広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■クロスロード3(6)

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葬儀の準備が慌ただしく進む中、桃香が何だか悩むような顔をしている。
 
「桃香、どうしたの?」
と千里が声を掛ける。
 
「千里、ちょっと相談に乗ってくれ。あ、待て、青葉とうちの母ちゃんも呼んでこよう」
 
というので結局4人で別室に集まる。
 
「実はだな。香典になんか凄い金額を包んでいる人がいるんだよ。藤原夫妻、山園さん、それに竹田さんの香典袋に10万円も入っていた。中村さんも5万包んでくれている」
「わっ」
 
「私も普通の葬儀のつもりでいたから、香典はみんな3000円か5000円程度で、ビール券3枚、2118円分を会葬御礼に同封して渡せばいいと思っていた」
 
「それ既に渡しているんだっけ?」
「受付のレベルで香典袋を頂いたのと交換に渡している」
と桃香。
 
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「でも10万円に対して2000円だけって訳にはいかないね」
と千里。
 
「どっちみち、この人たちには後で交通費を計算して渡すつもりだったから、その時にあらためて香典返しを渡すべきじゃないかと思う」
「でもいくら香典返しすればいいんだっけ?」
 
「普通は半返しというけど、ちょっとこういう高額の香典は悩むね」
と朋子。
 
「他の人は?」
 
「他の霊能者さんたちはだいたい3万円包んでくれている。そしてこれはあまりにも香典袋が重かったので、受付をしてくれていた真穂さんが私の所に慌てて持ってきたのだが」
 
と言って桃香が見せる香典袋には《唐本冬子・中田政子》と書かれている。
 
「何?その分厚い袋は?」
と朋子が顔をしかめる。
 
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桃香が中身を取り出す。
 
「この通り、銀行の帯封がしてある」
「ぶっ」
「100万円〜!?」
 
「こんなのどうするよ?」
と桃香。
 
「芸能界相場だね。あの世界はこのくらいが普通だから。多分時間があったら誰かに相談して金額を決めたのかも知れないけど、急だったんで普段の感覚で金額を決めちゃったんだよ」
と千里が言う。
 
青葉が言った。
「ちょっと竹田さんに相談しよう」
 

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それで竹田さんを呼んできて、香典返しの金額について相談した。
 
「1万円通しで良い」
と竹田さんは明解に言った。
 
「3万円未満の香典に関してはふつう通り、ビール券3枚でいいと思うよ。3万以上の香典に対しては3万でも100万でも1億でも香典返しは1万円分のギフト券にしておけばいい。その件僕がみんなに話してあげるよ」
と竹田さん。
 
「竹田さんがそう言ってくださるのでしたら、そうしましょうか」
 
と青葉が言い、高額香典に関しては、千円のVISAギフト券10枚を追加で渡すことにし、桃香がすぐ手配した。また冬子・政子の100万円のような常識外れの金額のものについては、後で何か記念品でも贈ろうということで話がまとまった。
 
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葬儀は14時から始まる。
 
昨日の通夜も結構な人数が居たのだが、この日は青葉がこちらの学校で所属していたコーラス部の友人たちや元同級生なども大量にやってきたし、祖母の知り合いの老人たちがまた大量にやってきて、会場は人であふれ、パイプ椅子が20-30個新たに置かれたりもした。
 
祭壇に5つの骨箱(青葉の姉・父・母・祖父・祖母)が並べられ、瞬嶽を中心に3人の僧の読経で葬儀は進められた。
 

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この読経が行われていた最中に、菊枝が千里に声を掛けた。
 
「ちょっと相談したいことがあるんだけど少し外に出ません?」
 
と言うので、いったん一緒に外に出る。そして密談しやすそうな場所と言って、ふたりで女子トイレの中に入り、更に一緒の個室に入ってしまう!桃香に見られたら嫉妬されそうだと千里は思った。
 
菊枝は念のためふたりを包み込む結界を張る。
 
「凄いね。結界張ると、ふつうの霊感の強い人は一瞬、その結界を精神的に見回すんだ。千里ちゃん、まるで結界が張られたことに気付かないかのようだった。霊感ゼロの人みたいに。それだけで千里ちゃんが実は桁外れに凄いパワーの持ち主だということが判断できる」
と菊枝は言う。
 
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「済みません。私、その手のものがさっぱり見えなくて」
「見えないけど、感じるタイプだよね?目を使わなくても身体全体がセンサーになっている」
 
「そのあたりも良く分からないのですが。でも高校生時代にバスケやってて、私、後ろから飛んでくるパスを直前になるまで振り向かずにキャッチできてました」
「心の目がボールを見てるから飛んでくる方向に走れるんだろうね」
「お前、後ろに目があるだろ?って言われてました」
 
菊枝は頷く。
 

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「千里ちゃん。私はあなたを見誤っていたよ」
と菊枝は言った。
「はい?」
と千里は笑顔で返事する。
 
「青葉はほんとに最良の保護者を見つけたんだね」
と菊枝。
「そうですね。性別に関して似た立場ですし」
「ああ。それもあるだろうけどね」
と菊枝。
「私、4日前に去勢手術を受けたんですけど、青葉も先々週、睾丸が自然消滅したそうです。私たち縁が深いみたい」
 
「自然消滅なんて凄いね。千里ちゃん性転換手術はいつ受けるの?」
「私は来年くらいに手術するつもりですが、青葉はまだ年齢的に受けられないんですよ」
「ふーん。。。。でもきっと青葉も来年やっちゃうよ。千里ちゃんが手術するんなら」
「そうですね。そういうこともあるかも知れませんね」
 
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「『それ』にも気付く人って、私と師匠くらいだろうなあ」
「私が田舎に居た時の宮司さんと巫女長さんは知ってます。最初の状態を見ているので」
「ああ、最初を見た人だけかもね」
 
と言ってから菊枝はふと思い出したように言う。
 
「千里ちゃん、書きやすそうな筆ペン使ってたね」
「これですか?」
と言って千里はバッグの中から今回の葬儀で使っている筆ペンを取り出す。
 
「ちょっと書かせて」
「はい」
 
と言って千里は筆ペンを渡す。菊枝はメモ帳にその筆ペンで『騰蛇・朱雀・六合・勾陳・青竜・貴人・天后・大陰・玄武・大裳・白虎・天空』と書いた。千里が微笑む。
 
「この筆ペン、私にくれない?」
「筆ペン『だけ』なら差し上げます」
 
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「その子たちは・・・・千里ちゃんが死なない限り、もらえないみたいだし」
 
「菊枝さんなら私の心臓を今すぐ止められるでしょうけど、私まだ死にたくないので勘弁してくれると嬉しいです」
 
「私は夜神月にはなれないよ。千里ちゃん、青葉が死ぬまでは見守ってあげて。たぶん私は青葉より先に逝くだろうし」
 
そう言って菊枝は十二天将の名前を書いたメモ帳を千里に渡した。
 
「私も自分の寿命は分かりませんけど、あの子、自分の鍵を私に預けたなんて言ってました」
「うん。それは聞いた。千里ちゃん、ある意味では青葉のお母さんだ」
「それでもいいですけどね」
 

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葬儀が進んでいる間、千里はこの後運転しなければならないので、控室に入って仮眠をさせてもらった。30分ほど寝て目が覚めた時、控室に直美夫妻、小夜子とあきら、和実と淳、それに政子に早紀と美由紀も来ていた。
 
「あ、まだ寝てていいよ」
「会場がもう休日の湘南海岸状態になってるから避難してきた」
「エアコン最強で掛けてるみたいだけど暑くて暑くて」
「ここ本来は60人くらいの会場みたいだけど200人くらい居ない?」
 
「トイレ行って来てからコーヒー飲みます」
と千里は言うと、トイレに行ってきてから、控室の隅にある段ボールの箱から幾つか缶を取り、小夜子には緑茶、早紀と美由紀にはコーラ、他の人にはコーヒーを配った。
 
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「お、さんきゅ、さんきゅ」
 
「しかし今回の通夜・葬儀には、あっちの意味で怪しい人がたくさんと、性別の怪しい人もたくさん来てるみたいね」
と直美の夫・民雄が言う。
 
「ああ。昨日冬も来たみたいだしね。それから礼子さんのお友だちの5人の内の1人が男の娘さんだよね」
と政子。
 
「えーーー!?」
という声があがるが
 
「うん。それは私も気付いた」
と和実が言う。
 
「芸能界にも男の娘さん多いから、結構識別眼が鍛えられるのよね」
と政子。
 
「私、性別ってのはもう見た目でいいよね、と思うことにした」
と早紀。
 
「割と同意。今この部屋に居る人って、見た目では男性1人と女性9人ですけど、戸籍上の性別ではどうなってますかね?」
と美由紀が訊く。
 
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「えっと・・・・」
と言って和実が考えていたが
 
「多分戸籍上は男性5人と女性5人だと思います」
と言う。
 
「それ、私が数えたのと同じだからそれで多分合ってる」
とあきら。
 
「今回の葬儀は、日本の魔術サミットで、セクマイ・サミットだったのかも」
と直美が言う。
 

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「ひょっとして北海道に縁のある人も随分いませんでした?」
とあきらが言う。
 
「私が留萌出身です」
とまだ少し眠いのか横になって目を瞑っている千里が言う。
 
「それから虎を連れた女子高生が旭川です」
と千里が付け加えると
 
「あの子、インパクトあるね」
と直美が言うが、他の人は
 
「虎!?」
と驚いたように言う。
 
「いや、胸元にリボン付けたチェックのスカートの制服の女子高生が虎の眷属を連れてるんですよ。普通の人には見えない。あの子、青葉ちゃんの友だち?」
と直美が訊く。
 
「彼女の方は青葉をライバルだと言ってます」
と千里。
 
「なるほどー」
「青葉はびっくりしてたけど来てくれてありがとうと言ってましたよ」
 
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「あれ?あの子、もしかして千里ちゃんの知り合いだったの?」
「旭川で同じ合奏団にいたんですよ」
「へー!」
 

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「私も実家が室蘭にあります」
とあきらが言う。
 
「へー、あきらさん北海道出身だったんですか?」
と政子が言うが
 
「いえ。私は埼玉生まれの埼玉育ちです。でも高3の時に父が室蘭に転勤になっちゃって。私は受験目前だから埼玉に1人で居残ったんですよね。だから私は北海道では暮らしたことないんですよ」
 
「実家=育った場所ではないですよね」
 
「あと中村晃湖さんが北海道出身ですね。確か夕張かどこかじゃなかったかな」
と直美が言う。
 
「あの人、私の高校の先輩です」
と千里が言うと
 
「それは知らなかった!」
という声が上がる。
 
「でも交流とかは全然無いんですよ。20も年上だし」
「中村さんのお祖母さんが、青葉の曾祖母さんと親友だとか言ってましたね?」
 
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「そうなんです。その2人が1940年代の気仙二大霊感少女だったらしいですよ。中村さんのあの物凄いパワーはお祖母さん譲りなんでしょうね」
と直美が言う。
 
「でも天津子ちゃんとの縁もあるし、実は他にもどうも共通の知り合いっぽい人がいるし、私と青葉って実際に震災の後で出会う以前に幾つものラインで縁があったみたいです」
と千里が言って《その方角》を見ると、美鳳が慌てたように目を逸らした。
 
「だから千里ちゃんが青葉ちゃんの保護者になるように運命の歯車が動いたんだろうね」
と直美。
 
「それってあちらの世界で仕組まれてたってやつだよね?」
と民雄。
 
「そうそう。私たちって結構手駒にされてる」
と直美は言った。
 
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葬儀が終わった後休憩を挟んで初七日法要が行われた。
 
遠方から来てくれた人の多くはここまで出席してくれた。その後精進落としをするのだが、時間の都合で精進落としに出ずに帰る人には、精進落としの弁当テイクアウト・バージョンを渡して送り出すことになる。このタイミングで竹田さんが特に発言を求めて言った。
 
「今回、ほんとに大きな災害での御逝去であったということもあって、皆さんの中には結構な金額の御香典を包んでくださった方もあります。一般に香典返しは3割から5割程度を御礼にお渡しするケースが多いのですが、高額の香典に3割お返ししようとすると、喪主のご負担も物凄いことになってしまいます。高額の香典を包んでくださった方は、そもそもそんな高額の香典返しは期待していないと思います。そこで私は3万円以上の香典を包んでくださった方には1万円分商品券の香典返しで通させてもらおうというのを提案しました。3万円でも100万円でも1億円でも1兆円でも香典返しは1万円ということにさせて頂きたいと思います。できればご了承頂きたいのですが」
 
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すると中村さんが率先して拍手をし、舞花や政子なども拍手をして、その拍手が全体に広がった。青葉と朋子が一同に礼をした。
 
そういう訳で、ここで帰る人たちに、交通費の封筒と、高額香典を頂いた方に香典返しの封筒を渡していく。多数の人の顔があったものの、千里が全部名前と顔の対応が分かったので間違い無く渡すことができた。
 
なお、交通費に関しては、一部希望者には帰りの航空券やJRチケットも同封している。これは桃香がとりまとめて旅行代理店に発注し代理店の人がこちらまで持って来てくれていた。
 

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