭をなでる。
 
3回目ともなると少し心に余裕が出た。彼の一所懸命さが伝わってくる。でもほんとに気持ちいいなあ、これ。だけどきっと彪志としてるから気持ちいいんだろうな。。。。肌から直接彼の愛の念が流れ込んでくる。彼の身体をぎゅっと抱きしめる。
 
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済んでからも裸のまま、並んで身体をくっつけた状態でおしゃべりした。
「でも彪志はどうして私みたいな女の子のこと好きになったの?」
「最初は好奇心だったかも」
「えー?」
「でもね、青葉に会う数日前に夢で見たんだよ」
「へー」
「未雨ちゃんと青葉が並んでたんだ。それで俺の恋人になるのはあそこにいる妹の方だよ、って言われたんだ。夢の中で」
「それで初対面だったのに、私のこと知ってたのね」
 
「未雨ちゃんから青葉のこと自体は聞いてたから、どんなオカマだろうと思ってたら、実物見たら凄く可愛い女の子じゃん」
「あはは」
「俺、ふつうならどんな可愛く女装している男の子でもちゃんと性別見分ける自信あったのに、青葉だけは俺の勘が女の子だと告げてた」
「だって私女の子だもん」
「だからガールフレンドにするくらいならいいかな・・・なんて思ってたんだけど、本気になっちゃった」
 
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「彪志・・・」
「今は本気で好きだよ、青葉」
「私も本気で好き」
 
ふたりはまたキスをした。
「さて、そろそろ起きて勉強しなきゃ」
「うん、頑張ってね」
ふたりはゴミを始末し、布団を整えると、居間に戻り、またおしゃべりしながらお勉強を続けた。
 
5時すぎ、冬子が戻ってきた。
「ただいまあ。さあ、夕飯作るね−」と冬子。
「私も手伝います。お米は5時半炊きあがりにセットしました」と青葉。「サンキュー」「彪志は勉強しててね」「うん」
 
冬子と青葉で協力してハンバーグを作る。青葉がどんどん形にまとめて冬子がじゃんじゃんフライパンで焼いた。御飯が炊きあがる頃、全部焼き上がった。
 
「さあ、夕飯、夕飯」
「頂きます」
「冬子さん、お仕事お疲れ様でした。夕飯の後、彪志を東京駅まで送ってきてから、ヒーリングしますね」
「うん。ありがとう。あ、私仮眠してるかも知れないから、鍵1本預けとく」
「はい」
「暗証番号は****ね」
「了解です」
「ところでね、青葉。20:16の新幹線に乗ると21:48に福島に着くけど、すると福島で22:11の東京行きを捉まえられるんだなあ」
「!!」
 
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「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
 
そういう訳でその日のデートは結局、彪志が一ノ関に帰還する新幹線の福島駅まで続いたのであった。
 
福島から戻りの新幹線の中、青葉は今夜夢の中で彪志と会えるかな?会えるといいなと思った。小さい声でラッツ&スターの『夢で逢えたら』を口ずさんだ。
 
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