【女子中学生・十三から娘】(5)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
5月3日、セナの一家は旭川のポスフールで水着を買った後、早めにお昼を食べ、おやつも買ってから、1時頃に出発した。連休なので道はやや混んでいたが、2時すぎには中富良野町に到着。まずは有名なファーム富田に寄った。
 
まだ雪が消えて(消して?)間もないので畑はまだまだである。それでも温室の花を結構楽しむことができた。畑で様々な花が楽しめるようになるのは5月下旬からである。
 
ここのレストランでおやつを食べて休憩する。
 
連休なので道もだが、ファームも人が多かった。
 
セナはそういえば去年の校外学習の時にここで学生服からセーラー服に強制お着替えさせられちゃったなあと思い出していた。
 
(セナは記憶が混乱している。セナがセーラー服を着せられたのはここに来る途中、道の駅・あさひかわ)
 

ファーム富田で1時間ほど休んでから出発し、5分で今日宿泊する“ふらのラテール”(Furano La Terre)に到着した。“万華(ばんか)の湯”は、ここの付帯施設である(宿泊せずに日帰りの利用も可能)。
 
チェックインし、部屋に案内される。ベッド2個と6畳の和室があるスイートルームである。
 
「これどう寝るの?」
と慧瑠(さとる)が訊く。
「父ちゃんと慧瑠がベッドに寝て、女3人で畳の間に寝ればいいと思う」
と母。
「まあそれ以外の寝方は存在しないよね」
と亜蘭は言った。
 

「お風呂行こう、お風呂行こう」
と姉は楽しそうである。
 
それでタオルとシャンプーセットを持ち、お風呂に行く。
 
エレベータを降りると、手前が男湯、向こう側は女湯になっているようである。
 
「じゃね」
と言って母と姉が向こうに行く。セナは一瞬立ち止まってしまったが
 
「セナ、あんたまさか男湯に入るつもりじゃないよね?」
と姉に言われ、セナは慌てて、姉たちの方に行った。
 
むろん父と弟は男湯の方に入った。
 
「ああ、ここは日替わりで男湯と女湯が入れ替わるんだ?」
「だったら朝になってから、また来ると反対側に入れるのね」
「性転換しなくても両方に入れるというのは便利ね」
「0時に中に入ってたらどうなるんだろう?」
「その時は強制性転換で」
 
実際には、夜は23:30で終了、朝は5:00からのようである。
 

まだ時間が早いこともあり、脱衣場には誰も居なかった(セナが“万一”女湯になじまない状態だった時のためにあまり人が居ない内に来ることを母と姉は前もって話し合っていた)。
 
母と姉はさっさと服を脱いで裸になる。セナも開き直って服を脱いで裸になった。姉は一度セナの裸を見ているが、母もセナの裸を見て頷いていた。
 
それで浴室に移動する。
 
セナは髪を洗い、顔を洗って、ついでに首や胸も洗う。胸を洗う時に、まるで自分の肌を洗っているかのような感覚になる。元々このブレストフォームは、表面を押したりした感覚が内側の肌と接触する所まで伝わるようになっている。沙苗ちゃんの貼り付け方だとその伝わり方がソフトなのだが、千里ちゃんの貼り付け方は、もっとタイトに貼り付けられているようだ。触った感触がまるでブレストフォーム表面に感覚があるみたいにダイレクトに伝わるなと思った。
 
お股を洗うが、いつもは“疑似割れ目ちゃん”の所を接着が弛まないようにそっと洗うのだが、この日は割れ目ちゃんを開くことができたので、開いて中まで優しく指で洗った。ちゃんと開けるように偽装するって凄いなあとセナは思う。割れ目の中を洗っていたら、1ヶ所触ると凄く感じる場所があったので、ここにちんちんの先が来てるのかと思う。でもその場所がかなり前の方のような気がして不思議に思った。おしっこはかなり後ろの方から出てる気がするのに。
 
その後、足や足の指も洗い、最後に身体全体にシャワーを掛けてから浴槽に行く。
 
母と姉がミルキーバスに入っていたので、セナもそこに入った。
 
「でもすっかり女の子になったね」
と言って母が身体に触る。
「あまり触らないで〜。偽装がバレる」
 
「でも偽装に見えないよね」
「ほんとほんと。完全に性転換したみたいに見える」
と言って、姉はいきなりセナのおっぱいをくすぐった。
 
「きゃっ」
と言って姉から離れる。
 
「くすぐったいということはやはり本物のおっぱいだ」
「このブレストフォームは、表面の感覚が内側に伝わるんだよぉ」
「凄いハイテクじゃん」
「高そう」
 
「やはり高いのかな」
「数十万円するよね」
「ひぇー」
 
「そんな高いのもらってよかったのかな」
「沙苗ちゃんが12月まで使っていたものなんだよ。彼女はもう自前のバストが成長してきたから要らなくなったらしいんだよ」
「なるほどねー」
 
「おっぱいが成長したって、女性ホルモン飲んでるの?」
「飲んでるみたーい」
「あんたも飲まなくていいの?」
「飲み始めたらずっと飲み続けなきゃいけないって言われた」
 
「睾丸取ったのなら、むしろ飲まなくてはいけない」
「そういうもん?」
「当然。ホルモンニュートラルはよくない。中性の状態は身体によくないから、男か女にならないといけない。あんたは男を辞めたんだんだから、ちゃんとした女になるしかない。おっばいも大きくして身体に丸みが出るようにして、女の子らしい仕草も身につけて」
 
「じゃ、ちょっとホルモンの入手方法、沙苗ちゃんに訊いてみようかな」
「それがいいよ。ホルモン剤の購入代金は出してあげるから」
「うん」
 
そしたら、ぼくのおっぱいも沙苗ちゃんみたいに本当に大きくなるのかなあと思うとセナはドキドキした。ぼく、どんどん本当の女の子に近づいて行ってるのかも。あ、また「ぼく」と言っちゃった。
 

その後は、ごく普通の“女の子の会話”をしたが、これはいつも学校で友だちとガールズトークしているので全く問題無い。
 
「あんた普通に女の子の話題に付いてくるね」
「むしろ私、男の子の会話が苦手だった」
「やはりあんた、元々心は女の子だったのね」
「そうかもしれないと最近強く思うようになった」
 
「そのあたりをきちんと自分で認識しないうちに性転換しちゃうというのはあんたも大胆な」
「あはは」
 
しかしこの日のお風呂で、母と姉はセナが“女の子としてやっていける”ことを確信したようであった。
 
そういう訳で、セナは女湯デビューを無難に果たしたのであった。
 

母・姉・セナがお風呂から戻ると、父と慧瑠はもう既に戻っていた。父はビール、慧瑠はコーラを飲んでいる。父はビールが2缶目のようだ。
 
「女は風呂が長い」
などと慧瑠は言っている。
 
「男が早すぎるだけだと思う」
と姉は言っていた。
 
夜は特にすることが無いので、女3人は「疲れたね」などと言って20時には寝てしまった。父は22時近くまでビールを飲みながら、テレビを見ていたようである。慧瑠は遅くまでゲームボーイをしていたようである。
 
セナは“女性と同室で寝る”のは(小さい頃を除いて)初めてであったが、ほんとに今日は疲れていたこともあり、特に何も考えずにすぐ眠ってしまった。
 

翌朝は6時頃、母と姉に誘われて、お風呂に行き、昨日は男湯に設定されていた、もうひとつの風呂のほうに入った。そんなに汗は掻いてないので身体は軽く洗い、桧風呂に入っておしゃべりした。朝は結構入りに来ている人が居て入浴客の女性は15-16人いたが、セナは他の女性がいることには今更緊張したりはしなかった。
 
朝御飯を食べてから10時頃出発し、1時間ほど走ってトマムに到着。入場した。チェックイン時刻は15:00なので、フロントでチケット見せてプールの入場券を発行してもらう。それで屋内プール“ミナミナビーチ”に行った。
 
セナは正直、まだたくさん雪が残っているこの時期にプールなんて寒くないのか?と思ったのだが、プール内は室温30度ということで、暑いくらいだった。
 
(北海道では6月に吹雪が起きたりする)
 
女子水着デビューとなったが、富良野では女湯デビューしているので、今更水着くらいは全く平気である。ただ、女湯は(当然)女性ばかりだったが、プールには男性もいるので、その違いくらいである。
 
セナの水着姿を見て、慧瑠が
「セナ姉ちゃん、胸でけー」
などと言うので、セナは微笑んだ。
 
ここは“ビーチ”の名前が付く通り、プールよりもビーチの感覚に近かった。わざわざ波まで発生させている。
 
姉も慧瑠も「スライダーは無いの〜?」などと言っていたが、セナはあれが苦手(実は恐い)ので、無くて良かったと思った。あればこちらの希望は無視して強制的に何度も滑らされそうである。
 
慧瑠は鮫の形のボート?を借りてもらって、漕いで遊んでいた。姉はかなり泳いでいた。セナは泳ぎはあまり得意ではないのだが、姉から
「競争しようよ」
と言われて、結構泳いだ。父は慧瑠に誘われて一緒にボートに乗っていたが、童心に返ったように楽しんでいたようである。
 
母は「私は休んでるー」と言って、水浴び程度しただけで、ほとんど座っていた。
 

ここでお昼も食べて4時くらいまで遊んでいた。そのあとプールを出て普通の服を着、ホテルの部屋に入った。
 
家族用の5人部屋でベッドが4つ並んでいるほか、ロフトにベッドがひとつある。「僕がそこに寝たい」と慧瑠が言うので、慧瑠がロフトベッドに寝て、父と女3人が下のベッドに寝ることにした。男の子は高い所が好きだよね、などと母・姉と話していた。
 
部屋で少し休んでから、トマム内を散策する。評判の“水の教会”も見てみたが
「分からん!」
と父は言っていた。
 
「亜蘭、あんたこういう所で結婚式挙げる?」
などと母は姉に訊いたが
「私は無宗教がいい」
と姉は答えていた。
 
スカイウォーク(ガラス張りの外が見える通路)を歩いてレストラン街に行く。ここでイタリアンを食べたのだが・・・・
 
セナは結構満腹したものの、父は「腹減った」と言って、亜蘭・慧瑠と3人で、おそば屋さんに入っていた! 母とセナは、おやつを買って先に部屋に戻った。そして先に部屋に付いているバスで汗を流した。
 

翌日は11時にチェックアウトし、父が疲れているようだったので、この日はほとんど母が運転して、留萌に帰還した。途中の道の駅で休憩して(5/5)15時頃に留萌に戻った。
 
「今日は何も作りたくないね」
などと言って、留萌市内でケンタッキーを買って帰り、それを晩御飯とした。
 
この日はみんな20時頃には寝てしまった。
 
セナも疲れていたので「おっぱいとタックを外してもらうの月曜にしておいて良かった」と思った。とてもP神社まで出掛けて行く気力は無かった。
 

5月6-7日(木金)は、平日なので学校があるが、疲れたような顔をしている子が多かった。先生たちも疲れている気がした!
 
「いっそ毎年4月28日から5月10日くらいまで全て休みということにすればいいのに」
「社会機能が麻痺する気がする」
「郵便物が大量に滞留して連休明けに恐ろしいことになる」
「パートで働いている人はとっても辛い」
 
「どっちみち、お店とか遊園地とかに勤めている人は休めない」
「そういうお仕事も大変だよねー」
 
この2日間、女子剣道部も女子バスケット部も練習は休みにしていた。男子剣道部は練習をしていたが
「今日は女子になりたい」
と言っていた子が数人いた。
 
「性転換したい人は性別変更届け出してね」
「そんなのあるんだっけ?」
「女になれば、女子トイレに入れるし、女子更衣室に入れるし、女湯にも入れる」
「うーん。不純な動機で少し興味ある」
 
「だけど女になれる奴と女になるのは無理な奴といるよなあ」
などと3年の境戸さんが言ってる。
 
「ああ、それはある」
と古河さんも同意する。
 
「“きみよちゃん”はそのままセーラー服着せたら女子中学生で通るけど、佐藤とかはたとえ性転換手術受けても女湯で悲鳴をあげられる」
 
「ぼく女装する趣味はありません」
「なんで俺が引き合いに出されるんですか」
と当人たち。
 
「でも“きみよ”ちゃんは男にしてしまうのがもったいない気がするよなあ」
「女の子になるつもりない?女の子になったら俺の嫁さんにしたい」
「遠慮します」
 
「でも工藤君もだけど、男にしちゃうのがもったいないような男の子っているよね〜」
「けっこういる」
「そういう子がやがて18-19歳で女に目覚めて女になりたいと思っても、その年齢ではもう男の身体がほぼできあがってしまっている」
「骨格とか声とか、どうにもならない部分ってありますよね」
「俺、思うんだけど、そういう子は12-13歳で取り敢えず去勢しとけばいいんじゃないかなあ」
などと境戸さんは過激なことを言う。
 
「取り敢えず去勢しちゃうんですか?」
「そしたら女になりたいと思ったら、女性ホルモンの摂取で凄く女らしい身体になることができる」
 
工藤君はドキドキした顔をしている!?
 
「後で男になりたいと思ったらどうするんですか?」
と佐藤君が訊く。
 
「男性ホルモンを摂取すれば男らしい身体に変化するよ」
「子供作れない気がする」
「精子を冷凍保存とかしとけばいいんじゃない?」
「セックスできないですよー」
と工藤君がドキドキした顔で言っている。
「レスビアンのテクを覚えるとよいかも」
 
1年生の部員には“レスビアン”どころか“セックス”の意味も分からない風の子もいたが、潮尾君などは工藤君同様にドキドキした顔をしていた。
 

P神社での勉強会も6-7日(木金)は出て来ている子が少なかった。
 
千里Yと玲羅は毎日出て来ているが、沙苗は親戚に不幸があったとかで、学校も休んで函館(付近)に行っているらしかった。しかし学校には出てきていた子でもこの2日間は勉強会を休んでいる子が多い。
 
「みんな疲れてるんだろうなあ」
「みんなどこか行った?」
「二葉ちゃんはグァムに行って来たらしいよ」
「すっごーい!豪華!」
「でも、グァムとか台湾とかソウルとか、わりと安いツアーがあるから、東京ディズニーランドとかUFJに行くより安いと言ってた」
 
「UFJは銀行」
「あれ?大阪の何だっけ?USB?」
「USBはパソコンのインターフェイス。大阪のはUSJ」
「それそれ」
 
「でも東京ディズニーランドも行ってみたいなあ」
「由姫ちゃんが東京ディズニーランド行ったらしい」
「いいなあ」
「私は富士急ハイランドに行きたい」
「ジェットコースターが好きな子はそちらがいいだろうね〜」
 

6日の19時すぎ「今日は早めに帰ろうか」などと言っていた時間になって、恵香が出て来た。
 
「いや、市立図書館に行ってたから遅くなって」
「とりあえず、おやつ」
「あれ〜、神戸プリンだ」
「和弥さん(宮司の孫・花絵の弟で伊勢の皇學館大学3年生)のお土産、最後の1個」
「ラッキー」
と言って、恵香は神戸プリンを食べている。
 
「連休はどこか行ってた?」
「定山渓温泉に2泊3日」
「おお、ささやかなツアーだ」
「ただ疲れただけという気がする。遊ぶとこも無いし」
「若い子にはルスツとかトマムがいいよね」
「でも高い」
「確かに」
「セナがトマム行ったらしいよ」
 
「へー!」
と言ってから、恵香は不安そうに訊いた。
「あの子、温泉とか入ったのかなあ」
 
「トマムには温泉は無い。プールはあるけど」(*14)
「だったら、まだハードルが低い」
「うん。あの子、たぶん女子水着くらいにはなれると思う」
「レントゲン検査の時の様子を見たら、女子水着は大丈夫だろうね」
 
(*14) トマムの入浴施設“木林の湯”は2006年12月のオープンでこの頃はまだできていない。ミナミナビーチは1991年12月のオープン。
 

5月8日(土)も、勉強会の出席者は少なかった。みんな、なかなか連休の疲れが取れないようだ。セナはこの日は出て来ていたが、沙苗はまだ法事から戻っていないようだ。
 
「セナ、トマムはプールに入ったの?」
「入ったよ。楽しかった」
「女子水着だよね?」
「男子水着なんか着れないよぉ」
「まあさすがに無理だろうな」
「恥ずかしくなかった?」
「結構ドキドキしたけど、慣れたら平気になった」
「やはりそういうの慣れなんだろうね」
「私が男の子に性転換したら、最初は胸を曝すの恥ずかしいかもしれないけど、すぐ慣れるかもしれない」
「うん。やはり性別なんて、慣れの問題だよね」
 
セナは、みんなトマムに行ったことは知ってても(亜蘭が友だちに話したのがここにも伝わってきている)、その前日に富良野温泉に泊まったことは知らないみたいと思って、少しドキドキしていた。千里ちゃんは当然知ってるけど、他人のことを勝手に話す子じゃないし。
 
(千里は他人のことを絶対勝手には話さないので、みんなに信頼されている一方で(千里からは情報が得られないので)“使えん”と言われる)
 

沙苗の家に、5日夕方、函館近くの大野町(*15)に住む大伯父が亡くなったという連絡があり、6-7日は学校を休む連絡をして、一家で大野町に向かうことにした。
 
この時点で沙苗はまだ旭川に居た(きーちゃんの家で合宿中)。電話連絡して話し合った結果、沙苗は5日の夜も、きーちゃんの家に泊めてもらい、6日朝、JRで深川駅まで移動して、父の車に拾ってもらうことにした(実際には、瑞江さんがRX-7で砂川SA!まで送ってくれた)。
 

 
沙苗以外の3人が留萌を出発したのは6日8時頃である。9時頃、砂川SAで休憩するとともに沙苗をピックアップする。沙苗のセーラー服とブラウス・黒タイツは母が持って来てくれていたので、トイレの中で着替えた。
 
道だが、前日の5月5日はかなり渋滞していた様子だったものの、6日は平日なので、札幌周辺を除いては、そんなに混んでいなかった。カーナビは5時間半の表示だったが、途中の休憩を入れて8時間半ほどで到達することができた。でも長時間の移動なので、辿り着くだけで結構疲れた。
 
(*15) 大野町は2006年2月1日に上磯町と合併して北斗市になった。この物語はその合併前の時期である。上磯町は(この物語の中では)昨年の中体連剣道北海道大会が行われた町である。
 
大野町の中心駅は渡島大野(おしまおおの)駅であったが、2016年3月26日、北海道新幹線開業に伴い、新函館北斗駅に改称される。この駅名を巡っては当初「新函館」になる予定だったが、北斗市長が「北斗市にあるのだから、駅名は北斗駅にすべき」と主張し、「新函館」を主張する函館市側と大バトル。最終的に「新函館北斗」という両方の市名を並記する妥協案に落ち着いた。
 
なお、駅の大半は北斗市にあるが、実は車両基地は隣接する七飯町にある。
 

沙苗はもちろんセーラー服、妹の笑梨(幼稚園の年長さん)は子供用の黒いドレスを着ている。
 
沙苗は、両親が8つ離れたこの妹を作ったのは、自分が女の子になりたがっていて、きっと女性と結婚して孫を作ることは無いと思ったからだろうなあと思う。
 
多数の親戚が集まっていた。
「あれ?智恵ちゃんとこ、女の子2人だったっけ?」
「そうですよ」
「ごめーん、上は男の子と勘違いしてた」
「沙苗、性転換して男の子になる?」
「性転換手術って痛そうだからパス」
 
ここはもうしらばっくれるしかない所である。
 

5月6日が友引なので、それを避けて7日(金)にお通夜、8日(土)に葬儀ということであった。沙苗たちが到着したのは6日夕方近くであったが、この日は喪主や親戚にご挨拶だけしてまわった。
 
旅館が取られていて、6-7日の2日間宿泊する。
 
「あんたお風呂大丈夫だったよね?」
と母が沙苗に訊いたが
 
「去年の夏も一緒に入ったじゃん」
と沙苗は言う。
 
「そうだよね!」
 
昨年夏に沙苗は母や千里と一緒に深川市のスーパー銭湯に入っている。またその後、沙苗は剣道の合宿で、千里・玖美子・道田さんと一緒に留萌市内の研修施設の女湯に入っている。それ以前にも女湯に入ったことがあるのでは?という疑いについては、沙苗はノーコメント!としている。
 
4年生の時のキャンプ体験、5年生の時の宿泊体験、6年生の時の修学旅行で、沙苗をお風呂の中で見た記憶のある男子が存在しない(セナを見た記憶のある男子も存在しないが、セナの場合はそもそも他人の記憶に残らないだけという可能性がある)。
 
ただ沙苗は、小学生時代、体育の水泳の授業では胸を曝していたので、当時は胸が無かったことがクラスメイトたちには分かっている。ただし数人の女子が「沙苗ちゃん乳首立ってるね」と言った記憶がある。(セナの場合は水泳の授業で胸を曝していたことも記憶されていない)
 

そういう訳で、ここまで何度も女子と一緒にお風呂に入っているので、沙苗はわりと落ち着いて、母・妹と一緒にお風呂に行った。
 
洗い場で、髪を洗い、胸を洗い、お股!を洗うと、“ほぼ女体”になっていることが凄く嬉しくなる。お股の割れ目を指で開いて優しく内部を洗うととても幸せな気分になる。お股の所にできてる穴がほんとにヴァギナに成長しないかなあと妄想している。
 
湯船に浸かっていたら、何人かの女性の親戚から
「沙苗ちゃん、おっぱい大きくなってきてるね」
 
などと言われたが、たぶん『この子、男の子じゃなかったっけ?』と疑いを持っていた人たち!その人たちも沙苗のバストを見て、『男の子と思ってたのは勘違いか』と思ったようである。
 
普通、男の子におっぱいは無い!
 

6日の午前中に大伯父さん(沙苗も過去に2度しか会ってない)と全員でお別れをして、遺体は火葬場に運ばれる。これには一緒に暮らしていた娘さん(沙苗からは従伯母)の一家と、本人の弟妹のみが付き添った。
 
そして夕方から通夜が行われる。
 
笑梨は小さいので、同様に小さい子供たちまとめて控室で御近所の女性に見ていてもらい、おにぎり・おやつなどを食べたりしていたようである。沙苗はもう中学生なので、お通夜に出席するが、長いお経が退屈で、眠ってしまいそうになった。
 
やがて焼香になるので、他の人たちがしてるのを真似して、お香の粒を少し摘まみ、額の付近に掲げてから、赤く熱している付近に落とした。それで僧や喪主にお辞儀をして席に戻った。
 

お通夜が終わった後、父は他の親族の男性たちから、
「大蔵さん、飲みましょう」
と誘われていたが
「明日車運転しないといけないから」
と言って断っていた。
 
多分今夜飲み明かした男性たちは明日は奧さんに運転してもらわないと帰宅できない。
 
この夜も旅館の女湯で沙苗は
「おっばい大きくなったね」
と言われた!
 

翌日は朝9時から葬儀があり、また昨夜同様、長いお経を聞くことになる。
 
沙苗は斎場で椅子に座っていて、少しお腹が痛い気がした。旅疲れかなあと思う。胃薬を飲むほどではないので痛い気がする付近に手を当てていたら少し痛みがやわらいだ気がした。
 
沙苗はお経を聞きながら、漢文を“音”読みするというのは不思議な習慣だよなあと思った。いっそ中国語読みするなら、まだ理解できるのだが、たぶん中国語読みでは、日本語訳で読むのと同様に“ありがたみ”が無いんだろうな。
 
そんなことを考えていたら、千里が般若心経をまるで祝詞のように読んでいたのを思い出し、急におかしくなった。きっと、あんな読み方ができるのは日本中探しても千里だけかもしれない。あの子は完璧な神社体質なのだろう。小町ちゃんが千里の真似をしてみようとしたが、普通の般若心経になっていた。
 
お経を上の空で聞きながら、色々妄想していたら、けっこう退屈せずに葬儀を終えることができた。焼香はまた昨日と同様に行なった。
 

葬儀が終わった後、親戚たちに挨拶して、12時前に大野町を出た。明日日曜日だと少し混んだかもしれなかったが、この日はあまり混んでおらず、7時間半ほどで留萌に帰着した。途中でお弁当屋さんに寄り買って帰って、それを晩御飯にした。
 
この日も沙苗はお腹が痛い気がした。沙苗がお腹に手を当てているので、母がどうしたの?と訊く。少しお腹が痛いけど大丈夫だと思うと言うと、母は常備薬のバファリンをくれた。これが凄く効いたようで、痛みがだいぶ取れた。
 
沙苗は翌日の日曜日もずっと寝ていた。やはりお腹が痛いので、またバファリンをもらって飲んだら落ち着いた。
 
この日は母や父もひたすら寝ていた。笑梨だけ元気で、お絵描きしたり、絵本を読んだりしていたようであった。
 
でもセナちゃんにバストを貼り付けてあげるの、月曜日にしといて良かったぁと思った。
 

5月10日(月).
 
朝礼で担任の先生から
「今日2年生は心電図検査があります。男女別にクラス単位で呼び出されますので保健室に行って下さい」
という連絡がある。
 
「え〜〜!?」
と生徒たちの声があるので、先生は不安になり
「予定表にあったよね?」
とクラス委員の上原君に確認する(先生も恵香ではなく上原君に訊く)。
 
「はい、ちゃんと書いてありました」
と上原君は答える。
 
「ちょっと今日の下着はヤバい」
などと言って焦っている子がいるが、ヤバい下着を学校に着てくるのが悪い。
 
検査は1組男子→1組女子→2組女子→2組男子→3組男子→3組女子、という順序で行うということだった。1時間目の先頭で1組男子が呼ばれ、保健室に行く。
 
「まさみちゃん、女子はまだだよ」
などと言われているのはいつものことなので、祐川君も気にせず他の男子と一緒に行く。セナは「ぼく、女子と一緒でいいんだよね?」と思ってドキドキしながら教室に残った。
 

授業は鶴野先生の英語だったのだが、男子が出て行き、女子だけ残っているので
 
「Well, Lets do the lesson only for girls. It's secret to boys」
などと言って、先生は恋愛絡みの英会話を教えてくれた。
 
「I'ts useful when loving with foreign boys」
などと言って、通常授業ではやらないような微妙な英語から、下品とされる表現まで紹介し、「本当に今日のレッスンは役立ちそう!」という声もあかっていた。
 

なお男子の測定では祐川君が「ブラ跡がある」と指摘されて「ぎゃっ」と声をあげたらしいが、武士の情け?でその場では特に追及しなかったらしい(代わりにその噂が学年中に広まる:男子が全員知るより先に女子が全員知ったのは、やはり女子の情報伝達速度が速いからである!)
 
やがて男子が少しずつ戻って来る。最後から6番目の高橋君が戻ってきて彼が
「そろそろ女子、来て下さいということです」
と言うので、女子が全員席を立って保健室に向かう。女子は全員終わってからでないと次の男子は入れられないが、男子は多少残っていても女子を入れて問題無い(いつもの女男差別)。
 
それで女子が行ってしまった後、鶴野先生は男子向けの授業をしたようだが、どういう内容だったかは分からない。
 
保健室に女子が入る。
 
この時、男子最後の三木君が着衣のまま待機していたので、女子も全員着衣のまま待つ。彼がカーテンの向こうに消え、服を着かけの東野君が出て来て女子を見て「わっ」と声をあげている。
 
「まだ脱いでないから大丈夫だよ」
「でも心臓によくない」
「再度検査してもらったほうがいいかもね」
「それ絶対異常値出るって」
などと言いながら彼は出て行った。
 

やがて増田君が出ていき、最後の三木君も出て行ってから女子の先頭・恵香と蓮菜がカーテンの向こうに行く。恵香が服を脱いでもうひとつのカーテンの向こうに行く。ベッドがあり、女性の技士さんがいる。
 
「ベッドに寝て下さい。電極を付けます」
と言われる。
 
たぶん男性の技士が女子中学生の上半身裸を見るのは問題があるが、女性の技士が男子中学生の上半身裸を見るのはほとんど問題無い、ということで女性の技士さんが来ているのだろう。例によって女男差別である(だから介護などの現場では、男であること自体がハンディであると言われる)。
 
「安静にしていてください」
と言われ、測定される。
 
「はい、いいですよ」
と言われ、電極を外されるので、ベッドから起き上がり、カーテンの向こうに戻って、蓮菜と交替する。「次の人、入って下さい」の声で玖美子が入ってきて服を脱ぎ始める。恵香は服を着る。着終わると出て行く。蓮菜が測定を終えて出てくる。玖美子が中に入る。セナが入ってくる。玖美子の上半身ヌードを見て恥ずかしそうに俯いている。この子もまだまだ「女の子教育」ができてないなあと思うが、微笑ましい。セナもすぐ普通の表情に戻り、玖美子と二言三言、言葉を交わしながら服を脱ぐ。やがて玖美子は服を着終わって出て行く。蓮菜が測定を終えて出てくる。セナの上半身裸を見て「あっ」と声をあげたが、セナは中に入ってく。
 
「うーん・・・やばい気がする」
と蓮菜はひとりごとを言いながら服を着る。
 

さて、そのセナは蓮菜が心配していることなど全く知らず、レントゲンも大丈夫だったんだから、心電図も大丈夫だろう、などと考え、言われた通り、ベッドに横になる。そして電極を付けられる。おっぱいに付けられる電極がくすぐったいなあ、などと思っている。
 
「安静にしていて下さい」
と言われるので平常心でいる。やがて
「終わりました」
と言われて、電極を外してもらう。
 
ベッドから起き上がって、カーテンの向こうに行き、次の萌花と交替する。絵梨が入ってきて、いきなりセナのおっぱいを揉んでから服を脱ぎ始める。セナも最近は、女の子同士、おっぱいを揉むのは、ほとんどただの挨拶代わりみたいということを認識し始めていた(千里・沙苗・セナが特によく揉まれていることまではまだ認識していない)。
 
服を着終わって出て行くと、蓮菜と玖美子が外で待っていて
「教室に戻ろう」
と言うので
「うん」
と言って、一緒に戻る。廊下に出てから、蓮菜に訊かれる。
 
「心電図取れた?」
「取れたけど」
とセナが答えると
「うーん・・・」
と蓮菜が悩んでいる。
 
「何か問題あった?」
「いやひとつの疑惑が浮上したのだが、まだ検証には時間がかかる」
などと蓮菜は言った。
 
セナは何だろう?と首を傾げていた。
 
要するに、セナが本当にブレストフォームを使用しているのであれば、そんなもの装着した状態ではレントゲンくらいは撮れても、心電図は取れるわけが無いので、ここに至ってセナの胸はブレストフォームではなく“本物”なのではないかという疑惑が急浮上したのである。
 
しかしこの場でセナを追及するわけにもいかず、取り敢えず疑惑は保留することにしたのであった!
 
「でもセナ、なんかさっきもお腹を手で押さえてたけど、どうかした?」
「うん。昨日くらいから、少しお腹痛い気がして」
 
「もしかして生理じゃないの?」
と玖美子が言う。
 
「そうかなあ」
「ナプキン付けて寝てたほうがいいよ。持ってるよね?」
「うん。みんなに連れられて買いに行ったから。じゃ付けておこうかなあ」
「それが良い、それが良い」
と玖美子は明るく言っていた。
 
それでセナは1時間目の後の休み時間にトイレに行った時、ショーツに(練習で付けた時を除いて)初めてナプキンを装着したのであった。
 
(セナは良い子なのでナプキンプレイやタンポンプレイなどはしない)
 

その日セナは、帰りの会・掃除が終わると玖美子に
「今日は部活休むね」
と声を掛けた。
 
「ああ。生理来たの?」
「まだだけど」
「生理前数日は体調良くないんだよ。生理前症候群といって。お大事に〜」
「ありがとう」
 
それでセナは学校を出た。
 

S町を16:10の幌延行きバスに乗り、16:15にC町で降りる。そしてP神社に行く。
 
「あ、セナちゃん今終わったのね」
と巫女服姿の千里が声を掛ける。
 
セナは疑問を感じた。掃除の時にも千里は居た。それで掃除が終わったらすぐ自分は学校を出てこちらに移動したのに、なぜそれより先に千里ちゃんはここに来て、もう服まで着替えているのだろうと。
 
千里はセナを連れて神社の奥のほうの部屋に行く。
「ここなら誰も来ないだろうから」
と言ってセナを裸にし、まずはブレストフォームを取り外してくれた。
 
その後、タックも外そうとしたのだが、セナがお腹を気にしているのに気付く。
 
「お腹どうした?」
「昨日あたりから少し痛くて」
「どのあたりが痛い?」
「このあたり」
「だったら、PMSかもね」
「PMSって何だっけ?」
「pre-menstrual syndrome, 生理前症候群といって、生理が来る少し前からお腹が痛くなったり体調悪かったりするんだよ」
「ああ、その略称がPMSなんだ」
「そうそう」
「玖美子ちゃんにも言われて、ナプキン付けておいた」
「今夜はそのまま寝るといいね。だったらタックはそのままにしとくよ」
「そう?」
「だってタック解除したら、ちんちんがナプキン付けるのに邪魔じゃん」
「あ、そうだよね!」
 
それで千里はセナの“タック”はそのままにしておいた。
 
千里は、チラッとP大神を見たが、P大神は首を振ってる。
 
じゃ誰のしわざなんだ!?
 
『でもあれじゃ生理の出てくる所ないから、取り敢えず穴だけ開けといたよ』
『それはご親切に』
と千里は呆れて言った。
 

「でもブレストフォームありがとう」
とセナは貼り付け・取り外しのお礼を言う。
 
「楽しかった?」
 
「うん。女湯も初体験ではないけど、凄くしっかりしてる感じだったから安心して入浴した。プールで泳いでも胸もお股も全然形が崩れないから、すごーいと思った」
 
「それは良かった」
 
それでブレストフォームのみ外した状態で勉強部屋に戻ると、恵香たちが来ていた。たぶん恵香たちはセナが乗った次の16:20のバスに乗ったのだろう。
 
それて勉強会をしていて、たっぷり勉強して19時頃に玖美子と沙苗が来る。
 
「あれ、セナちゃん、勉強会には来てたんだ?」
と沙苗が言う。セナもいつもは彼女たちと一緒に部活が終わってからこちらに顔を出している。
 
「セナちゃん、今日の心電図検査は何とかなった?」
と沙苗が訊く。
 
「うん。何とか」
「ちょっと心配してたんだけどね。ブレストフォーム外してたので、かえって良かったかもね」
と沙苗は言った。
 
沙苗としては「ブレストフォームを外している→生胸に電極を付けられて心電図を測定された」と思っているのだが、セナは意味が分かっていない。
 
「じゃブレストフォーム取り付けてあげるよ。どこか部屋使えるかな」
と沙苗が言うと、千里が
 
「奥の布団部屋を使って」
と言うので、セナは沙苗と一緒に結局さっき千里と一緒に行った部屋に再度行き、沙苗の手で再度ブレストフォームを貼り付けてもらった。
 
なおこのブレストフォームは、さっき千里に外してもらった後、水道の水で一度洗ってから、更に石鹸を付けて丁寧に洗っている。胸のほうも、汗拭きシートで拭いて汗を拭き取っている。
 
「これでOK」
「ありがとう」
 
「そうだ。沙苗ちゃん、うちのお母ちゃんから、睾丸取ったのなら、女性ホルモン飲んだ方がいいと言われたんだけど、どこから買えばいいのかな」
「病院を受診する?」
「うーん。ちょっとまだそれは」
 
なんか大事(おおごと)になりそうな気がするし。
 
「病院を経由しないルートなら、こないだ私と千里ちゃんと3人で泊まった家、あそこに行ってみるといいと思うな。きっと千里ちゃんが何とかしてくれる」
「え?千里ちゃんに訊くのなら今日訊いちゃ駄目なの?」
「色々複雑な事情があるんだよね。あるいはまた千里ちゃんに招待されるかもね」
 
セナはむしろ、それがまた起きそうな気がした。
 

セナが急速に女性化していっているので、いいのかなあと少し疑問を感じながら沙苗はその日20時過ぎに帰宅した。もっともセナに「睾丸取っちゃいなよ」と唆したのは自分だけど。
 
でもあの子、完全に女の子になりたい気持ちになっちゃったみたいだから、女の子になるのなら、今の時期が去勢の最後のチャンスだと思ったのもある。
 
沙苗は、いつも部活が終わった後1時間くらいP神社の勉強会に出ている。その1時間で、授業のよく分からなかった所などを蓮菜などに教えてもらうことで、沙苗は最近かなり授業の内容が分かるようになってきている。
 
小学校で覚えておくべきだった知識がかなりあやふやだけどね!
 
沙苗はお腹が痛いのがますます酷くなる感じで、この日はバファリンを朝1回と帰宅してから1回飲んだ。
 
「あんた病院行かなくていい?」
「大丈夫だと思う。旅の疲れだよ。今日は早く寝る」
 
御飯を食べて、お風呂に入って、ほぼ女体化した自分の身体を洗うと昂揚した気分になる。やはり女の子の身体っていいなあ。私、いつか本当の女の子になれるかなあ、などと妄想する。
 
お風呂からあがったら、お腹が痛いこともあり、お腹にタオルを乗せて温めるようにして寝た。
 

そして、翌日、5月11日(火)のことだった。
 
朝起きると、お腹の痛みは、かなり酷くなっていた。これ本当に病院に行ったほうがいいかもと思い始める。とりあえずトイレに行ったのだが、パンティを下げたところで仰天する。
 
パンティが血で真っ赤になっていた。
 
「何?何?何があったの?私どこ怪我したの?」
と沙苗はパニックになった。
 

沙苗がトイレの中で思考停止状態になっていたら、母が声を掛けた。
 
「あんた大丈夫?やはり病院に行く?」
「その方がいいかなあ。お母ちゃん、私どうしたんだろう。血がたくさん出て」
「え?ちょっと見せて。ここ開けて」
「うん」
 
それで沙苗は恥ずかしかったものの、トイレのドアをアンロックした。
 
「どこ怪我したのかなあ。ショーツが血だらけで」
と沙苗は言ったが、母は大きく溜息をついた。
 
「あんたさあ、生理を知らないってことは、まさか無いよね」
「生理!??」
 
沙苗は結局この日、学校を休んで“病院”に行くことになった。
 

一方のセナだが、お腹がずっと痛いので、月曜日は早めに寝た。そして火曜日の朝、トイレに行くと、着けていたナプキンが真っ赤になっていた。
 
ホントに生理が来たんだ!
 
とセナは驚いたものの、「ぼくまた1歩女の子に近づいたのかも」などと思い、お股をトイレットペーパーで拭き、ナプキンは新しいのに交換。経血を吸ったナプキンは巻いて保護シートで包み、トイレの汚物入れに捨てた。
 
そしてトイレを出てから母に
「私、生理来ちゃった」
と言うと、
「おお、おめでとう」
と言ってくれた(母はジョークと思っている)。
 
「じゃ今夜はお赤飯にするから、学校の帰り、甘納豆買ってきてよ」
「OK」
 
なお学校に行って千里に「やはり生理来ちゃった」と言うと「おめでとう」と言った上で
「タックば生理が落ち着いてから、木曜か金曜くらいに外そうか」
と言った。
「うん。ありがとう」
 
傍で聞いていた蓮菜と玖美子は、どうなってんだ?と首を傾げていた。
 

5月11日(火).
 
雅海が学校から帰宅すると、母から
「なんか荷物来てたよ」
と言われた。
 
差出人を見ると「&&エージェンシー・マネージング部長・白浜藍子」と書かれている。ここで開けるとヤバい気がしたので、自分の部屋に持っていって開ける。
 
すると、なんと先日のパーキング・サービスのライブで、バックダンサーのパトロール・ガールズとして踊った時の衣裳である。青のブラウス、オレンジ色のブラウス、ミニスカ、帽子などが入っている。
 
そして白浜さんの直筆!の手紙が入っている。
 
「先日はありがとうね。こないだの衣裳をクリーニングして、ネームも入れたから送っておくね。また北海道でライブがあった時はよろしく」
 
見ると、女性警察官風の、肩章入りブラウス、ミニスカート、ネクタイ、帽子の各々に "Masami" という刺繍のネームが入っている。
 
「わぁ。もらえるんだったんだ!」
と思い、取り敢えず着てみた。
 
鏡に映してみると「可愛いし、かっこいい!」と思った。
 
(雅海の部屋には高さ1.6mの姿見がある)
 
それで自分の姿に見とれていたら、いきなりドアが開いて
「何買ったの〜?」
と母の声。
 
ギクッ!とする。
 
「あれ?いらっしゃい。雅海のお友達ですか?」
と母。
 
雅海は真っ赤になりながら
「お母ちゃん、ぼくだよ」
と言った。
 
母はマジマジと雅海を見詰めた。
 
「びっくりした!でも可愛い服じゃん。高かったんじゃないの?」
 
「買ったんじゃないんだよ。こないだ札幌行った時、実はパーキング・サービスのライブでバックダンス踊る子が足りないとかでさ。大通公園で人を集めていて、それでぼくも声を掛けられて参加したんだよ。その時の衣裳にネームを入れて送って来てくれたみたい」
 
「あんた、ライブのバックダンサーしたの?」
「直前に人数足りないの発覚して、とにかく誰でもいいから女子中高生を集めたみたいだった」
 
「へー!あんたがアイドルのバックダンサーね〜」
「楽しかったけどね」
「あら、それ手紙?」
「うん」
「また北海道でライブある時はよろしくって」
「それでこの衣裳を送って来てくれたんだと思う」
 
「じゃあんたもアイドル?」
「ただのバックダンサーだよぉ」
「でもあんた女の子アイドルになるんだったら、とりあえず睾丸だけでも取ったほうがいいよ」
「え?え!?」
「私、行けばすぐ睾丸取る手術してくれる病院、教えてもらったのよ。土日もやってるらしいから、今度の土曜日にでも行って、手術してもらおうか」
「ちょっと待って〜!」
 
「一緒にちんちんも取る?ちんちん取るのもしてくれるらしいよ」
 
ぼく男の子やめることになるのかな?やめてもいいけど、いきなりは心の準備が。でもこれだと、そのまま性転換手術されてしまいそう!!
 

そんなことを考えた時、雅海は思いついた。
 
「お母ちゃん、ごめん。実はぼくもう睾丸取っちゃったんだ」
「そうだったの!?」
 
「あまり男性化したくなかったから。でも言うと叱られると思って黙ってたの」
「でも手術代高かったんじゃないの?」
「手術代については訊かないで。人に迷惑掛けちゃうから。悪いことだけはしてないから」
「分かった。でもあんたが決断して、そうしたのなら、お母ちゃんもお父ちゃんも反対しないよ」
「ありがとう。ほんとにごめんね。勝手なことして」
「ううん。あんた自身の身体だもん」
と言ってから、母は言った。
 
「だったら、あんた学校にセーラー服で通う?」
 
う・・・一難去ってまた一難。
 
「それは少し考えさせて」
「うん。いいよ。睾丸取って男性化を停めたのなら、あとは急がないよね」
 
あはは。
 

5月11日の午後、沙苗は母と一緒に札幌に行き、S医大で診察を受けた。
 
「月経が起きた!?」
と主治医が仰天し、すぐ診たいということでその日の内に訪問したのである。
 
すぐにMRIを撮られたのだが、医師は首をひねっている。
 
「確かに、先日観察していた穴がヴァギナ状に成長しています。そしてその先に子宮らしきもの、卵管らしきもの、卵巣らしきものも見られます」
と医師は写真を見ながら言う。
 
「じゃその卵巣・子宮が月経を起こしたのでしょうか?」
「それが考えにくいんですよ。MRIに映っている卵巣や子宮はとても小さなもので生まれたてという感じ。赤ちゃんサイズなんです。こんな小さな卵巣・子宮が月経を起こすとは思えないんですよね」
 
「では不正出血か何かでしょうか?」
「経血を分析した結果では、ごく普通の経血ですね。だから不正出血とかではなく、これは確かに月経だと思います」
 
医師もかなり悩んでいたが、取り敢えず“異常ではない”という診断だった。そして経過観察することになった。
 

5月12日(水)は変則時間割で、実力テストが行われた。今回の勉強会メンツの成績はこのようになっていた(昨春→夏→冬→今回)。生徒数は81人である。
 
玖美子1-1-1-1 蓮菜2-3-2-3 田代3-2-3-2 美那22-14-12-10 穂花25-16-11-9 千里40-26-22-16 恵香43-32-28-22 沙苗65-41-36-32 留実子74-58-47-44 セナ78-81-68-69
 
玖美子は部活もたくさんやっているのに勉強でもトップをキープしているというのは本当に凄い。まさに文武両道である。穂花と美那がとうとう10位以内に入った。沙苗と留実子はちょうど全体の真ん中付近である。入学時は底辺付近だったのに、よく頑張っている。セナは前回より下がってる!
 
「セナ、女の子するのに夢中で勉強がおろそかになっているのでは」
「そういう訳じゃないけど」
「3月までは勉強するためじゃなくて、女の子するために、ここに来てたからなあ」
 

5月14日(金)は、校内マラソン大会が行われた。昨年同様、男子は5km、女子は3kmのコースで行われる。昨年セナは男子として参加したのに、女子としてのゴール票を渡され、それも“男子と女子の人数が合わない”問題のひとつの原因になったのだが、今年は最初から女子として参加する。
 
「まさみちゃん、女子の方に行かなくていいの?」
なとと祐川君は、他の男子からからかわれていたものの本人が
「どうしよう?」
と悩んでいる様子なので、からかった男子たちが顔を見合わせていた。
 
女子の体育委員・優美絵が気付いて
「まさみちゃん、女子の方に参加したいなら、広沢先生に言ってあげるよ」
と声を掛けた。
 
「そんなのいいのかなあ」
などと本人は言っているが、優美絵は
 
「まさみちゃん、女の子になりたいんでしょ?そういう子は最近多いからあまり悩むことないよ。おいでおいで」
と言って、本当に彼を広沢先生の所に連れていき、女子としての参加許可を取ってしまった。それで広沢先生は、雅海が付けていた、男子を表す青いタグを回収し、代わりに女子を表す赤いタグをくれた。
 
「まさみちゃんは入賞の可能性は無いから、わりと性別は緩くみてもらえる」
と優美絵は言う。
 
「たしかにぼくは男子ではビリ争いするグループだし」
「女子なら平均くらい行けるかもね」
 
それで彼は今日は3km走れば済むことになったのである。
 
広沢先生からもらった赤いタグを体操服に付けたが、赤いタグで先日のパーキング・サービスのライブを思い出した。
 
女の子するのもいいかもね。
 

マラソン大会で、セナは恵香や沙苗・小春・千里と一緒に、極めてのんびり走り、結局、女子の中でもビリに近いグループでゴールした。沙苗は生理中なので無理しなかったのだが、セナも沙苗と一緒だと心強かった。セナは自分が生理中であることは言わなかった(千里は聞いているが人のことを話したりしない)。
 
雅海は女子の部で走るのに少し罪悪感を感じながら走っていたものの、千里と蓮菜・優美絵などと一緒になり(雅海が折り返して少し走った所で、往路を走っていた蓮菜たちに声を掛けられ彼女たちを待っていた)、その後、のんびりしたペースでゴールまで走った。
 
「雅海ちゃん、実は結構女装で出歩いてるんでしょ?学校にもセーラー服で出てこない?」
と優美絵が言う。
 
「その件で、千里ちゃん、ちょっと後で相談に乗ってくれない?」
と雅海が言った。
 
「・・・いいよ」
と千里は答える。
 
「だけど、雅海ちゃんが女の子になっちゃうのは、みんな“織り込み済み”だから、あまり悩まなくてもいいよ」
「だいたい、もう睾丸取っちゃったんでしょ?」
「へ!?」
「だってね〜」
「旭川の某病院前で雅海ちゃんを見たという証言が」
 
それもしかしてお母ちゃんが言ってた病院かなあ。なんでみんな知ってるの?
 
「ゴールデンウィーク中に睾丸を取ったらしいと、女子はみんな噂してたよ」
 
そんな話になってんの〜〜〜!?
 
「クラスのみんなが、雅海ちゃんは女の子になりたいんだろうと思ってたよ」
「そうなの!?」
 
「セーラー服着て出歩いているの見た子たくさん居るし」
「婦人服売場でスカート選んでるの見た子も何人もいるし」
 
きゃー。結構見られてる。
 
「女の子の声が出せることは全員知ってるし」
 
嘘!?秘密にしてたのに(←恵香が言いふらした)
 
「多くの子は雅海ちゃんは実は声変わりしてないけど、男の子みたいな声を開発して、声変わりを装ってるだけと思ってる」
「うーん・・・」
「時々ブラジャー着けてるのもみんな認識してるし」
 
あはは。こないだもブラ跡指摘されたし。
 
「だから恥ずかしがらなくてもいいよ」
「6月から衣替えだし、それを機会に女子制服着て学校に出ておいでよ」
「うーん・・・」
 

なお、女子のトップは例によって留実子であった。千里と玖美子も並んで走って12位・13位になっていた。上位はやはり運動部の中核メンバーがランクインしていた。2-4位は全員陸上部員だった。
 
なお例によって
「2年生でゴールした女子が在籍数より多い」
と言って先生たちが悩んでいた。
 
渡したタグは学年と性別で色分けされている。3年生はオレンジとグリーン、2年生は赤と青、1年生は紫と黄である。2年生は在籍者は男45女36だが、祐川雅海が女子として出場したので、本来男44女37のはずだった。しかしゴールした2年生は、男は44人だが女は40人いた。
 
(千里が2人多いのと小春がいるから)
 

千里VはGが疲れて帰ってきた様子を見て
「お疲れ〜」
と言った。
 
「2km近く走ったらやはりきつい」
「お疲れお疲れ」
 
「Bが途中で消えちゃって、優美絵ちゃんがどこか溝にでも落ちた?とか騒いでたから、慌てて私が出現して残りを走ったけど、きつかった。でもなんでBは消えたのかなあ」
 
とGは訳が分からないようである。Gはゴールまで走ってからこちらに戻ってきた。小春の目には「Bが先にゴールしていたRのそばに近づいたから消えた」ように見えただろう。
 
(自分を含む千里の誰かを短距離・転送出現させる能力はA大神から借りている)
 
「疲れたからじゃない?」
「何か疲れたから消えるってBがいちばん多い気がする」
「もしかしてB自体が消えかかっているとか?」
とVは言った。
 
「その可能性あると思う?」
「Bは3人の中でいちばん存在感が薄いもん。バスケの練習にも週に2回くらいしか出てないし。最近授業も数学以外出てない」
「そうなんだよね。だから理科はほとんどYが出てる」
 
各千里は自分の苦手な授業の前には勝手に消えてしまうので、GやVが介入して、その授業を受けてくれそうな千里を出現させている。3人とも嫌がった時はGかVが出ている:だからGやVもセーラー服や体操服を用意している。
 
英語は3人とも得意だからその前の時間との兼ね合いで3人が平均して出ている。でも前回の授業内容を知らない!
 
「Rよりはマシだもんね」
「そうそう。私もRも精密思考ができない」
「勘でほぼ正しい答え出すから実用上問題無い気がするなあ」
「Bが消えちゃったら、貴司君との交際はどうしよう?」
「貴司君はすぐ次の恋人見付けると思うよ」
「確かにそうだ!」
とGは呆れるように言った。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【女子中学生・十三から娘】(5)