広告:生徒会長と体が入れ替わった俺はいろいろ諦めました-ぷちぱら文庫Creative-愛内なの
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■春楽(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2011.10.17
 
その日の夕食は新鮮な海の幸をメインにした天麩羅であった。母が買ってきてくれたお魚を中心に野菜なども含めて青葉がどんどん揚げていく。
「美味しそうだね〜」
などと言って彪志が摘み食いをしている。母は台所の様子を雰囲気で感じながら、楽しそうに雑誌を読んでいる。やがて
 
「天麩羅できあがり〜」と言って、青葉と彪志がふたりで皿を食卓に運ぶ。
「なんか揚げてる最中に2割くらいは彪志のお口にそのまま入った」
「青葉のお口にも少し入れてあげたよ」
「おやおや、楽しそうだね」と母。
 
青葉と彪志で協力して食器とお箸を配る。小皿に大根おろしを盛り、別途小鍋で作っておいた天つゆを注いで「いただきまーす」と言って食べ始める。
 
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「揚げたては美味しいね」
「私、このおうちに来て初めて揚げたての天麩羅というもの食べたの。こんなに美味しい物だとは知らなかった」
 
「お勉強は進みました?」
「あ、えーっと。夜に頑張ります」と彪志。
「さっきは別のことで頑張っちゃったからね」と青葉。
「おやおや」
「ちょーっ」と彪志が焦っている。
「その件ですが」と彪志が頭を掻きながら弁解するように言う。
「青葉さんと話して、そういうことは当面月に1回までにしようということで約束しました」
「まあ、受験生だしね」と母は少し楽しそうである。
「はい」
 
「リアルと夢で1回ずつまでって約束した」と青葉。
「あの夢ね」と母は笑っている。母も当然青葉の「夢の侵入」の常連被害者である。
「あの夢ならできちゃうでしょうね」
「あの中では、私完全な女の子なの。だから女の子の器官でできちゃった。というか、できちゃったから、私が完全な女の子だって分かった」
「あらまあ。でも夢でも月に1度だけなのね」
「はい。そういうことにしました」
母は楽しそうに頷いている。
 
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「あ、そうそう。彪志、悪いけど御飯の後、2時間くらい1人にして」
「お仕事だね」
「うん」
「じゃ、茶碗洗うのは俺がやっとくから」
「えー、洗うのまではやるよ。彪志は問題集頑張ろう」
「じゃ、一緒に洗おうか」
「そうだね」
「あんたたち、まるで新婚さんみたい」
「あはは」
 
ふたりで一緒に洗い物をしたあと、取り敢えず一緒に2階に上がり、彪志は勉強の道具を持って下に降りた。先にお風呂に入ってから勉強する。青葉は自室で「お仕事」である。今日の依頼分は震災の遺体捜索1件、運気が悪いとのことで家相の相談1件、体調が悪いということでの相談1件。それぞれチェックして回答と慶子への指示をメールした。その後、千里に電話して少しおしゃべりしながら30分ほどの遠隔ヒーリングをした。下に降りていくと彪志が母とあれこれ話しながら問題集を解いていた。「お風呂もらうねー」と言って青葉は浴室に直行する。上がると彪志はいなくて母がひとりで雑誌を読んでいた。
 
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「彪志さん、上に行ったよ」
「ありがとう」
「あ、青葉」
「はい」
「耳貸して」
「うん?」
右耳を母の顔の傍に寄せる。母がささやくように言う。
「ありがとう。でも、お母ちゃん、物わかり良すぎ」
「桃香のおかげで私の常識は破壊されているから」
「あはは・・・」
「あの子も堂々とうちに恋人連れ込んでたからねえ。中学の頃から」
「女の子の恋人だよね?」
「もちろん。私てっきりふつうの友達と思ってて、うっかり戸を開けて、こちらが悪いことしたみたいな気分になったもん」
「わっ」
 
「最初に千里ちゃん連れてきた時は、桃香、この子と結婚するつもりなのかな?男の子であれば女装癖くらいあってもいいけど、なんて淡い期待をしたんだけど、千里ちゃん自身が女の子になっちゃうみたいだしね」
「ちー姉は多分来年性転換しちゃうと思う」
「千里ちゃん、いい子だからなあ。桃香のお婿さんでなかったらお嫁さんででもいいから欲しいんだけど」
「うーん。。。。。。」と青葉は『受信モード』にしてみる。
 
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「ちー姉、ずっとずっと先には桃姉と実質的に結婚するかも。でも多分10年くらい先かな」
「10年か・・・・」
「子供はできるよ」
「千里ちゃん、精子保存してたもんね」
「桃姉の子供は2人、ちー姉の子供は1人かな・・・・あれれ?ちー姉の子供、2人かも知れない。なんか凄い複雑なことが起きるみたいな感じ。よく分からない。子供ができるのは、2人が実質的に結婚するより結構前だよ」
「へー。でもまあ、あの子たち自体が複雑だもんね」
「私も複雑でごめーん」
「そうね。でもたいがいのことには耐性できたかも。桃香には一時は孫は諦めてたんだけど、少し期待しておくかな」
 
「私も子供産めなくて御免ね」
「青葉も10年後くらいに、彪志さんと結婚できるといいね」
「うん。私、本気になっちゃった。もし捨てられたら多分5-6年立ち直れない」
「もしそうなっちゃった時、青葉は私の娘だってこと忘れないでね。いつでも私の所に戻って来ていいんだから」
「ありがとう、お母ちゃん」
 
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しばし母と少ししんみりした感じの話をしてから上に上がった。襖を開けたら、何やら彪志が慌てて服の乱れを直している。青葉はすぐに襖を閉めた。それから再度襖を細く開けて、小声で尋ねる。
 
「ごめーん。あと5分してから来た方がいい?」
「いや、大丈夫」
「出しちゃった?」
「えーっと、まだだけど大丈夫」
「出しちゃった方が身体には良くない?」
「いや実際問題としてたぶん出ない。今日は2度も青葉としちゃったし」
「じゃ、開けちゃうよ」「うん」
青葉は襖を開けて中に入ると、彪志にキスをした。
 
「お・ま・た・せ。でも、私もう悪いけど寝るね〜。彪志頑張って勉強してて」
「うん。もう少し頑張る」
「私、目をつぶってるから、ひとりでいじってても大丈夫だよ」
「いや、もうしない」
「変に我慢したらよけい気がそぞろかもよ」
「あのねえ・・・・殊更に俺の本能を刺激すること言わないで欲しいんだけど」
「うふふ。今夜は生殺しだからね」
「はあ」
「じゃ、おやすみー」
「おやすみ」
 
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部屋には2つ布団を敷いている。その奥の方の布団に青葉は潜り込んで彪志に背を向けた。
 
「ねえ、彪志」
「うん?」
「今度の模試でけっこう志望校振り分けられるって言ってたよね」
「うん。偏差値54以下だったら志望校変えろって言われると思う。合格ラインが58くらいだから。61くらいが安全圏だと思うんだけどね」
「前回の模試ではいくらだったの?」
「えっと・・・・57」
「ね。偏差値60取ったら、フェラしてあげる」
「へ!?」
「して欲しくない?」と青葉はわざわざ起き上がって言う。
「えっとそれって・・・・」
「セックスと別枠でいいよ。ご褒美」
「よし!俺頑張る」
「うん。頑張ってね。おやすみー」
青葉は楽しそうな顔で布団の中に潜り込んだ。
 
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「ねえ、青葉?」
「青葉はその・・・男の子のオナニーとかしたことないんだっけ?」
「そもそも立たないようにしてたしね。幼稚園の頃は偶発的に立っちゃった記憶が何度かあるよ。でも立たないようにするやり方分かったから小学校に上がってからは何かの拍子に立っちゃうようなこともなくなった」
「自分が女の子だという意識を持ったのっていつ頃なの?」
「物心ついた時には既にそうだったよ。というか、私、物心つく前、赤ちゃんの頃から、男の子っぽい服を着るの嫌がってたらしい。だから男の子の服を買ってきても全然着ないから、結局姉ちゃんのお下がりの女の子の服ばかり着てたって」
 
「やはり、青葉って、男の子の身体に生まれてきたこと自体が間違いなんだろうな・・・・」
「間違いじゃなかったら修行なんだろうね。凄まじいハンディだもん、これ」
「青葉は既にそのハンディをほぼ乗り越えてしまった気がするけどね。青葉がもともと女の子として生まれていたら、地球を破壊しちゃうくらいの魔女になっていたのかもね」
「あはは、それも面白いね。私、フェアリーちゃんって呼ばれてた時期もあるよ。女の子になっちゃう男の子という意味と、『サンプルキティ』のフェアリーという意味を兼ねて」
 
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「『サンプルキティ』?」
「あ、さすがに彪志は読んでないか・・・・そもそも私が生まれる前の漫画なんだけどね。遺伝子実験で作られた凄まじい超能力を持った女の子の話」
「へー」
「私も小学校の時に友達数人と一緒に先生の家に遊びに行った時に読んだんだよね。先に読んでた友達が『この漫画凄い』って言って、私に見せてくれたんだけど。歴史を書き換えてしまう能力を持ってる子で。でも暴走気味で自分では制御できないのよね。だから周囲の人たちの記憶が無秩序にころころ変わる」
「ちょっと迷惑だな、それ」
 
「最後は死んでしまった最愛の男の遺伝子を自分の卵子にコピーして、クローンを産んじゃう」
「それはまた凄い能力だ・・・・青葉、そんなことできないの?」
「無理〜。そもそも私、卵子持ってないし」
「あ、そうか」
 
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「うーん。。。。」
「どうしたの?」
「ここの英文の意味がどうしても取れない。青葉、分かる?」
どれどれ、と青葉は起き出して彪志が悩んでいた英文を分かりやすく説明してあげた。
「なるほどそういうことか・・・でも青葉のその英語能力どうやって身につけたの?」
「必要に迫られただけよ。だって魔術関係の専門書、みんな英語だもん」
「そうか。必要性か・・・」
 
その晩は結局、青葉は布団の中、彪志は机の前、という状態のまま12時過ぎまであれこれ話しながら夜が更けていった。
 
翌日はせっかくだから少し2人でお散歩してきたらと言われて、城址公園に母の車で連れて行ってもらった。お昼はふたりで食べるといいよと言われてお金ももらった。お堀に沿って散策し、動物園などにも入ってみる。ペンギンが可愛くてついついふたりで長時間見とれていた。公園内のベンチでお話する。
 
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「でもこないだのお葬式、思いがけず大規模になっちゃったでしょ?来てくれた人に渡した交通費とか宿代とかもかなりかさんだと思うし。結局お金は足りた?親父心配してたんだ」と彪志。
「それは大丈夫。どーんと凄い金額の香典包んでくれた人が若干1名いたからね。小切手が香典袋に入ってるとは思わなかったのよ。開けてびっくり。思わず桁を数えちゃった」
「わっ」
 
「師匠は導師を務めた御礼なんて要らんと拒否するし。まあ、元々貨幣経済とは無縁の生活してる人だしなあ」
「山野に寝起きして草や木の実食べてるって言ってたね」
「それも怪しい。実は霞食って生きてるんじゃないかって、菊枝と話したことある。こないだの葬儀の時も食事にはぜんぜん手を付けてなかった。精進料理でさえ、たぶん身体に合わないんだよ」
「それ、ありえそー」
 
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「そういう訳で、かなり余っちゃってさ」
「うん」
「舞花さんには電話して、これはさすがに全部は受け取れないから1割だけもらって残りは返すと言ったんだけど、余ったら震災復興のために寄付してなんて言うから、そのお言葉通り残額は市に寄付した。市から感謝状もらっちゃったよ」
「ははは。でも良かったね」
 
「それにこの春から拝み屋さんの仕事で得たお金が全部そのまま貯金に回ってたのよね。今回はそれを一気に使ったし」
「じゃ、無一文になったの?」
「うん。いったんね。でも普段は使い道がないからどんどん貯まっていく。今私の生活費は、お母ちゃんの仕事の稼ぎと、桃姉・ちー姉が仕送りしてくれているお金がベースなのよね。私もお金入れるというのに、お母ちゃん、受け取ってくれないんだもん」
 
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「あはは。中学生のバイト代をあてにする親はいないよ」
「うん。それが普通なんだろうね。岩手にいた時は、私お母さんにいつもお小遣いあげてたよ」
「それはやはり変な家庭だよ」
「だよねー」
 
「それと最近気付いたんだけど」
「うん」
「青葉、実のお母さんのことを『お母さん』、今のお母さんのことを『お母ちゃん』
と呼ぶんだね」
「彪志、鋭いね。私自身も最初の頃はちょっと呼び方に混乱があったんだけど、最近それで私の中では安定した」と青葉は笑って答えた。
 

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お昼になったので、公園の近くにあった可愛いレストランに入り、彪志はハンバーグセット、青葉は明太子スパゲティを頼んだ。
 
「ハンバーグ少し食べてみる?」
「え?」
「あーん」と言って彪志がハンバーグを少し切ったのをフォークの先に刺してこちらに手を伸ばす。青葉はそれをパクリと食べた。
「美味しい」と笑顔で答える。
 
「じゃ、私のも食べる?」と青葉は言ってスパゲティを少しフォークで巻き取ると「あーん」と言って彪志の方に伸ばす。彪志がパクリとそれを食べる。
 
「なんか、これ楽しい。ね、もっとやろう。もっとやろう」と青葉がはしゃぐ。「OK、OK」と彪志も言い、そんな感じでふたりで食べて、結局ハンバーグもスパゲティもお互いに半分こくらいした感じになった。
 
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「よく考えたら、今日って、私達が恋人になってから初めてのデートだね」
「うん、そうなんだよね。デートする前に、お互いのうちに行って親に挨拶したから。俺達ちょっとふつうの恋人と順序が後先」
「明後日はデートの時間が取れそうにないしなあ。こないだがお葬式で潰れちゃったから、依頼が溜まってるのと、明日は向こうのコーラス部の子と会う約束なのよ。その子、私立に進学するつもりだったのが、私がいるからと公立に進学すること決めたのに、私はこの春から富山に転校しちゃったという訳で」
「わあ、それは会ってあげるくらい、しないとね」
 
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