【女子中学生・十三から娘】(1)

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ドミニカ共和国(*1)の西部にラス・サリナス(Las Salinas)という町がある。この町にはグエベドーセ(Guevedoce)(*2) と呼ばれる子供たちが多数いる。
 
この子たちは、医学的には5α還元酵素欠乏症(5α-Reductase deficiency 5ARD) と呼ばれるもので、出生時には女の子のような性器外観であるのに、思春期に到達すると、それまでクリトリスと思われていたものが急速に発達してペニスに変わり、男の子の性器外観に変化してしまうというものである。
 
5α還元酵素欠乏症はどこの国でも一定の割合で発生している(ただし多い地域がある。後述)もので、これが判明すると、本人も親も物凄く悩むことになる(*3)のだが、ラス・サリナスには、こういう子たちがたくさんいるので、本人も周囲も、突然の性転換にパニックになることもなく
 
「男の子になっちゃった♪」
くらいの感覚なのだと言う。
 
要するにこの地域では自然に性別が変わってしまうのは、特別なできごととは考えられていない。「ちんちんが生えてくる」のは、よくある出来事である。
 
グエベドーセ(Guevedoce)の“グエベ”は、おちんちん、ドーセは12歳のことで、要するに、“12歳のおちんちん”、少しソフトに書けば“12歳から息子”“12歳男子化”くらいの意味である。
 
グエベドーセの子たちは、1990年代にこの子たちを紹介した日本のテレビ番組では、彼らは意識は普通の男の子であり「ぼくは最初から男の子だったよ」と言っている、とレポートしていたのだが、その後の調査によると、やはり女の子として育てられた分、普通の男の子とは少し意識が違っていて、いわば“第3の性”のような性別意識になっているという報告もある。(でも普通に女の子と恋愛して結婚して子供を作る)
 
(*1) ドミニカ共和国 (Republica Dominicana) とは、アンティル諸島北部(大アンティル諸島)の国で、ひとつの島の西半分がハイチで、東半分がドミニカ共和国となっている。公用語はスペイン語である。
 

 
名前が紛らわしいドミニカ国 (Commonwealth of Dominica) は、アンティル諸島中部(小アンティル諸島)の島国で、いづれもフランス領のグアドループ島とマルティニーク島に挟まれている。公用語は英語である。少し北方にセントクリストファー・ネイビスやアンティグア・バーブーダなどがある。
 
ラス・サリナスがあるのはハイチの隣のドミニカ共和国。
 
(*2) スペイン語では v は b と同じ発音なので“グエヴェ”とするのは誤り。“グエベ”でよい。スペイン語の c は 英語のthのように発音するので、“ドーチェ”ではなく“ドーセ”である。
 
(*3)昔は男として生きる以外の道が無かったが(自殺者も多かったと思う)、現代では性転換手術を受けて女の身体に戻り女性ホルモンを摂取して、女性的な身体を維持し、これまで通り、女として生きる道もある。しかし12歳の段階で「男になるか女に戻るか選べ」と言われても、なかなか決断できるものではない(でも本人が決めるしかない)。むろん彼らは医学的には男性なので、女に戻っても妊娠出産は不可能である。先進国の場合は男を選ぶ人と女を選ぶ人が半々くらいらしい。
 
ドミニカ共和国以外では、パプアニューギニアでも多数の症例が見付かっている。トルコや中国にも多いらしい。
 

2004年1月17日に留萌市民体育館で行われたバスケットボールの新人戦に、様々な偶然の悪戯で、午前中の第一試合・第2試合には千里R、午後の第3試合には千里Yが出た。
 
その時千里Yは
「女子バスケット部ってユニフォーム無いの〜?」
と訊いた。実はS中女子バスケ部は、それまで授業で使う体操服にゼッケンをマジックテープで貼り付けて試合に出ていたのである。
 
ところがこの大会で、S中は地区2位になった。昨年秋の大会で3位になり、女子バスケ部創設以来の初メダルとなる銅メダルだったのが、今回は更に上の銀メダルで、学校側の期待が膨らむと同時に
 
「ユニフォームが無いのはまずい」
 
という話が急浮上した。
 
地区大会で優勝した場合は、その上の北北海道大会に出る権利を獲得する。本来バスケットボールでは、選手は統一されたユニフォームを着なければならないし、それをホーム&アウェー用で濃淡2種類用意しておく必要がある。それを昨年までは、いつも1回戦で負けている弱小校ということもあって、大目に見てもらっていた。
 
ところが2位・3位になる学校なら、ちゃんとユニフォームを用意してくれ、と実はバスケット協会側から、顧問の伊藤先生は強く言われたのである。実際北北海道大会に進出した場合、ちゃんとユニフォームが無ければ参加できない。
 

伊藤先生が校長に相談した所、ぜひ作ろうということになったものの、女子バスケ部のみを特別扱いする訳にはいかないから、何とか寄付を集めてくれと言われる。でも校長は個人的に3万円も寄付してくれた。
 
しかしユニフォーム作りはどう考えても25-26万は掛かる。この費用をどうしようかと先生は悩んだのである。
 

1月下旬、千里Gは、学校の放課後の時間帯に留萌Q神社を訪れて、細川さん(貴司の母)に相談したいことがあると言った(通常千里BがQ神社に来るのは土日祝のみ)。
 
「何かしら」
「実は女子バスケット部で今までユニフォームが無かったのを作ろうという話になっているのですが、予算が無いみたいなんですよ」
 
「ユニフォームが無いって、今までどうしてたのよ?」
「体育の授業で使う体操服にゼッケン貼り付けて出てたんです」
「それ違反だと思う」
 
「これまではいつも1回戦で負けている弱小ということもあり、お目こぼししてもらってたんですよ」
 
「ああ」
 
「でも女子バスケ部も、昨年秋の大会では地区3位、こないだの新人戦では地区2位になったんで、いつか優勝して北北海道大会に行ける日が来るかもしれない。それでユニフォームが無いのはまずいということで、バスケ協会からも強く注意されたらしくて」
 
細川さんは、その費用を自分に寄付してもらえないかという話かと思った。それで千里に訊いた。
 
「それどのくらい費用掛かるの?」
「ネットだと1着あたり7-8000円程度みたいなんですけど、伊藤先生が、ヘリンボーン・スポーツさんに照会してみたら1着あたり6000円、SML取り混ぜて20人分の濃淡2色で合計40着作って、24万円でやってくれるそうです。むろん、学校名入りで」
 
「24万か・・・・」
 

「それで細川さんにお願いがあって」
「うん」
 
「ここに24万円持って来ました」
と言って、千里(千里G)が封筒を出すので仰天する。
 
「私がお金を出したとなると、あれこれ人間関係が面倒くさいから、細川さんからの寄付ということにして学校に渡してもらえないでしょうか。女子バスケ部員でない方が、スッキリすると思うんですよ」
 
「まああの子は男子バスケ部員だから」
「性転換して女子部員になるなら大いに歓迎です」
 
「それでもいいけど(いいのか?)。でも、このお金はどうしたの?」
「こちらの神社でずっとバイト代を頂いていたのを貯めてました。その一部です」
 
細川さんは考えた。確かに千里にはかなりのバイト代を払っている。それにしても24万円というのは、これまでに払ったバイト代の大半を使う形になるのではないか。
 
「千里ちゃんの心意気は分かった。でも24万円は出し過ぎだよ。半額は私が出すから、千里ちゃんは12万だけにしない?」
 
「でも12万とか大金ですよ」
「でも貴司がずっとバスケット部にはお世話になってるからね。余裕のある人が出すのが良いと思う」
 
「じゃ私が18万で細川さんが6万くらいの線では」
「そうだね〜。それでもいいか」
「はい」
 

それで細川さんはその場で千里に6万返し、自分で6万追加して24万円を持ち、S中に出掛けて、伊藤先生に会った。そして女子バスケット部のユニフォーム代として寄付したいと言ったのである。
 
伊藤先生は、寄付をどうやって集めるか悩んでいた所たったので驚いたものの、この申し出に感謝した。
 
「ただ既に校長と教頭が3万ずつ寄付してくれてるんですよ。私も微力ながら1万出していますので、残りは17万だったんです」
「でしたらその17万を」
「ありがとうございます」
 
それで細川さんは17万を学校に寄付し、ちゃんと税務申告(寄付金控除)に使える領収書を発行してもらった。
 
しかしこれでやっと女子バスケットボール部のユニフォームが作られることになったのであった。
 

細川さんは返金された7万円を土曜日に来た千里に
「既に7万は集まってたからというので返されたから、3:1で分けよう。千里ちゃんに5万3千円(*4)返すね」
と言って渡した。
 
しかし“この千里”(千里B)は寄付なんて話を知らないので驚いて
「いったい何ですか〜?」
と尋ねた。
 
「だって、千里ちゃん女子バスケ部のユニフォーム代に寄付するといって私に代理の寄付を頼んだじゃん」
「私がですか!??」
といって、“この千里”は訳が分からない。
 
「とにかく返すよ」
と言われるので、よく分からないまま、千里Bは5万3千円を受け取ったのであった。
 
(*4)正確には7万×3/4=5.25万だが細川さんは端数を切り上げた。
 

S中2年生の新学期は4月6日から始まったのだが、その日の授業が終わった後、セナは帰りがけの沙苗をキャッチして
「沙苗ちゃん、相談があるんだけど」
と言った。
 
「あのね。実は身体測定のことなんだけど」
「うん?」
「私、1-3月も女子と一緒に身体測定を受けたけど、先月までは着衣のままだったでしょ?」
「ああ」
 
「今月からは下着姿になるんでしょ?その時、おっぱい無いのバレちゃうと思って」
「下はどうやって隠してるの?」
「アンダーショーツで押さえてる」
「それ冬の間はいいけど、夏は蒸れて辛いよ」
「それも悩んでた」
 
「ちょっと、うちにおいでよ。色々教えてあげるから」
「ありがとう!」
 

それで、家に連れて来てから、沙苗はセナにまず
「これあげる」
と言って、ブレストフォームを渡した。
 
「こういうの使ってたんだ!」
「接着剤で貼り付けるんだよ。そしたら水泳しても大丈夫だから」
「すごーい」
「外す時は剥離液を使うんだけど、難しいから最初は私に声掛けて」
「うん」
 
それで沙苗はセナの胸の付近をよくよくウエットティッシュで拭いてから、ブレストフォームを貼り付けてあげた。
 
「重い」
「おっぱいは重いよね〜」
「沙苗ちゃんもこういうの使ってるの?」
「私は実際の胸が育ってきたから、もう要らなくなった」
「じゃその胸って本物?」
「そうだよ」
「すごーい。どうやったら、そんなに大きくなるの?」
「女性ホルモン飲んでるからね」
「それ飲んだ方がいい?」
「いったん飲み始めたら、もう男には戻れなくなる。そして飲み始めたら、死ぬまでずっと飲み続けなければならない」
「死ぬまでずっと・・・」
「だから女性ホルモンを飲み始めるのは覚悟が必要」
「うーん・・・」
「セナちゃん、まだその覚悟が無いでしょ?」
「無いかも」
 
「だから覚悟ができるまでは飲んだら駄目だよ」
「少し考える」
「それがいい」
 

その後で、沙苗はセナに“タック”を教えてあげた。
 
「すごーい。女の子みたいになっちゃった」
「画期的でしょ?」
「うん」
「これなら女湯に入ってもバレない」
「女湯〜〜〜!?」
「実際には、ちんちん付いている人が誤魔化して女湯に入るのは、限り無く違法に近いけどね」
「・・・・」
 
「でもセナちゃんは、もう男湯に入ることはできないよ」
「私も男湯には入りたくない。でも修学旅行、どうしよう?」
「修学旅行は来年だけど、その前に今年の夏には、2年生の夏季教室があるよ。青年自然の家に泊まり込み。当然女子たちと一緒にお風呂に入る」
 
「きゃー」
 
セナが悩んでいるようなので、沙苗は言った。
 
「なんなら、行けばすぐ性転換手術してくれる病院、教えてあげようか?」
「どうしよう!?」
 
(沙苗は千里から教えられて、どのくらいの費用が掛かるのかとかだけ聞いてみようかなと思い玄関先まで行ったものの、恐くなってそのまま帰ってきた)
 

セナたちは4月8日の午前中、身体測定を受けた。
 
3月までは、セナの書類は男子の中に入っていたのを男子の保健委員が女子の保健委員に渡してくれて、それでセナは女子と一緒に身体測定を受けていた。しかし今年度からセナは学生簿上も女子になっているので、最初から書類は女子の方に入っている。
 
それで他の女子たちと一緒に保健室に行く。
 
みんな制服を脱いで下着姿になる!
 
セナは「体育の時の更衣室と同じ」と自分に言い聞かせて、緊張しないようにし、自分も下着姿になった。さりげなくセナの下着姿を見る視線があることに、セナは緊張していたこともあり、気付かなかった。
 
普通に身長と体重を計られて、それで終わりかと思ったら、
「そちらのカーテンの向こうに行って」
と保健委員の蓮菜に言われる。
「何だっけ?」
「4月は内科検診があるから」
 
内科検診〜〜〜!?
 

どうしよう?お医者さんに見られたらやばいよぉ、と焦りながらセナはカーテンの向こうに行った。ひとつ前の順番の玖美子が待っている。玖美子はセナに向かってニコッと微笑むと、セナに手招きして耳元で囁いた。
 
「生理が乱れてないかと訊かれたら順調に来てますと言いなよ」
「う、うん」
「日付訊かれたら先週の日曜日、4月4日に来たと言って」
「うん」
「その前はって訊かれたら、3月最初の日曜だったと言えばいいから」
「日曜なんだ?」
「生理周期は28日で、7で割り切れるから、毎回同じ曜日に来る」
「すごーい!」
 
女の子って身体の中にカレンダーを内蔵してるんだなあとセナは思った。
 
やがて玖美子がカーテンの向こうに行く。お医者さんに診察されているようだ。私、変に思われないかなあと不安になるが、やがて「次の人」と呼ばれて中に入る。70歳くらいの男の先生だ。その先生を見た瞬間、この先生なら誤魔化せるかもという気がして、落ち着きが出た。
 
若い女の先生とかなら絶対バレるだろうけど。
 
聴診器は下着の上から当てられる。これが心電図だとヤバいのだが、聴診器程度は沙苗からもらった高機能ブレストフォーム(セナはこの値段を知らない。知ったら仰天する)は平気である。医師は特に不審には思わなかったようだ。背中にも聴診器を当てられる。これも問題無い。
 
「生理は乱れたりしてませんか?」
「はい。順調に来ています」
「じゃ問題無いかな。もういいですよ」
と言われたので
「ありがとうございます」
と言って服の入った袋を持ち、席を立つ。
 

「レントゲンはそちらに行って」
と看護師さんから指示される。
 
レントゲン〜〜!?
 
大丈夫かなあと不安を感じるが、セナは内科検診を乗り切った勢いで、レントゲンもきっと何とかなると開き直り、そちらに進んだ。
 
保健室の外側にレントゲン車が駐まっていて、そこで撮影は行われるようだ。ここでも玖美子が待っていた。玖美子は既に上半身裸になっている。セナは彼女のバストを直接見ないようにした。
 
「それ沙苗からもらったブレストフォームでしょ?」
と玖美子から訊かれる。
「うん」
「そのブレストフォームならレントゲンも問題無いはず」
「ほんと?よかった」
 
それでセナはブラジャーを外して上半身裸になった。撮影の終わった恵香が出て来て、いきなりセナのおっぱいを揉む。
「きゃっ」
とセナが声をあげたのを微笑んで見て、玖美子は撮影室に消えた。
 

「豊胸手術したの?」
と恵香から訊かれる。
 
「まだしてない。これ沙苗ちゃんからもらったブレストフォーム」
「なるほどー。でも普通に本物のおっぱいに見える」
「なんか凄いよね。でも重くて肩が凝りそう」
「うん。実際女の子は肩が凝りやすい」
「わぁ」
「腕立て伏せして胸の筋肉を鍛えよう」
「頑張ろうかな」
などと言っているうちに恵香はブラジャーを着け、キャミソール、防寒用のシャツと着てタイツも履き、セーラー服の上下を着てしまう。玖美子が撮影室から出てくる。恵香は手を振ってレントゲン車を出て行った。萌花が代わりにレントゲン車に入ってきてセナの生?バストを見て頷いている。
 
セナが撮影室に入る。
「機械に抱きつくようにして」
と言われて抱きつくが、胸があるので身体と機械は接触しない。
「はい。そのままね」
と言って技師さんは部屋の外に出る。
「大きく息を吸って。停めて。はい、いいです」
 
それでセナは撮影室から出た。萌花が代わりに中に入る。絵梨がブラジャーを外そうとしていた。玖美子が服を着ている最中である。絵梨はセナの生?おっぱいを揉む!
 

「だいぶ育ってるね。やはり去年の夏性転換手術を受けてからずっと女性ホルモン飲んでたのね」
などと言われる。
 
去年の夏に性転換手術!?ひょっとして女子の間ではそのような話になってるんだっけ?(正解!)玖美子まで
 
「まあ今年中には生理来るだろうね」
などと言うので、絵梨は納得していた。
 
玖美子は(たぶんサポートのため)セナが服を着終わるのを待ってから一緒にレントゲン車を出て教室に戻った。
 
こうして、セナは初めての下着での身体測定、内科検診、X線間接撮影を無事乗り切ったのであった。
 

沙苗は下着での身体測定は昨年5〜9月にも受けていたが、他の女子と一緒に内科検診・レントゲンをするのは初めてであった。しかしセナがおどおどしているのを見ていたら、沙苗自身は不安が無くなり、普通に平常心で受けることができた。そもそも他の子たちが沙苗を何も特別扱いしていない感じだった。
 
でもそうやって女子の中に埋没している中で沙苗は
「私も早く本当の女の子になりたいなあ」
という思いが募っていた。内科検診を受けた時に
「生理は順調に来ています」
とは答えたものの、生理について自分は一生嘘をつき続けなければならないんだよなあという思いが、自分の心を苦しめた。
 
なお、千里はこの日身体測定・検診・レントゲンを受けたのはRだったので、特に何も問題なく診察を受けた。
 

千里が歌っていた「一掛け二掛け三掛けて」の元歌はこのような歌詞である。
 
「一掛け二掛け三掛けて、四掛けて五掛けて橋を架け、橋の欄干、手を腰に、遙か彼方を眺むれば、十七八の姉さんが、花と線香手に持って、もしもし姉さん、どこ行くの?私は九州鹿児島の西郷隆盛の娘です」
 
千里が歌ったのはこうである。
 
「一掛け二掛け三掛けて、四掛けて五掛けて橋を架け、橋の欄干、手を腰に、遙か彼方を眺むれば、十二十三の娘さん、花と線香手に持って、もしもし嬢ちゃん、どこ行くの?私は必殺仕事人・鰊(にしん)の“おちさ”と申します」
 
この歌は『抜刀隊』のメロディーに乗せて歌われる。『抜刀隊』のオリジナル歌詞はこのようになっている。
 
「我は官軍我が敵は、天地いれざる朝敵ぞ。敵の大将たる者は、古今無双の英雄で、之に従うつわものは、共に慓悍决死の士・・・・」
 
抜刀隊というのは、西南戦争の時に、川路利良・大警視(現在の警視総監)が率いる東京警視庁隊から選抜して編成された精鋭部隊で、この部隊の活躍により、田原坂の戦いで政府軍はかろうじて勝利を収めたのである。多分機動隊のルーツ。
 
川路大警視は日本の警察制度の基礎を作った人であり、彼が書いた「巡査心得」は現在でも日本の全ての警察官に読まれている名文である。
 
川路利良は実は薩摩出身であり、このことから地元鹿児島では、今でも川路を“裏切り者”と批判する向きがあるが、川路としては、日本の分裂は何としても避けなければならないとして、ただ日本のために敢えて自分の出身地の人たちと戦ったのである。
 
「抜刀隊」の歌はこの精鋭部隊の活躍を歌った歌だが、このメロディーが実に多数のわらべ歌に転用されている。有名な物として「一番始めは一宮」という数え歌もある。この「一掛け二掛け三掛けて」も数え歌だが、この歌の主人公は西郷隆盛の娘になっており、政府軍の歌だったのが、逆に薩摩側の歌に転用されているのが凄い。
 
なお必殺仕事人に使用された替え歌はこのようになっていた。
 
「一掛け二掛け三掛けて、仕掛けて殺して日が暮れて、橋の欄干腰おろし、遙か向こうを眺むれば、この世はつらい事ばかり。片手に線香・花を持ち、おっさん・おっさん、どこ行くの?私は必殺仕事人、中村主水(もんど)と申します」
 

川路利良といえば「川路の垂れ金玉」というのが有名である。
 
彼は戊辰戦争の時に、敵の銃弾を陰嚢に受けたことがある。銃弾は陰嚢を貫通したものの、睾丸は無事だった。つまり、陰嚢は伸びた状態にあったことになる。これが臆病者なら、陰嚢が縮み上がっていたろうから、その場合、睾丸は銃弾で破裂していた。睾丸が無事だったということは、陰嚢が縮んでなかったということで、激戦の戦場においても、勇猛であった証拠である、として称えられたというもの。
 
たぶん、金玉で称えられたのは、日本史上、川路だけかも!?
 

しかし戦争では、槍や刀の類いはあまり男性器に当たることは無いと思われる(急所ではあるがそんな所を狙うより胴体とか首を切った方がよい)が、矢や銃弾は男性器に当たることもかなりあったのではないかと思われる。男性器は失っても致命傷になりにくいことから、川路の場合は無事だったものの、戦争で陰茎や睾丸を失った人というのは、古代から結構いたかもしれない。
 
実はFTMの人のペニス形成法は元々戦争で陰茎を失った人のペニス再建手術が出発点になっている。この手術をFTMとして恐らく初めて受けたのがローレンス・ディロン(出生名ローラ)で、執刀したのはハロルド・ギリース。ギリースは多数のペニス再建手術を手がけていた。
 
ギリースは最初のFTM性転換手術の執刀医となったが、その後、ディロンからの紹介でロベルタ・コーウェル(出生名ロベルト)のMTF性転換手術も執刀することになる。これは戦後2番目のMTF性転換手術である(戦後初は日本医大で手術を受けた永井明子)。
 

4月20日(火).
 
S中の岩永先生は剣道連盟に呼ばれた。そして、沙苗の女子の部への出場を認めるという、北海道剣道連盟の文書を手渡された。
 
連盟の人は出場を認めた理由として下記を挙げた。
 
・骨格、特に腰の付近が女性的に発達しかけており、この年齢の女子の骨格と類似している。またペニスがマイクロサイズまで縮小しており、このペニスのサイズと骨格の形から、男子の思春期以降の男性ホルモンのシャワーには、曝されていないと判断される。
 
・睾丸は1年前に除去済みであり、女性ホルモンが過去1年に渡って、この年齢の女性の標準値の範囲であり、また男性ホルモンも過去1年に渡って、この年齢の女性の標準値の範囲である。
 
・筋肉の量がこの年齢の女子のアスリートの標準値の範囲下方であり、男子のアスリートの標準値からは大きく離れている。
 
以上により、本人が男子であった時期の身体的発達による優位性は無いと認められる。
 

文書では、2004年度内の、北海道内の剣道連盟主催の大会に出場できると書かれていて、来年の春頃に再度検査させて欲しいということであった。
 
「原田さんがもし全国大会に出場できる順位になった場合は、再度東京の病院あたりで、性別の検査をさせてもらうことになるかもしれません」
 
「分かりました。本人もそれは受け入れると思います」
 
「それとね。これ僕個人の希望」
と連盟の人は言って、岩永先生に小さな声で
 
「この子、団体戦に出すならできたら大将に」
と付け加えた。
 
岩永先生は
「はい、考慮させて頂きます」
と答えて、明言は避けた。
 

そういうことで、今度の大会に沙苗は女子として出場できることになったのである。S中では、沙苗の出場資格がギリギリまで分からなかったので、個人戦には沙苗を女子としてエントリーするとともに、団体戦については、下記のように出場候補者を提出しておいた。
 
羽内如月(1)・沢田玖美子(2)・村山千里(2)・原田沙苗(2)・武智紅音(3)・月野聖乃(1)・御厨真南(1)・宮沢香恵(2)
 
沙苗が出られないということになった場合は、聖乃を起用する手である。
 
しかし沙苗の出場が認められたので、今回のオーダーはこのようにすることにした。
 
先鋒・武智紅音(3年)2級
次鋒・羽内如月(1年)1級
中堅・沢田玖美子(2年)1級
副将・村山千里(2年)初段
大将・原田沙苗(2年)初段
 
3年生の部長が先鋒というのは、普通は最強の人を先頭に置く作戦と思われるところだが、実は5人の中で最も弱い!武智部長は
 
「これが私が出場する中学最後の大会になるかも」
などと言っていた!
 

ところがここで沙苗が異論を唱えたのである。
 
「私は団体戦出ませんから、個人戦だけに出して下さい」
「なんで!?」
「病院で恥ずかしい検査まで受けたのに」
 
沙苗は趣旨を説明した。
 
「R中はこういうオーダーで来ると思うんです」
と言って、沙苗はR中の予想オーダーをホワイトボードに書いた。
 
田・大島・前田・木里・麻宮
 
「つまりですね、向こうはこちらのオーダーがこうなると予想しています」
 
武智・羽内・沢田・村山・原田
 
最初に決まりかけていたオーダーである。
 
「この場合、田−武智、大島−羽内、麻宮−原田は、R中有利です。この3つを勝つと、前田−沢田、木里−村山がどちらに転んでもR中が優勝できるんです」
と沙苗は言う。
 
「うーん・・・」
「それに向こうは千里ちゃんが副将で出てくると予想してるから、木里さんが絶対に副将になりたいと言いますよ」
「言いそう!」
 
「だから敢えてこういうオーダーにします」
と沙苗はこういうオーダーを書いた。
 
羽内・月野・沢田・武智・村山
 
「これだと、(羽内)如月ちゃんは田さんに相性がいいし、(月野)聖乃ちゃんは大島さんに相性がいいし、千里ちゃんは確実に麻宮さんに勝ちます。部長は木里さんに勝てないでしょうけど、前田−沢田戦の如何に関わらず、これならうちが優勝できるんですよ」
 
「要するに私は捨て駒か!」
と武智部長。
 
「ごめんなさい」
と沙苗は謝るが
 
「いや。これでいいと思う。優勝できるオーダーで行こう」
と武智部長は言った。
 
岩永先生は強さ順にしないオーダー、そしてせっかく出場許可を取った沙苗を使わないことに不満だったようだが、外れる当の沙苗が提案し、捨て駒となる武智部長も賛成するので、このオーダーでよいことにした。
 
(強さ順なら、武智紅音・原田沙苗・羽内如月・沢田玖美子・村山千里になる。如月(1級)と沙苗(初段)の対戦では7割くらい如月が勝っている。武智部長と月野聖乃の実力はやや微妙である:練習での対戦はほぼ互角)
 
「でもこういう作戦は1回しか使えないよ」
と岩永先生。
 
「まあ夏には真っ向勝負ですね。それまでに如月ちゃん・聖乃ちゃん・真南ちゃんを徹底的に鍛えるということで」
と沙苗。
 
「きゃー、それこわい」
と当の新1年生3人が楽しそうな顔で言っている。
 
「どうもやはりこれが私の中学最後の大会になるようだ」
と武智部長は言った。それで、今大会の団体戦には、沙苗が提案したオーダーで臨むことにして、沙苗は個人戦だけに出ることにしたのである。
 

千里は後から沙苗に言った。
 
「自分の出場許可が後で取り消された場合を考えたでしょ?」
 
「まあね。勝ち抜き戦だと、座り大将ができるから、実際の対戦は発生しない可能性が高い。私に回ってきた場合は、千里が負けるような相手に私が勝てる訳ないから、普通に対戦して負けるだろうし。そうなると、私がオーダーに入っていても実際に対戦してないか負けたかだから順位は取り消されなくて済む」
 
「うん」
 
「でも1対1方式だと大将戦で微妙な相手と対戦する可能性がある。その時、私の対戦に上位進出が掛かることになるから、私は負ける訳にはいかないし必死になる(←普段は手抜きしてることを自白してるが千里は気付かない)。でも私で勝って上位に進出あるいは優勝を決めたら、後からその勝利が取消される危険がある。今のチームの状態なら、組合せ次第では私が出なくてもR中に勝てるかもと思って必死で考えた」
 
「私ならあんな組み合わせ思いつかないよ!」
「千里ちゃんはその手の論理思考が苦手っぽい」
「そうそう。私は考えるより先に行動するタイプ」
と千里(千里R)は言っていた。
 

4月22日(木).
 
沙苗が部活を終えて帰ろうとしていたら、千里に呼び止められた。
「ちょっと付き合わない?」
「いいけど」
 
それで千里が呼んでいたタクシーに乗り込む。見ると既にセナも乗っている。千里はふたりを市内の古ぼけた家まで連れていった。
 
「ここは病院?」
「病院だったけど、3年前に廃業したんだよ。私の親戚の人の所有物件」
と千里は説明する。
 
「へー」
 
「それで何が始まるの?」
「ここは手術をする設備がまだ生きてるんだよ。だから、セナを私と沙苗の手で性転換手術してあげようと思って」
と千里は言った。
 
「え〜〜!?」
とセナは驚いているが、沙苗は
「それいいね!」
と言う。
 
「セナも沙苗も今夜お泊まりする許可取ってもらえる?」
「うん」
 
それで各々のお母さんに電話していたが、千里と一緒と言うとOKしてくれた。どうもこの手の問題に関しては千里は信頼されているようである。ついでにセナの母との電話で、千里は途中で代わって
「セナちゃんの性転換手術をしてあげたいんですけど、いいですか」
と言うと
「はい、よろしくお願いします」
とお母さんは言っていた!
 

「まあ取り敢えず、御飯食べよう」
と言って、千里は2人を居間に案内する。
 
既にシチューが出来ているし、人数分の食器が配膳されているので、沙苗は誰か(多分おとなの)人がいるんだというのを感じた。千里も自分たちも学校に行っている間に、これを準備した人がいたはずである。
 
「手術前に御飯食べてもいいんだっけ?」
と沙苗が訊くと
「大丈夫じゃない?胃腸の手術じゃないし」
と千里は言っている。
 
セナはこれから手術されると言われてドキドキしているが、特に嫌がる様子もなく、むしろ期待している感じである。それを見て、千里は“やっちゃっても”問題無いなと思った。
 

「だけど性転換って、性器の手術より重要なのが精神的な性別・社会的な性別の“壁越え”だよね」
と沙苗が言う。
 
「壁越え?」
とセナが言うと、千里も
 
「そうそう。性別を変えるのって、陣取り合戦みたいに地面に線が引いてある所を横切って男子グループから女子グループに行くようなものじゃない。男子校と女子校の間に作られている警報付きの壁をよじ登って向こう側へ行くみたいな労力が必要」
と言う。
 
「そんなものかなあ」
「様々な抵抗・逆風に立ち向かう必要があるからね。理解してくれない人も多いし」
と沙苗が言うが、セナはそのあたりの感覚がよく分からないようである。
 
「1990年代に、アメリカで男性でも女声が出せることを発表して、世界中のMTFさんに衝撃を与えた、メラニー・アン・フィリップスが言っていた。男か女かというのは、声の高さではないって」
 
「ふーん」
 
「メラニー・アン・フィリップスが公開した本人の声は女性の声にしか聞こえなかったから当時、世界中のMTFさんが驚いたんだけど、それだけきれいな女声を出せていても、なお、人が性別を判断するのは、声の高さではないと言うんだよね」
 
「というと?」
と沙苗も興味深そうに訊く。
 
「例えばね。マクドナルドに行って、ビッグマック2個とポテトの大盛り、コーラのLとか注文したら、いくら女の声で話しても、相手に性別疑惑を抱かせる、と」
 
「うーん・・・・・」
 
「女性の注文はこうだと言うんだよ。ハンバーガー単品にコーヒーのS。あっそうだ。それにサラダ付けてくれる?って」
 
「なるほどー」
 
「でもお腹すくじゃん」
とセナは言うが
 
「人前ではちょっとだけ食べて、後で隠れてたくさん食べるのが女性の常套手段」
と沙苗は言う。
 
「そうなんだ!?」
とセナは驚いている。こういう“女の裏側”のことをセナはまだよくは知らない。
 
「でもこの1年間、女子として過ごしていて、私食欲が小さくなった気がする」
と沙苗が言うと
 
「女の身体って、効率いいからね。男より小さいエネルギーで稼働できるんだよ」
と千里は言った。
 

普通におしゃべりしながら御飯を食べ、食器を取り敢えず台所に片付ける。千里が紅茶を入れてくれて、クッキーも出てくるのでそれを摘まむ。
 
「フォションの紅茶だ」
とセナが言う。
「クッキーもだよ」
「へー」
 
お茶を飲みながらまた普通におしゃべりしていたのだが、千里は唐突に
「これから起きることは夢だよ」
と言った。
 
セナがドキッとする。これは今月3日に喉仏を取ってもらったのの“続き”だ。
 
白いカードを何枚か出して、千里はそこに下記のような文字を記入した。
 
P・T・L・V・U・B・PV
 
「こないだはAを引いたから喉仏を消したね。今夜はまた1歩女の子に近づこう」
と言って、カードを裏返しし、シャッフルして、セナにどれか1枚選ぶように言った。
 
セナがドキドキしながら1枚引く。
 
“PV”
 
のカードだった。
 

「ペニス(Penis)を取ってヴァギナ(Vagina)を作るの?」
と沙苗が尋ねる。
0
「それを望むなら今すぐしてあげてもいいけど」
と言って千里はセナの顔を見るが、セナは手を口の所に当てて“どうしよう?”と悩んでいるようである。それを見て千里は言った。
「まだ決断できないみたいだから、今日はPelvis」
「なるほとー」
と沙苗。
 
「何だっけ?」
とセナ。
 
「腰の骨だよね?」
と沙苗は確認する。
「そうそう」
と千里は答える。
 
「セナの骨格は男性ホルモンの影響で男子として発達しかかっているんだよ。特に骨盤が完全に男性化しつつある。肩の骨はまだ中性的なんだけどね。このままでは赤ちゃんを妊娠する時に安定して赤ちゃんを支えられないから、それを女子の骨盤に変える」
 
「それどうやって変える訳?」
と沙苗が訊く。
 
「骨をいったん融かして女の子の骨格の型に入れて冷やして固める」
「換骨奪胎だ」
と沙苗が言う。
 
セナは「え〜〜?」という顔をしている。
 
「沙苗みたいに小学4年生頃で去勢してれは、こんな大変な処置をしなくて済んだんだけどね」
「私、やはり本当は小学4年生の頃に去勢されてたのかなあ」
「そうだと思うけど」
 
「ちなみに他のカードは?
「P:ペニスの除去、T:睾丸の除去、L:大陰唇の設置、V:ヴァギナの設置、U;尿道口の移動、B:おっぱいを作る」
 
「最初に睾丸を取ればいいのに」
と沙苗。
「ついでに睾丸も取ろうか?」
と千里はセナに尋ねた。
 
セナは一瞬迷ったようだが
「取ってもらえたら嬉しいかも」
と言った。
 
「睾丸取ると、もう父親にはなれなくなるよ」
「それは構わない。私、女の子と結婚するとは思えないし」
「ちんちん立たなくなるけど」
「立つのが嫌だったからそれでいい」
「射精も起きなくなるけど」
「要らない」
「オナニーしても今までほどは気持ち良くなくなるよ」
「オナニーする度に罪悪感を感じてた。私女の子になりたいのに男の子の機能使っちゃったって。だからできなくなっていい」
 
「じゃ睾丸もついでに取るということで」
と千里は言った。
 
セナの記憶はここで途切れている。
 
「沙苗もこのカード引きなよ」
と千里は言って、別のカードのセットを見せた。
 
あれ?セナちゃん寝ちゃった、と思いながら沙苗がカードを引くと「U」のカードだった。
 
「尿道口を移動するの?」
「残念でした。Uterusでーす」
「ああ」
 
千里は言った。
 
「沙苗さあ、剣道の大会に女子として出場の許可が出たのに、どこかで後ろめたい気持ちでいるでしょ?自分は元男だったのに、元々から女だった人たちと同じ条件で戦っていいものかって。明日、目が覚めた時は、もう沙苗は卵巣と子宮がある女の子になってるから、後ろめたい気持ちなんか忘れて堂々と、全力で戦いなよ」
 
沙苗はそれで、やはり自分が手抜きしてたの、千里にはバレてたのかと思った。しかし自分が今引いたカードは Uterus (子宮)なのに、なぜ明日からは卵巣と子宮のある女の子になるんだろう?と沙苗は思った。
 
沙苗の記憶はここで途切れている。
 

セナは目が覚めると、4畳半くらいの個室に寝ていた。
 
まずあそこに手をやって睾丸の有無を確認した。
 
無くなってる!!
 
ちょっと大変なことしちゃったかな?と思ったけど、後悔はしない。でもしばらく親には黙ってよう。
 
腰の骨に関しては、触ってみると、たしかにかなり形が変わっているのを感じた。裸になって部屋の中にある鏡に映してみたら、確かに腰の付近が凄く女の子っぽい気がする。でもどうやって骨を作り替えたんだろう?マジで融かして型に入れて固めたの??でも痛みとかは全然無いんだなあと思った。
 
きーちゃんが実際にしたのは、骨に微細振動を与えて柔らかくしてから、女の子の骨盤の形に伸ばしたり縮めたり動かしたりして作り替えたものであり、融かして型にいれて固めたわけではない。あまり大きな変形はできないのだが、この年齢の男の子はギリギリで修正可能な範囲であった。更にセナは普通の男の子よりは男性的発達が遅かった。彼のペニスはまだ小学4年生くらいのサイズで、元々男性ホルモンが弱かったことを示している。
 
きーちゃんはセナの骨盤を14-15歳の女子くらいの骨盤の形にしておいた。この子の“女性ホルモン”が効いてきて骨を女性的に進化させるには少し時間がかかるだろうから、その分、骨は先行進化させたほうがいいだろうしね!
 
睾丸は、きーちゃんも、さっさと取ればいいのにと思っていたので。本人が言い出してくれて助かったと思っている(*5)。睾丸があると、色々な操作をしたのが全部キャンセルになってしまいかねない。睾丸はとても有害なものだから男の娘の睾丸は7-8歳くらいまでに取ってあげたほうがいい、ときーちゃんは思う。ハイレみたいに完全に男の身体ができてしまうと、もうどうにもならない。彼の骨盤などは、既にきーちゃんの技術を持ってしても救いようのないレベルだ。
 
ハイレはお遍路に行くと言ってたけど、戻って来たら強制的に性転換しちゃおうかな。きっと泣いて喜びそう。あ、そうだ。7月から性別変更できるようになるし、勝手に性別変更の申請、出しちゃおっと♪(←ハイレの周囲には親切すぎる人が多い)
 
(*5) 言い出したのは沙苗だが本人も言われてその気になったようなので問題無い。
 

沙苗は、目が覚めると、4畳半くらいの個室に寝ていた。
 
お腹に触ってみるが特に何か変わった感じはしないし、痛みとかも無い。あれ千里ちゃんのジョークなのかなあ。でも卵巣とか子宮とか欲しいよぉ、沙苗は思って涙が出た。
 
でも今日は今までになく女の子っぽい気分になるような気もした。やはり何か変わったのかなあとも思ったが、分からなかった。
 
沙苗が部屋を出ると、千里が居間のテーブルに座って居て
「おはよう」
と言った。
「おはよう」
と言ってから、沙苗は言ってみた。
「何か変な夢見て」
「どんな?」
 
「千里ちゃんが私に、卵巣と子宮を作ってあげると言ったの」
「へー。私にそんな力(ちから)がある訳ないけど、卵巣や子宮があるといいね。そしたら沙苗はもう完全な女の子だし」
 
「そうだね・・・そういえば、私、小学4年生の頃から、千里に女性ホルモンの錠剤をもらったり、女性ホルモンの注射打たれたりする夢をよく見てたんだよね」
 
「それはきっと、夢の象徴作用だね」
と千里は言った。
「象徴?」
 

「私って3歳の時に女の子になっちゃったからさ」
「やはりそんなに早く性転換したんだ!?」
「自分より先に女の子になった私を沙苗は自分の行くべき道のように思って。だから自分を導く存在として私が夢の中に出て来たんだよ」
 
「なるほどー。それはあるかも」
と言ってから沙苗は言った。
 
「でもね。小学4年生の頃から、そういう夢を見るようになって、実際私の身体は女性化し始めたんだよね。ちんちんは立たなくなって、他の男の子はそのくらいの年齢から急速にちんちんが大きくなるのに、私のちんちんは逆に縮み始めた(←先日医師の前で勃起したことはないと言ったのが嘘だと自白しているが千里は気付かない)」
 
「だったら本当に卵巣や子宮ができてたりしてね」
と千里は笑顔で言った。
 
沙苗もそれが本当ならいいなと思った。でも千里の笑顔を見て、自分は今回の大会は昨年春に男子の大会に出た時のように、全力で頑張ろうと思ったのであった。
 

沙苗が小学4年生頃から見ていた「女性ホルモンの錠剤をもらって飲んだり、女性ホルモンの注射をされる」夢の犯人は、実はP大神である。
 
P大神は千里が2003年春に死亡することになっていたので、その後任の神託巫女候補のひとりに沙苗を考えていた。この子は、勉強の出来が悪いからたぶん中学出ても市外には行かないだろうし!と考えていた。それで本人が強く望むなら、女の子に変えてあげようと思っていたのてある。だから沙苗の身体が男性的には発達しないよう充分なケアをしていた。
 
実はこの操作を始めた時、沙苗の睾丸もその時点でダミーに交換してしまっていた。つまり千里が言ったように沙苗が本当に去勢されたのは小学4年生の時である。2003/5/12に千里に移植された“沙苗の睾丸”は実は沙苗が小学4年生の時に取り外して保存?していたものである。適当な保存の仕方をしていた、実は冷凍保存してたのを解凍しただけ!なので、機能はかなり落ちていた。
 
千里が沙苗に渡していた女性ホルモン剤は、P大神が手続きをして、輸入代行業者から定期的に村山家に届くようにしていたものである。父は出港しているし母は仕事に出ているので、これを受け取るのはいつも千里だった。玲羅が受け取ったこともあるが、玲羅は「お姉ちゃん、やはり女性ホルモンを買ってるのね」と思った。
 
2003/04以降は輸入代行業者から定期的に届けられるエストロゲンとプロゲステロンの錠剤は千里Gが沙苗に渡していた。RBYは3人とも2003.4.10の合体のショックで、自分が沙苗にホルモン剤を渡していたことも忘れていた(記憶操作のせいではない:千里は元々忘れっぽい)が、Gは覚えていたので、Gがこの作業をしている。
 
沙苗の女性ホルモン調達方法について、P大神は後にA大神から訊かれても「入手方法は知らない」と答えているが、これは自分が工作していたことを知られると叱られそうな気がしたからである。
 
2003/09以降は、沙苗は病院からホルモン剤をもらえるようになったので、千里が沙苗に女性ホルモンを渡す必要は無くなった。一方で千里Bは8月まで鞠古君の代わりに女性ホルモン注射を打たれていたのが9月のペニス部分切除手術の以降は注射も無くなったので、千里Bに女性ホルモンの補充が必要になっていた。それで千里Gは、この余ったホルモン剤を9月以降、千里Bに飲ませている(一部千里Vにも渡している)。一方、千里Yは別系統でもらったホルモン剤を飲んでいる。
 

6人の千里の状態
RG 棒×玉×膣○子○卵○胸○(完全女性)
YV 棒小玉×膣小子小卵小胸小(少女)
B_ 棒×玉×膣○子×卵×胸○(男の娘)
W_ 棒○玉○膣×子×卵×胸小(男の子)
 
Y,Vのペニスは萎縮しており、陰裂の中に隠れている。また尿道はあるものの膀胱と繋がっていない(尿道口は通常の女性の位置にある)ので、事実上、既にクリトリス状態である。
 
W(=Cd)のペニスは排尿機能を持つが勃起能力は既に失われている。2011年に去勢手術を受け、2012年(2006年?)に性転換手術を受けたボディである。
 
Wの身体に付いている睾丸(正確には現在退避中:現在Wに付いているのは沙苗の睾丸)は元々は丸山アイの睾丸なので、2011年1月に千里が男性として桃香とセックス?(桃香は千里のペニスを自分のヴァギナの中に無理矢理押し込んだ上で、千里のヴァギナ!にインサートして逝かせ射精させた)してできた子供(谷山小空)の遺伝子上の父親は実は丸山アイ本人である。アイは自身を父親とする子供を一時的に自分で妊娠していたのである(最終的に姉・宏香に代理出産してもらった)。アイはこのことに、かなり後まで気付かなかった。
 
(桃香は小空の遺伝子上の母だが、小空は桃香のことは「お父さん」と教えられている!)
 
千里の本来の睾丸は、武矢の陰嚢内に動態保存?されている。2011年に冷凍保存された精液(早月の父となる)は実は武矢に射精させて確保した精液。
 

セナがなかなか起きてこないので、7時半、千里はセナの部屋をノックして中に入ってみた。するとセナが裸で鏡を見ているので、びっくりしてドアを閉め「セナ、そろそろ学校に行かないと」と言った。
 
「ごめーん。すぐ服を着る」
と言って、7:40くらいにセナは出て来た。ちゃんとセーラー服を着ている。
 
「そろそろ出掛けるよ。タクシー呼んだから、もうすぐ来ると思う。それで一緒に学校まで行こう」
「うん」
 
「私と沙苗は朝御飯食べたけど、セナ起きてこないから、おにぎり作っておいた」
「ありがとう」
 
それで3人で一緒にタクシーに乗って、学校の坂の下!まで行った。
 
「坂を歩いて登るの〜?」
「大会前の鍛錬、鍛錬」
と言って、千里と沙苗が登り始めるので、セナも付いていく。そのセナの歩き方を見て、沙苗は「この子、歩き方が昨日までは結構男っぽかったのに今日は凄く女らしくなってる」と思った。
 
 
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【女子中学生・十三から娘】(1)