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■クロスロード3(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-05-10
 
「えーー!?千里ちゃんは見えるの?」
「私も、そういうのぜーんぜん見えない」
「ちょっと安心した」
 
「君確かに少し霊感あるみたいだけど、幽霊とか妖怪とか見ることもない?」
と竹田さんが千里に訊くが
「私、そういうの見る感覚が全然無いみたいです」
と千里は答えた。
 

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カフェでみんなを座らせ、千里がまとめて注文し、いちばん気心の知れている天津子と2人で紅茶を配る。むろんお嬢様の舞花はこんな所で動き回ったりはしない。
 
「コーヒーじゃなくて紅茶というところが偉い」
と渡辺さんが言う。
 
「刺激物のコーヒーを避ける方もあるかと思いまして」
と千里は言う。
 
「うん。確かに占い師や霊能者には刺激物を避ける人が結構いる」
「かなり厳しい禁忌を維持している人いますね」
「肉や魚を食べない人も多いから、おもてなしする時に悩む」
 
「渡辺さんもあまりコーヒー飲まないよね。僕はテレビ局の打ち合わせとかでは飲むけど、個人的にはやはり紅茶派」
と竹田さんが言う。
 
「私も割と紅茶の方が好き〜」
と舞花さん。
 
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「でも、なんでこんな凄い人たちが来てるの?」
と天津子は千里に訊いた。
 
「おふたりとも、青葉を小さい頃から知っていたのよ」
「へー!」
と天津子は本当に驚いているようである。
 
「竹田さんはテレビに出てて知ってるだろうけど、よく私のこと知ってたね」
と渡辺さんが言う。
 
「だって、お二方とも日本で五指に入る凄腕霊能者じゃないですか」
と天津子。
 
「ほほお。五指って誰と誰?」
と竹田さんは楽しそうに訊く。
 
「えっと、竹田宗聖さん、渡辺佐知子さん、長谷川瞬嶽さん、中村晃湖さん、それと私です」
と天津子。
 
「おお。自分を入れるのは偉い」
「だって今あげた4人の方以外には簡単には負けないつもりです」
「そういう主張する子、僕は大好きだよ」
 
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と竹田さんは本当に天津子が気に入ったようであった。
 
「でもあなた自分でそう主張するだけのパワーは持ってると思う」
と渡辺さんが言う。
 
「ありがとうございます」
 
「しかし君があげた5人が全員今日は集まることになるね」
と竹田さん。
 
「えーーー!?」
 
「長谷川瞬嶽さんは昨日から来ておられるし、中村晃湖さんも別便で来てくださることになってるんだよ」
と千里。
 
「うっそー!?」
「瞬嶽さんは青葉のお師匠さんだし」
「うん。それは知ってるけど、あの人、めったに山を降りないというのに」
「愛弟子の家族の葬儀というので特別に降りてきたみたい」
 

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やがて政子が乗った新幹線が到着する。全員カフェを出て迎えに行く。政子はウンガロのブラックフォーマルを着ている。
 
「政子さん、お疲れ様」
と言って千里は彼女に近づいて行く。
 
「ごめんねー。遅刻しちゃって」
「多少の時間の余裕はあるから大丈夫ですよ」
と千里は言う、
 
「あれ、ローズ+リリーのマリちゃん?」
と竹田さんが言う。
 
「あ、はい。あ!霊能者の竹田宗聖さん!おはようございます」
と政子がびっくりしたようにして挨拶する。
 
「うん。おはよう」
 
「でも私の顔を知っている人は少ないのに」
と政子が言う。マリは極端にメディア露出の少ないアーティストである。
 
「以前某局の番組で写真から守護霊を見て、運気を占うなんてのやらされた時、マリちゃんを鑑定したんだよ」
「わっ、それで!私の守護霊ってどうです?」
 
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「写真で見た時も巫女さんっぽいなと思ったんだけどね。生で見るとよく分かる。お筆先を書く巫女だよ」
と竹田さん。
 
「あ、私はチャネラーだって言われたことあります」
「うんうん。チャネラーだと思う。教祖様になれるタイプ」
「年取ったら何とか教とかやってみようかな」
などと政子は言っているが半分本気かもと千里は思った。
 

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「でも竹田さん、もしかして青葉の知り合い?」
と政子は千里に訊く。
 
「小さい頃から知ってたんだって」
「へー!」
 
「マリちゃんは青葉ちゃんとどういう関わり?」
と竹田さんが訊く。
 
「ケイが6月下旬にこのグループと遭遇したんですよ」
と政子。
 
「うん。あれは凄い遭遇でした。5つのボランティアグループがある避難所でバッタリ遭遇したんですよ。その後、1度再度東京で集まっていろいろ話して意気投合したんですけどね。私たちはこのグループをクロスロードと呼んでいます」
と千里。
 
「ほぉ、避難所で?」
「私と桃香はファミレスから派遣されて炊き出しをしてたんです。青葉は霊的な相談に乗ってあげていて、あきらという美容師さんは散髪のボランティア、そして淳・和実というペアは募金を元に救援物資を調達して届けるボランティア、そしてケイさんはローズクォーツというユニットで慰問ライブをしに来たんです」
と千里は概略の説明をする。
 
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「それでその5組が偶然その避難所に居た時、大きな余震が来て、赤ちゃんが火傷したのをその5組で協力して応急処置したって言ってたね」
と政子は千里を見ながら言う。
 
「そうそう。それで親しくなったんだよ」
 
ここで千里はその全員がMTFの人を含んだグループであったことは説明していない。しかし竹田さんは
 
「不思議な縁だね」
と言う。
 

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「あれ?今ローズクォーツとか言いました?ローズ+リリーじゃなくて?」
と渡辺さんが訊く。
 
「ケイは去年の秋からローズクォーツというユニットをしてるんですよ。ケイの他に男の人3人のロックバンドなんですけど」
と政子が説明する。
 
「知らなかった。じゃローズ+リリーはやめちゃうの?」
と渡辺さん。
「ああ、ケイは両方やっていくつもりみたいです」
と政子。
 
「へー。でもローズ+リリーもなかなか新譜出さないね」
と渡辺さんは言ったが
 
「昨日新譜をリリースして今ケイはそれで全国キャンペーンで飛び回っているところです」
と千里が言う。
 
「え?そうなの?」
「そのキャンペーンでの移動中にケイさんは昨日通夜に寄ってくださったんですよ」
と千里が言うと
「あ、結局、ケイ昨日寄ったんだ?」
と政子。
 
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「うん。今朝、4時に仙台に移動したよ」
「忙しいなあ。性転換手術してまだ3ヶ月なのに、もっと休んでいればいいのにさ」
と政子。
 
「ケイちゃん、性転換手術受けたの?」
と竹田さんが驚いたように言う。
 
「ええ。4月3日にタイで手術しました」
と政子。
 
「そんなの受けたら半年くらい動けないのでは?」
「半年くらい寝てればいいと思うんですけどねぇ。あの子、手術して1ヶ月もしない内にローズクォーツのライブで歌いましたからね」
と政子。
 
「信じられん!」
と竹田さん。
 
「超人的ですね」
と舞花は言うが
 
「ってかそれ酷使されすぎ」
と渡辺さんは顔をしかめる。
 

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「そうだ。みなさんに1枚ずつあげますね」
と言って政子は『夏の日の想い出』のCDを出して、竹田さん・渡辺さん、それに千里・舞花・天津子にも1枚ずつ配る。
 
「マリちゃん、どうせならサインしてよ」
と竹田さんが言うので
「いいですよ」
と言って、政子はその5枚に全部ローズ+リリーのサインをした。
 
「あれ?でもこのCD、クレジットがローズクォーツってなってる」
と渡辺さん。
 
「その件、ケイさんから聞きましたが、どこかで行き違いが生じてそういうクレジットになってしまったようですが、実質ローズ+リリーのCDです。その版は発売日の前日に急遽CDライターで作ったCD-R版なので、単にローズクォーツのクレジットになっていますが、その後工場でプレスした版ではローズクォーツwithローズ+リリーというクレジットになったそうです」
と千里が説明する。
 
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「あ、その辺は私もまだ聞いてなかった」
と政子。
 
「ローズクォーツのタカさんと★★レコードの部長さんが話して、そういうクレジットに変更したらしいよ」
と千里は政子に説明する。
 
「ローズクォーツも実際問題として誰がコントロールしてるのかさっぱり分からないなあ」
と政子は少し呆れた風に言う。
 
「リーダーのタカさんはコントロールできてないの?」
と千里。
「あ、時々タカがリーダーと思ってる人いるけど、リーダーはマキ」
と政子。
「え?そうだったの?誤解してた」
 
「バンドを統率しているのはタカでメンバー個人のスケジュール管理からライブハウスとの折衝とかも彼がやってるけど、音作りはケイ主導でやっててMCもケイだし、生演奏の曲目決めや演奏タイミングはサトが決めている。営業してるのは須藤社長だけど、スケジュールを最終的に決めているのは花枝さん。アルバムの構成に関しては、ケイと★★レコードの町添部長との話し合いで事実上決まってしまうようだし。でも★★レコードの本来の担当は南さん」
 
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「なんか船頭多くしてだね」
と竹田さん。
 
「でもバンドリーダーって結構目立たないことが多いわよね」
と渡辺さんが言う。
 
「そうそう。シャ乱Qのリーダーはつんくじゃなくてはたけだし、米米CLUBのリーダーはカールスモーキー石井と思ってる人多いけどBONだし、Princess Princessも奥井香がリーダーと思っている人多いけど実は渡辺敦子だし」
と竹田さんは幾つかの名前を挙げる。
 
「まあリーダーはバンドをまとめていればいいのであって目立つ必要はないから」
と舞花は言うが
 
「ローズクォーツの場合は結局何もしてないのがマキかな」
と政子は言う。
 
「君臨すれども統治せずだな」
と竹田さんが言った。
 

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結構立ち話した上で駐車場に移動し、車に乗り込む。
 
「冷めちゃいましたけど、一応ホカ弁を少し買ってます。おにぎりやお茶もありますので、適当に取ってください」
と千里は言ってから運転席につく。
 
舞花が助手席に乗り、2列目に渡辺さん・天津子・政子、3列目に竹田さんが乗ったのだが・・・・
 
「マリちゃん、席変わろうか?」
と途中で竹田さんが言う。
 
「あ、大丈夫です。あとお弁当1つくらいで終わると思います」
と政子は言う。
 
竹田さんがこんなことを言い出すまでに政子はお弁当を5個たいらげていて、その度に後ろの座席の竹田さんが政子にお弁当をとってあげていたのである。
 
天津子も渡辺さんもポカーンという感じの顔をしていた。
 
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「でも越智さん、凄いネックレスしてますね」
とお弁当を食べながら政子が言う。
 
「あ、私も思った」
と渡辺さんが言う。
 
「いやこれ大したことないですよ」
と舞花。
 
「それ800万円くらい?」
と天津子が訊く。
 
「正解!すごーい!」
と舞花。
 
「ひぇーっ」
と渡辺さんが悲鳴に似た声をあげる。
 
「いや、渡辺さんが付けておられるのも結構良い品」
と政子。
 
「そちらは80万円くらいですよね」
と天津子。
 
「なんでそんなに目利きができるの?」
と渡辺さんが訊く。
 
「私、パワーストーン・ヒーリングとかもしてるから、石にはうるさいですよ」
と天津子。
 
「むしろマリさんがそんな安物の貝パールのネックレスしてるのが信じられないんですが」
と天津子は言う。
 
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「あ、これヤフオクで落とした800円のネックレス」
と政子。
 
「800円!?それってプラスチックなのでは?」
と渡辺さんは言うが
「いえ、貝パールですよ。お店で買ったら1-2万円の品。但し何個か傷のついた珠がある」
と天津子は言う。
 
「そうそう。それでジャンク品扱いで。紐も切れてたの交換したし」
「なるほどー」
 
「私は建前上、引退中の身だから。一応一般人ということで。実際今収入はゼロですよ」
と政子。
 
「でもこないだアルバム出しましたよね。そして今回シングル」
と天津子。
 
「アルバムは引退したアーティストの『追悼版』という名目で。シングルもそういう訳でローズクォーツ名義になってるし。それに、CDの印税が入るのは3ヶ月単位で締めてその3ヶ月後だから7月に売ったCDのお金が入るのは来年の1月なんですよ」
と政子。
 
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「それでも経費は何百万・何千万単位で掛かりそう」
と天津子が言うが
 
「いやローズ+リリーの経費は多分数億円規模」
と竹田さんは言う。
 
「今貯金を食いつぶしてる状態です」
と政子。
 
「歌手で売るのって運転資金が大変なんですね」
 

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千里の運転する車が大船渡に到着したのは12時半頃であった。少しして彪志の母が運転する和実や小夜子たちが乗った車が到着し、14時前に、礼子の友人5人を乗せた彪志の父が運転する車が戻ってきた。
 
礼子の友人は最初3人という話だったのだが、その後お互いに連絡を取り合って5人に増えたということであった。それで最初は早紀の母が最初自分の車で迎えに行くつもりだったのだが、急遽エスティマを使うことにした。しかし早紀の母はエスティマのような大きな車を運転する自信が無いというので彪志の父がドライバーをすることにし、早紀の母は同乗して単にお迎え役として往復した。
 

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