【女子中学生・十三から娘】(4)

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セナは自分の女体を確認しながらお風呂に入った後、みんなと晩御飯を食べた。
 
大会では1回戦で負けたというと「また頑張ればいいよ」と言ってくれた。姉からも「男子の部に出たんだっけ?女子の部に出たんだっけ?」と訊かれたので「女子の部」と答えると、母と姉は顔を見合わせていた。
 
「でも性転換手術しちゃったのなら、女子の部でもいいのかな」
「1回戦で負けてるから問題無い気がする」
などと言っていた。
 
後のほうが重要な気がする!!!
 
沙苗ちゃんはベスト8まで行ったけど、病院で徹底的に検査されて確かに女だという診断になったので、女子として出場できたと聞いた。強くなると検査も厳しくなるんだろうなあ。でも沙苗ちゃんはもう完全に性転換手術が終わってたのか、とあらためて思った。
 

御飯が終わった後、自分の部屋で、花絵さんに渡された算数ドリル(小学5年生の割り算の筆算問題)を頑張って解いていたら、姉がちょっと来て、と言う。
 
また絵のモデルするのかなあと思い、期待しながら姉の部屋に行く。
 
「モデルやって」
「いいよ。今日はどんな服着るの?」
「何も着ない」
「は?」
「だからヌードモデルよ」
「え〜〜〜!?」
 
「性転換手術して女の子になったんでしょ?もう痛みは取れた?可愛くなった姿を私に見せてよ。私、ヌードの練習したかったけど、プロのモデルさん頼んだら凄い料金高いからさ」
 
「何でヌードとか描くの〜〜?」
「だって人体の構造を把握出来なきゃ、人物画なんて描けない。着衣の人物像はヌードの絵の上に服が乗っているものなのよ。着衣のモデルしか描いたことのない人は、その下にある人体の構造について無理解になりやすい。だから、人物画を描く人は、たくさんヌードを描く練習をすべきなのよ」
 
「でも恥ずかしいよぉ」
「バイト代3000円でどうよ」
「そんなにもらえるの!?」
 
そのバイト代で落ちた!
 

それでセナは恥ずかしかったものの、バイト代に釣られて全裸になったのである。
 
「すっかり女の子になったね!」
と姉は言った。
 
「おっぱい大きいじゃん」
「フェイクだよぉ」
「ちんちんは取ってもらったのね」
「これもフェイクだよぉ。まだ付いてる」
 
「じゃあんた、ちんちん付いてる癖に女子の部に出たの?」
 
グサッとその言葉が突き刺さる。
 
「ちんちんはまだ付いてるけど、玉はもう無いから大目に見てよ」
「ああ、玉は無いのか。やはりあんた1月に旭川に行った時にこっそり玉を取ったのね」
 
1月・・・あれは『犬夜叉』の映画を見に行っただけなんだけど、そうか。あの時手術しちゃったと疑われていたのか。まあ、そう思われてもいいか。22日に取ったと知られたら千里ちゃん、お母ちゃんから抗議されそうだし。
 
「陰毛剃ってあるのは何で?」
「実は接着剤使って偽装してるんだよ。毛が生えてたら接着できないから陰毛は全部剃られた」
「なるほどねー」
 
と言ってから、姉は尋ねた。
 
「結局22日の“性転換手術”って何したの?」
 
「実はこの、フェイクバストを貼り付けてもらって、お股の偽装の方法も指導してもらった」
 
「なるほどー。それが“性転換手術”の正体か。いやほんとに性転換手術したのなら半月くらいはベッドから起き上がれないはずだけど、普通に剣道の大会に出たということは何したんだろうと思ってた」
 
姉は母に頼まれて“性転換手術”の実態を私から聞き出すのも目的だったのかもしれない、とセナは思った。
 
でも性転換手術を受けたら半月ベッドから起き上がれないの?ひぇー。こわい!やはり無茶苦茶痛いんだろうなあ。
 
「じゃ、おっぱいの所は何か貼り付けてあるの?」
 
「そうなんだよ。この付近に境目がある」
とセナが指し示すので、姉は近づいてよくよく観察したが
「分からん!」
と言った。
 
(このブレストフォームは肌触りが人間の肌とそっくりだし、端は透明で極薄になっており静電気で密着するようになっているので、境目の判別は非常に困難である。ラップの端が分からなくなった時のような状態。セナは「このあたり」と言ったが、実はセナ本人にもよく分からない。剥がすのにも結構な要領が必要。また、セナも沙苗も肌が女の子のように白いので、よけい分かりにくい)
 
「そう?」
「ほんとに偽装なの?実は豊胸手術したのでも私、怒らないよ」
「偽装なんだけどなあ」
 
「へー。でも、そのおっぱいに、そのお股なら、女湯に入っても大丈夫だね」
 
「女湯はまずいよぉ」
「女子の大会に出た人が今更何を言ってる」
「それはそうかもしれないけど」
 
姉はその日3時間ほど掛けてセナのヌード絵を描きあげた。セナも見たが「きれ〜い」と思った。やはり女の子のヌードって。それ自体が芸術品なのかも、とセナは思った。だから、そういう美しい身体になりたいってのは、自然な感情だよね?ね?ね?
 
でも腰の骨を女の子の形に変えてもらったのまではバレなかったみたいと、その件に関してセナは結構ドキドキしていた。一方、亜蘭は、骨の形を変えられるとは思いもよらないから、セナって女の子みたいな腰の形してるとは思ったものの、この子、実はこっそり女性ホルモン飲んでたのでは?と思った)
 

4月26日(月)、S中の朝礼・全体集会では、土日の間に行われた中体連の大会結果報告があり、剣道部では女子の団体優勝(武智(紅音)部長が出る)、個人戦で千里の優勝、玖美子の3位、沙苗の5位(5-8位決定戦は行わない)が披露された。男子でも竹田君と工藤君がともに5位(Best8)になったのを披露された。
 
バスケットは男女とも準優勝で、女子の柴田(久子)部長、男子の田臥部長が出ていた。他に、ハレーの女子が3位に入り、卓球で男女1人ずつがBEST8に入賞して賞状を持ち帰っていた。また陸上は男子で3名、女子で2名、上位に入った人が居た。サッカーや野球・ソフトは試合時間が長く日数がかかるので、結果が出るのはゴールデンウィーク明けである。
 
留実子は24日(土)にバスケットの試合に出た後、25日(日)は応援団で野球の応援に行っていたようである。むろん応援団として行動する時、留実子は、ウィッグを外して、五分刈りの頭を曝している。
 
他の団員の保護者の車に同乗して会場まで行ったものの、その団員のお母さんは、留実子が丸刈りだし背が高いしで、まさか女の子だとは思いも寄らないようだった。実際他の団員も留実子のことは男の子としか思ってないから、平気でオナニーの話もするし、留実子は堂々と男子トイレを使用する(もちろん立っておしっこする)。だから団員の多くは、留実子は実際にはチンコが付いているのだろうと思っている。
 

4月27日(火).
 
P神社の勉強会に、蓮菜が何やら大きな荷物を持ち込んできた。
 
「何持って来たの?」
「どうも女の子の“構造”が分かってない子がいるみたいだから、教えるのに借りて来た」
と言って、蓮菜が出してみせたのは、なんと女性のお股付近の模型である。
 
「何これ〜〜!?」
と恵香が言っているが、(いちばん分かってない)セナは手を口の所にやり、目はそれを凝視している。
 
「何ですか?それ」
と言って、小学5-6年生グループも、小学2-4年生グループも寄ってくる(一応全員“外見上”は女子だが、中身までは知らない)。
 
「これは女性の患者さんのお股付近のケアを女性看護師さんたちが練習するための模型なのよ」
 
「やはり女性看護師さんがするんだよね?」
「当然。男の看護師にこういう作業はさせられない」
「男の患者さんのケアは?」
「やはり女の看護師さんがすることが多い」
「うーん・・・」
 
「だって女は男に見られたくない人が多いけど、男はむしろ女に見られたい奴が多いから、それで問題無いんだよ」
と蓮菜は言うが
 
「そうお〜?」
と全員から疑問の声!
 

「まあそういう訳で、この外側から直接見える割れ目ちゃんが大陰唇(Labia Majora/ Outer Labia)、男の子の陰嚢に相当する。その内側にはもうひとつシャッターがある。これが小陰唇(Labia Minora/ Inner Labia)、男の子ならちんちんの皮に相当する。女性の敏感な部分は二重のゲートで守られている」
 
「大陰唇の端の、左右の陰唇が合わさる部分を陰唇交連という。前のが前陰唇交連、後ろのが後陰唇交連。後方では左右の小陰唇も合流しているので、これを後小陰唇交連あるいは小陰唇小帯 (Frenulum of labia minora) という」
 
「小陰唇の前の方の合流点は?」
「交わらない。そこにはクリトリスがある」
「なるほどー!」
 
「大陰唇と小陰唇の間の溝は陰唇間溝(interlabial sulci)といって、垢(あか)がたまりやすいから、お風呂で洗う時、優しく洗って清潔にしておかなければならない」
 
「陰裂の前方には少し膨らんだ部分があり、これを恥丘あるいは陰阜、英語ではMons pubis あるいは mons veneris、ヴィーナスの丘という」
 
「ヴィーナス様がいるのか!」
「日本人の感覚では、女には観音様がいるし」
「あれ、なんで観音様なの?」
「観音開きだから」
と蓮菜が言うと
「そうだったのか!」
と言っている子もあるが、首をひねっている子も多い!小学生の大多数は首をひねっているが、彼女たちはこの問題を説明するには早すぎる。
 
「陰裂の内部のいちばん前の部分、ここにあるのがクリトリス亀頭(clitoral glans)、それからその少し後方に尿道口がある。そして最も後ろの部分。ここがヴァギナの入口」
と蓮菜は直接その部分を触って説明する。
 
「え?クリトリスからおしっこが出るんじゃないの?」
などと言っている女子がいる。
 
「クリトリスからおしっこが出ているとしたら、それはクリトリスではなくペニスだな。ペニスが充分発達してなくてクリトリスサイズの人って居るんだよ。君はもしかして男なのでは?」
 
「うっそー!?私自分は女だと思ってたのに」
「一度精密検査を受けてみるとよい」
 
「でもこの模型、ちゃんと穴が空いてるのね」
「尿道にカテーテルを挿入する練習とかするから、ちゃんと普通の女性の尿道と同じ長さの穴が空いてて、その向こう側には膀胱に相当する空洞もある」
「精密だね!」
 

「さっきクリトリス亀頭と言った?」
「そうそう。男の子のペニスは8割くらいが表面に出ているから亀頭と軸を観察できるけど、女の子のクリトリスは亀頭だけが表に出ていて、本体は体内に埋もれている」
 
「そうなの!?」
と驚いている女子多数。
 
「クリトリスの体内に埋もれている海綿体部分は7-8cmはある。だから女の子は実は長いおちんちんを体内に隠し持っているんだよ」
「全然知らなかった」
 
「クリトリスの海綿体は、そのまま小陰唇の海綿体に繋がっているから、そこまで合わせて計算すると、実は女の子のおちんちんは、男の子のおちんちんと大差無い長さがある」
 
「嘘みたい」
 
「ただ男の子のおちんちんは左右1対あったものが合体して1本にまとまっているけど、女の子のおちんちんはほぼ全体が左右に分かれている。そしてその左右に分かれた間に、おしっこの出る所とか、生理の出るところがあるわけね」
 
「男の子のおちんちんは、左右の海綿体が合体しているから触ってみると海綿体が左右1本ずつあるのが分かる」
 
「そうなんだ?」
「誰かちんちん付いてる子いない?解剖して確認してみたい」
「ここには居ないようだな」
 
セナは“解剖”されたらどうしよう?とドキドキしている。
 
「宮司さんを解剖しようか」
などと過激なことを言っている子もある。
 

「生理ってどこから出てくるの?」
と5年生の子が質問する。
 
「生理はヴァギナから出てくる。この陰裂の中のいちばん奥の所の穴」
「そこから出てくるのか」
「赤ちゃん産む時は、赤ちゃんもここから出てくる」
「嘘!?赤ちゃんがそんな狭い所通るの?」
「ヴァギナは伸縮性があるから。赤ちゃんの頭は通過できる。ただし胎内であまり育てすぎるとでかすぎて、出てこられなくなるから要注意だ」
 
「だから妊婦は食事制限される」
と千里!が言っている。
 

「あとどんなにヴァギナが伸びても、骨盤の穴を通らないほどでかい赤ちゃんは膣からの出産は無理」
 
「骨はどうしようもないね」
「その場合どうするの?」
「昔は母子ともに死ぬ以外の道が無かったけど、現代では帝王切開で取り出す」
「帝王切開も痛そう」
 
「男の子は骨盤の穴が小さいから、男の子が妊娠した場合は、ほぼ帝王切開しかないだろうね」
 
「男の子はヴァギナが無いから、そもそも膣からの出産は無理だと思う」
 
「性転換手術でヴァギナを作っていた場合は?」
「性転換手術ではペニスを再利用してヴァギナを作るけど、本物のヴァギナと違って、ペニスは赤ちゃんの頭サイズまでは伸びない」
「確かにそんなには伸びそうにない」
「無理矢理通そうとすると破裂するだろうね」
「おそろしー」
「だからやはり帝王切開しか無い」
 
セナは、ぼく妊娠したら、帝王切開で産むしかないのかなあ。痛そう。あ、でもこないだ骨盤の骨を動かしてもらって女の子と同様の形にしてもらったから、ちゃんと普通に産めるかな?などと思いながら、女性のお股の模型をまじまじと見ていた。
 

セナは26-28日(月火水)は普通に学校に出て行き、部活・勉強会をして帰宅した。29日(祝)は少し可愛い服を着て、母・姉と一緒にジャスコまで行き、“ファンシーショップ”をのぞいて、シナモロールのポーチを買ってもらった。
 
ファンシーショップなどというものに入るのが初体験で、またひとつ女の子の世界に触れ、女の子って男の子とは全然違う世界で生きているのでは、という気がしてきた。同じ地球上に住んでいるのに!
 
ファンシーショップの後は、婦人服売場で、普段着の可愛いサマーセーターと、これからの季節で穿けそうな明るいグリーンのスカートを買ってもらった。亜蘭は高校生らしい、もっと落ち着いた雰囲気のスカートを買ってもらっていた。
 
セナたちがスカートを選んでいる時、近くでやはりスカートを選んでいる女の子がいた。どこかで見たことがある気がするものの、誰かは分からなかった。
 

司はその日、トップにはやや中性的なトレーナーを着て、ボトムには先日旭川で買った紺色のスカートを穿き、バスでジャスコまで行った。知り合いと遭遇する危険はあるのだが、留萌の中心部のお店などよりは随分遭遇確率が低いはずである。
 
そして婦人服売場に行ったものの、なかなか近づく勇気が無い。近づいてはまるで通り掛かっただけのように離れ、そのまま向こうまで行く、というのをさっきから5〜6回繰り返して居た。
 
「別に悪いことするわけじゃないし。今度こそ行くぞ」
と自分に言い聞かせて、なんとか婦人服売場で足を停めた。
 
変に思われないかなあとドキドキしながら、スカートを売っている所に行く。値札を見て「ひゃー」と思う。スカートってこんなに高いの!?いくつか見てみるが、みんな5000円以上する。
 
お小遣い3000円も持って来たのに買えないじゃん。
 
でも折角勇気出して婦人服売場に来たのだから何か買って帰りたいと思う。ワゴン!に「婦人ブラウス1000円」と書かれているのを見る。あ、ブラウスって着てみたいと思った。それで見るが、サイズが分からない!
 
スカートは自分のウェストサイズを計って69cmで適合することを確認していたのだが、ブラウスのそもそもサイズの見方が分からない。
 
(売場のお姉さんに声を掛けてサイズを調べてもらえばいいのだが、彼はとても売場のお姉さんに声を掛ける勇気が無い)
 

それでブラウスを諦めて、なおも婦人服売場を歩いていたら、ショーツが並んでいた。
 
ショーツなら、結構サイズにゆとりがあるんじゃないかなあと思う。おそらく自分はLでいけるのではないかと思った。しかしショーツだって結構高い。
 
女の子の服って高いんだなあと思って見ていたら、3枚セット500円というのがあった! これいい!と思い、いちばん“穿くのに抵抗の少なそう”な★型のプリントのあるショーツのL、色違い3枚セット(グレイ・黒・青)を選んだ。
 
ドキドキしながらレジの所に行く。咎められないかなあと不安だったが、レジのお姉さんは特に何も言わずに会計してくれた。消費税込み525円を払い、レジ袋に入れてもらったショーツ3枚セットを持って、司は引き上げた。
 
バスまで少し時間があったので“トイレ”に行ってくることにし、司はジャスコの女子トイレに入った。列ができているので並ぶ。少しずつ列が進む。やがて個室が空くのでそこに入り、座っておしっこをする。
 
司はこの「座っておしっこする」というのにハマってしまいつつある。最近、自宅ではいつも(ズボンを穿いていても)座ってするようにしている。座ってするのに慣れてしまうと、立っておしっこするのは野蛮な感じさえする。
 
出た所をトレペで拭き、流す。その後、買ったショーツのセットのパッケージを開け、中身のショーツだけバッグに入れた。個室を出てから手を洗い、開封したパッケージはゴミ箱に捨てた。そして女子トイレを出るとバス乗り場に行った。
 

4月30日(金)は平日なので、セナは普通に学校に行き、部活後、P神社の勉強会に行く。この時、沙苗に呼ばれて別室でブレストフォームを剥離液を使い、外してもらった。
 
「じゃ次は5月9日・日曜日の夜に貼り付けてあげるよ。5日までは私、某所に籠もって合宿やってるから、5日は遅くなると思うし。6-7日は学校だけど2日くらいは大丈夫だよね」
 
「うん。何とかなると思う。何なら月曜日の夕方でもいいよ。普段の体育の着替えとかはわりと誤魔化せるし」
 
「じゃ、そうさせてもらおうかな」
「でも凄いねー。やはり強い人はたくさん練習するから強くなるのかなあ」
 
「セナちゃんは今は楽しんで剣道してればいいと思うよ」
「うん。そのつもり」
とセナは笑顔で答えて、『あ、この笑顔、凄く女の子っぽい』と思った。
 

5月1-2日、セナはP神社に行き、巫女服を身につけて、勉強会をしながら、お客さんがあると、物販・おみくじなどの対応をした。ここのおみくじは御籤(みくじ)の筒を振って1本、竹籤(たけひご)を取りだし、その番号に相当する紙を渡すという本格的なものなので、人気がある。わざわざ旭川や札幌からここに来る人もあるくらいである。もっとも遠くから来た人とみたら、この作業は巫女長の梨花さんや千里などがやり、顔見知りだとセナや小町がしていた(普段は実はここ1年ほどは沙苗がすることが多かった)。
 
セナは5月1日に神社に出て行った時、千里が居たので
「あれ?千里ちゃんは、合宿に行ったんじゃなかったのね」
と言った。
 
「合宿?そんなのする予定は無いよ」
と千里が言うので、セナは『あれ〜。千里ちゃん・沙苗ちゃん・玖美子ちゃんの3人で合宿すると聞いた気がしたのに』と思った。
 

休日は小中学生は18時で切り上げて帰宅させる。その後まで残るのは、宮司の孫でここに住んでいる花絵さん、巫女長の梨花さん、千里、小町の4人のみである。
 
「小町ちゃんもそういえばこの神社に住んでるんだったな。宮司さんの親戚か何かだっけ?」
などとセナは思ったものの、千里ちゃんはなぜまだ遅くまで残るんだろう?とも思った。
 
2日の夕方、セナが帰宅すると母が言った。
 
「明日から5日まで、旅行に行くよ」
 
「え〜〜!?」
 
「トマムのチケットをもらっちゃったのよ」
「トマムなんて高いのに」
「芳村さんがさ、急用ができて行けなくなっちゃったんだって。あそこもうちもちょうど家族5人でしょ?キャンセルしてもキャンセル料100%らしいのよね」
「つまり返金無し!?」
「だから、そちら行けそうだったら行きませんかと言われて」
 

「じゃトマムに2泊3日?」
「明日は、万華(ばんか)の湯に泊まって、4日がトマム泊」
「ばんかってどこだっけ?」
「富良野温泉」
「へー!富良野に温泉があったのか。でもトマムに行く途中だね」
「だから予約したらしい。トマム2泊じゃ高いじゃん」
「確かに!」
 
「だから、明日は温泉、明後日はプールね」
 
ギョッとする。
 
「温泉って・・・・個室にお風呂あるんだっけ?」
「共同浴場だよ。でもあんた性転換手術受けたから、もう女湯に入っても問題無いよね?」
「え〜〜〜!?」
 
「女湯に入れない人が、女子の大会に出場するはずはないよ」
などと姉が言ってる!
 
セナは重大な問題について考えていた。どうしよう?と思った時、千里がまだ神社に残っていたのを思い出す。
 
それで母に言った。
 
「明日から旅行なら、ちょっと神社に置いて来た荷物取ってくる」
「うん」
 

セナは自分の部屋で、ブレストフォームを入れているピアノのレッスンバッグを持つと、P神社まで走って行った。
 
「あら、セナちゃんどうしたの?」
と花絵さんが訊く。
 
「千里ちゃん、まだ居ますか?」
「今帰ったんだけど」
「え〜〜〜!?」
「でも急用なら呼び出してあげるよ」
「すみません!」
 
それで花絵さんが電話で呼ぶと、どうも千里はまだ自宅に戻る途中だったようで、1分もしない内に来てくれた。
 

「セナちゃん、どうしたの?」
「内密に、緊急に相談があって」
「じゃ、いつもの勉強部屋に行こうか」
「うん」
 
それで勉強部屋まで一緒に行ったセナは、明日から突然旅行に行くことになって温泉とプールに入らないといけないので、プレストフォームを貼り付けてもらえないだろうかと頼んだ。
 
「いつも沙苗ちゃんに、貼り付けと剥がしと、してもらってたんだけど、沙苗ちゃん合宿に行ってるから。千里ちゃんなら、たぶん分かるんじゃないかと思って」
 
「できるよ」
 
それでセナは胸の汗をきれいに拭き取った上で、プレストフォームを専用接着剤で貼り付けてもらったのであった。
 

「温泉とかプールとか入るなら、戻って来たら一度ここにおいでよ。取り外してあげるから」
「それ悪いよ。帰宅するの遅くなると思うし」
 
「温泉やプールの水が、ブレストフォームの内側に入りこんだの、そのままにしておくと炎症を起こしやすいんだよ。だから取り外して一度きれいに真水で洗ったほうがいい」
 
「なるほどー。でもそれ月曜日の夕方でもいいかも。沙苗ちゃんにも月曜日の夕方に装着してもらうことにしてたんだよ。木金と月曜日は何とか誤魔化すことにして」
 
「じゃ、月曜日の夕方、部活は休んで学校終わったらすぐP神社においでよ。みんなが来る前に外してあげるから。そして勉強会の間、肌を休めておいて、その後の装着は沙苗に任せた」
 
「うん。そうしようか」
 
「でもありがとう。助かる」
 

「ついでにタックもきれいに接着してあげようか。5日くらいは平気なようにできるよ」
「・・・してもらおうかな」
 
それで千里はセナのタックをきれいに直してあげた。千里は「あれ?セナちゃん、睾丸取っちゃったんだ?」と驚いたが、個人の問題だしと思って何も言わなかった。“この千里”は、セナは単に女の子の服を着たいだけで、身体改造までするつもりは“まだ”無いと思っていたので意外だった。
 
また千里はタックをしてあげながら、セナの腰の骨が女性的な形をしていることにも気付いた。更にそもそもちんちんのサイズが4cm程度しかない。これは小学2-3年生のサイズだ。セナちゃん、これたぶん小学3-4年生の頃からずっと抗男性ホルモン、そしてここ1-2年は女性ホルモンを飲んでいたのだろう。ただそれにしては、おっぱいの成長が遅いけど。でもこの子、ほんとに女の子になりたかったのか、と思った。
 
「ついでに“付け陰毛”を貼り付けておくね。毛が無いと目立つし」
「ありがとう!」
 
「これでいいよ。タックはしっかり接着したから温泉やプールに入っても一週間くらいは補修とかも不要だよ」
 
「助かるー」
 
実は旅館の部屋だと家族と一緒だから、タックを直す場所が無いと悩んでいたので、一週間くらい補修しなくていいのなら本当に助かる。
 
「逆に“外すのが大変”かもしれないから、これも月曜日の夕方、ブレストフォームと一緒にいったん外してあげるよ」
 
「うん。お願い」
 
セナへの“処置”を終えてから、千里がチラッと“そちら”に視線をやると、P大神がギクッとして目をそらすのを見た。
 
なるほどね〜。
 

雅海はその日、高速バスに乗って、札幌に出た。
 
留萌6:30-9:28札幌駅前BT
 
バスが留萌駅前を出てすぐ、雅海はトイレの中で、普通のトレーナーとジーンズという格好から、セーラー服上下に着替えてしまった。結構ドキドキしながら席に戻るが、隣は空席だし、通路をはさんで向こう側に座っていた40代の男性は一瞬あれ?という顔をしただけで、特に何も言わなかった。
 
札幌駅前のバスターミナルでバスを降りると、まずは昨年(2003年3月6日)できたばかりのJRタワーに行く。このタワーができるまでは大通公園のさっぽろテレビ塔(147.2m)が北海道で最も高い建築物だったのだが、このタワー(173m)の完成で、ここが最も高い建築物になった。
 
(JR北海道は実は、札幌駅新幹線ホーム建設のために確保していた土地に、このタワーを建ててしまったので、JR北海道は新幹線を札幌まで引く気がないのか?と批判され、物凄い議論を巻き起こした)
 
雅海は展望台から町の景色を眺めながら、2年前、小学6年の修学旅行で、さっぽろテレビ塔に登った時のことを回想していた。そのさっぽろテレビ塔も少し向こうに見えている。
 
雨がちらついているようなので、地下鉄で移動しようかとも思ったのだが、お店を見ていたら、可愛い傘が売ってあったので、思わずその傘(1890円)を買ってしまった。
 
ちょっと高かったかなと思いながらも、それを差して小降りの雨の道を歩いて大通公園の方へ向かった。
 
(札幌駅から大通・すすきのまでつながる地下街ができたのは。2011.3.12で、この時点ではまだ存在しない)
 
雅海がわざわざお金を掛けて札幌まで出て来たのは、旭川あたりだと知り合いに遭遇しそうな気がしたからである。
 

しかし小雨降る中、セーラー服を着て、可愛い傘を差して歩いていると、なんかとても昂揚した気分になる。街のビルのガラス窓に映る自分の姿を見ると、胸がキュンッとするくらいである。
 
女の子の格好をしたら、こんなに可愛くなるって、道を誤ってしまいそう、などと思ったりする(←多分既に道を誤っている)。
 
東急を横目に見て、札幌時計台では携帯で写真を撮る。
 
でも雅海が携帯で時計台の写真を撮っていたら、25-26歳くらいの女性が
「君、記念写真撮ってあげるよ」
と言ってきた。
 
「わあ、ありがとうございます」
 
と言って携帯を渡す。
 
それで雅海は時計台をバックにセーラー服姿で笑顔で映った写真をゲットしたのであった。
 

写真を撮ってくれた女性にお礼を言って、大通公園まで行き、2年前にも訪れたテレビ塔に入った。
 
グッズショップなど見ている内にトイレに行きたくなる。
 
雅海は何も考えずに、いつものの習慣で男子トイレに入ろうとした。
 
ところが中から出て来た50歳くらいの男性が驚いたような顔をして
「君、こっち違う!女子トイレは向こう!」
と言った。
 
「済みません!」
と言って飛び出して、ほとんど勢いで女子トイレに入ってしまった。
 

きゃー、ぼく女子トイレに入っちゃった!
 
実は女子トイレ初体験である。
 
小便器が無く、個室のドアだけが並んでいるその風景に、雅海はまるで異世界にでも迷いこんだかのような錯覚を覚えた。
 
女子トイレにはいつも列ができているというのは知識として知っていたので、その列の最後尾に並ぶ。
 
ぼく女の子じゃないってバレたりしないかなあ。痴漢と間違えられて捕まったらどうしよう?お母ちゃんに連絡して引き取りに来てもらって、メチャクチャ叱られて『痴漢なんてする悪い子はちんちん切っちゃいます』とか言われたり・・・・
 
ん!?
 
ちんちん切られたら、それでもいい気がした。
 
堂々と女の子になれるもんね!
 
ちんちんって気持ちいいから、つい遊んでしまうけど、その一方で自分が女の子だったらよかったのに、という気持ちもずっと持っていた。だから、ちんちんが無くなって、女の子になっちゃう夢とか何度も見たことある。
 
そして、小さい頃よく、叱られて「そんな悪い子はちんちん切っちゃいます」と言われてたことを思い出す。ひょっとしたら、自分の心の中にある。女の子になってもいいよなあという気持ちって、元をただすと、お母ちゃんからさんざん「ちんちん切る」と言われてたことなのかもしれない気もした。
 
ただ雅海の気持ちとしては「女の子になってもいい」程度であり、積極的に「女の子になりたい」訳ではない・・・つもり!
 

でも雅海を見て変な顔をする女性もなく、列は少しずつ進んでいく。そしてとうとう列の先頭になり、個室が空いたのでそこに入ってロックする。
 
スカートをめくり、パンティを下げて、便座に座り、普通におしっこをする。雅海は自宅では必ず座ってしているので、便器に腰掛けて小だけをするのにはもう慣れっこである。し終わったらトイレットペーパーを少し切って、出た所を拭き、パンティをだいたいあげて、玉を体内に押し込み、ちんちんは後ろ向きに収納する。これでパンティをしっかりあげれば、玉も落ちてくることはない。
 
小学3-4年生の頃は、女の子パンティ穿いただけでちんちんが大きくなってしまい手を焼いていたのだが、たくさん女の子パンティ穿いている内に、これが普通の下着という感覚になり、パンティやスカート穿いただけでちんちんが大きくなることはなくなった(既に“ボーダーライン”を越えてしまったことに雅海は気がついていない)。なお雅海が女の子下着をつけていることを母や姉たちは黙認してくれているようだ。
 
母と姉3人がいて女が多いので、家の中には女の下着が多数干されている。だから雅海が使用している女の子パンティは全く目立たない。できるだけ自分が洗濯物を取り入れるようにしている(弟は女物の服には触れたがらない。自分のだけ取る。父は洗濯物を取り入れたりしない)ので、その時、自分の部屋に引き取っておくが、母や姉の誰かが取り入れてくれた場合も、雅海の分は雅海の部屋に置いてくれている。
 

スカートの乱れを直し、水を流して外に出た。そして手を洗い、女子トイレを出る。
 
これが雅海にとって初めての女子トイレ使用だったが、
 
「別に普通じゃん!」
 
と思った。それでこれ以降、雅海は女子トイレには“ごく小さな勇気”があれば緊張せずに入れるようになる。
 

さっぽろテレビ塔でも展望台に上がって景色を楽しみ、その後、大通公園を歩く。フランクフルト屋さんが出ていたので、
「1本下さい」
と“女の子の声”で言って買う。
 
雅海が女の子の声を出せるのはクラスメイトなどには秘密である(と本人は思っているが、実はほぼ全員に知られている!)。
 
フランクフルトを食べながら散策する。やがて食べ終わったので、残った棒は持参しているゴミ袋用のレジ袋に入れてリュックの中に入れる。ゴミは持ち帰りましょう!である。
 
更に歩いていたら、25-26歳の女性が女子中高生に次々と声を掛けて集めているようである。何だろう?と思ったら、雅海も声を掛けられた。
 
「君、女子中生?」
「はい。中学生ですが」
と女声で答える。実はまだ“女子中学生”を名乗る勇気が無いので、単に“中学生”と答えた。でもセーラー服を着ていたら、普通に女子中学生に見える。
 
「地元の子?」
「留萌ですが」
「ああ、わりと近くだっけ?」
「バスで1時間くらいかな」
「修学旅行とかじゃないよね?」
「違います。個人的に遊びに出てきただけです」
 
「助かった。良かったら、ちょっとバックダンサーやってくんない?」
「バックダンサー!?」
「13時から、Parking Serviceのライブがあるんだけど、バックで踊るPatrol Girlsが2人しか来てなくてさ。足りないから地元の女子中高生に手伝ってほしいのよ」
「パーキング・サービスですか!大好きですけど、私、ダンスまで覚えてません」
「いつも踊ってるメンバーを左右両端に立たせるから、横の人の真似して踊ればいいよ」
「だったら何とかなるかな」
 
それで雅海はアイドルグループのバックダンサーに徴用されてしまったのである。
 

大通公園で女子中高生をスカウトしていた女性は、白浜藍子さんと名乗った(名刺をもらった)。電話番号教えてと言われたが、性格の良さそうな女性だし、まあいいだろうと思い、赤外線通信で番号とメールアドレスを渡した。
 
「ありがとう。まさみちゃんね」
「はい」
 
集められたのは8人の女子中高生だった。その場でチェキ(*11)で写真を撮られ、それを貼り付けたバックステージパスを渡されて首から掛けるように言われた。またバストサイズとウェストサイズを計られ「君は上下ともMでいいね」と言われた。普段 W66cm のスカートを穿いてるから、Mでいいだろうなと思う。でもブラジャーの中にパッド入れといて良かった!バストにメジャー当てられた時はギクッとした。
 
バックステージパスに赤いタグを貼られた。どうも色タグで個人を識別するようだ。他の子は青とか緑とかのタグを貼られていた。
 
2台のワゴン車に分乗して会場の札幌きららホールに向かう。同乗した3人は全員中学生で、ひとりが千歳市、ひとりが小樽市、ひとりが夕張市だった。札幌の子がひとりも居ない!
 
会場の前には入場を待つ観客(ほとんどが男の子)がたくさん来ている。雅海たちは会場の裏口に車を付けてそこから中に入る。警備員さんがひとりひとり、バックステージパスの写真と見比べて通していた。
 
(*11) チェキは1998年12月に富士フイルムが発売したインスタント・カメラ、つまり撮影したその場で、写真がプリントされるカメラである。この市場は以前はポラロイドが独占していたが、ポラロイドはデジカメとの競争に敗れ2001年10月に経営破綻した。富士フイルムは中高生にターゲットを絞った営業で逆にこの時期から大いにチェキは売れ、デジカメ時代でも売れ続けた「写ルンです」とともに、一時期は富士フイルムの売上の大きな柱のひとつとなっていた。シリーズは2022年現在でもまだ販売されている。
 
なお、しばしば誤解されるが、集団アイドルの“チェキッ娘”(1998.10-1999.11)とは偶然名前が似ただけであり、無関係である。
 

楽屋のような所に入る。
 
各々のバックステージパスに貼られたタグを見ながらユニフォームを渡される。雅海に渡されたユニフォームにも赤いタグが縫い付けてある。
 
「これに着替えてね」
「はーい」
 
うっ・・・・・
 
つまり自分は、他の女子と一緒に着替える必要がある!
 
でもここで雅海は開き直った。
 
単に服を交換するだけなんだから変なことを考える必要はない。ここで後ろ向いて着替えたりしたら不自然だ。
 
それで雅海は堂々とセーラー服上下を脱ぎ、女性警察官風のユニフォーム、青いブラウス(肩章付)とネクタイにミニスカを身につけた。
 
ミニスカなんて穿くの初めて!
 
すっごい頼りないけど、開放感がハンパ無い!これ絶対ヤミツキになりそう!!
 
でもミニスカの女性警察官はさすがに存在しないだろうなあ。
 
(雅海はミニスカポリスを知らない:深夜番組なので、見せてもらえない。また初期の本当にポリスしていた時代と違い、この時期は単なるお色気路線に走っていて中学生に見せられる番組ではなくなっていた)
 
オーバーニーのハイソックスを履き、ずれ落ちないように、1人1本ずつ渡されたソックタッチを塗っておく。ミニスカの裾と、ハイソックスの上端の間に隙間が発生する。自分が身長あるせいかな?と思ったが(雅海は身長164cm)、他の子もだいたいそういう隙間が大なり小なり発生しているようである。これいいのかなあと雅海は思ったが、雅海は「絶対領域」という言葉を知らない。
 
警察官っぽい帽子をかぶればできあがりである。
 

数名の女性が入ってきて
「ステージ用のメイクをします」
と言われた。
 
お化粧なんてするのは初めて(ひとりで留守番している時に母の口紅をこっそり塗ってみたことがある程度)なので、嬉しくなったが、鏡に映してみると、すっごい派手なメイクで「きゃー」と思った。
 
「じゃ本番行きます」
と言われる。
 
嘘!?もうなの?練習とか無いの?まさかぶっつけ本番!??
 
実はリハーサルの時にパトロールガールズが2人しか居ないと発覚して(*12)斉藤社長の決断で、リハの間に白浜が大通公園で女子中高生をスカウトしていたのである。
 
これが実は、パトロールガールズをライブの現地で調達するというのの始まりで(次の公演地からは前日に集めるようになる:リハーサルにも出す)、“地方ガールズ”というシステムが確立していくきっかけとなったのである。雅海は実はその記念すべき、第1号地方ガールズである!
 
(私設のファンサイトに写真が載ってしまう!が“雅海は”気付かなかった)
 
(*12) 欠席の連絡を受けた新人の事務員がちゃんと斉藤社長なり白浜に伝えていなかった。休んだ6人は、2日前にメンバーのひとりの誕生日パーティーで一緒に飲食していて仲良く全員季節外れのインフルエンザでダウンした。これ以降&&エージェンシーでは、パーキング・サービス及びパトロール・ガールズのメンバーに4人以上での飲食を禁止した。
 

ライブは物凄く盛り上がった。
 
雅海はふだんテレビの中でしか見ないパーキングサービスの子たちをステージ上で間近に見て「この子たち、ほんとに可愛い!」と思った(歌は褒めない!)。女の子アイドルとかするのも楽しそうとは思うが、たぶんフロントで立つことのできるのは、アイドル志願者の中で、ほんの一握りに過ぎないのだろう、というのもまた考えた。
 
とにかく笑顔で、元気いっぱいにダンスをした。
 
パーキングサービスがお色直しのため中座した時も、音楽に合わせてひたすらパトロールガールズだけで踊り続けた。パーキングサービスが後半用の衣裳で戻って来て一緒に1曲パフォーマンスした後、休憩となりトイレに行き水分補給する。ブラウスをオレンジ色のに交換した。なおトイレには行ったものの、おしっこはほとんど出なかった!他の子も「おしっこ出ない」と言っていた。汗で全部出てしまったのだろう。でもトイレの便座に座っただけでも、少し疲れが取れた気分だった。
 
男の子は小便器の前に立っただけで疲れが取れるってないだろうから、これって女の子の特性かもね。あれ?ぼく女の子だっけ??
 
ブラウスの交換まで含めて10分ほどの休憩の後、またステージに戻った。その後アンコール2曲までひたすら踊った。
 
2時間のパフォーマンスでさすがにくたくたになった。でも徴用された8人は、ひとりも倒れることなく、全員最後まで踊りきった(実は丈夫そうな子を集めた)。もしかしたら少々ミスったかもしれないけど、破綻するほどのものは無かったと思う。
 
「皆さんお疲れ様でしたー。ありがとう!」
と言って、楽屋で白浜さんが全員に封筒に入った報酬を配る。
 
後でゲーセンちょうしゅうひょう(って何だっけ?)とか送りたいから住所教えてというので用紙に書いて渡した。
 
またクレンジングシートを配られたので、それでメイクを落とした。
 
「衣裳はどうすればいいですか?」
「こちらで洗濯するから、そのまま渡して」
「分かりました」
 
「みんな汗掻いたでしょ?趣味にはあわないかもしれないけど、替えの下着も配るね」
と言われて、パンティとブラジャーに汗拭きシートまで配られた。汗掻いた着替えを入れるビニール袋ももらった
 
もうその場で裸になって、汗拭きシートで身体を拭き、渡された下着に着替えてる子も居る!
 
雅海はユニフォームとハイソックスを脱いで、洗濯用のかごに放り込むと、下着は交換せずにそのままセーラー服を着た。
 
「あれ?下着交換しないの?」
と一緒に踊った小樽の子から訊かれる。
 
「私汗かき体質だから、20分くらいしてから着替える」
「大変ネ!」
 

それできららホールを出たが、雅海は近くのコンビニに入ると、そこのトイレ(もちろん女子トイレ)に入り、その中でショーツとブラジャーを交換した。もらった汗拭きシードで顔や胸を拭くとだいぶ気持ちよくなった。
 
ライブで時間を使ってしまったので、そのまま帰ることにする。地下鉄の中島公園駅まで歩き、そこから、さっぽろ駅まで行く(JRは「札幌駅」だが地下鉄は「さっぽろ駅」)。お腹が空いたので(雅海はお昼を食べていない)マクドナルドでベーコンレタスバーガーのセットを食べ、それから16:50の高速バスに乗った(18:48到着予定)。
 
疲れていたのでバスでは熟睡していた。ふと目が覚めたら、もう留萌駅である!バス内で着替えるつもりだったが、終点では仕方ないのでそのまま降りた。
 

18:48留萌駅前到着予定と連絡していたので、母が駅前まで車で迎えにきてくれていた。母はセーラー服姿の雅海を見ても何も言わず
「お帰り、乗って乗って」
と言って車に乗せる。それで自宅に向かう。
 
「車の中で普段着に着替えてもいい?」
「そのまま帰宅してもいいのに」
「取り敢えず着替える」
「どうぞどうぞ」
 
それで雅海は走行中の車の中で、セーラー服を脱ぎ、トレーナーとジーンズに戻った。
 
「楽しかった?」
「うん。パトロールガールズのライブに飛び入り参加することになって凄く面白かった」
「ああ。パロトールガールズのライブに行ったんだ?」
 
母はパトロールガールズのライブを見に行ったと思っているようだが、まあそれでもいいかな。
 

「その傘、可愛いね」
「うん。雨降ってきたし、可愛い傘があったから、つい買っちゃった」
 
「女装外出も楽しかった?」
と母は訊いた。
 
「えへへ。楽しかったよ」
 
「セーラー服はクリーニングに出してあげるから机の上に出しておきなさい」
「う、うん。ありがとう」
「それ以外の女物は洗濯機に放り込んでおくといいよ。洗濯して乾いたらあんたの衣裳ケースに入れておくから」
「いつもありがとう!」
 
お母ちゃんが理解してくれてるみたいで雅海は嬉しかった。
 

「ぼくが女の子の服着ても、お母ちゃん、怒ったりしないの?」
「今更という気がするけど」
「そうかもね」
「別に悪いことしてるわけでもないし。好きな服着ればいいんじゃない?」
 
「そうだよね!」
「それに女装なんてできるのもこのくらいの年齢までだろうし」
 
そっかー。ぼくやはり年齢あがると男っぽくなって女の子の服、似合わなくなるのかな、と思うと少し悲しい気分になった。
 
雅海が悩んでいたら母が言った。
 
「それとも睾丸取っちゃう?そしたら男っぽくならなくて済むよ」
「どうしよう!?」
 
「ちんちん取るのは大手術だけど、睾丸取るのは30分くらしいの簡単な手術らしいよ。痛みもそんなにないって」
「そうなの!?」
 
睾丸取っちゃって・・・いいのかなぁ!?
 
「睾丸取りたくなったら、お母ちゃんに言いなさいね。手術代くらい出してあげるから」
「あ。うん」
 
でも、お母ちゃん、ぼくのこと理解しすぎということは!?
 
その内、朝起きたら睾丸が無くなってて、
「睾丸取ってあげたよ」
と言われたりして!?
 

今回の札幌行きは、お年玉を取っておいたものを使ったのだが
 
「お小遣いほとんど無くなっちゃった。でも楽しかった」
と思いながら、夜お布団に入って、ミニスカで踊った時のことを思い出していたのだが、ふと「そうだ。お金もらったんだっけ。いくらくれたんだろう」と思う。それでバッグの中から封筒を取りだしてみた。
 
「嘘!?」
 
そこには福沢諭吉先生が2枚もおられたのである!
 
想像していた金額の1桁上だ。
 
「すっごーい。またやりたいな。ミニスカも良かったし」
 
雅海は自分でもミニスカを買って持っておきたい気分になった。
 
どこで穿くかは問題だけど!!
 

セナは千里にブレストフォームを貼り付けてもらい?、お股のタックもしっかりとやってもらった?のだが、その日は疲れていたし、そのまま眠ってしまった。
 
翌朝6時に目が覚め、トイレに行く。なんかおしっこの出方がいつもと違う気がする。いつもよりストレートにおしっこが出る気がするのである。まだ身体が起きてないせいかなと思った。でもおしっこの飛び出す向きが、沙苗ちゃん方式だと後ろ向きに飛び出す感じだが、今日は真下に落ちていく感じである。
 
し終わった後、いつものように出た所をトレペで拭くが、これもいつもと感覚が違う気がした。普段はわりとあの付近全体が濡れる感じなのだが、今日は濡れる範囲が狭い気がした。
 
千里ちゃんのタックの仕方は、沙苗ちゃん方式と少し違うのかも、と思った。タックにもいくつかの流儀があるとは聞いた。たぶん千里ちゃんがしてくれたのは少し難しいやり方なのだろう。
 
ちょっとあの付近を触ってみて、割れ目ちゃんが開けることに気付く。すごーい。ここが開けるなんて。沙苗ちゃん方式だとここは左右の陰嚢の皮を接着するから開けないのだけど、千里ちゃん方式だと、まるで本物の女の子みたいに開くことができるのか、と感心した。
 
でもきっとこういう工作って、マスターするのが難しいんだろうなあ。
 

セナたちの一家は5月3日の朝9時頃、アルテッツァに乗って家を出た。乗り方は
 
(1)運転席:父、助手席:慧瑠、後部座席:母・世那・亜蘭
(2)運転席:母、助手席:亜蘭、後部座席:父・慧瑠・世那
 
の2通りを交替で使用する。(2)のパターンで世那と隣になる慧瑠は
「姉ちゃんと身体が接したら変な気分になる」
と言って、世那との間にバッグを置いて、車が揺れたりしても身体が接触しないようにしていた。
 
「慧瑠も性転換したら、お姉ちゃんと身体が接しても平気になるよ」
と亜蘭が言うが
 
「性転換なんて絶対嫌だ。チンコ取られるなら死んだ方がマシ」
などと慧瑠は言っていた。
 

11時少し前に旭川に着き、ポスフール永山店(*13)で水着を買う。
 
母はサポート機能付きのワンピース水着を買った、亜蘭はビキニを買おうとしたが、母からダメ出しをくらってタンキニにした。亜蘭はセナにもビキニを着せようとしたが、何とか背中だけ上下に分かれていて、前はつながっている水着で勘弁してもらった。
 
なお父と慧瑠は適当なトランクス型の水着を買った。
 
「なんか男と女の予算が違う」
と慧瑠。
 
「あんたも女の子水着を着る?」
「無理〜チンコあるの分かってしまう」
 
ちんちんを隠せたら、女の子水着を着てもいいのだろうか?
 
(*13) 元々は地元資本のホクホー(北峯)とニチイが共同で設置したお店で、1990.10.27に「氷山サティ」としてオープンしている。しかしニチイが経営破綻したことから、ホクホーの単独経営となり、2002年の1-5月の間に道内全てのサティが「ポスフール」に改名された。この物語はこのポスフール時代である。その後、イオンがニチイの株を取得したことから結果的にイオンはポスフールの大株主となり、イオングループ入りすることになる。しばらくはポスフールの店名が維持されたが、2011年3月1日、イオン旭川氷山店と改名された。
 
 
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【女子中学生・十三から娘】(4)