【夏の日の想い出・止まれ進め】(7)
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弥日古は女の子になってしまったので不要になったブレストフォームを手にして考えた。
「自分のおっぱいができたからこれ要らなくなったけど、捨てるのももったいないしなあ。多分これ数万円するよね。誰かおっぱい要る人居ないかなあ」
(数万円ではなく数十万円すると思う)
私(ケイ)が多忙でなかなか小平市の政子の実家に行かないので、その日は政子が、あやめ・夏絵・大輝の3人を連れて恵比寿のマンションに出て来ていた。大輝がスカートを穿いてるのは気にしない気にしない。かえでは政子のお母さんが見ている。そもそも政子は赤ちゃんの世話をほとんどしていない!
政子は実家に居ると1日に5回は母から何かで叱られるので(子供たちが叱られる回数より多いかも)、こちらに居たほうが気楽なのだろう。出産の傷もだいぶ回復してきたようである。
「マーサ、結局大輔さんには出産したこと連絡してないの?」
「別に。大輔とは関係ないし」
などと言っている。
この日、政子はあやめたちと、すごろくをして遊んでいたが唐突に私に訊いた。
「ねえ、日本では源平が白と赤だし、イングランドでは薔薇戦争が白バラ対赤バラでユニオンローズも紅白が合体したものじゃん」
(再掲:薔薇戦争)
「うん」
「だいたい赤と対比されるのは白でしょ?それなのにどうして信号機は赤が止まれで青が進めなの?赤と白でいいじゃん」
「最初は赤と白だったんだよ」
「そうなんだ?」
「でも赤いライトって実際には白い電球の前に赤ガラスを取り付けて作る。するとね。初期の頃、かなりの事故が起きた」
「ん?」
「赤信号の赤いガラスが割れてしまった場合に、その信号が白に誤認されたんだよ」
「あぁ!」
「だから白は使わないことにして、進めは青にした。そちらは青ガラスを入れる。万一白い信号を見たら、それは赤か青のガラスが割れたものだから警戒する」
「なるほどー、それで赤と青になったのか」
「欧米の子供の遊びで「赤信号・青信号」というのもあるね」
「どういうの?」
「日本で言うと、だるまさんが転んだ」
「なるほどー!」
「遊び方の想像は付くでしょ?」
「付く付く」
と言って政子はすごろくそっちのけで詩を書き始めたので、私が子供たちとすごろくの続きをした。今日中にあげないといけない編曲があるのに!
政子の詩を見てたら
「男の子への道は赤信号!女の子への道が青信号!」
「ズボンは捨てチャオ、ブリーフは捨てチャオ」
「スカート穿いて、ブラジャー着けて、ショーツを穿いて」
「髪を伸ばしてメイクをしたら立派な女の子」
「男の子になるのは止めて、進もう女の子めざして!」
などと書き綴られている。
「冬、これに曲付けて〜」
「却下」
「何でよ〜」
と政子は不満そうだった。
8月下旬。
大輔たちの母・百道和子さんが夏絵の様子を見に、政子の実家にやって来た。それで赤ちゃんが産まれていることを知る。政子の母は恐縮して
「すみません。この子が連絡しなくていいと言うものですから」
などと言っている。
「だって関係無いし」
と政子。
「喧嘩でもしたの?ごめんね。あの子ワガママだから」
いや、ワガママなのは政子だと思うぞ。大輔さんは不誠実なだけで!
私は彼が浮気しているのには気付いていたが、薬は断っているようなので、浮気には目を瞑っていた。
お母さんの連絡で大輔は飛んできた。そして嬉しそうに、かえでを抱いていた。政子の母は微笑ましくその様子を見ていたが、私は複雑な思いがしていた。
そして大輔のブログへの書き込みから、赤ちゃんが産まれていたことが報道され、大量のおめでとうメッセージがマリに寄せられた、
このあと12月まで、大輔は毎週政子の家にやってきていた。その時期は、亮平も大輝に会いに来るのを控えていたので、大輝は私が連れ出して、お父さんの亮平や法的な姉である月花とも遊ばせていた。月花と大輝は結構仲良くしていたので月花の母である原野妃登美が
「この2人仲よかったら結婚させてもいいかもね」
と言っていた。
「それはできない。この子たち法的には姉弟だから」
と私も亮平も言う。
「実際は血は繋がってないのに(*25)」
「それ絶対公表できないから」
だいたいバレて最初に困るのは妃登美ちゃんじゃん。
「それにしても現代の法律は変だね!昔は異母姉弟の結婚なんて珍しくなかったのに」
と妃登美は文句言っていた。
(*25) 月花は亮平と妃登美の子供ということになっているが、本当は作詩家・八雲春朗との子供である。だから亮平の実の子供は大輝だけ。亮平は政子から妃登美へ“金銭トレード”!された。でも亮平は他人の子供を宿していることを承知で妃登美と結婚した。そして月花を自分の子供のように可愛がっている。
この件はバレると連鎖的に様々なことがバレて、複数の家庭を崩壊させかねないし、東郷誠一大先生を巻き込んだ芸能界の大激震(多分上島ショックの数倍)を引き起こしかねない。そうなると多数の芸能事務所の倒産、多数の歌手の引退を引き起こして数万人が路頭に迷うことになるので絶対にばらせない。
9月2日(金・友引・ひらく・一粒万倍日).
この日はイベント目白押しであった。
朝9時ジャストに郷愁ライナーが開業。熊谷発の1号列車にムーラン社長の若葉と熊谷市長、嵐山(らんさん)発の2号列車にムーラン専務の千里と嵐山町長が乗り、両者は昭和駅で降りて、ホテル昭和の前で記念式典を行った。式典が屋外になったのは、感染拡大防止のためである。
若葉は(後を千里に任せて)式典を途中で抜け、郷愁飛行場からDo228で氷見飛行場に飛ぶ。そして11:07に氷見飛行場のオープンの式典を行った。こちらには氷見市長や商工会・漁協などの関係者が来てくれた。
一方、青葉はこの日11時から、越谷のF神社で結婚式を挙げた。ここは千里が名誉副巫女長を務めている神社である。結婚式には両者の親族のほかに、唯一、友人として私(ケイ)が参加した。千里ももちろん青葉の親族として出席している。
つまり・・・最低でも郷愁ライナーの式典に参加した千里と、結婚式に参加した千里とNTCで合宿中の千里の3人がいたことになる。今更だが。
結婚式に出た人たちは、そのまま自分の車か用意したバスで神社からすぐ近くの小鳩シティに移動し、そこの宿舎(小鳩マンション)に入った。各部屋にはwebカメラ付きのパソコンが用意されていて、ここから祝賀会にネット参加する。祝賀会の会場(小鳩シティ103スタジオ)に入るのは、新郎新婦、司会の小林雪恵アナウンサー、エレクトーン係の南田容子のみである。
この祝賀会はネット形式で行われるが、あけぼのテレビでも生中継される。放送は18:30-20:30の2時間だが、最初の30分は、結婚式のダイジェスト、私による青葉の紹介、青葉本人の視聴者への挨拶で、祝賀会は1時間半である。
披露宴ではなく祝賀会なので規定の参加料(会費15,000円(高校生以下5000円, 小学生以下1000円))を払って参加し、参加表明した人にネット接続のidを渡している。領収証も発行している。
ネット会議システムによる直接参加者は200人を超えた。最終的に何人参加したのかは発起人グループでも分からないということだった。これは色々変則的な参加をした人があったからである。
たとえば参加料だけ払ってネットは繋がずあけぼのテレビを見ていた人、主として法的な規制のため参加料を払わず祝福だけしてくれた人(ネット会議接続のidを渡した)、また姉妹や夫婦で回線を共有した人たちもあった。更にはたくさん食べたいと言って参加料を倍払って2食分配送してもらった人まであった(水泳関係者に多い)。
下記のリスト(233人)もたぶん参加者を網羅していない。★は発起人(14人).
青葉の親族(25)
古賀太兵&梅子(青葉の父の両親)、高園朋子、典子夫妻、(朋子・典子の母)敬子、千葉の洋彦&恵奈、高知の咲子、旭川の天子、桃香★+早月・由美、千里★&貴司+京平・緩菜、玲羅&陽介、川上法嶺(1945)夫妻+川上法満(1969)夫妻+川上法健(1993)
彪志の親族(11)
鈴江宗司&文月、(宗司の弟)鈴江大介&瑞恵、鈴江芳男夫妻(宗司の両親)、小比類巻孝弘&弥生(文月の妹)、仲村平和&愛奈★(弥生の娘)、勝子(1943)(文月の母)
彪志の関係者(14)
同僚8人(社長と田代課長を含む)、友人6人
青葉の個人的友人(24)
(クロスロード)月山淳&和実★、浜田あきら&小夜子、山吹若葉★、呉羽ヒロミ、奥村春貴、(大船渡系)小沼早紀、菊池咲良、海老名椿妃、木村登夜香、(北陸系)田中世梨奈、鶴野明日香、清原空帆、山田星衣良、石井美由紀★、大谷日香理、杉本美滝、上野美津穂、角光先生、音頭調子先生、小坂巻子先生、鞠村先生、松井絵理先生
クライアント(12)
越智舞花+越智純之介、ハル+アキ+アイ、遊佐真白&美里、玉梨乙子&桜アキナ、渡辺薫+川口遙佳+歩夢
F神社関係(5)
宮司夫妻、結婚式に出た巫女さん(梨沙・深耶・久美)
音楽系(61)
Grp A(20) §§ミュージック関係
秋風コスモス、川崎ゆりこ、川内峰花★、花咲ロンド、南田容子、立花紀子、アクア姉妹、葉月&ワルツ、羽鳥セシル、薬王みなみ、槇原愛、高崎3姉妹、町田朱美+東雲はるこ、常滑真音、白河夜船
Grp B(9) 制作関係
松前慧子、町添幸太郎、加藤銀河、八雲真友子夫妻、鈴木一郎、兼岩源蔵、シアター春吉、丸花茂行
Grp C(15)アーティスト関係
ケイ★&マリ、絹川和泉+綿貫小風、カノン+リノン+美空、三つ葉の3人、谷崎潤子&聡子、ステラジオのホシ+ナミ 、ラララグーンのソウ∽
Grp D(13) 作曲家関係
上島雷太&春風アルト、雨宮三森&三宅行来&夢路カエル、海原重観&支香、東堂千一夜、東郷誠一、後藤正俊、田中晶星、王絵美、福井新一
Grp E(24) 松本花子関係
五島節也、鮎川ゆま、峰川イリヤ★、木ノ下大吉、匿名のクリエイター20人(2A17や名寄多恵を含む)
霊関係(18)
佐竹慶子、上野真穂★(佐竹慶子の娘)、野中菊枝、後藤真知(花丘玉依姫神社巫女長)、竹田宗聖、海藤天津子★、御船瞬醒、金井瞬高、高美原瞬法、丸山アイ、子牙、八重龍城2A15(歓喜)、中村博紀(2A16白雪ユメ子)、中村晃湖、藤原直美&民雄、村元桜花、羽衣
水泳系(18)
筒石君康&ジャネ、桜池布恋★、月見里公子+夢子、広島夏鈴、福山希美、圭織、杏梨、蒼生恵、桜池裕夢&百合花、竹下リル、南野里美、永井蒔恵、金堂多江、百万石スイミングクラブの宮崎会長、日本水連会長
放送局系(16)
夏野明恵★、皆山幸花、竹本初海+双葉、神谷内大、石崎柚布、吉田邦生&伊勢真珠★、前村貞子(火牛スタジアム施設長)、山下和行(〒〒テレビ社長)、漆野報道部長、砂原アナウンサー室長、長江ディレクター、森本メイ、白石浩香(火牛アリーナ館長)、響原恭平(◇◇テレビ)
その他(9)
ムーラン建設の石田社長、H銀行金沢支店長の長坂、R銀行津幡支店長の児島、文部科学大臣、富山県のN知事、石川県のH知事、高岡市のK市長、F小学校校長、富山県警の春脇警部
9月3日(土).
彼が帰宅すると母が「荷物届いてるよ」と言った。何だろうと思って見ると差出人は藤弥日古とある。
「ヤコちゃんだ。何だろう?」
と思って彼は自分の部屋に行ってから荷物を開けた。
9月3日(土).
ΛΛテレビで昔話シリーズ第10弾『牡丹灯籠』が放送された。
一般に知られている『牡丹灯籠』は明治期の落語家・三遊亭圓朝がまとめたものをベースにしたストーリーが多く、主人公の名前は萩原新三郎(はぎわらしんざぶろう)となっているが、今回のドラマは元々の『伽婢子(おとぎぼうこ)』のストーリーに沿っているので、主人公の名前も荻原新之丞(おぎわら・しんのじょう)である(*26)。
主な配役
荻原新之丞:岩本卓也
弥子:木田いなほ
浅茅:町田朱美
隣の住人:光帆・音羽 (XANFUS)
東寺の行者:月城すずみ
下男:魔暗胡瓜
食堂の店主:三藤幸雄
万寿寺の住職:木崎望夢
万寿寺の僧:丸本秀行
語り手:馬仲敦美
この他、通行人を放送局のスタッフなどが演じた。信濃町ガールズも10人ほど通行人役で出ている(ノンクレジット。出演料1人3万円:3万円ももらえた理由は後述)。何とも低予算である。『竹取物語』の50分の1の予算で作られている。それでも一般的なドラマよりは豪華である。特にセットや衣裳をしっかり作っていた。
町田朱美は岩本・木田の次に表示され
「嘘。私より木崎さんが上でしょ?私は今回セリフも無いのに」
と焦っていたが、
「いや、ぼくより町田さんのほうが実績は上だと思う。ぼくはレギュラーにもなったことないもん。それに今回の伽婢子(おとぎぼうこ)の役って、セリフが無いところを表情と仕草だけで演じるという難しい役。ぼくみたいな大根役者には絶対出来ない」
と言っていた。
(↑つまり女の子役がしたいのか?というツッコミ)
実際この2人のどちらを先にするかは局内でも議論があったらしい。ただ実際の2人の演技を見てみた人の多くが「これ朱美ちゃんの演技で物凄く引き締まっている」
と、その演技力を評価する声が高かったので朱美を先にしようということになった。
最初伽婢子(浅茅)の役は「セリフもないし東雲はるこでいいのでは」という意見もあったのだが「いや、この伽婢子こそがこの物語の鍵を握ります」と沢口監督が言い、演技力のある町田朱美にさせることになった。東雲はるこが伽婢子の場合は、町田朱美に隣人役をさせる予定だった。朱美を伽婢子役に使用したので、隣人役は“いかにもノゾキとかしそうな人”という基準でXANFUSの2人が選ばれた!(でも2人の名前はラストに表示された。実際、端役専門の三藤幸雄さんを除くと最もキャリアが長い)
隣人役は最初から女性にさせる予定だった。例えば健康バッドとかケイナとかの男性にノゾキの役をさせると「こいつ本当にやってそうだ」と言われるので女性にさせようということにした(ケイナはきっと男の分類で良い)。朱美が隣人役をする場合は、隣の家を覗くシーンはカットする予定だった。
東雲はるこやXANFUSの他のメンバーは通行人として出ている!
(ノンクレジット、ついでにノーギャラ!)
編成局長は
「予算が低いのは申し訳無いけど、だからといって詰まらない作品にはしないで欲しい。美しい絵を撮って欲しい」
と言い、鳥山プロデューサーは
「だったら出演者のギャラを1〜2割上げてください」
と言って、認められた。特に町田朱美については、そもそも主題歌を歌うためのカメオ出演でドラマの俳優としてのギャラはゼロ!だったのが、熱演したこともあり、主演の2人に次ぐギャラが支払われて本人がびっくりしていた。
また沢口富恵監督は制作を始める時、出演者一同に言った。
「この物語は怪談ではなくラブロマンスですから」
実際この物語を恐ろしい怪談に仕立てたのは圓朝である。
しかし原作『伽婢子』の中には幽霊と夫婦生活を送り、その幽霊が子供まで産む『原隼人佐(はら・はやとのすけ)鬼胎の事』なども含まれている。原隼人佐昌胤は武田信玄の部下で武田二十四将の一人である。彼は実は幽霊から生まれたというのがその話である。これは実は“飴買い幽霊”のバリエーションである!
そういう話も含まれている『伽婢子(おときぼうこ)』において幽霊との恋は怪談というより“存在する世界が異なるため添い遂げられない”悲恋であるが、牡丹燈籠の場合は、双方幽霊になれてハッピーエンドである!
(*26) 登場人物名比較
三遊亭圓朝:男は萩原新三郎、女はお露、侍女はお米
伽婢子:男は荻原新之丞、女は弥子、侍女は浅茅
剪灯新話:男は喬生、女は麗卿、侍女は金蓮
『牡丹灯籠』は『伽婢子』の中の一話。『牡丹灯記』は『剪灯新話』の中の一話。
浅井版の“荻原(おぎわら)”が圓朝では“萩原(はぎわら)”になっているのに注意。
今回のドラマのあらすじ。
時は天文17年(1548)戊申の年。
「天文年間というと、こういうことが起きた時代です」といって語り手はフリップボードで説明した。
10年武田信玄が甲斐国当主に。
12年種子島に鉄砲伝来
17年長尾景虎(上杉謙信)が長尾家の家督を継ぐ。
18年濃姫が織田信長に嫁ぐ。
18年フランシスコ・ザビエルが来日。
当時室町幕府の権威は地に落ちて京都は無政府状態に近い状態でした。この物語はそういう時代の京都を舞台にした物語です。
盆の7月15日から24日までは、精霊(しょうりょう)の祭りが行われます(*27). 家々に精霊の棚を飾り、また様々な種類の灯籠(とうろう)を作って、軒や精霊棚に飾ります。通りを三味線(*30)の伴奏に合わせて歌いながら踊り歩く盆踊りの一行が流して行ったりもします(*28).
数年前に妻(木田いなほ:二役)を亡くした荻原新之丞(岩本卓也)は亡き妻を偲んでお経をあげたり、妻とのことをあれこれ思い出したりしていました。
7月15日の夕方、新之丞はぼんやりと通りを眺めていました。すると通りをひとりの女性が歩いてきます。その女性に亡き妻の面影を見て、新之丞は思わずその女性を注視してしまいました。
女性(木田いなほ)は年の頃は20歳くらいで、14-15歳(*31)の女童(めのわらわ)(町田朱美)を連れています。そして女童は牡丹花の灯籠を持っています(*32).
新之丞はこれは天女が舞い降りたか、あるいは龍宮城の乙姫が出て来たかと思い、その女性の後をふらふらと付いていってしまいました。
(どう見ても不審人物)
(*27) 本来盆は7月15日。8月15日にやるのは“中暦”といって、新暦の1月遅れを採用して、新暦の日付を使いながら旧暦の季節感に合わせたもの。現在、日本では盆はほとんどの地域で中暦を使用し、七夕・ひな祭りも地域によっては中暦を採用する。
(*28) 盆踊りをしたのは信濃町ガールズの若手の子たち。度胸付けのために出した。民謡の素養のある子中心で構成している。三味線(*30)の弾ける川泉パフェが伴奏を務め、七石プリムが唄い、月城たみよが篠笛(日本音階調律)を吹いた。
(本人たちの性別は気にしない。むろん3人とも女着物を着ているが、かなりの視聴者は月城たみよを見て「男の子が女装してる」と思った。『竹取物語』の銀色の女を演じた子と認識した人も「可愛い男の娘だね」と思った!)。
彼女たちの音楽と踊りが本格的だったので最初はノーギャラ(ラピスのついで)の予定が1人3万円もギャラが支払われた。歌ったのは黒田節の元歌としても知られる『今様』で、三味線の名取りでもある花ちゃんが編曲し踊りは暇な!米本愛心に指導させた。
『今様』慈円(1155-1225)作詞 日本古謡
春の弥生の曙に
四方(よも)の山辺を見渡せば
花盛りかも白雲の
掛からぬ峰こそ無かりけれ
花橘も匂うなり
軒のあやめも薫るなり
夕暮様の五月雨に
山ほととぎす名乗るなり
秋の初めに成りぬれば
今年も半ばは過ぎにけり
我がよ更けゆく月影の
傾く見るこそ憐れなれ
冬の夜寒の朝ぼらけ
ちぎりし山路は雪深し
心の跡は付かねども
思いやるこそ憐れなれ
放送で流れたのは3番・秋の部分である。(昔の季節区分では1-3月が春、4-6月が夏、7-9月が秋、10-12月が冬。月名が今の暦と1ヶ月ずれてることに注意)
(*30) 三味線は室町時代後期の15-16世紀に誕生したといわれ、この時代にも存在する。使用した三味線は伝統的なタイプで、最近流行の津軽三味線より小型のものである。
川泉パフェも津軽三味線の経験しか無かったので、槇原愛(基本的に暇!)にお願いして1日特訓して合格点をもらった。使用した楽器も槇原愛の私物である。愛はパフェを普通の女の子と思ったようである。パフェのついでに七石プリムと入瀬ホルンも一緒に三味線のお稽古を受けた。
(*31) 木田いなほは2003生で数え20歳で役柄ジャスト。町田朱美は2005生で数え18.このドラマが11月くらいに撮影されていたら、入瀬ホルンなどが年齢的には適役だった。
今回、木田いなほは武家の女性で流行していた、髪を巻いて笄(こうがい)で留める髪型、町田朱美は童女らしくおかっぱ髪で腰付近まで髪を垂らす。
(*32) カランコロンと駒下駄の音を鳴らすのは圓朝の創作で、伽婢子版には無い。圓朝はおそらく、しゃべりだけで来訪を表現するのにカランコロンと駒下駄を鳴らすのを思い付いたのだろう。
新之丞が女性と女童(めのわらわ)の後をフラフラと付いて100m(*33)も歩いたところで女性は振り返って言いました。
「夜道を女だけでは家までの遠い道が不安なんです。よかったらうちまで送ってくれませんか」
(そうだね。君みたいな男が現れたりすると不安だよね)
「家まで遠いのでしたら、私の家でお休みになりませんか。朝になってから帰ればいいですよ」
「あら、よろしいんですか?じゃお邪魔しようかしら」
(なんかどっちもどっちだね〜)
(*33) 原文は“一町”。一町は60間(けん)=360尺なので、1尺=30.3cmとすると109.08mとなる。面倒なので100mと訳した。尺の長さはこの時期は日本自体が無政府状態だったこともあり統一基準が無かったが、だいたい 30.2-30.4cm くらいだったものと思われる。
それで新之丞は女性と女童(めのわらわ)を自宅に案内しました。家に入って少し落ち着いたところで女童には
「浅茅、遅いからお前はもう寝なさい」
と言って、布団を敷いて寝せておき、新之丞と女性は夜更けまで会話を続けます。新之丞は女性がとても教養の高い人であることに気付きます。
「あなたの住んでいる所とお名前を教えて下さい」
「私は藤氏(藤原氏)の末、二階堂政行の後(のち)です。家は盛んな時期もありましたが、すっかり落ちぶれてしまいました。父は政宣と申しますが、京都の乱れで討死にし、兄弟もいなくなって今は私1人で、女童(めのわらわ)と一緒に万寿寺のほとりに住んでいます。名前は名乗るほどのものではありません」
やがて雰囲気で2人は気持ちをひとつにします。
「してもいいよね?」
「愛しいお方」
ここでダークアウト!
やがて朝を告げる雄鶏(おんどり:常滑舞音!@友情出演)の声があります。
「だいぶ明るくなったみたい」
とカメラは女性の姿は映さず声だけを流します。映像は家の庭です。
「では今日は帰ります」
「また会えるよな」
「また今夜」
ここまでカメラはひたすら庭だけを映す。
そして女性が火の消えた牡丹燈籠を持つ女童(めのわらわ)を連れて帰っていく後姿、それを見送る新之丞の背中を映す。
そしてこれから女は毎晩夕方になると牡丹燈籠を持った女童を連れてやってきて逢瀬をし、明け方になると帰って行きました。逢瀬は20日ほど続きました。
新之丞が女性を見送った後、隣の家から女が2人(光帆・音羽)出てくる。
(ここでこの2人を知らない視聴者や多くの子供は姉妹か何かと思う。この2人を知っている人は当然カップルと思う!)
「お隣さん、お盛んだね〜」
「奧さん亡くして随分経つから、そろそろいいんじゃない?」
「でもどんな女なんだろうね」
「声からすると結構若い女っぽい」
「侍女を連れてるから、わりといい所の若後家(わかごけ)さんじゃないのかね」
「だったら向こうも若くして旦那を亡くしたのかな」
「今は戦乱でバタバタ男が死ぬからね」
「息子が足軽に取られないようにってんで、女の服を着せて育ててる人も結構あるらしいね」
「どこでも兵隊狩りやってるからなあ」
「この戦乱の世もどのくらい続くんだろうね」
「平和な時代が来るといいね」
その夜。光帆が何やら壁に細い物を立てている。
「ミルル、何やってんの?」
「どんな女か覗いてやろうと思って」
光帆が持っているのは錐(きり)のようです。
「やめときなよー。他人の濡れ場を見て何が楽しいのさ?」
「こちらも興奮するじゃん」
(↑「本音では?」という視聴者のツッコミ多数)
それで光帆は壁に穴を開け、隣の様子を覗きます。ところが見た途端
「あわわわ」
と腰を抜かした様子。
「とうしたの?」
「覗いて見れば分かる」
それで音羽が穴を覗きます。
「ぎゃっ」
と言って音羽も腰を抜かしました。
画面には、新之丞が骸骨(常滑舞音!)と会話している映像が映る。新之丞が何か言うと骸骨が声を出して笑う(声は木田いなほのアフレコ)。そして骸骨のそばには女の子人形が一体横にしてある。
この場面は普通なら岩本が1人で演じた所にCGで骸骨の絵を書き足す所だが、見ている子供が笑ってくれるように、ショッカーの怪人みたいな服を着て舞音が演じた。このドラマは怪談ではない。舞音はこのシーンの最後で覆面を取って手を振っており、小さな子供たちが
「あ、招き猫お姉さんだ!」
と喜んでいた。
翌朝、新之丞が女性を送っていった後、音羽と光帆(役名が無い!)が声を掛けます。
「もしもし」
「はい」
「あなた毎晩誰と逢ってるかわかる?」
「ちょっとそれは」
それで2人は昨夜見たことを話します。
「それにあなた凄くやつれてますよ(*34)。きっと幽霊に精気を吸い取られてるんですよ」
「このままだと死んでしまいます。東寺(とうじ)とかに相談したほうがいい」
(幽霊相手でなくても毎晩朝までセックスしてたら、やつれると思うぞ。精気を吸い取られるのでなく精液を吸い取られていたりして)
(*34) この場面、やつれた感じを出すため、岩本君は徹夜マージャン!をした上で撮影に臨んだ。骸骨と対話する場面、音羽たちとの会話から東寺の行者に御札をもらうシーンまでである。
徹夜麻雀に付き合ってくれたのは、松田理史・鈴本信彦・坂口芳治。岩本君はひとり負けしたらしい。松田の専任運転手(麻雀中は寝てた)が彼を千葉のスタジオまで運んでくれた。松田は付き添って岩本が眠らないようずっと話しかけていた。
岩本君がこんなに頑張って役作りしたのに、この日、木田いなほは体調が悪くて撮影を欠席した(コロナでは無かった)。それで急遽骸骨役は常滑舞音が代わった。ついでに鶏の鳴き声も録った。女が帰っていく所の後姿も実は舞音である。
木田いなほは事務所社長と連名で放送局と監督に詫び状を提出。ギャラを返上したいと申し出た(8割支払った。つまり2割減額)。またコスモスと舞音に感謝するお手紙を書いて舞音には松阪牛のセットを送って来た。(スキヤキにして水谷姉妹と一緒に食べた)
木田いなほは線の細い感じが幽霊役にはピッタリなのだが、体力が無いのが欠点である。わりと撮影途中で休むことが多い。馬仲敦美や今井葉月が代役したこともある。昨年の『ロミオとジュリエット』もアクアがロミオで木田がジュリエットという配役で計画進行していたのが、木田のダウンでアクアがロミオとジュリエットの双方を演じることになった。
舞音は実は通りがかりを徴用された。次の仕事場へは竹取物語の撮影で来ていた山村マネージャーがバイクで?運んだ。それで千葉から新宿へ5分で到着した!??
新之丞は「あなたが毎晩会っているのは幽霊」と言われて、「そんなばかな」と思ったものの、彼女が確かな人であることを確認するために、彼女の家を訪ねていってみることにしました。万寿寺まで行き、近くの人に二階堂という女性の家を尋ねますが、誰も知りません。疲れ果てて万寿寺の境内で少し休んでいますと、目の前を見覚えのある女童が通り掛かります。
「あ、君、君の御主人の家はどこ?」
と浅茅に声を掛けますが、彼女は新之丞に振り返ることもなく境内を歩いていきます。寺の浴室を過ぎた先に、一軒の霊屋(たまや)(*35)がありました。女童の姿はその付近で消えました。
「どこ行ったんだろう?」
と訝りながら霊屋を見ると、いつも女童が持っていた牡丹の灯籠がそこに掛けてあります。それで中を覗いてみると、墓の表(おもて)に「二階堂左衛門尉政宣が息女“弥子”吟松院冷月禅定尼」とあります。そばには伽碑子(おとぎぼうこ)(*36)があって手にしてみると後ろに“浅茅”と名前が書いてありました。
彼女が二階堂政宣の娘と名乗っていたこと。女童(めのわらわ)を「浅茅」と呼んでいたことが一致します。新之丞はショックを受けて座り込んでしまいました。
何とか立ち上がりますが、ふらふらと寺の外に出ました。その時、隣人が東寺に行きなさいと言っていたことを思い出します。それで、彼は東寺に行ってみました。
(*35) 魂屋(たまや)というのは、死者の霊を祭っている建物。挿絵を見ると幅1間(けん)か1間半、奥行き半間程度の小さな建物で、中に祭壇を組んでいるようにも見える。簡易なものには、お墓の上に屋根を組んだだけのものもあったという。霊屋(れいおく)とも。↓の挿絵では牡丹燈籠は見えるが、伽婢子は確認できない。
(*36) この本のタイトルにもなっている“伽婢子(おとぎぼうこ)”とは女の子の人形。弥子は多分生前、人形に“浅茅”という名前を付けて可愛がっていたのだろう。浅茅は人形なのでしゃべらない。しかし前述のように町田朱美は表情や仕草だけでこのお人形の役を熱演した。
撮影では、伽婢子は、麻布で人形の形を作り(衣裳係さんの力作!)、顔は絵の上手いスタッフが筆で描いたものを使用した。そして町田朱美が着た衣裳の共布で作った服を着せた。
髪は人工毛髪。中には藁を詰めている。
東寺に行った新之丞は、ひとりの行者(月城すずみ)(*37) さんに声を掛けます。すると行者は驚いたように訊きました。
「そなたどうしたのじゃ?まるで幽霊にでも会ったような顔をしている」
「実は・・・」
と言って、新之丞はこれまでのいきさつを語ります。
「なるほど。このままではあなたは10日もすれば衰弱して死んでしまう」
と言い、その場で護符を書いて渡しました。
「これを家の門に貼っておきなさい。そうしたら幽霊はあなたの所に来ることはできません」
「ありがとうございます」
新之丞はありがたく護符を頂いて帰り、門の所に貼っておきました。するとあの女性は来なくなりました(*38).
(*37) 『竹取物語』では“月城硯文”とクレジットしたが、本人の外見がどんどん女性的になってきて、男性的な芸名に似合わなくなってきたので、本人の希望に沿いこの作品からは“月城すずみ”とクレジットする。視聴者も多くは“女性行者”と取ったようである。ただし彼はこの作品では男声で演技している。女声も出るが女役の時に使います、と本人は言っていた。
彼は男子トイレを使おうとしたのだが・・・「男役してても女の子が男子トイレ使ったらダメ」と木崎望夢から追い出され(彼は男子トイレの個室を使う)、「すずちゃんはこちらでいいよ」と町田朱美に連行されて女子トイレを使っていた。
(*38) 御札が貼ってあるので女が中に入れず「ひどい。開けてよ」と訴えるのは、圓朝の演出(多分『吉備津の釜』からの引用)で、伽婢子版ではあっさり来なくなる。
それから50日ほどが経ちました(*39)。
結局その後、弥子は新之丞の元にやってくることはなく、 新之丞も随分生気を取り戻しました。それで彼は下男(魔暗胡瓜!)(*40) を連れて東寺にお礼参りに行きました。
その帰り、彼は下男と2人で少しお酒を飲みます。
映像は新之丞と下男が庶民的なお店でお酒を飲み簡単な料理を食べている所。店主(三藤幸雄)が徳利と杯を置くところ、大根を煮た料理を出すところ。店内には他に数人の客(テレビ局のスタッフ!)がいる。
お店を出たあと帰ろうとしたのですが、新之丞は弥子のことが急に恋しくなりました。それで彼は下男を連れて万寿寺のほうに向かいます。もう日も落ちて暮れかかった時分でした。
(*39) 新之丞が弥子に会ったのば7月15日で、それから20日ほど逢瀬を続け、それから50日経ったということは現在は7月15日の70日後で9月26日頃(*41). もう闇夜に近い。明け方逆三日月が昇る時期である。
(*40) 新之丞の下男というのは、ここまで全く出て来ていなかったのに、唐突に登場するのは不思議である。
魔暗胡瓜(まあきゅうり)は揚浜フラフラ軍団のお笑い芸人のひとり。裸の王様にも出ていた。ギャラ4万円!・撮影弁当付きで出たらしい。
“まあきゅうり”は彼が、居酒屋に連れて行くと安いキュウリの酢漬けばかり頼んでいたのと、彼のお父さんがフレディ・マーキュリーの熱心なファンだったことから。家にはクイーンやマーキュリーのレコードが大量にあったらしい。揚浜フラフラの命名。
(*41) 天文17年は7月は小の月(29日まで)、8月は大の月(30日まで)なので、7月15日の60日後は9月16日。更に10日足して9月26日になる。この年は閏月は無い。参考↓(“おこよみ焼き”のサイト)
1548年(天文17年)の暦
新之丞は万寿寺の中に入り、弥子の魂屋を訪れて夕闇の中、その前で合掌しました。すると唐突に弥子が姿を現しました。女童(めのわらわ)の浅茅も一緒です。
「弥子!会いたかった!」
と言って、新之丞は弥子の手を握ります。
(現代ドラマなら抱きしめるところ)
「新之丞様、恋しうございました。ずっと添い遂げようと約束をしたのに、東寺の坊主がよけいな御札を貼って、お陰であなたに会うことができませんでした。あなた様の心変わりを恨みました。でもこうして私に会いにきてくださったんですね。私はとても嬉しうございます。どうか私の家でゆっくりしていってください」
と言うと、弥子は新之丞を連れて魂屋の中に入っていきました。
下男には弥子たちが見えなかったものの、何かが起きたようだと思い、新之丞の家まで走って帰り、近所の人たちに助けを求めました。
それで近所の人たち(光帆・音羽ほか数名:放送局スタッフ!)が駆け付けます。
「墓を開けてみよう」
それで開けてみると、女の遺体と抱き合うようにして新之丞が亡くなっていました。2人とも幸せそうな死に顔でした。
(女の遺体は木田いなほの顔に似せて作った人形。骸骨でなく普通の遺体にしたのは子供たちが見ているドラマなのでショッキングな映像にしないため)
それで人々は万寿寺の住職(木崎望夢)に頼み、2人の葬儀をして、法華経を読ませたりしたそうです。
画面では僧衣の木崎望夢が下男や隣人たちから話を聞くところ、また魂屋の前で法華経を読んでいるところを映す。彼はこの撮影のために本職のお坊さんから読み方の指導を受けている。彼は元々般若心経は読めたので、結構しっかりした読経になっていた。実際に読んだのは観音経の部分である。(観音経は法華経の一部)ドラマでは1分ほどだけ流れたが、DVD版には付録として木崎君が観音経全部を読むところ(約40分:↓の丸本君も付き合わされた)が収録され、仏教関係者からの評価が高かった。
脇僧を務めたのは丸本秀行さんといって、最近○○プロ(岩本卓也の事務所)に入った18歳の俳優さんである。ちゃんと名前も出してもらった。でもこの撮影(映ったのは10秒くらい)のために彼は髪を刈られ頭を剃られた。ギャラは魔暗胡瓜より低い2万円しかもらえなかったのに!(事務所の社長からかつらを買ってもらった)なお住職役の木崎望夢は帽子(もうす)をかぶっているから頭が見えていない。
そしてそれからというもの、夜中にしばしば、牡丹燈籠を持つ女童を伴い、弥子と新之丞が楽しそうに歩いている姿が人々に目撃されたそうです。
映像は木田いなほ・岩本卓也の2人が仲よさそうに歩いているシーンを明るい画面で映しており、牡丹燈籠を持って付き添っている町田朱美が笑顔でそれに付いているのを映す。そしてラピスラズリが歌う『伽婢子(おとぎぼうこ)』の曲でエンドロールに移る。この曲自体、C-Majorでアップテンポのポップロック(朱美がメインボーカル)であり、明るい終わり方になっている。
視聴者からは「もしかしてこれハッピーエンドなの?」と戸惑うような反応があった。
9月4日(日・たつ).
§§ミュージックは「トラフィック・シグナル」という組織を設立した。取り敢えずベテランの原田友恵を責任者にし、7月に採用して信濃町ガールズ担当になったばかりの平田結花子をそこの専任にした。
最初は“信濃町フレンズ”という案もあったのだが、信濃町を冠する組織が多すぎるということで別の名前を考えた。
これは信濃町ガールズたちの兄弟姉妹、あるいはお友達で、基本的にはお芝居で男役をしてくれる人たちの組織である。加入条件は下記である。
・30歳以下の学生・自由業・自営業などで、時間の自由が利く人。
・§§ミュージックとB契約以上の契約をしている人の4等親以内の親族(つまり従兄弟まで)または直接の親友(友だちの友だちは不可)で、契約者本人が連帯責任を負ってくれる人。
・業務上の守秘義務を守ってくれる人。
・コロナに罹らないよう充分な注意をしてくれること。特に外食・外飲みをしない。家族以外との7人以上の会食をしない。公共交通機関をできるだけ使わない。人混みに行かない。人の多い室内ではマスクをし、うがい・手洗いの励行。毎日体温を測って報告。
・朗読のレッスンを受けてもらう。
・身長165cm程度以上で男役ができること。本人の性別は問わない。
・大型時代劇やアクア映画などの制作に参加してくれること。
これらのことを守ってくれる場合、毎月手当を1〜3万円支給する。また東京に出てくる際の交通手段は提供する(公共交通機関利用禁止)。
要は男役要員なのだが、特に水巻アバサのように、歌唱力もないしダンスも下手だけど、俳優としては使える人をキープしたいということなのである。
背景にはコロナに対する世間の警戒が緩みすぎて、エキストラに健康管理を期待できなくなり、結果的にエキストラが使用不能になったことがある。
2021年までは本人も怖いから、きちんと感染対策を守ってくれていたのだが、2022年になるとコロナ疲れとコロナ慣れで、ちゃんとやってくれない人たちが増えてきた。結果的に今年に入ってドラマや映画の撮影で多数の集団感染が発生している。コスモスと私はこういう世間の気の緩みに強い危機感を持っていた。
“トラフィック”というのは通常は東京外に住んでいて、大規模な制作の時だけ出て来て、参加してくれるからである。"Go Stop"という案もあったがstopというのは縁起がよくないとした。
取り敢えず下記のメンツがここに加入してくれた。
杜屋鈴世(水巻アバサ)水巻イビザの兄(今の所まだ姉ではない)
吉川空海(入瀬トラン)入瀬ホルンの兄
藤弥日古(広瀬のぞみ)広瀬みづほの姉(兄だったが姉になってしまったもよう)
馬渡杏里(古屋あんころ):古屋あらたの姉
松崎貴美(月城朝陽)月城たみよの兄
松崎元紀(月城すずみ)同上。姉になりつつあるかも。
松崎真和(月城としみ)月城たみよの姉(本人に訊いたら性別女で登録して下さいと言った)
松崎春世(月城流星)月城たみよの弟
『竹取物語』には出てなかったが加入してくれたのが吉川空海と松崎春世に馬渡杏里である。馬渡杏里は高校1年生の女子だが長身で
「男役?やりたいやりたい」
と言って参加してくれた。古屋あらたの家は女ばかりの5人姉妹である。その上に男の子がいたが、小さい内に亡くなったらしい。
入瀬ホルンの姉の入瀬コルネ(吉川日和)は現在“信濃町ガールズ地方生”(§§ミュージック音楽教室信特待生)の立場にある。彼女は男役はしないのでこのグループではない。
9月5日(月).
都城の藤弥日古は女子制服を着て登校した。この日は雨模様だったので水玉模様の可愛い傘を持っていった。校門付近で会った友人が
「傘、可愛いね」
と言ってくれた。
女子制服も3日目になると、もうこれで登校するのが当たり前になり、何も緊張などしないし、7月まで男子制服を着ていたこと自体、忘却の彼方にあった。
3時間目の途中で身体測定・心電図検査・内科検診がある。弥日古は他の女子と一緒に保健室に行く。
非接触の体温計で体温を計測され、入口で手をアルコール消毒する。着替えを入れるビニール袋を渡される。
制服のブラウスとスカートを脱ぐが、みんなが自分の下着姿を注視している。でも弥日古はその視線に気付かないふりをしていた。
「168cm」
「45kg」
と測定される。
「あれ?藤さん、7月は169cm 47kgだったのに」
「身長は測定誤差かもー。体重は夏休み中バイトしてたのでそれで減ったのかもです」
「ああ、バイトしてたんだ?」
と保健の先生は納得していた。
「それに私、ちんちん取っちゃったから、その分軽くなったのかも」
と弥日古が言うと
「そんなこともあるかもね」
と先生は笑っていた。周囲の女子も笑っていた。
実際には女の子にすると身体が1%くらい縮むよと言われてたからその効果だろうなと思った。長さで1%縮んだ場合、体積は 0.99
3= 0.97 で体積は3%減る計算になり、体重も1.5kgくらい減るはずである。やはり身体を
作り変えるために消費されるのかなあと漠然と考えていた。
実は身長の縮みが目立たないように今日は厚手の靴下を履いてきて、身長を測られる時はできるだけ背伸びする感じにしていた。
下着姿のままカーテンの向こう、心電図検査に行く。ここでブラジャーも外してベッドに横になる。ひとりずつベッドをアルコール消毒しているようでアルコールの臭いが凄い。
そこで待っている内に次の順番の布連(ふれん)ちゃんが来て言う。
「どう考えてもちんちんの重さが5kgもあるとは思えないのだけど」
「もちろんジョークだよ。やはり東京での1ヶ月半は、毎日お仕事があったから身体が引き締まったみたい」
「へー。聞いたりしちゃいけないって言われたけど、手術の跡はもう傷まない?」
「全然。ここだけの話、この夏休みに性転換したわけじゃないんだよ」
「やはりとっくに手術は済んでたのね」
「内緒内緒」
「なんか怪しい気がしてたのよね」
「あれ1年くらい回復しない人もいるみたいね」
「大変だね!」
(弥日古は嘘は言ってない。でも翌日までには「やいちゃんは高校1年の夏休みに松江の病院で性転換手術を受けたらしい」という噂が全女子に広まることになる。どこから高校1年とか松江とか?)
ちなみに男性器の重さは少し前にも書いたように、陰茎・陰嚢の内容物を入れて勃起時に200g程度(平常時75g程度)。バストの重さはCカップなら1kg程度。
心電図は弥日古の順番になる、ベッドに寝て、バストと足にクリップを付けられる。胸のクリップがくすぐったい。
心電図は正常に取れたのでホッとした。
続いて内科検診に進む。40歳くらいの女性のお医者さんである。この人になら絶対ブレストフォームはバレていたなと弥日古は思った。
胸に聴診器を当てられ、背中にも当てられる。
「コロナに感染したことは?」
「感染してません」
「家族に罹った人は?」
「誰も罹ってません」
「ワクチンは打ちましたか?」
「BioNTechの製品版を3回打った後、同社のオミクロン対応版治験に参加しました」
と言うと医師は
「へー」
と感心していた。
§§ミュージックのタレント、信濃町ガールズおよびその兄姉で今回竹取物語に参加した人は全員これを打っている。
「生理は順調に来てますか?」
「はい。だいたい規則的に来てます」
「前回生理があったのは?」
「20日頃でした」
と弥日古が答えると、布連ちゃんが頷いていた。
弥日古はそれで解放され、カーテンの向こう側に行って服を着て、そちらのドアから退出した。感染拡大防止の観点でこういう所は全部流れを一方通行にしている。
この日の4時間目の体育は、台風が来ているので水泳は中止になり、体育館でバスケットをしますということだった。
「この台風が行ってしまうまではダメだね」
(台風は翌日の9/6に韓国南部に上陸した後、日本海で温帯低気圧になった。日本で1人、韓国で11人の死者が出た)
弥日古は他の女子と一緒に女子更衣室に行く。制服のスカートを脱いだ時、視線を感じる。ブラウスを脱ぐと更に視線を感じる。でもその視線に気付いてないふりをして堂々と前を向いて体操服に着替えた。
バスケットは体育館のハーフコートずつを使い、男子・女子各々2チームに分けて試合をした。弥日古は女子のBチームに入れられた。
1時間の試合の中で10回シュート機会があったが、ミドルシュート8本の内1本だけ入れた。ランニングシュートは2回の内1回だけ成功させた、
「元男の子ならもっと凄いかと思った」
「女の子になって筋力が落ちた気がする。思うように自分の身体が動かない」
「ああ、やはり性が変わると筋力も女子並みになるんだね」
「たぶんホルモンの影響なんじゃないかなあ」
「そうかもね」
体育が終わった後は、女子更衣室に戻り、
「汗掻いちゃった」
と言って下着も交換した。
弥日古がブラジャーを外した時、女子更衣室の中にいる全女子の視線か集中するが、弥日古はそのままボディーシートで身体を拭き、新しいブラジャーを着けた。それからショーツを脱ぐと、全女子の鋭い視線が弥日古の股間に集中する、でも弥日古はごく普通にそのまま新しいショーツを穿く。
弥日古はその後、普通に制服のブラウスを着て、スカートを穿いた。女子たちがホッとしたようにおしゃべりを再開した。弥日古も近くで着替えてる比奈美とおしゃべりをしながら、脱いだ汗を掻いた服をまとめてビニール袋に入れ。スポーツバッグに入れた。
なお、この日は台風接近のため授業は午前中で打ち切られ、生徒はお弁当を食べてから、保護者に迎えに来てもらって帰宅ということになった。
9月6日(火).
朝、薩摩川内市の松崎真和(月城としみ)はパジャマのまま朝御飯を食べてから、自分の部屋に戻ると、下着を交換して真新しいブラジャーとショーツを身につけた。女体に下着がピタリとフィットする。
私、きれいに女の子になっちゃった。
学校指定の女子ブラウスを着てリボンを結び、スカートを穿き通学カバンとスポーツバッグを持つ。昨日が台風接近で臨時休校になったので今日が“初登校”になる。真和はその女子制服姿で居間に出て行った。
「お弁当もらってくね」
「お前、まさか本当にその制服で学校に行くの?」
と母が言う。
やはり“性別変更届け”ってジョークだったのかなあ。でも5日半考えて私もうこの制服で登校しようと決めたもんね。
「もちろんだよ、だって私、女の子だから」
と言うと、
「行ってきまーす」
と言ってローファーを履き、家を出た。
女子制服で外を歩くと何か全てのものが新鮮に見える感じだ。コロナ対策で時間帯をずらして通学しているので、バスはゆっくり座れる程度しか人が乗っていない。社内で手鏡を出して顔の“調子”を確認する。
OK!
バスを降りて歩道橋を降り、細い道を通って校門まで行く。門のところに先生が立っている。朝早くから大変だなと思う。
「おはようございます」
「おはよう」
と言葉を交わして校内に入る。体育館の横を歩き、生徒玄関で持参の内履きに履き換え、教室に行く。
「おはよう」
「おはよう」
と声を交わす。自分の席に就く。
「転校生さん?」
と初海ちゃんが声を掛ける。
「私松崎だけど」
「へ?」
初美ちゃんがじーっとこちらの顔を覗き込む。
「マスク取ってみて」
と言われるので外す。
「本当にマナちゃんだ!」
と驚いている。
「とうとう女子制服で通うことにしたの?」
「だって私、女の子だもん」
「うん。マナちゃんが女の子だというのは、みんな理解してる」
「これ書いてもらった」
と言って、8月31日夜に母が書いてくれた“性別変更届け”を見せる。
「何これ〜!?」
と呆れている。
やがてクラスメイトがどんどん入ってくるが、みんな真和の女子制服姿に驚いていた。
「とうとう決断したか」
「時間の問題だとは思ってた」
「ちょっと胸触らせて」
といって、随分触られた。
「これパッドか何か入れてるの?」
「本物だよ」
「本当におっぱい大きくしちゃったんだ!」
「ちなみにちんちんは?」
「もう無いよ」
「手術しちゃったんだ!?」
「思い切ったことを」
「よく決断したね」
「私トイレどうすればいいかなあ」
と真和が言うので、クラス委員の女子が保健委員の子と話し合う。
「ちんちんも無いのなら女子トイレ使っていいよ。不安なら一緒に行こう」
「助かる」
「更衣室は明日までに検討させて」
「うん」
やがて担任の青川先生が入ってきて朝のホームルームを始める。真和は9月1-2日の欠席届と一緒に性別変更届けを提出した。
「おお、松崎とうとう性別が変わったのか?OKOK。これ生徒原簿に綴じとくな」
と先生は明るく言っている。
それでごく普通にホームルームは始まった!
「先生、ジョークと思ったのでは」
とホームルームが終わった後、他の子から言われる。
「でもちゃんと届けを提出して先生は受け取ったからね」
「性別変更届けが受け付けられたことになるかもね」
それで真和は1〜3時間目の授業を普通に受けた。先生たちは女子制服を着ている真和に何も言わなかった。
4時間目の音楽の時間、先生が来る前に。ピアノ担当の尚美ちゃんから
「ちょっと音域確認しよう」
と言われ彼女のピアノに合わせてドレミファソファミレドを歌った
「マナちゃんはソプラノでいいよ。ソプラノに入って」
「分かった」
それで真和は初めてソプラノの席に座り、その日は歌った。音楽の池田先生は
「あら、まなちゃん女子制服着たの?」
と訊いたが
「はい。女子になったので」
と言ったら
「うんうん。マナちゃんは女子だと思っていたよ」
と言ってくれた。凄く心強いなと思った。
「じゃコーラス部でも今日からはその制服で参加ね」
「はい。よろしくお願いします」
昼休みに保健委員とクラス委員に連れられて保健室に行き、身体測定してもらった。
「え?松崎さん、女の子になったの?」
と保健室の先生が驚く。
「性別変更届け出したら、先生は受け取ってくれました」
「冗談と思ったのでは」
と言いながらも下着姿で体重と身長を測定してもらった。下着姿だと、バストがしっかり確認できるし、ショーツに何も膨らみが無いのが分かる。
「ほんとに女の子になったんだね」
と保健室の先生は驚いていた。
「手術跡は傷まない?」
「全然大丈夫ですよ」
「それならよかった」
それで真和が放課後、女子制服を着てコーラス部の練習に行くと
「マナちゃん、とうとう女子制服にしたのね」
とみんなから言われる。
「自分の本心に従うことにした」
「マナちゃんは性格的にも女子だと思うよー」
「この子、上の方の声がかなり出るようになったみたい」
と同じクラスの子が言う。
「へー。テストしてみよう」
というのであらためて音域確認するとB5まで出た。音楽の時間はB♭5までだったのに。
「凄い。夏休み前はE5までしか出なかったのに」
「上が5度も広がってる」
「下はD3まで出てたのがE3までしか出なくなってる」
「睾丸取ったから上が出るようになったのかも」
「取っちゃったんだ!」
「よく決断したね」
「でもマナちゃんが女の子と結婚する訳無いから睾丸は要らなかったかもね」
うーん。確かに私、恋愛対象は男の子だけど。でも睾丸取ったことより喉仏を消してもらった効果だろうなと真和は思った。
「でもこれなら完全にソプラノだね」
「練習してればきっとC6も出るよ」
「うん、頑張る」
ということで、真和はソプラノの列、しかも最後尾に並ぶことになった。最後尾に並ぶのは他の子のお手本になる子で、音程勘が良く、声量の大きな子である。
真和はこれまでコーラス部ではアルトに配されて、アルトとテノールの境界線のところに男子制服で立ち歌っていた。面倒臭いから女子制服着なよとみんなに言われていて、かなり心が動いていた。でもこれからは堂々とソプラノで歌うことが出来るようになった。
こうして真和の女子高生生活は思った以上にスムースに始まったのである。
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【夏の日の想い出・止まれ進め】(7)