【女子中学生・十三から娘】(3)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
「十二天将を揃えるんですか!」
と、きーちゃんは出羽のH大神の話を聞いて驚いた。
 
きーちゃんは出羽に来ていた。傍で、G大神とY大神もお茶を飲みながら、将棋!をしている。盤面をチラッとみたが、さすがどちらも強そうだ。しかし出羽三神をまとめて見るのは初めてだが・・・アットホームじゃんと、きーちゃんは思った。
 
「ちょうど、うまい具合に適任の子が12人いるのよね〜」
とH大神は言って、12人のリストを見せてくれた。知ってる子もいる。
 
しかし12人もの眷属をコントロールするのは大変だぞ。“食わせて”いくだけでも大変なエネルギーだ。藤島月華にできるかなあ。あの人、小型の精霊なら10人くらいまでは制御できるだろうけど。見てると、龍とか天女とかの大物クラスばかりである。あ、亀さん、鳥さんに虎さんも居る。亀さんはおとなしそうだけど、虎女は苦手だなあ、などと、きーちゃんは考えている、
 
「あなたはコードネーム天乙貴人(てんおつきじん)ということで。だから貴人で“きーちゃん”」
「あのぉ、もしかして語呂合わせなんですか?」
「おほほほほほ、ほほほほほ」
 
まぁいいけどね。
 
「リーダーは、コードネーム騰蛇(とうだ)の春日冬宮ちゃんだけど、お調子者だから、あなたが影のリーダーということで」
「分かりました」
 
元々十二天将で天乙貴人というのはそういうポジションだ。
 
きーちゃんは、リストを見ていて、ある名前にピクッとした。
 
「このコードネーム勾陳に割り当ててある、紹嵐光龍。こいつを入れるのには反対です」
 
「どうして?」
 
「こいつパワーはありますけど、絶対主人の言うこと聞きませんよ。勝手なこと、悪いことばかりする性悪(しょうわる)者です」
 
しかしH大神は微笑んでいる。
 
「貴子さん、“馬鹿と鋏(はさみ)は使いよう”という言葉知ってる?」
「へ?」
 
「あなたたちが付く子は、多分こうちゃんも使いこなす」
「そんなパワーのある人ですか?」
 
藤島月華は凄い修験者ではあるけど、あいつを制御できるほどのパワーがあるとは思えないけどなあと、きーちゃんは思った。以前付いてた昭和の大霊能者・空島幸子(通称:虚空)だって、手を焼いていたのに。何度か本気で怒らせて処分されそうになり、必死で謝って勘弁してもらったものの、勤務態度は全然改まらなかったようだ。
 
そういえば空島幸子はまだ生きているという噂もあるけど、どうなんだろうね。生きてるとしたら90歳を越えているはずだけど、何かと話題に上るはず。でもここ10年くらい彼女の消息を全く聞かない。生きているなら寝たきりか何かかも。そもそも紹嵐光龍に新たな任務が割り当てられるということは、彼との契約は解除されている訳だ。それは通常亡くなったか、精霊を制御する能力を喪失したことを意味する。
 
現在、日本の霊能者世界は、一時期は三帝と言われた3人の内、瞬嶽が山奥に隠棲し、羽衣は海外逃亡中(*7)だし、虚空も(多分)亡く、紫微や歓喜はまだまだ力不足。パワーの空白状態になっている。何か変な奴が出てこなければいいけどと、きーちゃんはここ5-6年心配していた。
 
(*7) 弟子の桃源によると、羽衣は現在ロシア領内のどこかにいるらしい。何でも女とトラブルを起こして海外逃亡し、そのついでにエスキモーの古老にセドナの秘術を習っているとか。トラブルの内容は、女子高生を妊娠させてお父さんに殺されそうになったとも聞いた。でも精子あるのか?あの人、女なのに?若い頃出産しているから女というのは間違いないはず。ただ、レスビアンっぽいから、処女に傷つけたというのなら分かるけど。万一何かの原因で男に変わっちゃったとしても、100歳越えているはずだから生殖能力があるとは思えない。
 

「そうだ。出羽の方でお仕事に入るなら、私も鶴岡かどこかに住まいを確保しておいた方がいいですかね」
と、きーちゃんは大神に尋ねた。。
 
「そうだ。それお願いしようと思ってた。取り敢えず旭川周辺にお互いに干渉しない程度の距離を置いて、住まいを12個確保してくださらない?費用はうちの美鳳から渡させるから」
 
「旭川なんですか!?」
と驚く。じゃ、藤島月華に付くんじゃないの??
 
「女性6人はまともな住宅を。貴子さんは今住んでいる所でいいと思う。土地を買い足して広くしてもいいよ。男5人は適当な山小屋か犬小屋か洞窟を。天空さんにはお社(やしろ)を。たぶん彼のお社がいちばんお金掛かる。管理人は暫定的に適当な人か精霊を派遣する」
 
「ああ、男どもは、普通の住宅をあてがっても、すぐ壊しますよね」
「荒っぽい子が多いものね」
と言ってH大神も笑っていた。
 
大神様が「犬小屋」と言ったのはジョークとは思うけど“こうちゃん”には犬小屋をあてがってやろうか、などと考える。
 
きーちゃんは、ふと思いついて尋ねた。
「コードネーム・青龍の五島節也ちゃんには、普通の住宅を用意しましょうか」
「ああ。あの子はおとなしいからそれでもいいよ」
「女の子にしてあげたいくらい優しい雰囲気だし」
「本人が望めば女の子に変えてあげてもいいよ。女の青龍というのも面白いかも。そうだ。あなたに、性別変えられる能力をあげるね」
と言って、H大神は、きーちゃんに性別変更術を授けてくれた。
 
凄ーい。これ実際に使ってみたくなるなあ、ときーちゃんは思った。どこかに女の子になりたがってる可愛い男の娘は落ちてないかなあ。ハイレに使うのはもったいない。あいつには死ぬほど痛い性転換手術を受けさせてやる(小登愛を死なせたことで、実は怒っている)。
 
その後、美鳳から住宅確保費として30億円の小切手を渡された。
 
「これ30億円に見えるんですが?印字を1桁間違っておられまぜん?」
と確認する。
「ううん。間違いなく30億円」
 
「さすがに多すぎる気がします」
と言ったら
「余った分は運用資金ということで。不足しそうだったら言ってね。すぐ振り込むから」
「分かりました」
 
つまりその子の活動が、出羽にとっても、物凄いメリットを生み出すことになるのだろう。ビジネス??しかし最近は神様世界も貨幣経済になっているみたいだなと、きーちゃんは思った。
 

千里Bが増毛町でバスケットの大会に行った日(試合前に消滅したので実際に試合に出たのは千里Y)・4月24日(土)、千里Rは羽幌町で剣道の春の大会をしていた。留萌から羽幌までは車で約1時間掛かるので、一行は朝7時過ぎに留萌を出ている。
 
6:35 ●千里Rが自分のお弁当を作る
6:45 ●千里Rが自宅で朝御飯を食べる
6:55 ●千里Rが自宅を出てC町バス停に向かう
7:05 ●沙苗母が車に沙苗を乗せて自宅を出る
7:10 ●千里R・玖美子・セナがC町バス停で沙苗母の車に乗る
 
7:05 ■千里Bが自分と母と留実子の3人分のお弁当を作る
7:20 ■千里Bと母が自宅で朝御飯を食べる
7:39 ■千里Bと玲羅が津気子の車で村山家を出る
7:42 ■玲羅がP神社で降りる
7:45 ■津気子が花和家で留実子を乗せる
7:50 ■津気子がT町バス停で雅代を乗せる
 
7:51 ▼千里Yが自宅で朝御飯を食べる
8:05 ▼千里YがP神社に現れ玲羅に声を掛ける
 
8:10 ●沙苗や千里Rたちが羽幌町体育館に到着
8:20 ■千里Bや留実子たちが増毛体育館到着
 
千里が朝御飯を3回食べているのは村山家の日常!玲羅は御飯とカレーをタッパに入れて神社に持っていき、神社で食べた(出掛けるギリギリに起きたから)。
 
神社ではお昼は詰めている子の誰かが御飯を作る(この日は美那と穂花が作った)。食材費は支払っている報酬から1人1食100円だけ引かせてもらう原則だが、実際には(経済的な余裕のある)千里・玖美子・蓮菜の3人がまとめて払っている。中学卒業後は小町を通して千里Vが寄付するようになる。
 

さて羽幌町体育館に到着した千里Rたちは貼り出されているスケジュール表・対戦表を確認した。
 
男子団体戦は12校(8+4)、女子団体戦は7校(4+3)の参加である。
 
9:00 男子1回戦(4試合) ABCD
9:20 女子1回戦(3試合) ABC
9:40 男子2回戦(4試合) ABCD
10:00 女子準決勝(2試合) AB
10:20 男子準決勝(2試合) AB
10:40 女子決勝・3決 AB
11:00 男子決勝・3決 AB
 
団体戦は、羽幌町体育館のみで行われる。ここはアリーナに剣道場が4面取れるので同時に4試合をすることができる(時計のブザーは設定を変えて4種類使用する)。ただし連続で試合するのは辛いので、女子の試合と男子の試合を交互に実施して、休憩時間が取れるようにする。女子の組合せは↓のようになっている。
R中┓
D中┻□┓
K中┓ ┣□┓
C中┻□┛ ┃
M中┓   ┣
H中┻□┓ ┃
    ┣□┛
  S中┛

「嘘!?うちは1回戦不戦勝!?」
と千里が声をあげるが
 
「新人戦で優勝したから当然の配置だろうな」
と玖美子は言う。
 
「私、遅刻して出られなかったけど、みんな頑張ったんだね」
と千里は言っているが
「ああ、君が遅刻したから、代わりに千里君に出てもらったから」
と玖美子は言う。
 
「意味分かんなーい」
と千里は言っているが、沙苗は微笑んでいた。
 

ところで今日は男子2年(2年1組)の工藤君が白い道着を着ていた。
 
「何で白なの〜?」
「女子にこんな子いたっけ?と思った」
 
「僕の道着、母ちゃんがいつもの週のつもりで、うっかり洗濯しちゃってさ、今日着るのが無い、困るよぉ、と言ってたら姉貴が貸してくれたから、仕方なくこれ着てきた」
 
工藤君のお姉さんは3学年上なので、千里たちは一緒になったことが無いものの剣道二段の腕前である。工藤君は未だにお姉さんから1本取れないと言っている。
 
「いつもの週のつもりでって、まさか道着は週に1度しか洗濯しないとか?」
「え?ふつう金曜日に洗って土日で乾かさない?」
「ありえなーい」
「汗で臭くなるのに」
「普通毎日洗うもんでしょ?」
と女子たちの声。
 
「俺も金曜日しか洗わない」
「今日は大会があるから、母ちゃんに今日は洗わないでと言っといた」
と一部の男子たちの声。
 
(男子でも半数くらいの子は毎日洗ってると言っていた)
 
「お姉さんも週に一度の洗濯なの?」
「姉貴は2組持ってて、毎日洗って2着交替で使ってるるみたい。でも毎日洗ったら道着が傷まない?」
「汗掻いたまま放置してる方がよほど生地が傷むと思う」
 

ということで、今日は工藤君は白の道着での参加なのである。剣道の道着に白を着るか紺を着るかは特に規定は無いので、男子が白を着ても自由である。女子は白が多いが、紺を着る人もかなり居る。特に伝統を重んじる指導者には「白い道着なんて」と言う人もいるので、そういう先生の生徒さんたちは男女関わらず紺の道着である。
 
ということで男子の工藤君が白を着ても全く問題無い!
 
でも彼は顔立ちが優しいので、白を着てると、充分女子に見える!
 
「きみよちゃん、女子の方に行って控えてなくていいの?」
「個人戦のエントリーシート、今から出しに行くけど、きみよちゃんは女子の方に登録しておくね」
などと言われていた!
 
工藤君の名前は“公世”で“こうせい”と読むが“きみよ”と読むと女の子の名前にも聞こえるので、彼はわりと小学生の頃から“きみよちゃん”と呼ばれて女の子と間違えられることもあった。女の子と誤解されてスカート穿かされてしまったこともあると彼の昔のクラスメイトは言う(スカートを穿いても違和感が無かったとか)。
 
彼が剣道を始めたのも「男らしくなって、女と間違われることはないように」という気持ちもあったようだ、と竹田君は言っていた。
 
もっとも彼は、学生服を着ていたのに「女の子は男子トイレ使ったらダメ」と言われて男子トイレから追い出されたという伝説がある(その後どうしたのかは聞いていない)。
 

ともかくも、S中女子は10:00の準決勝からになった(工藤君はちゃんと男子の所に控えている)。
 
S中の相手は、H中に勝って準決勝に進出したM中である。吉田さんのいる所だ。しかし、M中との試合では、先鋒の如月、次鋒の聖乃、中堅の玖美子が各々相手の先鋒・次鋒・中堅に勝ち、3人だけで勝負が決まってしまった。
 
千里や武智部長の出る幕は無かった!M中も副将の吉田さんまで回らなかったので、吉田さんが悔しそうな顔をしていた。
 

それであっという間に決勝戦である。決勝戦は10:40から始まる。相手はむろんR中である。オーダーはこのようになっていた。
 
先鋒・田詩麗(ティエン・シーリー)
次鋒・大島晴枝
中堅・前田柔良
副将・麻宮沙樹
大将・木里清香
 
沙苗の予想が少し外れた!副将と大将が逆だった。
 
要するに、R中は、S中が「原田さんを出すなら大将にして」と言われたとは知らないから、こちらのオーダーをこのように予想した。
 
武智紅音・羽内如月・沢田玖美子・原田沙苗・村山千里
 
すると、田−武智、大島−羽内、麻宮−原田、でR中有利なので(R中は“本気”の沙苗を知らない)、前田−沢田戦、木里−村山戦が、どちらになってもR中が勝てる、という読みだったのである。
 
今回はお互いのオーダーの読み合い勝負だった!
 
しかし木里さんは『村山さんは絶対大将ですよ』という自分の読みが当たったことで大満足で、チームの勝敗については、ほとんど考えていない!
 
そして
 
「大将戦で村山さんとやれる」
というので、わくわく顔であった。
 

試合が始まる。
 
先鋒戦の田さんと如月では、身長182cmでパワーもある田さんに対してスピードと瞬発力で勝る162cmの如月が、田さんの“面積の広い”胴を狙い撃ちして、あっという間に2本取って勝った。
 
次鋒戦では、タイミング外しがうまく、カウンター狙いの多い大島さんは、166cmと背も高く小細工の前にパワー勝負の聖乃に一方的にやられ、1分で2本取られて負ける。
 
この2戦は、ほんとに相性の問題だった。沙苗の作戦勝ちである。
 
中堅戦になる。前田さんと玖美子の戦いである。
 
これが物凄い激戦になる。本割では1本ずつ取り、延長戦になるが、これでも決着が付かなかった。判定になるが、何と引き分け!の判定である。
 
そういう訳で、S中2勝1分の状態で、副将戦になる。
 
武智部長が「私まで回ってきたぁ!」と感動するように言ったが、R中の麻宮さんも「私も思った」などと言葉を交わして対戦である。
 
(「勝負前におしゃべりしない」と審判から注意をくらった!)
 
これがまたいい勝負になった。本割ではお互いに1本も取れず、中堅戦に続いて延長戦となる。これも激しい闘いになった。時間切れ寸前、麻宮さんの面をギリギリで避けた武智さんの返し胴が決まった・・・かと思ったが、声が掛からない。微妙に1本成立しなかったようである。
 
結局時間切れで判定となる。
 
引き分け!
 
両者礼をして下がる。
 
これでS中の2勝2分となったので、大将戦はせずに、S中の優勝が決まった。
 
木里さんが不満そうだった。むろん、負けたからではなく、千里と勝負できなかったからである!!
 

団体戦が終わると、女子の個人戦に出る選手は主催者が用意した(無料)バスで、羽幌中学に移動した。午後の個人戦は、男子はこのまま羽幌町総合体育館、女子は羽幌中学で行われる。
 
選手ではない生徒や、保護者・見学者は勝手に移動して!ということになっている。但し、選手を運んだ後のバスは臨時バスとして1人100円の料金で運んでくれることになっていたので、それで移動した人も多かったようである。
 
また選手(など)を車で運んできた保護者たちは、各々自分の車で移動し、ついでに一部の生徒なども運んであげたりしたようである。
 

女子が移動している間に男子は3決・決勝戦が行われていた。
 
今回男子12校の参加だった。S中男子はあまり実績が無い(昨年春の大会で沙苗の活躍により4位になったのが最高)ので1回戦からである。
 
男子のオーダーはこのようになっていた。
 
先鋒・吉原(1年)2級
次鋒・佐藤(2年)3級
中堅・工藤(2年)2級
副将・竹田(2年)1級
大将・古河(3年)2級
 
1回戦のE中戦だが、最初に相手チームから
「中堅の人、女子じゃないんですか」
と質問が入る。
 
でも工藤君は「男子」と書かれた剣道連盟の登録証を見せて男子であることを確認して試合は開始される(なんとなくデジャヴ)。(*8)
 
先鋒の1年生・吉原君は接戦で1本ずつ取り合った後、時間終了間際に1本取って勝った。次鋒佐藤君も接戦だったが、引き分け!そして工藤君は鮮やかに2本決めて勝った。そして竹田君は接戦で結局引き分け。
 
ここまで2勝2分なので、大将戦をせずにS中が勝ち上がる(女子の決勝と同じパターン)
 
(*8) 沙苗は女子としての出場許可を得た時に、女子としての剣道連盟の登録証(平成17年3月31日まで有効、という有効期限付きの登録証)を
もらっている。男子としての登録証は返却した。スポーツ少年団の登録は電話連絡の上、事務所まで本人を連れて行き、性別の登録を女子に変更してもらっている。
 

2回戦のC中戦では吉原君は引き分け、佐藤君は何とか1本で勝利。工藤君が鮮やかに勝ってここまで2勝1分け。ここで竹田君か最初1本取られたものの終了間際に1本取って判定となる。これが判定勝ちになって、3勝1分で、準決勝に駒を進めた。
 
S中男子が準決勝まで行ったのは昨年春の大会以来である。
 
準決勝のM中戦では、吉原・佐藤が敗れ、工藤君は勝ったものの、竹田君も負けて、決勝進出はならなかった。
 

3位決定戦の相手はW中である。先鋒戦は激しい勝負の末1:1の引き分け、次鋒戦で佐藤君は1本取られて負けたものの、工藤君が鮮やかに2本取って勝つ。工藤君は団体戦無敗である。竹田君は相手と激戦で、双方1本ずつ取り合った後、終了間際に相手が1本決めて2:1で惜しくも敗れた。
 
それでここまで1勝2敗1分で、大将戦となる。実はS中はここまで大将戦をしてなかった!古河さんは最初の対戦となる。
 
この対戦が実に微妙な対戦となった。
 
この対戦でW中は引き分けなら2勝1敗2分(S中1勝2敗2分)となり3位になれる。それで、引き分け狙いに来たようであった。
 
なかなか向こうから攻めてこない。古河さんが攻めると、それを巧みにかわしてカウンターを狙う。そのカウンター狙いが上手いので、元々この人はそういうスタイル?のようだ。しかし、あまりにも自分から攻めないので、ついに審判から消極的であるとして注意をくらった。それで(判定の引き分けが無くなったので)少しは攻めるものの、カウンターを取らせまいとするかのような、逃げ腰の攻め方である。こういう攻め方をすると竹刀が相手に当たっても1本にはならない。
 
実はW中はいちばん強い人は副将で(だからうちで一番強い竹田君に勝った)、大将はあまり強い人では無かったのである(S中も同じではあるが)。勝負はだいたい副将戦くらいまでに付くだろうということで実は大将になった人は捨て駒だった。ただ返し技は上手い人だったのでこういう対戦スタイルになったようである。
 
しかし古河さんは相手がまともに勝負に来ないので頭に来たと言っていた、
 
ほとんど気配の無いところから瞬間的に竹刀を突き出し、小手を1本取った。
 
それで向こうも挽回しなければと攻めて来るが、きちんとは決まらず、そのまま時間切れとなった。
 

結局古河さんの1本勝ちである。これで2勝2敗1分となった。双方1名代表を出して決定戦になるかな?と思ったが、審判は記録を確認している。
 
「赤の勝ち」
というコールがある。つまりS中の勝ちである。「え〜!?」とS中のメンツからは驚きの声があがるが、どうもW中側は分かっていたようである。つまりこうなっていた。
 
  白W中 赤S中
先鋒 △1−1△
次鋒 ○1−0×
中堅 ×0−2○
副将 ○2−1×
大将 ×0−1○
 
つまり勝敗では2勝2敗1分なのだが、取った本数がW中4本、S中5本でS中のほうが多いので、S中の勝ちということになったのである。2本勝ちした工藤君のお陰である!
 
S中男子は3位になったのは6年ぶりらしかった(昨年と4年前は4位)。
 

一方の羽幌中学体育館。
 
女子の個人戦参加者は82人(本日8:40締切)で、スケジュールはこのように発表されていた。
 試合数 予定時間
1r 18 12:30-13:06
2r 32 13:06-14:10
3r 16 14:10-14:42
4r  8 14:42-14:58
(10分休憩)
QF  4 15:08-15:20
(10分休憩)
SF  2 15:30-15:36
(10分休憩)
3rd   15:46-15:52
Final 15:52-15:58
表彰式・閉会式 16:10

羽幌中体育館には試合場は2コート取られている。
 
1-4回戦は延長戦が無い(判定でも引き分けならジャンケン)ので平均4分、準々決勝以上は延長戦あり(決勝・三決以外は、判定引き分けならジャンケン!)なので平均6分で計算されているが、実際の開始時間・また試合場は変動する可能性があるので、進行表に気をつけておくことという注意がなされている。
 
一応呼び出すが、審判が「始めます」と言ってから3分以内に来なければ不戦敗。これをやってしまう選手が毎回2〜3人居て、後で始末書を書かされる。
 

セナは女子として大会に参加するのは初めて、というか男子の試合にも出たことがないので、大会そのものが初めてである。「ぼく男の子なのに女子の試合に出てもいいのかなあ」と不安だったのが、22日に睾丸を取ってもらったことで「睾丸が無いなら女子と同じだよね?」と気持ちが楽になり、堂々と出場することができた。
 
そして1回戦、K中の1年生(4級)に1分で2本取られて負けて「みんな強ーい!」と思った。なお、セナと同程度の実力の清水好花は1回戦は辛勝したものの、2回戦でわりと強い人にあたり30秒で2本取られて負けた。
 
千里と玖美子はむろん1回戦不戦勝だが、2回戦・3回戦を無難に勝ってBest16に進出した。沙苗は新人戦では2回戦で負けているので今回も1回戦からだったが、1回戦は無難に勝つ。2回戦もそれほど強い人ではなかったので半開くらいの感じで戦い、1本ずつ取った後、2分半くらいに2本目を取って勝った。3回戦はもう少し強い人だった(H中1年の佐藤さん)ので、7割くらい解放する感じで戦い、この人とも2対1で勝って、BEST16に進出した。
 
「沙苗、相手を指導してあげている」
「特にそんなつもりは無いけど」
「強い人と対戦するのって凄く勉強になるからね。佐藤さんは夏にはBEST8くらいまで来るかもね」
「強い人だったよ」
 
今回、武智部長と聖乃は3回戦負け(Best32), 宮沢さんと真南は1回戦は勝ったものの、2回戦負けであった。
 

ベスト16に進出したのは下記である。
 
村山(S中初段2年)
沢田(S中1級2年)
原田(S中初段2年)
羽内(S中1級1年)
前田(R中1級2年)
木里(R中初段2年)
麻宮(R中1級3年)
田(R中1級1年)
吉田(M中1級2年)
木下(M中2級2年)
井上(C中1級2年)
倉岡(C中2級1年)
阿部(H中1級3年)
広島(K中1級2年)
中山(K中2級3年)
桜井(F中2級2年)
 
S中とR中が4人ずつ入っていて、この2校が2強になっているのも分かる。
 
現在この地区に3年生の初段は居ない!2年生に3人いる初段が全員ここに揃っている。ここから強者同士の潰し合いが始まる。
 

4回戦以降は再抽選?されてこのような組合せが発表された(ほとんど人間が決めてる気がする)。
村山S┳┓
阿部H┛┣┓
田_R┳┛┃
中山K┛ ┣┓
前田R┳┓┃┃
井上C┛┣┛┃
原田S┳┛ ┃
木下M┛  ┣
木里R┳┓ ┃
広島K┛┣┓┃
羽内S┳┛┃┃
倉岡C┛ ┣┛
沢田S┳┓┃
桜井F┛┣┛
麻宮R┳┛
吉田M┛

 
同校対決ができるだけ後の方で起きるように配慮し、また実力者の木里・村山・沢田・前田の4人を分散させている(やはり人間が全部決めたのでは?)
 
千里や木里さんは貫禄で勝って準々決勝に進んだ。広島さんなど、木里さん相手に最初から気合負けしていた。確かに彼女に見詰められたら全く勝てそうな気がしないかも?
 
沙苗はついに90%くらい解放した。しかしM中の木下さんは普段吉田さんの練習パートナーを務めている人なので、強い相手に慣れている感じである。結構本気の沙苗の攻撃が効かない。1分半ほど経ったところで1本返し胴を取られたので、ついに100%解放した。そこから猛烈な攻めをして1本取り返す。そして終了間際に小手を決めて、何とか勝った。
 
礼をした後、沙苗が思わず「強〜い!」と言ったら、彼女も「あなたこそ」と言った。木下さんは団体戦では玖美子とやり、個人戦では沙苗とやって、いづれも惜しい所を敗退し、「S中は村山さん以外にも強い子が何人もいる」と思った。
 
沙苗はこれで女子でもベスト8進出だが、昨年夏の大会で男子でベスト8まで行った時やその前の大会で3位になった時より、ずっと大変だという気がした。
 
やはり男子の大会では、千里が言っていたように、対戦相手が女とみて本気にはならなかったからだろう。(だから千里は女子とやる時は10%くらいの力を出すのに男子と対戦する時は5%くらいの力しか使わない:向こうが本気で攻めて来ないからである)
 
そういう訳でBEST8に残ったのは村山(S2)中山(K3)前田(R2)原田(S2)木里(R2)羽内(S1)沢田(S2)麻宮(R3)である。
 
S中は4人とも残っているしR中も3人残っている。1年生で唯一ここまで残った如月は毎日、千里・玖美子・沙苗という猛烈に強い3人とやっていて、この半月だけでもかなりの進化をした。S中R中以外では、K中の中山さんが居るだけである。
 

10分間の休憩を置いて準々決勝が行われる。準々決勝はこのような組み合わせになる。
 
村山S−中山K
前田R−原田S
木里R−羽内S
麻宮R−沢田S
 
千里は中山さんに、木里さんは如月に、順当に勝った。如月は「全く勝てる気がしなかった」と言っていた。しかしそうい相手と真剣勝負をしたことで物凄い勉強になったはずだ。
 
玖美子と麻宮さんの対戦はかなりの熱戦になったが、時間切れ間際に玖美子の返し胴が決まり、玖美子が1本で辛勝した。
「延長になったら勝てなかったと思う」
と玖美子は言っていたが、彼女はわりと運のいいタイプなのである。
 
沙苗は前田さんに攻撃が全く通じず「うっそー」と思った。あっという間に1本取られ、2分ちょっと過ぎた所で更に1本取られて完敗である。その対戦を見て千里は、前田さん、かなり進歩してる!と思った。
 
沙苗は女子剣道部に入って初めて、自分を鍛え直そうという気持ちを強く持った。でも千里ちゃんのお陰で全力で戦ったからこそ、得られた境地かもしれない気がした。本当に私、女の子になって良かったと思った。男子のままで居たら、きっとずっと中途半端な気持ちのままだったろう。
 
(後で種明かしを聞くと前田さんは沙苗と当たるかもと思い、沙苗の対戦のビデオを見て癖を研究していたらしい)
 

そういう訳で、ベスト4は、千里・玖美子・木里さん・前田さん、とシードされていた2年生4人である。この日のここまでの対戦を見ていても、留萌地区で、この4人の実力が抜きん出ているのがよく分かる。
 
10分の休憩を置いて、準決勝か行われる。
 
が、どちらもあっけなく片が付いた。
 
千里−前田は1分で千里が2本取ったし、木里−玖美子も30秒で玖美子が2本取られて決着が付いた。実力差が大きいのでここはどうにもならない。
 
準決勝がすぐ終わったので休憩時間は5分に短縮され、まずは3位決定戦が行われる。
 
前団さんと玖美子が対決するが、この2人も本当に良いライバルである。前田さんもかなり進化していたが、玖美子は彼女の太刀筋をよく読んでいるので、スピードではやや彼女に劣るものの、うまく相手の攻撃をかわしく行くし、少しでも隙があれば返し技を出して行く。
 
結局本割ではどちらも1本取れず、延長戦に入る。これもなかなか決着が付かなかったが、終了間際、双方最後の勝負という感じで面を打ちに行く。
 
止めがかからない!
 
つまり相打ちだったようである。残り5秒でふたりは再度面打ちに行ったがこれはどちらも決まらず、試合終了となる。
 
そして判定は、引き分け!
 
前田さんの方が勢いがあったから判定になると不利かなと思ったのだが、玖美子も充分対抗していたという判断だったようである。
 
そういう訳で、2年生最初の大会では、玖美子と前田さんは3位を分け合った。昨年春の大会で千里と木里さんが3位を分け合ったのと似たような展開になった。
 

決勝戦になる。
 
千里も木里さんも気合充分である。
 
「始め」の合図で試合が始まるが、木里さんは物凄い気魄である。
 
最初から激しく、しかもスピーディーな戦いとなる。どちらもほとんど気配の無いところから瞬間的に攻撃に行くが、双方、それをしっかりかわして、反撃に行ったりする。
 
「この子たち二段同士?実際には三段レベルだよね。え?嘘!?どちらもまだ初段なの?信じられない!」
などという会話が飛び交うほどハイレベルの戦いだった。
 
本割終了間際、木里さんがほんとに何も気配も無いところからいきなり面を打ちに来た。
 
が千里も超反応して、ほぼ同時に面を打ちに行く。
 
両者の面はほぼ同時に決まった。
 
相打ちかな?と思い、残心を残したまま、いったん引き、すぐ態勢を立て直す。
 
が「面あり」の声。
 
あらぁ。負けたかな?と思って審判を見たら、旗は赤??
 
うっそー!?
 
つまり千里の面が有効で、木里さんのは無効という判定である。
 

残り3秒だが、両者向かい合って、試合再開する。
 
むろん木里さんはすぐに面を打ちに飛び込んで来る。千里はそれを軽やかに交わし、彼女が態勢を立て直した瞬間、こちらが面を打ちに行く。でも彼女もそれをギリギリでかわす。
 
ここでブザー。
 
それで千里は新人戦に続き、春の大会の個人戦でも優勝したのであった。
 
双方礼をして下がる。
 
木里さんは千里に言った、
「私もだいぶ鍛えたつもりだったけど、村山さん、異次元に進化してる。また夏までに鍛え直す。夏の大会の決勝でまたやろう」
 
「そうだね。今年は栃木(全国大会)に行こうよ」
「行きたいね!」
「留萌から2人行けたら画期的だよ」
「うん。頑張る!」
 
2人はそう言って握手をした、
 
最終勝敗表
村山S┳村┓
阿部H┛ ┣村┓
田_R┳中┛ ┃
中山K┛   ┣村┓
前田R┳前┓ ┃ ┃
井上C┛ ┣前┛ ┃
原田S┳原┛   ┃
木下M┛     ┣村
木里R┳木┓   ┃
広島K┛ ┣木┓ ┃
羽内S┳羽┛ ┃ ┃
倉岡C┛   ┣木┛
沢田S┳沢┓ ┃
桜井F┛ ┣沢┛
麻宮R┳麻┛
吉田M┛

 

さて、羽幌町総合体育館で行われていた男子の個人戦だが・・・
 
参加者が135人なので、1回戦(7)→2回戦(64)→3回戦(32)→4回戦(16)→5回戦(8)→準々決勝(4)→準決勝(2)→三決(1)・決勝(1)、という進行になる。
 
竹田君は、昨年度の春・夏・新人戦とBEST16だったのだが、今回はついにBEST8まで進出した。K中の門田さんに負けて準決勝には進めなかったものの、5位の賞状をもらった(5-8位決定戦はしない)。
 
そして今回、工藤君も凄かった。これまではBEST32までしか行ったことは無かったのに、竹田君同様、BEST8まで進出する。R中の来宮さんに負けて準決勝には行けなかったものの、竹田君同様、5位の賞状をもらった。
 
彼が白い道着で次々と紺色の道着の選手を倒していくので、“白い稲妻再び”?という騒ぎが一部で起きていた。新聞記者が寄ってきて、取材を申し込んだ。
「工藤公世(くどう・きみよ)さんって女子選手ですよね。また何かの事情で男子の部に出たんですか?」
と岩永先生に尋ねたのだが・・・
 
「彼は普通の男子ですよ。名前も“きみよ”じゃなくて“こうせい”です。彼は、うっかり自分の道着を全部洗濯して、お姉さんのを借りて来ただけです」
と先生は答える。それで記者も
 
「なーんだ!そうだったんですか」
とがっかりした様子であった。
 
それで『白い稲妻・再び』というのは、幻の記事となった!
 

そのやりとりを見てて、竹田君が言った。
「工藤が今回凄い成績を収めたのは、その白い道着のおかげかもな」
「え?白を着ると強くなるの?」
 
「違うよ。白を着てると、工藤って元々女顔だし、声もハイトーンだから、女子が男子の試合に出てるように相手は思ってしまう。すると、あまり強く打って怪我させたらとか思って相手は自然と手加減してしまう。それで勝っちゃった」
 
「うーん・・・」
 
「去年、原田が3位になっちゃったのも、同じ原理だと思う」
「そういえば、そうかもしれない」
と佐藤君が言う。
 
「じゃやはり夏の大会ではここまで行かないかなあ」
と工藤君。
 
「原田みたいに性転換して“女子の部”に行く?」
と竹田君が言うと
 
「どうしよう?」
と工藤君は悩むような顔で言った!
 
迷うのか!?
 

千里の父の船は、4月29日(木・みどりの日)は休まずにそのまま働いた。そして4月30日(金)の夕方帰港すると、次の週は一週間お休みで、次は5月10日(月)の朝出港である。
 
千里と玲羅の学校、また津気子の会社はカレンダー通りなので、次のような休みになる(●休◇出)。
 
4/29木● 30金◇ 5/01土● 02日● 03月● 04火● 05水● 06木◇ 07金◇ 08土● 09日● 10月◇
 
連休中、千里YはずっとP神社に詰めていて、勉強会に参加しながら、昇殿祈祷や笛の演奏をしていた(笛は千里・恵香・小町の3人で交替)。また“光辞”の朗読も進めていた、
 
玲羅は学校の無い5月1-5日,8-9日は一日中神社に行って・・・算数ドリルをやらされていた!玲羅は勉強は苦手たが、父と話したりするのは、もっと嫌である。
 
父は30日に帰港した後、疲れがたまっていたのか5月3日くらいまでひたすら寝ていて、4日は福居さんの所に行ってビール飲みながら将棋をしていたようである。長時間居て申し訳無いので、津気子はビール券を持たせて福居さんの奧さんに渡してあげていた。
 
千里はこのふたりの将棋を1度だけ見たことがあるが、二歩どころか三歩になっていても気付かず、王手掛かっているのに掛けたことになった側も気付かず、掛けられた側も他の手を指すとか、全く酷い将棋だった。まだ歩を斜めに動かしたりしない分だけマシな程度だった(そこまで行くともはや別のゲーム!)。
 

玲羅は神社ではお勉強のかたわら「お姉ちゃんがあれだけ上手いなら、きっとあんたもできる」と言われて取り敢えずプラスチック製の龍笛を渡され、笛の練習もすることになった。
 
玲羅は確かに笛とは相性が良かったようで、笛の腕前はかなり上達する。姉との違いは、千里は龍笛もフルートも吹けるのに、リコーダーが全く吹けないという変な人であるのに対して、玲羅は龍笛が吹けるようになると、それまで苦手だったリコーダーもちゃんと吹けるようになり、音楽の先生から褒められた。
 
「村山さん、龍笛吹くなら、ファイフも吹けるよね?」
と言われて、鼓笛隊でも、小太鼓係から、ちょうど欠員が生じたファイフ係にコンバートされた。
 
「ファイフですか?」
「スカート穿けることが条件だけど問題無いよね?」
「スカートあまり好きじゃないけど、穿くのは問題無いです」
 
ファイフは、千里に頼んで旭川まで連れて行ってもらい、自分で購入していた。旭川まで行ったついでに色々ゲームの本なども買っていた。
 

千里Bは休みの間は毎日Q神社でご奉仕していた。こちらでは休み中はメインの笛担当となり、京子・映子の姉妹と3人で昇殿祈祷の笛を吹いていた。
 
神社の一室でいつも漫画を読んでいる(正確には漫画読みながらオナニーしている)貴司は、しばしば神社の力仕事に徴用される。捧げ物の移動をしたり、建物の高い所が壊れたのを修理したりなどしていた。
 
千里の手が空いている時は、バスケットボールを持って1on1などしたりもするが、千里はどんどん進化している。この頃はまだ貴司が圧倒的に強いのだが、たまに抜かれたりする場合もある。
 
「千里、女子の試合に出られないんだったら、いっそ男子の試合に出ない?千里の力なら男子チームでもベンチメンバーに入れると思う」
などと誘う。
 
「嫌だ。男子の試合には出たくない」
と千里は答えていた。
 
(4月24日の大会では男子は増毛町立体育館、女子は増毛中学で試合をしていたので、貴司は千里(実は千里Y)の出た試合を見ていないし、千里Bは自分が出た覚えは無いので「私が女子の試合に出る訳ない」と言う)
 

そして千里Rは実は、玖美子・沙苗、そしてR中の木里清香・前田柔良にも声を掛けて、旭川に行き、きーちゃんの家で越智さんに指導をお願いしたのである。要するに特別強化合宿!である。
 
4月30日(金)夕方の高速バスで旭川に出て、瑞江さんがレンタカーで借りたエスティマに全員で乗り込み、きーちゃんの家に入った。この日は夕食を取ってすぐ寝るが、翌日5月1日から、5日夕方まで、5日間みっちりと5人で練習する。千里はその間の雑用と食事作りなどのため“米沢湖鈴”(よねざわ・こりん)もここに泊めることにした。
 
きーちゃんがコリンを「ふーん。いい子だね」と言って値踏みするように見ていたので、コリンは身の危険を感じて?「私男の人が好きです」と言っていた!
 
ここは6畳サイズの個室が4つあるので、これを
 
No.2 千里・沙苗
No.3 玖美子・湖鈴
No.4 清香・柔良
 
と使用する(No.1は、きーちゃんの私室)。
 
玖美子は千里や沙苗と一緒でもいいと言ったが、沙苗が「玖美子ちゃんと同室はやばいよぉ」と言うので、沙苗と千里が同室になった。
 
越智さんは男性なので!毎日自宅からここに通ってくる。
 
「越智さん、ここに泊まっても問題無いように、ちょっとした手術受けたりしません?いい病院を紹介しますよ」
などと、きーちゃんが言う(実は“例の能力”を試してみたい)。
 
「それやると女房に離婚されそうだから遠慮しとく」
と越智さんは言っていた。
 

それで5月1日から5日までの5日間、5人は越智さんに、みっちり鍛えられた。
 
きーちゃんは剣道の練習がしやすいように、隣接する土地を買って、そこに剣道の練習ができる、15m×30m(140坪)という小型の体育館並みの家?(名目は倉庫!)を建ててくれていたので、その練習場で練習した。
 
土地が150万円、建設費が400万円だったらしく、値段を聞いてびっくりした。床(フローリング)は檜山産ヒバで、この購入費が建築費の大半を占める。
 
「部活ではどうしても他の子の指導に取られる時間が多いから、こんなに密度の高い練習は超嬉しい」
などと木里さんは、大喜びだった。
 
越智さんは木里さんにもほぼ手加減せずに打ち込んで行くので、木里さんの真剣度が200%アップした感じだった。むろん千里と木里さんもお互いかなりやりあったので、木里さんにとっては、ほんとに充実した5日間となった。
 
玖美子・沙苗・前田さんの3人が比較的近い実力なので、この3人でもひたすら無限マッチをして、3人ともクタクタになるも、大満足だったようである。
 
「ところで前田さんの名前(柔良やわら)って、まるで柔道でもするような名前だよね」
「ああ。うちの両親はふたりとも柔道選手」
「そうなんだ!」
「だから漫画の『YAWARA!』から採って“やわら”になったらしい」
「だったら柔道も強い?」
 
「全然。小さい頃、道場に通わされていたけど、幼稚園の子にも負けてた」
「うーん・・・」
「4年生の時に、同じクラスだった(木里)清香ちゃんに、剣道の試合で頭数足りないから助っ人になってくんない?と言われて出たら、向こうのチーム3人倒して。それでハマっちゃったのよね」
 
「すごーい!」
「天才だ!」
「うん。才能あるとか天才だとか褒めちぎられてうまく乗せられて、両親は『剣道なんて』と言ってたけど、完全にこちらに来ちゃった」
と彼女は言っていた。
 

食事はコリンが作ってくれるが、食材が結構多くなるので(5人で20人分くらい食べる:男子が居ないのでみんな食事も本気)、瑞江に頼んで買出しをしてもらい、コリンはできるだけこの家に居て、千里たちをサポートするようにしていた。筋肉を酷使するので、タンパク質の多いメニューにしていた。
 
練習後は、お互いにマッサージしたりしていた(組合せは寝室を共有しているペア)。なお5人も泊まり込むので浴室待ちが生じないように、“倉庫”に付属して4つバスルームも併設したので、待ち時間無しで入浴できる。沙苗を本棟の浴室に入れたが、木里さんなど、裸で浴室から出て来て、裸のまま素振りしていた!
「竹刀を振り下ろした時に、おっぱいがあまり揺れないのが良い振り下ろし方」
などと彼女は言っていた。
 
中西太の振りチン素振り伝説か!?(長嶋茂雄にも同様の伝説がある。中西の振りチン練習に付き合わされたのは豊田泰光、長嶋の振りチン練習に付き合わされたのは土井正三)
 
女子にはチンチンが無い代わりに、おっぱいの揺れで身体の安定度を確認する?
 
でも、せめてパンティ穿けよ!!
 
前田さんがこのおっぱいの揺れの確認役をさせられていた!
 
しかし沙苗を体育館付属のお風呂ではなく、本棟のお風呂に入れたのは正解だったようである。
 

この5日間で、5人ともかなり進化したようだった。
 
「北海道大会には4人、全国大会には2人しか行けないけど、その枠をここにいる君たちで独占できるようにしたいね」
と越智さんは言っていた。
 
「越智さんご自身のお弟子さんはおられないんですか?」
「ぼくは勤め人だから」
「へー」
「転勤とかは無いんですか?」
 
「出世する人は転勤もあって道内飛び回るみたいだけど、僕はそういうのには縁が無いんだよ。一度上司と大喧嘩して出世コースからは外されたみたいで」
「あらあ」
 
「若い頃は上川支庁内を、上川町・下川町・中川町・占冠村とかも行ったけど、もう10年くらいずっと旭川市内だね。市内で勤務先だけ3年くらいに1度変わる」
と越智さんは言っていた、
 
「でも越智さんは国体で優勝したこともあるんだよ」(*9)
 
ときーちゃんが言う。
 
「すごーい!」
 
「あれは20代の時だからね。今はあの時よりだいぶ落ちてると思う」
「やはり20代30代がどうしてもピークになりますよね」
 
「そうそう。だから剣道で本当に強いのは四〜六段だと言う。七段以上は名誉段位みたいなもの」
「あ、越智さん六段だ」
 
「でも僕も五段の頃が一番強かったと思う。君たちは若い内に思う存分鍛えた方がいいんだよ」
と越智さんは言っていた。
 
(*9) 越智が六段を取れたのはこの実績があったからかも。剣道で六段という段位は充分な実力のある人でも、ひたすら落とされる壁のような段位として有名。だから逆に「五段が最強」という話にもなる。
 

セナは4月22日の夜に睾丸を取ってもらったのだが、23日(金)の朝、いつものように“タック”をしようとすると
 
タックが楽だ!!!
 
という大発見をした。
 
これまでは、部屋の壁などを利用して、頭だけ起こして横になり、睾丸を体内に押し込んでお腹に力を入れ飛び出して来ないようにし、その間にちんちんを後ろ向きにして紙バンで仮固定し、これを陰嚢の皮で左右から包むようにしては接着剤で固定していく(接着剤が手に付かないようにゴム手袋を付けておく)。
 
作業をする間、睾丸が飛び出してこないようにしておかなければならない。また、もうひとつ面倒な問題もある。こういうことをしていると、つい“興奮”してちんちんが大きくなってしまいがちだが、大きくなると作業ができないのである。
 
ちんちんが大きくならないようにするには主として2つの方法がある。
 
(1)冷水で冷やして要するに“縮こまった状態”にする。
(2)生理的に“しばらく大きくならない”状態にする。
 
(1)の方法はお風呂場などでやる必要があり、朝からそんなことしているのは大変である。それでセナは不本意ながら(2)の方法を採っていた。でもこれは、男性固有の機能を使うことになるので、そんな機能を使用すること自体に罪悪感を感じていた。
 
更に気のせいか、4月3日夜に、喉仏を消してもらって女の子っぽい声が出るようになって以来、精神的な問題なのか(2)をするのに物凄い時間が掛かるようになっていた。以前は“作業”を始めるとだいたい数分程度で“男の素”の流出があり(*10)、ちんちんは急速に縮んでいたのだが、あれ以来最低でも10分以上掛かるようになっていた(時間が掛かるので手が痛い)。それで(2)の方法を採るにも時間が掛かって困っていたのである。
 
(*10) 世那の場合、粘度が無いので“噴出”ではなく“流出”する感じである。実は世那は粘度のある液体の流出を過去にも経験したことがなく、“男の素”って、このようなものと思い込んでいた。つまり世那のそれには元々精子が含まれていなかった可能性がある。きーちゃんは睾丸を除去した時、世那のペニスがまだ小学4年生サイズだったのを確認している。今後は女性ホルモンの影響でこれが更に萎縮していくはずだが。
 
しかし、世那は女の子の仕組みにも無知だが、男の子の仕組みに関する知識も、かなり怪しい。また世那はセックスのしかたも知らない。
 

さて22日朝まではそういう事情だったのだが、睾丸が無いと
 
(1) 睾丸が落ちて来ないようにお腹に力を入れ続けておく必要が無い。
(2) ちんちんが立たない(美事に立たないので感動した!)ので、楽に陰嚢の皮で包み込んでいくことができる。
 
それで木曜までは毎朝この作業に20-30分掛かっていたのが、金曜日の朝はわずか5分ほどでこの作業を完了することができたのである。
 
睾丸が無くなるだけで、こんなに楽になるとはと感動し、朝起きて睾丸が無くなっていることを認識した時は「大変なことしちゃったかな」という気持ちも少しあったものの、タックが簡単にできたことで「これ凄くいい!」と思うようになったのであった。
 
また、これまでは日中に睾丸が降りてきてしまい、物凄くみっともない状態(棒が無くて玉だけある状態)になり、トイレ(もちろん女子トイレ)で修正するのにかなり苦労していた:本当は横になってやりたい。身体が起きている状態で体内に押し戻すのは凄く難しい。しかしこの日は1日学校で過ごして、体育もあったし、剣道部の練習をしてもタックは一切崩れなかったので感激する。そして
 
「凄くいいことしてもらったなあ」
と思うようになったのであった。
 
「睾丸なんてもっと早く取ってもらえば良かった」
とも思う。
 
「沙苗ちゃんみたいに、幼稚園の内に睾丸取ってもらいたかったなあ」
 
(女子の間では、千里は生まれてすぐ、沙苗は小学校に入学する前に睾丸を取ったらしいと言われている!)
 

その日、部活に出て、P神社で勉強会に参加してから20時頃に帰宅する。むろんセーラー服を着ての帰宅である。
 
「ただいまあ」
と言ってセナは家に入るがドキドキしている。睾丸取っちゃったこと知られたら叱られるかなあという後ろめたさがある。
 
でも母は特に昨日のことには言及せず
「明日は何時に出るんだっけ?」
などと明日の中体連・剣道大会の話をした。
 
父もセーラー服姿のセナを見て
「なんか5年くらい前から女子中学生してたみたいに似合ってる」
などと言っていた。
 
「5年前は小学3年生だよ!」
 

「そうだ。あんた、ナプキンとかは用意しておかなくていいんだっけ?」
と母に訊かれた。
 
「それ友だちから言われて、お勧めのナプキンとパンティライナー買っちゃった」
「ああ買ったんだ」
 
「それどこ置いてるの?」
と姉が訊く。
 
「自分の部屋の机の引き出し」
とセナが少し恥ずかしがりながら答えると
 
「トイレに置いとけばいいよ。トイレで装着・交換することになるからさ」
「そ、そうだね」
 
それで高山家には、母・恋蘭(レラ)のナプキン、姉・亜蘭(アラン)のナプキン、“妹”・世那(セナ)のナプキンと、母および娘2人のナプキン・パンティライナーが並ぶことになったのであった(アランは昼用・夜用・パンティライナーの3段重ね)。
 

24日(土)の大会では、1回戦で負けたが、セナは女子の部に出たことだけで充分満足だった。睾丸を取ってもらっていたことで、女子の部に出ること自体への罪悪感はあまり無かった。
 
沙苗母の車(ビスタ)で、千里・玖美子・沙苗と一緒にC町バス停まで送ってもらい、そこから歩いて帰宅する。大会が終わったのは16時半頃で、17時半頃に沙苗母の車はC町バス停に到着した。この日の留萌の日没は18:22で、太陽はまだ充分水平線より上にあった。バス停まで父が迎えに来てくれていたので、セナは父と一緒に家まで歩いた。
 
「そういや、お前男女どちらに出たの?」
「女子の部に出ちゃった」
 
「ああ。性転換手術受けたんで、女の方に出たんだっけ?」
「そのあたりは少し微妙なんだけどね。私、そんなに強くはないから、あまり問題にならなかったみたい」
「まあ1年間ブランクがあったしな」
 
「ごめんねー。防具とか竹刀とか買い直しになっちゃって。高いのに」
「どっちみち成長すれば使えなくなるし、それは仕方ないよ」
「私、あんまり強くないから、高い道具もったいない気もするけど」
「上の人たちは凄いんだろうけど、普通の人は健康作りくらいの気持ちでやればいいんじゃないの?」
「そうだよね!」
と言ってから、セナは父に言った。
 
「私、男の子じゃなくなっちゃったのも、ごめんね」
「まあがっかりしなかったといえば嘘になるけど、自分の人生なんだし、自分の思うままに生きればいいんじゃないか」
 
「そうだよね!ありがとう」
 
「ただ後悔はするな。常に前を見て進んでいけ。過ぎたことを悔やんでも変更はできない。だから今ある自分がこれからどう生きていくかだけを常に考えていればいいんだよ」
 
セナは父からそんなことを言われて、本当にそうだと思った。睾丸取っちゃったこと、後悔したくなることもあるかもしれないけど、取っちゃったものは、もう今更どうにもならない。睾丸を取ったことで失った可能性を羨むのではなく、睾丸を取ったことで広がった未来に夢を持てばいいんだ。セナは父と話していてそんなことを考えた。
 
お父さんと話して良かった!!
 

帰宅すると「汗掻いてるだろうし、お風呂入ればいいよ」と言われたので、着替え持って来て、お風呂に入る。
 
一般的な女子の長さまで伸びた髪にシャンプーを付けて洗う。この洗い方も男子の髪の長さの時は「頭を洗う」感じだったのが女子になると「髪を洗う」というやり方に変わった。
 
使うシャンプーもお父さんも使っている男性用のサンスター・トニックシャンプーではなく、母や姉が使っているパックス・ナチュロンというブランドのシャンプーを使わせてもらう。独特の優しい香りが、ほんとに「自分は女の子」という気持ちにさせてくれていい。シャンプーをした後、コンディショナーを掛けるというのも、女の子独特の髪のメンテをしている感じでよい。
 
身体を洗う。ブレストフォームは簡単には外せないので日常は着けっぱなし!である。沙苗ちゃんに取り外し・装着をお願いしないといけないのだが、沙苗ちゃんは5/1-5日は玖美子ちゃんたちと合宿に行くと言っていた。それで4/30に学校が終わった後、取り外して、5月5日の夜にまた装着してもらうことにしている。
 
お股を洗う!
 
そこには長年見ていた、ちんちんの姿は無く、割れ目ちゃんのように見えるものがある。この“ちんちんの無いお股”を洗うのが、凄く心に充足感を与える。これはフェイクだけど、私、ほんとうにこういう感じのお股になっちゃってもいいかもしれないという気持ちになる。
 
(でもセナは女性のお股の構造がいまだによく分かっていない)
 
その後、足を洗い、足の指先まで手の指を使って洗うが、足の指の間を洗うと疲れが取れていくみたいで気持ちいい。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【女子中学生・十三から娘】(3)