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■春楽(6)

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ふたりは次に会えそうな日付をお互いの予定表を見ながら話してみたが、彪志の模試などがあるので、10月24日まで無理ということになった。ただ9月11日は彪志の学校の文化祭とぶつかるのでデートはできなくても一緒に校内を散歩するくらいはできるかもという話になった。
 
「10月24日の後はもう試験終わるまでは無理かもね。って自粛すべきかもね」
「センター試験が1月14-15日、大学の入試は2月25日。合格発表3月9日」
「じゃ10月24日の後は3月11日になったりして」
「そうなっちゃうかも。これ月に1回なんてものじゃないな」と彪志。
 
「青葉〜、夢に出て来てよ」
「うーん。コントロール効かないからなあ」
「そこを愛の力で何とか」
「会えるといいね」
 
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2時すぎに母に車で迎えに来てもらい帰宅した。居間に勉強道具を広げて彪志はひたすら問題集をしている。
「終わりそう?」
「うん。今の所6割くらいまで終わった」
「今夜の頑張り次第だね」
 
「さて、晩ご飯作るね」と青葉は5時になってから今晩のメニューを作り始める。「今日は何?」と彪志。
「今晩は酢豚だよ」と青葉は言って材料を切り始める。
「8人前くらいの材料で作るから、いっぱい食べてね〜」
「ありがとう」
「御飯できるまでの間にお風呂入ってる?たぶんそろそろ溜まってる筈だけど」
「あ。じゃ、そうしようかな」
「あ、溜まり具合確認してから服脱いでね」
「OK」
 
彪志はお風呂場に行き、お湯がだいたい適度に溜まっていることと、お湯の温度がちょうどいいのを確認してから、2階に行って着替えを取って来た。服を脱いで入浴する。身体を洗い、浴槽に身体を沈める。
 
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しかし、ほんとに自分はリラックスしすぎるくらいにリラックスしてるな、などと思う。それを考えると、青葉がうちに来た時は青葉はけっこう緊張してたのかも知れないなと考え、次にうちに呼んだ時はもっとリラックスしてもらえるように工夫できないかな、などと考えていた。
 
そんなことを考えていた時、彪志はふと2年前の青葉との出会いのことを思い出していた。
 
それは青葉に逢う数日前の夜のことだった。彪志は夢を見ていた。そこに1年前に彼を振った2つ年下の女の子がいた。
「あれ?こんにちは」
「こんにちは」
「久しぶりだね」
「そうね」
 
通学路が重なっているので実際には彼女とは結構顔を合わせているのであるが片思いで終わってしまったそのロマンスの後、やはりちょっと声を掛けにくくなってしまった感じで、全然会話を交わしていなかった。
「俺、まだ君のこと好きだよ」
「ありがとう。でも、たぶんタケちゃんのお相手は私じゃないよ。ほら、あそこに座っている女の子」
 
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彼女が指さす方角に廃止になったバス停の待合室があり、そこで未雨とその妹?が休んでいた。いや、あれは多分話に聞く未雨の弟なんだろう。未雨が女装癖についてよくこぼしていた。でもなんか可愛いじゃん。男の子とは思えない。
 
「川上さんと俺は恋をするの?」
「うん。妹さんの方とね」
「え!?」
 
彪志はしばしばかなり現実感のある夢を昔から見ることがあった。あまりにも現実感があるので、ひょっとしてこれは夢の中に出て来た人物と同じ夢を見ているのではなかろうかと思い、夢に登場した友人に聞いてみたりしたことも幾度とあるのだが、相手はいつも『そんなの知らない』と答えていたので、これはどうも彪志が勝手に見ている夢ではあるようだった。
 
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ただ、この手の現実感の強い夢を見た場合、かなりの確率でそれは現実のものとなっていたし、何か迷っているような時にその手の夢を見た場合、その夢の中で起きたり言われたりしたことに従うと、確実に自分の運気が開けていったり困難を打破できたりするのを幾度となく体験していた。
 
その夢を見て数日後に長期入院している父の病気平癒祈祷に来た拝み屋さんが祈祷中に急死する事件が起きる。これはちょっとやばいことになっているぞというのに気付き、親父を説得して少し金が掛かってもいいから誰か高名な霊能者にでも、この件を依頼したほうがいいのではないかと思っていたその翌日、その急死した拝み屋さんの娘さんに連れられて青葉がやってきた。
 
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そして現実の青葉を見ると凄まじく強烈なオーラをまとっていた。何だこいつ?何者なんだ?と思う。未雨は何度も同級生になっていたが、ごく普通のオーラだったのに。
 
そして拝み屋さんの娘さんが父に色々質問をしているが、実際にはどう見ても質問しているのは青葉の方だと気付いた。高名な霊能者などに頼む必要はない。この子に協力していれば、この事件は解決すると彪志は確信した。そして青葉は鮮やかにその事件を解決してくれて、彪志の父はすぐ退院できたのであった。
 
青葉本人については当初は少し興味本位で眺めていた。この子が男の子であるというのは知識としては知っている。しかし、現実の青葉を見れば、どこをどう見ても女の子だ。彪志はどんなにきれいに女装している男の子でもちゃんと性別を見破る自信があった。彼自身の強烈な勘が、正しい性別を見分けていた。
 
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しかしその外れたことのない勘が、青葉についてだけは『女の子』という判断をしてしまっていた。この子って確かに男の子に生まれてしまったのかも知れないけど、実際の中身は100%女の子なのではなかろうか。そしておそらく体質的にも女の子になり掛けている。女性ホルモンでも飲んでる??彪志はそう思った。
 
何だか面白そうな子だし、夢にも見たことだし、恋人になるくらいはいいよな・・・そう思って口説いてみたら、なかなか落ちない。口説き落とせないものだから、ついつい熱が入り・・・気付いたら自分自身かなり青葉に本気になってしまっていた。半ば勢いで結婚しようなんて何度も言ってしまっているが、ここまで女らしい青葉であれば、結婚しちゃっても悪くない気はしている。
 
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なお、彪志がしばしば見る『現実感のある夢』と青葉が本当に侵入してきた夢は明らかに違っていた。青葉が侵入して来た場合、その時の青葉には強烈な存在感があり、これはほぼ現実ではと思いたくなるほどであった。
 
彪志が、そうか夢がきっかけだったんだな・・・と考えていた時、彼はふとあることを思いついた。そうだ!そういうことかも。それでもしかしたら夢で青葉に会えるかも。そう思うと何だか楽しい気分になってきた。
 
お風呂から上がると、食卓に中華鍋が置いてあり、ふたがしてある。
「あ、ごめん。待たせちゃった?」
「ううん。今できたとこ。さ、食べよ、食べよ」
「うん」
 
青葉は笑顔で茶碗に御飯を盛ると、酢豚も皿に取り分ける。
「お代わりはセルフサービスでどうぞ」
「ありがとう。頂きまーす」
 
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御飯を食べたあと、青葉が今日の「お仕事」をしている間にも彪志の問題集は進み、出発しなければならない21時すぎまでに8割ほどまで片付いていた。
「わあ、ほんとに頑張ったね」
「あとはバスと新幹線の中でやるよ」
 
母の車で駅前まで送ってもらい、青葉と彪志は一緒に仙台行き高速バスに乗り込んだ。むろん隣り合った席である。ただし一緒に行くのは仙台までで、その後は彪志は一ノ関まで新幹線、青葉は大船渡行きのバスに乗り、今回は気仙沼で降りる予定だ。
「お土産、荷物になるのに御免ね」
「いや、いろいろ気を遣ってもらって」
「お父さんとお母さんにもよろしく」
「うん」
「じゃ、私寝てるから彪志はお勉強頑張ってね」
 
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勉強する彪志が灯りを使いやすいように窓際の席に座り、青葉が中央の席に座っている。乗客はほぼ満員。寝る人もいるから迷惑なのであまりおしゃべりも出来ない。独立シートなので、こっそりイチャイチャしたい人には不便だが、彪志は勉強しなければならないので、結果的にはいいんだろうなと自分に言い聞かせて問題集に集中していた。
 
メモ帳を持った手が青葉から彪志の方に伸びてきた。『好き』と書かれている。彪志は微笑んで『好き』と書き加えて青葉に返した。そんな感じでメモ帳で結構会話をした。1時頃まで勉強をした後寝ることにする。青葉のほうを伺う。寝てるかな?と思いつつも小さな声で「おやすみ」と言ったら「おやすみ」という返事が返ってきた。彪志は微笑んで眠りに就いた。
 
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夢の中に落ち込んでいく。
 
さて、行けるかな?さっきはまだ起きてたからなあ、と思い、しばし待つ。あ、来た!『やあ』と彪志は声を掛けた。
『あ、彪志』青葉は嬉しそうな声を上げて彪志のそばに寄った。キスする。
 
『良かった。会えた』
『会えて嬉しい』
『せっかく一緒に一晩過ごすのに、イチャイチャできないのは寂しいと思ってたんだ』
『私も−。Hしないにしてもキスはしたかったし』
『そうそう。だから少しおまじないして寝た』
『え?夢で逢えるおまじない、あるの?』
 
『これって、青葉が蝶々なら、青葉の友達が花だと思ったんだ』
『へー』
『だから青葉って、いちばん匂いの強い花に寄って来るんじゃないかと思って』
『ふんふん』
『青葉、しばしば夢の中で友達の相談に乗ったりしてるでしょ』
『してるー』
『何かお悩み持ってる友達がいたら、その念に引き寄せられて青葉、その子の夢の中に入っちゃうんだよ、きっと』
『あ、そうかも』
 
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『だからね、今夜は寝る前に青葉に逢いたい、物凄く逢いたい、って切ないくらいの思いに自分の心を暴走させた状態にして寝たんだ』
『それに私が引き寄せられてきたのね』
『そうそう。空振りしたら、とっても辛いんだけど』
『でもそれで逢えたんだ。ありがとう』
 
その夜はふたりで夢の中で1時間くらいおしゃべりしてから
『ほんとに寝ようか』と言って寝た。
 
翌朝5時に起きた彪志は当然既に(4時から)起きている青葉に、念のため
「昨夜の夢、覚えてる?」
と聞いた。
「もちろん。私は蝶々」
と青葉は微笑み、周囲がまだ起きてないような様子を確認して、素早く彪志にキスをした。
 
バスが早めに着いたのでふたりで一緒に早朝から開いている食堂に入り朝御飯を食べた。青葉のバスの方が先に出るので、それを見送ってから彪志は新幹線ホームに向かった。
 
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青葉が乗ったバスは10時前に気仙沼の駅前に着いた。迎えに来てくれていた白石さんの車で現場に入る。
 
「ここなんですが、どうでしょう?」
「あぁ・・・・・・」
 
そこは白石さんが経営する会社の寮なのだが、この寮に入った社員がみんな数ヶ月で辞めてしまうといういわく付きの寮なのであった。現在は半年ほど空家状態らしい。
「出るんでしょ?」
「出るという話です」
「風水的に問題がありますね。T字路の突き当たりだし、北側に川が流れていて、西側には池がある。そもそもここ、道路より1段低くなっているから、様々なものが溜まりやすいです」
「対策は?」
 
「お引越」と青葉は笑顔で言った。
「霊道も通ってますけど、それを動かして解決する程度の場所ではないです」
「そうか・・・・」
「T字路の突き当たりですから、今少し低くなっている所に盛り土して同じ高さにしてしまい、お店とか作ると繁盛しますよ」
「ほほお」
「霊道は取り敢えず動かしておきます。ちょっと失礼します」
青葉は出雲の直美に電話をする。
 
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「あ、直美。こないだ言ってた件だけど、お願いできる?うん。よろしく」
青葉はそう言うと、携帯をつないだままαの状態になる。これで直美の「端末」
になるのである。
「青葉・・・あんた凄い優秀な端末になってるね。まるで私自身がそこにいるみたい。前やった時より凄くパワーアップしてる」
「どう?霊道の状態」
「これは単純なもの。少しずらすよ・・・・・・終わった」
「ありがとう」
青葉は白石さんに顛末を報告する。
 
「ここ、飲食店とか繁盛したりする?」
「飲食店いいですね。大衆的なものであれば」
「よし、考えてみよう」
と白石さんは言った。
 
そのあと白石さんの自宅に行った。
「実はこの家も何か問題があるんじゃないかという気がしていてね・・・」
などと言う。
奥さんがお茶を入れてくれた。
「ありがとうございます」
「あ、お前も座って。ここの所起きてることをこの子に話してくれないか」
「こちらは?」
「八島賀壽子さん知ってるだろ?」
「ええ。昔実家でお世話になったわ。私がまだ高校生の頃」
「その曾孫さんで、跡を継いだんだよ」
「わあ、そうだったの!」
「まだ中学生だけど、凄いんだ、この子」
 
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ふたりから色々話を聞く。
「私怨ですね」と青葉は断定した。
「誰かが個人的に恨んでいるのか・・・・」
「ええ。いろいろ変な事が起き始めたのは・・・・・・3年くらい前からではありませんか?」
「そうそう、その頃」
 
「**な髪で、***な体型で・・・年齢は**代くらいの男性」
「分かった。***か。あいつなら恨んでるかも知れんなあ」
「その人からもらったものがありませんか?」
「寝室の時計・・・がそうよね?」
 
「見せて下さい」といって寝室に行く。
 
「ああ、これですね」
青葉は部屋の中に幾つかある時計の中のひとつを取り上げた。
「ええ、それです。よく分かりますね」
「処分していいですか?」
「お任せします」
 
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青葉は時計を折りたたみ式の保冷バッグに入れると白石さんの家を辞する。青葉は大船渡までタクシーでも拾って行くつもりだったのだが、白石さんの奥さんが慶子の家(まだ仮設住宅)まで車で送ってくれた。
 
「こんにちは」と言って入っていくが
「青葉ちゃん、ただいまでいいよ。ここの祭壇はあなたのものだから」とまたまた言われる。
「いやあ、なんかここには子供の頃から『こんにちは』と言って入ってたから」
などと言いながら祭壇の前に座る。
 
「保冷バッグ??」
「気休めです。慶子さん、霊鎧をまとって」
「はい」
慶子の霊鎧を確認した上で(自分は当然まとっている)青葉は中から時計を取り出す。「わっ」と慶子が声を上げた。
「分かります?」
「酷いですね」
「ね」
「私なら、こんな時計そばに置いておきたくない」
「ふつうの人は気付かないんです。処理します。これの発信元ごと」
 
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青葉は、その恨みの込められた時計の霊的な処理をした。終了後、庭でお焚き上げをした。
 
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春楽(6)

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