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■春楽(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2011.10.16
 
千里が去勢手術を受けた翌日7月20日、第5回!の「青葉鑑賞会」が美由紀の親戚の温泉宿で行われていた。青葉と同じクラスやコーラス部などで親しくなった女子の友人が集まり、一緒にお風呂に入ろうという企画で基本的には木曜日、「鑑賞対象」が時間の取れる日に定期的に行われているのであった。費用は1人1500円掛かるのだが、青葉が「こうなったら費用全部私が出す。いつもみんなからもらっているヒーリング代金(実際にはお菓子等でもらっているのだが)を還元しちゃう!」と言ったので第3回からは、みんな無料で参加できるようになっていた。
 
いつもは木曜日にしているのだが、明日がもう終業式なので、1日早くやろうということになっていた。今日は参加者が青葉も入れて7人で、学校でクラブ活動が終わる頃合いの17時に旅館のマイクロバスで学校に迎えに来てもらい、旅館でまずはお風呂に入って、わいわい騒いでから、夕食を取り、それからお部屋でわいわいやり、少し一緒にお勉強などもして、お肌のためにも24時前には寝ようね、というコースであった。
 
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今日初参加になったコーラス部の友人の美津穂は、温泉の中で青葉の胸を見ると「わあ、この胸、本物だったんだ!私てっきりバストパッドだと思ってた」と言って、青葉の胸に触り「柔らかーい。それに形がきれい」などと感動していた。もろちん触った以上、青葉に触り返されていたが。
 
青葉たち「御一行様」がすっかり常連になってしまったので、旅館側も料理には毎回工夫をしてくれていた。今日は中華料理風で大皿に盛って自由に取って食べられるようにしていた。女の子同士の気安さがあるので「こういうのもけっこういいね」などという声が出ていた。
 
「今回はちょっと青葉にお祝いしてあげたいのよね」と美由紀。
「え?何があったの?」と明日香。
「青葉、とうとう男の子ではなくなったの」
「え?性転換手術?」
「それはまだだけど、去勢完了なの」
「うん」と言って青葉は説明する。
 
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「私、小学5年生の時に自分で睾丸の機能を停止させたんだけど、機能停止したことで少しずつ小さくなっていってた睾丸がとうとう消滅してしまったのよね」
「自然消滅?」
「そう」
「すごーい。そういうこと起きるんだ」
「7月11日に消滅したんだって」
「たぶん。消えた気がするなと思って先週病院でMRIも撮って検査してもらって確かに消滅していることを確認した」
 
「おお、それはめでたい。って、おめでとうでいいんだよね?」
「うんうん」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「みんな、ありがとう」と青葉が演出無しの笑顔をしている。
 
「あれ?じゃ先週の青葉鑑賞会の時も、もう消滅してたんだ?」
「うん。でも確信が無かったから」
「だけど青葉、そのうち自然にヴァギナも出来て女の子の身体になったりして?」
「それはさすがに無理だと思うけどなあ」
「いや、青葉なら分からない。子宮や卵巣まで自然発生して」
「まさか!」
 
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「でも、私完全な女の子の身体になってる青葉も見てるのよね」と美由紀。
「え!?」
「私も見てる」と日香理。
「何?何?ふたりにだけ公開したの?」
 
「青葉って、友達の夢の中に勝手に入ってくる、困った子なのよ」と美由紀。
「こないだ、私せっかく憧れてる男の子とデートしてる夢見てたのに、そこに青葉が来て『あ、ごめん。邪魔しちゃった』なんて言って、行っちゃったのよね。あと少しで彼とキスできるところだったのに」
「それって・・・青葉の実体なの?」
「そう」と美由紀と日香理。
「だから、その内容は侵入された側も侵入した青葉も覚えてる」
「ひゃー」
「私も先週侵入された」と明日香。
 
「私もそのうち侵入されそうだな」と美津穂。
「絶対やられる、やられる」と美由紀。
 
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「でまあ、そういうわけで他人の夢に勝手に入ってくる青葉が、その夢の中では完全な女の子なんだよね」
「うん」とちょっと可愛い動作で頷く青葉。
「自分でもどのくらい完全なのか、これまでよく分からなかったんだけど」
 
「胸がFカップくらいあるのよねー」と日香理。
「先日、彼氏の夢の中に侵入した時に、やっちゃったらしいね」と美由紀。
「きゃー」
「うん。。。それであの器官も存在していることが分かった」
と青葉は少し頬を赤らめて答える。
 
「ねー、何か青葉が今、凄く可愛らしい仕草を見せたんだけど」
「彼氏のことを話題にすると、しばしばこういう青葉が見られるよ」
「わあ、面白い。ふだんは見られないよね」
「ふだんの青葉って、『強い女』『格好いい女』だもんね。でもこういう可愛いらしい顔も見せるんだ」と美由紀。
 
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「でも夢の中でやっちゃうって凄いね。気持ち良かった?」
「えへへ。凄く気持ち良かったよ」
「わあ」
「それ、彼氏の方も気持ちいい思いしてるんだよね」
「うん。翌日ちょうど会う日だったから、会った時に確認した」
「ひゃー」
 
「彼とリアルでは経験あるの?」
青葉は少し頬を赤らめながらコクリと頷く。
「おー」
「初耳だ!」
 
「リアルと夢の中とどちらが気持ち良かった?」
「えっと・・・・まだリアルでも夢の中でも1度しかしてないのよね。
だから、ちょっと比較するのは無理。だってもう夢中だったもん」
「そっかー」
 
「だけど青葉、リアルでした時って、どこ使ったの?」
「えっと・・・素股」
「なるほどー」
「青葉のお股の形で素股したら、普通の女の子の素股と同等だよね」
「私はそのつもり」
 
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「でも、素股というテクがあること忘れてたなあ」と日香理。
「あ、日香理、もし彼とそういうことするんだったら、その場合も彼氏には避妊させないといけないよ。飛散して侵入する可能性があるから」
「なるほど」
「わ、わ、何かおとなの会話だわ」
 
「でも彼氏から、どうしてもやりたいって迫られて、まだ処女捨てる気にはならない時とか、もう何度かしててもその日はあまり入れさせたくない気分の時とかには妥協で使えるテクでもあるよね」と奈々美。
「ああ」
「でもその時もちゃんと付けてもらわないと、いけないのね」
「そうそう。でないと処女懐胎もあり得る」と青葉。
「わっ」
 
「あと、どさくさまぎれに入れられたりしないように、指でガードするといいよ。その分、狭くなって締まりもいい感じになるし」と星衣良。
「指入れておけばフィニッシュは手の中に誘導する手もあるよね」と奈々美。
「おお、こういう話は保健の時間には教えてもらえない!」
「うんうん。役に立つ情報だ」
 
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「ね・・・この場の非処女率って・・・・」
「7分の3かな?何となく」
「わあ、中学生の経験率って高いんだ!」
「こないだ見た雑誌には中学生女子は20%って書いてあったよ。男子は10%」
「誤差の範囲だよね」
「20%なら2人になるからね」
「私以外の2人が誰かというのは詮索しないということで」と青葉。
「それがいいね」と笑いながら美由紀。
 

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翌日は終業式の日であった。体育館で校長の話があっている最中、学校に青葉へということで、慶子から電話が入った。携帯にメールするのではなく、わざわざ呼び出したことで、青葉はとうとう『その時が来たな』と覚悟した。職員室で受話器を受け取る。
 
「はい。。。はい。。。分かりました。明日そちらに行きます。ええ、そのスケジュールで。ありがとうございます。ええ、細かいことは後で。はい。これでとうとう本番です」
 
「何かあったの?」職員室に残っていた先生が訊く。
「母(礼子)の遺体が見つかりました」
「そうか・・・」
「それで、これまで仮葬儀だけしていた、祖父母、姉、父とあわせて本葬儀をします。明日お通夜で明後日葬儀ということで」
「もう今から向こうに行くの?」
「いえ。何せ親族全滅なので参列者がいませんから、急ぐ必要はありません。この後、ホームルーム終わって、クラブの練習も終わってからです。今日やるべきことをきちんと済ませてから行きます」
「うん」
「取り敢えず、何人かに連絡します」
 
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青葉は先生に断って携帯を出すとまず母(朋子)に連絡した。朋子も一緒に行くと行ってくれた。朋子と話し合った結果、青葉と朋子の2人で今夜の高速バスで仙台に移動することにした。
 
千里と桃香にメールする。すぐに桃香から電話が掛かってきて、ふたりともすぐに移動すると言われたが、今日現地に入られても宿泊場所を確保できないと青葉が言うと、じゃ明日朝1番の新幹線で行くと行ってくれた。仙台に8:07に到着する。大船渡への交通の便が悪いので仙台にいったん集結して、人数次第でワゴン車か何かでもレンタルしてみんなで移動した方がいいかもね、ということで桃香と話がまとまった。
 
彪志にメールするが、向こうも終業式が終わるまで返信は無理だろう。菊枝にメールしたら速攻で「行く」と連絡があった。菊枝は車で来るらしい。今からすぐに移動開始と書かれていたので、到着は明日の夕方くらいだろうか。
 
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少し躊躇ったが嵐太郎にもメールした。こちらも終業式中か? 早紀・咲良・椿妃の携帯にもメールした。こちらも同様だろう。姉の仮葬儀の時に来てくれた、未雨の同級生のひとりにもメールした。
 
そのあと慶子に電話して、再度細かい点を打ち合わせた。先程の電話で明日お通夜・明後日葬儀というのだけは決めたのだが、祖父母や父・姉の仮葬儀と同様に仏式でいくことと、これまでと同じお寺に頼むことを決めた。
 
「参列者、どのくらいになるでしょうね?」
「うーん。。。。20人いかないと思うんだけど」
先々月の祖父母の仮葬儀時は、佐竹親子と青葉だけだった。先月の父と姉の仮葬儀の時は、早紀・椿妃・彪志に未雨の同級生が3人来てくれて9人だった。
 
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「とりあえず20人くらいということで会場には言っておきますね」
「はい」
 
メールした中で最初に反応があったのは嵐太郎で、行きたいけど公演やっている最中で動けないので、取り敢えずお花を贈るというので会場の住所と電話番号を連絡する。
 
続いて未雨の同級生から電話があり、友達を誘って行くということだった。早紀から電話がある。そぱに椿妃もいるということで、こちらも青葉の元クラスメイトをたくさん誘っていくからと言われた。これはもしかして20人では済まない!?咲良からも電話があり、母と一緒に行くと言ってくれた。これはマジで宿泊場所を確保しないと。
 
慶子に再度連絡し、参列者がけっこう増えて来つつあると言う。
「今の所、雰囲気的に40人くらいかも」
宿泊に関しては、市内の旅館に頼むことにした。
 
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最後に彪志から電話があった。
「残念だったね」
「死んでるのは分かってたからね」
「今、親父と母ちゃんとも話した。3人で行くから」
「ありがとう」
 
だいたい連絡が終わったところで教室に戻った。ホームルームがもう終わりかけていた。小坂先生から訊かれて母の遺体がみつかったことと、これで祖父母・父・姉とあわせて本葬儀をすることを言う。
 
「川上さん、私も行くよ」
と先生言う。
「え、でも遠いですし」
「だって私もあなたの担任だし」
「分かりました。ありがとうございます。交通費は出させてください」
 
美由紀と日香理も寄ってきて
「私も行く」と言ってくれた。
「ありがとう。交通費・宿泊費・食費は先生の分も含めて私が出すからね」
 
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美由紀と日香理が青葉の携帯を借りてそれぞれの母に連絡し、費用も青葉が出してくれるということも伝え、岩手行きを了承された。
 
「小松から仙台に飛ぶ便が25日再開なんですよ。それで長時間の旅になりますが、新幹線を乗り継いで頂けますか?」
「越後湯沢乗り換えね?」
「はい。《はくたか》から越後湯沢で《とき》、大宮で《やまびこ》に乗り継ぎになります」
「何時に出ればいい?」
「高岡を朝一番に出た場合で、仙台に12時半です」
「それで間に合う?」
「お通夜は夕方からですので」
「じゃ高岡駅6時集合で」
 
その後、青葉はしばらく教室にいて友人達と話し、コーラス部の練習にも行こうとしたのだが、コーラス部に顔を出すと部長さんが「絶対準備で忙しくなるはず。もう帰りなさい」と言ったので青葉も素直に帰ることにした。
 
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お昼前に帰宅してから、あちこちと再度連絡を取ったりこちらも身の回りの品を揃えたり、また現金を降ろしてきたりした。
 
最初の時点では仙台に集結してもらって、そこから大船渡へワゴン車でピストン輸送することを考えていたのだが、仙台空港が現在暫定運用中で定期便は7月25日にならないと再開しないことから、花巻空港を使う人が多かった。そこで新幹線で来る人も、仙台ではなく一ノ関または花巻まで来てもらって、そこから輸送する方針に切り替えた。
 
これの時刻を桃香が旅行代理店でバイトしている友人にも協力を求めて確定させ、青葉・朋子・桃香・千里の4人で来てくれる人全員に連絡した。
 
そんなことをしている内に高速バスが出る時刻になるので、まだ連絡の付いてない人への連絡は桃香と千里に任せ、青葉自身は朋子と共に21日の21:40の夜行バスに乗った。
 
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「青葉、今夜はぐっすり寝ておいたほうがいいよ」と母。
「うん、ありがとう」
 
翌日朝6:30に仙台に着く。休憩を兼ねてお茶を飲んだ後、千葉から出て来た桃香と千里が乗った新幹線と同じ列車に乗り、新花巻に移動する。
 
この花巻でレンタカー屋さんでエスティマ・ハイブリッドを2台借りる。最初1台は乗用車でもと言っていたのだが、桃香が「大は小を兼ねる」と主張したので、結局ミニバン2台にすることにした。
 
それで1台は朋子が運転して、青葉と桃香を乗せ、先に現地に入る。千里はもう1台で花巻空港に向かい、出雲から来てくれることになった直美夫妻を迎えて、その後、新花巻駅に戻って小坂先生達を拾ってから大船渡に向かうことにする。
 
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