【女子中学生・十三から娘】(8)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
さて、雅海が女子水着デビューすることになったのは、実は先週末の話し合いに基づいたものであった。
 
体育の広沢先生(女性)は、体育祭前の5月28日、体育祭予行練習が終わった後で雅海本人、体育委員の優美絵、そして最近雅海と随分親しくしている感じの沙苗を呼んで話し合った。
 
「祐川さん、あなた来週からの水泳の授業、どんな水着を着るつもり?」
「去年着た水着を着るつもりですが」
「去年どんなの着けてたっけ?」
「トランクス型です」
「まさか胸を曝す気?」
「えっと・・・いけませんかね」
「女の子が胸を曝したらいけないよ!」
「ぼく、男なんですが・・・」
「でも性転換手術したんでしょ?」
「えっと・・・」
 
「まさみちゃん、女子用スクール水着を着けなよ」
と沙苗が提案した。
 
「女子はみんなまさみちゃんが今年は女子用水着で参加するだろうと思ってるよ」
と優美絵。
 
「そんなの着けていいのかなあ。ぼく、胸も無いし」
「胸の無い子なら、けっこう居るから気にしない気にしない」
と沙苗。。
 
「**ちゃんとか、**ちゃんとか男みたいに胸が無いし」
「個人名あげるのはやめようよぉ」
 
「まあでもまさみちゃんが、まだ胸無くても誰も問題にしないよ」
と優美絵は言った。
 
「胸が無いなら女子用水着つけちゃいけないのなら、小学3年生以下の女子はトランクス型の水着を着けなければいけないことなる」
「そんな学校があったら校長が逮捕される」
 

この話し合いの後、広沢先生が、雅海・沙苗・優美絵の3人を自分の車に乗せて祐川家まで行き、お母さんと話し合って、雅海は水泳の授業で女子用水着を春ることが確定した。
 
「この子、セーラー服で通わせた方がいいでしょうか?」
とお母さんは広沢先生に訊いたが
 
「それはご本人がその気になった時でいいと思いますよ。水着の問題は緊急性があったので話し合わせてもらいました」
と広沢先生は笑顔で言った。
 
広沢先生が帰った後(優美絵は先生に送ってもらって帰宅した)、雅海と母は沙苗に付き添ってもらって、ジャスコまで行き、女子用スクール水着を購入した。
 
沙苗は最近、私、男の娘たちのガイド役になってるなあと思った。
 
(千里が男の娘とは認識されてないので、沙苗にこういう役が回ってくる)
 

水泳授業のあった翌日の6月2日、雅海がやはりワイシャツにズボンという姿で登校してくるので
「まさみちゃん、女子制服を着ればいいのに」
と男子からも女子からも言われた。でも本人は
「いや、ちょっと・・・」
と恥ずかしそうにしているだけであった。
 
でも、この日から雅海は男子トイレの使用を拒否されるようになった。
 
「女の子は男子トイレを使ってはいけません」
と言われて追い出される。
 
どうしよう?と困ってたら、恵香が声を掛けてくれて
「まさみちゃん、トイレ一緒に入ろ」
と言って、手を握って一緒に入ってくれた。
 
そして男子制服のまま列に並んだ。雅海は女子トイレの列に並ぶのは全然問題無い。前に並んでいた他のクラスの子も、特に変な顔をせずに普通にしているので、雅海は、いいのかなあと思いながらも並んでいた。むろん雅海が「女の子になっちゃった」という件は2年生の全女子が知っている。
 
それでこの後も雅海は男子制服を着ているのに女子トイレを使い、プールでは女子更衣室を使うということになってしまった。
 

6月4日(金)には身体測定が行われた。
 
先に女子が呼び出されので、沙苗や、やっと女子としての自覚が育ちつつあるセナも席を立つ。この時、雅海は何も考えずに席に座ったままだったのだが、女子保健委員の蓮菜が気付き
「雅海、何やってんの行くよ」
と言う。
 
「え?でも先に女子では」
「雅海は女子になったんだから、女子と一緒に身体測定も受けなきゃ」
「え〜?でもぼくの書類は男子の方に入っているのでは」
と雅海は言うが
 
「大丈夫、女子のほうに移しておいた」
と男子保健委員の増田君。
 
それで雅海は蓮菜と優美絵に両手を握られ、強制連行されて女子と一緒に身体測定を受けることになった。
 

みんな女子制服を着ている中、ひとりだけ男子制服を着たまま保健室に入る。雅海はいいのかなあと思いながら、他の女子と一緒にアウターを脱いで下着姿になる。下着姿になると、ブラジャーとパンティという状態だから、他の女子と一緒なので、よけい違和感が無い。それで雅海は服を脱いだ後のほうが心が穏やかになった。
 
雅海の書類は、(沢田)玖美子と(高山)世那の間に入れられている。雅海もわりと親しい子に隣り合うので、気楽だった。特に玖美子は色々雅海とおしゃべりしてくれて、随分緊張せずに済んだ。
 
ちなみに本当なら、玖美子の後には新田優美絵(しんでん・ゆみえ)が入るはずであった。しかし担任の吉永先生が、生徒名簿を作る時に、最初沢田玖美子と高山世那の間に新田優美絵が入っていたのを見て
 
「あれ?新田(にった)さんがこの位置に来たのは、パソコンのソートのバグかな」
 
などと言って、那倉絵梨と原田沙苗の間に手動で移動してしまったせいである。(どっちみち男の娘の隣!)
 
みんな順番がおかしいと思ったが、もうその番号で生徒手帳も作られてしまっているので“いいことにした”!それで吉永先生は未だに優美絵の苗字が本当は“しんでん”であることに気がついていない!
 

「でも女子はブラジャーは着けたままなんだね」
と雅海が言うと、後ろのセナが
「男子はシャツまで脱いでパンツだけになるもんね」
と言っている。
 
そのセナちゃんの胸が大きいのがまぶしい。セナちゃん、去年の夏頃はおっぱい無かったのに1年でこんなに大きくなるって凄いと思う。ぼくも沙苗ちゃんやセナちゃんみたいに女性ホルモンを飲んだほうがいいのかなあ、などと思った。
 
(その前にセーラー服で登校できるようになるべき。沙苗が千里にペニスの除去はまだにしようと言ったのは正解だった気がする)
 
(↑ほんとに除去されてなければいいね)
 
それで雅海は玖美子に続いて体重計に載り、保健室の清原先生が手元の表示ユニットに表示された数字49.8kgを記入する。そして身長計で身長を測定され、体育の広沢先生が読み取った数値163.8cmを読み上げ、清原先生が記入した。
 
終わったらすく服を着たが、玖美子が
 
「体重は読み上げられないのがいい所だよね」
と言っていた。
 
確かに女子はそれ気にするよね!男子だった時は(あれ?ぼく女子になっちゃったんだっけ??)そういうの全然気にしてなかったのに。
 
結局、セナが夏服セーラー服を身につけるのを待ち、玖美子・雅海・セナの3人で一緒に教室に戻った(玖美子は男の娘を引率している気分)。
 

クラス委員の上原君と恵香は、雅海が実質女子化してしまった件について話し合った。
 
「美化委員が2人とも女子になっちゃうけど、誰か他の男子を当てた方がいいかなあ」
「雅海ちゃんが、男子制服を着ている間は今のままでいいんじゃない?」
「確かに今祐川さんは、男子しか入れない場所にも、女子しか入れない場所にも入れる微妙な状態にあるし、当面様子見かな」
「時間の問題という気はするけどね」
「既に男子トイレからは追い出されてるし」
「ちんちん取っちゃったんだから男子トイレに入っても仕方ないよね」
 
「しかし原田(沙苗)さんといい、祐川(雅海)さんといい、どんどん男子が女子化していくなあ」
 
(セナは忘れられている)
 
「その内、男子全員女子になったりしてね」
「ぼくは女子になりたくないけど」
「でも上原君のセーラー服姿見たことある」
「あれは黒歴史にして〜」
 

ところで司(つかさ)だが、5月22-23(土日)に24時間限定の女の子ライフを送り、完璧に女の子をすることにハマってしまった。24時間性転換していた後遺症で少し体型が変わってしまい、腰の骨が女性的に変化してしまった。
 
それで男物のズボンが入らなくなってしまったので、普段着のズボンとしてレディスのジーンズパンツ、また通学用として“女子生徒用”の学生ズボンを貴子に買ってもらった。“女子用”を買ったことの意味に、司は当日は全く考えていなかった。
 

5月24日(月)、司が普通に新しい学生ズボンを穿いて学校に出て行く。1時間目と2時間目の間にトイレに行った。
 
司は普通に男子トイレに入った。そして小便器の前に立ち、排尿用の“ホース”を取り出そうとしたら・・・・。
 
取り出せなかったのである!!!
 
要するに、女子用のズボンというのは女子が穿く前提で作られており、女子には排尿用のホースは装備されていないので、ズボン自体に前開きはあるものの、そこからホースを取り出すという使い方は想定されていない。
 
女子用ズボンのファスナーは純粋に着脱のためのものなので、男子用のズボンほど大きくは開かない。それでホースは位置的にそこを通過できないのである。
 
司は仕方ないので、そのまま個室に飛び込んで用を達した。そしてこの日司は3時間目の後にトイレに行った時も個室を使ったので
「福川君、お腹の調子が悪いの?」
などとクラスメイトに言われた。
 

昼休みに司は貴子に電話をした。
 
「小便器が使えない??」
「女子用のズボンって、ちんちんを通せる仕様にはなってないみたいです」
「個室で座ってすれば、別に問題無いんじゃない?」
「友だちから変に思われますぅ〜」
 
↑女の子口調になっていることに気付いていない。
 
「トイレは女の子方式にしちゃえばいいのに。でもそれ何とかするから今日は個室の使用で乗り切って」
「分かりました」
 
それで貴子は夕方留萌まで来てくれた。そして部活をしている間に、司が穿いていた学生ズボンを、お裁縫で改造して男性用の長いファスナーに交換しくれたのである。
 
「ありがとうございます!」
「明日、残りの学生ズボンも持って来て。改造してあげるから」
「お願いします」
「司ちゃんを女の子仕様のズボンで問題無いように改造してもいいけど」
「・・・・・」
「どっちを改造する?身体を改造する?ズボンを改造する?」
「すみません。ズボン側の改造で」
「欲が無いね」
 
それで貴子は5月25日(火)には残りの女子用学生ズボンを男子でも穿けるように改造してくれた。それで司は普通に小便器を使えるようになったのである。
 
「本当にありがとうございました」
 
(普段着のジーンズのパンツのことは何も考えていない)
 

「そうだ。よかったら君の苗字を教えて」
「・・・・福川です」
 
生徒手帳を見せたので、貴子さんはメモしていた。
「じゃこれ渡しておくね」
と言って貴子さんは
 
《お引き換え券 375》
 
と書かれた紙をくれた。
「何ですか?」
「今月中にはできるということだったから。じゃね」
 
それで貴子さんは帰って行ったが、何だろうと思った。
 

そして5月31日(代休).
 
司の携帯に電話があったのである。
「**衣料・留萌ジャスコ店でございます。福川様、ご注文頂いておりました夏服ができましたので、いつでもお引き取りにおいでくださいませ」
 
「夏服?」
 
「はい。先週の日曜日にご注文を頂いた分です。代金は・・・あ。もう頂いてますね。お引き取りだけお願いします。予約の際のお引き換え券をお持ち下さい」
 
「はい・・・」
 
それで司は(念のため)中性的な格好をしてジャスコまで行ってみた。
 
お引き換え券というのは、多分貴子さんが渡してくれた紙だろうと想像がついたが、何を頼んでくれたのだろう?と思う。
 
店頭で引換券を渡すと、交換で渡されたのは、S中の夏服セーラー服である!
 
あはははは。やはり。
 
「試着なさいますか」
「そうてすね」
 
それで夏服セーラー服を試着室で試着してみた。
 
ピッタリサイズである。鏡に映してみると可愛い!
 
試着室から出ると、スタッフさんがあちこち触って
「問題無いようですね。胸にはまだゆとりがあるから、卒業までにバストが急成長しても大丈夫ですよ」
「そうですね」
 
「では冬服の方は、9月にお渡ししますので、こちらがその控え券です」
と言って、別の引換券を渡された。
 
もしかして女子制服の冬服も注文されている???
 
「急な転校で大変でしたね。またよろしく」
「あ、はい。ありがとうございます」
 
そうか!こんな時期に制服を注文するって、それふつう、転校生だよね。あれ?転校したら女の子になっちゃったとかいう映画あった???
(↑かなりストーリーを誤解している)
 

その晩、受け取ってきた夏服セーラー服の上下を鴨居に掛けて
 
「明日からこれ着て学校行ったらダメだよね〜」
と悩むのであった(←もう完全に後戻りできなくなってる)。
 

6月6日(日)、今年もバスケット・フェアが開かれた。
 
この大会は、伝統的に「強い人は出ない」習慣になっており、R中などは1軍ベンチに入れない選手で2軍を編成して出場している。S中も男子はそういう編成にしたのだが、女子ではそもそも部員数が千里を入れても9人しかおらず2軍編成以前に1軍も定員(12名)に達していない。
 
それで千里・留実子・雪子という“フェアに馴染まない”強すぎるプレイヤーを除く、残り6人で出ることにした。
 
3年 PG.柴田久子 SG.松村友子
2年 PF.中谷数子
1年 SG.平井雅代 SF.道城泰子 PF.坂田伸代
 
交代要員が1人しか居ない!それで体力の無い友子を他のメンバーが休むための短期交替要員として使って運用した。出ない3人については、留実子は応援団の活動に行き、千里は最近全く顔を見せないのでいいことにし、雪子が監督!を務めることになった。
 
「私、1年生なのに〜」
「いや、君がゲームの組み立てに関しては最も的確に把握している」
 
でも頑張って監督の仕事をこなしていたようである。
 

大会は1回戦ではN中の男女混成チームに僅差で勝ったものの、2回戦でR中2軍に大差で敗退して、そこで消えた。
 
「R中は2軍でもこんなに強いのか」
「向こうは結構自信持ったかもしれない」
 
交流戦で遠別町の高校生チームとやり、これもダブルスコアで負けたが、やはり高校生とは身体能力が違いすぎて勝負にならなかった。
 
でも参加した6人にとっては良い汗が流せて気持ち良かったようである。
 

千里Bは5月14日に校内マラソン大会に出た(本当は途中で消えたので残りはGがBの振りをして走ったが小春たちは気付いていない)あと全く出現せず、本当に消えたのかもしれないと小春やカノ子は話していた。千里は女子バスケット部にも全く姿を見せていない。(千里は元々バスケ部をサボりがちである)。数学の授業もずっとYが出ている。Q神社の方も休んでいる。
 
「ひょっとしたらとうとう千里がひとつに統合される前兆なのかも」
「取り敢えず3つに別れていたのが2つにまとまるのかなあ」
「エネルギーの励起状態が収まってきた可能性はあるよね」
 
2003.04.09 千里の身体が4つになる (C1/C2/C1p/Cd) (*20)
2003.04.10 千里の身体が強引に1つに合体させられる
2003.04.14 この頃から6種類の千里が見られるようになる(RBY/PAL)
2003.07 この頃から千里P(Pink = White on Red) は見なくなる
2003.12 この頃には千里L(Lemon = White on Yellow) も見なくなる
2004.04.05 現時点ての千里A(Aqua = White on Blue)の最終出現日
2004.05.14 現時点での千里Bの最終出現日
 
つまりこの時点で千里Bは3週間出現していないのである。
 
(*20) C1(B)/C2(R)は、A大神が千里を二重化したもので、どちらもオリジナル。但しC1(B)は卵巣を津気子に返したので卵巣が無い。C1pは、P大神がC1をコピー(coPy)したもの。その後K(小春)と合体しC1p+k(Y)となる。Cd(W)はQ大神が千里をクローンして作った「お人形」(Doll). 肉体だけで魂が無い。魂が無いので、Red/Blue/Yellow の誰かが“中に入って”動かしている。これをPink/Aqua/Lemon と称するが、意識はRed/Blue/Yellowの意識が継続する。
 
Red/Blue/Yellow は小春が3人の千里を識別しやすいようにするため渡した髪ゴムの色に由来する。White (Pink/Aqua/Lemon) は3人とも白い髪ゴムを付けている。4種類の千里には、髪ゴムと同じ色の腕時計、スポーツバッグ、なども渡している。またYが黄色い携帯、Rが赤い携帯を使っている(BとWは携帯を持たない)。
 
Green/Violet は、装う千里と同じ色の髪ゴムを付けて小春たちの目を誤魔化している。
 

6月7日(月)。沙苗はこの日、学校を休んで両親とともに札幌のS医大に行った。実は2回目の生理が来たのである。
 
「間違いなく月経です。考えにくいことですが、沙苗さんの体内に姿を現した小さな卵巣・子宮がこれを起こしているとしか考えられません。ただひとつ気をつけてほしいのですが」
「はい」
 
「月経が起きているということは妊娠も可能だと思いますが、こんな小さな子宮で妊娠したら、命に関わります。絶対妊娠しないように気をつけてください」
「分かりました」
 
「でもこのあとどうしますか?」
と医師が訊いたのに対して、沙苗の父は
「家族で話し合いました」
と言って、こちらの希望を述べた。
 
医師は頷き、その方向で診断書を書いてくれた。そして沙苗と両親はその後紹介してもらった弁護士さんの所に行き、裁判所に提出する書類を書いてもらった。そのまま弁護士さんの手で旭川家庭裁判所に提出してもらう。
 

沙苗に1日遅れて、6月8日、セナは2度目の生理が来たが、数日前からお腹が痛かったので、そろそろ来るかなと思ってナプキンを付けて寝ていた。それで生理が来ても全く問題無く普通に処理した。
 
特に今回は千里と玖美子のお勧めで、生理用ショーツも買って穿いていたのだ、漏れたりする不安が全く無かった。
 
「生理ってちょっと辛いけど、女の子になったというのを実感できるなあ」
とセナは思った。
 

セナは千里から「性別訂正届け」という用紙を渡された。
 
「これに署名捺印して、セナは未成年だから保護者の印鑑ももらってきて。私が出しといてあげるから」
「ありがとう」
 
それでセナは千里から渡された性別訂正届けに記入した。
 
性別訂正届
旭川家庭裁判所御中
平成16年6月9日
 
氏名 高山世那
生年月日 平成3年3月21日
本籍地 留萌市**町**番地
戸籍筆頭者:高山右京
 
性別が誤っていたので正しい性別を届出ます。
 
訂正前性別:男(長男)
訂正後性別:女(二女)
 
名前を同時に変更する場合は下記に記入して下さい。
 
v名前は変更しない
旧氏名:
新氏名:
 
保護者氏名
 

それで母に
「性別訂正届け出したいから、保護者氏名と印鑑お願い」
と言った。
 
母は(ジョークと思っているので)
「OKOK」
と言って、保護者氏名の所に父の名前を書き印鑑を押してくれた。
 
セナはそれを千里に渡した。千里は「じゃ出しておくね」と言った。
 

3月下旬に出した松原珠妃の2枚目のシングル『哀しい峠』があまりにも売れなかったため(内部統計では実は78枚!100枚にも到達していない)、普正堂行社長は極めて不機嫌であった。
 
しかし5月28日の誕生日記念企画で出した『17歳』は、珠妃の可愛さ、『黒潮』のコンビ、ピコとのダブルビキニの競演もあって、ほどほどに売れ、社長も少しだけ機嫌が良くなった。そこでそのタイミングを狙って話を持ちかけた。
 
「★★レコードから、珠妃に今度はポップスを歌わせたいという話があって、森山勝治先生作曲の『ウルトラ・レイン・ナイト』という曲を提示して頂いたのですが、社長見て頂けませんか?」
 
「ポップス?ありえん。松原珠妃は立派な演歌歌手になる。僕の目に狂いは無い。『悲しい峠』だって、絶対その内売れるから。演歌って売れ出すまでに時間がかかることはよくあるんだよ。『江ノ島恋の渚』とカップリングしたプロモーション版とか作って再度ラジオ局とかに配ってくれない?」
と普正社長は言う。
 
「分かりました。それは手配いたします(手配する気は無い)。それともう1件、夏になる前に『黒潮』をハワイアン風にアレンジしたものを歌ってもらえないかという話が実は、スパリゾートハワイアンズ(旧:常磐ハワイアンセンター)から来ているんですよ。制作しても構いませんか?」
 
「ああ。CM曲?そのくらいはいいよ」
「カップリング曲には、オリジナルのハワイアン風の曲を入れたいという意向なのですが、構いませんか?」
「いいよ。それは任せる」
「ありがとうございます」
 
このようにして、青嶋宣代と★★レコードの加藤銀河による、“巻き返し作戦”は徐々に進行していくのである。
 

青嶋は珠妃を連れて、加藤とともに本当にスパリゾート・ハワイアンズに行き、そちらの営業担当さんと打ち合わせた。向こうは、歌謡史上に残る大ヒット曲『黒潮』(「およげ!たいやきくん」に次ぐ歴代2位)の歌手に歌ってもらえるというので、満面の笑顔だった。
 
話は簡単にまとまる。下記の曲を制作することになった。
 
『ハワイアン黒潮』(short version:CMに使用)
『ハワイアン黒潮』(Full Version)
『ハワイアン・ラブソング』(春野小川作詞・佐倉彩太作曲)
 
春野小川・佐倉彩太(春の小川・桜咲いた)というのは、実は、ゆきみすず・すずくりこペアの変名である。両先生は、松原珠妃の再生計画に賛同してくださり変名で曲を提供してくださった。通常のペンネームを使うと、そんな有名な先生を使うのは、と社長から叱られるので、無名の作家の作品を使用したかのような体裁にしたのである。
 
基本的には、このCDは一応JASRAC番号も取るものの、スパリゾートハワイアンズおよび、そこのチケットを扱っている旅行代理店などに置いてもらう方向で進める。つまりこのシングルは、CD統計には載らないことになる。青嶋と加藤としては、再生計画第2段のための環境作りにこのCDを活用しようという魂胆なのである。
 
(変則的な売り方なので、実は事務所やレコード会社の取り分も大きい!)
 
演奏は通常の松原珠妃のバックバンド"Show-Row"(松露)がおこなう。このバンドは結成した時からかなりメンバーが入れ替わっている。特にこの3月には大半のメンバー(冬子を含む)が退任し、それ以前から残っていたのは、ドラムスの北山さんだけである(唯一のオリジナルメンバーで井瀬さんに代わる2代目リーダーになっている)。ギターはまだ大学生の相馬晃(後ラッキーブロッサムに参加)、ヴァイオリンは、増威スマという人(もはや何代目のヴァイオリニストなのか青嶋にも分からない)、サックスも宝珠七星が参加していた。
 
今回の制作では、結局音楽的な理論に強い、宝珠七星が主導して音源の制作が行われた。女性が主導しただけあり、17歳になったばかりの珠妃の可愛さをよく引き出す作りになった。
 

6月10日(木).
 
灰麗は人生2度目の生理が来た。この日は宇和島市の民宿に居た。民宿の女将さんに「生理が来たので落ち着くまで3日ほど滞在したい」と言うと「ゆっくり休んでいくといいよ」と言ってくれた。
 
灰麗は女になって以来、女同士の助け合いの情のようなものを感じることが多い。
 
女性の歩きお遍路は少ないので随分いろいろ助けてもらっている。もっとも灰麗の年齢で歩きお遍路をしていると
 
「旦那さんが亡くなったの?こんな殊勝な奧さん持ったら、きっと旦那さん、極楽浄土に往生するのは間違い無いよ。あんた自身にもいい出会いがあるといいね」
などと言われたりする。
 
高岡さん夫妻がほんとに極楽浄土に行けたらいいなとは思うが、さすがに自分の出会いは無いなと思う。そもそも私、戸籍上は男だから、男性と結婚できないし。あまり美人じゃないから愛人の口とかも無さそうだし。
 
(美人じゃない方が比較的まともな男が寄ってくることを灰麗は認識していない)
 
しかし私にあからさまに「セックスしない?」と誘ってくる男たちは、うざいな。こんな彼岸(ひがん)の地でセックス求めるとか、あいつら去勢してやりたいよ。
 
その灰麗の思考に頷いている“幽霊”があることに灰麗は気付かなかった。
 
この年は、この彼岸の地で性欲を滅却した男たちが何人も居たという風の噂もあったらしい!?
 

しかし札所も約半分まで来ているし、距離でも約660km、半分ほど来ている。40日ほどでここまで来たということは、残り40日くらい、まあ7月末までには大窪寺(おおくぼじ)まで辿り着けるかもしれないなあと灰麗は思った。
 
生きてたら!!
 
取り敢えず、昔のお遍路さんが大量に行き倒れ死した歯長峠を、生理が終わったら越えることになる。
 

6月12-13日(土日)、千里Rはいつものように旭川に出て、きーちゃんから笛・ピアノのレッスンを受け、そして越智さんから剣道の手ほどきを受けた。
 
きーちゃんが櫃美の様子を見たいというので、千里はきーちゃんを“海”に吸収した。
 
中に入ってみて、きーちゃんは驚いた。
 
なんて気持ちのいい空間なのだろう。ほんとにここに数時間居るだけで疲れくらいどんどん回復しそう。ここに“住みたい”くらいだ。
 
櫃美は眠っているが、右の羽根(腕?)以外はもう復活しているので、凄いと思った。ここの環境が、再生能力を高めるのだろう。
 
でも千里ってほんとに人間なの??
 
きーちゃんは、そういう根本的なことに疑問を感じた。
 
でも、瞬嶽は会ったことないけど、羽衣とか、そこまで行かなくても紫微や歓喜だって、本当に人間なのか疑問を感じるけどね。
 
きーちゃんは歓喜が人間を500人も殺した龍を一撃で倒した現場を見たことがある。そうだ。あの時現場には、紹嵐光龍ほか数名の龍も居た(彼らはその悪事には関わっていない。見ていただけである。止めもせずに!)。しかし歓喜がギロリと彼らを睨むと、皆、緊張した顔をしていた。そしてその後しばらく紹嵐光龍は虚空を困らせたりせずにおとなしくしていた。でもあれほどの力を持つ歓喜や、そのよきライバルかつ親友てある紫微(後の“ひまわり女子高2年A組16番白雪ユメ子”)も、羽衣には遠く及ばない。
 
(このことがあったので、こうちゃんは実は歓喜が恐い。こうちゃんが怖がっているのは歓喜と虚空くらいだったのだが、今年中にもう1人恐い人ができることになる。彼は更に7年後には、瞬嶽を見て、心底震え上がった)
 
千里はひょっとしたら、紫微や歓喜クラスに近いパワーを持つ所くらいまでは成長するかもしれない気がした。
 
それで、きーちゃんは確信した。
 
この子ならきっと12人もの眷属を制御できる。ただ、こうちゃんが勝手なことをしないように注意しておかなくちゃ。
 

6月12日(土).
 
中体連野球の夏大会、留萌地区予選が始まった。参加校は8校で、この日は1回戦の4試合が行われる。S中はM中と対戦したが、どちらも決定打が出ず0対0の緊迫したゲームが続いていた。
 
7回(最終回)表、M中はデッドボールとエラーで1アウト13塁という絶好の勝ち越しチャンスを得る。バッターはM中の4番バッターである。
 
2ボール1ストライクから、S中エース野中の投球が少し逸れたのを6回からマスクをかぶっていた2年生キャッチャーの福川が飛び付くようにして何とか抑えた。それを見てM中の1塁走者が飛び出す。福川は全力で2塁に送球した。
 
それを見て3塁走者が猛烈にホームに向かって突進する。
 
が、
 
実は福川の送球は“ふり”だけだった。
 
いかにも全力で送球したかのように見えたのだが、ボールは実際には投げずに持っていたので、そのまま3塁走者にタッチの態勢である。慌てて3塁走者が引き返す。福川は冷静に追いかけ、走者が三塁手の近くまで行った所で三塁手にボールをトスする。結局、走者は三本間に挟まれタッチアウトとなる。
 

2アウト2塁に変わる。
 
バッターのカウントは3ボール1ストライクである。
 
セットポジションから外角ギリギリへの投球を見送るがストライクの判定。バッターが思わず「わぁ」という顔をする。しかし福川は捕球した次の瞬間、矢のようなボールを2塁に投げた。2アウトでもあるので、1打出れば一気にホームに帰還しようと離塁の大きかった走者は2塁に戻れずタッチアウト。
 
スリーアウトで、S中はピンチを脱した。
 

試合はその裏、エース野中自身のホームランが出て、劇的なサヨナラ勝ちを収め、準決勝に進出した。ヒーローとなった野中がみんなから祝福され叩かれているのを見て福川は微笑んでいた。むろん福川も彼のお尻を叩いた!
 

翌日6月13日は準決勝で春の大会で準優勝しているH中と対戦する。福川は控えキャッチャーなので、ブルペンで控え投手で2年生の前川君のボールを受けていた。5回、ヒットで出た正捕手の横井さんが1塁に走り込んだ時に、足首を痛めたようである。福川は代走を命じられて出て行く。
 
次のバッターがバントで福川は2塁に進む。そして次の野中の打球が三遊間を抜けて外野に転がる。福川は必死で走った。
 
三塁を最小半径で駈け抜けホームに向かう。福川が身体が凄く軽くて、また、足腰がしっかり地面を蹴ってくれるのを感じていた。
 
向こうのキャッチャーがホームをブロックするかのように立っている。送球が来る。が少し逸れる。それを見て福川はその反対側に向い、手を伸ばすようにしてベースタッチ。ボールもタッチされたが、ベースタッチの方が僅かに早かったという判定でセーフ。
 
貴重な1点を取った。
 
その後、福川は6〜7回の守備でエース野中のボールを受けたが、6回には2塁走者を刺し、7回には1塁走者を刺したし、また次の打者のヒットで本塁に突入してきた走者をタッチアウトにして、相手の得点を阻んだ。
 
結局この試合も1対0で勝ち、S中は決勝に進出した。S中の決勝進出は3年ぶりの快挙であった。
 
試合終了後、福川は強飯監督から言われた。
「福川君、肩の調子がいいみたいだね」
「あ、そうなんですよ。理由は分からないんですが、肩がよく動くようになって」
「へー。元々君ってピッチャーだったんでしょ?」
「はい。でも肩を痛めてキャッチャーに回ったから」
「そのまま調子いいといいね」
「はい」
 
「でもさすが元ピッチャーだよ。送球が凄い速いし正確だもん」
「それも肩の調子がいいから全力で投げられる感じで」
「じゃ無理しないようにだけしてね」
「はい、ありがとうございます」
 
一度女の身体に改造されて、再度男の身体に戻された副作用?で肩の故障も治ったんだったりしてね、などと司は思った。女の身体になっていた間は肩の付近の形からして変わっていたし。
 
走塁にしても腰が大きくなったおかげで凄く安定して走れるのである。
 
でも副作用というと、乳首が大きくなったままなんだけど、どうしよう!?先週の水泳の授業は風邪気味ということにして休んだけど。ずっと休む訳にもいかないし!貴子さんに連絡すると、もっとおっぱいを大きくされてしまいそうな気がするし(←正解!)
 

千里Bが1ヶ月以上出現しないので、Bはやはり消滅したのではないかと小春たちは考え、B消失後の“後始末”について方針を検討し始めていた。
 
基本的には
 
・貴司とは別れる
・女子バスケット部は退部する
・Q神社のバイトはやめる
 
という方針を考えて、夏休みに入る頃に実行する方向で計画を練っていた。実際には貴司君と別れたら、その後の2件はわりとスムースに行きそうである。誰か適当な子に千里の振りをさせて貴司に別れ話をするという線で、千里役を誰にさせるか検討していた。
 

6月15日(火).
 
この日は監督さんが出張のため野球部の練習はお休みであった。司が教室の掃除を終えて帰ろうとしていたら
「司ちゃん」
と呼ぶ声がある。
 
「ちょっと付き合わない?」
と司に呼びかけているのは、村山さんである。タクシーを停めているようだ。
 
「どこか行くの?」
「秘密の相談」
 
まあ彼女ならいいかなと思い、司はタクシーに乗り込んだ(←学習能力が無い)。
 

タクシーは留萌の市街地を抜け、増毛方面に少し行った所にある古ぼけた病院?で停まる。
「ここは?」
「3年前までは病院だったんだけど廃業したんだよ。私の親戚の所有物件」
「へー」
 
それで司は千里に案内されて中に入った。
 
「司ちゃん、男の子みたいな格好やめて女の子の服を着なよ」
「・・・今日は持って来てない」
「じゃ適当なの貸してあげるよ」
と言って村山さんは奥の部屋からワンピースを持って来てくれたので、司は素直にそれに着替えた。
 
司が女の子下着を着けていたので千里は頷いていた。(部活が無いのをいいことに女物を着て来ていた)
 
ちなみに、司が入ってきた時、奥の部屋に居た人物は「うっそー!?」という顔をしていた。この子、千里の友だちだったの〜?
 

千里は、紅茶を入れてクッキーを勧めた。
 
「ありがとう」
と言って紅茶に砂糖とミルクを入れ飲む。クッキーを摘まむ。あれ?このクッキー、最近どこかで食べたのと同じ味だ、と思ったが、どこだったか思い出せなかった。
 
「司ちゃん、女の子になりたがってるみたいだから、何かお手伝いしてあげられないかなあと思って」
と千里は言う。
 
そういえば村山さんって、元は男の子だったという噂もあるけどまさかね。
 
「そんなこと全然考えたこともなかったんだけど、最近急にそういう気持ちが強くなっちゃって。今スカートが10枚くらいあるし、女の子用のショーツも15枚近くあるんだよ。実はブラジャー着ける練習とかもしてる、まだうまく着けられないけど」
 
夏服セーラー服もゲットしてしまったことまでは(恥ずかしかったので)話さなかった。
 
「ああ、ブラジャーは、おばちゃんたちは前でホックを填めて180度回転してから肩紐掛けるけど、あれはよくない。ちゃんと後ろ手で留められるようにならなくちゃね」
 
「180度回転!そうか、そういう方法があったのか!」
「司ちゃゃんのお母さんとか、そういう着け方しない?」
「お母ちゃんはぼくの前で下着つけたりはしない」
「へー。偉いね。うちのお母ちゃんは私や妹の前でやってるけど」
「それは女の子だから気を許してるんだと思うよ。うち男ばかりだもん」
 

「兄弟は男ばかり?」
「男4人なんだよね〜。女の子が欲しかったみたいだけど、男が4人続いたところで諦めたみたい」
「ありがちありがち。だったら司ちゃんが娘になったら、きっと御両親喜ぶよ」
「そうかなあ」
「女物の服の洗濯とかどうしてるの?」
「自分の部屋に干して、朝出かける前に自分で取り入れる」
「それ絶対お母さんにはバレてる」
「バレてるかもしれない気はする」
 

千里は
「ここから先は夢です」
と宣言した。
 
司はどういう意味だろう?と訝っている。
 
「ねえ。女の子になりたい気持ちがあるなら、睾丸取っちゃわない?」
と千里は言った。
 
「睾丸か・・・」
 
「だって、睾丸が付いてたらどんどん男っぽくなっちゃうよ。20歳くらいになってから女になりたいと思っても、既に男の骨格ができあがってしまってる。今睾丸を取っておけば、後から女になりたいと思ったら女性ホルモン飲めばいいし、後から男になりたいと思ったら男性ホルモン飲めばいい」
 
「つまり性別分化を保留しちゃうのか」
「そうそう。13歳はその保留をする最後のチャンス」
 
司はしばらく考えていた。
 
「あのさ。とても信じてくれないかもしれないけど、ここだけの話」
 
と言って、司は先日、旭川で不思議な女の人に出会い、完全な女の子に変えてもらったこと、でも自分が男に戻りたいと言ったら男に戻してくれたことを語った。千里はじっと話しを聞いていたが、チラッと奥の部屋に居る人物を見る。
 
その人物が困ったような顔をしている。
 
なるほどねー。
 
世の中親切な人が多すぎる!
 

「じゃせっかく女の子になれたのに、男に戻っちゃったんだ?」
「惜しい気はしたけどね。原田さんなんか見てると、ぼくにはとても社会的な性別の壁を越える自信が無い」
 
「確かに壁を越えるのは大変かもね」
「でしょ?」
 
「じゃ一応男になって、趣味で女装する線?」
「そういう生き方になるかも。ぼく完全な男にはなれない気がする」
「でもそれきっとその内、女になりたくなるよ」
「そうかもしれないけど、ぼくは今女になる道も、性別を保留しておく道も取る勇気が無いから。男の身体が完成してしまうのは仕方ないと思う」
 
「ああ。るみちゃんなんかと似た路線かな」
「彼女はぼくなんかよりずっと性別を変えたがってるよね」
「あの子はきっと高校くらい卒業したら性転換して男になるだろうね」
 
司は留実子と同じクラスである。
 
「でもぼくは男として生きていく道を選ぼうと思う」
「じゃ仕方ないか」
と言って、千里Gは司の睾丸を取ってあげるのはやめることにした。奥の部屋にいる、きーちゃんも頷いている。
 

「そうだ。それでちょっと相談があるんだけど」
「何?女性ホルモンを入手したいなら、買える所、教えてあげるよ」
「それは少し興味があるけど、それよりこれ見てくれない?」
と言って、司はワンピースを脱いで、ブラ付きキャミソールも脱いだ。
 
「こないだ一度女の子にしてもらった副作用だと思うんだけど、乳首が大きくなったままで、これだと水泳の授業に出られなくて」
 
「うーん・・・」
「何かうまい手が無いかなあ」
「女子用スクール水着を着たら?」
「え〜〜〜!?」
「そしたら乳首は隠せるよ」
 
「女子用スクール水着で水泳の授業受けるなんて恥ずかしいよぉ」
「軟弱な」
と千里は言ったが、チラリと、きーちゃんを見る。頷いている。
 
「それ何とかしてあげるから、今夜はここに泊まらない?」
「女の子の家に泊まったりしたら変に誤解されるよ」
「女同士だから問題無いと思うけどなあ」
と千里は言ったが、きーちゃんと素早く交信する。
 
「じゃ今夜は身代わりさんを司ちゃんの家には帰宅させるから」
「身代わり〜〜!?」
「ボロが出ないように、御飯食べたらすぐ寝てしまうように言っておく」
「でもそんな身代わりとか用意できるんだ?」
「これは夢の中のできごとだからね」
「へー」
 
「だから今日は御飯食べてここで寝なよ。朝起きたら乳首は小さくなってると思う」
「ほんと?」
「ついでに睾丸を取りたければ取ってあげるけど」
「取りたい気持ちはあるけどパスで」
 
千里はきーちゃんを見る。何だか焦ってる感じなのは何だろうと思ったが、処理してくれるようだ。
 

「じゃ御飯食べよう」
と言って、千里は台所から、唐揚げがたくさんできているのを持って来た。
 
「美味しそう!」
「御飯とお味噌汁もよそうね」
 
それで司はこの唐揚げをたくさん食べて満腹した。司の記憶はそこで途切れている。
 

朝目が覚めたら自分の家の自分の部屋に寝ていた。胸を触ってみると乳首が小さくなっていたので「助かったぁ」と思った。ちょっと惜しいけどね!
 
でもそれで布団から出て、ふと机の上を見たら、女子用スクール水着が置かれているのでギョッとした。
 
ぼく・・・女の子の服の隠し場所がもう無いよぉ。どうしよう?
 

6月16日(水).
 
沙苗は母と2人で旭川に出て、家庭裁判所で面談を受けた。面談は沙苗ひとりで母の見ていない所で受けた上で、母もその後でいくつかの質問をされた。
 

6月19日(土).
 
中体連野球留萌地区大会。S中はR中との決勝戦に臨んだが、エース野中はR中の強力打線に打ち込まれ、4回までに18-0の大差となる。決勝戦なのでコールドにはならないが、野中の投球数が多すぎるので5回から2年生の前川がマウンドに立ち、捕手も福川に交替した。
 
ストレート主体で時折カーブを混ぜる投球の野中に対して、前川は変化球主体のピッチングである。ボールにスピードが無いので簡単に打ち崩せそうなのにR中打線はこの変化球にやられて全くミートできずに凡打を重ねていく。
 
もっとも前川の投球は、全然要求した所に来ない(本人もどこに行くか分からない)ので福川は彼のボールを捕球するのが大変である。振り逃げになりかけたのもあったが、ギリギリ送球が間に合い、アウトにできた。
 
バッターの打ち損ないがあそこに当たってしまったこともあった。
 
さすがに痛いので一瞬倒れるが、すぐに起き上がって、転がっているボールを拾いピッチャーに返す。
 
「君大丈夫?」
とアンパイアから心配される。
 
「はい。大丈夫です」
「いやあそこに当たった気がしたから」
「当たりましたけど、ぼくのタマタマは鉄製なので平気です」
と福川が言うと
「それは凄いね。走塁の時、重くない?」
「キン力(きんりょく)トレーニングです」
と言うと、アンパイアさんも心配して寄ってきていた1塁手の小林君も笑っていた。
 
司は、ぼくの睾丸一度無くなって再生したから丈夫になったのかも、と思っていた。
 

結局この試合の後半は、福川の好リードもあり、R中はひとりも走者を出すことができず、9者凡退となる(この3回だけなら完全試合!)。
 
9者の内訳は、内野ゴロ5、外野フライ3で、三振は振り逃げ失敗になった1つだけである。前川はスピードボールが無いので、ビシッと三振を取るようなピッチャーではない。
 
そういう訳で後半完全に抑えられたので、18-0の大差で試合には勝ったもののR中ベンチはお葬式ムードだった。
 
「あれきっと試合が終わったら監督から殴られるよ」
「そんな気がする。可哀想」
「熱血監督だからなあ」
「うちみたいに、いつもニコニコしてるだけって監督さんはレアだよね〜」
「そうそう。名前は強飯(こわい)だけど、優しい監督」
 
そういう訳で、S中は今大会は地区準優勝となったのである。
 

2004年6月21-23日(月火水)には、1学期の期末テストが行われた。このテストの期間中もBは出現しなかったので、数学の試験はYが受けた。
 
Yは中間テストでは60点しか取れなかったのだが、今回は75点取ることができて
 
「中間の時よりは改善してる」
 
と数学の緒方先生から褒められた。
 
Yは花絵さんから渡されている算数ドリルが、とうとう小学6年生のところまで辿り付き
 
「君は私が思っていたのよりも速く算数ができるようになってきた。偉い。やはり君はできる子だったんだよ」
と言われていた。
 
実を言うと、Yと同じ問題をVもずっとやっているので、YとVの学習効果が相乗効果を出し、倍の量の練習問題をしているような状態になっているのもあったのである。
 
(RとGはまだ小学4年生の問題をやっている。でもRとGもやっと繰り上がり・繰り下がりの意味を理解したし、九九は間違えずに言えるようになった:玲羅はまだ九九が怪しい。「さぶろく・じゅうろく」などと言っている)
 

6月25日(金).
 
貴司がバスケ部の練習でメイン体育館に出て行くと、先に剣道部に来ていた千里(千里R)が道着のまま寄ってきて
 
「クッキー焼いたからあげる」
と言って、ビニールの包みに入れてリボンまで付けたクッキーを渡した。
 
「おぉぉぉぉ!!」
と言って貴司が凄く喜んでいるので、男の子って可愛い、と千里Rは思った。
 
「ついでにハッピーバースデイ」
「サンキュ、サンキュ」
 
それで千里Rは貴司と握手だけして剣道部の方に戻った。(例によって周囲からは「キスキスキス」という声があったがスルーした!)
 

様子を見ていた小春とカノ子は顔を見合わせた。
 
「貴司君と別れるという件は保留しようか」
「Rが貴司君のこと好きになってしまったみたい」
「Bがもし復活したら三角関係になるよ」
「貴司君は元々二股・三股しやすい性格」
「当面放置するか」
 
ということで、結果的に“B消失の後始末”についても取り敢えず保留することにした。
 

7月2日(金)にはS中で球技大会が開かれた。1組女子はこのような種目に振り分けた。
 
Basket 恵香・萌花・絵梨・佐奈恵・美都
Tennis 世那・沙苗
PingPong 優美絵・千里
Softball 蓮菜・玖美子・雅海・穂花・小春
 
男の子なのか女の子なのかよく分からない雅海は、男女混合チームで出場するソフトに出すことになった。男子5人・女子4人・性別不明1人というチームである(性別以前に人間ではない子が混じっている気もするが)。
 
昨年、優美絵と千里のペアはテニスに出場してあっさり負けたのだが、今年は卓球に出た。しかし元々この2人は小学校の時の卓球の最弱ペアなので今回は実質1ポイントも取れないストレート負け(11-1, 11-1, 11-1. (*21) )を喫した。
 
(*21) "1"は「ラブゲーム回避」でもらった点数。卓球では「相手が0点のゲームをするのは失礼である」として、10-0になった時点でわざとミスして相手に1点だけポイントを与える習慣がある。但し「勝負事でそういうことをすること自体が相手を馬鹿にしたプレイであり、最後まで全力でプレイすることこそマナー」という考え方もあり、近年は「ラブゲーム回避」を敢えてしない選手も増えてきたし、ラブゲームをしても非難されることは少なくなりつつある。
 

この球技大会は基本的には「部活でやっている種目には出ない」という方針である。セナは小学4年生の時にテニス部だったので微妙だったが、3年半もブランクがあるならいいだろうということで出すことにした。
 
「え〜?テニスなの?私、4年生の時にテニス部やってたよ」
と本人も言ったのだが
 
「セナ君、スコート穿きたいでしょ?テニスに出るならスコート穿けるよ」
というので落ちた!
 
沙苗はショートパンツで出場し
「スコート穿けばいいのに」
と言われていた。
 
でもこの“男の娘ペア”は(むろん女子の部に出ているが)一回戦で1年生の(女子)ペアに1ゲームも取れずに負け、その後の交流戦でもあっさり負けて最弱を証明した!
 
「思ったように身体が動かない感じだった」
とセナ。
 
「やはり睾丸を取ったので筋肉が落ちたんだろうね」
と恵香から言われる。
 
「うん。それは結構感じる」
とセナも認めた。
 
男の子だった頃ほど体力がもたない感じなのである。瞬発力や反射神経もかなり落ちた気がしている。睾丸のあるなしの差をひしひしと感じていて、男女を分けて競技するのはもっともだと思っていた。
 

千里Bはひたすら眠っていた。
 
長い夢を見て、ひとつの夢が終わると次の夢が始まるという感じだった。日中は千里Yか千里R(たいていはY)に相乗りして学校やP神社での出来事も、それもまた夢のように体験している。しかし夜間は独自の夢を見ていた。
 
ある時はこんな夢を見た。
 
貴司が瀬越駅(留萌駅から増毛方面に1つ行った駅)で人を待っている感じである。貴司何してるんだろう?と思ったら、貴司の所に女の子が1人歩いてくる。まさかデートか!?
 
千里は怒りが爆発した。
 
その子と貴司が会った所に出ていく。
 
「あんた何よ」
「これから貴司とデートするんだけど」
「貴司とデートの約束をしたのは私だよ」
「貴司は私以外とはデートしないよ」
 
千里と女の子は睨み合う。貴司が「やば〜」という顔をしている。
 

「だいたいあんた男じゅないの?貴司ってホモなの?」
「私は女だけど」
「女を主張するのは勝手だけど、あんたおっぱいも無いでしょ?」
「おっぱいくらいあるけど」
「豊胸手術でもしたの?でもセックスできないでしょ?」
「セックスくらいしてるけど。これまで貴司と3回したよ」
 
そんな覚えは無い。無実だ〜!と貴司は思っている。
 
「お尻の穴にでも入れさせたの?」
「貴司は私のヴァギナに入れてるよ」
「そんなものあるの?」
「何なら、裸になってみようか?」
「よし。じゃ、そこのドラッグストアのトイレに行こうよ」
「うん」
 
それで焦っている貴司を連行して、千里と女の子はドラッグストアに行く。そして女子トイレに入る、
「ぼくも女子トイレに入るの〜?」
「当然。見届けてもらわないといけないから」
「ひー」
 

それで女子トイレの中、貴司と女の子の前で千里は服を全部脱ぎ全裸になってみせた。
 
「ごめん。あんた本当に女だったのね。やはりモロッコで性転換手術してきたの?でも悪かった。あんたがそこまでしてたのなら私身を引くよ。幸せにね」
と言って、彼女は帰って行った。
 
貴司は困惑してる。
「千里、性転換手術しちゃったの?」
「そんな手術受けてないけど」
「だって女の子にしか見えない」
「ほんとうに女の子なのかどうか、ホテルに行って確認してみる?そのままセックスしてもいいよ。避妊具も持ってるし」
 
貴司はゴクリと唾を飲み込む。彼は過去に多数の女の子とデートしているし、キスも千里を含めて何人かとしている。でもセックスの経験はまだない。セックス・・・・してみたい!千里は間違い無くさせてくれる。避妊具も持っていると言うし。
 
でも・・・
 

「こんな狭い町で、中学生がホテル行ったら、バレるよ!」
「こんな狭い町で、浮気しようとしたら、バレるよ」
「ごめーん」
 
「じゃ代わりにケンタッキーでもおごってよ」
「うん。そのくらいなら」
 
それで貴司は千里とケンタッキーで楽しく食事をし、その後少し散歩して楽しい1日を送ったのであった。
 
「貴司、誰にも渡さないんだから」
などと寝言を言いながら、千里Bは安らかな顔で熟睡していた。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【女子中学生・十三から娘】(8)