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■春楽(7)

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「こういうことできるのは田舎ならではですね」
「ええ。都会じゃ物を燃やしてたら苦情が来ますよね」
「この燃え残りは?」
「燃えないゴミに出してもらえます?」
「了解です。幸いにも明日です。でもさっきは凄かったけど、もう全然怖くないですね」
「ええ。もうただの物体になっちゃいましたから」
「それでもあまり長くは置いておきたくないものです」
「すみません。いつもこの手の処理してもらって」
「いえいえ」
 
家の中に戻り、簡単なものですけどと言って慶子が素麺を茹でてくれたので一緒にお昼御飯にした。
 
「でも慶子さんにも、真穂さんにも、5月以来お葬式の件でほんとに色々してもらって助かりました」
「まあ、私は真穂を呼び戻す理由ができてよかったけど。あの子、普段は電話もしてこないんだから」
「親離れですから、仕方ないですよ」
「半月に1度、青葉さんが来てくれるから、私も気合いが入るけど、ふだんは何だかぼーっとして過ごしてしまったりして。これじゃ、いかんなあと思うんですけどね」
 
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「うちの母もそんなこと言ってました。子供が千葉の大学に行ってしまった後何だか張り合いがなくなって、ぼーっとして過ごしてたのが、私が来てくれて毎日が楽しくなった、と」
「巣立ちされた親はみんなそんなものかもね」
「私は地元の大学に行くつもりでいるけど、結婚して地元を離れた後がちょっと心配です。いっそお母ちゃん、彼氏とかでも作って再婚でもしてくれたらいいのかなあ・・・」
「うーん。。。彼氏はOK。でも旦那はNG」
「なるほどー。慶子さんも?」
「私は特に。一度離婚経験してると再婚までしなくても恋愛自体が面倒なのよね」
「ああ。。何となく分かる気がする」
 
「でも青葉さん、彪志さんとうまく行ってるみたいね」
「なんかいつもデートに行く時に送ってもらってすみません」
「お葬式の時、見てたら、青葉さんと夫婦みたいな感じだった」
「えへへ」
「・・・セックスしちゃってるよね?」
「分かります?」
「だって、それ前提でないと考えられないくらいの信頼関係があると思った」
「凄く心が支えられました」
 
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「ふつうの中学生だったらセックスは少し早いかも知れないけど、青葉さんって物凄く早熟だったし、家族みんな無くして、私個人的には青葉さんには恋人がいた方がいいと思っていたし、それにもう2年くらいのお付き合いですよね」
「そうなんです。全然逢えず電話と手紙だけのやりとりを1年9ヶ月続けました」
 
「よく続いたね。それと彪志さんも結構霊的な力あるでしょ」
「霊感体質に近いですよね。オーラ強いでしょ」
「うん。エネルギー強いよね」
「彼、私に2年間好きだ、結婚してって言い続けてくれたんです。でも私ずっと返事してなかった」
「よほど好きなんだね」
 
「私がちゃんと返事しなかったのは、あるいは彼に捨てられるのが怖かったからかも」
「それを怖がってたら恋はできないよ」
 
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「ですよねー。私ってやはり自分が完全な女の子でないという負い目があったのかも知れないなって最近思うんですよね。完全な女の子でない自分がこの人に愛してもらっていいんだろうか、という気持ちと、本物の女の子のライバルが現れたら、私捨てられちゃうんじゃないかって不安」
 
「青葉さんは本物の女の子ですよ」
 
「そうかもね。この春から、お母ちゃん、ちー姉、桃姉、に凄く愛されて、その結果私、自分に少しだけ自信が持てたのかも。だから彼の愛を受け入れる気になったのかも」
「愛を受け入れたのと同時にセックスもしちゃったのね」
「うん。あの場ではやれる所までしなきゃダメだと思った」
「それ多分、大人の恋愛でもそう」
「やはり?」
 
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「そういうシチュエーションで愛だけ受け入れてセックスしなかったら、多分その愛はひっくり返っちゃうよ。ライバルが現れたりして」
「そうだったのか・・・・・」
「何か思い当たることある?」
「彼とそんなことになって、前から私に好きと言ってくれていたもうひとりの男の子の方に、断りの電話入れたんだけど」
「うん」
「その時の電話口でもけっこう口説かれたけど、そのあと夢にも彼出て来て」
「例の夢ね。青葉さんも相手も同じ夢見てるやつ」
 
「うん。その夢でまたかなり口説かれた。でも私の心は揺れなかった」
「それはやはり彪志さんとセックスまでしてたからだよね」
「そうかも」
「だってセックスって入れて放出してっていう物理的なものより、精神的なもののほうが大きいでしょ。魂の結びつきだもん。セックスって」
「そっかぁ。。。。私、魂的に彪志ともう結婚したようなものかな」
「多分そう」
 
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「私、今回の帰りをずらそうかな・・・」
「会っていくのね」
「うん。今回はびっしり予定が詰まってるし、明日会うのは無理だと思ってたんだけど」
「明後日帰ればいいのよ」
「だよねー。明後日は午後、東京からクライアントが富山まで来るの。だから予定変更できないと思ったんだけど、要するに明日の午後までに帰ればいいんだ」
 
青葉は時刻表を取り出して時刻を調べ始める。
「これしか無いな・・・・クライアントは羽田を13:05の飛行機で富山空港に来るのよね。これに間に合うようにできるだけ遅く帰る方法は、なんと結局私もいったん東京に出て、クライアントと同じ飛行機に乗る手だ!」
「なるほど」
「よおし、空振り覚悟で取り敢えずチケット取っちゃえ」
 
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青葉は携帯を操作してまず明後日の羽田−富山の航空券を押さえる。それから彪志に電話した。
 
「ハロー」
「ハロー。って、どうしたの?青葉」
「明後日デートしない?」
「え?でも明後日は東京からお客さんが来るからずらせないって言ってたじゃん」
「そう。だからクライアントと同じ飛行機で羽田から富山空港に移動する」
「なるほど!でもそれだと朝早くこちらを出ないといけないでしょ?」
「うん。だから彪志、東京行き新幹線に乗ってよ」
「え!?」
「東京までの往復の新幹線代、私が出すから」
「えー!?」
 
「あのね。明後日朝8:39一ノ関発の『はやて』に乗ると、東京に11:08に着くからその飛行機に私間に合うの」
「なるほど、新幹線の中でデートするのか!」
「そうそう」
「青葉はどこから乗るの?」
「仙台9:20だから、朝から仙台に行って仙台から乗ろうと思ってるんだけど」
「ちょっと待って。こちらも時刻表見てみる。。。。。俺、朝一番の新幹線に乗ると仙台に7:30に着くよ」
「ああ、私がそれまでに仙台に行けば、2時間仙台でもデートできるのね」
「そうなるね。そのあとは東京までの新幹線の中でデートね」
「ようし・・・・あぁん。それまでに仙台に着くバスが無い、困ったな」
 
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「明日は何時にお仕事終わるの?」
「分からない。でも明日21:50発の夜行バスに乗るつもりだった」
「じゃ、その時刻から俺んちに来ない?」
「あ、そうか。それで明日朝一番の新幹線に、一ノ関から一緒に乗ればいいのか」
「そう。明日の夜は俺んちで泊まればいい。遅くなっても構わないから。で仙台じゃなくて東京で2時間フリータイム」
「うん。それで行こう」
 
「青葉さん、仕事が終わったら一ノ関まで送るよ」と慶子。
「ありがとう」
「ということで慶子さんがそちらまで送ってくれるって」
「じゃ、明日の夜待ってる」
 
ということで明日の夜慶子に一ノ関まで送ってもらい、その夜は彪志の家に泊めてもらって翌8日朝の新幹線で一緒に東京に出て13時の富山行きに青葉が乗るのを見送って彪志は新幹線で一ノ関に帰還する、といったデート計画が出来たのであった。朝1番の新幹線が東京に着くのが9:24なので、東京で3時間ほどフリータイムができることになる。
 
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そこで13時の飛行機に同乗することになった「クライアント」である冬子にその旨メールしたのだが、速攻で電話が掛かってきた。
 
「青葉が東京に来るんなら、私富山に行く必要無い」と冬子。
「あ、そうか!」
「せっかく東京に来るんなら、私の自宅でヒーリングしてくれない?」
「いいですよ。じゃ東京で私1泊して9日に富山に帰ります」
「じゃ、私の家に泊まるといいよ。宿代節約。来客用の寝室で寝てもらえばいいし」
「わあ、そうさせてもらいます」
「8日は何時に東京に着くの?」
「あ、えっと・・・・」
 
青葉は実はボーイフレンドと一緒に東京まで新幹線デートであることを説明した。
「ああ、受験生なんだ!じゃ、うちの家でデートしない?うちの防音室、集中して勉強するのにはいいよ」
「ああ、いいかも」
「それに私見ないふりするから少しくらいイチャイチャしてもいいし」
「えへへ」
 
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ということで青葉は再度彪志に電話し、状況が変化したことを説明する。
「要するに、青葉が冬子さんをヒーリングしている間に、俺は防音室で集中して勉強すればいいと?」
「そういうこと」
「ま、いっか。ひたすら町を歩いたりするよりは良さそうな気がする」
 
ということで青葉は8日13:05の飛行機にさきほど入れた予約をキャンセル、9日の最終便、19:55の便に予約を入れた。冬子も富山往復の飛行機をキャンセルしたはずである。そして青葉は8日朝一番の新幹線・一ノ関→東京を2枚と最終の新幹線・東京→一ノ関を1枚予約した。この件、母にも電話し了承を得た。
 
その日は昼食後に大船渡市内で3件の相談を受けてから、いったん慶子の家に戻り、祭壇前で自分をリセット・再浄化した上で、ふつうの服に着替え、夕方、慶子に送ってもらって椿妃の家に行った。早紀、柚女に、歌里が来ている。
 
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「遅くなっちゃって御免なさい」
「いや、練習しながら待ってたから」と椿妃。
「取り敢えず、全国大会進出おめでとう」
「そちらも全国大会進出おめでとう」
 
「では早速、真打ち・青葉の歌声を聴かせてね」
「じゃ、まずウォーミングアップを兼ねて、今うちの学校の方で歌っている『島の歌』を」
と言って、青葉は椿妃の家の電子ピアノを借り、セルフサービスで伴奏しながら、『島の歌・幸い』を歌った。椿妃も柚女も歌里もICレコーダや携帯で録音している。
 
「わあ・・・格が違う!今F6まで出てたよね?」などと歌里。
「凄いよね、青葉さんって」と柚女。
「次、巫女の歌!」と椿妃。
「了解」
「私が伴奏するよ」と椿妃がいうのでピアノを代わる。
「ありがとう」
 
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ピアノを椿妃に任せて、青葉は『夜明け』を歌った。『巫女の歌』の部分で柚女がうんうんという顔、歌里がひゃーという感じの顔をしている。
 
「巫女の歌の所だけ、再度歌って頂けますか?」
「OK」
というわけで椿妃の伴奏でその部分を再度歌う。
 
「よーし。私もこの音階で歌ってみよう」
「伴奏してあげるよ」と椿妃。
椿妃の伴奏に合わせて『夜明け』の最初から歌里が歌う。『巫女の歌』の部分を青葉が歌ったのと同じ音階で歌った。柚女がこの音階で歌ったのも何度か聴いている筈だが、ちゃんと歌えるのは歌里の耳が良いからであろう。
 
「うまーい」と青葉。「高音でも声が安定して出てるよね。声域広いでしょ?」
「先輩にはかなわないけど、一応D6まで出ます」
「練習すればもっと上まで出るようになるよ。あと、表現力はもう歌い込むしかないよね。自分で色々試行錯誤しながら。他人から教えられても、自分のものにならないと歌に反映されないんだよね」
「ええ、それ先生からも言われてます」
 
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「だけど凄いよね」と柚女。「実力。ほんとに高い。でも、私も負けないから」
「ふたりとも頑張って」と青葉。
 
その後、青葉が伴奏を代わって、椿妃と青葉がアルトパート、柚女と歌里がソプラノパートを歌い、ソプラノソロの部分を、柚女・歌里・青葉の3人が交替で歌うという形式で6回り(18回)歌い込んだ。早紀は最初拍手をしたりして聴いていたが、椿妃のお母さんが「夕飯の支度手伝って」と言ってきたところで「私がします」といって台所に行った。やがて戻って来て「皆様、そろそろ晩ご飯にしませんか?」と言う。
 
「だいぶ歌ったもんね」
「じゃ夕食前の練習はこのくらいで」
といって練習をいったん終え、居間に行って夕飯を一緒に頂いた。
「さっきの形式で御飯食べてからあと2回りくらいやろうよ」
「OK」
 
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その晩は結局9時頃まで歌いまくった。椿妃のお母さんが、車で柚女・歌里を自宅まで送り届けた。早紀は泊まりで、椿妃・青葉と12時くらいまでわいわいおしゃべりを続けた。
 
翌日の青葉の仕事はけっこう大変な案件も含まれていたため予定をずれ込み、終わったのは22時!であった。仙台21:50の夜行バスにはどっちみち間に合わなかった。途中で遅れそうというのを連絡を入れておき、最終的に終わった所で再度彪志に連絡した。慶子に一ノ関まで送ってもらい、23時過ぎに彪志の家に到着する。慶子に礼を言って車を降りる。
 
「夜分申し訳ありません」と言って家にあがる。
「10時までお仕事だったんだって!大変だったわね」とお母さん。
「お風呂入ってね。もうみんな入った後のお湯で申し訳無いけど」
「ありがとうございます。助かります」
「バスタオル、自由に使ってね」
「はい」
 
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