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■クロスロード3(7)

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遠方に帰る人は一ノ関組と花巻組とに別れてエスティマに乗ってもらう。
 
一ノ関に行くのは出雲の直美・民雄夫妻、静岡の山川さん、それに県内から集まってきている礼子の友人5人である。礼子の友人たちは最初から一ノ関までの往復で切符を買っていたので、来た時と同じ駅に送り届ける必要があった。こちらの車は、民雄自身が運転して行き、そのまま一ノ関の営業所に返却してもらうことにした。精算に必要なお金は概略で直美に渡しておき、後で調整することにした。
 
なお、直美・民雄夫妻と山川さんは一ノ関を18:26の新幹線に乗り、そこから山川さんは東海道新幹線、直美・民雄はサンライズ出雲に乗り継いで帰還する。
 
花巻に行くのは、神戸の竹田・博多の渡辺・東京の中村・栃木の村元、それに天津子である。(渡辺は竹田と一緒に伊丹に飛び、大阪で一泊後博多に戻る予定である)
 
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中村と村元は一ノ関から帰る予定だったのだが一ノ関組の礼子の友人の人数が増えたので、あふれてこちらに回ってもらった。こちらは菊枝がドライバーを務めることになっていた。なお、静岡の山川は一ノ関に行かないと静岡まで乗り継ぐ新幹線に間に合わない。
 

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花巻組は国道107号・国道283号を通るルートである(この時期、釜石自動車道は東和ICまでしかできていないので、結構な山道を走り抜けることになる)。ここで竹田・渡辺に天津子は来る時、この道を運転の上手い千里の車に乗ってきた。また、中村・村元は彪志の母の運転で一ノ関から大船渡に入ったのだが、妊娠中の小夜子が同乗していたので、彪志の母はスピード控えめで、とっても丁寧な運転をしていた。
 
この全員が菊枝のワイルドな運転に「うっ」と思う。
 
国道107号を10分も走った時、たまりかねた竹田が菊枝に声を掛ける。
 
「山園君、ちょっと車を脇に寄せて停めて」
「はい?何ですか?」
 
と言って菊枝が車を駐める。
 
「ちょっと全員いったん降りましょう」
と竹田が言うので一同いったん降りる。
 
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「みなさん体操しましょう」
と言って竹田は手を伸ばしたり深呼吸したりの体操をする。他のメンツも各々ストレッチしたりしている。そして竹田は宣言した。
 
「この先は僕が運転する」
 
「え?でも私、青葉から送迎を頼まれましたし」
「うん。だから僕たちが降りた後の帰りの車を運転してよ。君の運転だと僕たちは花巻じゃなくて、碓氷峠かいろは坂にでも行ってしまいそうだ」
 
「ああ、東京方面までこのまま走りましょうか?」
「いや、いいから君は2列目に乗りなさい」
 
と竹田が強引に言って自らさっさと運転席に座る。それで菊枝は不満そうに2列目に乗り、他の面々はホッとした表情で車に戻った。
 

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一方の残留組は精進落としの仕出しを頂いていた。政子は当然ここに残っている。食事の機会を政子がパスして先に帰る訳がないのである。
 
これに出席したのは青葉・朋子・桃香・千里、彪志親子、佐竹親子、早紀・椿妃・咲良とその母たち、柚女、美由紀・日香理・小坂先生、舞花、政子、あきら・小夜子・和実・淳、といった面々で、それに瞬嶽を含む主賓の僧3人まで含めて28人がテーブルについた。
 
最初に喪主の青葉が挨拶したが、青葉は泣いていた。
「私の姉・母・父・祖母・祖父の葬儀にこんなにたくさんの方に来て頂いて、私、ほんとに嬉しくて・・・・・」
 
挨拶の途中で涙声になってしまったものの、何とか予め書いておいた挨拶文を最後まで言うことができた。
 
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献杯の音頭は親族の中の年長者が取ることが多いのだが、親族全滅の状況で、また年長者という感じの人もいないので、喪主の朋子・葬儀委員長の慶子・僧の瞬嶽・法嶺を除いた中で故人と少しでも関わりのある人でいちばん年上の人ということで、結局、彪志の父が取ることにした。未雨の同級生である彪志の父という名目である。
 
「たくさんの涙が流されました。たくさんの大切な物が失われました。前途有望な命が失われ、老後を安らかに暮らそうとしていた人も突然先の道を断たれてしまいました。あまりの悲しみに生きる力さえも失ってしまいそうな気分ですが、生き残った者は何とかしていかなければなりません。突然家族親族を失った喪主には、頑張ってねという言葉さえも掛けられない所ですが、この子には私は敢えて頑張れと言いたいと思います。それがきっと妹を、娘を、孫娘を置いて逝ってしまった故人たちの思いでもあります。そして彼女の周辺に居る私たちも常に彼女を支えていきたいと思います。ですから亡くなった未雨さん、礼子さん、広宣さん、市子さん、雷蔵さん。安らかにお休みください。献杯」
 
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みなグラスを低く掲げる。それから食事を始める。
 
このメンツの中で故人全員を知っているのが実は法嶺と佐竹慶子だけなので、特に法嶺が積極的に故人5人のことを話してくれた。青葉も知らないエピソードがあり、青葉は「そんなことがあったんですか」などと言いながら聞いていた。早紀の母と咲良の母も礼子のことを少し話してくれた。もっとも礼子は未雨・青葉の姉妹をほとんどネグレクトしていたので、PTAなどでもほとんど顔を会わせたことがなかったようである。
 

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千里が発言する。
「菊枝さんからちょっと聞いたのですが、瞬嶽さんも子供の頃に親と別れて暮らすことになったんだそうですね」
 
瞬嶽が答える。
「うん。そんなこと山園には言ったことあったかな。僕は尋常小学校を出た年に父親が亡くなってね。それで母親ひとりでは子供全員食べさせていけないので、僕は寺に預けられたんだよ。その後、母とも兄弟とも音信不通になってしまったから、その後の消息も知らない。だから10歳ちょっとの頃からずっとあちこちのお寺で暮らしてきた」
 
瞬嶽の隣の席に座っている法嶺が頷きながら聞いていた。
 
「占い師や霊能者にはしばしば親兄弟との縁が薄い人がいますね」
と彪志が言った。
 
「だからこそ、その方面の感覚を発達させざるを得なかったのかも知れないよね」
と慶子も言う。
 
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「性別が曖昧な人も多くないですか?」
とここで政子が脱線発言をする。
 
「あ、それは私も思う」
と慶子の娘・真穂が言う。
 
「女装の占い師さんってよく居るよね」
「男装の麗人の占い師さんも結構いる」
 
「私の大学に心霊研究会ってサークルがあるんだけど、メンバー8人の内2人がニューハーフさんなんですよね」
「真穂さん、そんな研究会に入ってるんだ?」
「入ってません。でもしばしば相談事を持ち込まれて」
 
「それを解決してあげてるんでしょ?」
と彪志が言うが
 
「ほとんど青葉ちゃんに丸投げです!」
と真穂は言った。
 
なお、この時期の学年は、彪志が高3、真穂が1つ上の大1、舞花が大2、そして千里と桃香は大3である。政子と冬子に和実・若葉は舞花と同じ大2、千里の妹の玲羅は真穂と同じ大1、法嶺の孫の法健は彪志や未雨と同じ高3(未雨の元同級生だったので葬儀には個人的に出席した)、虎少女・天津子は彪志より1つ下の高2である。
 
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精進落としが終わった後、和実と淳、あきらと小夜子、政子、の5人が帰るので、千里がエスティマにこの5人を乗せて一ノ関駅まで走った。
 
「葬儀なのにこういうこと言ったら不謹慎だけど楽しかった」
と政子が言った。
 
「いろんな人が集まってたからね」
「亡くなった5人、そして青葉を含めて6人各々の知り合いが集まってきてたけど、青葉のお父さんも母さんも、青葉たちとはそもそも別に生きてた感じだから、各々の知り合いにあまり接点が無かったみたいね」
 
「つまり青葉の家自体がクロスロードだったんだ」
 
「今走っている大船渡から一ノ関に至る道って、例のドラゴンレールに並行して走っているんでしょう?」
 
「そうそう。龍の道なんだよね、ここ」
「ドラゴンロードか・・・」
 
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「私たちと一緒に龍もこの道を走っていたりしてね」
「私、龍に乗って空を飛んでみたいなあ」
「1000年くらい修行すればできるようになるかもね」
 

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「彪志君のお父さんは献杯の挨拶で、青葉ちゃんのことを《妹》《娘》《孫娘》と言ってたけど、あれでいいんだよね?」
と小夜子が訊く。
 
「青葉の性別については2つのグループがあった気がする」
と千里は言う。
 
「そもそも青葉のことを女の子と思い込んでいた人たち。青葉のお父さんやお母さんにしても、けっこう子供の数を訊かれて娘2人ですと答えたりしていたみたいなのよね」
 
「ああ」
 
「もうひとつは青葉の性別のことを知っていた人たち。この人たちは青葉を女の子と見てあげるのが自然だと思ってくれている」
 
「うんうん」
 
「結局、青葉のことを男の子と思っている人たちというのが存在しない」
 
「なるほどねー」
 
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「自分で言うのも何だけど、パス度の高いMTFが多かったよね」
とあきら。
 
「結局通夜・葬儀に顔を出してMTFさんって何人なんだろ?」
 
「うーん・・・」
と言ってみんな悩む。
 
「取り敢えずここに居る4人でしょ、冬子、青葉、礼子さんのお友だち。7人じゃないかな」
 
「あの胸元に大きなリボン付けた女子高生は?」
「あの人は結構男っぽい雰囲気もあるけど、天然女子だと思う」
 
「大粒の真珠のネックレスつけたおばちゃんは?」
「あの人、わりと有名な霊能者だよ。多分天然女性」
 
「青葉や未雨ちゃんの同級生たちの中にMTFさんが混じっていた可能性は?」
「うーん。あの付近は大量に居たから分からない」
 
「お祖父さん・お祖母さんのお友だちの中に混じっていた可能性は?」
「あの年齢になるとそもそも性別が良く分からない」
 
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「うむむ」
 

千里が戻ってきたのは22時近くである。桃香が夕方の内に早紀・美由紀と一緒に大量に食糧やおやつを調達してきていたので、それから宿の中の一室に集まり、また色々話をした。
 
これに参加したのは青葉、朋子・桃香・千里、彪志親子、佐竹親子、早紀と母、椿妃と母、咲良と母、柚女、美由紀、日香理、小坂先生、舞花の20人である。瞬嶽は既に休んでおり、菊枝がそばに付いていた。
 
この時、今回の通夜・葬儀に出席していた人の噂話が出て、初めて多くの人が冬子と政子の正体を知ってびっくりしていた。
 
「だったらサインもらうべきだった!」
と早紀と美由紀は悔しそうに言っていた。
 
「私、サインもらっちゃったよ」
と言って舞花がCDを見せるので
「わぁ、いいなあ」
という声が出る。
 
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新譜だというので、聞きたい聞きたいという声が出る。慶子がCDラジカセを持っていたので、掛けてみた。
 
「『夏の日の想い出』、すごくきれいな曲だね」
「これ誰の作品?」
「あ、上島雷太みたいですね」
と舞花がCDの中に封入されているパンフレットを見て言う。
 
『キュピパラ・ペポリカ』についてはみんなから「これ何語〜?」という声が出る。
 
「スペイン語?」
「いや、タガログ語では?」
「アラビア語かと思った」
「私はてっきりロシア語かと」
 
みんな自分の知らない言語だと思っている感じだ。
 
『聖少女』が流れている時に真穂が首をひねっている。
 
「どうしたの?」
と彪志が訊く。
「彪志さん、感じない?この曲聴いていると、何だか心がマッサージされている感じ」
「あ、俺も思った」
 
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それで青葉がこの曲の背景を説明する。
「この曲、私がヒーリングをしているのを見た直後にケイさんが着想を得て曲を書いたんですよ。それで私のヒーリングの波動が曲に混入しちゃったんですよね。だからこの曲を聴くと実際癒やしの効果が出ると思いますが、それに気付いたケイさんが、私の名前を作曲クレジットに加えたんです」
 
「あ、このマリ&ケイ+リーフと書いてあるリーフが青葉ちゃん?」
「そうです」
 
「印税もらえるの?」
「作詞作曲者印税の2割をもらえる約束です」
「ローズ+リリーのCDなら70-80万枚売れるでしょ?」
「なんか凄い金額になりそうな」
 
「なったらいいですけどねー」
 

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翌日。
 
ゆっくりと朝御飯を食べた後、お寺に行き、真新しいお墓に納骨をした。納骨に付き合ってくれたのは、朋子・桃香・千里・彪志親子・佐竹親子である。お墓自体は5月に頼んでいたものだが、母以外のお骨はまだ納骨せずにお寺で預かってもらっていた。実は銘もまだ刻んでない。石屋さんが忙しすぎて間に合わないのである。青葉は急ぎませんから一周忌までに彫ってもらえればと伝えていた。
 
法嶺さんの息子の法満さんが読経してくれたが、青葉はまた涙を新たにし、疲れもたまっているのかちょっとフラついたので千里に支えられていた。
 
お昼をみんなで市内のレストランで取った後、帰途に就く。
 
彪志と両親は自分たちの車で一ノ関に戻るし、咲良母娘も自分たちの車で八戸に戻る。菊枝も瞬嶽を乗せて帰る。残りの出席者は一ノ関組と花巻組に別れ、一ノ関方面は朋子が運転し、花巻方面は千里が運転して、各々エスティマで送って行くことになった。エスティマは各々の駅そばのトヨレン営業所で返却する。
 
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一ノ関に行くのが、青葉・小坂先生・美由紀・日香理という高岡組、花巻に行くのが、桃香・舞花・真穂である。この2日の間にお互い仲良くなったので花巻空港から帰る舞花をみんなで見送ってから新花巻駅に行き解散しようということになった。
 
ところが各々の車に別れて乗って出発しようという時になって、千里たちの車のところに瞬嶽がやってくる。
 
「すまん。村山君、こちらに乗せてくれんか?」
「はい。定員はあまってますから良いですが、菊枝さんの車で帰る予定ではなかったのでしょうか?」
 
「いや、僕はもう寿命はたぶん1年くらいしか残ってないとは思うんだけど、山園の車に乗ったら、高野山に行く前に西方浄土に逝くことになりそうだ」
などと瞬嶽は言っている。
 
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「師匠、大丈夫ですよ〜。帰りはもう少し慎重に運転しますから」
と向こうで菊枝が言っているが
 
「いや、僕はこちらに乗せてもらう」
と瞬嶽は言った。
 
その向こうで出発を待っていた一ノ関組の車のそばで青葉が笑いをこらえて苦しそうにしていた。
 

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