【女子中学生・十三から娘】(6)

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マラソン大会があった金曜日の終わりの会・掃除が終わった後、雅海がやや暗い表情で生徒玄関を出て、校門の方へ歩いて行っていたら、
 
「雅海ちゃん」
と呼ぶ声がある。
 
千里である。
 
「ちょっと付き合わない?」
「あ、うん」
 
千里がタクシーを呼んでいたようで、雅海はそのタクシーに乗った。
 
それで出ようとしていたら、沙苗が走り寄ってくる。
「私も一緒に行っていい?」
「いいよ。乗って」
 
更にセナも駆け寄ってくる。
「ぼくも相談事があるんだけどいい?」
「どうぞどうぞ」
 
それで後部座席に雅海・沙苗・セナ、助手席に千里が乗って、タクシーは出発する。
 

「あれ?こないだの所とは違うの?」
と沙苗が訊く。先日は学校から留萌中心部を過ぎて増毛方面に少し行った場所に行った。今日はC町方面、つまり千里や沙苗の自宅がある町の方に向かう。
 
「うん。行き先は迷い家(まよいが)だからね」(*16)
「へー」
 
(*16) 迷い家(まよいが)というのは、主として関東地方によくある伝説で様々な場所に出現する家。その場所に再度行ってもその家には到達できない。訪れた人には概して幸運が与えられることが多い。
 

沙苗は後部座席中央に座ることになったが、助手席に座る千里を見ていたら千里が緑色の携帯でどうもメールを打っているようである。
 
もしかして、“行き先”に居る誰かに連絡してるのかなと思った。
 
「でもどうしてタクシーなの?」
と沙苗は訊く。
 
「だって私が車運転してたら、先生に叱られる」
と千里。
 
「お客さん、それお巡りさんに捕まりますよ」
と運転手さんが言う。
 
「うん。そっちがもっと恐い」
と明るく千里は言った。
 

車を降りた所はN町(C町の山側にある限界集落 (*17)の山の中である。
 
(*17)この物語では人がまばらに住んでいることになっているが、リアルではこの区域は少なくとも2015年までには人口がゼロとなり集落としては消滅した。
 
↓この物語世界の留萌市北部超略図(再掲)

 
車を降りた所から200mほど歩く。千里が先頭に立ち、セナと雅海をはさんで、沙苗がしんがりを務めた。そこに車が3台ほど駐められそうな庭を持つ、古ぼけた民家があった。実際、軽自動車が1台駐まっている。
 
「“迷い家(まよいが)”と言ったけど、こないだ来た家とは外見が違う」
と沙苗は突っ込む。
 
「そういうこともあるかもね」
「それとそこにライフが駐まってるけど、この庭に到達できる道が存在しない」
 
今歩いて来た道は道幅が1m程度で、両側は林であり、バイクくらいしか通れそうにない。
 
「廃車だったりして」
「ワイパー動かした跡が付いてるから少なくとも今日動かしてる」
 
今日は小雨が降ったのである。ライフは、ワイパーの動いた部分だけきれいになっていて、その外側にほこりが付着している。つまり今日の小雨の中走らせたことが分かる。
 
「沙苗、鋭いね!チャーリーズ・エンジェルになれるよ」
と千里は言った。
 

「まあ車の件は置いといて、入って入って」
と言って、千里は3人を中に案内する。
 
「ここは誰の家?」
と雅海が尋ねる。
 
「親戚の家なんだよ。3年くらい前までは人が住んでたんだけど、旭川に引っ越してしまってここは空き家になっている」
「へー」
 
N町はそういう家が多いだろうなと沙苗は思った。
 
居間に案内されると、人数分4セットの食器が用意されている。自分、更にはセナも飛び入り参加したのに、ちゃんと4人分並んでいるのはやはりさっきタクシーの中から人数を連絡したからなのだろうと沙苗は思った。
 
千里は“入れ立て”の暖かい紅茶を各々の座った目の前にあるティーカップに注いでから
 
「取り敢えず全員、家にお泊まりの許可を取って欲しい」
と言う。それで各々携帯で母に連絡して許可を取った。
 
「でもここで何するの?」
と雅海が訊く。
 
「ここは男の娘製造倶楽部かな」
などと千里が言うと沙苗は
「むしろ女の子製造倶楽部かもね」
と言う。
 
「そうかもね」
 
「雅海ちゃん、ここは男の子は立入禁止なんだよ。だから学生服を脱いでセーラー服か適当な女の子の服に着替えて」
 
「今日はセーラー服持って来てない」
「じゃ適当なのを貸すよ」
と言って、千里は奥の部屋からワンピースを出してきて渡す。雅海は学生服を脱いで、そのワンピースに着替えた。下着は女の子下着を着けていた。
 

雅海が着替えている間に、千里は、やきそばの入った中華鍋を運んできた。湯気がたっていて、できたばかりという感じである。他に野菜サラダも各々の前に置いた。
 
「こないだはシチューだったから今日は雰囲気を変えて焼きそばにしてみた」
「おいしそう!」
という声があがる。
 
「好きなだけ取って食べてね」
 
食事をしながら沙苗はふと、さっきタクシーの中で千里が使っていた携帯がライトグリーンのボディだったことを思い出した。それでよくよく考えてみると、剣道部に参加している千里はいつも赤い携帯を使っていることに気付く。
 
そしてP神社の勉強会に出ている千里は黄色い携帯を使っていることを思い出した。つまり
 
千里は(最低)3人居る!
 
剣道部の練習が終わった後、千里(仮に千里・赤と呼ぶ)が「買物に行く」と言って自分や玖美子と別れるのに、P神社の勉強会に行くと、そこにも千里がいる(この千里を仮に千里・黄と呼ぶ)のが不思議だったのだが、元々別の千里だから、双方に存在できるのだろう。それ以外に、自分にセーラー服をくれたり、女性ホルモンを渡してくれたり、自分やセナの改造をしたりして暗躍?しているのが、この千里(仮に千里・緑と呼ぶ)なのだろう。
 
(↑結構当たっているが沙苗にセーラー服を渡したのは千里B(Blue 千里・青)である。セナの喉仏の修正をしてあげたのは千里R(Red 千里・赤)である。更にこれは欺されても仕方ないが、目の前に居るのはGreen 千里・緑ではない。わざと緑色のピッチを使ってGreenを装っただけである)
 

食事の後、食器は、各々キッチンに運んで、取り敢えずシンクに入れた。おやつにチョコレートも出て来て、わりと普通のおしゃべりが続く。
 
ここに来て、1時間半ほど経ち、壁の時計が18時を打つ。
 
「みんな今からのことは全て夢だよ」
と千里が宣言した。
 
セナがドキドキとした顔をしている。沙苗は頷いている。
 
「どうもセナちゃんの悩みがいちばん早く片付きそう」
と言ってセナを見る。
 
「実は女性ホルモンを入手したいんだけど、入手方法を教えてもらえないかと思って」
「女性ホルモンなんて、そんなの何するの?」
「こないだ千里ちゃんに睾丸を取ってもらったから、睾丸が無いなら女性ホルモン飲んだ方がいいとお母ちゃんに言われて」
 
「私は知らないけど、睾丸取ったんだ?」
「うん」
「ちょっと待って」
と言って千里は“そちら”を見た。そのお方は面倒臭そうに頷いている。
 
「処理してくれるって。たぶんセナの家に定期的に届けられるようになると思う」
「代金は?」
「要らない。セナがP神社でずっと巫女さんしてくれるなら、“従業員の福祉”ということで」
「神社で買ってくれるの?」
「違うよ。神様が買ってくれる。だから今度P神社に行ったら神殿の前で『神様、ありがとうございます』と心の中で唱えるといい」
「よく分からないけどそうする」
 
と言うと、セナは眠ってしまった。
 

奥の部屋からおとなの女性が2人出てくると、セナの身体を抱えて隣の個室のひとつに運び入れてしまった。2人の大人は礼をして下がる。
 
「あれ?セナちゃんどこ行った?」
と雅海が訊く。千里は
「自分の部屋に下がったよ」
と答えた。
 
それで沙苗は“今の2人”が雅海には見えていなかったことを知り、同時に今の2人が“誰”なのか想像が付いた。
 

「じゃ次は雅海ちゃんの相談事を聞こうか」
 
「うん」
 
と言って、雅海は話した。
 
「先日札幌に出て大通公園を歩いていたら、声を掛けられてパーキングサービスのライブでバックダンサーをしたんだよ」
 
「それみんな知ってる」
「うっそー!?」
 
本人は秘密にしていたはずが女子はほぼ全員知ってる。千里も聞いたし沙苗も知ってるがセナは知らない(セナの前で話していたが、セナはいつもぼんやりしているので聞いていない)。
 
「その衣裳がクリーニングされ、ネームも入れて送られてきたんだよ。それを身につけてみていたらお母ちゃんに見られて、あんたアイドルになるなら、取り敢えず睾丸を取ったらと言われたんだけど、話がエスカレートして、一気に性転換手術まで受けることになるかもって感じになって」
 
「いいことじゃん。理解あって羨ましい」
「せっかくだから性転換手術受けさせてもらえばいいのに」
と千里も沙苗も言う。
 
雅海は「相談する相手を間違えたか?」と一瞬思った。(友人たちはみんな背中を押すと思う。停めてほしければ先生とかに相談すべきだった)
 
「そう?でもまだ心の準備ができなくて。それで実は睾丸はもう取っちゃったと言ったんだよ」
「取ってたんだっけ?」
「取ってない。でもそれで手術受ける話は消えたんだけど、今度はもう睾丸取ってるならセーラー服で通学したらと言われて」
 
「セーラー服で通えばいいじゃん」
と沙苗が言うと、千里も
「賛成。親が許してくれるんら楽でいいよね」
と言う。
 
「え〜〜〜!?」
と雅海は声を挙げる。
 
「だってこういう子は女子制服で通うことを親に認めてもらうのに凄く苦労してるのに」
 
「だいたい、クラスのみんなは、いつから雅海ちゃんがセーラー服に変えるんだろうと思っているよ」
と沙苗。
 
「そう?」
 

「女子体育委員の優美絵ちゃんがさ、男子の体育委員の加藤君から相談されたらしいんだよ。『祐川君を男子更衣室で着替えさせていいものか悩んでる』って。それで優美絵ちゃんから私に相談があって『本人がセーラー服で通学してきたら女子更衣室に入れよう』という線を提案しておいた」
と沙苗は言う。
 
「ぼく、男子更衣室で着替えるのは気にしない」
「でも女子更衣室でも着替えられるでしょ?」
「着替えられるかもしれないけど恥ずかしい」
 
「慣れだけの問題だね」
 
「セーラー服問題は取り敢えず置いといて、睾丸どうしよう?まだ付いてることバレちゃったら」
と雅海は悩んでいる。
 
「バレる前に本当に取っちゃったら?」
と沙苗。
 
「そうなの!?」
と雅海。
 

「だけどお母さん、凄い積極的だね」
と千里。
 
「たぶん雅海ちゃんの家では雅海ちゃんが女の子になるのは既定路線になっていたんだと思う」
と沙苗。
 
「そうかな」
「だって、雅海ちゃんがショーツとかブラジャーとかスカートとか洗濯して干してたら、取り入れた人はそれを雅海ちゃんの部屋に置いてくれるんでしょ?」
 
「うん」
「つまり雅海ちゃんは女の子になりたい子だというのが家族には認識されている」
「それはそうかも」
 
「それでどうせ女の子になるのなら、早く治療した方がいいと御両親は思っていた」
「母ちゃんからも『どうせなら早く手術した方がいい』と言われた」
 
「だからバックダンサーしたという件はきっかけにすぎない。そういうのが無かったとしても、夏休みくらいに睾丸を取る手術を受ける話は出てたと思うよ」
「じゃどっちみち、ぼく、今年中に男の子はやめてたのかなあ」
「いやとっくに男の子はやめてると思う」
「そうなの!?」
 
「クラスで雅海ちゃんを男の子と思ってる人は居ないと思うなあ」
「私もそんな気がする。少なくとも男の子としては扱われていない」
「そうかなあ」
 

「じゃ、睾丸を取っちゃえば問題解決?」
と千里が言う。
 
雅海は少し考えていたが
 
「やはり取っちゃおうかなぁ。無くても困らない気がするし。病院行ったほうがいいかな」
と言った。
 
「睾丸取るくらいなら、私が取ってあげるよ」
と千里は“ある方向”を見ながら言った。向こうは頷いている。
 
「取れるの?」
と雅海。
「ちんちんも取る?」
と千里。
「どうしよう?」
と雅海。
「ついでに取ってもらったら?」
と沙苗。
「それでもいいかな」
と雅海は言った。
 

「じゃ取っちゃうね」
と言って千里は、雅海のスカートの裙から手を入れ、パンティをちょっと下げるとちんちんとタマタマを掴んだ。そしてグイッと引き抜いた!
 
「え!?」
と雅海は驚いている。
 
千里の手に雅海のちんちんとタマタマが握られている。ちんちんはとても小さい。セナのちんちんより更に小さい感じである。
 
雅海は自分のお股に手をやり、ちんちんとタマタマが無くなっているのを確認した。
 
「どうする?やはりちんちん取られたくないと思ったら、すぐ戻してあげるけど」
「いや、これでいい。びっくりしたけど」
 
「じゃそれで。このちんちんとタマタマはどうする?捨てちゃう?」
と千里は言ったが、沙苗が
 
「冷凍保存でもしといたら?念のために」
と言う。
 
千里はチラッと“その方角”を見る。
「じゃ保存しておくね」
と言って、千里は奥の部屋に入り、大神に手渡した。
 

そして部屋に戻った。
 
「今ちんちんが無くなったから、単におしっこの出る穴がポツンと開いてるけど、いっそ割れ目ちゃんも作る?」
 
「それ無いとおしっこした後、拭くのが大変だよ。作ってあげなよ」
と沙苗が言うので
 
「じゃ朝目が覚めるまでには出来てる」
と千里は言った。
 
すると雅海は眠ってしまった。
 
奥の部屋からさっきの2人の女性が出て来て、雅海を別の個室に運び入れた。
 

沙苗が言った。
 
「雅海ちゃんは、まだペニスまで取る覚悟ができてないと見た。今夜取るのは睾丸だけにしときなよ」
 
千里は“そちら”を見た。“そのお方”は不満そうだが、まあそれでもいいかという表情である。
 
「ではそういうことで。その代わり、沙苗、雅海ちゃんにタックを指導してあげなよ」
「分かった。教えておく」
 
「まあこれは夢だからね」
「その“夢”という意味、こないだは分からなかったけど、今日は分かった。夢と現実が混じっているんだ」
「全部夢なのに」
と千里は言った。
 
「その証拠に私自身が存在していない」
「存在ということばの定義が分からない」
 

「で、沙苗の悩みは何?」
 
「ひとつ確認したいんだけど、私に卵巣あるよね?」
「3つある」
「3つ!?」
「沙苗の身体に干渉しているのが2組あるみたいだね」
「へ!?」
「ひとつは“さるお方”、もうひとつは“ある人物”」
「さっぱり分からない!」
 

「ひとつのグループは1年前に沙苗が生死の境を彷徨っていた時に、密かに沙苗の細胞を採取した。それを万能細胞に変えた」
 
「そんなことができるの?万能細胞って、受精卵の時しか取れないものと思ってた」
 
「まあ人間にはできないよね」
「なるほどー」
 
(山中伸弥がiPS細胞に関する技術を発表したのは2006年8月であり、2004年の時点で、万能細胞としては受精卵から採取するES細胞のみが知られていた)
 

「まあそれでその万能細胞を女性性器に育てた。それを最近沙苗の身体に移植して戻した」
「うーん・・・・」
「だからこの女性器セットはまだ0歳児サイズだけど、ちゃんと膣、子宮、左右の卵巣と卵管がある」
「凄い」
 
「神社によく居る黄色い時計を填めてる千里も同じ方式で、小学4年生の時に万能細胞を取ってそれを女性器に育てて、1年くらい前に移植戻している。だからあの子は30歳くらいになったら子供を産むかもね」
 
「じゃ私も子供を産めるの?」
「今沙苗の卵巣・子宮は0歳児の状態なんだよ。20年後、35歳くらいになったら子供を産めるようになる」
「ほんとに?」
と沙苗は驚いている。
 
「普通の女の子は11歳くらいで生理が始まる。だから沙苗もたぶん24-25歳になったら生理が始まるよ。原理的には生理が来たら赤ちゃん産めるけど、最初は機能が弱いから最低でも30歳くらいまでは我慢したほうがいい」
 

「私、既に生理が来てるんだけど」
「それは別系統の卵巣・子宮・膣だね」
「別系統?」
 
「ある人が最近亡くなった女性の子供を作りたいと考えた。それで今代わりに産んでくれる女性を探している最中なんだけど、それまでの間、卵巣を保管しておきたかった。人間の卵巣は人間の身体の中に保存するのがいちばんいい。それで卵巣を放り込んでも迷惑じゃなさそうな男の子を探していた」
 
「女性じゃだめなの?」
「本人の卵巣と干渉するから」
「そうか!」
 
「普通の男性だと、そんなものを身体に入れたら身体が女性化して困る。だから女性化したい男の娘が最適だった。一方、沙苗とセナは女性ホルモンの補充を望んでいた。それでその卵巣を1個ずつ勝手に沙苗とセナの体内に入れちゃったんだな。これシールドされてるからMRIとかには映らない。手術とかしようとして身体を開いたら見えるけど」
 
「うーん・・・・・」
 
「最終的に産んでくれる人が見付かったら沙苗あるいはセナの卵巣から卵子を採取して、適当な男性の精子と結合させて代理母さんの子宮に入れる。その作業が終わったら今沙苗とセナの身体に入っている卵巣は取り外してもらえると思う」
 
「それ勝手にやったの?」
「そうみたい。酷いよね」
 

「でも確かに卵巣があるのは困らない」
「多分代わりに産んでくれる人は数ヶ月以内には見付かると思うし。それまで悪いけど、入れさせておいて」
 
「いや、むしろ代理母さんが見付かっても取り外さないで欲しい」
「じゃそのままにするよう言っておく」
 
「ありがとう。でもちょっと待って。卵巣があるなら、私、女性ホルモン剤、飲む必要無い?」
 
「ああ。不要かもね。この1月頃から、沙苗の身体が急速に女性化したのは、ホルモン過多のせいかも」
 
「それひとこと言って欲しかったなあ」
「ね?」
 
つまりその卵巣の(勝手な)移植は1月頃に行われたのだろう。
 

「でも状況が分かって安心した」
と沙苗は言ってから
 
「あれ?セナにも埋め込んだわけ?」
「私は関与してないけど、どうもそうみたい。セナも生理が来たらしいし」
「あの子も?だったらどうして生理が来たか悩んでいるのでは?」
「あの子はきっと何も疑問を感じていない」
「そんな気がする!」
と沙苗も脱力ぎみに言った。
 
こういうことについて物凄く悩む子(沙苗自身がそうだ)と、なーんにも考えてない子(セナはその典型)とがいる。
 
「まあこれも夢の中で聞いた話ということで」
「分かった」
「じゃお休み」
「うん、お休み」
 
そこでこの日の沙苗の記憶は途切れている。
 

5月15日(土)の朝、沙苗は爽快に目が覚めた。
 
が・・・自分が居る場所を認識して戸惑った。沙苗は自宅の自室で寝ていたのである。
 
うーん・・・
 
パジャマをポロシャツとスカートに着替えて、居間に出てみる。
「おはよう」
「おはよう」
母も父も既に起きている。笑梨はまだ寝ているようだ。
「カレーあったまってるよ。自分で盛って食べてね」
「うん」
 
それで沙苗はカレー皿を食器棚から取ると、ごはんをジャーからよそい、それに鍋の中のカレーを掛け、スプーンを持って来て食卓に座り食べる。
 
そして考えた。
 
どうも私は昨夜よそに泊まったことにはなってないみたい!
 
携帯の履歴を確認すると、確かに昨日夕方16:40に母の携帯に掛けている。だから、確かに自分は千里と一緒に“迷い家(まよいが)”に泊まったのだろうけど、そのことは両親の記憶には残っていないようだ。
 
まいっか!今回は話を聞いただけで、私の身体は何もいじられていないし(←だといいね)。
 

5月15日(土)の朝、セナは爽快に目が覚めた。
 
「あれ〜。なんでわたし自分の部屋に寝てるの?」
と思ったが、気にしないことにした!
 
ただ昨日のマラソン大会の筋肉痛が結構残っている。
 
沙苗や千里は毎日剣道部でたくさん運動をしているので3kmくらい走っても平気だが、セナは剣道部でもそんなに運動しないで、好花ちゃんや(最近入部した)真由奈ちゃんと、おしゃべりしている時間の方が長いくらいである。それで、3kmのランニングが、わりと“利いて”いる。
 
でもホルモン問題が何とかなりそうだからよかった(←自分の体内に卵巣があることなど全く認識していない)。
 
セナはパジャマのまま居間に出ていくと
「おはよう」
と言った。母と姉・亜蘭がいる。父は寝ているのだろうか。弟・慧瑠は土曜の午前中に起きてくるわけがない!(*18)
 
「そこにハムエッグ、ラップ掛けて置いてるからチンしてね。パンは適当に焼いて食べて」
と姉が言う。
「OK」
と言って、セナは食パンをオーブントースターに入れて3分掛けた。
 
(*18) この一家の名前は、読者は御察しのことかもしれないが、F1レーサーの名前から採られている。
 
右京うきょう 1958.5.29 ←片山右京 1963.5.29
恋蘭れら 1963.3.26 ←レラ・ロンバルディ 1941.3.26
亜蘭あらん 1989.2.24 ←アラン・プロスト 1955.2.24
世那せな 1991.3.21 ←アイルトン・セナ 1960.3.21
慧瑠さとる 1993.2.23 ←中嶋悟 1953.2.23
 
なにげに早生まれが多い!
 
お父さんの年代が逆転しているのは愛嬌ということで(汗)
 
更にレラ・ロンバルディがF1に参戦したのは1974年で恋蘭が生まれたのより後だが、これも愛嬌で。なお、レラ・ロンバルディは2022年現在、F1史上、唯一入賞してポイントを取ったことのある女性F1ドライバーである。
 

5月15日(土)の朝、雅海は爽快に目が覚めた。
 
「あれ?ここぼくの家??」
 
彼は自宅の自分の部屋に寝ていたのである。
 
「ぼくいつ家に戻ったんだろう?」
 
雅海は昨日の夕方、“あの家”で食事が終わった後、千里が
「これからのことは夢だよ」
と言ったのを思いだした。
 
あれ?夢だったのかな?
 
おそるおそるお股に手を伸ばしてみる。
 
あれ〜〜!?ちんちんある。
 
やはり千里ちゃんが、ぼくのちんちんとタマタマを掴んで引き抜いたのは夢だったのかなあ。あんな簡単に、ちんちんが引き抜けるわけないよね。痛みも無かったし。ああ、せめてタマタマだけでも無くなればいいのに、と思う。それで玉も触ろうとしたのだが・・・
 
あっ。
 
玉は無くなってる!?
 
雅海は単に体内に入り込んでいるということはないかと思い、お腹に力を入れてみたり、指で探したりしたが、やはり睾丸は消失していることを確認できた。
 
嬉しい!無くなった!
 
これで男っぽい身体にならなくて済む!
 

雅海は思った。あれは夢と現実が混ざり合った世界だったのかも。
 
ちなみに今は現実だろうか?
 
不安になったので、頬を叩いてみた。
 
痛い。
 
ということは今は現実だ。
 
夢の中ではちんちん・たまたま双方取ってもらったけど、実際にはタマタマだけが無くなったということかな。ぼく自身の、ちんちんもたまたまも無くしたいという願望が強く出たのかもしれない、と雅海は思った。
 

雅海は「今日はこれ着ようかな」と思い、トレーナーにロングスカートを穿いて居間に出行くと、母と2番目の姉・夏絵が起きていて
「おはよう」
と言った。雅海も
「おはよう」
と言って食卓の所に座る。
 
母も姉も雅海がスカートを穿いているのを見ても何も言わない。
 
そして自分が居ることに驚く様子もないので、やはり昨夜千里ちゃんの親戚の家?に泊まったという話は認識されていないようだと思う。あそこの家に着いたあたりから、既に夢の一部になっていたのかもしれない。
 
なお、この家は、子供が5人いるので、元々は6畳サイズの部屋が4つある4LDKだったのをその内の3つの部屋をパーティションで仕切って子供部屋を6つ作っており(もうひとつの6畳は夫婦の部屋)、5人の子供が3畳サイズの個室を使用している。もうひとつの3畳部屋は「もうひとりくらいできるかもと思ったが出来なかった」という話で現在は、母と姉たちの衣裳部屋と化している。
 
1984.5 竹夜(旭川で女子大生をしている) 163
1986.7 夏絵(高3) 166
1988.4 羽月(高1) 165
1990.9 雅海(中2) 164
1992.8 山登(小6) 170
 
なお羽月の読み方は「はるな」だがたいてい「はづき」と読まれ、本人もそれでいいことにしている。“はづき”と読まれてしまうと8月生まれと誤解されるが春の4月生まれなので“はるな”である。親しい友人からは「るなちゃん」と呼ばれる。
 
両親が雅海の“女子化”に許容的なのは、やはり弟がいるからだろうなあと雅海は時々思う。山登(やまと)はしばしば、ちんちんをぶらざらさせながら家の中を歩いているので、姉たちから「パンツ穿かないとちょん切るぞ!」などと言われている。しかし雅海は山登のちんちんを目にして「ぼくのよりずっと大きい」と思っていた(むろん「あんなに大きくなくて良かった」と思っている)。
 

お昼過ぎ、沙苗ちゃんがやってきて
「まさみちゃん、タックを知らないみたいだから教えてあげるよ」
と言った。
 
タック?ダンスの名前?(それはタップ!)
 
それでやってもらったら、まるでちんちんが無くなって女の子のお股になってしまったかのように見えるので「すごーい」と思った。
 
「これのいい所はこのままおしっこできることなんだよ。だから適宜メンテしてれば4〜5日もつよ」
 
「すごーい。こんな画期的なちんちん隠しの方法があったなんて」
「思いついた人は天才だよね」
 
でも沙苗ちゃんはぼくの睾丸が無いことに驚かないんだなと思った。昨夜の夢?では、ぼくに「ちんちんも取っちゃえば」と煽ってたけど、やはりぼくも沙苗ちゃんみたいになりたいという気持ちがあるから、そういう役割になったのかなあなどとも思った。
 
「でも沙苗ちゃん、ぼくに睾丸が無いこと驚かないんだね」
と訊いてみた。
 
「え?だって雅海ちゃん、春休みに去勢手術受けたんでしょ?」
「え?」
「女子の間ではそう噂されてるけど」
「あはは」
「去勢までしたのなら、セーラー服で学校に出てくればいいのに」
「あはははは」
 
「取り敢えずタックしてたら、男物のパンツは合わないよ。もういつも女の子用のパンティ穿いておくようにしなよ」
「でも学校の体育の時間が」
「雅海ちゃんが女の子パンティ穿いてても誰も変には思わないよ」
 
雅海は少し考えた。
 
「そうかもしんない!」
 

そして雅海はその日沙苗が帰った後で、重大な問題に気がついた。
 
タックしてたら、立っておしっこをすることはできない!!!
 
月曜日から学校で雅海は(男子トイレの)個室しか使わなくなり、男子たちの間に「とうとう祐川はチンコ取ったようだ」という噂が広まることになる。
 

5月15日(土)の朝、千里Rは朝7時のバスで旭川に出た。
 
留萌駅前7:06-9:10旭川駅前
 
毎月1度の、笛の指導を、きーちゃんから受けるためである。笛のついでにピアノの指導も受け、また越智さんから剣道の指導も受ける。更についでに、きーちゃんから不意打ちの訓練も受ける!
 
(ちなみに昨夜のN町の古家に千里Rは行ってない。きーちゃんも行ってない)
 
でも、きーちゃんとのセッションは、今月か来月くらいまでという話であった。昨年6月から始めて約1年指導してもらったが、まだまだ習いたい気分だったので寂しくなるなと千里Rは思っていた。
 
しかしこの日きーちゃんは
 
「取り敢えず7月まではやるよ」
と言った。
 
「その後のことについてはたぶん7月31日に分かると思う」
「へー」
「まあその先のことについては守秘義務で言ってはいけないんだよ」
「分かった」
と千里は言ったが、
『この子、その後もセッションが続くことが“分かった”のでは?』
と、きーちゃんは思った。
 
この子には、嘘や隠し事が通じない。
 
H大神が旭川に眷属の住まいを確保させたということは、自分を含む十二天将は、この子に付くということしか考えられない。
 
旭川近辺にいる霊能者として、他に桃源の妹弟子にあたる海藤天津子がいるが、XX教の“生き神様”をしている。そういう邪宗にどっぷり浸っている子に出羽が味方することは考えられない。そうなると、正統な神道の訓練を受けている千里が最も考えやすい。きっとこの子は中学を出たら旭川の高校に進学するのだろう。L女子高に興味持ってたから、そこかな?この子が例えば75歳くらいになるまで付き合うと60年間くらいの付き合いになるからH大神の言う「長い仕事」というのも分かる(←やはり1桁勘違いしている)。
 

いつものように、午前中はフルートを習い、12時になったらお昼を食べる。
 
今回、千里はコリンを連れてきて、食事の準備や雑用を彼女にさせた。
 
千里は、きーちゃんの補助?をしている“鳥さん”に気付いた。
 
「木村櫃美さん」
と千里はいきなり彼女の名前を呼んだ。
 
「ああ、バレちゃいますよね」
と言って、姿を現す。櫃美は、東京でお焚き上げした時にはいきなり真名(まことのな)を呼ばれたからなあと思い、姿を現した。彼女はセッション中の雑用を引き受けるために来ていた。
 
(お焚き上げの時に真名を呼んだのは千里Gで今ここに居るのは千里Rだが、櫃美は2人の違いに気付かない。きーちゃんもまさか別人とは思っていない。そもそも東京でGはRの振りをしていた)
 
「あなたかなり酷い怪我してる」
「ええ。先日も言ったように事故にあって」
「それ痛いでしょ?私の所に、そうだなあ、2ヶ月くらい来ない?治してあげるから」
 
櫃美が、きーちゃんを見る。
 
「いいんじゃない?」
「じゃお願いします」
と櫃美が言うと、千里は彼女を“吸収”した。
 

「どこに行ったの?」
「私は“海”と呼んでる。人間や精霊をそこに入れておくと、疲労や怪我から回復するんだよ」
と千里は言う。
 
コリンが言う。
「実は私も瀕死の重傷を負っていたのですが、千里さんに助けられて3ヶ月掛けて治してもらったんです。怪我から回復した後、自由だよと言われたけど、千里さんに付きたいと言って、眷属にしてもらったんです」
 
「そういう能力があるのか」
「疲れてるだけなら半日も入っていると元気になるよ」
 
「そういう能力ってどうやって覚えたの?」
「さるお方が勝手に私の身体を使ってた。その内、自分でもできるようになった」
 
実は、エアガンで怪我した小春、罠で怪我した小町もP大神が千里のこの機能を勝手に!使って治療した。後には、ここは眷属たちの“常宿”と化し、単に寝るためだけにここに入るようになる。更には、きーちゃんやこうちゃんが千里に無断で勝手に傷ついた人の治療に使うようになる!
 
「なるほどねー」
「自分を癒やすことはできないのが難点」
「あはは」
 
やはりこの子は天性の巫女なんだ。ひとつ間違えば、天津子のように“生き神様”に仕立て上げられている。この子は育つ環境に物凄く恵まれていたと、きーちゃんは考えた。
 
ともかくも櫃美はこのまま千里の“海”の中で7月まで2ヶ月間休眠することになる。
 
「今回のセッションでの雑用は私がしますから」
とコリン。
 
「うん。よろしくー」
と、きーちゃんも言った。
 

土曜日の午後はピアノのレッスンをする。そしておやつを食べてから今度は龍笛を習う。そして1泊してから、翌日の午前中は越智さんから剣道を習う。きーちゃんが先日建ててくれた剣道練習場を使うが広いので練習がしやすかった。お昼を一緒に食べた後、午後から龍笛とフルートを習って今回のセッションを終えた。
 
今回のセッションでも、きーちゃんは千里に5回くらい不意打ちを掛けたが、千里はしっかり防御するので、きーちゃんも満足であった。
 
でも千里は、越智さんと真剣勝負してる最中の不意打ちは勘弁して〜と思った(さすがに越智さんから面を取られた:不意打ちは防御しないと死ぬので、そちらが当然優先)。
 
夕方には天子の所に行き、夕飯を千里が作って、瑞江と3人で食べた。そして最終JRで帰った(ことにした!)。
 
旭川19:16-19:46深川20:10-21:05留萌
 
例によって、千里の荷物はコリンが留萌駅まで運んで小春にリレーした。
 
※バスの最終は、旭川駅前18:20-20:17留萌駅前
 
なお天子の所には、千里Y、千里Gも毎月1度は来るので瑞江は3人の千里が分担して1回ずつ来るのだろうと思っている(瑞江には3人の区別が付かない)。
 

千里たちの中学では、先日実力テストをしたばかりだが、5月20日(木)には1学期の中間テスト(5科目)が行われた。今回千里は数学の成績が悪く、先生から「村山さんどうしたの?」と言われた。
 
実はいつも数学のテストはBが受けているのだが、今回Bは出現してくれなかったのである。それでやむを得ずYに受けさせた(Rよりはマシ)が、Yは60点しか取れなかった(Rなら多分30点)。
 
ただこの後Yは数学の授業にも結構出るようになり、少しずつ数学も理解できるように進化していく。これは花絵さんに課されている算数ドリルのおかげがかなりある。Yは理屈は分かるのだが、計算が正しくないので、数学の問題で正解できなかっただけなのである。
 
Rは理屈自体分からない!!
 

5月30日(日)は体育祭になっていた。28日(金)にはその予行練習も行われた。2年生は集団演技ではソーラン節を踊ることになっている。集団演技は年々演目が変わるのだが、2年生のソーラン節は20年以上前から固定されていて変わってないらしい(50年前から変わってなかったりして)。走る競技では、1組の女子はこのように振り分けられた(800,1600,リレーは、実際問題としてクラス委員の恵香と体育委員の優美絵でほとんど決めた)。
 
100m 萌花、佐奈恵、美都 、穂花
200m 世那、優美絵、小春
800m 恵香、沙苗
1500m 千里、玖美子
クラス対抗リレー(200m) 絵梨、スウェーデンリレー(200m) 蓮菜
 
「私、去年も1500m走ったのに」
と千里。
「来年もよろしく」
 
実際1500mを走る体力がありそうなのは、千里・玖美子・沙苗・絵梨くらいである。絵梨はリレーに使うことにした。
 
800mもきついので、クラス委員の恵香が自分で走ることにし、もうひとりは沙苗を指名した。
「私去年も800m走った」
「来年はぜひ1500mを」
 
セナは性別に疑惑?があるので、性別による有利不利が出やすい長距離には使わないことにし、200mに出すことにした(セナの脚力では関係無い気もする)。
 
雅海は男子の800mに割り当てられて悲鳴をあげていた。彼はスピードは無いから200mとかではいつもビリなのだが、持久力はわりとあるので長距離向きなのである。でも3000mに出すと体育会の進行に支障が出るかもというので800mになった。
 
(『女子並みのタイムだ』と言われて“喜んでいた”!)
 

ソーラン節の衣裳は、黒い股引(ももひき)の上に赤白青の半纏(はんてん)を着る(太鼓係も踊り手も同じ。留実子はむろん太鼓係)。半纏は背中に波の絵が染められた格好良いもので、学校の備品である。20年くらい前に三泊の網本さんが寄附してくれたものらしい。色は1組が赤、2組が白、3組が青になっている。ここ5-6年はこの3色だったらしいが、来年は2色になってしまうかもしれない。
 
(倉庫には緑・黄・黒の衣裳も入っていて傷まないよう年に1度は洗濯・天干し、している。つまり作った当時は6クラスだったのかも)
 
半纏(はんてん)はアバウトなサイズでも着られるので、SMLと3種類用意されているが、股引(ももひき)は結構微妙なサイズになるし、肌に着るものでもあるので、各自用意して下さいということになっている。千里・玖美子・沙苗・セナは剣道部の練習が終わった後、一緒に町に出て、衣料品店で太股のサイズを計ってもらって買い求めた(股引は太股のサイズで選ぶ。例えば太股48-52cmは“中”、52-56cmは“中フト(中太)”などと言う)。
 

「あれ?股引にも男用・女用ってあるんですか?」
とセナが訊いた。
 
「男の人はちんちんがあるから、前開きが付いてるんです」
「ああ、なるほどー」
「女には前開きは使い道が無いね」
と店の女主人。
 
「ここにはちんちんありそうな子は居ないな」
と玖美子が言うと、セナがドキドキしている。
 
「それと男用はウェストとヒップのサイズ差が10cmくらいなんですけど、女用はウェストとヒップの差が20cmあるんですよ」
「ああ。体型が違いますからね」
 
セナは、ぼく腰の形が女の子型になっちゃったから、もう男用は着れないなと思った。
 
「それと女用は裙口が男用より絞ってあるから、女用を男の人が穿こうとするとかかとがつっかえたりしますね」
「それも体型の違いかな」
「体型というより足型というか」
 
ジーンズなども裙口が絞られているタイプは、ヒップが入っても男性には穿けないことがあるので、レディスを穿きたい男性はきちんと試着したほうが良い。ブーツカットなどはこの心配が無い。
 

一方、雅海は家で
「股引(ももひき)は各自で用意してと言われた」
と言ったら、2つ上の羽月姉が
 
「私か2年前に使ったのでよければあげるよ」
と言う。
 
「4年前には私が使った股引だな」
と夏絵姉。
「6年前には竹夜が使った股引だね」
と母。
 
「じゃもらう」
と言って、部屋で試着してきたら、わりとちょうどよかった。
 
「ああ、ぴったしだね」
「良かった良かった」
と言いながら、母や姉たちが『お股に突起が無い』ことに注目していることには気付かない。
 
実際母は『この子、親に内緒で睾丸取ったと言ったけど、実はペニスも取ったのでは』という疑惑を持った。
 
「2年後には山登が使う?」
と羽月姉が言うが
 
「女の股引が僕に入る訳ない」
と山登は言っていた。
 
「まあある部分が入らないよね」
 
と夏絵姉が言うので、ちんちんがあると入らないかな?と雅海は思ったが、実は“ある部分”とは裙口のことである!雅海は華奢な体型だし足も23cmなので姉のが入った。でも山登は既に25cmの靴を履いている。身長も170cmあって、きょうだいの中で最も背が高い。もうすぐ父に追いつく。
 

そして体育祭当日。スケジュールはだいたい昨年と似たようなものであるが少し前倒しの進行になった。
 
8:30 入場行進/開会式/準備体操
9:00 男女100m走/男女200m走
9:15 1年生玉入れ/2年生大縄飛び/3年生大玉転がし
10:00 1年生パン食い競争/2年生デカパン競争/3年生スプーンリレー
11:00 男女800m走 女子1500m走 男子3000m走
応援合戦
(昼食)
13:00 1年生フォークダンス/2年生ソーラン節/3年生エッサッサ
13:45 部活対抗リレー/クラス対抗リレー/スウェーデンリレー
14:15 閉会式
 
2年生は昨年までは綱引きだったのが、今年は大縄飛びになった。この競技はリズム感の悪い子が1人いると足を引っ張るという問題があるのでリズム感の悪い子は縄を持つ係に回されている!セナとか雅海、優美絵や高橋君などが縄持ち係になっている。飛ぶ人数は各クラス20人以上という規定なのでどのクラスも20人ジャストにした。
 
変形競争は昨年は2年借り物競走、3年障害物競走だったが、デカパン競争、スプーンリレーに変更になった。デカパン競争とは、巨大なパンツの中に数人入って走る形式のリレーである。二人三脚のバリエーションだが、足を結んだりしないので、よりお手軽。二人三脚同様、脚力の近い子を組み合わせる必要があるが、生徒たちには「無理せず協調して走って怪我の無いように」と言ってある。
 
集団演技は、昨年は3年生はマスゲームだったが、今年はエッサッサが登場した。これは過去にもやったことがあるらしい。来年はまたどうなるかは分からない。
 

応援では、応援団やチア部に入っている人がその衣裳で応援するが、女子は全員チアに徴用され、チア部の子はまさに“チアリーダー”となる。ここで雅海もチアの衣裳を渡され、(体操服の上に)ミニスカートを穿いてボンボンを持って踊ったが、
 
「凄く上手い」
「まるでプロみたい」
「雅海ちゃん、チア部に入らない?」
などと言われ、勧誘されていた。
 
「でも、チア部って女子だけじゃないの?」
「雅海ちゃん、今年の春休みに性転換手術を受けたんでしょ?」
「女の子になったのに、どうして男子制服着てるんだろうとみんな言ってるよ」
 
あはは、なんか噂がグレードアップしてない?
 
(もっとも普通の人の場合、去勢手術と性転換手術の違いが分かってなかったりする)
 
また、女子の間では、パトロールガールズの“北海道地方生”のメンバーの1人が雅海に似ているという噂が広まっている。
 
(実を言うと、非公開だが、パトロール・ガールズの正メンバーのひとりは男の娘なので、男の娘の参加について事務所はほとんど気にしていない。とはいえ、白浜は雅海を普通の女の子と思い込んでいる)
 

昼休みが終わる少し前くらいの時間に1年生は体操服のまま入場門に集合してフォークダンスを踊るが、2年生は男子は2年1組、女子は2年2組に行き、ソーラン節の衣裳に着替える。
 
千里や沙苗は他の女子とおしゃべりしながら2年2組に入る。セナは不安そうな顔をしているのを沙苗が手を握ってあげて一緒に2組に入った。
 
雅海は2年1組の前でどうしよう?と悩んでいたのだが・・・優美絵と恵香にキャッチされる。
 
「まさみちゃん、ひとりじゃ不安でしょ。私たちが付いててあげるから、一緒に着替えようね」
と言って、2組に連行された。(2人が雅海を女子の更衣場所に連れ込んだ理由については後述)
 

これが雅海にとっては初めての学校での女子と一緒の着替えになった。
 
でも誰も雅海の方を見ないし、誰も騒がないので、雅海はいいのかなあと思いながらも、体操服のズボンを脱ぎ、股引を穿く。ズボンを脱いだ時、パンティが見えるが、優美絵も恵香も頷いている。
 
その後、股引を穿くが、股引というのは身体にピタリとフィットするので、当然お股のところもそのままのラインが出る。雅海はむろん何も突起のようなものは無く、スッキリしたラインである。
 
それを多くの女子がチラリと目の端で見て納得していたことに、雅海は気がつかなかった。
 
その上に半纏(はんてん)を着れば出来上がりである。
 
「さ、行こう行こう」
と言われて、優美絵たちと一緒に集合門の所に行ったので、結局雅海は彼女たちと一緒に踊ることになった。ソーラン節は特に男子と女子で動きは違わないし、衣裳も同じなのだが、女子の中で踊るとなんか暖かい感じがした。
 
そして雅海はまた先日のパーキングサービスのライブでのダンスを思い出していた。
 

踊りが終わると、退場し、そのまま他の女子と一緒に2年2組の教室に行く。この時は雅海も踊りの後で気持ちが高揚しているので、あまり抵抗なく女子の更衣場所に入った。
 
半纏(はんてん)を脱ぎ、股引(ももひき)を脱いで体操服のズボンを穿く。このボトム交換の時もさりげなく雅海のお股を見ている女子が多数居た。
 
なお今回は雅海が注目の的(まと)?となっていたので。セナはほとんど注目されずに済んだ。
 
そしてこの後、
「やはり雅海ちゃん、ちんちん取っちゃったみたい。ちんちんがあるなら、股引穿いた時に、形が見えるはずだけど、何も見えなかったもん」
 
ということで、雅海はやはりもうちんちんが無いというのが“確定情報”として広まることになる。(この噂に先行して男子の方から、雅海は個室しか使わないという情報が伝わってきていた)
 

なおクラブ対抗リレーで、女子バスケ部は、久子→数子→泰子→留実子と繋ぎ、アンカーの留実子が力走して陸上部に次ぐ2位に入った。
 
「最後が男というのはずるい」
という陰口もあったが、留実子は気にしない。
 
女子剣道部は、紅音→香恵→千里→玖美子と走って女子バスケ部に次ぐ3位に入った。
「さすが地区大会で優勝するだけある」
と称賛されていたが、3年生の2人は「これが私たちの剣道部としての最後の外部活動かも」などと言っていた。
 
 
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【女子中学生・十三から娘】(6)