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■クロスロード3(3)

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翌23日。葬儀当日である。青葉は4時過ぎに目を覚ました。
 
「しまった!冬子さんを起こさなきゃ」
と思って彼女の部屋に行く。冬子を起こしたのはもう4:10くらいだった。
 
「ありがとう。放送は8時からだから7:40くらいまでに仙台の放送局に着けばいいから、4:30までにこちらを出ればいいはず」
 
冬子はすぐ出発できるようにだろう。ポロシャツにジーンズという格好で寝ていた。
 
「でもまだ少し眠い。10分くらいジョギングしてきて身体を覚醒させようかな」
などと言っていたが、青葉は
 
「むしろヒーリングしましょう」
と言って、冬子に再度横になってもらい、性転換手術をしてまだ3ヶ月しか経っていない女性器を中心に、ヒーリングを施す。
 
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ところが青葉は「え?」という顔をする。
 
「どうしたの?」
「ヴァギナの傷はもう完全に癒えてます」
「へ?昨日とかでも1日で1600kmも移動したから、盛岡からここまで運転してくる最中結構痛くて。でも実は痛いおかげで常に覚醒してて居眠り運転せずに済んだんだけどね」
 
「今痛いですか?」
「・・・・痛くない」
 
「でしょ?」
「でもどうして?」
 
などと言っていた時、冬子がハッとした顔をする。
 
「実は昨日、焼香した時に、青葉のお師匠さんと目が合って、ニコっと微笑まれたような気がして」
「だったら師匠、その瞬間にこんなに治療しちゃったんだ!」
「え?あの瞬間で!?」
 
「でも多分この後、冬子さん、月に1回くらい痛みが来ます」
「ああ、やはりまだ不完全な部分があるのね?」
 
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「違います。生理が始まるから」
「えーーー!?」
 

冬子は国道45号線を南下して三陸道に入るルートで仙台まで走るつもりだったようだが、青葉はむしろ気仙沼から国道284号で一ノ関に出て東北自動車道を南下する方が、楽だし時間も速いはずと言った。
 
「同じようにカーブの多い道でも、海岸沿いの道より山道の方がまだマシですから」
と青葉が言うと、冬子は少し考えている。
 
「ね・・・もしかしてさ、青葉って運転する?」
と冬子は尋ねる。
 
「あ、えっと、あはははは」
と青葉は笑って誤魔化そうとした。
 
「まあ、いいけどね。お巡りさんに捕まらないようにね」
と言って冬子は笑顔でボストンバック1つ持って青葉と別れ、宿の駐車場に行く。
 
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自分の乗ってきたプリウスどれだっけ?と探す。宿の駐車場が結構広い上に今時プリウスという車はやたらと多くて、ざっと見た感じでもあちこち10台くらい駐まっている感じだ。ここに車を回送してくれた千里がどこどこ付近に駐めたと言ってくれていたものの、実は昨日は疲れていてちゃんと聞いていなかった。
 
困ったぁ。取り敢えずぐるっと回ってみるか、と思っていた時。
 
「私、奥の街灯のそばに駐めたと伝えたんだけど、やはり覚えてなかったね」
と声がするので、冬子はびっくりして振り向いた。
 
千里が立っていた。
 
「あそこの街灯のそばだよ。でも私が仙台まで送って行くよ。昨日あれだけ冬子に、自分で運転するの危ないって言ったのに、充分寝ていないはずの冬子に今運転させる訳にはいかないから」
と千里。
 
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「でも、千里、葬儀の方の作業がたくさんあるのでは?」
「桃香がたいていのことはしてくれるし、昨夜菊枝さん・早紀ちゃんと話して、青葉の霊能者関係の知り合いは菊枝さん、同級生とかの関係は早紀ちゃんが対応してくれることになった。正直私が対応するよりそちらの方がいい。それにどっちみち、今日遠方から来る人を迎えに行かないといけないんだよ。8時頃出るつもりだったんだけどね」
 
「千里こそ寝てないのでは?」
「冬子よりマシ。後部座席に乗って。違反になるけど、横になっておきなよ。毛布持って来たから、これを身体に掛けて」
 
「うん。そうする」
 

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それで車が駐めてある所まで行って、冬子が車のキーを千里に渡し、冬子は毛布を受け取る。ドアを開けて千里が運転席に乗り、冬子は後部座席に乗って横になり毛布をかぶった。
 
千里がプリウスを出発させる。
 
「しかしスケジュール聞いたけど、無茶苦茶ハードなキャンペーンだね」
「キャンペーンは仙台・東京・名古屋・大阪・福岡5箇所の予定だったはずが、なぜか全国40箇所になってた」
 
「そのあたりのコントロールってどうなってんの?6月の被災地絨毯爆撃ツアーも、性転換手術なんて大手術を受けた直後の病み上がりの歌手にやらせるには無茶すぎると思ったけどさ」
「うーん・・・あれも本当は100ヶ所程度のはずだったんだけど」
 
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「3倍に増えたんだ!」
「実は一時500箇所になってたのを知人が介入してくれて300箇所に減らしてもらった」
「それでもきつすぎる。冬子って流されやすいもんね。私もだけど。悪い意味で女の子っぽいんだよ」
「それは自覚してる。政子にもよく言われる」
 
「もっと自分を大事にしないとダメだよ」
「そうだけどね・・・」
 
「辛いかもと思ったら、誰か偉い先生に相談するといいよ。冬子ってなんかコネ多いみたいだし」
「偉い先生か・・・・」
 
エロい先生なら心当たりあるけどなあと思いながら、冬子はいつしか眠っていた。
 

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7:00。青葉はハッとして目覚めた。4:30に冬子を送り出した後、いろいろ作業をするつもりでいたのだが、やはり昨日の疲れが出たのか、旅館の文机の前に座ったまま眠ってしまっていたのである。
 
「ああ、目が覚めた?もう少し寝ててもいいよ」
と朋子が気遣うように言う。毛布を掛けてくれていたようである。
 
「ごめーん。でも私いろいろしないといけないことが」
「直美さんと菊枝さんが、霊能者関係の応対は任せてと言ってた」
「彼女たちの方が顔広いから、それがいいかも」
「こちらの学校関係は早紀ちゃんと椿妃ちゃんが任せてと言ってた」
「うん。それもあの子たちの方が良いかも」
 
「菊枝さんが応対の方するから、花巻まで往復するのは代わりに千里ちゃんがやってくれるって。8時くらいに出ると言ってた。お母さんのお友だちとかを一ノ関駅に迎えに行く早紀ちゃんのお母さんは10時頃出るらしい」
 
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「わあ、助かる。でもちー姉、普段車を運転してないし、車体の大きなミニバン大丈夫かな」
 
「昨日千里ちゃんの車に乗ってた小坂先生、千里ちゃんの運転を褒めてたよ」
「へー。そういえば桃姉の運転する車には乗ったことあるけど、ちー姉の運転する車には乗ったこと無かったな」
 
「桃香はあの子は・・・・」と朋子が顔をしかめる。
「ちょっとワイルドだよね」と青葉。
 
「あの子、免許取得早々にスピード違反と信号無視やって初心者講習受けるハメになったからねえ。だから今年の4月にブルー免許に切り替わるまで、私が免許証取り上げといたんだよ。もう運転しちゃダメって」
と朋子。
 
「初心者講習受けてからまた3点やると合格率が超低い再試験受けないといけないもんね」
 
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と青葉が言うと、朋子は少し考えていたが、やがて言った。
 
「青葉は18歳になってちゃんと免許取るまで車運転したらダメ」
「ごめんなさい」
 

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7:15。仙台市内の道路の脇に駐めて、千里は冬子を起こした。
 
「あと15分くらいで到着するから、メイクとかしときなよ」
「ありがとう」
と言ってから
「15分前に起こしてくれるのがやはり女同士の良さだなあ」
などと言う。
「ああ。男の人はメイクに時間が掛かることを思いつかないだろうね」
 
「でもホントありがとう。ぐっすり眠れたよ」
「無理しないようにね」
「うん。助かった」
 
やがて車は市街地に入り、千里は放送局の玄関前に停車する。冬子は手を振って放送局の建物の中に入っていった。千里は微笑んでその様子を見送った。
 
『千里も休まなきゃだめだぞ』
と千里の右後ろから声が掛かる。
『うん。新幹線の中で休むよ、りくちゃん』
と千里は答えて、車をレンタカー屋さんに向けて出発させた。
 
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冬子は守衛さんに入館証を見せて中に入りスタジオの方に行くと、顔なじみのアナウンサーさんから「早いですね」と声を掛けられた。
 
「ええ。ちょっと友人の家族の葬儀で気仙地方某所に寄ってきたので」
「そちらから車で移動ですか?」
「ええ。向こうを朝4時に出てレンタカーで走ってきました」
「ご自分で運転してですか」
「ええ。プリウスです」
「プリウス!最近プリウスって石を投げたらプリウス2〜3台に当たるくらい走ってますね。でも自分で運転するってきつくないですか?ケイさんほどの人なら、付き人さんとか雇って運転させればいいのに」
 
「ええ。でも運転しながら結構曲のモチーフが浮かぶんですよ」
「なるほどー。それで自分で運転するんですね」
 
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そんな会話をしながら冬子は、後でレンタカーの返却しなきゃ。でも放送局の後はクォーツのメンバーと一緒にキャンペーン会場に移動するし、返却だけ誰かに頼もうかな・・・などと考えていた。
 

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7:40。千里はプリウスをレンタカー屋さんの駐車場の中、店舗のそばに駐めると、毛布と荷物を持ち、車を降りて仙台駅に向った。ガソリンはここに来る前に近くのGSで満タンにしておいた。
 
7:50。大船渡。青葉の携帯が鳴る。千里からである。
「あ、青葉?今から竹田さんたち、花巻に迎えに行ってくるね」
「うん。よろしく」
 
青葉がふと窓の外を見ると千里らしき人影が宿の駐車場を奥の方へ歩いて行っていた。
 
8:00。仙台駅前のレンタカー屋さん。お店が開くと同時に女子大生くらいの女性が入って来て「レンタカーの返却をします」と言った。係員がキーを受け取り、車の状態をチェックして「OK」ですと言う。女性は書類に必要事項を記入し、お店を出た。
 
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8:05。千里が乗った新幹線が仙台駅を発車した。
 
『きーちゃん、いんちゃん、お疲れさま〜。私熟睡するから、りくちゃん起こしてね』
と千里は自分の右後にいる子たちに声を掛けて深い睡眠の中に落ちていった。
 

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あきらと小夜子は葬儀の行われる23日の朝に大宮駅に行って新幹線に乗り込み、車内で東京駅から乗ってきた和実・淳と落ち合った。あきら・小夜子は和服の礼服を着て、和実・淳は黒いゴシック風のドレスを着ていた。
 
「あきらさんも小夜子さんも、和服が凄く似合ってますね」と和実が言うと「私たち、和服好きだからね」と小夜子が答える。
「和実さんと淳さんはクラシカルな雰囲気のドレスですね。ゴシックっぽい」
とあきらが言うと
「これ無理矢理着せられたんです」と淳が情けない声で言う。
 
「似合ってると思うけどなあ」と和実。
「和実さんは、こないだ東京で集まった時もゴシックっぽいの着てましたね」
とあきら。
「淳さん、こないだも無理矢理着せられたって言ってたけど、似合ってる気がするよ」と小夜子。
「やめてー。和実が増長するから」と淳。
「似合ってるのに」と和実。
 
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4人は10時すぎに一ノ関駅に到着すると青葉からのメールで聞いていた《自動車のカタログを持ち、黒いフォーマルドレスを着た40代の女性》を探す。
 
「いないみたい」
「今こちらに向かっている所なのかも」
 
などと話している内に、黒いフォーマルドレスの女性が慌ただしく駅構内に入ってくる。
 
「あの人かな?」
「でも40代?」
「女性の年齢は分からないからなあ」
 
などと言いながら近づいて行くと、彼女は思い出したようにバッグから車のカタログを取り出した。
 
「済みません。鈴江さんですか?」
と代表して和実が尋ねる。
 
「あ。はい!浜田さんと月山さん?」
と彪志の母は少し戸惑いながら尋ねる。
 
「ええ、そうです」
「ごめんなさい。私、ご夫婦2組と聞いてた気がして。どちらも姉妹だったんですね?」
と彪志の母。
 
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和実と淳、小夜子とあきらは各々顔を見合わせるが
「すみません。情報伝達に少しくるいが生じていたみたいで」
と小夜子が言った。
 
「あれ、あなたは妊娠中ですか?」
「ええ。今9ヶ月目に入ったところです」
「わ!だったら今日は慎重に運転しますね」
 

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「あと、お三方、お迎えするんですが、11時着の便なので少し休憩しましょう」
と彪志の母は言う。
 
「小夜子さんが妊娠中だから、実際休んだ方がいい」
と和実も言って、構内のカフェに入った。和実が手際よく注文をまとめて一緒にオーダーする。できあがったドリンクを淳とふたりで配った。
 
「済みません!遠くから来てくださった方を働かせてしまって」
と彪志の母が恐縮する。
 
「いえ、私たちも身内みたいなものですから」
「和実は喫茶店に勤めているから、こういうの手際いいんですよ」
「なるほど!」
 
「次の便で来るのは、どういう方ですか?」
「なんか青葉ちゃんを小さい頃から知っていた方たちらしいのですが・・・」
 
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30分ほど待って到着した新幹線から降りた客が出てくる。それを見ていて和実が
 
「あ、多分あの人たちです。みんな休んでて」
と言って和実がひとりでお店を出て近づいて行く。
 
「こんにちは。川上青葉のお知り合いの中村さん・村元さん・山川さんでいらっしゃいますか?」
と和実が尋ねると
 
「ええ、そうです」
と30代かなという感じの女性が答えた。この人が中村さんであった。
 

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クロスロード3(3)

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